1 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/05/07(水) 17:33:41.41 ID: DEKAF8T90
刀は刃から一つ線を抜く。
鉄の死線を抜けて行く。

己が打つ鉄がそれならば、立派な物にしてやらねばならぬ。
己の魂を打たねばならぬ。

鉄は夜毎泣く。
産声を出し、この世に形として生まれるまで、己で育てなければならぬ。

生きてきた道、これから作ってやる道を打ち込む。
幾星霜、叩き続けても、満足に行く道を作ってやる事は、決して出来ない。

侍にその役を託すのだ。
侍こそ、剣の父。

刀匠こそ、剣の母である。

 

絵スレ>>231 より

 

8 名前: ◆3m0SptlYn6 Mail: 投稿日: 2008/05/07(水) 17:39:43.31 ID: DEKAF8T90

三本目 〜幻赤花〜

第一打 天武

 

長岡が渋澤道場を出てから約三月。

内藤はちょくちょくと道場に顔を出していた。

剣術に興味がある。

と偽りの理由を付けて、入門せずに見物に来ている。

ζ(゚ー゚*ζ「あら内藤さん、いらしてたんですね」

( ^ω^)「令殿、お邪魔してますお」

 

10 名前: ◆3m0SptlYn6 Mail: 投稿日: 2008/05/07(水) 17:41:03.29 ID: DEKAF8T90

長岡がいなくなった道場は、どこか活気が無く、
寂しいものだった。

( ^ω^)「……」

そして内藤の視線の先には、ある男が写っていた。

( ,,゚Д゚)「甘い!」

門下生「うっ!」

 

11 名前: ◆3m0SptlYn6 Mail: 投稿日: 2008/05/07(水) 17:43:58.70 ID: DEKAF8T90

その動きも、身に纏う空気も、存在感さえも、
他者とは一線を画していた。

そう

内藤の狙いは義虎。

渋澤の弟子であれば、茂羅ノ助に対し恨みを抱いているであろうと。

長岡との出会いで悟った。
村正と切り結ぶためには、
所有者である茂羅ノ助に恨みを持つ者が良い。

そう考え、渋澤道場を覗きに来て、見つけた人材だった。

 

 

13 名前: ◆3m0SptlYn6 Mail: 投稿日: 2008/05/07(水) 17:47:40.44 ID: DEKAF8T90

だが

( ,,゚Д゚)「大丈夫か?」

門下生「あ、はい」

義虎は心優しい人間だった。

いや、優し過ぎると言っても過言ではない。
こんな男が人を斬れるのか?

否定の言葉しか思いつかなかった。

 

 

14 名前: ◆3m0SptlYn6 Mail: 投稿日: 2008/05/07(水) 17:50:37.90 ID: DEKAF8T90

( ,,゚Д゚)「はっ!」

門下生1「かぁっ」

( ,,゚Д゚)「たぁっ!」

門下生2「のぉぅ!」

( ,,゚Д゚)「しぃっ!」

門下生3「おぅ!」

次々と門下生の木剣を叩き落としていく義虎を、
内藤はジッと見つめていた。

( ^ω^)(美しい……)

 

 

16 名前: ◆3m0SptlYn6 Mail: 投稿日: 2008/05/07(水) 17:52:41.21 ID: DEKAF8T90

実に勿体無い。
此れほどの才能があって、何故?

剣術の大会にでも出れば、一躍、名を上げられるだろうに。

( ^ω^)(歯がゆいとは、この事か)

何度か帯刀を勧めた事もあったが、

「私には過ぎた物です」

と、一蹴されてしまった。

 

 

17 名前: ◆3m0SptlYn6 Mail: 投稿日: 2008/05/07(水) 17:57:07.50 ID: DEKAF8T90

ζ(゚ー゚*ζ「義虎さん、お疲れ様」

(*,,゚Д゚)「あ、かたじけない……」

( ^ω^)「……」

なるほど、彼は現在に満足してしまっているのだ。

大きな要因は、恐らく彼女。

道場主が居ない今、実質やりくりしているのは、
義虎、そして令。

二人三脚で手を取り合っているのが楽しいのだろう。
剣の道よりも。

 

18 名前: ◆3m0SptlYn6 Mail: 投稿日: 2008/05/07(水) 17:59:23.87 ID: DEKAF8T90

( ^ω^)(だが、諦めんお)

自分もしかり。
天に与えられた才を使わぬ事は、罪である。

自分は鉄を叩き、彼は人を斬る。

そう在るべきなのだ。

 

賊が渋澤道場を襲ったのは、それより二日後の事だった。

 

第一打 〜了〜

 

 

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