14 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:04:23.23 ID: Ax4fpBXf0
一本目 〜無限刀〜
第1打 禁忌
ザザー
と川の音が心地よく響いている。
内藤は砂鉄の仕入れのために、美府川上流の鉄穴場へと足を運んでいた。
通常、砂鉄はここで採取され鉄商人によって町へと流通するのだが、
内藤はより良い質を求めて、採集地の現場で仕入れを行っていた。
( ^Д^)「やぁ旦那!」
( ^ω^)「どうも」
( ^Д^)「今日はいい鉄が取れましたぜ!」
( ^ω^)「見せてくださいお」
16 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:06:02.99 ID: Ax4fpBXf0
内藤はたった今、すくいあげられたばかりの砂鉄を受け取り、
指先でジャリジャリと細かく砕く。
なるほど、確かに混じり気の少ない良質の砂鉄だ。
これならばいい玉鋼が作れそうだ。
( ^ω^)「5合ほど頂くお」
( ^Д^)「毎度ありぃ!」
鉱夫にとっても時価で直接卸せるのはありがたいようだ。
仲介の手数料も引かれることも無い。
内藤としても同じ事が言えた。
( ^ω^)(これだけの砂鉄があれば、さぞいい鉄が打てるだろうお)
背にしょった荷は重かったが、
足取りは軽かった。
20 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:07:38.86 ID: Ax4fpBXf0
房に戻りたたら炉に火を入れ、
炭を用意し製鉄を始める。
三日三晩に及ぶ、炉との格闘が始まった。
※参考文献
http://www.h7.dion.ne.jp/~e30kenta/tamahagane.html
やがてできた鉄の塊を水へと沈め、
鉄を急激に冷やす。
そうして残ったのは、サッカーボール位の、
なめらかな純度の非常に高い鉄塊だった。
23 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:09:44.83 ID: Ax4fpBXf0
( ^ω^)(やはり……良き鉄だお)
内藤が手にした鉄塊は、今まで手にした物の中でも、
極上の物であった。
( ^ω^)「さて、何を打とうか……」
すぐにでもこの鉄を打ちたい気分なのだが、
そんな時に限って注文は入っていないのだった。
24 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:11:13.27 ID: Ax4fpBXf0
夕刻まで悩み、最高の包丁でも打とうかと思った頃。
ふいに戸が二度、叩かれる。
( ^ω^)(依頼かお?)「開いてるお」
_、_
( ,_ノ` )「失礼する」
といい、戸を開け入って来たのは、
腰に二本の刀を挿した侍だった。
体つきもガッチリとし、袖から見える拳は、
ゴツゴツと鍛錬の苦を語っていた。
しかし、内藤は明らかに不機嫌な表情に変わった。
28 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:12:31.46 ID: Ax4fpBXf0
( ^ω^)「お武家様がなんの御用ですかお?」
_、_
( ,_ノ` )「某は渋澤と申す。今日は依頼をしに参った」
依頼
今の内藤にとっては、念願叶ったりの話。
良質の鉄も手に入り、気も充実している。
( ^ω^)「包丁ですかお?それともクワですかお?」
_、_
( ,_ノ` )「……」
侍が鍛冶屋に来て、こんな台詞を吐かれたら、
切り捨てられてもおかしくはないだろう。
だがその侍は黙って頭を垂れた。
32 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:13:54.40 ID: Ax4fpBXf0
_、_
( ,_ノ` )「頼む、内藤殿!拙者に一本、刀を打ってくれ」
( ^ω^)「……」
内藤が刀を打たないのは、有名な話である。
質の高い鉄製品を造り出す内藤は、
「刀を打ったら、それは名が付く名刀になるだろう」
と、噂さえされていた。
だが、頑として内藤は刀だけは打とうとはしなかった。
( ^ω^)「お引き取り願いますお」
_、_
( ,_ノ` )「そこをなんとか……」
( ^ω^)「お断りしますお」
35 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:15:06.32 ID: Ax4fpBXf0
内藤は代々受け継いできた鍛冶屋。
先代も先々代も刀を打ってきた。
内藤自身、刀を打った事が無いわけではない。
幼い頃から先代の相鎚を打っていた内藤。
一度だけ一人で刀を打った事があった。
仕上がった品を見て、先代が言った言葉。
「貴様は永劫、二度と刀を打ってはならん」
内藤は父の言葉をひた向きに守っていた。
_、_
( ,_ノ` )「実は……」
それでも引き下がらない渋澤が、口を開いた。
37 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:16:37.63 ID: Ax4fpBXf0
_、_
( ,_ノ` )「十日後、御前試合がある……」
( ^ω^)「……」
_、_
( ,_ノ` )「お相手はあの、将軍剣術指南役、茂羅ノ助だ」
茂羅ノ助
豪族、斎藤家の次男で四百石で将軍に召抱えられている。
銘刀【村正】を帯刀し、剣豪として名を馳せていた。
_、_
( ,_ノ` )「某は代々と剣術道場を開いております。
この度の御前試合は我が道場にとって、絶好の機会なのです」
40 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:18:24.11 ID: Ax4fpBXf0
( ^ω^)「……その腰の刀で切り結べば、いいんではないですかお?」
_、_
( ,_ノ` )「お恥ずかしながら……我が道場は小さい町道場。
銘刀など持ち合わせてはおらんのです」
おかしな話だ。
自分は刀を打たない鍛冶屋としてなら、
其処ほど知られている。
銘刀を持っていないから、刀を打たない鍛冶屋に
刀を依頼する?
( ^ω^)「残念ながら、僕に銘刀と呼ばれ得る物は打てませんお」
_、_
( ,_ノ` )「銘刀ではないのです」
( ^ω^)「?」
42 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:20:03.46 ID: Ax4fpBXf0
_、_
( ,_ノ` )「名刀を打っていただきたい」
( ^ω^)「……」
_、_
( ,_ノ` )「内藤殿の噂はお聞きしている。
良き鉄品を叩いてくれると」
刀
打ちたい気持ちは勿論ある。
鍛冶屋である以上、華の刀は打ちたい。
だが、師である父に「打ってはならない」と釘を刺された。
師の教えは絶対である。
43 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:21:38.20 ID: Ax4fpBXf0
_、_
( ,_ノ` )「我が身を叩いて5両を用意した。
なんとか依頼を受けてはくれぬか?」
( ^ω^)「……」
金の量など問題ではない。
ようは打つか否か。
父は数年前に没している。
内藤はふと先刻できあがったばかりの玉鋼を手に取り、
小さな槌でコンコンと叩く。
ふいにその鋼が「刀に成りたい」と言った気がした。
46 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:23:06.53 ID: Ax4fpBXf0
( ^ω^)「……」
_、_
( ,_ノ` )「……」
( ^ω^)「いいでしょう、お受けしますお」
_、_
( ,_ノ` )「ほ、本当か!」
( ^ω^)「八日後に取りに来てくださいお」
_、_
( ,_ノ` )「ありがとう……必ずや有意義に使わせて頂く」
( ^ω^)「お代はその時で結構ですお、そして……」
_、_
( ,_ノ` )「?」
( ^ω^)「僕が刀を打つことは、誰にも言わないで下さいお」
48 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:24:44.44 ID: Ax4fpBXf0
何故かは解らない。
内藤が刀を打たない理由など、町民の知る所では無かったが、
師の教えに背き刀を打つ。
という事が、内藤に背徳の念を抱かせたのかもしれない。
_、_
( ,_ノ` )「相解った、約束しよう」
そういうと、侍は再度頭を垂れ工房を後にした。
50 名前: 1 Mail: 投稿日: 2008/03/29(土) 21:26:47.98 ID: Ax4fpBXf0
刀を打つ
刀を打つ
刀を打てる
ゾクリと背に何かが走る。
((( ^ω^)))
手に握る鎚に思わず力が篭った。
第1打 〜了〜