18 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/15(木) 01:20:38.17 ID: Xum0WCHi0

母親の温もりなんか感じたことはない。
全く記憶にない。

僕は僕だ。
例え一人になったって、生きていけるんだ。

強がりなんかじゃない。

 

   (´・ω・`)の弁当の卵焼きが甘くなったようです

 

朝から雨が酷く、僕の心は空の色を映し出していた。

まだ九時過ぎだというのに、教室には明かりが灯っている。
外は暗い。おまけに雨音が激しい。
とても授業なんて集中して受けていられない。

(´・ω・`)(やる気なんてあるはずもないよ)

もうすぐ期末試験があるため、先生の授業には熱が入っていた。
しかし、相反するように僕らのモチベーションは下がっていく。
梅雨の蒸し暑さだけが原因ではなかった。

( ^ω^)「ショボン、ショボン」

(´・ω・`)「ん?」

 

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:22:37.85 ID: Xum0WCHi0
後ろの席のブーンに、背中を小突かれる。

( ^ω^)「相変わらずアイツの授業暇だお。チェスでもやらないかお?」

(;´・ω・)「なんでチェスなんて持ってるんだよ。期末近いんだから勉強しなよ」

( ^ω^)「勉強はバカがやるもんだお」

(´・ω・`)「だったら尚更じゃないか」

(;^ω^)「ヒドスwwwwwでも言い返せない、くやしい! ビクンビクン」

(;´・ω・)「なんでもいいから静かにしなってば」

勝手にテンションが上がっているブーンに呆れて、見たくもない前を見た。

二年生の一学期の期末と言えば、進学にも関わってくる重要な試験だ。
大した高校ではないが、一応進学校。国立を狙っているやつも少なくない。

(´・ω・`)(まー僕には関係ないけどね)

禿散らかした数学の先生を、頬杖突きながら見ていた。
机の上の教科書が、ひとりでに閉じる。あまり折り目の癖がついていないためだ。
いかに教科書を開いていないかがよく分かる。

高校二年生ながら、MAX148キロのストレート。
打っては高校通算39本。しかも調子は上向き。
プロや大学が放っておくはずはなかった。

県内でも屈指の素質を持った球児として注目されているが、野球を好きだと思ったことは一度もない。

 

25 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:24:22.32 ID: Xum0WCHi0
プロでも通用するほどの技術を持てれば、プロになろう。
それが無理なら大学。あるいは社会人野球。
いずれにせよ僕にデメリットはない。

(´・ω・`)(かったるい勉強から逃れられるって点では、野球はサイコーだよ)

そんな淡白さを周りに見せることなく、僕はごく普通の高校生活を送っていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

四つの授業をこなしてようやく昼休み。
野球部の仲間と机をくっつけ昼食を取るのはいつも通りのことだ。
バカなことばかり言うが、一緒にいると気楽なやつらだった。

( ^ω^)「Ajaxくらい勉強しとけお、いちいち説明するのメンドイお」

('A`)「バーロー、俺はFORTRANに命捧げたんだよ」
  _
( ゚∀゚)「日本人ならRUBYだろ! やっぱし!」

(;´・ω・)「そもそもみんな比較が間違ってるよ」

噛み合わなかったりおかしな方向に向かったり。
そこで冷静に突っ込むのはいつも僕の役目だ。

そんな時間は嫌いじゃなかった。

 

 

28 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:26:05.52 ID: Xum0WCHi0
話が熱中しだすと弁当を食べるのも遅くなる。
僕がつっこまないことには話が収まらないからだ。
でも何故か三人はすぐに食べ終わっている。いつも僕だけが遅い。

白米を消化しきって冷食のハンバーグも弁当から消えた。
あとはいつも弁当に入っている卵焼きだけだ。

何気なくポイっと口に入れたが、すぐ違和感に気付いた。

(´・ω・`)(……今日の卵焼き、いつもより甘いな……)

父さんが早起きして作ってくれる弁当は、良くも悪くも男らしい。
冷凍食品が多いが、それも肉や脂モノばかりで、こってりしている。
そして卵焼きはいつも醤油が多めで味が濃いのだ。

なのに今日の卵焼きと来たら、かつてないほど甘ったるい。

(´・ω・`)(……これは、もしや……!!)

醤油を……入れ忘れたのか……!?
朝に弱い父さんのことだ、寝ぼけて醤油を入れ忘れた、なんてことは充分ありえる。

(´・ω・`)(ま、醤油が入ってても入ってなくてもどっちでもいーんだけどさ)

大して気にも留めず、三つに分けられた卵焼きを次々口に放り込んだ。
やはりいつもより確実に甘かった。

しかし、後になって僕は思う。

 

30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:27:56.83 ID: Xum0WCHi0
このときもうちょっと弁当を遅く食べていれば。
みんなの話を聞いて、笑いながら、時には呆れながら、ゆっくりしていれば。

何かが変わっていたかも知れない、と。

弁当を食べ終えたあとはまた三人とバカ話をした。
高校になってから知り合ったメンツだが、よく一緒に遊ぶし、仲はかなり深い。
今年一緒のクラスになれたのは幸運だった。
  _
( ゚∀゚)「だから言ってんだろ! しぃは絶対F以上あるって!」

( ^ω^)「いや、あれはEだお! 65のEと見て間違いないお!」

('A`)「もうちょい小ぶりなほうに目を向けようぜ。ほら、クーとか」
  _
( ゚∀゚)「あぁ、ありゃC60で確定だな。平均的すぎてコメントしづれーよ」

(;´・ω・)「なんで君は胸の話になると高みからの発言なんだい?」

('A`)「そりゃ何てったって『自称マイスター』だからだろ」
  _
( ゚∀゚)「自称は取れって!」

( ^ω^)「他称はただの変態だお」

(´・ω・`)「なんでもいいから、少し静かに――――」

('A`)「……ん?」

 

31 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:29:59.18 ID: Xum0WCHi0
教室の扉が、ひとりでに開いたように見えた。
外側から開かれた扉。一瞬、誰の姿も見えなかった。
しかし、ゆっくりと姿を現す女生徒。

扉の側にいた僕らは、すぐにそれが誰なのか気付いた。

( ^ω^)「おっおっ、しぃちゃんだお」
  _
( ゚∀゚)「おー、噂をすればの巨乳さんじゃねーか」

(;゚ー゚)「やめてくださいよ、もー」

 ブラウスに女性特有の盛り上がりを形成させている彼女の名は、坂崎椎。
 みんなからは『しぃ』と呼ばれている、野球部のマネージャーだ。
 僕たちの一年後輩になる。

(;'A`)「ど、どどど、どうしたの?」

( ^ω^)「女の子相手だとドモリになるドクオきめぇwwwwwww」

(;'A`)「うるせーバカ!」

(*゚ー゚)「えっと、今日ミーティングあるみたいなので、少し早めに集合してください」

(´・ω・`)「早めって?」

(*゚ー゚)「10分前です」
  _
( ゚∀゚)「練習時間を削ろーって気はサラサラないんだな、監督は」

 

33 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:32:00.96 ID: Xum0WCHi0
( ^ω^)「ま、分かりきってることだお」

(´・ω・`)「でもミーティングってなんだろう?」

('A`)「試合のことだろ? 今年は甲子園のチャンスだもんな」

( ^ω^)「二年生エースが毎試合完封してくれれば間違いないお!」

(;´・ω・)「無理に決まってるじゃないか、そんなこと……。
      もちろん、先輩たちのためにも頑張るけどさ」

(*゚ー゚)「頼りにしてます、先輩」

しぃの微笑みが、教室中に広まったような気がした。
にやにや笑うジョルジュ。頬を真っ赤に染めて呆然とするドクオ。
ツンという彼女がいるブーンさえ見惚れているように感じた。

しかし、僕の心は微動だにしない。

(*゚ー゚)「それでは、また」
  _
( ゚∀゚)「あー、最後にもっかいその巨乳を俺の脳内フォルダに」

(;゚ー゚)「死んでください」
  _
( ゚∀゚)b「いい言葉だ!」

(;'A`)「ドMがいるぞ、ドMが」

 

34 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:34:02.96 ID: Xum0WCHi0
短めの黒いスカートを翻して立ち去るしぃ。
気付けば身を屈めているジョルジュ。
それを後ろから叩くドクオ。

白だのなんだのと騒ぎ立てるジョルジュを無視して、僕は次の授業の準備を始めた。
いや、厳密には始めたふりをしてボーっとしていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ドクオの予想通り、ミーティングは試合のことだった。
僕が先発することは決まっている。三年生のどの投手よりも、力量で優っているからだ。
驕傲ではなく、純粋な真実だった。

('A`)「調子はいいのか?」

(´・ω・`)「自分でも怖いくらいに」

( ^ω^)「頼もしい限りだお」

二年生のレギュラーはエースである僕と、ショートのジョルジュだ。
ただしドクオとブーンもベンチには入っている。
二年生で選手登録されているのは、この四人だけだった。

一回戦の相手は、はるかに格下。コールド勝ちは間違いないだろう。
三回戦までは、一点も取られる気がしない。しかし、それ以降は分からない。
だが自分の評価を下げないためにも、なるべく失点は少なく抑えていきたいところだった。

(´・ω・`)「ふぅ……」

 

37 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:36:04.71 ID: Xum0WCHi0
ミーティングのあと、練習を続けて時間は五時ちょうど。
全体の練習は一応終わりだが、帰る者はほとんどいない。
大会が近いこともあってか、みな自主練習は怠らなかった。

ただし、一人だけいつも五時ちょうどに帰る部員がいる。
選手ではない。マネージャーのしぃだ。

(*゚ー゚)「お疲れ様でーす」

いつも通りだった。
しぃは何故か五時になるとすぐジャージから制服に着替え、帰宅する。
いつなんどき、いかなる状況であろうとも、だ。

マネージャーとしては優秀そのものだ。
他のマネージャーなら二時間かかるものを、一時間でこなす。
五時で帰宅することに誰も文句を言わないのはそのためだが、不思議に思うのは僕だけではなかった。

(´・ω・`)(……まぁ、僕には関係ないけど)

野球部での仕事さえきっちりこなしてくれれば、理由などどうでも良かった。
選手とマネージャーの関係というのは、そういうものだ。

しぃが去ったあとも熱を入れて練習を続けた。
最近、変化球の曲がりがいい。特に縦のスライダーがよく落ちる。
速球も走っていた。近いうちに150キロも出せる気がする。

だが、あまり自分自身に期待はしないようにしていた。
ダメだったときのショックが大きいからだ。
物事に対し常に最悪の状況を想定しておく。それが楽な生き方だ、という考え方は昔から変わらない。

 

38 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:38:06.89 ID: Xum0WCHi0
(´・ω・`)(……捻じ曲がってるのかなぁ)

自分を見つめなおすと、いつもそう思う。
周りとの温度差に気付いて、何となく不安に感じるときもある。
人それぞれなのだから気にしてもしょうがない、という結論に至るが、それでも何度も考えてしまう。

(´・ω・`)(……やっぱ、考えてもしょうがないか)

キャッチャーから返って来たボールを、すぐに投げ返した。
直球。低く決まる。
やはり調子はいい。

(,,゚Д゚)「おーい、今日は練習終わりだー」

(´・ω・`)「ん?」

ギコ監督がスーツ姿でやってきた。
途中でどこかへ行ったと思ったら、どうやら着替えていたようだ。
しかし、何故?

( ^ω^)「どうしたんですかお?」

(,,゚Д゚)「会議と懇談会があるんだ。そんで、こっちを見れる教師がいなくてな」
  _
( ゚∀゚)「自分らで閉めますよ」

(,,゚Д゚)「いや、鍵を返しにこれねーだろ? まぁ、一日くらい預けてもいいんだけどよ。
    色々面倒だしテストも近いんだし、今日はこれで終わりにしとこう」

('A`)「珍しいっすね。監督が練習を打ち切るなんて」

 

40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:39:49.03 ID: Xum0WCHi0
(,,゚Д゚)「天使のような心を持った男だからな、俺は」

('A`)「ははは、笑えねー冗談っすね」

ドクオにボディーブローが見舞われたのは瞬きの後だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

( ^ω^)「でもこんなに早く終わると、物足りない気分だお」
  _
( ゚∀゚)「だなぁ……」

ユニフォームから着替えて、まだ夕日が照っているうちに帰路を辿った。
こんな日はなかなかあるものではない。新鮮味さえ感じる時間だった。

('A`)「なんならバッティングセンターでも行くか? 今日は打ち足りねーだろ」

( ^ω^)「おっ、いい提案だお!」
  _
( ゚∀゚)「行くか! ショボンはどうする?」

(´・ω・`)「んー……」

投げ込みができるならまだしも、打撃にあまり興味がない僕は気が進まなかった。
バントには絶対の自信を持っている。それだけでいいだろう、とさえ思っていた。
投球さえしっかりしていれば、誰も無理に打撃をやれとは言わない。

(´・ω・`)「僕は帰るよ。ちょっと肩が重くてね」

 

41 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:41:47.25 ID: Xum0WCHi0
( ^ω^)「おっおっ、それは痛めたら大変だお」

('A`)「だな。ゆっくり休んだほうがいい」
  _
( ゚∀゚)「んじゃーなー!」

三人と岐路で別れ、夕陽を背にしながら家へ向かった。
肩が重いというのは嘘だが、罪悪感はさほどない。
こんな小さな嘘は、日ごろからよくついている。

(´・ω・`)(六時前か……帰ってもやることないな……)

嘆息を吐きながら、携帯を閉じた。
普段、家に帰るのはだいたい七時半過ぎから八時前。
仕事が定時に終わる父さんは、いつも僕より先に帰ってきている。

そして夕飯を作ってくれているのだが、今日は早い帰りだ。
朝からそれが分かっていたならまだしも、突然早めに帰されたため、何の用意もないだろう。
大人しく父さんが帰ってくるまで待つしかなさそうだった。

(´・ω・`)(えーっと……鍵はここだったっけ……)

カバンの中を漁って、家の鍵を探す。
我が家はごく普通の一軒家で、それなりに新しいという程度の感想しかつけられない。
それでも建てられて十年以上経っているため、その感想もそろそろ厳しくなってきていた。

(´・ω・`)(あった)

玄関の扉の前に立ち、鍵穴に差し込んだ。
右に捻る。

 

43 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:43:12.77 ID: Xum0WCHi0
……右に、捻る。

(;´・ω・)(あれ?)

鍵が開かない。
何度回しても、開いた音がしない。

いや、違う。

(;´・ω・)(……開いてる?)

何故か家の鍵が、開いている。
閉め忘れたのだろうか。いや、それはない。
父さんの後に家を出る僕は、いつもしっかり鍵を閉める。

今朝も間違いなく閉めた。
だから、これは――――。

(;´・ω・)(泥棒……?)

玄関の扉を、ゆっくり開けた。
音を立てないようにしながら。

泥棒の心理は分からないが、侵入したあとは鍵を開けっぱなしにしておくのだろうか。
普通は閉めるのではないだろうか。

(;´・ω・)(……っていうか……明らかに人の気配がするんだけど……)

 

45 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:45:07.69 ID: Xum0WCHi0
しかもリビングや寝室など、いかにも金目のものがありそうな場所からではない。
台所からだ。
こそこそしている様子はない。誰かが、堂々と家のなかにいる。

そして玄関に置かれているローファー。

ありえない、と思う可能性が、一番ありえそうな気がしてきた。

(;´・ω・)(…………)

まるで僕が泥棒のようだ。
そう思いながら慎重に歩を進めた。
廊下をまっすぐ進んで、突き当たりの右にある、台所へと。

気付かれないようにそっと、覗き込んだ。
一瞬、誰もいないように見えた。
が、端のほうにいて視界に入らなかっただけだった。

短いスカートから大胆に姿を現している白い脚。
くびれた腰と、か細い腕。揺れる茶色い髪。
そして、更に揺れる胸部。

(*゚ー゚)「〜♪」

エプロンつけてフライ返し持って……。
フライパンを楽しそうに動かしている……。

(;´・ω・)「……何やってんの?」

 

48 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:47:01.57 ID: Xum0WCHi0
それ以外、何とも言いようがなかった。
ただただ分からなかったのだ。何もかもが。

(;゚ー゚)「あっ……」

(;´・ω・)「…………」

僕の声に反応して振り向いたしぃの顔は、青ざめていた。
流れるは沈黙。重苦しい空気。
時計の秒針だけが音を立てている。

(;゚ー゚)「……部活は……?」

(;´・ω・)「早めに終わった……」

(;゚ー゚)「へぇー……そうなんですかぁ……」

フライパンから焦げ臭い匂いがした。
それに気付いたしぃが慌ててスイッチを切る。
そして手早く、大皿に移した。野菜炒めのようだ。

(;゚ー゚)「……あの」

(;´・ω・)「?」

(;゚ー゚)「……お料理、終わったので……帰りますね」

(;´・ω・)「いやいやいやいやいや!! ちょっと待って!!」

 

49 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:48:50.85 ID: Xum0WCHi0
カバンを肩にかけたしぃを、引き止める。
とりあえずカバンを奪い取って、再び机に置いた。

しぃの華奢な体が、微かに震えているのに気付く。
青ざめた表情は変わらない。

(;´・ω・)「まず落ち着いて、全てを話――――」

(;゚ -゚)「あっ……!」

驚いた表情で、しぃが僕の後ろを見ていた。
何事かは、すぐ理解できた。後ろを見るとしたら、理由は一つしかない。

(;`・ω・)「…………」

父さんが、帰ってきていたのだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(´・ω・`)「……話はまぁ、分かったんだけどさ……」

リビングでお茶もお菓子もない会議が行われていた。
僕の向かいに、父さんとしぃ。
何故か、僕と父さんが並んでいるわけではない。

その何故も、話を聞けば分かった。
しかし……。

 

51 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:50:32.10 ID: Xum0WCHi0
(´・ω・`)「……あんまり、理解したくない話だね」

冷静に話を飲み込んだ。
その後に沸いてきたのは、何とも形容しがたい感情だった。

(´・ω・`)「要するに、まだ16歳の子に惚れちゃって手を出したってことだよね?」

(;`・ω・)「やましいことは何もしていないぞ」

(´・ω・`)「同じことでしょ。出会いは何なの?」

(;゚ー゚)「英会話教室……」

(´・ω・`)「あぁ、なるほど」

父さんは駅前にある英会話教室に勤めている。
とは言っても講師ではなく、教室の運営のほうに携わっているようだ。
詳しいことは知らないが、一応英語も喋れるらしい。

しぃがそこに通っていたことは知らなかったが、とにかく二人は出会ってしまったらしい。

そこで不意に、あることに気付いた。
何気なく一日のことを思い返していた。その途中の、違和感。
あれは、もしや。

(´・ω・`)「……もしかして、さ。今日の弁当……」

 

54 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:52:21.41 ID: Xum0WCHi0
(*゚ -゚)「あ、私が作りました……」

(´・ω・`)「やっぱりね……卵焼きが甘すぎると思ったんだ。
      ……でも、おかしくない? なんで僕のお弁当をしぃが」

(`・ω・´)「……いや、それは……」

(;´・ω・)「もしかして、居たの? 昨日、この家に」

一度、二人が見合った。
そして頷いた。

(´・ω・`)「やましいことはしてないって言ったくせに。朝まで一緒だったんだ?」

(;`・ω・)「いや、それは本当だ。手は出してない」

(;゚ -゚)「ホ、ホントですよ。ベッドで寄り添いあってたくらいで、変なこととかは……」

(´・ω・`)「……まぁ、信じるけど」

本質的には、どちらでも良かった。
父さんは40代だし、しぃももう16歳。
それぞれに大人だ。何をやっていても自己責任だ。僕が気にかけるようなことじゃない。

(`・ω・´)「今朝はちょっと寝坊してしまってな……それでしぃに作ってもらったんだ」

(´・ω・`)「ふーん」

(`・ω・´)「……ちなみに、最近夕飯を作ってくれていたのもしぃだ。
      さすがに気付いてなかったみたいだが……」

 

55 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:54:08.86 ID: Xum0WCHi0
(´・ω・`)「まぁ、合点がいくよ。何でしぃがいつも五時に帰るのか、不思議だったからね。
      つまりは、そういうことか……まさか僕に関係してるとは思わなかったけど」

(;゚ -゚)「黙っててゴメンなさい……」

(´・ω・`)「そういや、なんで僕に隠してたの? 話しても良さそうなのに」

(`・ω・´)「……いずれ話そうと思っていた。が、なかなか踏ん切りがつかなくてな……。
      お前の部活動に支障を来すかも知れないだろう? だからな……」

(´・ω・`)「言い訳に僕を使わないでよ。勇気がなかっただけじゃないか」

(;`・ω・)「……すまん、その通りだ」

(;゚ -゚)「でも先輩、本当にいつか話すつもりだったんです。
    っていうか、話さないとマズイ状況で……」

(´・ω・`)「ん? どういう意――――」

聞くまでもなかった。
どういう意味か、なんて。

二人、同じくする輝き。
左手の薬指。

結婚指輪。

(;´・ω・)「はぁ!?」

(;`・ω・)「そういうことなんだ、うん……」

 

57 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:55:53.72 ID: Xum0WCHi0
(;´・ω・)「ちょっと待ってよ! 籍は!? もう入れたの!?」

(*゚ -゚)「うん……」

(;´・ω・)「僕に相談もなしに!?」

(;`・ω・)「……すまん」

何でだよ、と聞く気にさえならなかった。
思わず呆然としてしまった。

僕の知らない間に、父さんが再婚していた。
そして、後輩が母親になっていた。

これが夢ならすぐにでも枕を取り替えて、二度と同じのを見ないようにしたいところだ。

(´・ω・`)「……未成年者が結婚する場合は親の許可がいるはずでしょ?
      それに、20歳以上のひと二人に承認してもらう必要もあるはずだよ」

(;゚ -゚)「く、詳しいですね……」

(`・ω・´)「その二つはちゃんとクリアしてるさ。問題ない。
      まぁ、それについてはまた今度話そう……」

(*゚ -゚)「うん……」

しぃの不安げな視線が僕に向けられていた。
何を心配しているのだろうか。分からない。
ただ、呆けることしかできない。

 

59 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:57:33.69 ID: Xum0WCHi0
(´・ω・`)「……何て言っていいのか、分からないよ……唐突すぎて……」

(`・ω・´)「できればもっと、落ち着いた形で話したかったんだが……」

(´・ω・`)「どんな形でも一緒でしょ……」

ひどく喉が渇いていた。しかし、飲み物を取りに行く気分にさえなれない。
全身から力が抜けてしまっている。

(*゚ -゚)「……シャキンさん」

(`・ω・´)「ん……?」

不意に口を開いたしぃ。
それも、先ほどまでとは違う強さを持って。

まるで、何かを決意したかのように。

(*゚ -゚)「もう、バレちゃったことですし……私、今日からこっちに住みます。
    あなたのお嫁らしく、家事も全てこなします」

(;´・ω・)「……え、えぇ?」

(`・ω・´)「それは助かるが……」

(;´・ω・)「いやいや、ちょっと待ってよ……何もかもが唐突すぎるんだってば」

(*゚ -゚)「先輩……いえ、ショボンくん。私、シャキンさんから聞いたの。
    ショボンくんは母親のことを知らずに育ってきた、って」

 

60 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 01:59:15.47 ID: Xum0WCHi0
(´・ω・`)「……まぁ、そうだけど」

(*゚ -゚)「だから……私がアナタに母親の温もりを与えてあげたいの」

(;´・ω・)「……いや、別に僕は」

(*゚ー゚)「よろしくね」

ぎゅっと、手を握り締められた。
それは確かに温かく、また柔らかみもあって、悪い気分ではなかった。

しかし、僕の中の認識はあくまでも、後輩の手だった。

(`・ω・´)「学校では多少気まずいかも知れんが、上手くやってくれ」

(*゚ー゚)「もちろんです、シャキンさん」

(´・ω・`)「……何でもいいけどさ、学校ではちゃんと先輩って呼んでくれよ。
      戸籍上母親でも、僕が先輩であることに変わりはないんだから」

(*゚ー゚)「でも、他に人がいないときは学校でも『お母さん』って呼んでね?」

(´・ω・`)「……うーん」

(;゚ー゚)「なんで唸るの?」

(´・ω・`)「いや……まぁ、気をつけるよ」

(*゚ー゚)「うん、えらいえらい」

 

61 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 02:00:50.08 ID: Xum0WCHi0
(´・ω・`)「……なんか違和感たっぷりなんだけど」

(`・ω・´)「じきに慣れるさ。心配せずとも」

(´・ω・`)「心配とかじゃなくてさぁ……」

(*゚ー゚)「立派にお母さん務めるから、安心してね」

(;´・ω・)「だからそういうことじゃないんだってばぁ」

あまりに唐突な出来事。新しい家族。
年下の、母親。
僕に疲労感を与えるには充分すぎた。

(`・ω・´)「で、何故いきなり婚姻届を出したかというとな」

(´・ω・`)(まだ話あるんだ……)

(`・ω・´)「実は父さん、明日からしばらく海外に出張しなければならないんだ」

(;´・ω・)「……え、本気で言ってるの?」

(`・ω・´)「ウチの会社の本体がアメリカにあるのは知ってるだろう?
      だからしばらくロスに滞在しなきゃならない」

(´・ω・`)「どれくらい?」

(`・ω・´)「分からんが、数日ではないな」

(*゚ -゚)「シャキンさん……」

 

63 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 02:02:21.45 ID: Xum0WCHi0
(`・ω・´)「我慢してくれ、しぃ」

昨日しぃが泊まっていったのは、そういうことか。
この調子だと、僕が今日何も知らないままだったら、きっと昨日のようにこっそり家に来るつもりだったんだろう。
そして朝まで別れを惜しんだに違いない。

(`・ω・´)「さぁ、今日は送別会だ。三人で御飯を食べようじゃないか」

(*゚ー゚)「はい♪」

(;´・ω・)(なんだかなぁ……)

すっきりしないものを抱えたまま夕食を取り、色々と話した。
いや、正確には話を聞いていた。
二人が目の前でイチャイチャしているのを呆然と眺めていた、と言ってもいい。

とにかく、面倒なことになった。
それが率直な感想だった。

(´・ω・`)「ふー……」

父さんが酒瓶を空け始めたので、慌てて二階へ上がり部屋に入った。
酒癖が悪い人の相手は苦手だ。しぃには申し訳ないが、任せることにした。
多分二人きりのほうがいいだろう、という勝手な希望的観測もあった。

(*゚ -゚)「ショボンくん?」

(;´・ω・)「うわっ!!」

 

65 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 02:04:02.95 ID: Xum0WCHi0
ベッドに身を預けて体を休めていたところだった。
しぃが音もなく扉を開けていた。

(´・ω・`)「ノックくらいしてよ……驚くじゃないか」

(*゚ -゚)「あっ、ごめん……」

(´・ω・`)「まぁいいけど……どうしたの? っていうか、父さんは?」

(*゚ -゚)「酔いつぶれちゃった。なんか酔いが早く回ったみたい」

(´・ω・`)「元々弱い人だからね」

(*゚ー゚)「そうなんだー……よく知ってるね」

(;´・ω・)「家族なんだから、当たり前じゃないか」

(*゚ー゚)「だよね、そうだよね。家族はお互いのこと知り合ってて当然だよね」

(´・ω・`)「……ん? まぁ、そうだろうけど」

(*゚ー゚)「私ももっと、ショボンくんのこと知りたい」

……と、言われても。
今日初めて会ったわけじゃない。
それなりには知り合っている間柄だ。

(´・ω・`)「何が知りたい? 持ってる変化球かい?」

(*゚ー゚)「それは知ってる」

 

69 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 02:06:17.19 ID: Xum0WCHi0
(´・ω・`)「じゃあ主義主張か? 僕はニヒリストだと言われたりもするけど」

(;゚ー゚)「なんか堅いよ。もっと打ち解けようよ」

(´・ω・`)「さっきまでただの後輩でマネージャーだった相手と、それはちょっと難しいね。
      だいたい、打ち解けようって言って打ち解けられるものじゃない」

(*゚ -゚)「……ショボンくんは、私のこと嫌いなの?」

(´・ω・`)「嫌いじゃないよ。今まではどちらかといえば好感を抱いてたくらいだ。
      でも、突然母親になられて戸惑わないほうがどうかしてるだろう?」

(*゚ -゚)「……そっか、私はちょっと前からショボンくんを自分の子供だと思って見てきてたけど……」

(´・ω・`)「僕は今さっきだ。そこらへんを考慮してくれないと困る。
      母親なんて僕が物心つくまえに死んだんだ。今まで居なかったものが突然現れてもね」

(;゚ -゚)「だけど……私が母親だってことは変わらないよ?」

(´・ω・`)「だから悩んでるんじゃないか」

(*゚ -゚)「……私は、あんまり深いことは考えられないけど……。
    とにかくこれからは、一緒に住むことになるし……仲良くしていきたいの」

(´・ω・`)「……まぁ、今まで仲が悪かったわけじゃないし……。
      普通に接するだけなら、多分大丈夫」

(*゚ー゚)「良かった♪」

 

70 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 卵焼き 投稿日: 2007/11/15(木) 02:08:06.31 ID: Xum0WCHi0
ベッドに近づき、僕の隣に腰掛けるしぃ。
短いスカートが揺らめいたのを見て、そういえばまだ制服だったのか、などと考えた。
明日も学校で会うことになる。その場でのしぃは、後輩だ。

しかし今となりに居るのは、母親。
望んだこともない存在だ。

だが存在する以上はどうしようもない。
妥協していくしかないだろう。

(*゚ー゚)「改めて、これからよろしく」

(´・ω・`)「……まぁ、よろしく」

しぃがギュっと手を握り締めてきた。
握り返さずに放置する。それでもしぃは微笑んでいた。
同じように微笑み返すことも、やはりできなかった。

空虚な室内にかかる冷房が動きを止めていた。
体が火照っているのはきっとそのせいだろう。
他に理由は思い浮かばない。

父さんが階段を昇ってくる気配はない。
まだしばらく、しぃと二人の時間が続きそうだった。

 

                〜〜とりあえず終わり〜〜

 

 

 

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