3 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:07:38.28 ID: rd3nStmX0
5.剣百合

一九九五年、六月十五日。月曜日の朝。

週明けの朝は鬱陶しい。
加えて誕生日の翌日というので、デレは陰鬱な面持ちだったが、
雲ひとつない快晴の中で朝早くに登校し、静かな教室でクーを見つけると、たちまち気分が晴れた。

ζ(゚ー゚*ζ「おはよっ!」

川 ゚ー゚)「おはよう」

クーは教壇の上に花瓶を置こうとしていた。
白いグラジオラスがいくつか差さってい、水もそこそこに満たされている。
朝の陽光に照らされ、ガラスの花瓶はキラキラと金いろに充ちた。

ζ(゚ー゚*ζ「これは?」

川 ゚ー゚)「今日持ってきたんだ。グラジオラスをね」

愛しむように眺めつつクーは返答した。

鞄を自分の机に置いてから、デレはパタパタと教卓の方へ向かった。

 

4 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:10:14.55 ID: rd3nStmX0
ζ(゚ー゚*ζ「キレイな白だね……」

川 ゚ー゚)「厳選して選んだんだ」

剣のような穂に、純白の花がいくつも連なっている。
少女たちの微弱な吐息、鼓動に合わせて花弁が僅かにゆれて、
柔らかな香りが空気を伝っていったが、二人は気付かない。
それほどまでに見入っていたのだった。

ζ(゚ー゚*ζ「ほんっと、いつまでも見つめてたいくらい」

川 ゚ー゚)「ああ、全くだ」

クーはそう呟くと、ふいに掛け時計の方に目を向けた。
八時五分だった。
それから、クーは「やれやれ」とばかりに溜息をついた。

川 ゚ -゚)「……あと十分ほどか」

ζ(゚ー゚*ζ「あ……そうだね」

クラスの中でも、クーとデレの登校時間は飛び抜けて早い。
三人目が来るのはだいたい八時十五分辺りからで、そこから途端に教室は騒々しくなる。
特にクーは、教室がざわつくと一向に口を開きたがらない。

 

6 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:15:15.30 ID: rd3nStmX0
川 ゚ -゚)「残念だな、本当に」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、いつものことじゃない」

デレは諭すが、クーは相変わらず重々しい雰囲気をまとっている。

気持ちは分からないでもない。
デレは言葉には出さなかったが共感した。

あの人達が来ると、途端に私達は居場所を失ってしまう。
あるいは、あの人達の玩具になるか。

いずれにしろ、辛いことばかりで、最近はクーが標的によく狙われる。

思い出すだけで、苦い思いが心に満ちた。

 

7 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:18:19.61 ID: rd3nStmX0
貴重な十分間が、途端に甘酸っぱく愛おしくなる。
もっと心持ちを安定させなければ、楽しめない――デレは自分を奮い立たせた。

ふと、クーは徐に教壇から離れ、自分の席に向かっていきながら、

川 ゚ -゚)「……一つ頼みごとがあるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「頼みごと? って?」

返答する代わりに、クーは自分の鞄から取り出したソレを、口を閉じたままで渡した。
茶色の表紙が古めかしい、木の匂いの立つ日記帳だった。

ζ(゚ー゚*ζ「これは……」

川 ゚ -゚)「交換日記、だ」

ぶっきらぼうな口調でそう答えると、付け足すように、

川 ゚ -゚)「やらないか」

            

 

8 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:22:25.53 ID: rd3nStmX0
ζ(゚ー゚*ζ「え」

驚いた。意外すぎた。想像の範囲を超えていた……が、たちまち喜びが舞い上がってきた。
そうして、デレは狼狽しながらも突然の申し出に、

ζ(゚ー゚*ζ「え、、、うん。いいよ! やろっか!」

と答えた。
うろたえたものの、クーのその誘いは素直に嬉しかった。
出会った当初のクーからは、考えられないような誘いだったし、交換日記には昔から興味を持っていた。

川 ゚ー゚)「よかった。ありがとう。緊張したよ」

クーは大仰に肩をすくめてみせ、陰鬱だった空気を吹き飛ばした。
多少演技も入っていたらしく、ゆるく綻んだ口元からは美しい歯が悪戯げに覗いている。

ζ(゚ー゚*ζ「緊張だなんて……」

川 ゚ -゚)「いや、するさ。人への頼みごとは苦手なんだ。疲れる」

ζ(゚ー゚*ζ「ぁ……それは、わかるかも」

自らを八方美人と揶揄するデレも、頼みごとをするのは好きではない。
他人からは、今時珍しい殊勝な娘だと感心されることもあるが、何のことはなく、
所詮、他人に嫌われたくなかったり、人に悪意を向けられたり向けたくなかったりするだけのことなのだ。
気が弱いともいえた。

 

9 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:26:47.53 ID: rd3nStmX0
優柔不断で、他人の言葉にはとりあえず同調し、その場を取り繕う。

そのようなことばかり繰り返してきたが、クーとの会話のときだけは、違った。
本音を持って言葉を発せられ、そしてそれが面白い。

ζ(゚ー゚*ζ「頑張ろうね」

川 ゚ー゚)「ああ、物語を綴ろうじゃないか」

「なにそれー」と、クーの言葉にふんわりデレは微笑んだ。
だが、対照的にクーの表情は強張って、

川 ゚ -゚)「ん……そろそろ"連中"が来るか」

ふいに色めきたった廊下の方に意識を向け、クーは不満げに漏らし、ぷいと自分の席に戻った。
自分も戻るか――デレが動こうとしたそのとき、教室の扉が引かれた。

 

11 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:30:51.14 ID: rd3nStmX0
ショートカットの娘が、戸の前で立ち止まっていた。
デレは唇を噛み締めた。ああ――

 

(*゚ー゚)「…あッ、やっぱり来てた〜w」

 

"女王様気取り様"とクーに揶揄されている少女、しぃは
小馬鹿にした目で教室を見渡すと、同伴していた友達に向かって声を立てた。

デレとクーのことを指しているのは明らかで、侮辱の響きは二人の少女を穏やかにさせない。
だが、二人は石像のように座り込んだままでいた。

しぃ達の前では、何の行動もしたくない。
だから、絡まないで――幾度と祈った内容だ。

叶ったことは一度もない。

 

12 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:33:59.61 ID: rd3nStmX0
从 ゚∀从「うわっホントじゃん、ホントに居てやんのw」

ひょいと顔を覗かせたハインリッヒは、あからさまに貶すと、けたたましく嘲笑した。
デレは心の中で毒づいた。
この連中さえ居なければ、もっとマシな学校生活を送れるだろうに……。

弾けたような笑い声が教室内でこだまする。
しぃの率いるグループは中に入ると、さっそくクーの席に向かった。
圧迫するかのようにクーの周りを囲んで、恒例の詰問をする。

(*゚ー゚)「ほんっっとキレイな髪の毛だねクーちゃん」

しぃは無断でクーの髪の毛を手櫛しながら、

(*゚ー゚)「トリートメント? どこの?」

川 ゚ -゚)「……さぁ。家にある奴適当に使ってるから」

「だってさー」と馬鹿にした声、
またも弾ける小笑い、まだまだ痛めつけるつもりだと宣言しているようだった。
デレは俯きながら、クーのことばかりを思った。

 

13 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:36:57.64 ID: rd3nStmX0
少し前に、「私がからかわれても、気にしないでくれ」と、はにかんだクーに
告げられたことがあったのだが、やはりデレは感情を揺り動かしてしまう。

親友がすぐ近くでバカにされていることは口惜しいし、虚しい。
だが、自分がしぃ達に歯向かったところで、どうにかなるわけでもない。
寧ろ相手を調子に乗らせるだけだろうし、事態は悪化するに決まっている。

……だから、しょうがない。
デレは心の中で呟いたが、蟠りが残るのを実感した。

これは「妥協」ではないのか? これは「逃げ」ではないのか?
そういう建前に甘んじて、大義名分にして何の行動も起こさないという、ただの臆病ではないのか。
だろう、そうに違いない。

嫌になる。
何が正しいのかが分からない。
ジレンマに囚われ、苦悩するのは、いつだって悲しい。……

「ほんと、カツラみたいだねー!」

毒々しい活気に満ちた声が聞こえてくる。
クーが今も傷ついていると考えると、デレは耳を塞ぎたくなる思いだった。

 

14 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:40:47.96 ID: rd3nStmX0
・・ ・・・

川 ゚ -゚)「ちょっと……やめてくれ」

「だってさw」と、クーを囲む少女達は嘲笑しあった。
少女達は銘々にクーの黒髪を手に取ると、まったくの遠慮をせずに弄んでいた。
振り払おうにも、振り払える人数ではなく、どうすればいいのかクーは戸惑っていた。

口元に笑みを浮かべ、しぃは手中のクーの髪を思い切り引っ張った。
「いッ……」
途端にクーの口から小さな悲鳴が零れる。

(*゚ー゚)「かわいいねぇ」

川 ゚ -゚)「やめてくれ……痛い」

その言葉を契機に、少女達もクーの髪を引っ張る。
襲い掛かる痛苦にクーの表情は歪むが、やはり一般と比べて反応は薄い方で、それが暴力を増長させる。

ζ( ー *ζ「………」

教室内には、クラスメイトがぞくぞく入り込んで来ている。
だのに、全員がクーを助けようとしないことにデレは憤りを覚えた。
動こうとしない、自分自身にも。

 

15 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:44:11.83 ID: rd3nStmX0
饗宴は、ハインリッヒの「そんな陰気組に構うより、俺の新作見てくれよ」という一言でたやすく終演した。

周囲から途端に人が消え、ぽつねんと座るクーの姿が浮き彫りになる。
整えられていた黒髪は、寝起きのように乱れてい、クーは無言で直す。

それから立ち上がると、デレの腕を掴んで教室を抜けた。
引き戸をひく直前、クーはしぃのグループの方を睨んだ。
だが、ハインリッヒの新作の手品に夢中で、教室から出ようとするクー達のことなど一切目にくれない。

廊下を無言で歩いた。
デレは心底狼狽していた。
クーが自分の腕を掴んで教室から飛び出すことに驚き、先程までの苛めに複雑な思いを抱いていた。

階段を上がり、移動教室の並ぶ廊下に向かう。
朝のHRも始まっていない現在では、そこは森閑という表現が見事に合っていた。

それでも無言は貫かれていた。
壁にもたれて座り込んで、一服の仕草をしたところで、クーはようやく、

川 ゚ -゚)「はぁ……つかれた」

と苦々しげに溢し、沈黙を破った。

 

16 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:47:35.31 ID: rd3nStmX0
ζ(゚ー゚*ζ「うん……」

川 ゚ -゚)「やれやれだよ」

ふたたび煙草を吸う真似をしてみせる。
熱のこもった吐息は本当に紫煙のようだと、デレはぼんやりと考えながら、笑顔で諭すようにして、

ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃんまだ未成年だよ」

川 ゚ -゚)「いいんだいいんだ。煙草も酒も、精神年齢で決められてるんだ」

冗談めかして言うと、クーは煙を燻らせるジェスチャーをする。
その身振りを見て、デレは軽く、

ζ(゚ー゚*ζ「ほんとヤンキーだね」

川 ゚ -゚)「なに、アイツラと比べたら聖人君子もいいとこさ」

クーは低く呟くと、デレを見上げながら、

川 ゚ -゚)「君に比べたらスッポンもいいとこだけどね」

 

17 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:51:38.37 ID: rd3nStmX0
ζ(゚ー゚*ζ「え?」

川 ゚ -゚)「ん……いや、別に」

言いさしてクーは立ち上がると、背中を払いながら、

川 ゚ -゚)「そろそろHRが始まる頃かな」

ζ(゚ー゚*ζ「そうだね、先生もグラジオラス見て驚くかな??」

デレのその無邪気な言葉に、クーは急に儚げな顔になった。
あまりにも唐突なので、デレは静かに驚いた。

川 ゚ -゚)「しまった……花……」

視線をリノリウムの床に落として、切れ切れに呟いた。

ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの?」

 

19 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:55:29.55 ID: rd3nStmX0
川 ゚ -゚)「……あのグラシオラス、私たちのどちらかが持ってきたってこと……
     ……あの連中なら、察してる、よな……」

確かに、グラジオラスが教室に活けられたのは今日の出来事で、
しぃ達より先に来たのはこの二人の少女である。
その上、しぃが引き戸を開いた時に、デレが教壇の上に居たことから云って
くだんの少女グループに、そのことを勘付かれていると考えるべきなのは当然のことだろう。

「その先」……クーの考えていることを察知したデレは、やや戸惑いつつ、

ζ(゚ー゚*ζ「でも、、、あの娘たちだって、そんなヒドいことは……」

川 ゚ -゚)「………。どうだろ」

沈黙に再び覆われた。
息苦しい中、ふたりは予鈴が鳴る前に教室へ戻った。
異様に騒々しい、女の会話で埋め尽くされた廊下を渡るだけで、不安は駆り立てられていく。

教室の扉の前に立ったクーは、はやる気持ちを抑えて引戸に手を向けた。

 

20 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/03(木) 23:58:34.90 ID: rd3nStmX0
戸を引いた。
既に担任は来ており、HRがいま開始されようとしていた。

二人は教室に入るも、ほかの教室の人間は皆、一つの話題に夢中で気付きもしなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「ッ……!」

その話題――光景を見た瞬間、デレは腰の抜ける思いになった。

そんな、そんな、そんな――ひどい。ひどすぎる。

どうして……?

 

「まったく、誰ですかぁ? 花の取れたグラジオラスなんて……」

けだるい教師の声が、鈍痛のように響く。
花の落ちたグラジオラス――その異常、真相を知るのは、教室でもごく僅かだった上、
誰もが公言しなかったので、教師は単なる悪戯にも捉えていなかった。

 

 

22 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/04(金) 00:05:32.21 ID: H4w9shs60
・・ ・・・

グラジオラスへの仕打ちや、朝のクー弄りに満足したのか、
あるいはハインリッヒの新作の手品に夢中になったのか、それは定かではないにしろ、
その日中、しぃ達がデレとクーにちょっかいを掛けることは無かった。

お陰で平穏に授業を受けれたものの、やはりデレには納得がいかない。
どうしてしぃ達は、グラジオラスを無残にひき千切るような真似をしでかしたのか。
その真意を問い質したかったが、証拠が無い上に、恐怖もある以上、何も言えず、どうしようもなかった。

クーと交換日記のことを話しているときにも、胸のうちにシコリは残った。
ハインの、トランプの絵柄を全て当てて見せるというマジックを遠目で
見ているときでも、言い知れぬ不快感を催した。

下校中の、クーとの帰りの際にも、心の底の怒りは煮えていたままだった。
朝からズット、くつくつと音をたてながら。

クーも同様らしく、目つきが普段とかけ離れた鋭さを湛えている。

               

 

23 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/04(金) 00:09:39.42 ID: H4w9shs60
梅雨にしては珍しい快晴だった。
雲度は2を切っているし、乾いた風は二人の身にも久しい。

それでも、少女達の気持ちは理不尽な霧に覆われていた。
むしろ、太陽の眩しさを疎むほどで、デレに至っては雨のがマシだ、と考えていた。

この状態では、交換日記の出だしの一文を書くことすら侭ならないだろう。

連れ添っているクーに声を掛けようにも、舌が回らず、一言も発せずに口は閉じる。
歩き、歩き、歩きながら、舗道に転がる小石を蹴りながら、デレは悶々としていた。

そろそろ商店街へ差し掛かろうとした辺りだった。
突然、クーが口を開いた。

川 ゚ -゚)「……日記」

ζ(゚ー゚*ζ「え?」

川 ゚ -゚)「あんなことがあっても、ちゃんとやろう……ね」

 

24 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/04(金) 00:12:51.01 ID: H4w9shs60
交換日記のことを指していると悟ったデレは、急いで肯定し、

ζ(゚ー゚*ζ「もちろんだよ! もう張り切ってるもん!」

と言うと、クーはしばらく黙りこくっていたが、やがて視線を穏やかにし、

川 ゚ -゚)「ありがとう。いや……変なこと言ってごめん……」

ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃん……」

川 ゚ -゚)「……あいつら……」

目を閉じて呟くその姿は、庇護を求めているように思えたので、デレは励まそうと冗談めかして、

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫だよ! 交換日記やって元気になろうよ」

川 ゚ -゚)「……ありがt……ッ!?」

クーは突然、顔を強張らせ、商店街の方へ咄嗟に振りむいた。

駆け足の気配がした。

ζ(゚ー゚*ζ「えッ……?」

 


27 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 訂正 投稿日: 2008/04/04(金) 00:18:55.62 ID: H4w9shs60
つられて視線を商店街の方に移したデレは、迫り来る何者かの存在に気づき、目を見開いた。
迫り来る何者かが陽光を遮って、視界が影に染まる。

避ける間もなく、止める間もなく、

ζ(>- <*ζ「キャッ!」
(,,゚Д゚)「うお!」

迫り来る何者か――高校生ほどの男と衝突し、デレは派手に転んでしまった。
慌ててクーが駆け寄り、横向けになったデレの傷の有無を確かめた。
衝突した男は肩膝立てて、呻いている。

川 ゚ -゚)「大丈夫か」

素早くデレを労わると、気色ばんだ目つきになって男を睨んだ。

川 ゚ -゚)「危ないじゃないか」

(,,゚Д゚)「あ……いや、マジすまんす!」

男は無骨な雰囲気とは裏腹に、早々に謝罪をした。

 

28 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/04(金) 00:23:20.11 ID: H4w9shs60
男は学生らしく、学ランをだらしなく着こなし、潰れた革鞄を手にしている。
ドクロのピアスや逆十字架のネックレスは、アンチテーゼな自己主張をしてい、
尚更クーの警戒を強めた。

男――ギコと名乗る高校一年生は、急いでいたため周りを見ずに走っていたと
重ねて謝罪をし、クーを宥めようとしているのだが、当の彼女は中々打ち解ける様子ではない。

川 ゚ -゚)「………」

(,,゚Д゚)「もうホントに、マジですみません!」

 

埒のあかないと思われた矢先、

ζ(゚ー゚*ζ「いえ、構いませんよ」

立ち上がって尻を払いながら、デレは場を収めようとした。
クーとギコの二人は不意打ちを食らった様子になったが、
デレは柔らかい口調で、

ζ(゚ー゚*ζ「それより、急いでるんでしたら、早めになさった方が……」

 

31 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/04(金) 00:28:29.80 ID: H4w9shs60
たちまち、場の空気が変化した。
ギコは「あ……」と声を上げると、慌ただしくなって、

(,,゚Д゚)「そうッスね……いや、ほんとありがとう!」

と切り口上めいて言うと、ギコはデレに優しい視線を送ってからその場を後にした。
走り去っていく男の後姿と、どこか気の抜けた顔をしているデレを
クーは迭る見返すと、硬い表情のまま、

川 ゚ -゚)「大丈夫なの? デレ」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、平気だよ」

川 ゚ -゚)「ああいうのは危なっかしいな。引ったくりかと思ったぞ」

いまだに注意している様子で、しきりにデレの財布の位置を目視しようとしている。
スリの可能性も捨てきっていないらしい。

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫だよ、何も取られてないって」

川 ゚ -゚)「もっとよく確認した方がいいぞ。あとで泣き寝入りなんて嫌だろう」

 

33 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/04(金) 00:30:36.12 ID: H4w9shs60
ζ(゚ー゚*ζ「平気平気、ほら、チョーカーもちゃんとあるし」

そういって首元のチョーカーの鎖を摘み上げた。
昨日たしかにクーから貰ったその品は、今も輝いてい、クーは一先ず安心した様子になった。

クーは男の姿をもう一度見届けようとしたが、
既に視界には入らない程の距離を走っているらしく、影もみえない。

ζ(゚ー゚*ζ「それに、感じのいい人だったし」

川 ゚ -゚)「それはない」

一蹴すると、クーは落ち着き払って、

川 ゚ -゚)「もっと人をよく見た方がいいぞ。あんなパンク被れの男……どこが感じいいんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「ううーん、、、でも、爽やかだったじゃない」

川 ゚ -゚)「どうかな。人工的な感じだったぞ」

再び足を動かし始めた二人は、先程の不良じみた少年ギコについて、意見を述べ合っていた。

 

34 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/04/04(金) 00:33:53.33 ID: H4w9shs60
川 ゚ -゚)「おおかたピストルズだのに憧れてるバカヤロウだよ」

遠慮知らずに貶すクーを、デレは庇うようにして、

ζ(゚ー゚*ζ「でも、音楽好きならしょうがないよ」

川 ゚ -゚)「ふぅん……まぁ、でもあの男とはもう会わないだろうな」

珍しく外れたクーの予言が、かすかな微動を見せながら
二人は気分の晴れるまで雑談に興じた。

話は盛り上がり、交換日記の最初はクーが受け持つこととなった。

クーの日記の出だしは、「心母少女」とあった。
 

                         (剣百合 終)

 

 

 

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