3 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 22:49:10.04 ID: T2L0gbz30
13.「暗転」

一九九五年。八月十五日。この日のN市の空は、異常透明に
限りなく近づき、やはり突き抜けるような青色をしていた。

遠くの英国ではoasisとBlurがシングル同日発売による
威信をかけた争いをし、そのブリットポップ対決の余波が遠くの日本にも届いたのだろうか、

若者たちの行動ぶりも勢いをましてい、
たとえばデレとギコのカップルなどは、連日デートばかり繰り返していた。

(,,゚Д゚)「あーあ、あさって学校うぜーよ」

ζ(゚ー゚*ζ「って、登校日なの?」

(,,゚Д゚)「そうそう、制服とか埃まみれなんだけどw」

ζ(゚ー゚*ζ「洗濯、しといてあげたのに……」

 

4 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 22:51:07.61 ID: T2L0gbz30
ζ(゚ー゚*ζ「そういえば私のとこもそろそろ登校日だなぁ」

ぶっきらぼうな口調でつぶやくデレの肩に腕を回すと、
ギコはうそぶくように、

(,,゚Д゚)「そっちは女子高だからいいよな、こっちは工業高校だぜ?」

ζ(゚ー゚*ζ「えっそれがどうしたの?」

(,,゚Д゚)「あぁ〜、知らない? "工業病"ってのをさ」

ζ(゚ー゚*ζ「コーギョービョー?」

小首をかしげるデレに、ギコは得意の口調で、

(,,゚Д゚)「女子の少ない環境に生きてるとなぁ、そう大して
     可愛くもない娘がいいなって思っちゃったり、
     恋愛自体に興味をなくすって奴が出たりするんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「へぇ〜……」

男友達などほとんど居ないので、そういった話はデレにとって新鮮なものであった。

(,,゚Д゚)「それが続くとなぁ、人間社会を生きていけなっちまうんだよォ」

 

 

5 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 22:53:05.05 ID: T2L0gbz30
ζ(゚ー゚*ζ「にんげんしゃかい〜?」

たいそれた内容にふくらむその話を、デレは面白おかしく聞きこんだ。

(,,゚Д゚)「価値観がさ、ズレちまうんだって」

そこまで言うと、一息ついてから、

(,,゚Д゚)「だから対策しなくっちゃいけない」

ζ(゚ー゚*ζ「どんな?」

しかしギコは、返事をする代わりにデレを抱きしめた。
とまどう彼女に、男らしい欲望をたぎらせながら、

(,,゚Д゚)「はやいとこ、運命の相手を見つけること♪」

デレの部屋というのに、お構いなくギコは彼女を押し倒した。……

         

 

6 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 22:55:38.80 ID: T2L0gbz30
若々しい痴態は、白昼のためか、あるいはデレの自宅が
舞台だったためか、さすがに愛の営みにまでは及ばず、
衣服のままで戯れるだけにとどまったけれども、それにすら、
デレはいまだ幻想的な甘美で身悶えしてしまうのだった。

それは、自分がギコに自分を捧げているという
意識がつよく働いているためだろうか。

いずれにせよ、デレは、ギコに会うたび、交じわうたび、
己の情熱が信じられないほど燃え立つのを、驚きつつも自覚していた。

自分がどうにかなってしまいそう。

デレはしかし、その状態をこばまず、ひたすら受け入れ続けた。

炎が勢いたつのを、ただただ望んでいた。……

脊髄を駆け上るような快感は、そのとき、汗ばんだデレの身体に押し寄せた。

ζ( ー ;ζ「………!」

そのままベッドに横たわると、ギコが肌のはりを
味わうように肩をさすってきた。

 

 

8 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 22:58:56.25 ID: T2L0gbz30
(,,゚Д゚)「大丈夫か、なんかすんげー疲れてんぞ?」

ζ( ー ;ζ「……へいき、へぇき」

きっと目の前のこのひとは、自分がどれほど
この恋に魂を賭けているのか。知る由もないだろう。

デレは大きく息をつくと、身体を丸めながら、

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、ギコくんはs――」

(,;゚Д゚)「あ、やべ! もう四時!?」

しかしギコは勢いよく遮ると、余韻も捨て去って
立ち上がると、衣服を整えてから、

(,,゚Д゚)「悪ぃ、これから飲み会なんだわ!」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうなんだ」

 

9 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:00:14.50 ID: T2L0gbz30
不満を押し隠してデレは返答した。
ギコはドアのほうに近づくと、いっしゅん、そこで立ち止まった。
振り向いた。その顔は、怪訝な色をしていた。

(,,゚Д゚)「おれ、この家出れる?」

どうやら、デレの家族の誰とも会わずに
門まで到達できるか、ということを言いたいらしい。

ζ(゚ー゚*ζ「……だったら、、」

デレも立ち上がって、

ζ(゚ー゚*ζ「案内したげるよ」

 

 

10 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:01:58.95 ID: T2L0gbz30
幸いというべきか、内藤もペニサスも外出中だったので、
すんなりと門までギコを誘導させられた。

(,,゚Д゚)「いや、サンキュサンキュ。この家、でっかいからさぁ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうかなぁ」

ぼやくギコによわよわしく微笑むと、それとなく、

ζ(゚ー゚*ζ「つぎはいつ会えるの、かな」

(,,゚Д゚)「えぇ〜……あ、わっかんねぇ」

ねじった髪の毛の具合をたしかめながら、

(,,゚Д゚)「またこっちから連絡するわ、ギコハハハ」

ζ(゚ー゚*ζ「そっか」

デレの不満の一つがこれであった。
自分がつねに受け身に回らねばならない、というもどかしさこそ。

 

11 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:04:50.49 ID: T2L0gbz30
こざっぱりした別れをいいながら、ギコはさっそうと住宅街を後にした。

その後ろ姿を見送ると、デレは胸が疼いてしまう。
桜いろのガスが身体に蔓延したかのようで、息も自然と苦しくなった。

そのとき、内藤の車が走ってきたなり、家の目の前で停まった。

また車を買い替えて、こんどはミニの新作である。
デレの強い薦めで赤色のデザインを選択したのだが、
これがどうにも内藤に似合わず、滑稽だと周りのものから揶揄されていた。
デレとしても、ペニサスの指差した青色のほうがよかったかも、と後悔しているほどである。

しかし当の本人は気にもしていないのか、

( ^ω^)「デレ、こんにちわだお! ただいまだお!」

と、上機嫌であった。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、父さんおかえりー」

車庫いれすると、内藤は玄関先で娘に迎えられた。

 

12 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:07:26.22 ID: T2L0gbz30
( *^ω^)「いやーデレ、ミニは最高だお。ゴーカートみたいだお」

ζ(゚ー゚*ζ「あれ、可愛いもんね」

と賛同したが、「でも、お父さんにはぜんぜん似合わないね」と付け加えた。

( ^ω^)「なにいってんだお! 毒舌だお。にしても、デレはさいきんホントかわったお」

ふいに、内藤は話題をかえた。

ζ(゚ー゚*ζ「そう?」

うすうす自覚しているけれども、やはり人から言われると
気になってしまうものだ。尋ね返したデレに内藤はおうように頷いて、

( ^ω^)「あの彼氏の影響かお?」

ζ(゚ー゚;ζ「!!」

いきなり核心に触れた。

 

 

13 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:10:12.55 ID: T2L0gbz30
唐突でかたまったデレに、内藤は窺うような口調で、

( ^ω^)「さっきみえた、あの男のこがそうなんだお?」

ζ(゚ー゚;ζ「え、あぁの……その……」

(;^ω^)「………お」

内藤も腕をくむと、そのまま黙ってしまった。

じっさい娘の色恋沙汰に首を突っ込んだのは生まれて
初めてで、この先の対応など見当もつかないが、
できれば娘の幸せになってほしいという心もちは確かであった。

しかし、さきほど見かけた男が娘を幸せにしてくれるのか。

容貌だけみれば眉唾の話だが、娘が本気でその男を
愛しているのなら、結婚するわけでもないし、許してやれそうな気もする。

けれども、このごろの治安の悪さなどを考えると、
やすやす娘の幸せなどといって認めるのは憚れる。

(;^ω^)「(このコは優しいお……もしかしたら、無理してるのかもしれないお……)」

 

15 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:12:56.83 ID: T2L0gbz30
ζ(゚ー゚;ζ「………」

いまにも倒れてしまいそうな顔色で黙っている娘に、

(;^ω^)「デレ」

内藤はいたわるようにして、

(;^ω^)「ぼくもそんな頑固親父になりたいわけじゃないし、
       うるさいことは、全然言うつもりないお」

ζ(゚ー゚;ζ「ウン……」

(;^ω^)「だけどもう一度、考えてみてお。ほんとうにそれでいいのか。
       無理をしていないか、自分に正直か、もう一度だけ……お」

ζ(゚ー゚;ζ「……はい」

話はそこでお流れとなった。

自室にもどったデレは、布団に顔をうずめるとベッドの上で
足をバタつかせながら、

ζ(゚ー゚;ζ「あー、もう……」

小さく不満を唸るようにつぶやいた。

 

16 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:15:24.60 ID: T2L0gbz30
父の言い分もわかる。
だけど、どこか苛立ったのも事実だった。

もちろん、そんな感情はおくびにも出さないが、
言葉の端からうかがえる、ギコにたいする不信感、

それと父親としての尊大ぎみな部分……それらは
デレの心にひっかかってしようがなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「………」

日増しに熱をあげるギコへの愛は、すでに
結婚やら、老後などという妄想にすら達した。

彼自身はそんなこと、考えもしていないだろうが、
妄想は膨らんでやまない。

彼のことを考えるだけで、不仲のペニサスや、
学校の諍い、クーの不気味な行動も、すべて忘れてしまえる。

そして、なにより幸せ。……
              

 


19 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:19:39.22 ID: T2L0gbz30
一九九五年。八月二十日。立秋とは名のみで残暑きびしいこのごろ。

oasisとBlurのシングル対決も、一応Blur「Country House」の勝利で
幕を閉じたが、裏ではいろいろ手落ちな部分もあったらしく、
のちになっても、その対決に異論を挟む者は後を絶たない。

ともあれ、ブリットポップの狂熱も一九九五年のこの頃では、まだ衰えない。……

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、いってきまーす」

久々の学生カバンと制服は、どこか気恥ずかしいが、反面すがすがしくもあった。
夏雲の下で歩いていても、暑さは気にせずにいられた。

この日は登校日で、デレにとって級友としばらくぶりに会うが、
どうにも気分が優れないのは、やはり自分のクラス・カーストを強く意識しているためらしい。

教室の引戸の前にたつと、鼓動が高鳴った。
自分がなにか期待しているのだろうか、と戸惑うほどだ。

ζ(゚ー゚*ζ「なに考えてんだろ……」

ぼそっと呟くと、無気力に戸をひいた。

華やかな話声と化粧、そしてほのかに漂う汗臭さ、
懐かしいものだった。

 

20 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:21:55.53 ID: T2L0gbz30
川 ゚ -゚)「やあデレ……お久しぶり」

すぐさまクーが近寄ると、デレに挨拶してきた。
いきなり接吻をまじわせた、そんな奇妙な素振りは、いまではまったく感じ取れない。
デレとしても、あの話題には触れたくないので、当たり前のように振舞うことにした。

連日の猛暑と陽光というのに、クーの肌は清らかな雪いろをしている。
日焼けしない体質なのか、入念なケアを怠らなかったのかは定かではないにしろ、
あいかわらずデレのこころを引きつけてやまない。

ζ(゚ー゚*ζ「元気だった??」

川 ゚ -゚)「そうでもなかったな」

しょうじきに心情をかたるクーを、なつかしいと思いながら、

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、きょう元気になろーね」

川 ゚ -゚)「……。……そうだな」

そのとき、デレは不思議な感覚にとらわれた。

どこかしら教室の空気が異様であるのだ。

 

21 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:24:23.31 ID: T2L0gbz30
しかし、どこがおかしいのかと言われると閉口してしまう。
たまに感じる尖った視線は、何ゆえだろうか。

ζ(゚ー゚*ζ「………」

嫌な予感が駆けた。
教室内の、いつもと違う、粘る気配はときおりあからさまに牙を向く。

川 ゚ -゚)「どうした」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、、、いや、なんでもないよ? ン?」

湖底を思わせるクーの瞳に見すえられると、
それ以外に物事をかんがえられなくなってしまう。

その間隙をつかれて、悪意が自分の身体を
刺していくようでデレは気が気でなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「ただ、霊感的にヤバいかなぁって」

おどけて言うと、クーはくったくない笑顔になって、

川 ゚ー゚)「おい、それは私の十八番じゃないか」

ζ(゚ー゚*ζ「あはは、ホラーマニア怒らしちゃったよ」

 

22 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:26:23.26 ID: T2L0gbz30
・・ ・・・

しかし、予想とは裏腹にHRは滞りなく進行していった。

担任のたいくつな夏休みの思い出を語るときも、
ひととおりの宿題を提出するときも、たいした出来事はおこらず、
ダウナーな雰囲気に徹していた。

ζ(゚ー゚*ζ「ほんとメンドくさいね……」

川 ゚ -゚)「こんなつまらん日なら来るんじゃなかったな」

退屈もすぎると、口々に不満を漏らしていった。

わざわざ登校日を設けた意味がわからない。

しかも、あと十日ほどで始業式を迎えるのだから、
なおさら異議を唱えたくなる。

ましてやデレとクーには、懐かしむクラスメイトなどほとんど居ない。

ギコを紹介したハインリッヒは相変わらずしぃのグループにい、
デレに声をかける気配はまったく感じられない。

 

23 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:29:29.01 ID: T2L0gbz30
そして。
あっさり時間は過ぎ、下校する段取りになった。
不完全燃焼しつづけたような授業だったが、
さすがにこのときになれば、開放感に充ちる。

とりとめもない会話が、教室内で繰り広げられた。

しかし、どこかしら異様なのは、
担任が教室から去ったこのときですら騒がしいことであった。

いくらか帰ったとはいえ、まだ大多数が、
まるで何かを待ち侘びるように喋り続けているのは、いっしゅ恐怖でもある。

ζ(゚ー゚*ζ「………?」

デレは辺りを見回した。
なんら不思議なところは見当たらないけれど、そうせずにはいられない。

粟立つ寸前のそのとき、

(*゚ー゚)「――ねぇ」

しぃに、肩を叩かれた。

 

25 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:31:19.41 ID: T2L0gbz30
ζ(゚ー゚*ζ「エッ……な、、、なに……かな??」

身体がこわばるのを感じる。
邪険に振り払いたいが、やはり上擦った声で対応してしまう。

グラジオラスをおもしろ半分に千切ったり、
自分やクーをからかい続けた、この「女王」は、
やはり陰険な微笑をうかべてデレを見据えていた。

デレはとっさに周囲に警戒をくばった。

クーが察したように、腰を浮かせて立ち上がりかけている。
しぃ達のグループの面子は、女王に負けず劣らずの下品な笑いをしていた。
そのなかで、ハインリッヒだけは複雑そうな顔でことの成り行きを見守っていた。

その中のひとりが、憤怒にちかい顔でこちらを眺めている。
渡辺という、普段は温厚な娘で、いつもならしぃたちとは会話もしないはずだった。

从 ー 从「………」

ζ(゚ー゚;ζ「ッ……?」

 

26 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:34:06.79 ID: T2L0gbz30
しぃは、そのとき、スっと身をひいて二人の少女から隔てりをなくした。
渡辺からデレへの直線上には、椅子の一つすら置かれていない。

その道筋を、渡辺はいきなり駆けた。
なまめかしい美脚もあらわに、身体ぜんたいを力ませながら、

ζ(゚ー゚;ζ「あの――」

よけるべきか否か。デレは驚愕と選択とでかたまった。
そうマゴついているところへ、渡辺の平手打ちが、
たちまちデレの片頬へ繰り出された。

「え――」と、ただぼんやりとしか反応できなかった。
威勢のよい、乾いたその音はワンテンポ遅れて聞こえたような気がする。

はたかれた頬が、すぐさまジィンと痺れた。
仄かに熱をおびたその部分は、きれいな薄紅のいろをしていることだろう。
「え――」と、ただ、ぼんやりとしか反応できなかった。

从 ー 从「泥棒猫……」

渡辺の擦れがかった呟きに、デレはもう、

ζ(゚ー゚;ζ「えっ……えっ……」

言葉のひとつもいえないでいた。

 

27 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:36:12.46 ID: T2L0gbz30
从 ー 从「……この売女……!」

デレには意味がわからない。
いきなりの暴力は、この時点でも非現実的に感じられる。

視界の隅で、クーが駆け寄るのがわかった。

自分が加害者なのか、被害者なのか。
おそらくどちらもなのだろうが。
どうしてだろう。

売女という単語を耳にした瞬間、命が削り取られる思いがした。

 

从#'ー'从「この売女ァッ!!!」

 

 

28 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:38:01.99 ID: T2L0gbz30
渡辺は一歩ふみこんだかと思うと、おもむろにデレの胸倉をつかんだ。
そのまま押し倒される。
デレはわずかな抵抗で両手を前に突き出したが、無為におわった。

待ち構えていたように喚声が飛んだ。
傍の椅子は派手な音をたてて倒れ、どうじにデレの背中が
床につよく打ち付けられた。

ζ(゚ー゚;ζ「いt――」
川 ゚ -゚)「デレ!」

クーが騒動に割り込み、さらに教室は騒然となった。

从#;ー;从「バカ! バカ! バカ! 死ね! 死ねよ!」

一心不乱に罵声を浴びせながら、渡辺は手当たり次第に殴りかかった。

川;゚ -゚)「おい!」

デレを庇うさいに、顔へ数発くらったらしく、クーの顔にははやくも痣ができていた。
唇から鮮血がしたたり、またいっそう艶気が増したが、

それでも喚声と嘲笑は、激しくなるばかりであった。
                     

 

29 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:39:41.26 ID: T2L0gbz30
ζ( ー ;ζ「……なんなの」

視界が秩序をなくしてから随分たったが、泥沼は悪化する一方だった。
しりもちをついたあたりで、デレは泣き出しそうになった。

しかし、壁のほうで愉快そうに腹をかかえるしぃを見つけると、
たちまち憤りがわきあがってきた。

唐突すぎるもつれ合い。
ただし、その理由をこたえたのは、しぃではなく、

从#;ー;从「ギコ君を返せ! 返せよォ!!」

もうひとりの被害者であった。

ζ(゚ー゚ ζ「なにそれッ!?」

昂ってかえすと、また一段としぃたちの嘲弄がひどくなる。

そんなものに今更かまっている余裕はデレにはない、
うわずった調子の声のままで、

ζ(゚ー゚ ζ「ギコ君が!? なんなのよッ!?」

从#;ー;从「うるさいバカァ!! かえせ!」

 

30 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:42:12.81 ID: T2L0gbz30
川;゚ -゚)「―――!」

クーは、ことの真相に思い当たると、確認するように
しぃたちの方へ振り返った。

愉快愉快と顔を歪ませる、穢れた少女達。

怒りと同時に、死にたい衝動に駆られた。

从#;ー;从「お前がギコ君を誑かしたんでしょ!? 死ね!」

なおも罵声と暴力を与えようとする渡辺に、とうとうデレも我慢ならなくなって、

ζ(゚ー゚#ζ「誑かしたってなによ!! ワケわかんないこと言わないで!」

从#;ー;从「バカ! バカ! うそつくなよ!!」

まったく埒が明かず、事態はこのまま悪化するだろうと思われた矢先、

川#゚ -゚)「しぃ!!」

クーが、ついに"真犯人"に向かって怒鳴った。

 

31 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:45:29.97 ID: T2L0gbz30
川#゚ -゚)「どういうことだ。説明しろ!」

(*゚ー゚)「えぇ〜……w どうしよっかなぁ……w」

いやらしく身体をくねらせながら、気味悪いほど落ち着いた声でいうと、

(*゚ー゚)「だってねぇ……カワイソウじゃない」

川#゚ -゚)「なにがだ」

いままでの恨みも燃え盛っているのか、ひどく強張った声でクーは遮って、

川#゚ -゚)「どうせお前らの仕業なんだろ」

(*゚ー゚)「へぇ? 憶測でものを言わないでよねぇ?」

川#゚ -゚)「ッ……!」

その態度をみれば、渡辺とデレをけしかけた
黒幕ということはたやすく検討がつく。

 

32 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:47:55.85 ID: T2L0gbz30
しぃが挑発するように口をすぼめたそのとき、
デレと渡辺はついに取っ組み合いをはじめた。

川;゚ -゚)「しまっ……」

あわててクーもそれをとめに入る。
その争いはすぐさま収まったが、空気を昂らせるには充分であった。

川;゚ -゚)「(教師はなにをやっているんだ……)」

すでに、他の教室の生徒も見学しに廊下に集結している。
この騒ぎはどうにもおさまらない。

从#;ー;从「バカ……ばかぁ……」

渡辺もさすがに疲労してきたらしい、機械的に「バカ」を口に
しながら、息切れを起こしている。

从#;ー;从「死ね……死ねばいいんだ」

ζ(;ー;#ζ「ッ……!」

 

33 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:50:08.79 ID: T2L0gbz30
デレの怒り、涙など、普段の彼女の立ち振る舞いからいって
そうそう見られるものではない。ますます好奇の目に晒されていった。

囃し立てるようなクラスメイトの姿を、しかしデレは
気にする様子もなく、ただじりじりと渡辺を見つめていた。

緊迫した空気と、祭りあげる空気とが同時に流れた。

しばらく経ったそのとき、しぃはついにカン高い声で笑い転げた。
視線を一気にひきつけて、たちまち中心人物として
クローズアップされたとしても、なお笑い続ける。

(*;ー;)「アハハハ! アハハハ……」

ついに笑い泣きすらする始末であった。
そのお仲間たちも、つられて意地悪く顔を歪めだした。

現場の人間は、このとき、困惑に包まれた者と真相を知る者とに隔てられた。

    

 

34 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:54:17.04 ID: T2L0gbz30
だます者と、騙される者との「ワトスン探し」。
そんな言葉を、クーは頭の隅に思い浮かべてから、睨みつけて、

川 ゚ -゚)「……そういうことかい」

(*;ー;)「まあ、ねw だってさ、でも、しょうがないよねぇ?」

"女王"は取り巻きに言葉をふった。
お仲間らも、薄ら笑いながらコクコクと頷く。

この状況では、さすがのデレや渡辺も黙って状況を見守るほかはなかった。

涙を指でかるく拭いながら、

(*゚ー゚)「しょうがないよねぇ? だって、だって、陰キャラだもんねぇ」

「陰キャラ」という単語で、取り巻きは一斉に吹き出した。

場は一気に収束するばかりか、あらぬ展開に持ち込まれてしまった。

 

 

35 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:56:40.13 ID: T2L0gbz30
「アッ来たよ、ほら、校門で待ってるじゃないの、ホラ」

取り巻きの一人が、いきなり素っ頓狂な声をあげながら窓辺で騒いだ。
他の面子に手招きしつつ、それでも目線は窓の外を向いている。

(*゚ー゚)「なんだ、やっと来たの?」

冷淡なしぃの声が突き刺さっても、なお
"校門の出来事"はセンセーショナルな話題となっていった。

クーは、いますぐ窓からその光景を眺めたい衝動にかられた。
けれども、その好意にはしたなさを覚えてしまうばかりか、
敗北感すら味わってしまいそうだった。

じりじりするクーを横目に、しぃはデレの方をむいて、

(*゚ー゚)「気になるなら、覗いてみるといいんじゃない?」

ζ(;ー; ζ「………」

それでもその場を離れないデレだったが、しかし渡辺は
脇目もふらず窓のほうへ走り寄ると、息を切らしながら外を眺め回した。
頬も額もガラスに押し付けて、眼をぎょろぎょろ動かすサマは、さすがの取り巻きも狼狽させられた。

 

36 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/20(金) 23:59:57.07 ID: T2L0gbz30
二拍ほどたつと、いきなり渡辺は硬直した。
空気が凍りついたように思われた。
そんな中、デレもそろそろと窓際に近づく。

渡辺のかすかな吐息はガラスを濡らしていき、次第々々に強くなっていくと、
やがて喘ぐような調子になって、

从 ー 从「どう……して……」

と、短く呟いた。

川 ゚ -゚)「……デレ……」

見ないほうがいい。
そう言ってやりたいが、言葉がどうしても続かない。

ζ(;ー; ζ「………」

目元をぬぐうのも忘れて、デレはさらに窓へ詰め寄った。
陽光がいきなり顔にあてられ、視界がうっすら遠のくが、
雲の少ない青空だけは見て取れる。

校門はまだみえない。

 

37 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:02:49.66 ID: BQF9uppM0
从#;ー;从「どぉしてよぉお!!!」

いきなり、咆哮のような叫びが飛んだ。
昂った渡辺は、窓ガラスをがむしゃらに叩き続けながら、おなじ言葉を繰り返しつづけ、

从#;ー;从「どおして! どおしてっどおして!」

デレも、その勢いに驚きつつ、気持ちを抑えてそぉっと地上の光景を見下ろした。

校門に、一人の男が壁に寄り掛かっているのを発見した。
男とは紛れもなくギコ、デレの愛する人そのものであった。

だがしかし、そのギコの隣には、一人の娘がはにかんで横に並んでいた。
しっかりと肩を寄せ合い、なにか小声で話しているその光景に、
デレは言葉を失くした。なにもかも、悟ってしまった。

ζ(;ー; ζ「あ……あっ……」

やがて帰る段取りがついたらしく、足を動かし始めたが、
一心不乱にガラスを叩き散らす渡辺の姿に気付いたのか、ギコは背を向ける直前で振り返った。

口は閉じたままだし、それらしい身振りもないが、言いたいことは
イヤというほど伝わってきた。彼の表情は、なによりも雄弁であった。

(,,゚Д゚)『さよなら。今までアリガトサン』
                      

 

39 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:07:20.13 ID: BQF9uppM0
放心するデレと、狂乱に陥る渡辺へ、うしろからけたたましい嘲笑が沸いた。

(*゚ー゚)「知らなくって当然かな? 陰キャラだもんね?」

言葉のひとつひとつに勝ち誇ったような含みを持たせ、なおも、

(*゚ー゚)「かれ……ギコ君がさ、有名な女タラシってことをさぁ」

从#;ー;从「いやだ!!」

ピントのずれた言葉でさえぎる渡辺に、しぃは哀れみの目で、

(*゚ー゚)「ほんとだもん。しょうがないよね。……まあ、ほんと、見境ないって感じだし……」

从#;ー;从「いやだ……いやだよぉ……やだぁ…………あ……」

ついに渡辺は泣き崩れた。
身体の至る部分が赤く腫れたり、傷がついたりと、
普段の可憐な容姿とは程遠くなってしまっている。

しぃはそれでも追い討ちをかけるように、

(*゚ー゚)「いやもうほんと、見境ないんだから。
     今度カレの手帳を盗み見てごらん? 女の情報がタンマリなんだから。そう、今度、ね」

从#つー;从「ぅうっ……あ……だぁ……もう、、ぁ……ぅ……」

                     

 

41 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:11:05.99 ID: BQF9uppM0
ひくひく痙攣し、うつ伏せで涙を流し続けるその姿に、しぃ達は
勝利の愉悦をかんじて止まないらしく、
アイシャドーの帯びた目元をいつまでもゆがめ続ける。

教室に残る少女たちが、一人の少女を苦笑いしながら見下ろすという図は、
関係者でなくともおぞましいと感じるにちがいない。
ひとしきり楽しみを味わうと、しぃはデレへ矛先を向けた。

(*゚ー゚)「ですって、デレちゃん。ねぇ、どう思う?」

ζ( ー ζ「どう……思うって……」

口車にのせられるデレへ、たまらずクーが、

川 ゚ -゚)「ねぇ、デレ。もうやめよう! さっさとさ、帰ろっか、、、」

しかし俯いたままで歩こうとしないデレを、クーは無理に引っ張ると、

川 ゚ -゚)「おい、しぃ」

低く唸るようにいった。

(*゚ー゚)「エッ、なぁに?」

いっけん慈悲深くみえるような笑みをしながら、余裕のある返答をするしぃへ、

川 ゚ -゚)「覚えとけよ。今日のことを」

 

42 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:12:59.92 ID: BQF9uppM0
無表情のまま冷たく言い放つと、クーはデレの肩を抱いて、

川 ゚ -゚)「帰ろう」

(*゚ー゚)「………」

ときおりデレの肩をやさしく擦りながら、クーはゆっくり引戸のほうへ導いていった。

こうして場は冷め切った。
失神したように動かない渡辺を尻目に、不満を残しながらクーを睨みつける。

やっぱりレズだから……、ほんと空気読めない……、狂ってるよね……、
なに考えてんの……、バカじゃないの……、おかしいよ……、、、

そうした詰りを背に受け止め、なお歩み続けるクーに、

(*゚ー゚)「……ねぇ!」

いきなりしぃが笑いもせず尋ねた。

川 ゚ -゚)「…なんだ」

 

43 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:15:10.68 ID: BQF9uppM0
振りかえもせず無愛想にいうクーへ

(*゚ー゚)「どうかしてるんじゃないの……自分がやられてるときは、何も言わなかったくせに……」

若干こえが震えているしぃに、クーは、忌々しげに向き直りながら、

川 ゚ -゚)「だからどうしたんだ? そんなの関係ないだろが」

女とは思えぬ低音で喋ると、無造作に戸を引いて、「それより」と付け加え、

川 ゚ -゚)「いいか、覚えとけよ……万が一、デレに何かあったら……」

ζ( ー ζ「………」

(*゚ー゚)「………」

そして、去り際に、

川 ゚ -゚)「殺してやるよお前ら。。。」

・・ ・・・

    

 

44 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:17:23.53 ID: BQF9uppM0

川 ゚ -゚)「……大丈夫だから、うん」

クーはデレを連れたまま廊下を渡り終え、玄関口まで到着した。
もうすでに他の生徒は出払っているので、手間はそこまでではない。
やさしくそう耳元に囁きかけると、デレの靴を手にとって、

川 ゚ -゚)「脱げる……?」

ζ( ー ζ「……うん」

もぞもぞと上履きをぬいで、クーに渡された靴をはくと、デレは肩を震わせて、

ζ( ー ζ「ごめんね……」

川 ゚ -゚)「………」

川 ゚ -゚)「何がだよ……」

   

 

46 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:19:55.30 ID: BQF9uppM0
ζ( ー ζ「だって……、だって………」

川 ゚ -゚)「いいよ、行こう、もう……」

ふたたび、デレのふるえる肩に手を添えて、クーはゆるやかに校庭へ向かった。

うす暗い玄関から校庭へ差し掛かると、いきなり視界が白く歪んだ。
明順応らしい。いくらか経つとましになってきたが、今度は暑苦しさが襲ってくる。

校庭は嫌味なほどに日当たりがよく、歩くだけで汗がたしかに滲んだ。
ましてやデレを支えるように足を動かしているので、なおさら疲れが溜まりやすい。

川 ゚ -゚)「なあ、デレ……このまま家まで送ってあげる、よ」

ζ( ー ζ「……ありがとぅ」

か細い身体を強張らせながら、コクコクと小さく頷いた。
しかし、その途中でやおら硬直してしまった。

川 ゚ -゚)「どうした」

熱っぽくデレの横顔をみつめていたが、
異変に気がついて、デレの目線の先に顔を向けてみる。

 

47 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:22:41.46 ID: BQF9uppM0
一見、なんの変哲もない場所だった。
陽だまりにけむった校門に、それらしい異変は感じられない。

クーはしかし、瞬時に悟った。
デレが絶望した理由を考えれば、自ずとわかってしまう。

ギコが、別の女と待ち合わせをしていた、その場所……。

川 ゚ -゚)「(デレ……)」

顔を戻すと、デレの表情に目がいった。

彼女は俯いたまま涙を流していた。
思いの篭った雫が、足元の砂場になんども滴った。

デレは動こうとはしなかった。
校門を通り過ぎることなど、この様子では一生できないのではないか。

しかし、それよりもクーの気掛かりとなったのは、
背中に感じる、突き刺さるような視線であった。
とうぜんデレも、いやというほど痛感しているに違いない。

教室にいるしぃ達からの蔑む目線、他の教室からの、好奇の瞳。

 

49 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:26:50.30 ID: BQF9uppM0
川 ゚ -゚)「………」

それでも、クーは開き直ったのか、
もう背後の気配など意識から捨て去って、献身的にデレだけを見やった。

デレはいまだ小刻みに震え続けていた。

いまのデレの心に、どうすれば安らぎを与えられるのだろう。
クーはしばし考えたが、いっこうに案は浮かばない。

すくなくとも、この場にいるだけで彼女を傷つけさせているのは間違いない。

今こうして立ち尽くしているが、どれほど苦痛か。

クーはむずかしい顔になると、太陽をにらみつけた。

 

50 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:28:50.48 ID: BQF9uppM0

……しかし、かといってデレをこの場からむりやり移動
させるのも、気が引けてしようがない。

デレはやはり、ギコのことを考えてるのか……。
クーは炎天下のなか、考えに耽った。

ギコのことをどれだけ愛しているのか、
どれほどみずからを捧げてきたのか。

その経緯をしっていただけに、心境は逆にはかりかねた。

彼女はいま、なにを望んでいるのだろう。。。

でも、とりあえず帰宅させてあげなくては。

 

クーが、とりあえず手を繋ごうと思い立った、そのときであった。

 

51 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:30:41.46 ID: BQF9uppM0

 

 

 ζ(;ー; ζ「もうイヤぁあぁああああぁああッ!!」

 

 

 

    

 

52 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:32:31.56 ID: BQF9uppM0
川;゚ -゚)「ッ?」

おもむろに思いを爆発させ、慟哭するデレに、クーもさすがに戸惑った。

一、二歩よろけるように歩くと、デレは手で顔を覆って涙を流しだした。

なお泣きじゃくるデレは、校舎からの視線など完全に忘れさったのか、
いっそう激しく声をあげて、苦しげに身体をよじらせた。

 

そうして嘔吐するかの如く、身体を大きく揺らすと、
いきなり、はじけるようにして、デレは外へと一目散に駆け出した。

川;゚ -゚)「デレ……」

川;゚ -゚)「デ、……デレッ……! まって……」

 

53 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:34:54.04 ID: BQF9uppM0
あわててクーも後を追った。
けれども、デレは意外にも素早い走りで、
何テンポも遅れたクーに中々追いつかせない。

往来を駆けた。
道ゆく人の下賤な瞳など、いまさらクーはためらわない。

脇目もふらず、髪も乱れさせて逃げ出すデレのほうが、遥かに重要なのだから。

やがて、ギコとはじめて会った商店街へ差し掛かった。

その付近にまでくると、ひとときを思い出したのか、すこしばかりデレは
立ち止まったが、すぐさま駆けてしまい、またもクーを引き離した。

 

55 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:36:35.73 ID: BQF9uppM0
川;゚ -゚)「まって、まってよ!」

道筋からいって、デレはまちがいなく自宅へ向かうつもりであり、
行き先さえ知っていれば多少は遅れても大丈夫そうなものだが、
しかし、クーはいまを逃すと永遠に離れ離れになってしまいそうな気持ちにかられていた。

デレが角を曲がるたびに、恐怖で目眩を起こしかける。
すこし近づけば疲れもたちまち吹き飛ぶが、
すこしでも離れれば身体がいきなり重くなる。

やがてデレは自宅へと駆け込んだ。
その頃にはだいぶ距離を詰めたので、クーもすぐさま家へ入り込む。

玄関を開けると、どたどたと慌しく階段をかけ上る音が耳に入ってきた。
靴を脱いでから慎重な様子で階段をのぼる。

だがしかし、デレの部屋の前でクーは立ち往生を余儀なくされた。

デレは、扉の鍵を閉めてしまったのだ。

 

57 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:39:08.08 ID: BQF9uppM0
息も切れ切れに、クーは目の前の扉を見つめた。
この扉こそが、いままでのどんな障害よりもはるかに手強いに違いない。

川;゚ -゚)「……はぁ……はぁ……」

無心でクーは扉を叩いた。
やさしくノックするつもりだったが、
りきみすぎたのか激しい音を立ててしまった。

その音の裏で、すすり泣くデレの声が感じ取れた。

クーは一旦うごきを止めると、囁くように、

川;゚ -゚)「デレ……大丈夫だから……デレ……だいじょうぶ」

しかし、

「………」

扉の向こうは、無言のままであった。

 

58 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:41:52.65 ID: BQF9uppM0
川;゚ -゚)「………」

力尽きたように、クーは扉に寄り掛かった。

段々と、扉と対面しているつもりが、後ろの方を向いてしまう。

やがて背中を扉につけたままで、崩れ落ちるように寄り掛かると、

川 ゚ -゚)「ねぇ……デレ、聞こえる? 寝てなんかいないよね?」

と、落ち着き払った声で尋ねた。

「………。……ウン…」

デレは、掠れた声でいうと、すこしばかり元気を取り戻したように、

「……寝てなんか、ないよ……」

川 ゚ -゚)「そう、よかった……」

天井を仰ぎ見ながら、クーは顔を歪めてこぼした。

 

59 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:43:39.86 ID: BQF9uppM0
・・ ・・・

「そう、よかった……」

扉の外から、呻きのような呟きが漏れた。

ζ(゚ー゚ζ「(クーちゃん……)」

真剣に自分のことを考えてくれているクーに、
デレは、ずっといいようもない感謝を覚えていた。

いますぐ、「ありがとう」と叫んで扉を開け、
クーと抱き合いたってみたい気がする。

しかし、自分にそれが許されないことは、とうに知っている。

たちまちデレの瞳は涙に覆われた。
視界がみずみずしく歪んだ。

どうクーに言葉を返せばいいのだろう。
そうまごついているうちに、クーは途切れ途切れに話し始めた。

 

61 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:46:24.76 ID: BQF9uppM0
「デレ……わたしはね、いつも味方だから」

ζ(゚ー゚ζ「(………)」

「だから、安心してよ。心細いのは、すごくわかるから……」

ζ( ー ζ「………」

「ねえ、デレ……この世の誰よりも、あなたを大切にし…てます」

ζ( ー ζ「ッ……!」

「おねがいだから、苦しまないで……。わたしまで、苦しい」

ζ(;ー; ζ「ぅ……」

「悲しい、です」

ζ(;ー; ζ「ぅっ……ぅ…う……」

デレは再び咽び泣いた。

 

62 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:48:35.38 ID: BQF9uppM0
・・ ・・・

川 ゚ -゚)「悲しい、です」

ところどころが、どうしてか敬語になってしまう。
クーはしかし、それを受け入れた。
己の懇願が無意識に現れるのは、むしろいじらしいと感じた。

川 ゚ -゚)「………」

沈黙がはじまった。
いっこうにラチが明かないが、クーはそれでも苦とは思わなかった。

天を見上げ続け、自分のうしろにいる
彼女を考えるだけで、いつまでもここに居れるだろう。

たとえ命が尽きようと、扉の前で彼女の番人としてありつづけたい。

そんな思いであった。

 

63 名前: ◆tOPTGOuTpU Mail: 投稿日: 2008/06/21(土) 00:50:46.17 ID: BQF9uppM0
「……クーちゃん……」

しばらくしてから、デレがやっとそういった。

川 ゚ -゚)「なんだい」

「ごめんね……」

それだけ言い終えると、デレはまたも口を噤んでしまった。
嗚咽こそ漏らしていないが、なにやら感情で溢れているのが、声から感じ取れた。

川 ゚ -゚)「デレ……」

そう言葉にすると、クーは眠るように瞼をおろしながら、

川 - )「そんなこと、言うなよ……」

それっきり、クーも黙りこくった。

この日を境に、デレが不登校になったことは、
のちの失踪の手掛かりの一つとして重要な扱いを受けている。……                              
                                    「暗転」 終

 

 

 

戻る

inserted by FC2 system