1 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 17:58:52.28 ID: T+M8kaKh0
真っ暗な中で、ごうごう、という音だけはよく聞こえた。
それは、折からの長雨がもたらした、いつもとは違う川の水音。

空に太陽があったなら、きっとまっ茶色になったの激流が見えるはずだ。

 

膝を抱えて、川岸に腰を下ろしていた。
寒い。

 

あとほんのわずか。3メートルかそこらなはずなのに、結局俺は、その最後の3メートルが踏み出せないでいる。

 

ああくそ。

俺はまだ、生きている。

いや、生きているのじゃあない。

俺はまだ、死ねないでいる。

 

 

4 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:00:34.31 ID: T+M8kaKh0

 

 

            ('A`)が影を失うようです
      1話 ('A`)がドッペルゲンガーと出会うようです

 

 

 

5 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:02:15.94 ID: T+M8kaKh0
誰もいなくったって、影だけは、いつもそばにいてくれた。
手を挙げて「よっす」と挨拶すれば、やっぱり影は、いつも律儀に「よっす」と挨拶してくれる。

そんな、不毛と言うか何と言うか、寂しすぎる遊びを覚えたのがいつだったか。正直言って覚えていない。
自分が「影遊び」をしている最初の記憶は、幼稚園の頃だけど。
人は誰でも、生まれた時から影を持っていることを考えれば、もっともっと前からそんな風にして遊んでいたかもしれない。

 

まぁしかし、さすがに20にもなった今は、いい加減そんな遊びもしない。
バイトに大学。それに一人暮らしの忙しさは、慌しさと引き換えに、孤独な時間を奪ってくれた。

働かなきゃ、冷蔵庫はあっという間にカラになる。
頭で分かっているのと、実際現実として目の前に突きつけられるのとでは、やっぱり天と地ほどの差があった。

一人暮らしを始めた最初の日々。空きっ腹を抱えて、かつお節を食って飢えをしのいだ、あのひもじさ。
忘れないさ。きっと一生忘れない。

 

* * *

 

ぴりりりりりり、という、この世で一番無粋な電子音がした。
目覚まし時計だった。

('A`) 「うがー……もう朝か……」

 

 

6 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:04:47.36 ID: T+M8kaKh0
がっしがっしと頭を掻いて、ベッドから起き上がる。
ぼやぼやした頭を覚ますために、タバコに火をつける。

('A`) 「……1限から講義だなぁ、ちくしょう」

ああ、かったるいことこの上ない。
教授陣だって人の子だろうに、何が悲しくて朝の9時から講義なんざ始めるんだろう。
いっそ12時ごろから始めればいいのに。そうすればみんなハッピーなのに。

('A`) 「……現実逃避してても仕方ねえよなぁ……」

のろのろと立ち上がって、よたよたと洗面所に向かい、びちゃびちゃと顔を洗う。
冬の水道水の容赦ない冷たさで、ようやく目が覚めていく。

鏡を見る。

('A`) 「よっし、今日のおれさま45点」

 

 

7 名前:Mail: 投稿日: 2007/12/14(金) 18:07:19.10 ID: T+M8kaKh0
++++AFOX大学・2番大教室++++

川 ゚ -゚) 「おはよう」

ξ゚听)ξ 「あ、おはようクーちゃん」

( ^ω^) 「おはよーおー」

川 ゚ -゚) 「……なんだ、わたしもけっこうギリギリだと思ったが、例によってドクオはアウトか」

ξ゚听)ξ 「しょーがないヤツよねぇ。高校のときからずっとそうなんだからさ。あんなんじゃ社会に出て通用しないのにさ、だいたい、」

( ^ω^) 「出たお、ツンのドクオ語り」

川 ゚ -゚) 「うむ。今朝もツンは元気です」

ξ///)ξ 「……べっ、別に、中学校の頃からたまたま全部学校が同じなだけで、だから人よりよく知ってるだけだもんっ」

( ^ω^) 「怪しいもんだお。前々から思ってたけど、ツンがドクオを追っかけたんじゃないのかお?」

ξ゚听)ξ 「違わいバカっ! こんな田舎の町じゃ、ある程度進路が被っちゃうのはしょうがないでしょっ!」

川 ゚ -゚) 「まぁ、そういうことにしておこうか」

ξ゚听)ξ 「ホントに違うもん、たまたま偶然でっ……まぁ、ちょっとはラッキーとか思わなくも、ごにょごにょ」

 

 

9 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:09:49.90 ID: T+M8kaKh0
      ガラッ

爪'ー`)y‐ 「おはよう、こんな大学にしか入れなかったクズども。講義始めるぞー」

(; ^ω^) 「……相変わらず、朝っぱらからやる気を失くさせる教授だお……」

川 ゚ -゚) 「平気でタバコ吸いながら入ってくるからな」

ξ;゚听)ξ 「あの教授、どうしてクビにならないんだろうね……」

 

* * *

 

大学の駐輪場に原チャリで乗り付けたときには、もうとっくに9時は回ってしまっていた。

('A`) 「……まぁいいだろ。あのクソ教授、出席はロクに取らないからな」

「ゆとり教育概論」なんていうクソの役にも立たない講義に妙に人気が集中しているのも、そのせいだ。
大学は最高学府。多くの人にとって、人生で最後に勉強をするところ。
そんなお題目を掲げてみたって、そこで学んでいる連中なんてそんな程度の人間でしかない。

多分きっと、どんな有名大学だって、その辺の事情は変わらないと思う。
そして、だからおれは、大学というところがそれなりに気に入っている。
学生は勉強が本分。そんな正論を吐いて何になる。そんなものは、ただの燃えないゴミだ。

 

 

11 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:12:20.83 ID: T+M8kaKh0
教室後方のドアをそっと開けて、なるべく目立たないようにそっと入った。

('A`) 「(……あちゃー)」

そりゃもう、酷いもんだった。
合戦場の跡のような光景だった。
最後列付近の席はともかく、最前列から2つめくらいまで、どいつもこいつも綺麗に、ずらーっと枕を並べていい夢見てやがった。

教壇に立つ教授も、何の注意もしない。どころか、生徒の席をちゃんと見ているかどうかすら怪しい。
何しろ、初回の講義で「別にオレはお前らの成績とか人生に一切興味ありません。給料分の仕事をするだけです」と言い切った教授だ。

('A`) 「(そんなもんかね)」

それにしたって、こう。
自分の話を他人が聞いているかどうか、くらいは気にしそうなものだけれど。

 

そして、唯一マトモに生き残っているエリアでは。
愛すべきバカどもが、全員背筋を伸ばして、クソ教授のクソ板書を、クソ丁寧にノートに取ってやがる。

('ー`) 「(…………)」

 

 

12 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:14:50.93 ID: T+M8kaKh0
ここまでテキトーな講義だと、もう教授に気兼ねするも何もなかった。
大股で教室をずんずん渡り、バカどもの隣にどっかり腰を下ろした。

ξ゚听)ξ 「……あ、やっと来た。バカ、もう30分も遅刻してるじゃない」

('A`) 「あー。ションベンのキレが悪くてさ。なかなかトイレから出られなかったんだ」

ξ///)ξ 「バカっ」

(; ^ω^) 「30分も切れないションベンってどんなだお……」

川 ゚ -゚) 「残尿というレベルじゃないな」

('A`) 「……よっす、おはようさん。朝っぱらから元気だなお前らは」

川 ゚ -゚) 「いやなに。マジメに聞いてみれば、ああいうスレた人間の話ほど面白かったりする、というだけだよ」

('A`) 「……そんなもんかね」

改めて教壇に視線を投げる。
いつもながら、どんな風に話が脱線したものか、クソ教授の講義は近所のパチンコ屋にガセ札が挿してあった、という内容に変貌している。
何も黒板に店内の見取り図まで書いて、「こことここの台だっ」とまで力説しなくてもいいだろうに。

(;'A`) 「面白いか、アレ」

川 ゚ -゚) + 「うむ。やはり版権モノの台は基本的に出ない、ということがよく分かる」

 

 

13 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:17:21.70 ID: T+M8kaKh0
(; ^ω^) 「……クーって、パチンコするのかお?」

川 ゚ -゚) 「まさか。奨学金で何とか食いつなぐ苦学生が、ギャンブルをやる余地なんてあるワケないだろう」

( ^ω^) 「じゃあ、あんな話を聞いても意味ないんじゃ……」

川 ゚ -゚) 「知識というものには味がない。ただそこに存在するだけだ。
      ならばこそ、人は好き嫌いなく知識を吸収していくのさ。だいたい、ブーンたちも何だかんだで話を聞いてるじゃないか」

(; ^ω^) 「おー、それは……」

ξ;゚听)ξ 「なんっていうか、面白いのよね。理由はよく分からないけど」

それは多分、そこにリアルがあるからなのだろうな、と思う。

ツァラトゥストラはかく語りき。神は死んだ。
ゲーテは言った。全ての気高いものは、それ自体穏やかな性質で、眠っているように見えるものだ。

クソ食らえだ。そんな言葉のどこに現実がある。
というか、現実に生きる自分たちは、もうとっくにそんなことは知っているんだ。
あんなものを持ち上げる人間は、ただ自分の認識が偉人によっても認識されていたことに、下らない自己満足を感じているに過ぎない。

それよりは、確かに。

爪'ー`)y‐ 「ったくよぉ、この前のGTも丸々スッちまった。ざけんなよな、フォックスドコマデモが絶対来ると思ったのによ。
        お前ら知ってっか? VIP共和国杯は、ステップレースのひろゆき記念の上がり3ハロンが――、」

 

 

15 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:18:53.45 ID: T+M8kaKh0
なるほど、確かにそんな言葉の方が、重みもあれば面白みもあるのかもしれない。
そして、だから、そんなことに気づけるバカどもだから、自分はこいつらのことが好きだ。

 

クソ教授のクソ講義が、静かに続く。
垂れ流されるのは、生きる上で必要のなさ過ぎる知識。

そして気づけば、クーに面白いかと問うた自分自身も、そんな話に聞き入っていた。

 

 

90引くことの30分は、あっという間に過ぎていった。

 

 

17 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:21:24.27 ID: T+M8kaKh0
++++昼休み・学内食堂++++

(; ^ω^) 「おあふー、2限の職業論、課題が死ぬほど出たお……」

川 ゚ -゚) 「まぁ、この時期だしな。そろそろ学期末試験もある。復習にはちょうどいいだろう」

ξ;゚听)ξ 「サラっと言ってのけるんだもんなぁ。あんなレポート、どこで調べればいいのよ」

('A`) 「あーツン、完成したらコピーよろしくなー」

ξ゚听)ξ 「あんたもしれっとそんなこと言わないの! たまには自分でやりなさいよ!」

ぎゃーぎゃー騒ぎながら昼飯をつつく。

そんなことを言っていても、結局最後の最後でツンは課題をコピーさせてくれることを、自分はよく知っている。
「あっ、あんたが留年したら、わたしまで気分悪くなるからねっ!」
毎度毎度決まり文句の、そんなことを言って。

うん、持つべきものは友人だ。
いや、感謝はしてるんだ一応。ただ反省をしていないだけで。

( ^ω^) 「ドクオはいいお、ツンがコピーさせてくれるから」

('A`) 「コピーはコピーなりに大変なんだけどな、書き写したり、テキトーなとこでオリジナルを挿入したり」

(; ^ω^) 「苦労のうちに入らないお、そんなもん……」

 

 

18 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:24:07.26 ID: T+M8kaKh0
( ^ω^) 「ね、ねえクー、たまにはぼくにもコピーを……」

川 ゚ -゚) 「自分でがんばらないブーンは嫌いだ」

( ´ω`) 「……はい、自分でがんばりますお……」

ξ゚听)ξ 「相変わらず、熱いんだか冷めてるんだかよく分からないわね、あんたら」

川 ゚ -゚) 「自分でがんばるブーンは好きだぞ」

( // ^ω^) 「おー、クー、テレるお」

('A`) 「ドSとドMだからな、まぁ相性は最高だろう」

川 ゚ -゚) 「心外だな。わたしは心の赴くままに言っているだけだ」

ξ;゚听)ξ 「心の赴くままにドSなんだ……」

(; ^ω^) 「……ぼくは、やっぱりMに見えるかお?」

('A`) 「そりゃお前」

ξ゚听)ξ 「当然」

川 ゚ -゚) 「ドのつくMだな」

(; ^ω^) 「……クーまで……」

 

 

19 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:26:38.09 ID: T+M8kaKh0
( ^ω^) 「ぼくはMじゃないですお? やる時はやる夫ですお?」

ξ゚听)ξ 「じゃあ例えば、ブーンは浮気する?」

( ^ω^) 「するわけないお」

('A`) 「クーは?」

川 ゚ -゚) 「ブーンが嫌いになったら、むしろさっさと別れるな。わたしが好きなのは、今のブーンだから」

Σ( ω ) 「がびんっ!?」

(; ω ) 「…………」

川 ゚ -゚) 「あまり気にするな、わたしはブーンのことが好きだよ」

(* ^ω^) 「クー、」

川 ゚ -゚) 「今はな」

Σ( ω ) 「どびんっ!?」

ξ;゚听)ξ 「……ドSとドM、よね」

('A`) 「まったくだ。女に振り回されるダメ男を絵に描いたようだ」

川 ゚ -゚) 「まるでわたしが悪女だな」

 

 

21 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:29:07.86 ID: T+M8kaKh0
そんな風に、昼飯の時間は過ぎていく。
時計の針が休み時間の半分を回った頃に、ツンが、

ξ゚听)ξ 「はぁ……。ねえドクオ、やっぱりドクオもちょっとはやった方がいいわよ、課題」

('A`) 「えー」

( ^ω^) 「でも、それはホントにやった方がいいと思うお。さすがに3年4年になれば、今みたいにぬるくはないお」

('A`) 「……まぁなぁ」

そりゃ、言われんでも分かってるさ。
こんなぬるま湯のような時間にも、いつか終わりは来るだろう。
でもだからこそ、今はぬるま湯に甘えていたい、んだけど、なぁ。

まぁなんとかなるさ。……ならないだろうなぁ。
冷蔵庫が空っぽになったところで、誰も金を振り込んではくれないように。
なんとかなることなんて、この世に何一つないんだから。

なんとかなるんじゃあない。
いつだって、誰かがなんとかしてくれてるんだ。

川 ゚ -゚) 「……ドクオは、いい加減だが決してバカじゃない。相応に危機感もあれば、動くべき時には自分で動けるさ」

ξ゚听)ξ 「……そっかなぁ」

 

 

25 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:31:39.18 ID: T+M8kaKh0
そっかなぁ、と自分も思う。ちょっと過大評価されすぎな気がする。
けれどクーの言葉に反論することは、ちょっとだけ恥ずかしかった。
ごまかした。

('A`) 「ま、ツンさえいてくれりゃ、何とかなるんじゃねーかな」

ξ///)ξ 「はいっ!? えっ!?」

――あちゃ、さすがに怒ったか。ツンの顔が真っ赤だ。

('A`) 「いや、マジで頼りにしてるぜ親友」

ξ///)ξ 「…………バカ」

 

川 ゚ -゚) 「(ボソボソ)……天然とは恐ろしいな」

(; ^ω^) 「(ボソボソ)人のことSだのMだの言えないお、この女たらし……」

('A`) 「え? 何か言ったか?」

川 ゚ -゚) 「いや別に何も」

 

 

27 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:34:08.97 ID: T+M8kaKh0
++++数時間後++++

('A`) 「……あー、終わった終わった。くったびれたなぁ」

ξ゚听)ξ 「あんたはほとんど寝てただけでしょっ」

('A`) 「ちゃんと起きてただろ。1限と休み時間は」

(; ^ω^) 「それだけで『ちゃんと』って言い切る根性がすごいお……」

('A`) 「ありがとう、最高の褒め言葉だ」

 

川 ゚ -゚) 「じゃあ、今日はこれでさよならだな」

('A`) 「あ? ――ああそうか、お前らこの後の選択取ってたんだっけ」

( ^ω^) 「おっおっおっ。ぼくは付き合ってるだけだけど」

ξ゚听)ξ 「日本手話入門だよね。面白いの? アレ?」

川 ゚ -゚) 「なかなか面白いよ。他人との交流のチャンネルが増えるのは、便利でもある」

そう言って、クーが自分とツンを指さし、握りこぶしを作って、腹をぽんぽん、と叩く。

( ^ω^) 「あはは、確かに」

 

 

28 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:36:39.24 ID: T+M8kaKh0
(;'A`) 「……何つったんだよ」

ξ;゚听)ξ 「すっごい気になるわね……」

川 ゚ -゚) 「ナイショだ。さぁブーン、そろそろ行こうか」

( ^ω^) 「おっおー、あいあいさー!」

('A`) 「あ、待てこのやろっ、教えてけっ!」

ブーンの肩に伸ばした手は、ほんの少し間に合わなかった。

( ^ω^) 「ばいぶーっ!」

川 ゚ -゚) 「また明日な」

ブーンは両手を広げて走り、クーは静かに歩いて、さっさと廊下の奥に消えてしまった。
片方が走って片方は歩いているはずなのに、その速度がほとんど変わらないのはどういうことだろう、とちょっと思った。

取り残されたツンと2人。

ξ;゚听)ξ 「……はぁ」

(;'A`) 「……はぁ」

 

 

30 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:39:09.67 ID: T+M8kaKh0
ξ゚听)ξ 「あのさドクオ。もしやる気が出たら、」

('A`) 「ん? 何の?」

ξ゚听)ξ 「昼休みの話よ。課題とかそういうの。試験勉強もだけど」

('A`) 「ああ。やる気が出たら?」

ξ///)ξ 「その……ウチに顔出しなさいよね。勉強くらい、教えてあげるから」

('A`) 「おー、そいつはありがたい。ついでに茶とか菓子とか出るかな」

ξ///)ξ 「もっ、もちろん出るし、その……ごにょごにょ」

('A`) 「? 何だ、なんかオマケでも出るのか」

ξ///)ξ 「そっ、それはほら! オマケっていうか……ある意味そっちが本題っていうか……」

ツンの顔が赤い。それに、心なしかもじもじしている。
ピーン、と気がついた。
――やっぱり、おれは空気が読める子だ。

('A`) 「ンだよ、便所か。さっさと行ってこいよ、ガマンしてっと膀胱炎に――、」

ξ///)ξ 「ばかあっ!」

ばちーんっ!

 

 

33 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:41:40.20 ID: T+M8kaKh0
('A`#) 「……あれ?」

ものすごく唐突にビンタ一発、ツンはそのままスカートを翻して走って行ってしまった。
あれ、何か間違えたかな。
やっぱいきなり便所の話題はマズったか?

('A`) 「……あ」

再び、ピーンと直感。今日はやけにカンが冴えてる。

('A`) 「2日目ってヤツか」

 

      「ばかぁ―――――っ!」

 

廊下のはるか彼方から、そんな大声が響いてきた。
はっはっは、そんなに恥ずかしがることないのにな、今さら。

 

 

35 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:42:11.57 ID: T+M8kaKh0

 

 

数時間後。冬の、諦めの良すぎる太陽が、地平線に沈んだ。

 

 

36 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:44:42.79 ID: T+M8kaKh0
****ツンのアパート・夜****

ξ゚听)ξ 「はー……課題の参考図書、図書館でなんとか見つけたわ……。
       まったくもう、学内の図書館にもないような本を参考図書にしないでよね……」

ξ゚听)ξ 「ええっと? 現代社会の成り立ちと職業の役割について、レポート用紙10枚にまとめよ、か」

ξ゚听)ξ 「はぁ……無駄に枚数も多いし……。でもやるっきゃないわよね……」

 

ξ゚听)ξ 「…………(カリカリ)」

ξ゚听)ξ 「…………(カリカリ)」

 

ξ゚听)ξ 「……こんなに文字数あったら、写すのも大変だろうなぁ……」

ξ゚听)ξ 「……ちょっと早めにコピーさせてあげようかな……?」

ξ゚听)ξ 「…………(カリカリ)」

      ピンポーン

ξ゚听)ξ 「? え? 誰? ……まさか、ホントにドクオが来た、とか……?」

 

 

40 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:46:43.46 ID: T+M8kaKh0
     ガチャ

ξ;゚听)ξ 「はーい、って、えぇっ!? ホントにドクオ!?」

('A`) 「……んだよ、来ちゃ悪いか?」

ξ;゚听)ξ 「いや、悪いって言うかなんていうか、だってホントに来ると思わなかったし、部屋の掃除も、」

('A`) 「構わねーよ。オレの部屋より絶対きれいだ。それよっかよぉ、寒いんだ。上がっていいだろ?」

ξ;゚听)ξ 「え、あ、うん、どうぞ」

     ドカドカ

('A`) 「ふいー。おー、例の課題、ちゃんとやってるじゃねーかい。偉いねお前は」

ξ;゚听)ξ 「……一緒にやるために来た人のセリフじゃないと思うんだけど。紅茶でいい?」

('A`) 「何でもいーぜー、ツンが淹れてくれるのが一番だ」

ξ///)ξ 「へあっ!? そ、そう?」

('A`) 「一緒にやる、か。ま、当たらずとも遠からず、だな」

 

 

43 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:48:44.26 ID: T+M8kaKh0
ξ゚听)ξ 「はい、紅茶。砂糖多めね」

('A`) 「さすがだ。オレの好みを完全に理解してらっしゃる」

ξ゚听)ξ 「付き合いだけは長いからね、無駄に」

('A`) 「まったくだよ」  (ズズー

('A`) 「……うまいな。ツンの味がする」

ξ///)ξ 「はぁっ!? なっ、何、いきなり何言ってるの!? 頭どっかにぶつけちゃったの!?」

('A`) 「いや? いたって平常だぜ。元気元気」

ξ;゚听)ξ 「そう……冷静に返されてもちょっと困るんだけど……」

('A`) 「素直じゃねーからなぁ、お前は」

ξ;゚听)ξ 「(……やっぱり、何か雰囲気が違う、ような……?)」

('A`) 「……なぁ、ツンさ」

ξ゚听)ξ 「え? 何? あ、もう課題始めちゃう? けっこう難しいわよ」

('A`) 「いや。そんなこたどうでもいい」

ξ;゚听)ξ 「いや、どうでもよくないでしょうが」

 

44 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:50:15.85 ID: T+M8kaKh0
('A`) 「大事な話なんだよ。お前、さっき言ったよな。無駄に付き合いだけは長いって」

ξ;゚听)ξ 「まあ、言ったわね」

('A`) 「その通りだとオレも思う。オレたち、時間を無駄にしすぎてなかったかな」

ξ゚听)ξ 「はい?」

('A`) 「ずっと一緒にいたろう。それはさ、お互いに嫌いじゃなかったからだと思うんだ。
     ったく素直じゃねーよな、オレもお前も。時々クーが羨ましくなる」

ξ;゚听)ξ 「え、ちょっと、ドクオ、」

('A`) 「――今はさ。思うんだ。オレ、お前のことが嫌いじゃないんじゃない」

ξ;゚听)ξ 「わあっ! ちょっと待って、タイムっ! ドクオ、」

 

('A`) 「いいや、待ったナシだ。オレさ、好きだよ。お前のこと」

 

ξ///)ξ 「ばっ! 何言ってるのあんたっ! そんないきなりっ、はあっ!?」

('A`) 「ツンはキライか? オレのこと」

ξ///)ξ 「え、いや、それは……その、うんと……」

 

 

45 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:50:53.98 ID: T+M8kaKh0
('A`) 「ツンの口から聞きたい。オレは勇気を出したよ」

ξ///)ξ 「……ぱくぱく」

 

('A`) 「……はぁ。やっぱ無理か。まぁそうだわなぁ、オレなんかじゃなぁ……」

ξ///)ξ 「わっ、バカっ! 早とちりすんじゃないわよ、わたしだってドクオのこと――、」

('A`) 「オレのこと、何?」

ξ///)ξ 「ドクオのこと、ドクオのこと……」

 

 

 

 

 

ξ///)ξ 「好き、で悪いの?」

 

 

47 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:52:24.32 ID: T+M8kaKh0
****ドクオの自宅・夜****

タバコを吸いながら、もう何年も前に製造を中止してしまったゲームハードのコントローラを握る。
画面にばら撒かれた、大量の白と黒の弾を丁寧にかわしながら、確実に1機1機を撃墜していく。

('A`) 「よっし、今日は調子がいいぜ。ウズラもミサゴもかかってこいやボケっ。余裕で撃墜だっ」

ガチガチガチガチ。

……ちゅどーん。

――余裕で撃墜された。

('A`#) 「……ケッ! 難しすぎんだよこのゲームっ!」

画面に表示されたハイスコア更新のネーム欄に、テキトーにAAAと入力する。
再びスタート画面に戻るけれど、なんだかもうやる気がなくなって、コントローラを放り投げてしまった。

('A`) 「どぅあー……」

座椅子に寄りかかって天井を見上げる。
部屋の中でも遠慮なくタバコをふかすものだから、最初は真っ白だった壁紙も、今はもうちょっと黄色くなってしまっている。
敷金、返ってこないかもなぁ。

 

 

49 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:54:54.24 ID: T+M8kaKh0
('A`) 「前々から思ってたんだけどさ。いやどうでもいいんだけどさ」

('A`) 「縦シューの自機って、何で拡散タイプのが多いんだ? 前方集中のが強くね?」

天井に尋ねてみても、うんともすんとも言いやしない。
本当にどうでもよすぎて、シカトされているのかもしれなかった。

('A`) 「……ヒマだ」

そういえば、と思う。
ツンが言っていたなぁ。課題を自力でやりたければ、家に来いと。

どうしよっかな、とちょっと思う。

課題。それは、これからもきっと、幾度となく目の前に立ちはだかるだろう困難の名前。
自力でやれ。それが自分のためだ。
んなこたぁ、重々承知している。

――でもやっぱり、なぁ。

('A`) 「……マンドクセ」

いいや。
そうだろ、もうちょっとくらいさ。こうして、ダラダラしてたって。
どうせもう1年もしないうちに、努力なんてイヤでもしなきゃいけなくなるんだから。

 

 

50 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:57:24.39 ID: T+M8kaKh0
ぷかー、とタバコの煙で輪を作る。

それにしても、ヒマだ。

ヒマは嫌いだ。孤独だから。
久々に思い出す。小さい頃から、ずっとやってきた一人遊び。

影は、太陽だろうが蛍光灯だろうが、光さえあればずっと自分と一緒にいてくれる。

('A`) 「……な、そうだろ?」

自分の影を探してごそごそやって、

気づいた。

('A`;) 「……あれ?」

 

――影が、ない?

 

 

52 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 18:59:55.17 ID: T+M8kaKh0
++++翌日++++

メシも食わずに悩んで、結局のところ何か夢とか錯覚とかそういうことだろう、というつまらない結論を出して、強引に寝た。
翌朝。目が覚めて、恐る恐る日光に自分の腕を晒してみると。

('A`;) 「……マジで?」

やっぱり、影ができない。

('A`;) 「これって、病気の類なのか?」

いやしかし、仮に病気だったとして、自分はどんな診療科にかかればいいんだろう。
内科、外科とかは違うよな。

精神科、という物凄く嫌なフレーズが湧いた。即座に頭をぶんぶん振って払い落とした。

('A`) 「…………」

ええと。
影がいない。その実害って、なんだろう。

寂しい、とか?
あ、なんだ。害ないじゃん?

 

 

53 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:02:27.94 ID: T+M8kaKh0
そうだそうだ。現実に目を向けよう。単純な事象を追えば、これほど無害なこともないと思う。

ただ怖いのは、

('A`;) 「マンガとかで影ができないのって、幽霊……だよなぁ」

いつの間にか死んだのか、自分?
いやいや待て待て、昨日はそんなハードな一日じゃなかったはずだ。

もしかして原チャリで事故ったとか?

まさかなぁ。ただでさえクソ田舎の閑散とした道だ。
身の危険どころか、ろくに対向車だって見なかったのに。

('A`) 「…………」

ポジティブに考えてみる。
例えばこれ、一発芸で使えるな、と思う。

――ああ、何かちょっと混乱してるな、おれ。

('A`) 「幽霊なら、他人にゃ見えないハズだよな。……よっし」

なら、大学に行こう。ブーンたちに会えば、その辺はイヤでも分かるだろうから。

 

 

56 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:04:58.99 ID: T+M8kaKh0
++++AFOX大学++++

講義が始まる20分も前に、教室の最前列に座った。
慣れないことをしたのは、自分からブーンたちに話しかけるよりは、話しかけられる方が難易度が低そうだったからだ。

ぼおっ、と。

眺めてみれば、人のいない教室というのは、なんだか寂しくて、ちょっといい雰囲気だ。
綺麗に消された黒板とか、チョークの匂いとか。
まっさら、という感じがして、いい。

 

やがて、徐々に人が集まり始めた。

まだツンは来ないのか、と思った頃に、

(; ^ω^) 「おわ、ドクオが一番乗り!?」

バカ第一号が現れた。
よし、ナイスだお前。最高。

('A`) 「だよなぁ」

(; ^ω^) 「何がだお……? うわぁ、それよりドクオが早く来てるお……大雪が降るお大洪水が来るお大震災がくるお」

 

 

58 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:07:29.50 ID: T+M8kaKh0
('A`) 「…………」

何かムカつくので、中指を突き立ててみた。

(; ^ω^) 「……いきなり失礼なヤツだお」

('A`) 「失礼はお互い様だろうが。なんじゃそりゃ、おれが早く来るのがそんなに珍しいか」

( ^ω^) 「珍しくないとでも?」

('A`) 「……珍しいよな、そりゃ」

よし、会話も成立してる。突き立てた中指も、ちゃんと見えてる。
あの有名な映画のオチと同じことになってるとか、そんなこともなさそうだ。

ちょっと安心すると、今度はイタズラ心が湧いてきた。

('A`) 「なぁ、おれさ。今朝、新たなる一発芸を会得したんだ」

(; ^ω^) 「一発芸?」

('A`) 「よぉっく見てろよ?」

マジシャンのように散々注目を促して、右腕を蛍光灯にかざす。

 

60 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:09:59.51 ID: T+M8kaKh0
(; ^ω^) 「……は?」

('A`) 「バカ。よく見ろほら。主に机の上とかを」

そうだ。やっぱり影はできていない。
あ、これからは影絵ができなくなるのか、と、唐突にそんなことを思った。すごくどうでもよかった。

(; ^ω^) 「ええっと……何だお? 何がすごいのかお?」

('A`) 「はぁ、仕方ねぇなぁ。教えてやるよ」

ああ、タネ明かしをするマジシャンって、こんな気持ちだったのか。こりゃいいや、すごい優越感だ。
韜晦をバラ撒き、散々ブーンをじらして、ついに答えを口にしようとしたとき。

がしゃんっ、と、何かを取り落とす音がした。

:川 ゚ -゚): 「……ドクオ、何だ、それは?」

ち。目ざといのが来てしまった。

 

 

62 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:12:19.72 ID: T+M8kaKh0
('A`) 「すげーだろ。朝起きたらこんなんなってた」

川 ゚ -゚) 「それはそんなに落ち着いてていいのか? すごいにも程がないか?」

('A`) 「別に実害ねーからなぁ。ほれほれ。腕だけじゃねーぞ、全身どこもかしこもだ」

川 ゚ -゚) 「……すごい。理系の学部だったら、今ごろ解剖されていそうなほどに」

('A`) 「受けててよかった社会学部」

(; ^ω^) 「……あの、さっきからぼくが置き去りだお? 結局、何がすごいんだお?」

川 ゚ -゚) 「よく見てみろ。すごいじゃないか」

(; ^ω^) 「お手上げだお。答えあわせをお願いしますお」

川 ゚ -゚) 「よし、空欄につきゼロ点だな。バツとして、昼食はブーンのおごりだ」

('A`) 「あ、おれもよろしく」

(; ^ω^) 「おー……」

 

川 ゚ -゚) 「ドクオに、影ができていない」

( ^ω^) 「……え?」

 

 

63 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:15:18.58 ID: T+M8kaKh0
うおお、すごいおおお!?
ブーンが叫んだものだから、教室中から余計な注目を集めてしまった。

川 ゚ -゚) 「……ばか、こんなに面白い物を他人にまで教える気か」

('A`;) 「その理由もどうなんだよ……」

あ、あはは、すいませんお。昨日のドラマのオチを聞いてビックリしてしまいましたお。
ブーンがへらへら笑いながら頭を下げる。
教室内に一瞬だけ、

――昨日、そんなに面白いドラマやってたっけ?

そんな疑問が流れるけれど、結局は誰も彼もが「どうでもいいや」と思ったらしい。ついにその疑問は口にされなかった。

(; ^ω^) 「おー、ドクオが悪いお、いきなりビックリさせるから」

('A`) 「お前、確実におれ自身よりも驚いてるからな」

( ^ω^) 「だってすごいお? 影ができないなんて」

川 ゚ -゚) 「まぁ、だから具体的にどうなんだ、と言われると困るがな」

('A`) 「重々承知だよ。一発芸ぐらいにしか使い道がねーや、こんな特技……っていうか、体質か、こりゃ」

 

 

67 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:17:40.67 ID: T+M8kaKh0
* * *

昼休みになっても、まだブーンはすごいすごいと騒いでいた。
そこまで騒がれると、逆にこっちとしては冷静になってきてしまう。

('A`) 「しっかしまぁ、ホントに心の底から、だからと言ってどうってこたねーな」

川 ゚ -゚) 「というか、大切なことを忘れていたのを、今思い出した」

( ^ω^) 「お? 大切なこと?」

川 ゚ -゚) 「ツンがいないじゃないか、そういえば」

(; ^ω^) 「……あ」

('A`) 「……あ」

川 ゚ -゚) 「冷たいな、男というものは」

(; ^ω^) 「おー……いやあの、ドクオが凄すぎて、うっかり……」

('A`) 「っていうか、お前も今気づいたんだろうが」

川 ゚ -゚) 「うん、ドクオが凄すぎてうっかり」

('A`) 「泣くぞあいつ」

 

 

69 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:19:50.59 ID: T+M8kaKh0
川 ゚ -゚) 「しかし、季節柄心配だな。今年はインフルエンザが元気だと言うし」

('A`) 「ま、あいつに限って大丈夫だとは思うがね。ウィルスの方が抹殺されそうだ。大方、面倒とかそういう理由だろ」

(; ^ω^) 「そんな、ドクオじゃあるまいし」

('A`) 「いーや。あいつああ見えてけっこうズボラだぞ。いつぞやもらったクッキーもチョコレートも、すげぇイビツだった」

 

(; ^ω^) 「……つくづく、ツンが不憫だお」

川 ゚ -゚) 「言ってやるな。これはこれで一つの形なんだろう」

('A`) 「? 何の話だよ?」

川 ゚ -゚) 「いや、いよいよ近づいてきた米証券決済発表が株価指数に及ぼす影響について少し」

('A`) 「ウソつけ……」

( ^ω^) 「ドクオはさっさとツンの家に行って看病でも何でもするといいお、って話だお」

('A`) 「やなこった、面倒くせえ。大体、おれが行ったところで何もできねーよ。
     行くならクーあたりが行った方がよっぽどいいだろ」

(; ^ω^) 「(家に行くこと自体には抵抗がないのがすごいお……)」

川 ゚ -゚) 「わたしも残念ながら。今夜は祖父の通夜があるんだ」

('A`;) 「ぜってーウソだ」

 

 

70 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:21:51.15 ID: T+M8kaKh0
('A`) 「何だかんだでお前ら冷てぇなぁ。行ってやれよ見舞いくらい」

川 ゚ -゚)( ^ω^) 『お前が言うな』

('A`) 「おれなんかが行ったら、治る風邪も治んねーって。見ろよこのツラ。辛気くせぇだろ?」

川 ゚ -゚) 「……そういえば、顔に影ができないから、ちょっとは明るく見えるな」

('A`) 「マジか」

( ^ω^) 「うんうん、何かちょっと明るい感じがするお」

('A`) 「思わぬメリットがあったなこりゃあ」

川 ゚ -゚) 「そういうわけで、ツンの家に見舞いに行くといい」

( ^ω^) 「おっおー」

('A`) 「それとこれとは話が別だろ……」

 

川 ゚ -゚) 「……むねん、この甲斐性なしを更生させるのは難しいようだ」

(; ^ω^) 「ホントだお」

 

 

72 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:24:11.53 ID: T+M8kaKh0
まあしかし、心配でないと言えばそれはウソだ。
それは主に、課題という点において。

あいつが遅れると、自分の提出まで危うくなってしまう。
冗談じゃない、優等生と違って、こっちは単位ギリギリを狙っているんだから。

('A`) 「……ま、明日も休みなら、それなりにな」

( ^ω^) 「おお、素晴らしい着地点」

川 ゚ -゚) 「微妙に打算が見え隠れするが、まぁ上出来だろう」

 

 

 

 

('A`) 「(――まさか、マジでぶっ倒れてるってことは……ないよな、やっぱ)」

 

 

73 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:26:26.50 ID: T+M8kaKh0
++++翌日++++

翌日も、ツンは姿をみせなかった。

('A`) 「よっす」

(; ^ω^) 「普通に挨拶してるけど、今は講義中でドクオは10分遅れだお」

('A`) 「遅れてねーよ。ほれ、ちょうど出席カードが配られる時間だ」

(; ^ω^) 「…………」

時計を見て、秒針が「12」にかかるのを待って、助手が色のついた出席カードを配り始める。
最前列に座っているものだから、もちろん配られるのはいっとう最初だった。

カードの枚数は、3枚。
ほとんど指定席になっている4つ並びの席に、空席がひとつ。

('A`) 「……あんだよあいつ、今日もいねーのか」

川 ゚ -゚) 「うん。メールも電話もしてみたが応答がない。本格的に心配だな」

 

 

74 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:28:37.08 ID: T+M8kaKh0
はぁ、とため息。

('A`) 「……んで、爺さまの通夜開けのお前は、今日はヒマだったりしねーの?」

川 ゚ -゚) 「いや残念ながら、祖母が急に続発性無月経で倒れてな。看病に行かなければならないんだ」

(; ^ω^) 「(なぜ産婦人科系……)」

('A`;) 「……倒れるのか、その病気」

川 ゚ -゚) 「そういうこともあるだろう」

もう一回ため息。
結局、クーはツンの家に行く気はさらさらないらしい。
仲が悪い……とかではないはず。まぁ、クーにはクーの事情があるんだろう。

('A`) 「しゃあねえなぁ……出撃するか」

( ^ω^) 「おっおー、ついにドクオが出るお」

('A`) 「……そういやさ、お前は来られねぇの? 見舞い」

(; ^ω^) 「おー、ぼくは、」

川 ゚ -゚) 「残念ながら急性のEDで倒れる予定だ」

Σ( ω ) 「がんっ!?」

 

 

76 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:30:49.00 ID: T+M8kaKh0
なるほど。ちょっと読めた。
そりゃまぁそうか。この2人だって、こんなでも一応は恋人同士だ。
冷たい、とは思わない。どうしてもそういう取捨選択をしないといけないことは、どうしてもあるから。

('A`) 「ったく、よろしくやってろバカども」

川 ゚ -゚) 「うむ、そりゃもう存分に楽しむさ」

( ゚ω゚) 「マジですか」

川 ゚ -゚) 「存分にな……ふふふ……」

(; ^ω^) 「(あれ、何か寒気が……)」

 

('A`) 「まぁいいよ。行くよ。新たなる一発芸を引っさげて」

( ^ω^) 「あ、今日もやっぱり影がないのかお?」

('A`) 「おう。うんともすんとも」

川 ゚ -゚) 「奇怪で大変結構。こんなすごいことを世界で独占してると思うとなかなかに愉快だ」

('A`;) 「……お前のために、こんなんになったワケじゃないけどな」

 

 

78 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:33:14.76 ID: T+M8kaKh0
* * *

午前だけに入っていた講義が終わるなり、2人に行け行けとうるさく言われて、まだ日の高いうちからツンのアパートに行くことになってしまった。

('A`) 「(ホントは夕方頃に行こうと思ったんだがなぁ……)」

でもまぁ、これでいいのかもしれない。
夕方にしようと思っていたのも、特に理由はなかったし。
というより、それは単純な先延ばしだったのだ。面倒事を避けるためだけの。

このままじゃ、ダメだ。

決意は、文面にしてみると大層立派に見える。
でもその実、たかだか数時間の違いでしかない。

けれど、それでも上出来かな、とも思う。

人間は、何も大きなことだけではなくて、こういう小さなことの積み重ねでも、きっと少しはマシになって行くんだろうから。

 

 

80 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:35:30.21 ID: T+M8kaKh0
++++ツンのアパート・前++++

('A`) 「(……とはいえ……)」

結局、何も持たずに手ぶらで来てしまった。
こんなに迷惑な見舞いもないと思う。何しろ、別におれ自身が何かをできるワケではないのだし。
せめて桃缶くらいは、その辺のコンビニか何かで買ってこようか。

('A`) 「(まぁ、そう気張ることもねーか。様子見に来たようなもんだ)」

そうだ。きっとツンだって、そんなもの期待はおろか予測だってしちゃいまい。
この身一つで充分なのかもしれなかった。
弱っている時は、友人の顔を見るだけでも違うものだから。

――まぁ、その友人が自分、っていうのが、ちょっとアレだけれども。

('A`) 「ぴーんぽーん、っと」

ドアホンを鳴らす。
30秒待っても、何の音沙汰もなかった。

('A`;) 「(おいおい、まさかマジでぶっ倒れちゃいないよな……?)」

 

 

84 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:37:42.22 ID: T+M8kaKh0
('A`;) 「おーい、ツン? ウザいのが一人来たぞー。開けろー、すげぇ一発芸も用意してあるんだぞー」

…………。

('A`) 「(電気メーター……回ってるな。いるよな、やっぱ)」

('A`) 「おーい?」

…………。

ドアノブに手をかけてみる。
鍵は、かかっていなかった。

('A`;) 「はぁ……緊急事態、ってことでヒトツ。堪忍しろよ、後で怒るな?」

ドアを、開けた。

 

 

86 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:39:54.47 ID: T+M8kaKh0
++++ツンのアパート++++

真っ暗だ。
カーテンを閉め切っているのかもしれない。

('A`) 「おいおい、こういうときは窓くらい開けた方がいいぜ……っと。お邪魔するぞー」

声をかけてみても、やっぱり返事がない。
腹の底に、小さな小さな穴が開いた。

('A`;) 「……おーい?」

あいつなら、たとえ40度の熱が出ていようが、自分が勝手に部屋に上がれば怒り狂って出てくると思う。
だというのに、枕の一つも飛んでこない。
まさか、まさかマジで、

焦りにはやる足で、玄関とキッチンを兼ねた狭い廊下を抜ける。
所詮は6畳そこらのアパートだ。探すべきスペースなんて、そんなにはない。
リビングに抜ける、1枚のドア。

どうしても止まらない生ツバを飲み込んで、開けた。

 

 

88 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:41:55.96 ID: T+M8kaKh0
「よう」

え。

('A`;) 「はいっ!?」

頭が、真っ白になる。
暗い部屋のどこかから聞こえてきたのが、明らかに男の声だったから。

ほとんど脊髄反射で、

('A`;) 「すんません、部屋間違えましたっ!」

「間違っちゃいねーよ、ツンに会いにきたんだろ?」

('A`;) 「……え、」

「寝てるぜ、今は」

('A`;) 「え、え?」

 

 

90 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:44:07.79 ID: T+M8kaKh0
くそ、部屋が暗すぎる。昼の陽に慣れた目は、今はただの目隠しだ。
混乱を極める状況を、トロすぎる脳ミソで分析していく。

間違っちゃいねーよ。
男の声。
ツンに会いに来たんだろ。

――寝てるぜ、今は。

眠る前は、何をしていたんだろう。

 

('A`;) 「あ、あの、彼氏さんだったりしますでしょうか、すいませんいきなり、そのオレは、」

はっはっは、と声が笑った。

「ちげーよ。いや違かないが、それだけじゃない。ほれ、よく見てみろ」

ぱちり、という音がして、暖色蛍光灯の、ちょっと赤い光が灯る。
今度はまぶしすぎた。目をかばうように腕を掲げて、影ができないこの身では、そんなことは何の意味もないと今さら思い知る。

目がようやく慣れてくる。

よく見た。

 

 

92 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:46:17.39 ID: T+M8kaKh0
('A`) 「――え?」

('A`) 「よう。意外と遅かったな」

そんなことを言われても、リアクションに困る。
え?
おれ?

('A`;) 「……そっくりさん?」

我ながら間抜けなことを、と思ったときには、もう言ってしまっていた。
案の定笑われた。

('∀`) 「そっくりさんか。当たってるような、いややっぱ外れてるな」

('A`) 「誰、なんだ、あんた」

('∀`) 「おいおい、冷てぇな。いつも一緒にいたじゃねえかよ」

('A`) 「…………?」

('∀`) 「心当たり、あるんじゃねーか? 最近お前が失ったものだよ」

('A`) 「え、」

 

 

95 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:48:33.14 ID: T+M8kaKh0
あり得ない。これはもう、オカルトですらない。
怪しげな心霊写真は、恨みを持った死霊や背後霊が写りこんだもの。
ミステリーサークルは、UFOが着地したときに、反重力機関が残した爪あと。

オカルトにはオカルトなりに、立派に理屈があるじゃないか。
だのに、いま目の前で起こっていることは。
――でも、でもだ。

('A`;) 「影……なのか? お前?」

('∀`) 「ああそうさ。どこかに消えちまったとでも思ったか? そんなワケねーだろ、」

そこで言葉を切り、おれが、いやおれの影を名乗るそいつが、

('∀`) 「おれは、ここにいるぞ」

叫ぶこともできなかった。
腰が抜けるってこういうことか。

へたん、と座り込む。全身に、力がまったく入らない。

('∀`) 「おいおい、どうしたんだよ。一緒に遊んできたろうが。所詮は影っちゃ影だけどな、オレはお前でもあるんだよ」

:('A`): 「わっ……ワケ分かんねえよ、お前誰だよ、何でここにいるんだよっ!?」

 

 

100 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:50:43.07 ID: T+M8kaKh0
('∀`) 「だから言ってるだろ。影だ。――それから、何でここにいるか、ってのについてはな、」

ほら、見てみろよ。
「影」が親指で指し示す。

ベッド。
掛け布団がかかっているけれど、確かにそこには膨らみがある。

あれ。
あそこからはみ出ている髪の毛に、妙に見覚えがある。
いつもいつも、こっそり綺麗な髪だと思っていた。

ちょっとクセっ毛で、本人は気にしていたけれど、おれは――、

 

('∀`) 「なかなか良かったぜぇ。思った通りだったよ、処女だった。ずっとドクオに捧げたかったってよ」

 

 

――ぶちん。

 

 

102 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:51:16.96 ID: T+M8kaKh0
何が起きているのかは、やっぱり分からない。
分からないけれど、「影」のその言葉は燃料にはなった。

熱い。
胸の奥が熱い。
ああ、やっぱ心ってのは、そこにあるんだな。

( A ) 「……てんめ、」

('∀`) 「おいおい嫉妬か? いいじゃねえかよ、オレはお前だ。ツンは無事に願いを叶えたってワケさ」

( A ) 「ンな話はどうでもいいんだよ。お前が何者でも、今はどうでもいい。おれは、おれはなぁ、」

('∀`) 「お前は、何だ? 言ってみろよ」

威勢のいいタンカを切ろうとしたのに、「バカ野郎」の一言も出てこない。
なぜなら、「影」のその言葉が突いたそこは、確かに弱点だったからだ。

――おれは、何だ?

何を想ってる?
この熱さの原動力はなんだ?

 

 

103 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:53:27.73 ID: T+M8kaKh0
('∀`) 「オレとお前の仲じゃねえか。最近構ってくれなくて寂しかったんだぜぇ」

「影」はケラケラ笑う。何も言えないおれを嘲笑っている。
一番最初に出てきた言葉に、すがりついた。

( A ) 「しょっ、証拠だ」

('∀`) 「ん?」

( A ) 「お前がおれの影だっつんなら、証拠を見せてみろ。いつも一緒だったなら、知ってるよなぁ、おれのこと。誰よりも」

('∀`) 「寝ぼけたこと言うな。知ってるからこそ、おれはここに来たんだよ」

('A`) 「…………?」

('∀`) 「かっは、自分で気づいてねえときてる。いや違うな、とっくの昔に、お前だって本当は気づいてた。そうだろ?」

('A`) 「何の、ことだよ」

('∀`) 「言ってやらなきゃ分かんねーか? ……お前さ、好きだろ。ツンのこと」

冷静な顔をしていようと思ったのに、みっともなく慌ててしまった。
そして「影」は、そんな隙を見逃してはくれなかった。

('∀`) 「ひでえ話だよなぁ」

 

 

106 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:55:59.14 ID: T+M8kaKh0
('∀`) 「気づいてたよな。ああもちろん、お前は気づいてたさ。クーは天然だって言ってたっけな? ありゃ違うだろ。
     お前はツンの気持ちを知ってた。ツンが自分をどう思ってるか、お前にはよく分かってたはずだ」

('A`;) 「…………っ」

('∀`) 「周囲を欺き、ツンを欺き、自分まで欺いて、お前は結局、ツンで遊んでたんだよ。
     ――何か反論することあるか?」

('A`;) 「…………」

('∀`) 「ねえだろう。そうだろうさ。だってオレの言ってるのは、全部が全部本当のことだからな。
     大丈夫だ。安心しろよドクオ。言ったろう、オレはお前なのさ。これからは――、」

これからは、オレが全部、お前の思いを叶えてやるよ。

お前の目的は何だなんで影が勝手に遊離するんだ何でそんなにおれのことを知っているんだお前は本当におれの影なのか
影って何だただ光が透過できなかった結果にできる光学的な現象じゃないのかお前は何だ今はどこだおれは誰だお前は今ま
でどこにいたんだおれの思いってなんだお前がおれだなんてウソだだっておれはこんなことしないぞツンはなんで何の連絡も
よこさなかったんだ大学に来ないのはなぜだお前はツンに何をしたおれのことを知っているならこの胸の熱さはなんだ答えろよ!

疑問は後から後から出てくるのに、何一つ言葉には変換されなかった。

ただひとつ、理解はできた。何よりも、この背筋の冷たさが証明していた。確かにそう、「影」の言うとおり。
おれは、きっと、自分の気持ちにもツンの気持ちにも気づいていた、と。
予防線を張って、みっともなく逃げ回っていたんだ、と。

そのことだけだ。

 

 

109 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 19:58:29.53 ID: T+M8kaKh0
('∀`) 「さぁてと。まだやらなきゃいけないことはあるよな。いいぜぇ、これからツンとお楽しみタイムだ。
     まぁ仲良くやれよな。せっかくオレが突破してやった一線だ」

('A`;) 「……え?」

('∀`) 「疑問に思ってるな。そうだよ。オレはお前にツンを渡す。お前の観念に合わせて言やそうなる。
     オレにゃ関係ねーのさ。オレはお前だ。オレだろうがお前だろうが、結局はドクオという人間だ」

笑いながら、「影」が、天井の照明から垂れ下がるヒモに手をかける。

――ちょっと待、

('∀`) 「あ、最後に。もひとつ疑問に答えてやる。オレはお前のドッペルゲンガー。歩く影、ってヤツだな」

あばよ。また会おうぜ。

パチン。

照明が落とされて、再び部屋が真っ黒に塗りつぶされる。

――暗すぎないか?
たかだかカーテンに仕切られただけで、今は昼間で、だからつまり、もっと明るくないとおかしいんじゃないか?

そんなことに今さら気づく。
結局は、理性の吐き出すどんな疑問よりも、原始的な恐怖に突き動かされた。
慌てて立ち上がる。照明のヒモを手探りで探して、力任せに引く。

 

 

112 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 20:00:54.98 ID: T+M8kaKh0
同時に、光が戻ってきた。
それは、当たり前の明るさだ。

たかだかカーテンに仕切られた日光の光。暖かさ。

狐につままれたって、こんな顔はできないに決まっていた。
表情の作り方を忘れてしまった。

盛大に空回りし続ける思考が、視線をベッドに投げさせる。
そこには現実がある。
掛け布団からはみ出したツンの髪。

('A`) 「……ツン、なぁツン」

自分でも驚くほどに緊迫感のない声。

('A`) 「……起きろよ、なあツン」

布団がごそごそ動く。
むにゅ、という声、

布団から出てきたツンは、何も着てはいなかった。

 

 

113 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 20:03:06.61 ID: T+M8kaKh0
('A`) 「…………」

ξ*゚ー゚)ξ 「ふへへぇ……あのまま寝ちゃったねぇ。ドクオ、おはよう」

あのまま、って何だ。

('A`) 「……ああ」

ξ*゚ー゚)ξ 「また学校サボっちゃった……ドクオのせいだからね。責任取ってよね」

責任、という言葉が、今はひどく悪趣味な冗談に思えた。

えへへぇ、とツンが笑う。
こんな顔、一度だって見たことはない。

そのくせ妙に既視感があるのは。
あんな態度を取っておきながら、幾度となく、そんなツンを妄想していたからだ。

 

ξ///)ξ 「ドクオ、大好き」

 

――ああ。

 

 

116 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 20:05:59.88 ID: T+M8kaKh0
* * *

底知れぬ闇がある。
ツンのアパートのベランダでタバコをふかしながら、そんなことを思う。

あいつは、あの「影」は、自分の願いをかなえると言っていた。

いいだろう。
確かに自分はツンが好きだ。今さらそこは否定すまい。

そしてまた、こんなことになってしまったというのに、少なからず幸福を感じている。
あの言葉は、あの「大好き」は、果たして自分に向けられたものかどうか。そうは思っても。

 

――けれど。

自分の願い、って、なんだ。
あいつは、やることがあると言った。

自分にはまだ、何か願いがあるのだ。

 

自分の願いが、全て綺麗なものだと思うほど楽観的にはなれない。
そしてあいつは、内容のいかんに関わらず、やるだろう。
だからこそ、それは底知れぬ闇なのだ。

 

 

117 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 20:08:18.23 ID: T+M8kaKh0
   ガララッ

ξ゚听)ξ 「ドクオ、またタバコ吸ってる」

('A`) 「……いいだろ? もう中学生じゃねえんだ」

ξ゚听)ξ 「いいけどね。……ねえ、1本くれない?」

('A`) 「何だお前、吸うのか?」

ξ゚听)ξ 「吸ってみたら、ドクオがタバコを吸う気持ちも分かるかな、って」

('A`) 「……。あいよ」

ξ゚听)ξ 「……! げほっ! げほげほげほっ!」

('A`) 「……まぁ、そうなるわな」

ξ゚听)ξ 「……まずい」

('A`) 「そのうちうまくなるんだよ、これが」

ξ゚听)ξ 「……ふうん、そっか」

 

 

119 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 20:10:21.28 ID: T+M8kaKh0
('A`) 「……なぁ」

ξ゚听)ξ 「なに?」

('A`) 「……明日は行こうな、学校。みんな心配してる」

ξ゚听)ξ 「へ?」

('A`) 「(あ、そっか……こいつの中では、おれもずっと一緒にいたことになってるのか……)」

('A`) 「……と思う。心配してるさ、そりゃきっとな」

ξ゚听)ξ 「ん、そだね」

 

陽が暮れかかっていた。
夕日の沈む方向には雲が立ち込めていて、合間から差す光は、なんだか神聖な感じで。

明日は雨になるな、と思う。

 

 

120 名前:Mail: sage 投稿日: 2007/12/14(金) 20:10:51.93 ID: T+M8kaKh0

 

 

         ('A`)が影を失うようです
   1話 ('A`)がドッペルゲンガーに出会うようです  おわり

 

 

 

 

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