47 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:06:04.21 ID: 4SVRL59Z0
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从 ∀从 〜赤頭巾7・後〜
48 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:08:57.23 ID: 4SVRL59Z0
そいつの後についていったのは理由があった。
あたしはストリートチルドレンをしていた。
親はいなく、共に助け合う仲間がいたが、社会的に見て弱者だった。
ついでにいえば肉体的に見ても弱者だった……世間一般で言われている幼女なんてそんなものだ。
だからこそ夢を見たのかもしれない。
そいつは医学の発展のため、とか難しいことを言っていた。
平たく言えば人を救いたいらしい。そのことだけは理解できたと思う。
そしてその研究に付き合ってくれたら金も出すと言っていた。
あたしは思った。
人を助けることができるなんてなんて素晴らしいことだろう、と。
また、お金をもらえるなら仲間たちとの暮らしが多少裕福になるかもしれない、と。
だけどあたしは1つ見落としていた。
他人を信用してはいけない。
そんな路上を寝床にしてる者たちの鉄則を忘れたのも、夢を見たせいだと思う。
浮かれたあたしはホイホイついていってしまったわけだ。
今にして思う。
夢なんて見なければよかったと。
50 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:13:15.81 ID: 4SVRL59Z0
そこから先は……残念なことに記憶があやふやだ。
いや、不幸中の幸いとでも言った方がいいのだろうか?
幸いといっても砂粒程度のものだが。
よく分からないうちに不死身の体にされて。
よく分からないうちに体を弄繰り回されて。
よく分からないうちにテストと称した拷問が為されて。
その繰り返し。
幼少期に虐待されると多重人格者になるらしい。
あたしがそれにならなかったのは奇跡だと思う。
それが喜ぶべきことなのかどうかなんて知らないが。
ただ、そいつとの暮らしはあたしを精神的に追い詰めていった。
身も心も成熟してないガキにとっては、身体が傷つけば精神も同様に傷つく。
あまりの痛さに耐えられなくなってきて、そいつにそのことを告げると薬を打たれた。
幻聴と幻覚のオンパレードだった。その間も体を弄られたと思うがよく分からない。
51 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:16:24.34 ID: 4SVRL59Z0
あたしは弱かった。
心も体も未熟だった。
だからはじめは強さを欲した。
どんなことにも挫けぬ強さを。
一人称が『あたし』から『俺』になった。
男言葉を使えば多少は強くなれると思ったからだ。
あたしにできることはあまりに少ない。
俺ならばできることの幅を広めることができると思う。
そうして俺は強くなった。
あくまでほんの少しなのだろうが、もう弱いままでいることができなかった。
痛みや苦しみを歯を食いしばって耐えられるようになった。
成長できたんだな、と実感した。
でもやっぱり俺は無知なガキだった。
痛みは蓄積されるということを知らなかった。
どんなに耐えても、日に日に痛みが鋭利なものになってゆく。
痛みに慣れるために自虐したこともある。
ボールペンで指を関節から引き千切るように何度も抉った。
喉にフォークを突き刺して呼吸ができないようにした。
そんなことをしてるとやっぱり薬のご登場。
霞を食んで生きてるみたいで気持ち悪い。
自虐しなくなった。
52 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:19:22.36 ID: 4SVRL59Z0
あとはもう耐えるだけの日々。
ここまで来て大体分かってきた。
強くなるのでは駄目だ。
この状況を終わらせる何かがほしかった。
でも答えはなかなか見つからなかった。
オレにできることは限られている。
現実では弱者に変わりはない。
そこら辺の白いネズミといい勝負だ。
白衣の悪魔に弄られて捨てられる運命なんだ。
ならオレが捨てられるのはいつだろう?
そいつと過ごして分かったことが1つある。
おそらくオレは捨てられることはない。
そもそも不死身なのだ。実験し放題というもの。
それが分かればあとは簡単。
不死身じゃなくなればいいんだ。
どうすれば不死身じゃなくなるのかを考えた。
やはりオレを連れてきたそいつに頼るほかなかったのだが。
55 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:22:34.18 ID: 4SVRL59Z0
あとは計画を練るだけだ。
薬で脳ミソが宇宙旅行するので計画を練るのに時間がかかった。
それでも何とか練れた。
と言ってもガキの頭じゃ計画も稚拙なものにしかならなかったけどな。
簡単にいえば脅し。
オレを殺せる方法を見つけないと殺す、といえばそいつは頷かざるを得ないだろう。
次は逃亡。
脅しに成功しても研究所にいれば隔離されるだろうから逃げるしかなかった。
それを円滑に進めるためにあえて狂ったふりをする。
仮面を被るのには慣れている。
『アタシ』は『オレ』の仮面を被って今まで生活していたのだから。
……その仮面はもう外せなくなったけど。
そうして狂人の仮面を被り、そいつと交渉する。
結果は成功。
そしてオレは驚いた。
自身が思っていた以上に狂人の仮面を使いこなしてたことに。
おそらくこの仮面も外れなくなりそうだな、と漠然と思った。
56 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:24:42.09 ID: 4SVRL59Z0
そうしてオレは研究所から脱走した。
警備その他がうざかったが、そこは今まで体を弄られた結果が表れていた。
簡単にいえば、オレは昔より強くなっていた。
そのままかつての仲間たちの巣へ向かう。
そして仲間の1人を発見し、声をかけようとして。
―――――しかし、声は出なかった。
分かっていた。
そもそも、どうしてこんなになるまで脱走を試みなかったのかを考えれば自明のこと。
オレは変わった。変わりすぎていた。
髪は白髪、肌も病人のように白く。
眼の下には真っ黒なクマが存在し、強靭で不死身の体を手にしている。
ここにあの時の少女はいない。
そしてオレには帰る場所もない。
ただそれだけだった。
かつての仲間を捕まえて、手持ちを幾らか押しつけてその場を去って。
人1人いない場所まで来て……少し泣いた。
57 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:27:24.66 ID: 4SVRL59Z0
まあ、泣いてた時にジョルジュに見つかり保護してもらった。
1人もいないと思って泣いてたのに、見られた恥ずかしさからとりあえず50発殴っておいた。
どうやらオレはそれなりに有名みたいで、ジョルジュはオレの力を借りてVIPを変えたいみたいだ。
最初は彼を警戒したが、どうせ帰る場所もないので居座らせてもらった。
どうせあいつがオレを殺せるようになるまでかなりかかるだろうし、時間潰しの意味もある。
それからロマネスクを紹介させてもらったり、隠れ家にある本を読んだりして日々を過ごした。
で、サイボーグ女と出会い、仲間にして。
そしてその女からあいつの情報を聞き出し、訪問し。
オレとあいつは再会した。
久しぶりなので何を言えばいいか分からなくなってしまった。
だけど必要なことは聞けた。
オレを殺す準備はできているそうだ。
やるじゃん。
なら、もうサックリやってくれ。
59 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:29:53.08 ID: 4SVRL59Z0
なのに。
こいつは今、何と言った?
まだ死なないって選択肢はないのか、だって?
は、ははは。
从 ∀从「ふざけろ」
(;´・ω・)「……」
从#゚∀从「オレはなぁ、このためだけに今日を生きてきたんだよ。
ひっそり隠れて暮し、研究所に連れ戻されないよう抵抗してきたんだよ。
今更そんな選択肢なんざあるわけねえだろうが」
(;´‐ω‐)「……」
从#゚∀从「大体……手前はそんな善人じゃねえだろうが!
やらない善よりやる偽善ってか?
例え偽善でも手前にやられると反吐が出るんだよ!」
(;´‐ω‐)「……そうか」
だからそんな善人顔すんな。
お前がそんなんじゃ……駄目だろうが。
61 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:32:38.15 ID: 4SVRL59Z0
从 ゚∀从「……まあ。
そんなわけだから早くオレを殺してくれよ」
(;´‐ω‐)「そんなに死にたいかい?」
从*゚∀从「もっちろん」
(;´‐ω‐)「そうか。なら残念だ」
从 ゚∀从「?」
(´・ω・`)「実は君を殺すものはなんにも用意してないんだよ」
从 ゚∀从「……」
从;゚∀从「………………………はぁ?」
62 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:34:59.88 ID: 4SVRL59Z0
从;゚∀从「ちょ、待て手前。さっき準備してるとかなんとか言ってなかったか?!」
(´・ω・`)「不死身体質を治す薬なら開発したよ。
さっきも言ったことだけど実際に使うことがなかったから絶対効くとは言えな…」
从#゚∀从「んなことはどうでもいい!!」
从;゚∀从「おいおいおいおい、まさか俺がいない間作ってた物ってその薬なのか?」
(´・ω・`)「当たり前のことを聞くなよ」
从#゚∀从「……」
………………。
从 ∀从「遺言はあるか?」
(;´‐ω‐)「……クーに、後のことは頼むとだけ伝えといて」
从 ∀从「把握した」
ナイフを抜く。
何に使うか説明する必要もない。
从 ∀从「そうだな……つま先からソルベ切りってのはどうだ?」
(;´‐ω‐)「悪趣味だね」
63 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:37:52.33 ID: 4SVRL59Z0
从 ∀从「そかそか、喜んでもらえて何よりだ。
よーし、今夜は簡単に寝かせないぞーぅ☆」
(;´‐ω‐)「……僕個人としては育つべきところを育てて出直してほしいものだね」
从 ∀从「うるせーよ。胸のことはほっとけよ鬼畜が」
『というか2人ともうるさい』
从;゚∀从 「!!」 (・ω・`;)
今の声はクーか?
でもカプセルの中に入っておいて声を出せる状況じゃないだろ。
どうやって話したんだ?
オレたちの視線はクーに向けられた。
川 - )
『いや、こっちみんな。今、全裸なんだ。ぶっちゃけハズい』
从;゚∀从「?」
声は確かにクーだった。
クーだったのだけど、声は別の方から聞こえる。
どこからだ?
65 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:40:20.19 ID: 4SVRL59Z0
(´・ω・`)「本当に君は出鱈目だね」
『ハッキングくらい朝飯前だ』
从;゚∀从「……あー」
なるほどね。
カプセルに繋いでるパソコンのスピーカーから声が出てるわけか。
本当に出鱈目だなこいつ。
(´・ω・`)「しかしパソコンにハッキングしてまで話すことが『うるさい』ね。なんというか……」
『それが私だからな、気にするな。……ところでハイン。ちょっとショボンと話がしたいから席を外してくれないか?』
从#゚∀从「……お前空気読めよ」
『だが断る。まあ、私の頼みが聞けない様であるならば仕方がない。
そのときは浴室でとても楽しいことが待ってるから覚悟しとけ』
从;゚∀从「げ」
67 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: >>64後で回答します 投稿日: 2008/04/29(火) 17:42:37.25 ID: 4SVRL59Z0
それは嫌だ。
以前、浴室で拷問プレイを受けたのは記憶に新しい。
水周りで電気を使われたら軽くやばい。
オレ的には光の速さでケツからうんこ出すくらいやばい。
『とりあえず上でドクオの相手でもしてろ』
はいはい分かりましたよクソッタレ。
……なんか釈然としないが黙って部屋を出る。
地下室を出て、階段を昇る。
さてと、酒でも飲んであの貧相顔に絡むか。
と、
从 ゚∀从「ん?」
ふと気になった。
あいつら何の話をするんだ?
从 ゚∀从「……」
気になりだしたら止まらない。
そういえば、思う。
オレがいないときにあいつらはどんな事をしているのか知らない。
从*゚∀从「盗み聞きしてもいいよな?」
68 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:45:48.16 ID: 4SVRL59Z0
途中まで昇っていた階段を再び降り、地下室のドアに貼りつく。
2人分の話し声が聞こえた。
ほんの少し、2人に気づかれないようにドアを開ける。
从 ゚∀从「……」
……
…………。
(´・ω・`)「で、話ってなんだい?」
『話なんてないさ。ただ単にハインに頭を冷やしてもらうための口実だよ』
(´・ω・`)「やれやれ……まあ、でも助かったよ。ありがとう」
71 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:48:40.58 ID: 4SVRL59Z0
从#゚∀从「……」
……へぇ。
まあ、オレを止めてくれたのはありがたい。
頭に血がのぼりやすい性質だからな。
ありがたいはずなのに、しかし今現在、頭に血がのぼるのはどうしてだろうな?
……
…………。
『それじゃあ寝るよ。それとすまない。やっぱりハインを連れてくるべきじゃなかった』
(´・ω・`)「気にしないよ。ところでもう少し話す時間、ある?」
『…………?こんな状態だからあるにはあるが、どうした?』
(´・ω・`)「ちょっと僕の愚痴に付き合ってくれない?」
『……いいぞ。連れてきた責任もあることだしな』
(´・ω・`)「ありがとう」
72 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:51:29.86 ID: 4SVRL59Z0
(´・ω・`)「ねえ、君は僕のしたことについてどう思う?」
『そうだな。
今日のことだけを評価するなら、“もっと冷静に事を運べ”。
研究所から今日までのことを評価するなら、“厄介な奴を生み出してくれたな”ってのが本音だ』
(´・ω・`)「……僕もそう思うよ。
目的のために頑張ったとはいえ失敗ばかりでやんなってきちゃったよ」
『君の目的、ね。聞いてもいいか?』
(´・ω・`)「……。
ヒートを知ってるよね。
今はそれなりの生活を送れるんだけど、以前はとても貧乏だったんだよ」
(´・ω・`)「ヒートが幼い頃に父親は過労で、母親は病で他界。
彼女は仕事を探したんだけど、年が年だったからお金を稼げるところなんてなかった。
一緒に住もうと誘ってみても頑なに拒否してね、この先どう生きるか僕らは本当に心配したんだ。
そんなある日、ヒートはついにお金を稼ぐ方法を見つけたんだ」
『どんな方法だ?』
(´‐ω‐`)「……ハインと同じさ」
74 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:55:34.53 ID: 4SVRL59Z0
『実験体か』
(´‐ω‐`)「うん。なんでも人工臓器が正常に機能するかを確かめる実験だったらしい。
そして彼女は脳を除く全ての臓器を切り取られ、新しい金属製の臓器を移植した。
切り取られたものは臓器売買に流す。馬鹿げてるだろう?
実験体の報酬と売り払った臓器のお金で、僅かばかり明日を楽に生きられるようになったんだ」
『……実験は成功したのか?』
(´‐ω‐`)「どちらとも言えないね。
普通に生活できるけど定期的なメンテナンスが必要で、今も研究所に通ってる。
そしてたまに機械仕掛けの臓器が調子を狂わす。爆弾仕掛けの体なんだよ」
(´・ω・`)「だから僕は」
(´・ω・`)「僕は思ったわけだよ。
彼女に臓器がないなら臓器を作ればいいじゃないか、ってね。
臓器移植はお金がかかる。僕らが治療費を出すとヒートと研究機関が拒絶する。適合する臓器を入手できるかどうかも分からない。
だから実験体として呼べば…」
『ヒートも受け入れると考えた。ヒートを治すためじゃなく、あくまで実験のためという建前があるから、か。
研究も実験して事実を作れば口出しされてもなんとかなるからな』
(´‐ω‐`)「うん。
正直言うとね、僕はドクオとヒートがいればそれでよかったんだ。
VIPは弱者に厳しく、僕が守れるものは少ししかない。
身の程を弁えてたさ。だから、ハインを巻き込んだ」
76 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:57:57.00 ID: 4SVRL59Z0
(´‐ω‐`)「どうせ路上にいる子供の1人だ。
実験に失敗したけど使えるまで使って後は捨てればいい」
『でもハインを想う心は捨てきれなかったわけか』
(´・ω・`)「……まあね。
ハインと過ごすうちに考えが変わったみたいなんだ。
研究所ではいつも一緒だったからね。
精神的にも子供だったからハインの考えなんてすぐ読めるんだ」
『……読みやすいのは確かだな』
(´‐ω‐`)「ハインは子供ゆえに弱かった。
だから精一杯強がってた。
必死になって男言葉を使い、そして狂っていってしまった。
でも僕は最後まで……ハインが脱走するまで見て見ぬふりをした」
『研究を途中で頓挫させたくなかったからか?』
(´‐ω‐`)「そうだよ。
ヒートを救いたいがためにね。
そのためにハインを犠牲にし続けた。
結果、今日ハインに殺されそうになったわけだ」
(´‐ω‐`)「いつも失敗ばかりだよ。
少し……疲れたよ」
77 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:00:23.50 ID: 4SVRL59Z0
ショボンはその言葉を最後に黙る。
それをドアの影から今の会話をばっちり聞いてるオレ。
ふぅん、ショボンも大変だなー。
从 ∀从「……」
……聞かなきゃよかった。
おかげで頭でお湯が沸かせそうなくらい血がのぼった。
なんだよそれ、手前何言ってるんだよ?
手前がそんなんでどうするんだよ?
オレの愛する鬼畜でいてくれって手前に言ったはずだぞ?
手前がそんな腑抜けでどうすんだよ?!
『……少し私の人生観でも語っておくよ』
从 ∀从「……」
クーの声が聞こえた。
聞き耳を立てる。
79 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:03:05.99 ID: 4SVRL59Z0
……
…………。
(´‐ω‐`)「愚痴を聞いてもらいたかっただけだから。もう話し終えたし寝てもいいよ?」
『話を聞いてたら目が冴えてきてしまったんだ。まあ聞け。
世の中不条理なことが多い。
だから疲れもする。
そんなときはこう考えれば楽になれるぞ』
(´・ω・`)「……」
『人生なんてそんなものだ、とな』
(´‐ω‐`)「……駄目じゃん」
『駄目じゃないぞ。
不条理だらけの人生なら疲れるのは仕方がない。
だからそこは問題じゃないんだ。
問題とするべきは“自身が決めた目的を達成するか否か”だ』
(´‐ω‐`)「……結果論ね」
80 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:05:36.17 ID: 4SVRL59Z0
『疲れたからここは引く。
悪いことじゃない。
一言で目的と言っても、その価値は大小様々だ』
(´‐ω‐`)「もう、いいよ」
『だがその目的の価値が最上級なら話は別だ。
その時ばかりは引いてはいけない。
例えどのようなことをしても達成しなければならない。
そんなに自分が嫌なら、その安い命くらい懸けてみろ』
(´‐ω‐`)「もういいと言ったのが聞こえなかった?」
『断る。
最上級の目的があるとすれば人生を嘆くよりすることがあるだろう?
疲れたからなんだ。あれこれ言う他者ななんて無視しろ。半端を許すな』
(´‐ω‐`)「その結果、半端な君が生まれ落ちたのは面白い冗談だね」
『それを言われるとキツいが……その通りだ。
だから私の真似をしろとは言わない。
参考程度に留めておいてくれ』
(´‐ω‐`)「参考にもならないよ」
82 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:07:53.12 ID: 4SVRL59Z0
(´‐ω‐`)「君と違って僕は弱いんだ。
どんなに頑張っても、最上級の目的を達成できるとは限らないことを知ってる。
身の程は弁えてるさ」
『ショボン、キミは』
(´ ω `)「自分が屑だということも理解している。
屑の身分で救いたい人間が2人いるってのが愚かしいことだということも知ってる。
それでも黙って見過ごすのは耐えられないから足掻くしかないんだ。
結果なんて知れてるのにね」
『…………』
(´ ゚ω゚ `)「この苦しみが分かるかい?
分からないだろうね。
所詮は弱者の戯言だ、強者に分かる筈がない。
地獄という場所があるならこの世がまさにそうだ。
どうしようもない痛みに晒されて止む気配がない。
こんな所で僕にどうすればいいんだよ!!」
……
…………。
从;゚∀从「……ウワァ」
83 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:10:04.00 ID: 4SVRL59Z0
あちらがヒートアップしたおかげでオレの頭はクールダウンしてた。
いつものどこかとぼけた表情が消え失せてる。
あんなショボンは初めて見たな。
『顔が気持ち悪いから落ち着け』
クーの声が響く。
おっと聞き耳聞き耳。
……
…………。
『あのな。
ショボン、キミは1つ勘違いしている。
私は強いかどうか分からないが少なくとも力がない』
(´ ω `)「どの口が言っているのやら」
『定義はまちまちだが、力とは“望みを叶えるのに必要なもの”だと私は考えている。
私にも頭を悩ます問題がある。
同化してから発生した問題だ。分かるだろう?
いつまでもダラダラとそれを引きずってる奴に力があると思うか?』
(´ ω `)「…………」
86 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:12:48.86 ID: 4SVRL59Z0
『確かにこの世は地獄と同じだろうな。
どんなに頑張ってもどうしようもないことだってある。
だからといって救われる可能性がないとは思わない』
(´ ω `)「何でそう考えるんだい?」
『ただの願望だ。
諦めたらそこで試合終了って言うじゃないか』
(´ ω `)「諦めなかったらいい結果を残せるとでも?」
『そんなの知らんよ。
実践して確かめればいい……ちなみに私も今、実践中だ。
まあそんなわけだからキミもめげずに今まで通り頑張ればいい。
だが、もし結果も見ずに諦めるのなら仕方がない。
君にこの言葉を贈ろう。……“去勢して名実ともに玉無しとして隠居しろ”』
(´ ω `)「つまり今まで通り苦しめと?」
(´・ω・`)「……相変わらず君は手厳しい」
『なに、人生なんてそんなものだ。
それと手厳しい言葉を相手に送るのが私だ、今更変える気もない』
(´・ω・`)「まあ、おかげで気が楽になった。
コテンパンにやられて逆に清々しいよ」
88 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:17:02.69 ID: 4SVRL59Z0
『そう褒めるな。
あと1つ言いたいことがある。
ヒートの問題の詳細はほとんど分からないから何とも言えない。
でも、ハインの件なら心配いらないと思うぞ』
(´・ω・`)「……殺されそうになって心配いらないと言う理由を教えてもらいたいね」
『簡単だ。
ショボンもハインもまだこの世にいる。
あとはハインが心変わりすればいいだけなんだから』
(;´・ω・)「それが難しいんじゃないか」
『キミは言ったはずだぞ。
“ハインは子供ゆえに弱かった。
だから精一杯強がってた。
必死になって男言葉を使い、そして狂っていってしまった。”ってな』
(;´・ω・)「それが?」
『それはハインの過去のことを言ったのだろう?
だけどな、それは今日のハインとどう違う?
ハインは男言葉を使い、狂人のようにキミに迫っていた。
で、私は思ったんだ』
(´・ω・`)「何を?」
89 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:19:24.14 ID: 4SVRL59Z0
『どんな生き物にせよ子供は成長しやすいものだ。
何年も会わなかった彼女が過去と変わらずにいるのはあり得ない。
つまり……』
(´・ω・`)「つまり?」
『ハインは演じてると思う』
(´・ω・`)「……なんでさ?」
『それは本人に聞け。なあハイン』
……
…………。
从;゚∀从「っ」
気づいてやがったのかよ。
オレの存在にも。
オレの演技にも。
今更逃げても遅いだろう。
逃げられるのなら逃げたいのだけどなあ。
……畜生、クーめ。
ドアを開ける。
91 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:22:22.49 ID: 4SVRL59Z0
从 ゚∀从「ここにいるっていつから気づいてたんだ?」
『キミが部屋を出てからマニュアル使って気配を探ってた。まあ一応警戒してたってことだ』
从;゚∀从「……最初からかよ」
(´・ω・`)「ハイン、君は」
从;゚∀从「あーあー、もう答えてやるよクソッタレどもが!!」
溜息を吐く。
仮面を無理やり剥がして話してやることにする。
久々のすっぴんだから上手く話せるか分からないが。
从 ゚∀从「強がってたのは本当だ。
お前らも言ってたが、オレもこの世はまさに地獄だと思ってる。
だから必死で仮面をつけて演じてた」
(´・ω・`)「……」
『……』
从 ゚∀从「オレは弱いからな。
強がってなきゃやってられなかったんだ。
演じてなきゃアタシがつぶされると思ってたんだ」
92 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:25:47.48 ID: 4SVRL59Z0
从 ゚∀从「ショボンがアタシの不死身体質を治す薬を作ってくれたのは正直言ってありがたい。
だけど憎いっていうのも正直な気持ちだ。
どうしてアタシをこの地獄に縛りつけようとするのかってな」
从 ∀从「それ以前にそんな偽善で満足するショボンを想像するとムカついた。
どうして今頃優しくしてくれるんだよ……そんなこと、されたら」
頭が痛い。
声が思うように出ない。
目の奥から熱が噴き出す。
从 ;∀从「そんなことされたら、何のためにアタシは……強がってたか、分からなくなる……だろうが。
男言葉を使って狂ったふりをしてた。
オレが徹底的にないがしろにしたアタシに……優しくすんなよ……」
……結局上手く喋れなかった。
頭の中は空っぽのくせに言葉も涙も止まらない。
ずっと昔、ハインは子供のアタシじゃなく狂人のオレになった。
そうして研究所にいたころからずっとオレで過ごしてきた。
オレは弱いが、アタシよりは強い。
だからアタシをオレの仮面で隠してきた。
仮面は頑丈になっていったが、素顔は脆いままだ。
それゆえ涙が止まらないのも心のどこかで納得していた。
(´・ω・`)「……ハイン」
94 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:28:24.84 ID: 4SVRL59Z0
ショボンがアタシの方に近づいた来た。
そのままアタシの頭を抱き寄せた。
特に抵抗しなかった。
(´・ω・`)「ごめん。
身勝手だけど僕はハインへの姿勢を変えないよ。
僕はもう駄目なんだ。
もう……知り合いが苦しむ姿を見るのは耐えられないんだ」
从 ∀从「……サイテーだな」
(´・ω・`)「自覚してる。
でも覚えてる?僕は君の言いつけを守っただけなんだよ」
記憶にない。
そんなこと本当に言ったのだろうか?
(´・ω・`)「“オレの愛する鬼畜でいてくれよ”
こう言われたから君が一番嫌いそうなことをやってみたんだよ。
もっとも僕もつらかったからこんなことをやったんだけど」
……そんなこと、確かに言ったな。
成程、手前は鬼畜だ。
本当は自分がそうしたかっただけなのに、わざわざオレの言葉を理由に組み込むところが特に気に食わない。
95 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:30:45.73 ID: 4SVRL59Z0
(´・ω・`)「……もう強がるのはよそう。
君は弱い。そして僕も弱い。
だから君と傷を舐め合いたいんだ。
別に僕のことを信用してくれなくていい。殺してくれても構わない。
君に殺されるのなら諦めもつく」
ああ、殺してやるよ。
手前はオレを怒らせた。
それだけで十分だ。DIO様も真っ青になるくらいボッコボコにしてやんよ。
(´・ω・`)「でもね、ただ1つお願いがあるんだ。
できれば、でいいけど僕がこれからやることに付き合ってくれないか?
もしかしたら君の人生に希望を生み出せるかもしれない」
短いながらもそれなりに生きてきたが……絶望だらけの人生だった。
そして、そんな人生に突き落としてくれたのがこの男だった。
この男が言う希望とやらにどれほどの価値があるだろうか。
嘘に決まってる。
オレはこの男が憎い。
ここまで虚言を吐ける男を許してはいけない。
97 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:33:35.54 ID: 4SVRL59Z0
ゆっくり、ナイフに触れる。
オレとの約束を破り、甘い言葉で誘惑しようとした。
それだけで万死に値する。もう遠慮しない。
じゃあな、ショボン。
从 ∀从「……」
(;´・ω・)「……ハイン」
ショボンの背中に手を回す。
ナイフは……握れなかった。
从 ∀从「しばらく……このままでいてくれ」
ショボンは何も言わない。
顔を見られたくないと分かったのだろうか。
アタシだって一応女をしてるんだ、すっぴんを見られたら恥ずかしく思うさ。
だってしょうがないだろ?
気づいてしまったんだから、ナイフを握れるわけないだろ?
もう仮面が使えなくなったんだから。
だからすっぴんでショボンの胸に顔を押し付ける。
目から汁が出ても見られなければ問題ない……よな?
98 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:35:52.56 ID: 4SVRL59Z0
从 ∀从「……しょうがねえから……お前に付き合ってやるよ」
それだけしか言えなかった。
それだけでも十分だった。
ショボンの驚きが伝わる。
後はもう何もできない。
落ち着くまでこのままでいよう。
(´ ω `)「……クー。君が言ってたことはこういうことかい?」
『何が?』
(´ ω `)「ハインは心配いらないって言ってたじゃないか。
その理由をまだ聞いてなかったからね」
『そういえば長ったらしい前置きだけ話して結論を言ってなかったな。……簡単なことだ』
100 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:38:42.58 ID: 4SVRL59Z0
『演技をするということは嘘をつくこと。
そして嘘とはつき続けると錆びて脆くなるもので、いつかは壊れる。
だから心変わりする。後は心をこめて説得すればどうとでもなるだろ?』
(´ ω `)「……最後らへんは見立て、甘くない?」
『人間なんてそんなものさ』
(´ ω `)「そう」
『とは言え、再開したばかりで説得成功とはキミもなかなかテクニシャンだな』
(´ ω `)「そう」
『よかったな2人とも。私は喜んで今日の出来事を祝福するよ』
(´ ω `)「そう」
『…………あー』
101 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 18:41:32.82 ID: 4SVRL59Z0
『……ではお邪魔虫は寝ることにするよ。
あと1つためになるアドバイスをしておこう。
感涙するのは勝手だがドクオに会う前に顔を洗っとけよ、2人とも』
从 ∀从「……うっせえ早く寝ろ」