2 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 15:36:41.34 ID: 4SVRL59Z0
しかし町を出ても狼には行くあてなどありませんでした
狼には目的もありませんでした
狼は赤頭巾と楽しく暮らせればそれでよかったのですから
(´・ω・`) 〜赤頭巾7・前〜
3 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 15:40:08.94 ID: 4SVRL59Z0
夕明かりが町を包み込むように照らしている。
空を見上げれば容易に一番星を見つけることができるだろう。
それはしかし、外に出ることができない今の僕には関係ない話だ。
うん、仕事中なんだ。
さらに言えば、今、バーボンハウスにいるのは僕1人だけだったりするからなおさらなんだ。
……訂正。
今、バーボンハウスには2人の人間がいる。
ただしもう1人は店員ではなく客なのだが。
('A`)「……今日はクーの奴いないのか?」
(´・ω・`)「まだ来てないだけだよ」
('A`)「そか」
それだけ言うとドクオは鞄の中に手を突っ込み、ごそごそと何かを探し始めた。
先ほどの会話は“どうしてクーがいないのか?”という疑問に繋がるのではなく、むしろクーがいないことを確認しただけのようだ。
つまり、今から“クーがいないから”できる用件を切り出そうとしているらしい。
大体見当はつくけどね。
('A`)「とりあえず3ヶ月分だ」
ドクオはそう言いながら鞄から封筒を取り出す。
封筒の中身は彼が貯めたお金が入っているだろう。
まだ中身を確認していないが、確信している。
4 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 15:42:27.81 ID: 4SVRL59Z0
(´・ω・`)「いつもすまないね」
('A`)「いいよ別に。お前の研究の成功を願ってるのは俺も同じなんだし」
封筒を受け取る。
これは今に始まったことではない。
とある一件であの研究所をやめて、1人でひっそり研究を続けようとしていた時、ドクオは僕に援助してくれたのだ。
ドクオが仕事で貯めたお金を僕に渡しにくるようになったのはそれからだ。
1人で研究するのは生易しいものではない。
特に金銭面で苦労する。
必要な装置1つ買うだけでも数百万するのが普通なのだから。
だから、情報を売買できる職……つまりバーボンハウスを立ち上げた。
稼ぎがいい、片手間で研究ができる、さらに僕のもう1つの目的を考えるとこれしかなかった。
しかしそれでも研究をつづけていくためには、まだきつい。
個人的な理由で研究をやめるわけにはいかないので、ドクオには感謝している。
感謝しているが……申し訳ない。
5 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 15:45:45.64 ID: 4SVRL59Z0
(´・ω・`)「クーから聞いたよ。かなりひもじい思いをしているそうじゃないか。
お金の援助はありがたい。
けど無理はするなっていつも言ってるだろうに」
('A`)「大丈夫。ちゃんと生きてるから」
(´・ω・`)「……君にもしものことがあったら残された僕はどうなるんだよ」
('A`;)「あー……」
('∀`;)「しっかし、いつも金を持ってくるときに限ってクーはいないよな!案外空気読めるんじゃね、あいつ?!」
話題を強引に変えるなよ。
今日ばかりは頭が上がらないから、その話題に食いついてやるけどさ。
(´・ω・`)「ハァ……この前は非番、さらに前は彼女自身、精神的に追い詰められてたから休んでたんだよ。
ただ単に運が良かっただけだよ。
まあ、クーは特にお金がないわけじゃないから隠さなくてもいい気がするけど」
しかし、ドクオが隠し事したい時にいないなんて間が良いのやら悪いのやら。
一応、今日はここに来るはずなんだけど……何かあったのかな?
クーが来ないことを疑問に思い始めた頃になって店の入口……正確にはドアの外から足音が聞こえた。
やれやれ、やっと来てくれたか。
7 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 15:48:59.14 ID: 4SVRL59Z0
そうしてドアが開く。
(;´・ω・)「遅刻乙。理由はあとでたっぷり………………っ!」
言葉が、続かない。
開いたドアから2人の女性が出てきた。
1人は当然の如くクー。
ただし所々服が破け、ぐったりしている。
そのクーに肩を貸しているもう1人の女性。
不気味な程の色のない頭髪、それに同調しているように透き通るほどの白い肌。
その白の中で強烈に主張している目の下のくまは昔と変わらず、懐かしく思えた。
从 ゚∀从「……よぉ」
(;´・ω・)「…………」
なんで君がここに?
なんで君はクーを?
なんで3年間音沙汰なかった?
様々な疑問が頭の中をよぎるが、それらを上手く口に出せない。
(;´・ω・)「な……んで?」
かろうじで出てきた言葉は何に対してか自分でも分からない。
ハインはその曖昧な疑問を無視して僕の方に向かってきた。
从 ゚∀从「手前とは積もりに積もった話に花を咲かせたいところだが……とりあえずこいつをどうにかしろ」
8 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 15:51:50.46 ID: 4SVRL59Z0
川 - )「……」
よく見るとクーの体のいたるところに電流斑、電紋が見られた。
よほど近くで高圧電流を浴びたか……もしくはクー自身が放出したか。
('A`;)「おい、そいつ生きてるのか?」
从 ゚∀从「残念ながらな」
(´・ω・`)「……ハイン、クーを連れて僕の後についてきてくれ」
从 ゚∀从「……」
('A`)「あれ?ショボン。その女と知り合いか?」
ドクオの質問を沈黙で答える。
ハインが来たことで動揺してしまっているし、クーを早く治療しなきゃいけないのでお喋りする余裕が今の僕にはない。
地下室へ続くドアを開く。
10 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 15:55:20.45 ID: 4SVRL59Z0
从 ゚∀从「……そうだ。おい、そこの貧相顔」
地下への階段に一歩踏み出そうとしていた時、後ろでハインの声が聞こえた。
顔をハインへ向けると、彼女は彼女でドクオへ顔を向けていた。
どうやら先ほどのはドクオに呼びかけたものらしい。
('A`;)「あれ?貧相顔って俺のこと?」
从 ゚∀从「当然だろ。まあそんなことはどうでもいい。お前も来い」
('A`;)「何で俺も?」
从 ゚∀从「人の目があるとこいつと一緒でも平静を保っていられる。保障はしねえがな。
切れやすい血管が切れずに済むに越したことはないだろ?
まあしょぼい備えだが、ないよりはマシってことだ」
('A`;)「えーと?」
(´・ω・`)「ドクオ。僕からも頼む」
頭の悪いハインにしては名案だった。
他者の目があると人間、大それたことはできない。
ドクオがいるだけで身の安全性が向上するので僕からも頼んだ。
ドクオは僕らの頼みに多少混乱しながらも頷いてくれた。
11 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 15:57:48.38 ID: 4SVRL59Z0
その後、僕らはクーの治療をするために地下室に入る。
はじめに僕が部屋に入り、その後ろをドクオ、ハイン(&クー)の順番に続く。
僕とハインの間にドクオが入っているのはもちろん安全策だ。
この際だから言ってしまおう。
僕とクーの関係は実験者と被験体のそれだ。
3年前までVIP研究所で僕はハインを使って様々なことを試した。
薬物投与、薬物投与の影響を調べるための解剖、人体の強度を調べるための拷問、etc。
僕の目的のためにやったことだが、今から考えると狂気の沙汰としか思えない。
そう思えるようになったのも、3年前のあの日にハインから教えられたからだろう。
だからこそあの研究所で研究を続けていくことができなかった。
しかし、だからといって僕とハインの関係は3年前と変わらない。
例え、僕の考えがあの時と変わっていてもハインが変わらなければ僕らの関係も変わらない。
そして僕には変える気もない。これは今まで冒涜し続けてきたハインに対しての謝罪なのだから。
('A`;)「あのぅ〜……なんか空間がすっごい重く感じられるんですけどぉ」
(´・ω・`)「その感覚は正しいけど空気嫁」
13 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:01:03.43 ID: 4SVRL59Z0
そんなこと言われなくても分かってる。
ハインは間違いなく僕を憎んでるのだから。
……やることがあるから今はあまり考えないほうがいいかな。
(´・ω・`)「ハイン、クーをそこのベッドまで運んで」
从 ゚∀从「……」
ハインは無言で僕の言ったとおりにベッドに運び、クーから離れる。
代わりに僕がクーへ近づく。
(´・ω・`)「クー、意識はあるかい?」
川 - )「……一応は」
(´・ω・`)「そうか。今どうなってるか自覚しているかい?」
川 - )「義手、義足の一部破損。
全身に感電による火傷。
呼吸器官に異常。
鼓膜の破損もあるな。
他にもいろいろありそうだが、あとはスキャンして確認してくれ」
いや、意識がはっきりしてるか確認したかっただけなんだけど。
そこまで詳しく言われると……なんと言うか……ねぇ?
14 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:04:29.36 ID: 4SVRL59Z0
('A`)「あれ?鼓膜破けて呼吸器官に異常あるのになんで聞いたり話したりできてんの?」
(´・ω・`)「振動を操るマニュアルを応用してるんだろ。
まあ、今からパパッと治療するから。
とりあえず服脱がすね」
川 - )「たのむ」
('A`;)「え?ちょっと待って」
??
どうしたのドクオ?
……ああ、そうか。
(´・ω・`)「手術をするから多少グロいかもしれない。背を向けてくれても構わないよ」
('A`;)「いや、グロなら蓮画で見慣れてるからいいけど……脱がすの?」
(´・ω・`)「??当たり前だろ」
('A`;)「ごめん、なんか場違いみたいだから上で酒飲んでるわ」
从;゚∀从 「待て」 (・ω・`;)
16 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:07:14.60 ID: 4SVRL59Z0
部屋から出ようとするドクオの襟をハインが掴む。
「ぐぇっ」と聞こえたような気がするが、おそらく気のせいだ。
('A`;)「げほっ……何すんだよ?」
从;゚∀从「別に裸くらい見たって構わねえよ」
川 - )「キミが言うな。
確かに不可抗力なら裸くらい見られても致し方ないが」
('A`;)「俺はウブなチェリーボーイなんだよ!
例え背を向けてやりすごそうとしても、服を脱がす気配だけでもキツいんだよ!!
貞子たんに呪いをかけられた方がまだマシなんだよ!!!」
从;゚∀从「ウブとかチェリーとか……んなこと気にしねえから。てか手前はここにいろ」
('A`;)「なんでさ?!人の目だったらクーがいるじゃねえか!!」
从;゚∀从「人の目は多い方がいいんだよ!!」
(´・ω・`)「……」
頑張れハイン。
17 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:10:29.07 ID: 4SVRL59Z0
('A`)「ごほん!……えーと。もう一度確認するけどいいか?
お前らは俺に残ってほしいの?」
(´・ω・`)「残ってほしいよ」
从 ゚∀从「残れ」
川 - )「『長いものに巻かれろ』思想で残ってほしいに1票」
('A`)「……そうか」
(;A;)「皆で俺を釣ろうって考えだな!
そもそもこんなに大勢に俺が必要とされることなんてねーんだよ!!
それくらい自覚してんだよバカヤロー!!!」
訳の分からないことを口走り、部屋を飛び出るドクオ。
鬼、悪魔、人でなし、という科白のおまけ付きで。
唖然とその姿を見送る僕とハイン。
1人だけ阿呆な光景に動じてない人がいたが。
川 - )「彼はL5発症者か?今度みてやれショボン」
こっちもこっちでとんちんかんな事を言っており、僕は頭が少し痛くなった。
19 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:13:51.06 ID: 4SVRL59Z0
……
…………
その後、気を取り直してクーに治療を施した。
スキャンした結果、クーが話した以上の怪我は見つからなかった。
内臓に多少出血が見られたが、体内にあるプロテクトで電流をある程度カバーしてたおかげか、簡単に治療できるレベルだった。
手早く局部麻酔して手術を終わらせ、後は義手、義足を取り換えカプセルにぶち込む……まあいつもとあまり変わらない方法だ。
川 - )「……全とっかえかよ」
(´・ω・`)「『神罰』使ったんだからこれくらい普通だろ。
どこか漏電してる可能性もあるんだし」
从 ゚∀从「……」
手術中に何が起こったかある程度クーに教えてもらった。
現在、僕は四肢の義手、義足を全て取り外し達磨状態のクーに新しい義手、義足を取り付けているところだ。
その作業中に僕の背中へハインの視線が突き刺さる。
それを無視して黙々と作業を続ける。
20 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:16:07.27 ID: 4SVRL59Z0
从 ゚∀从「そんなんで治るのかよ?」
ハインが口を開く。
彼女が聞いてきたのなら僕にも答える義務がある。
(´・ω・`)「治るよ。
このカプセルは治療専門の物だ。
実際何度も試したから大丈夫だよ」
从 ゚∀从「……ハッ。何度も試した、ねえ?
新しい被験体でも見つけたか?
それともそこのサイボーグが被験体か?」
(´・ω・`)「……」
…………。
23 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:19:53.05 ID: 4SVRL59Z0
僕が黙っていると、それを見かねたクーが口を出す。
川 - )「あー、1つ言っておくが。
私とショボンは常に利用し合ってるんだよ。
このカプセルはショボンの研究の成果を試すのと同時、私の怪我を治すのに都合がいいんだ。
私は病院なんかに籠れる身じゃないからな」
つまり進んで被験体になったのだ、とクーは締めくくる。
別に擁護しなくてもいいのに。
でもまあ、利用し合ってるというのは間違いじゃないので訂正しない。
クーの情報を流して利益を得たり、逆に情報を操作してここにいる間は手出しできないようにしている。
クーもそれが分かっているから、ここに居座って敵の情報を得たりしている。
从 ゚∀从「……らしくねえな」
ぼそりとハインは呟く。ごもっとも。
(´・ω・`)「とりあえずカプセルに入れるから。
義手、義足の肉付けが済んだらもう終わりだから。
それまでゆっくりお休み」
川 - )「把握しt……っと、そうそう。ハインに言っておくことがある」
从 ゚∀从「……なんだ?」
川 - )「カプセルから出てショボンが地べたを舐めまわしてたら、今後お前を苛め続けるんでよろしく」
24 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:23:44.36 ID: 4SVRL59Z0
宣言したとおり、クーをカプセルの中に入れて蓋を閉める。
カプセルの外にあるスイッチを押し、やがて内部を液体が満たす。
液体がクーの体を飲み込むのを確認してから、僕はハインに体を向ける。
(´・ω・`)「とりあえず小休止だ。
電流で体中焼かれたから破損した細胞をナノマシンで取り除く必要がある。
そのあとでHT酵素で治療するから結構時間かかるよ」
从 ゚∀从「……そうかい」
ナノマシンは細菌や癌細胞、傷ついた細胞を除去する点では大変いい働きをする。
しかし、健全な細胞と区別して除去するため時間がかかる。
クーがカプセルから出てくるのは大体……1時間半程度かな?
(´・ω・`)「これからどうする?」
从 ゚∀从「さっき逃げていった男は上で酒飲んでるんだっけ?」
(´・ω・`)「それっぽいことは言ってたね。呼んでくる?」
从 ゚∀从「酔っ払いはどんな状況においても足手まといだからいらん」
(´・ω・`)「そうか。なら」
(´・ω・`)「ちょっと話をしようか」
26 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:26:13.40 ID: 4SVRL59Z0
ハインは無言で頷く。
とりあえず聞きたいことがあったので聞いてみた。
(´・ω・`)「君はこの3年間どうしてた?」
从 ゚∀从「研究所とか政府から逃げるために穴倉でひっそり隠れてたよ。
最近になってクーをスカウトした。まあそれくらいだ。
……そういえば俺が来たとき驚いてたな。
クーから聞いてなかったのか?」
(´・ω・`)「聞いてないよ。
そもそも僕らは互いに利用し合ってる関係だ。
教えたら不利になる情報をくれるほど彼女は手ぬるくないよ」
从 ゚∀从「そうか」
(´・ω・`)「……」
从 ゚∀从「……」
会話が途切れてしまった。
なんともいえない空気が場を占める。
…………。
な、何か話題を出さないと!
28 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:29:07.83 ID: 4SVRL59Z0
从;゚∀从「あ、えと……お前はどうなんよ?この3年間どうしてたんだ?」
ハインも気まずく思ったのか、僕に質問してきた。
正直ありがたい。
ありがたいので質問に答えた。
(´・ω・`)「……うん。
研究所をやめてここで酒と情報を売ってるよ。
それから細々と研究を続けてるね」
从 ゚∀从「何でやめた?」
(´・ω・`)「……まあ思うところがあってね」
从 ゚∀从「フーン」
また会話が途切れた。
僕も話題を提出しないとな。
いい加減、ハイン先生に怒られそうだ。
さて、いい話題ないかな?
从 ゚∀从「おいショボン。準備、できてるか?」
――――――それは悪い話題だよ。
30 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:31:52.70 ID: 4SVRL59Z0
過去のことを罵倒されるならまだいい。
例え僕が彼女に殺されることになっても罪滅ぼしということで諦めがつく。
しかし……その話題だけは出してほしくなかった。
一応とぼけてみる。
(´・ω・`)「準備、とは?」
从 ゚∀从「お前の下から離れるときに頼んだやつだよ。
3年も待ったんだ、もう作ってあるんだろ?」
結果は無意味だった。
どうやっても話はそらせそうにもない。
从 ゚∀从「……おい。できてない、とか言わないよな?」
(;´・ω・)「……」
(;´‐ω‐)「……試作品はできてる。
実際に試す機会がなかったから絶対効くとは言えないけど」
从*゚∀从「やるじゃん」
31 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:35:10.14 ID: 4SVRL59Z0
僕の答えを聞き、ハインは満足したみたいでニヤニヤしている。
その表情を半ば諦めの心で見つめる。
3年前のあの日を思い出す。
……。
…………。
从*゚∀从「おい、覚悟はできてんだろーな?」
(´・ω・`)「覚悟、か。こんなことをしてたのだから罰を受ける覚悟はできてるさ」
从*゚∀从「ほーぉ?それはいい心がけだなオイ!!」
(´・ω・`)「ただ1つだけ未練があるんだ。だから君に託していい?」
从 ゚∀从「あぁん?」
(´・ω・`)「いままでの研究データを君に渡す。君が研究を引き継いで、ある人物を助けてほしいんだ」
从 ゚∀从「……なんでオレがそんなことをしなきゃならねえんだよ?」
(´・ω・`)「……」
32 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:38:22.53 ID: 4SVRL59Z0
从*゚∀从「そもそもそんなことオレにできるはずないじゃん!
まだ8歳ですからー!!w
……あれ?7歳だっけ?それとも9歳??」
どんなに贔屓目に見ても15〜6歳の少女は笑いながら僕を覗き込む。
馬乗りにされてる僕は薬で成長促進された少女を見上げる。
その時僕はどんな表情をしていたか?鏡で確認したわけではないので分からない。
無表情に徹していたつもりだが、おそらく上手くできてなかっただろう。
聖人君子やサイボーグならできるだろうが、生憎僕は泥にまみれた人間なのだ。
そのことを身を呈して教えてくれた少女がいた。
ただ、少女は狂ってしまった。
僕のせいで。
从*゚∀从「ねぇ?オレって何歳なの?
っていうかオレってなんなの?
頭吹っ飛ばしても死なない体ってことは、オレもしかしてトカゲ?火の鳥?それとも神様?
だーれーかーおーしーえーてーよーぅwwwwww」
“幹細胞を用いた再生医療の実用化”の研究。
それが僕の研究内容だ。
幹細胞とは細胞分裂を経ても、同じ分化能を維持する細胞のことを指す。
つまり幹細胞は理論上、体を構成するすべての組織や臓器に分化誘導することができる。
この技術が確立されれば、免疫拒絶の無い臓器の作製などが可能……と考えられている。
ただしこの技術は昨今、実用化ができなかった。
著しい細胞の癌化、高度な機能と構造を持った組織や臓器レベルの再生は難しいetc……など問題点もあるからだ。
33 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:40:28.40 ID: 4SVRL59Z0
簡単に説明すると『色々ありすぎて大変』なものなのだ。
それでもこの技術が確立すると、医療レベルは格段に上昇する。
だからこそ日夜、研究する価値のあるものなのだ。
……ここまでが研究の建前。
VIPはこの技術を『あわよくばvipperにも施して戦力向上させよう』とも考えていたらしい。
新しい技術を戦力に利用しようという考えは何とも人間らしい。
まあ、そんなこと僕には関係ないけどね。
そんなこんなで研究しまくって実用化するための理論が完成した。
あとは臨床実験で効果の確認だけだ。
そうしてそこらへんにいるストリートチルドレンを捕まえて、説得して、軽く切り傷をつけて、その傷を再生させるために臨床実験して……
結果は失敗。
切り傷は治った。
しかし癌化による異常なのか、どんな傷でも即再生する体になった。
不死身人間が誕生したというわけである。
そこから先は凄惨の一言に尽きる。
上はそれでもいいと思ったらしく(医療ではなく兵力としてのみ利用しようと考えたのだろう)、少女の性能を試すよう命令してきた。
僕は目的があってこの研究をしていたのであって、この度の失敗でクビにされるのが怖かったが……この命令で救われた気がした。
だから試した。徹底的に試した。
彼女の名前から取った幹細胞の分化誘導、制御をするHT酵素の取り出し。
薬物投与、筋力増強、成長促進、戦闘訓練。
あとは悪魔の所業といっても過言ではない様なテストを繰り返し行い……
35 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:43:06.82 ID: 4SVRL59Z0
……結果はこれだ。
从*゚∀从「フフィヒヒヒヒヒヒヘヘヘヘヘwwwwwwwwwww」
ひどく後悔した。
目的のためとはいえ、やってはいけないことをしたと思った。
子供が見る世界は小さい。
彼女の見る世界は僕の研究室くらいなものだろう。
……もし、その狭い世界で自分を食い物にする怪物と過ごさなければならないとしたら、果たして人間はどうなるだろうか?
(;´・ω・)「ハイン」
从*゚∀从「なんだよwwwwwww今笑うので忙しいんだから後にしろよwwwwwwwwwwwww」
(;´‐ω‐)「……ごめん」
从 ゚∀从「」
从 ∀从「ふざけろ」
ぴしゃりと言い放つ。ごもっとも。
37 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:45:58.80 ID: 4SVRL59Z0
从 ゚∀从「何が『ごめん』だよ。
何が『ある人物を助けてほしいんだ』だよ。
手前はそんな奴じゃねえだろうが」
(;´‐ω‐)「……」
从*゚∀从「まあいいや。
どうせアタシにゃアンタしかいないんだ。
ダルマだけにしておこうと思ったけど……決めた。
口も縫っちゃお♪」
从*゚∀从「うん、そうしたほうがいい!
うはwwwwみwなwぎwっwてwきwたwww」
一人称をめちゃくちゃにしてハインは僕の上で笑う。
現状、押し倒されて馬乗りにされてる状態ではなす術がない。
だから僕は答える。
( ´‐ω‐)「それが君の望みなら……好きにすればいい」
从*゚∀从「あっるぇ?未練があるとかいってなかったっけぇ?」
( ´‐ω‐)「どう考えても無理だろ。
今の僕にはどうやっても君を抑えることができない。
だから諦めた」
从 ゚∀从「……」
38 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:48:45.40 ID: 4SVRL59Z0
从 ゚∀从「……望みならある」
(´・ω・`)「?」
从 ゚∀从「殺してくれ」
(;´・ω・)「!」
从 ゚∀从「もう痛いのも苦しいのも嫌だからさっくり殺してくれよー」
(;´‐ω‐)「…」
……。
……………………………。
(;´‐ω‐)「今すぐにはできない」
从 ゚∀从「いつかはできるんだ?」
(;´‐ω‐)「できるよ」
从*゚∀从「……そか」
39 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:52:29.21 ID: 4SVRL59Z0
ハインは僕から離れる。
从 ゚∀从「それならオレを殺せるようになるまで待ってるわ」
(´・ω・`)「離れてくれたのはありがたいけど……疑わないんだね」
この場しのぎの嘘と思われても仕方がないと思ったんだけど。
僕を好き勝手に動かせたら、ハインから自由を奪う方法も出てくる。
だからこそ違和感を覚える。
ハインは言った。
从 ゚∀从「疑おうが疑わないだろうが関係ねえよ。
どうせここ出るもん、オレ」
(´・ω・`)「出る?」
从 ゚∀从「もうここにいられるわけねえじゃん。
今、ここから出なかったらビバ☆絶望人生なんだろ?」
(´・ω・`)「……まあね」
あくまで確認のための質問。
ならば嘘をついても仕方がない。正直に答える。
ハインはそれに満足したように頷き、言葉を続ける。
40 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:55:10.92 ID: 4SVRL59Z0
从 ゚∀从「だからしばらく姿を眩ませるわ。
そーゆーわけなんで次に会うまで俺を殺せるようにしとけよ。
できなかったら一生オレの人形してもらうから」
期限が曖昧すぎるためなんとも言えないのが本音だが、努力はしよう。
黙って頷いた。
从*゚∀从「それまでオレの愛する鬼畜でいてくれよ、ショボン」
(´・ω・`)「……気をつけてね。ここの警備も優秀だから捕まらないようにね」
从 ∀从「だっから今更いい人ぶるなよ気色わりー……」
そうしてハインは脱走した。
脱走の件に関しては減給だけに留まったが、僕はそのまま研究所を辞めた。
あのままいたら、第二のハインを作らせられる気がしたからだ。
そして何より僕自身、ハインに罪悪感を感じてしまったからだ。
モルモットに感情移入してしまう奴はあの研究所から早々に立ち去った方がいいだろう。
41 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 16:58:25.88 ID: 4SVRL59Z0
そうして月日は流れ今日までバーボンハウスで頑張ってきた。
やることはいろいろあった。
酒を売る。
独自の情報網を築き、そこから得た情報の売買。
利益の殆どを研究費に宛て、今までの研究の続行。
研究と並行して、ハインから頼まれた物の作成。
クーがバーボンハウスに来たため、実験の協力と情報の一部を頂戴する。
そのかわりの、クーに被害が出ないようにするための根回し。
後はハインの居場所の特定。
最後だけ上手くできなかったが、今となってはどうでもいいことだろう。
ハインが直接僕に会いにきたのだから。
…………………。
………。
「で、どんなものを用意したんだ?」
(;´・ω・)「……?」
从#゚∀从「おーいそこの鬼畜野郎。呆けてるんじゃねえぞ……ったく」
(;´・ω・)「あ……ごめん」
42 名前: ◆pGlVEGQMPE Mail: 投稿日: 2008/04/29(火) 17:01:13.94 ID: 4SVRL59Z0
从*゚∀从「まあいいや。早くオレを殺してくれ。
どんな方法でもいいからさっさとヤってくれ。
善は急がなきゃならないんだしな!」
(;´・ω・)「……ねえ」
从 ゚∀从「ん?どうした?」
この自殺志願者はさぞ苦しんだことだろう。
その苦しみの大半は僕の手によって築きあげられたものだ。
だからこそこれを聞かずにはいられなかった。
(;´‐ω‐)「……」
深呼吸を1つ。
気持ちは落ち着かなかった。
それでも無理して冷静さを纏い言った。
(´・ω・`)「まだ死なないって選択肢はないのかい?」
……表情には出てないと思う。
疑問を投げかけられた相手からすぐさま答えを返してきた。
ふざけろ、と。