5 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:19:09.37 ID: jhmJDjAX0
◆航海日誌

1485年果実月24日、コンスタンツァ港──

( ><)「日誌が輪番制になったので今日は僕が書くんです」

( ><)「今エスポワール号はボスポラス海峡を抜けて黒海を航行してるんです」

( ><)「もうすぐワラキュラ公国で一番大きな港町、コンスタンツァに着くんです」

( ><)「ここから陸路でワラキュラ国内を旅することになるんです」

( ><)「ドクオさんによると、ここに四番目の地図があるそうなんです」

(*><)「プレステ=イェゲーの国が乗ってる地図だと嬉しいんです!」

(*><)「ニーソクの為でもあるし、なによりチンポッポちゃんにまた会えるんです!」

( ><)「……でも、ミルナ皇帝のいるラウンジと戦争になってほしくはないんです」

( ><)「そうならないように、委員会を僕が何とか説得するんです」

( ><)「あ、全員集合の合図です。きっと入港の準備なんです。それじゃ、この辺でペンを置くんです」

 

 

7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:20:23.17 ID: jhmJDjAX0
◆1

低く林立するハンザ・コグの帆柱を掻き分け、エスポワール号が凪いだ水面を
滑るようにコンスタンツァ港へと入港する。甲板から見える前ルネッサンス風の
質実剛健な造りをした商店や家屋、行き交う男女の流行からは程遠い衣服、
隙間に苔がくまなく生した石造りの桟橋は、この町が建てられたときから
何一つ変わっていない──そんな印象を見る者の目に与えた。

( ^ω^) 「なんだか、エスポワール号より小さい船ばかりだお」

ブーンの言葉どおり、係留作業を進めるエスポワール号の周囲には、キャラックはおろか
カラベルでさえ一隻として無い。コグ、コグスタ、軽ガレーといった20人足らずで
動かせるような小型の貿易船や、祖父の代から補修を繰り返してきたような
継ぎ接ぎだらけの漁船がものうげに漂っているだけだ。

ξ゚听)ξ「黒海沿岸の貿易ならさほど大きい船でなくっても事足りるからね。
それに、特産品もわかっていない港に来るような物好きはあまりいないわ」

磨り減った玉石で舗装された桟橋を歩きながらツンが言う。

 

 

8 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:22:43.92 ID: jhmJDjAX0
 (‘_L’)「逆に言えば、売り出せるような目玉商品があれば私たちが交易ルートを
独占できるのですが」

( ^ω^)「おっおっお、それはいい考えだお。地図探しのついでに売れそうなものが無いか
あちこち見て回るお」

 (‘_L’)「こちらにはクラシックで仕入れたオリーブ油とワインがあります。
これならどこでも一定の需要は期待できますので、道中の旅費は賄えるでしょう」

ξ゚听)ξ「じゃ、アタシは港湾局で係留許可を貰ってくるから。フィレンクトさんとドクオは
荷馬車の調達をお願い。ブーンとビロードは荷揚げが終わったら船員に給金を払って、
数人を残して三週間くらい暇を出しといて」

(‘_L’)「かしこまりました」

( ^ω^)「了解だお」

港湾局への三叉路で、ツン、ドクオたちと分かれる。
船に戻り、給金を払う旨を告げると歓声が上がった。一人、また一人と作業を終えた者から
順に銀貨を受け取り、船乗り歌を口ずさみながら下町の酒場へと繰り出していく。
それまでの賭け事のつけを払う為か、その場で金銭のやり取りをする姿も見受けられた。

 

 

10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:24:33.38 ID: jhmJDjAX0
( ><)「ブーンさん、三週間も暇を出して大丈夫なんでしょうか?」

ビロードが心配そうに尋ねる。港から港までの一航海ごとの契約で雇っているとはいえ、
ヴィップやラウンジなどの港湾都市とは違い、いかにも寂れた感じのコンスタンツァでは
酒場にたむろする船員の数もそれほど多くはない。次に雇う時、十分な人数が集まるだろうか
というビロードの心配は当を得ていた。

「大丈夫だお。この港にある船は近海貿易用の小型船ばかりだお。
これなら地中海に出る船は無いだろうし、黒海を横断するにしても一週間はかからないお。
みんな期日までには港に戻ってきてくれるお」

と、ツンが言っていたお、とビロードに話す。甲板上でエスポワール号の見張りに残る
数人の水夫を除き、ブーンとビロード以外は既に下船していた。

( ^ω^)「……ドクオたちが戻ってくるまで暇だお。ちょっと港を見て回るお」

( ><)「でも、また迷子にでもなったら『帰ってくるまで船で留守番してろ』って言われそうなんです」

( ^ω^)「港からは出ないお。それなら迷う心配は無いお」

「うーん……それならちょっとぐらいは」

ξ# ー )ξ「何処へ行くつもりかしら?」

 

 

14 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:26:11.65 ID: jhmJDjAX0
溜息を吐きつつ、腕組みをしたツンが背後から声をかける。

ξ#゚听)ξ「まったく、ちょっと目を離すとこれなんだから。遊んでる暇はないわよ、
日が暮れる前に荷馬車に荷物を移さなきゃいけないんだから」

言葉の終わりを待たず、桟橋の石畳を打つ規則正しい蹄の音が聞こえた。
驢馬二頭に曳かれた、大型の幌付き荷馬車を操るフィレンクトが片手を上げる。

ξ゚听)ξ「ほら、口を動かすより手を動かしてどんどん荷物を運ぶ! お日様は待ってくれないわよ!」

(;><)「わ、わかりましたなんです!」

(;^ω^)「ツン、容赦ないおwww」

 

 

15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:27:30.15 ID: jhmJDjAX0
ξ゚听)ξ「……ま、作業が早く終わったら、余った時間で町を見て回ってもいいわ。
念のためにアタシも一緒に行くけどね」

( ^ω^)「本当かお! ありがとうだおツン! 大好きだお!!」

ξ////)ξ「ななな、何言ってんのよアンタは!! さっさと作業にかかりなさい!」

頬を赤く染めて怒鳴るツンをからかうかのように、驢馬の片方が嘶き声を上げた。

 

17 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:28:59.31 ID: jhmJDjAX0
◆2

葡萄月2日、カルパチア山脈──

5000フィートを超える山なみを豊かに覆う、ブナやミズナラの原生林。
 深緑の起伏を縫うように切り開かれた一条の峠道を、
車輪の下の砂利に揺れる荷馬車が北西へと向かう。
まだ暑さの残る陽射しを、鬱蒼と茂る常緑樹の木陰が適度に和らげ、
吹き降ろす涼風が初秋の山の匂いを運んでくる。
だが、木々のざわめきに調子を合わせる驢馬の蹄の軽快な音とは裏腹に、
荷台で揺られるブーンの顔は不満の色をありありと浮かべていた。

( ^ω^)「ドクオ、本当に地図の点はこの先で合ってるのかお?」

腰掛けたブーンが踵でコンスタンツァ港を出立した頃より幾分
軽くなった木箱を蹴り、空ろな音が幌を外した馬車の周りに響く。

( ´ω`)「しりとりもトランプも飽きたお……そろそろ馬車の外に出たいお」

('A`)「この地図が正確なら、あと一日そこらで着くはずだぜ。山脈のちょうど
反対側に赤い点があるからな」

 

 

18 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:30:27.37 ID: jhmJDjAX0
そう窘めるドクオの顔も、決して満足のいく様子ではない。
ワラキュラ領内を進むこと一週間、同一人物が作ったような風車小屋と
尖塔のある教会、刈り取りが済み、束ねられた藁が規則的に立ち並ぶ麦畑が
一日半ほどの距離を置いて繰り返し姿を現しては地平線へと消えてゆく。
正直な話、茶と黄色がまだらなす遠景に蒼々とした山肌が見えた時は
山越えをしなければならないにもかかわらず、ほっとしたものだ。

( ><)「この先がワラキュラの中央部、トランシルヴァニアなんです」

ビロードが羊皮紙に手を置き、今まで馬車が通ってきた経路をなぞってゆく。
黒海の西岸からワラキュラの大平原をドナウ川沿いに遡り、
西部の山岳地帯へと指を進める。
その指の行き着く先にあるのは、膨らんだ三角形状の山脈に囲まれた盆地だ。

ξ゚听)ξ「ワラキュラでも一番閉鎖的な土地なのよね」

('A`)「山脈にぐるりと囲まれてるしな……西側はその外側に黒い森が広がってるから
ハンザ同盟の諸都市やニーソク方面とも交流が無い。まさに陸の孤島だな」

こんな所に城を作る領主の気が知れないぜ、と人差し指で地図を叩く。

 

 

19 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:32:49.64 ID: jhmJDjAX0
( ´ω`)「ここまでの情報でも売れそうな名物なんて誰も知らなかったお……。
持ってきた商品も期待したほど需要がないお。旅費の方がかかってそうだお」

(‘_L’)「次の町は領主がいるという事ですから多少は活気もあるかと……あれは?」

( ><)「どうしたんですか?」

驢馬を御していたフィレンクトが手綱を引く。嘶きとともに車体が縦に揺れ、
慌ててドクオとブーンが荷物がずり落ちないよう手で押さえる。

(‘_L’)「先の方に、倒れている人影が……私が見てまいります」

( ^ω^)「あ、ブーンも行きますお!」

馬車から降りられる格好の機会を見つけ、荷台を跳び越えて
フィレンクトの後を追う。久しぶりの湿った土の感触に、
自然と地面を蹴る足の動きも速くなった。

(;^ω^)「大丈夫かお!?」

 

 

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:33:44.87 ID: jhmJDjAX0
道の脇で、大木の根元にもたれ掛かる様にうずくまる黒い外套に声をかける。
頭から足首までを完全に覆う、ゆったりとした作りの漆黒の布地から
覗く骨ばった手は、病人を思わせる青白さだ。

(‘_L’)「もし、お加減でも悪いのですか?」

数度の呼びかけに、外套から突き出た手が弱々しく振られた。らくだ織りの
黒い頭巾が俯き、聞き取れないほど小さな声を発する。

(   )「狼……襲……れて……」

(‘_L’)「……相当衰弱されているようですね。坊ちゃん、お手数ですが
右肩の方をお願い致します」

両肩を担ぐようにして外套の主を、安全に休める馬車へと連れて行く。
今日の夕方には山越えを済ませる予定だったが、この状況では
この峠で一泊するのも止むを得ないだろう──。

 

 

21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:36:36.85 ID: jhmJDjAX0
◆3

( ゚"_ゞ゚)「いや、本当に助かりました、ハイ」

東の空に掛かる、真円に近い月明かりの下、木こりが夜明かしに使うと思われる
空き地に枯れ枝の弾ける音がこだまする。
燻製の牛肉と蕪、人参を煮た鍋が熾した焚き火の上で盛んに湯気を上げ、
めいめいが柄杓を取り回しては中身を自らの器に盛ってゆく。
残り少なくなっていたワイン樽が空けられ、揺らめく炎の先から
蛍火のように立ち昇る火の粉と、酔いに任せて交わされる談笑とが
混ざり合いながら黒雲の過ぎる夜空へと消えていった。

( ^ω^)「それで、ウォッサムさんは何を売りにここへ来たんですか?」

ビロードが黒服の男に質問をする。アルベルト=ウォッサムと名乗った男は
橙色の熾り火に照らされた、上質の紙のような色をした顔に笑みを
──どちらかといえば卑屈な──浮かべ、

 

 

22 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:37:45.63 ID: jhmJDjAX0
( ゚"_ゞ゚)「商売と申しましても、私どもロマ商人に売れる物など限られておりますので、ハイ」

('A`)「へぇ、あんたロマ教徒だったのか」

そういえば服装といい、仕草といい確かにそれっぽいよな、とドクオが相槌を打つ。

ロマ教徒。
定住の地を持たず、ニューソク、ラウンジの両大陸を旅して一生を過ごす民族。
保護する国も君主も持たず、それゆえ就ける職も芸人、楽師、傭兵、
そして目の前の男のような行商人といった、あまり真っ当ではない物に限られる。

( ゚"_ゞ゚)「先程の質問ですが、私めは宝石業を営んでおりまして」

ハイ、と背にもたれさせた革袋の中から意匠をこらした小箱を取り出し、
胸元から金の鍵を出し、錠前を開ける。
金属の噛み合う音とともに、整然と並ぶ紅、藍、碧、淡黄、そして無色の
大きさもまちまちな輝石が、焚き火の光をブーンたちの顔に乱反射させた。

 

 

25 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:40:50.61 ID: jhmJDjAX0
('A`)「うおっまぶし」

( ^ω^)「すごい数だお、これが全部宝石ですかお?」

( ><)「幾らになるか想像も付かないんです」

( ゚"_ゞ゚)「こちらの物はまだ仕上げを終えてない物ばかりですので、ハイ」

二段になっている木箱の中蓋を取り、「仕上がった」商品を
ブーンたちの目の前に晒す。
一つ一つ異なる角度にカットされ、彫金の施されたブローチや腕輪、
髪留めなどにあしらわれた宝石。
言葉を発する事すら忘れ、息を呑んで眼前の光の祭典に目を奪われている
一行をよそに、ウォッサムが淡々とした調子で話を続ける。

( ゚"_ゞ゚)「ここから先のトランシルヴァニアはこのような宝石の産地でして、
私も仕入れに年一回、この地を訪れるのです、ハイ」

( ^ω^)「宝石の産地かお!?」

( ><)「耳寄りな情報なんです!」

(‘_L’)「確かに、これなら十分に今までの損失を取り返して余りありますな」

( ゚"_ゞ゚)「おや、ご存知でなかったと? では、どうしてこのような辺鄙な場所へ?」

 

26 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:42:21.47 ID: jhmJDjAX0
( ^ω^)「ブーンたちは地図の手がか──」

ブーンの言葉を遮る様に、ドクオが脇腹を小突く。
しかめ面で脇腹を押さえるブーンの言葉尻をビロードが引き継いだ。

( ><)「僕たちは駆け出しの貿易商をやってるんです。ニューソク方面との交易も
少ないこの地方なら、独占できる特産品があるかもと思って探してたんです」

( ゚"_ゞ゚)「それはそれは、つい貴重な情報を漏らしてしまいましたかな」

冗談です、と引付けを起こした猫のような甲高い声で笑うウォッサム。

( ゚"_ゞ゚)「私めはラウンジ方面での商いを主としていますのでご心配なく、ハイ。
では、失言ついでにもう一つ面白い情報を。トランシルヴァニアにまつわる伝説です」

( ^ω^)「伝説、ですかお?」

( ゚"_ゞ゚)「御伽話の類なのですが、吸血鬼──という言葉をご存知ですかな?」

 

27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:43:23.98 ID: jhmJDjAX0
( ^ω^)「きゅうけつき?」

( ゚"_ゞ゚)「ええ、血を吸う鬼、という意味の言葉でして」

 

紙のように白いウォッサムの顔が笑いの形に歪み、
仮面劇の道化の如く、目と口が弧を描く。
夜も更けたことを示す冷たい秋風が木々の黒い頂をざわめかせ、
車座の中心で、炎が一際大きく揺れた。

 

28 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:44:26.42 ID: jhmJDjAX0
◆4

──曰く。
この地がまだダキアと呼ばれていた頃。
拡大を続けるラウンジの止まぬ攻勢にアナトリアが、トレビゾンドが陥落し、
ダキア一帯が異教徒の手中に落ちるのも時間の問題かと思われていた。

そして、ついにラウンジの兵がボスポラスを越える。
ダキア侵攻に準備された先遣隊は30万。対するダキア全兵力は1万2千。
ニューソク大陸の誰もが、ラウンジの勝利に慄いていた。

('A`)「…………」

ξ゚听)ξ「…………」

ここに、一人の英雄が現れる。
ダキア伯ヴラド=ツェペシュ。後の初代ワラキュラ公である。

 

29 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:45:43.71 ID: jhmJDjAX0
先遣隊からの報告が来ない事に業を煮やした当時のラウンジ皇帝は、
本隊、親衛隊合わせて100万にダキアへの進軍を命じた。
ダキアへの入り口、トラキアの野に足を踏み入れた
ラウンジ兵の見た物は、打ち捨てられた町や村。
ラウンジの通り道にある全ての居住地から、人の姿が消えていた。
それでもなお、不安がる兵を鼓舞し、皇帝自らが指揮する軍は
ダキアへの境、ドナウ川の南岸へと辿り着く。

──水が、紅に染まっている。

( ><)「ま、まさか……」

豊かに、赤く、うねるドナウ川の向こうに立ち並ぶのは、
ラウンジの兵を阻むダキアの森。

 

 

 

30万のラウンジ兵の刺さった、白木の串の森。

 

30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:48:35.36 ID: jhmJDjAX0
((((;><))))「うわああああああああなんです!!」

((((;゚A゚))))「怖えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

( ω)゚ ゚「」

 

烏の舞う白木の森の真ん中に、ダキア騎士団が陣を敷いている。
戦慄するラウンジ兵を他所に、宴を張り、飲み食いするダキア軍。
騎士が。
槍兵が。
馬が。
啜り飲み、貪り食う。人の形をしたモノから。
蒼褪めるラウンジ皇帝に、ヴラド=ツェペシュが杯の中身を
干しながら言葉を投げかけた。

「ラウンジ皇帝よ、貴公も一杯如何かね?」

ヴラドの口元から覗く鋭い歯は、ねっとりと赤く塗れていた──

 

34 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:52:49.73 ID: jhmJDjAX0
( ゚"_ゞ゚)「その後ラウンジ軍は撤退し、ヴラド伯は功績を称えられて
ワラキュラ公に封ぜられるんですが、のちに苛烈な性格から人心を失い、
貴族の裏切りで暗殺されたんですな、ハイ」

(;^ω^)「ヴラド=ツェペシュですかお……恐ろしいですお」

( ><)「でも、それがなぜ伝説になったんですか?」

( ゚"_ゞ゚)「……殺されたヴラド公が、甦ったそうなんです、ハイ。
裏切った貴族は城の尖塔に串刺しにされ、ヴラド公の墓からは
石が除けられ、大きな穴だけがあったそうで、ハイ」

(;'A`)「……誰かがそう思わせるために仕組んだんじゃないか?」

( ゚"_ゞ゚)「そうならいいんですがね、」

ウォッサムが器のワインを空け、一息つく。

 

 

35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:56:08.15 ID: jhmJDjAX0
( ゚"_ゞ゚)「出るそうですよ、今でも。恨みのあまり吸血鬼となったヴラド公が。
騎士団と共に森をさまよい犠牲者を求めるそうです、ハイ」

( ゚ω゚)「!!」

言葉の終わりと同時に起こる嘶きに、ブーンが飛び上がった。

(;'A`)「……なんだ、驢馬じゃねぇか。脅かせやがって」

(;^ω^)「心臓に悪いお」

( ゚"_ゞ゚)「ハハハ、少々脅かしすぎてしまいましたかな」

驢馬に飼葉と水をやっていたフィレンクトが戻ってくる。

(‘_L’)「坊ちゃん、皆様方、そろそろ夜も更けてきたので明日に備えて
休みをとられては?」

( ^ω^)「……そうするお。馬車の見張りはどうするかお?」

(‘_L’)「最初は私とツン様が、後ほどドクオ様と坊ちゃんにお任せしようかと」

( ゚"_ゞ゚)「助けて頂いたお礼に、私が見張りをいたしましょう」

( ^ω^)「ウォッサムさんはまだ十分疲れが取れてないお。
ちゃんと寝て疲れを回復させてくださいお」

( ゚"_ゞ゚)「……では、お言葉に甘えさせて頂きます、ハイ」

 

36 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:57:29.56 ID: jhmJDjAX0
焚き火の明かりでピストルの手入れをするツンに、
馬車へと向かうブーンが声をかける。

( ^ω^)「ツン、あの話どう思うお?」

ξ゚听)ξ「どうって……ただの伝説でしょ? 船乗りの噂なんかには
もっと怖い物だって沢山あるわよ。今度聞きたい?」

( ^ω^)「機会があったら頼むお。あ、それと」

ξ゚听)ξ「何よ?」

( ^ω^)「トイレは一人で行けお」

無言でツンが、ブーンの耳を掴み馬車の陰へと引きずっていく。

(;^ω^)「ちょっ、ツン、痛いお、耳を放して、
ほんの冗談、うわ、qtdgそぅろwdsd@w……」

暫くの間、月が中天に差し掛かった夜空にブーンの悲鳴が響いていた。

 

 

37 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 15:59:07.41 ID: jhmJDjAX0

◆5

朝露の玉に濡れる竜胆や矢車草の下生えを八本の蹄が掻き分け、
下りながら大きく曲がる峠道に轍の跡が残される。
薄紫の霧が立ちこめ、重なり合う山稜の合間から射す
橙色の曙光に照らされた山道をビロードが慎重に手綱を操りつつ、
荷台ではブーンたちが朝食をとりながらトランシルバニアでの予定を相談していた。

(‘_L’)「すると、ウォッサム様は城下に問屋のお知り合いが?」

( ゚"_ゞ゚)「問屋、というよりも原石を磨く職人の元締めがおりまして、ハイ」

( ^ω^)「じゃあ、その人に話をつければ宝石も安く手に入るお!」

が、ブーンの明るい声とは裏腹に、ウォッサムはうかない顔つきをしていた。

 

39 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:01:32.34 ID: jhmJDjAX0
( ゚"_ゞ゚)「確かに紹介はできますが……
宝石の取引は領主様からの許可を頂きませんと、ハイ」

ウォッサムの話によれば、鉱山からの盗掘を防ぐ為、宝石の採掘、
加工、販売は領主の認可を受けた極めて少数の業者だけに許されているという。

('A`)「ってことは、どっちにしろ領主に会う必要はあるわけだ」

背を反らし、大きな欠伸をしながらドクオが言う。
無論もう一つの目的とは地図の情報を得ることの他に無い。

( ><)「見えてきたんです!!」

ビロードの声に皆が話を中断し、朝靄の晴れてきた盆地を
馬車から身を乗り出して眺めた。

山々の稜線が途切れるところから始まる、よく開墾された
地味豊かそうな農地では大豆、蕪、青菜の他、収穫を待つばかりの
重く垂れ下がったブドウ畑が広がり、早朝から響く風車や水車の
小麦を轢く、低く重い音がそこかしこから聞こえてくる。
風車や水車を結ぶ細い道は盆地の中央に集まるにつれて
太くなり、やがて灰色の堅牢な城門の下へと続いていた。

ξ゚听)ξ「あれが領主の城?」

 

41 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:03:52.61 ID: jhmJDjAX0

城壁の内側には低い家並みから所々に教会の鋭角な尖塔が顔を出し、
歪な六角形の城郭の中央には一際高い、緑青で覆われた破風と
漆喰造りの胸壁がコントラストを成す城がそびえている。

( ゚"_ゞ゚)「左様で、ハイ。11代ワラキュラ公ヴラド8世様の住まうブラン城です。
……と、このあたりで馬車を止めていただけますか?」

峠への登り口で、ウォッサムの言葉にビロードが手綱を引く。

( ^ω^)「ん? トイレですかお?」

( ゚"_ゞ゚)「いえ、私めはこの辺りでお暇させて頂こうかと、ハイ」

(‘_L’)「城下には行かれないのですか?」

( ゚"_ゞ゚)「山麓にある採鉱所の親方にも挨拶をしておこうと思いまして、ハイ。
町へは後日参ります。あ、それと」

ウォッサムが懐をまさぐり、ややあって手を抜き出す。

 

 

44 名前: (;^ω^)さるったようです Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:16:11.84 ID: jhmJDjAX0

( ゚"_ゞ゚)「これは助けていただいたほんのお礼ですが」

差し出されたのは金色の髪留め。精緻な細工の施されたそれには、
素人目に見ても高価そうな青い宝玉が三粒あしらわれている。

(;^ω^)「こ、こここんな高そうな物頂けないですお!」

( ゚"_ゞ゚)「いえいえ、幾ら高い品といっても命あっての物種、
取るに足らない礼とはいえ、どうか受け取って頂きたいのです、ハイ」

( ^ω^)「でも……」

('A`)「もらっとけよ、ブーン。商人がタダで手に入るものを断る義理はないだろ?」

(;^ω^)「ドクオは遠慮が無さすぎだお」

 

46 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:18:56.07 ID: jhmJDjAX0

しばらくの押し問答の後、躊躇いつつも髪留めを受け取るブーン。

( ^ω^)「ウォッサムさん、本当にありがとうですお」

( ゚"_ゞ゚)「礼を申し上げるのはこちらの方です、ハイ。
では、皆様の旅に幸多からん事を。ご縁があればまたお会いしましょう」

深く頭を下げ、頭陀袋を担いでいくウォッサムの姿が次第に遠ざかる。

('A`)「ロマ商人にしては随分気前のいい奴だったな」

( ^ω^)「そうなのかお?」

('A`)「俺が見た中では一番、な。こんな高そうな物をポンとくれるなんてな。
で、お前それどうするんだ?」

言われて、掌の中の彫金細工を見下ろした。
柔らかな陽射しを透過して、髪留めに付いた宝玉が深い海の色へと手を染める。

 

48 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:20:12.32 ID: jhmJDjAX0
(‘_L’)「おそらくは紫水晶かと。そう希少な物ではありませんが、
この大きさなら、かなりの値が付くでしょうな」

( ^ω^)「うーん、でも折角貰った物を売るのは……」

と、油紙で銃身の内側を拭いているツンの豪奢な金髪が目に留まった。

( ^ω^)「ツン、これ付けてみるお」

ξ;゚听)ξ「ええ? アタシが……コレを?」

突然握らされた髪留めに戸惑いつつも、満更でもない表情を浮かべるツン。

ξ゚听)ξ「しょうがないわね……ちょっと待ってなさいよ」

ピストルを膝に下ろし、飾り紐で縛っていた片側の髪を解いてゆく。
手鏡を取り出して二、三回位置を決めるために金髪に押し当て、満足したのか
器用に髪を結わえ、最後にピンで留める。

 

 

49 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:22:56.03 ID: jhmJDjAX0
ξ゚听)ξ「…………どう?」

流れるような紗の金糸に映える、藍色の宝玉。

(‘_L’)「お似合いですな」

( ><)「綺麗な金髪に宝石の青がとっても鮮やかなんです」

('A`)「ビロード、前見ろ前。畑に突っ込むぞ。でも本当、馬子にも衣ふごっ!!」

( ^ω^)「…………」

ξ;゚听)ξ「な、何よ、そんなにジロジロ見るもンじゃ、」

ツンの言葉に、ようやく我に返り瞬きを二、三度する。

( ^ω^)「ごめんだお、でもみんなの言う通り、ツンによく似合う色だと思うお」

ξ////)ξ「んなっ……何言ってんのよ! べべべ別にアンタに褒められたからって
全然ちっとも……でもちょっとは……ああもう、嬉しくないんだからね!!」

ろれつの回らない台詞を矢継ぎ早にブーンに浴びせ、
ツンが朱に染まる横顔を馬車の外へと背ける。
それでもなお、繊細な白い手が何度も頭髪を飾る輝石に、
触れては引っ込められ、触れては引っ込められを繰り返していた。

 

51 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:28:58.75 ID: jhmJDjAX0
◆6

( ><)「……あれはなんなんでしょう?」

農道をやや広げた、小石混じりの赤土の道を揺れる荷馬車の前方から、
葦毛と黒毛の馬が力一杯のギャロップで駈けてくる。

('A`)「騎士か? しっかし古い格好だな」

十字軍時代の風俗って言われてたのはマジだったのか、と
ドクオが半ば呆れたような視線を二騎に向けた。
皆の視線が注がれる中、馬車の寸前で手綱が引き絞られ、
土煙を上げる二頭の馬が前足を大きく上げて振り下ろすと同時に止まる。
荷馬車を曳く驢馬がのんびりとした嘶き声で、馬と挨拶を交わした。

(  十 )「その方ら、何処の者か」

位がやや高いのか、葦毛の馬に乗った騎士が
装飾の入れられた板金鎧に覆われた顔の下から低く、よく通る声を出す。
それぞれが片手に持つ大盾の表面には、黄金の十字を囲むようにして
自らの尾を咥える竜の絵が描かれていた。

 

52 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:30:16.13 ID: jhmJDjAX0

( ^ω^)「ブーンたちは交易商人ですお。トランシルヴァニアは宝石の
名産地と聞いて商売をしに来たんですお」

(  十 )「交易、ふむ……」

兜の隙間に隠れた眼が、ブーン、ビロード、フィレンクト、ドクオ、
そしてツンへと一巡し、最後にブーンに戻される。
ブーンが沈黙のままに向けられる視線に耐え切れず、
口を開きかけた刹那、騎士が再び言葉を発した。

(  十 )「よかろう、旅商人であれば外界の見聞にも通じているだろう。
このヴラド、あれに見える我が城に貴公らを招こうぞ」

言い終わるや否や、馬の腹を踵で蹴り、元きた方へ──
地平線に低く広がる灰色の城壁へと駈けて行く。
細かい鎖網の鎧を着たもう一人の騎士も、彼の主君に倣い
赤土を蹴立てて疾駆していく。

 

54 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:34:39.44 ID: jhmJDjAX0

( ><)「ついて来い、って事なんですか?」

('A`)「おそらくな。しかしヴラドって名乗ったって事は」

(‘_L’)「あの方がワラキュラ公ということでしょうな」

ξ゚听)ξ「こっちからわざわざ訪ねていく手間が省けたわね。
しかし、ラウンジといいアンタって本当に運だけはいいのね」

( ^ω^)「たぶん偶然だお。それに運がいいに越したことは無いお」

(‘_L’)「ともあれ、領主が機嫌を損ねない内に急ぎましょう。ビロードさん」

( ><)「了解なんです!」

ビロードが手綱を揺らし、驢馬の気だるそうな嘶きとともに
荷馬車が再び動き出した。

 

55 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:38:20.24 ID: jhmJDjAX0

──同日午後、ブラン城下

荒削りな切石を積み上げて作った、武骨な印象の城壁を横に、
鋲の打たれた鉄板で補強された木戸を潜る。

城内だけあってさすがに人通りも多く、余所者が珍しいのか
子供たちが荷馬車の周りに群がっては驢馬のたてがみを撫でたり、
訛りの強いニューソク語でブーンたちに質問をしようと試みる。
それを窘めるように襟首を掴んで引き戻す母親や、
遠巻きにしつつも好奇の視線を向ける男たちによって、
馬車二台分ほどの幅がある通りはちょっとした祭りのような
騒ぎになっていた。

(;^ω^)「なんだか見世物になってるみたいだお」

('A`)「ま、しょうがないだろ。ほとんど他の都市と交流が無いんだ。
珍しがられるのも無理はないさ」

 

57 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:40:07.88 ID: jhmJDjAX0

遠慮の無い子供たちに袖や裾を引っ張られ、
ややうんざりした顔を見合わせ苦笑する。

だが、その喧騒も城へと続く跳ね橋を境に、嘘のように静まった。
流水を水源にしているのか、思った以上に綺麗な堀の上を荷馬車が渡り、
門の上へと巻き上げられた厚い鉄の格子戸の下を抜ける。
既に話が行き届いていたのか、侍従と思しき老人の先導で
ブーンたちは城の内部へと通された。

紡錘形のステンドグラスの填め込まれた、教会を思わせる
吹き抜けの薄暗い回廊を歩く。
年老いた従僕は何も言葉を発さず、ブーンたちの足音だけが
ブラン城のくすんだフレスコ画の描かれた天蓋に響く。
回廊の突き当たりの、年を経て軋み音を出すようになった
赤樫の大扉が開かれると同時に、内側から低くよく通る声が掛けられた。

( ФωФ)「先程は兜も外さず失礼。ワラキュラ公、
ヴラド=ロマネスク=ツェペシュである。客人よ、我輩の城へようこそ」

 

58 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:42:15.34 ID: jhmJDjAX0
◆7

( ФωФ)「遠路はるばるよく参られたな、ニューソクの商人よ」

今朝、兜の下から聞いたのと同じ声の主が、
一行に広間に設えた椅子に座るよう促す。
ニューソク人よりも浅黒い肌に、見開かれた彫りの深い目元。
そして鼻梁の付け根から口元へと広がる豊かな黒髭の端は、
端に行くにつれて見事な反り返りを見せていた。

( ^ω^)「ええと、ヴラド公閣下、本日はブーンたちを城にお招き頂きまして……」

ブーンの口上を遮るようにヴラド公が顔の前で手を振る。

( ФωФ)「いや、そう堅苦しくならずともよい。我輩の事はロマネスクと呼んでもらって構わん」

なにしろヴラドというのは我が家代々継がれた名なのでな、妙にむず痒い。
そう朗らかに笑い、ヴラド公、もといロマネスクが着座した。

( ФωФ)「では、客人たちの健康を祈って乾杯といこうではないか」

ロマネスクの言葉に従って、杯に注がれた白ワインが一同の手に渡される。

 

59 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:43:22.76 ID: jhmJDjAX0

( ФωФ)「客人らの健康と商いの隆盛の為に」

( ^ω^)「ロマネスクさんの健康とワラキュラの繁栄の為に」

城主が杯を掲げ、口を付けるのに従い、ブーンらも各々杯を傾ける。
芳醇な果実の匂いが口内を満たすとともに、舌先がねっとりと濃い甘味に浸される。
粘度のある液体が喉を滑り落ち、蒸留酒にも似た強い香気が
鼻腔から吐息と一緒に抜けていった。

(‘_L’)「……これは、もしや?」

( ФωФ)「ふむ、やはり交易商だけあって目利きは確かなようだな」

フィレンクトの疑問に、ロマネスクが満足そうに猫のような瞳を細めた。

 

60 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:45:26.30 ID: jhmJDjAX0

( ФωФ)「我がトランシルバニアの自慢である葡萄畑は目にしたであろう?
その中でもより抜きの実を収穫せずに発酵させ、冬を待って絞った貴腐ワインだ」

( ^ω^)「フィレンクトさん、ひょっとして高い物ですかお?」

(‘_L’)「生産地、生産量とも極めて限られますからな。
シャンパーニュやアンダルシアのワインと比べても、一樽が四倍の値打ちはするでしょう」

( ^ω^)「四倍! それはめっけものですお! 
ロマネスクさん、よければこれも売ってもらえませんかお?」

忌憚の無いブーンの口調に、ロマネスクが愉快そうに笑う。

( ФωФ)「面白い男だな、貴公は。酒蔵の管理は執事に一任しておるゆえ、
後ほど入り用だけ馬車に積ませておこう」

( ^ω^)「ありがとうございますお! それと宝せ」

 

61 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:46:30.24 ID: jhmJDjAX0

('A`)「ブーン、ちょっといいか?」

わざとらしく咳払いをしてドクオが居住いをただし、
ロマネスクに対して口を開く。

('A`)「領主様にお訊ねしたい事があるのですが」

( ФωФ)「ドクオ……と言ったなその方。我輩の答えられる事であれば喜んで答えよう」

('A`)「では、」

慣れない貴人を前にして、学生に講義する大学教授のような
固い口調でドクオが本題に入った。

 

62 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:49:01.26 ID: jhmJDjAX0
('A`)「この近辺に古い図書を集めているような者、もしくは図書館などは
おありでしょうか? もっと言えば地図が収蔵されているような場所は……」

( ФωФ)「地図?」

('A`)「はい、俺、いや私たちはクラシック文字の透かしの入った
航海用の古地図を探しているのです」

( ФωФ)「古地図──」

考えるように上を見上げ、目を瞬かせるロマネスク。
そのままの姿勢で、ドクオに言葉を投げかける。

( ФωФ)「貴公等の探しているのは、ピリ・レイスの地図ではないのか?」

('A`)「!」

( ><)「!!」

( ^ω^)「知ってるんですかお!?」

 

63 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:50:25.43 ID: jhmJDjAX0

予想に違わぬ各人の反応に鷹揚に頷き返す。

( ФωФ)「やはり、それがこの地に『来られた』理由か──」

漏らした微かな呟きは、誰の耳にも拾われることは無かった。

( ^ω^)「それで、ロマネスクさんが地図を持ってるんですかお?」

( ><)「何か手がかりでも知ってるんですか?」

意気込むブーンとビロードの問いには答えず、
ロマネスクが主人に似て簡素な玉座から立ち上がる。

( ФωФ)「地図の件については後ほどゆるりと話そうではないか。
まずは、風呂に入って旅の疲れを流すがいい。
夕餉の席を用意するので、支度が出来次第人を呼びに遣らせよう」

 

64 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:52:08.33 ID: jhmJDjAX0

◆8

長方形をした食堂の天井から吊るされたシャンデリアに、蝋燭の長い炎が揺らめく。
古いオーク材で作られた長テーブルには白絹のクロスが掛けられ、
上座に座るロマネスクの左右に、一張羅を着たブーン一行が腰を下ろしていた。

( ^ω^)「ツンはまだ来ないのかお……」

( ><)「女性の身支度は時間がかかるんです」

お抱えの楽師が調律を行う音が響く中で、食前酒を舐めつつ
ラウンジでの冒険や海賊との戦闘を身振りを交えて話す。
だが、話を一区切り終えた頃合になっても、未だにツンは
食堂に姿を現さない。

 

66 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:54:32.26 ID: jhmJDjAX0

(‘_L’)「どうしたのでしょうか?」

( ><)「流石に心配なんです」

( ФωФ)「レーヴェンブロイ嬢には我が妻のドレスを着て貰おうとしたのだが、
少々大きすぎたのではあるまいかな?」

( ^ω^)「奥方のドレスですかお? そういえば見かけませんお」

( ФωФ)「……妻は数年前に流行病で亡くなったのでね」

卓上に降りる気まずい沈黙。しまった、という顔をブーンがする。

(;><)「お悔やみ申し上げるんです」

( ФωФ)「いや、さすがに数年も経てば伴侶のいない生活にも慣れるものだ。
気にする事は無い」

(;^ω^)「しかし本当に遅いお。ちょっと様子を見て──」

 

69 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:56:35.08 ID: jhmJDjAX0

ブーンが場の雰囲気を変えようと立ち上がった所で、
食堂の扉が遅れた客の登場を告げる。

( ゚ω゚)「ツン、遅…………」

(;゚A゚)「…………」

(‘_L’)「これはこれは、随分と」

( ><)「見違えてしまうんです」

丁寧な刺繍の縁取りが施された、濃い木苺色をしたドレス。
開いた襟ぐりと剥き出しにされた両肩から覗く肌は、
熟練の航海者とは思えないほど白く、眩しく、滑らかに映える。
普段は頭の両脇で垂らしてある、巻き毛の細い金髪は
背中から腰へとそのまま下ろされ、綺麗に分けられた前髪には
藍色の宝玉が燭台の光を反射して煌めいていた。

 

70 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:57:46.11 ID: jhmJDjAX0
( ФωФ)「これは……我輩が想像していた以上に素晴らしい。
なんという美しさ、まるで本当に妻が帰ってきたようだ」

感嘆の溜息を吐き、薄絹の長手袋に包まれた指先を握って
上座のすぐ右手に開けられた席へとツンをエスコートする。

ξ////)ξ「あ……ええと、その、本当にありがとうございます、
こんな素敵なドレスを貸して戴いて」

普段はまったく窺えないしおらしさでロマネスクの手を取り、
広がったスカートを押さえてツンが着座する。

( ФωФ)「では、主賓もそろったところで正餐といこうではないか。
各々方、このロマネスクのささやかな歓迎を受け取られよ」

ロマネスクの合図で、楽師たちが緩やかな調べを奏ではじめ、
前菜やスープが次々と運ばれてくる。
ウズラ、猪、鱒や地味豊かな野菜をふんだんに使った数々の料理は
待ちくたびれた胃を十二分に満足させるものだった。

 

72 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 16:59:56.10 ID: jhmJDjAX0

宴もたけなわとなり、卓上の話題はブーンたちの航海から
ロマネスクの事へと移る。

( ^ω^)「そういえばロマネスクさん、この食堂の壁に飾ってある絵は
ひょっとしてロマネスクさんのご先祖ですかお?」

( ФωФ)「左様、政変で貴族に簒奪された数代を除く、
歴代のワラキュラ公の肖像画である」

( ><)「こうして見ると皆そっくりさんみたいなんです」

ビロードの言うように、髪型や髭の有無、衣装の変遷を除けば、
一行を見下ろす歴代城主の顔はロマネスクその人といって差し支えなかった。

 

73 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 17:01:22.72 ID: jhmJDjAX0

( ФωФ)「ヴラドの家系は代々直系の男子が継いできたゆえ、
顔が似るのも無理はないな」

('A`)「へぇ……じゃあ初代ヴラド公っていうのはどなたで?」

ドクオの質問に、ロマネスクが最も上手に掲げられた額へと指を向ける。
十字軍風の鎖鎧を着た初代城主の眼は、ロマネスク同様、
猫のような淡黄色で食堂を見渡していた。

( ^ω^)「なるほど、あの人が串刺し公ですかお」

(;'A`)「ブーン、おま」

ドクオが慌てて口を塞ぐものの、ロマネスクは意に介した様子も無く、
そこまで知っているのか、と陽気に笑い声を上げた。

 

74 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 17:03:15.13 ID: jhmJDjAX0
( ФωФ)「では、トランシルヴァニアに伝わる伝説の方もご存知かな?」

( ><)「森に出る吸血鬼の話なんですか?」

( ФωФ)「そう、我が──祖が、吸血鬼となって夜な夜な血を求めて彷徨う、
たしか巷ではそう言い伝えられておるな」

( ><)「随分と無礼な噂なんです」

( ФωФ)「いや、そう憤ることでもない。あれを広めたのは
代々のワラキュラ公なのだからな」

(;^ω^);'A`);><)「「「ええええええええ!?」」」

( ФωФ)「開墾が進んだとはいえ、ここトランシルヴァニアはまだまだ
山も森も深い。夜ともなれば賊や狼が里へと降りてくる事もある。
それゆえ、不用意な夜の出歩きをさせぬようにと、我が祖が考え出した物だ」

( ^ω^)「頭がいいですお」

これでこの話は終わりだといわんばかりに、ロマネスクが杯の中身を飲み干した。

 

76 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 17:05:31.15 ID: jhmJDjAX0

◆9

( ФωФ)「楽師、ゆったりとした舞踏曲を頼む」

料理の皿も大部分が空になり、デザートが各自の前に
供されたところで、ロマネスクが楽団に合図をした。
座長の指揮に合わせて、リュートとリラ、
クルムホルンが三拍子のロンドを奏で出す。
ロマネスクが席を立ち、掌をツンに差し出した。

( ФωФ)「レーヴェンブロイ嬢、一曲お相手願えるかな?」

ツンが眼を丸くし、一瞬の後、猛然と首を横に振る。

ξ;゚听)ξ「あああああの私、こういうのは全然わからなくて、その」

( ФωФ)「ご心配は無用。我輩がリードして進ぜよう。このヴラド=ロマネスク、
ご婦人に恥をかかすような事は我が先祖に誓ってしませんぞ」

 

77 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 17:08:06.43 ID: jhmJDjAX0
それでも助けを求めるかのようにブーンの方を見る。が、

(* ^ω^)「プディングうめぇwwwww」

ξ#゚听)ξ(この豚後でコロス)

仕方無しに、ロマネスクの差し出した手を取る。

ξ////)ξ「あ、あの、本当に私下手ですから!」

( ФωФ)「構わぬよ、レーヴェンブロイ嬢」

言って、ツンの手を握り、左足を一歩踏み出す。
自然と体が近くなり、それを離すかのようにツンが後ずさりする。
ロマネスクが右手を軽く引き、体を半身にして右に一歩下がる。
さらに左に一歩前進、右に後退、体勢を入れ替えるように回り込み、
左手を離す。前進、横に移動、下がり、また回転。

 

 

79 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 17:10:45.94 ID: jhmJDjAX0

('A`)「意外と様になってるな」

( ><)「ツンさんがどう動くかを予想して足の動きを合わせてるんです」

 

ξ゚听)ξ(思ってたより結構簡単なのね)

( ФωФ)「レーヴェンブロイ嬢、航海もよいが、こうした舞踏も
なかなかに悪くはないものであろう?」

ξ゚听)ξ「あ……ハイ、そうです、ね」

間近にあるロマネスクの顔から視線を逸らして答える。
一歩踏み出すごとに、右へ、左へと回転する燭台の炎。
黄色な光に照らされた食堂の壁が、自分の周りをぐるぐる回る。
自分の呼吸が速く、吐息が熱くなっているのが感じられる。

 

81 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 17:12:02.12 ID: jhmJDjAX0

ξ////)ξ(べ、別にお酒を飲んだ後に踊ったりするから体が熱くなってるだけよ。
ほ、他に理由なんて無いんだからね!)

言い聞かせるように心で呟いた言葉を見透かすように、
ロマネスクが口を開いた。

( ФωФ)「本当に美しい。大輪の薔薇さえ貴女の前では色を失う。
まるで……我輩の愛する女性が帰ってきてくれたような気分だよ」

猫のような瞳がシャンデリアを反射して、光を放つ。
心臓が一際高く鳴り、滑らかに動いていた足が途端にもつれた。

ξ;゚听)ξ「やばっ……」

 

82 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 17:14:37.64 ID: jhmJDjAX0

だが、バランスを崩した体は、床に着く前に力強い腕で受け止められた。
背中に回された腕はツンの体を巻き取るようにして支え、
太く男性的な指が繊細な金髪に触れる。

( ФωФ)「女性に恥をかかすような事はしない、と言いましたぞ?」

ロマネスクの顔が、間近に、迫る。

(;><)「ブーンさん、ツンさんが抱きしめられてるんです!」

('A`)「おいブーン、流石にこのままだとヤバイんじゃないか?」

(* ^ω^)「んお? ドクオたちもこのプディング食えお」

('A`)><)((ダメだコイツ))

 

84 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 17:16:08.48 ID: jhmJDjAX0

淡黄色の瞳が視界一杯に広がった瞬間、楽師たちが演奏を終えた。
それまで近づいていたのが嘘のように、ロマネスクが体を離す。

ξ////)ξ「あ、あの!」

( ФωФ)「楽しい一時を有難う、レーヴェンブロイ嬢。
我輩も再び幸せな気分になれたよ」

どこか寂しさを感じさせる笑顔でそう伝え、マントを翻して
扉の方へと歩き去る。

( ФωФ)「少々酔いが廻り過ぎたようだな。失礼ながら、
先に休ませてもらうとする。貴公らも、どうか良い夜を」

言葉と共に食堂の扉が開き、通路の暗がりへと
ロマネスクの後姿が消えてゆく。
おやすみなさいなんです、とビロードが小さくなる足音に
声を投げかけた。

 

86 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 17:18:44.35 ID: jhmJDjAX0

('A`)「ツン、大丈夫だったか?」

まだ息も整わないまま椅子に座り込んだツンに
ドクオがワインの杯を渡す。

ξ;゚听)ξ「なんとか、ね。キスでもしようもんなら
眉間に鉛玉ぶち込んでやる所だったけど」

('∀`)「へぇ、その割にはまんざらでもなかった様子だったぜ?」

ξ#゚听)ξ「ドクオ、十数えてあげるから、その間に馬小屋で寝るか、
そこで酔い潰れてる豚を担いで自分の部屋に行くか選びなさい」

('∀`)「フヒヒwwwwサーセン」

 

88 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 17:20:05.68 ID: jhmJDjAX0

(* ^ω^)「なんだお……もうお腹に入らないお……」

ドクオが寝言を言うブーンを引きずって食堂を出るのを見届け、
盛大な溜息を吐く。

ξ゚听)ξ「まったく、ちょっとは見直したと思ったのに」

( ><)「え? なんて言ったんですか?」

ξ#゚听)ξ「何でもないわよ! アンタらも明日は早いんだからさっさと寝なさい!」

 

96 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 18:04:57.13 ID: jhmJDjAX0
◆10

──夜

回廊をぼんやりと照らす蝋燭も燃え尽き、
積み石の壁に所々開けられた細長い銃眼から月光が線となって射し込む。
暗闇と蒼白い光の縞模様の中を、微かな、
靴底が石床を叩く音が反響する。
ゆっくりと、しかし確かな足音は客間のある階を通り、
その一番端──ツンの部屋を目指していた。

長旅で疲れた上に、度数の高いワインと美味い料理を存分に振舞った。
今頃は皆、ぐっすりと夢の中にいる事だろう。
ならば、事は手早く済ませられる。

足音の主が扉の前で立ち止まる。
振り向いた横顔を斜めに射す月光が撫で、浅黒い肌と跳ね上がった髭、
そして金色に近い猫眼が、深淵から浮かび上がる。

 

99 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 支援感謝 投稿日: 2008/02/26(火) 18:08:19.10 ID: jhmJDjAX0

( ФωФ)「──夜分失礼するよ、レーヴェンブロイ嬢」

熟睡しているであろうツンには届くはずの無い小声で呟いて
扉の取っ手を回す。
油の差された蝶番は微かな音すら立てず、
無防備な乙女の寝所へと侵入者を招きいれた。

( ФωФ)「本来、このような無粋な真似は我輩の趣味ではないのだがね」

後ろ手に戸を閉め、敷かれた柔らかな毛氈の上を
滑るように足を運ぶ。ロマネスクの足が向けられる先には、
シーツの上で微かな寝息を立てるツンの姿があった。

 

100 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 18:09:05.69 ID: jhmJDjAX0

( ФωФ)「失礼ながら、これも貴女を失いたくないが為の行動なのだ」

月明かりに引き伸ばされた人影が、窓から床へと
黒い蛇のようにのたうつ。
その歪んだ影が白いシーツへと覆い被さり──、

硝子の割れる音と、甲高い悲鳴が城内に響いた。

 

103 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 18:12:59.20 ID: jhmJDjAX0

◆11

( ;^ω^)「ツン、大丈夫かお!?」

部屋の扉が荒々しく開かれ、ブーンたちが
室内になだれ込む。
手燭の光に浮かび上がる影は、壁に背を付けてピストルを構えるツンと、
対峙するように長剣を携えるロマネスクの背中。
そして、

【+  】ゞ゚)「「おや、皆さんお揃いのようで、ハイ」

蒼褪めた月光よりも、なお青白い、道化のような顔。

( ^ω^)「ウォッサムさん!!」

( ><)「なんでここにいるんです!?」

足を踏み出す二人に、ロマネスクが手の動きで「下がれ」と命じる。

 

104 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 18:17:19.38 ID: jhmJDjAX0

( ФωФ)「我輩の城に貴様を招待した覚えは無いぞ、異物」

【+  】ゞ゚)「領主様こそ、私めが先に目を付けていたモノに手を出されるとは、
随分とお人が悪いことで、ハイ」

口調こそ丁寧なものの、ウォッサムの台詞には
ロマネスクに対する怨嗟がありありと聞いて取れる。
見れば、ウォッサムの黒い外套は肩口から大きく切り裂かれ、
傷口とおぼしき箇所からは、漆黒の液体が床に滴り落ちていた。

(;‘_L’)「ロマネスク様、これは一体?」

( ФωФ)「人にあらざる異物だ。よもや、我が客人に手を出すとはな」

フィレンクトの疑問に視線を動かさず答える。

 

105 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 18:18:40.81 ID: jhmJDjAX0

( ><)「ウォッサムさん、貴方は一体なんなんです?」

ビロードがレイピアを抜き、切先をウォッサムの足元へ向ける。
明確な攻撃の姿勢ではないものの、相手の動きに即応できる構えだ。

向けられた問いに、ウォッサムが肩をすくめる。

【+  】ゞ゚)「これは異な事を。初めに申しました通り、私めは一介の旅商人」

('A`)「じゃあ、アンタの足元に影が出来ないのはどういう理由だ?」

ドクオの声に、視線がウォッサムの足元へと集中する。
手燭を中心に放射状に皆の影が伸びる中、ウォッサムの足元には
黒い水溜りがあるだけだった。

 

107 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 18:21:45.60 ID: jhmJDjAX0

【+  】ゞ゚)「……流石、流石です、皆様。こうも簡単に看破されてしまウトハ思ワナカッタゾ」

ウォッサムの仮面のような表情が、半円形に歪む。
眼窩には赤い光点が、そして笑っているのか、半開きの口からは
錐のように林立する歯が、漆黒の中に浮かび上がる。

【+  】ゞ゚)「コチラヘ来イ、我ガ贄ヨ」

ウォッサムを包む外套──いや、闇がその範囲を大きくし、
室温が一気に数度下がったかのような錯覚に陥る。

ξ;゚听)ξ「あ……」

かたり、と黒色のピストルが床に落ち、硬質な音を立てて転がる。
夢遊病者のように危なげな足取りでウォッサムへと近づくツンの前髪には、
藍色の宝玉がその内側から燐光を放っていた。

 

109 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 18:27:39.69 ID: jhmJDjAX0
( ;^ω^)「ツン!!」

(;‘_L’)「ツン様!」

( ФωФ)「レーヴェンブロイ嬢!」

三者が引き止めるよりも早く、ウォッサムの蝋のような指が
ツンの肩口に回される。

【+  】ゞ゚)「贄ヨ、我ト合一シ永劫ノ命ト快楽ニ身ヲ委ネヨ」

ξ 凵@)ξ「…………」

「ツン──!!」

漆黒の三日月が牙を剥き出し、ツンの柔らかな喉笛へと先端が触れる。

【+  】ゞ゚)「我ガ血肉トナレ──!」

 

110 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 18:29:18.57 ID: jhmJDjAX0

ξ#゚听)ξ「……アンタが食う事になるのはこっちよ」

銀の銃身がウォッサムの喉奥に捻じ込まれ、間髪を入れず銃声が轟いた。

【+  】;ゞ゚゚)「AAAAAGGAAAAAAAAAHHHH!!」

後頭部から黒い霧を撒き散らし、ウォッサムが自らを窓枠に叩きつける。
名状し難い悲鳴を上げる口からは、黒い枠を通して硝煙に煙る満月が見えていた。

(#ФωФ)「消えろ、異物!!」

首を落とさんと振りかぶられた長剣を、
ウォッサムが後ろに飛んで──文字通り──避わし、壊れた窓枠から宙に身を投げる。

 

111 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 18:30:14.62 ID: jhmJDjAX0

【+  】ゞ゚)「我ヲ拒否シタナ、我ニ傷ヲ付ケタナ──!!
イイダロウ、ソレガ答ヱナラバ貪リ喰ラッテヤル。
血ノ一滴、骨ノ一片スラコノ夜カラ残サズ喰ラッテヤル。
コノ城モ町モ村モ畑モ森モ我ト我ガ六千六百六拾六ノ僕ガ
貴様ラ餌ノ絶望ト叫喚ヲ美酒ニシテ喰ラッテヤル喰ラッテヤル喰ラッテヤル!!!」

黒い霧が開いた穴を塞ぎ始めた喉から、悲鳴のような甲高い声を発する。
外套が一際膨らみ、周囲の闇へと融けこむように同化していく。

【+  】ゞ゚)「待ッテイロ──!」

その言葉を最後に部屋を覆う重苦しい気配が消え、
暑い季節ではないにもかかわらずブーンの背を汗がどっと伝う。

( ФωФ)「下種め、態勢を立て直しに退いたか」

ロマネスクが吐き捨て、長剣を鞘へと収めた。
大股で部屋を戸口へと横切り、駆けつけた衛兵に命を出す。

( ФωФ)「──鐘を。我輩はこれより奴の追撃に移る」

 

117 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 18:52:25.22 ID: jhmJDjAX0
◆12

具足を手早く身に付け、鐘の音が響く石床の通路を中庭へと駆ける
背中をブーンが追う。

( ^ω^)「待ってくださいお! あれと戦うんですかお?」

( ФωФ)「貴公らは朝まで城に留まっていれば安全にこの地を出られる。
案ずる事は無い」

振り向きもせず、ロマネスクが応じる。

( ФωФ)「あの異物とその僕とは、昼間に力を振るう事は出来ぬ」

それも夜明けまでには片付く、と言い、
中庭へ続く木戸を手甲で押し開けた。

( ФωФ)「皆、備えはよいか」

 

120 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:03:23.96 ID: jhmJDjAX0

銀光を煌かせる馬上槍が林立し、
人馬の吐く白い息がそこかしこに立ち昇る。
板金鎧、鎖鎧、鉄片鎧を着けた騎士たちが
各々の腕に黄金十字と竜の紋章入りの盾を抱えていた。

扉の前に立つロマネスクが、居並ぶ者へと朗々とした声を発する。

( ФωФ)「ワラキュラ竜騎師団の精鋭よ、
再び我が地を脅かさんとする愚者に相対する時が来た。
我らが敵は夜と闇に潜み隠れる者。
命無き骸にて蠢き、命ある者の血を啜る物。
神と人、天と地に背きし、廃教者にして背信者。
貴公ら、今宵此の地にてこれを討つ心ありや?」

「Aye!」

 

123 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:06:35.89 ID: jhmJDjAX0
( ФωФ)「敵に背を向ける事莫く、ただ前に屍を晒す事を望まんや?」

「Aye!」

( ФωФ)「神に誠実なる下僕たり、ただ正義の担い手たる事を望まんや?」

「Aye!」

( ФωФ)「其の死目前に迫ろうと、ただ真実を語る事を望まんや?」

「Aye!」

( ФωФ)「たとい唯りとなるも、ただ弱く力無きを護り、果てる事を望まんや?」

「Aye!Aye!Aye!」

( ФωФ)「されば隊列を整えよ! 轡を揃えよ! 槍を構えよ!
我ら竜騎師、ワラキュラの地を侵す者に一切の情状斟酌を与えん。
町に、野に、山に出でて我らが敵に相対し、干戈を交えん。
今宵我らが豊穣なる地を、彼奴らと我らの屍血山河に染め上げようぞ。
ワラキュラ竜騎師団、一斉前進せよ!!」

「「「Aye!」」」

 

127 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:09:16.00 ID: jhmJDjAX0

石突きが寸分の狂いも無く同時に地響きを鳴らし、
無数の鉾先が天蓋へと突き出された。
鎧の継ぎ目が擦れる音が中庭に響き、騎士がそれぞれの馬の鐙に足を掛ける。
城郭で、教会で、尖塔の上から鳴らされる鐘の音が
トランシルヴァニアの谷に吹く冷たい風に乗り、戦闘の開始を告げる。

 

( ><)「ロマネスクさん、僕たちにも馬を貸して欲しいんです」

( ФωФ)「……ビロードと言ったな。覚えておくがいい、勇気と蛮勇とは相反するものだ。
貴公らの力が及ぶ相手ではない。無為な戦はいつか、その手で救える命すら
奪うことになるやも知れんのだ」

鞍に手を掛けるロマネスクがにべも無く言う。

 

129 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:11:39.20 ID: jhmJDjAX0

( ^ω^)「なら、ロマネスクさんは力が無ければ戦わないんですかお?」

ブーンが、馬上のロマネスクを見据え、反駁する。

( ФωФ)「力が無ければ正義は守れぬ。弱きを救うことも出来ぬ」

( ^ω^)「確かに僕は弱いですお。ビロードより剣の扱いはずっと下手だし、
ツンのように銃の名手でもないですお。ドクオみたいに頭は良くないし、
フィレンクトさんのように冷静を保てるわけでもないですお」

それでも、と変わらぬ笑顔でカトラスの柄を握り締る。

( ^ω^)「ブーンのこの手で、この足で誰かが傷つくのを止められるなら、
誰かが悲しむのを防げるのなら、それがたった一人でもブーンは行きますお。
すみませんが、馬小屋から一頭お借りしますお」

 

132 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:16:14.38 ID: jhmJDjAX0
( ФωФ)「待て!」

駆け出そうとしたブーンをロマネスクが一喝した。

( ^ω^)「止めないで下さいお!」

( ФωФ)「ブーン、貴公の志はわかった。付いて来るなとは言わん。
馬が必要なら乗るがいい。だが、あの異物──ウォッサムに挑む事は禁ずる。
貴公の腕では一合すら持たぬ」

( ><)「だったら僕も行くんです。仲間が戦っているのに、
それに背を向けるのは僕の信条に反するんです」

ξ゚听)ξ「アタシも行くわ。あの気持ち悪い道化面にあと一撃は入れなきゃ気が済まないもの」

次々と上がる声にロマネスクが口髭を捻り、

( ФωФ)「……勝手に後を追われて、亡者どもに襲われるよりもましか。
共に来る者は急ぎ支度をせよ。奴らは待ってはくれぬぞ」

 

133 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:21:38.00 ID: jhmJDjAX0

('A`)「ブーン、これ持ってけ」

馬に乗れず、やむなく城に残るドクオがブーンに丸い塊を渡す。

( ^ω^)「……何だお? 妙に油臭いお」

('A`)「大砲の火薬を固めて作った爆弾だよ。
囲まれたりしてヤバくなったら火を点けて投げろ。一時しのぎにはなるさ」

狼の群れとかに襲われた時の為に作っておいたんだけどな、と
照れくさそうに頭を掻く。

( ^ω^)「フィレンクトさん、ドクオと留守をお願いしますお」

(‘_L’)「畏まりました──くれぐれも、お気を付けて」

 

134 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:24:22.47 ID: jhmJDjAX0
騎士の乗る馬が一頭、また一頭と嘶きを上げて城門をくぐり行き、
鐘の音が消えた中庭では松明の弾ける音だけが細々と聞こえる。

('A`)「フィレンクトさん」

(‘_L’)「何でしょうか?」

('A`)「──いや、やっぱ何でもないです」

無事彼らが帰ってくるだろうか、と聞こうとした自分の浅はかさが恨めしくなる。
隣にいるこの男とて感情はある。
それでも、引き止めなかったのはブーンに対する信頼があるからだ。

(‘_L’)「大丈夫ですよ、坊ちゃまは約束を守るお人です。」

心のうちを読んだかのように、フィレンクトが言う。

(‘_L’)「さて、私どもも夜が明けるまで見張りの手伝いでもしましょうか」

('A`)「……そうっすね」

先程よりは、幾分か明るくなった声でドクオが頷いた。

 

136 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:28:24.13 ID: jhmJDjAX0
◆13

城門から出た一団が横に一定の間隔を取って散開し、
凹凸すらよく見えない田野を、満月と星明かりだけを頼りに駆ける。
頬を流れる夜風の冷たさに、
他の騎士と比べはるかに軽装のブーンが肩をすくめた。

やがて、先行していた一騎から、敵の襲来を示す火矢が上がる。

( ФωФ)「来るぞ! 全騎、密集せよ!!」

ロマネスクの号令一下、騎士たちが手綱を手繰り寄せ
先陣を切って疾駆する彼を先頭に、鏃形の陣を組む。

(#ФωФ)「貴公らは後ろに下がれ、総員、槍構え!!」

ブーンたちを後方に退避させ、馬上槍が一斉に腰だめに構えられる。
冷たく光る満月の下、土を蹴立てる蹄の音と鎧の継ぎ目が擦れ合う音、
人馬の荒い息遣いが大気を震わせる。

 

139 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:30:17.30 ID: jhmJDjAX0
( ><)「正面に敵なんです!」

塊だった闇が刻一刻と近づくにつれ、
肉眼でも個々を識別できる程度の形をとる。

( ^ω^)「あれは……人かお?」

形だけを見れば、確かに人。
だが、腐り崩れた肉からは骨が覗き、月下に曇る瞳は光を宿さない。
その虚ろな瞳孔で向かってくる一群を敵と認識したのか、
鋤や大鎌、包丁といった貧弱な獲物を突進する騎士へと突きつける。
対する騎師団も、鋼の穂先が揃えられ、
もと領民であった亡骸たちへと向けられた。

( ФωФ)「死者すら弄ぶか、異物め」

ロマネスクが歯を噛み鳴らし、槍を構える拳がひときわ膨れ上がる。

 

141 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:36:11.30 ID: jhmJDjAX0
( ФωФ)「ワラキュラ騎師団よ、あるべき者をあるべき所に還せ!
塵は塵に! 灰は灰に!」

──怒号と同時に吶喊。
鋼の柄と木の柄がすれ違い。
一瞬の後、木は分厚い鎧に阻まれ砕け散り、
鋼は脆弱な肉を裂き、死体を死体へと還す。

( ;゚ω゚)「ハ──ア──」

自分の頬からの異臭に、指でその箇所をなぞる。
絡みついたのは、綺麗な金髪と、その付け根にへばり付いた肉片。

手綱を握り締めたまま、馬の背に胃の内容を吐いた。

その間にも、駆け続ける蹄は動く死者の群れを蹴散らし、
立ち込める腐臭の壁をついには突破する。

(  ゚ω゚)「……今度は何だお?」

 

143 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:40:01.70 ID: jhmJDjAX0
左右の黒々とした木立の間から聞こえる、長く、狂気を孕んだ遠吠え。
幾つもの異なる吼声が、不気味な合唱を木々の中から奏でる。
右から、左から、前から、後ろから。
全力で疾駆する馬にぴたりと声が併走する。

その声が一斉に止み、半呼吸をおいて、ロマネスクの右前方にある
低木の茂みから小型の馬ほどもあるマスチフ犬が飛び出した。
それを皮切りに、種類もまちまちな野犬が
馬の首を、腹を、足を狙って襲い掛かる。
色、大きさ共に様々ではあるものの、熱病に取り憑かれたように
黄色く濁った目と、開いた口内に並ぶ牙の間から滴る涎は、
一様に明らかな狂気に犯されている事を物語っていた。

( ФωФ)「散開して応戦せよ!!」

ロマネスクが叫び、槍の間合いへと迫るマスチフ犬に対し、
地面を鋤くように穂先を斜め下へと向ける。
刹那、マスチフが馬の首を狙って牙を剥き出して跳躍し──

馬上から伸びる、はるかに太く長い鍛鉄の牙に肉を引き裂かれ、
地面を蹴る四本の蹄に骨を踏み砕かれた。

 

146 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:43:11.85 ID: jhmJDjAX0
だが、臆した様子さえ見せず、野犬たちは二頭、三頭で
馬の急所を狙う。
その波状攻撃についに一頭の馬が悲鳴を上げ、棹立ちとなって
鞍上の騎士を振り落とした。

( ФωФ)「ルヴァンスキ!!」

落ちた騎士の名前だろうか、呼ばれた男は素早く身を起こし、
腰の剣を抜いて周りを囲む二匹を斬り伏せた。
が、その間に灰色の毛並みをしたポインターが背後から飛び掛る。
剣を手から離し、無防備な首から上を牙の届く距離に晒した
騎士の運命は、そこで潰えるはず、だった。

ξ゚听)ξ「早く馬へ!」

駆け抜けざまにツンの撃ち放った銃弾が、灰色の毛に赤い花を咲かせる。

 

148 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:46:52.54 ID: jhmJDjAX0
( ^ω^)「ツン、そんなに近づいたら噛み付かれるお」

ξ゚听)ξ「こんなに暗いんじゃ、至近距離じゃないとそうそう当たらないわよ」

馬を一団の中央に戻しながらブーンに答える。

 

(;><)「息つく間もないんです!」

( ФωФ)「だがこれだけ足止めが激しいというのは、敵もまた焦っているという事だ。
思いの外、奴は近くにいるようだな」

その前にもう一戦ありそうだがな、と三本目の火矢が上がるのを見ながら拍車を入れる。

( ФωФ)「森に入るぞ! 気を付けろ!」

言葉と同時に、黒々とした木々がその高さを倍にし、月が闇に覆われた。

 

152 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:55:11.14 ID: jhmJDjAX0
(; ^ω^)「な、何なんだお!?」

輪郭から漏れ出る月光を背景した、雲よりも暗い塊。
ブーンと同じくそれを見上げた一人が、突如として驚愕の声を上げて馬から転げ落ちた。

( ФωФ)「何!?」

野犬の襲撃ではない。何事かと辺りを見回す騎士たちが、弾かれるように続けて落馬する。

ξ゚听)ξ「銃?……ううん、違う。これは……」

月を遮る闇から聞こえる、人の耳には微かな音。

(#ФωФ)「小癪な!」

ロマネスクが馬上槍を突き出し、顔へと向かう軌道に飛来するそれを貫いた。
鈍色の槍を染める赤黒い血と、いまだ弱々しく断末魔の痙攣を見せる、羽の生えたそれ。
悪魔を思わせる歪んだ顔が、甲高い叫びを上げる。

( ><)「蝙蝠なんです!!」

 

156 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 19:58:41.59 ID: jhmJDjAX0
森の上空を飛行する蝙蝠が、飛礫の速さで次々にロマネスクの板金鎧へとぶつかる。
自らが潰れるのも構わず体当たりを敢行する無数の禽獣に対し、
騎士のランスではその重さゆえに迎撃が間に合わない。

( ФωФ)「怯むな! 森の中までは奴らは追ってこれん!」

ロマネスクが馬に鞭を当て、一刻も早く森へと駆け込もうとする。
それを遮るように、夜空を覆う漆黒が形を変え、今までに無い数が同時に飛来した。
森との境までは、あと50ヤード。
だが、上空から落下する黒い塊は、その前に騎士の一団を捉えるだろう。

森まで、あと30ヤード。
防ぎきれない蝙蝠が馬の目に爪を立て、さらに数騎が落馬する。
だが、後ろを顧みる暇は無い。ただひたすらに前を、黒い森の天蓋を目指す。

あと20ヤード。
質量を持った黒い雲が、塊となって急降下する。
狙うのは、先頭を駆けるロマネスク。

10ヤード。
馬の鼻先から森の端との、その隙間を埋めるべく蝙蝠が地面すれすれまで降下し、
方向を変えて黒い雨の如くロマネスクへと突撃する。

──遅い。遅過ぎた。
手綱を握り、後続の為、せめて数羽でも落とそうと槍を突き出した。

(;ФωФ)「くっ────!」

 

158 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:04:04.38 ID: jhmJDjAX0
(# ><)「させるかあああぁぁぁっ!!」

黒い渦を切り裂く銀閃。

鞘から抜かれたレイピアが、その刀身を撓らせて弧を描き、
押し寄せる蝙蝠を切り裂いていく。
剣を振るうビロードが狙うのは黒い羽。どちらか片方でも失えば、
その脅威は取り除かれる。
呼吸よりも速い一振りのたびに、数枚の羽が切り落とされる。
それでも押し寄せる数は地に落ちる数を上回り、徐々にビロードの視界を埋めていく。
やがて、視界の全てが闇に覆われ──

 

唐突に、緑なす枝が顔を叩いた。

 

160 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:07:19.48 ID: jhmJDjAX0
◆14

ξ;゚听)ξ「森の中までは追って来ないみたいね」

(;´ω`)「お馬さんもブーンもヘトヘトですお……」

( ФωФ)「我らの残りは……六騎か」

それも、当初は戦力外と見なしていたブーンたちを入れての数だ。
死者を操っての抵抗、野犬の襲撃はまだ耐えられた。
だが、最後の蝙蝠による奇襲に、多くの者が落馬した。

( ФωФ) (彼奴の戦力を甘く見過ぎたか──)

落馬した彼らが、まだ生きて戦っている事を願いつつ、
大きく喘いでいるビロードに声をかける。

( ФωФ)「ビロード、先程は貴公に助けられたな。深く感謝する」

( ><)「戦友を守るのは当たり前なんです。
それより、早くウォッサムを見つけないと領民の皆さんが危ないんです」

 

164 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:10:57.94 ID: jhmJDjAX0

 

樹冠からわずかに射す月明かりが、ぼんやりと木立の影を浮き上がらせる。
下生えを揺らす馬の足が死者の魂を揺り起こすような陰気な音を立てた。

ξ゚听)ξ「こっちの方向にアイツがいるのかしら?」

確固とした足取りで先導するロマネスクの背中にツンが問う。

( ФωФ)「森までの防備が厚かった事を考えれば奴はこの中に潜んでいると考えるのが妥当だ。
もし、奴が拠点とするならばアレ以上に打って付けの場所はあるまい」

伸ばされた指の先に、木々の枝の影から人工的な直線が姿を現した。

( ><)「あれは一体?」

( ФωФ)「ウンエイ帝国時代の地下教会だ。当時迫害された者たちが共に暮らし、共に葬られた。
今では誰からも忘れ去られた歴史の名残だ」

 

165 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:12:42.46 ID: jhmJDjAX0
クラシック様式の溝が刻まれた円柱を蔦がよじ登り、
罅割れ倒れた壁の内外に生い茂る茨は、その棘で馬の進む道を阻む。

( ФωФ)「お前達はここで歩哨をせよ」

二人の騎士に言い残し、ブーンたちを後に教会の入り口へと足を掛ける。
途端、かつての聖域とは思えない、冷たくねとついた空気が一同の肌に纏わり付く。

( ^ω^)「この空気は……」

( ФωФ)「やはりここが住処か。今のところ彼奴の気配はせぬが注意は怠るな」

火打石で点火された松明が、苔生した古の聖堂を揺れる光で照らす。
落ちた天井の破片が散らばる講堂の奥に説教壇が鎮座し、その背後に掲げられていた
大理石の十字架は壇上で無残に割れた姿を晒していた。

( ФωФ)「傷を負わせた以上、彼奴は棺のある場所に戻ってくるはずだ。
当時の風習上、墓所は地下にあるはずだが……」

 

169 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:17:01.04 ID: jhmJDjAX0
だが、光の届く範囲にはそれらしき物体はおろか、地下への入り口さえ見当たらない。

( ><)「もしかしたら外にあるかもしれないんです」

( ФωФ)「……可能性はあるな。では、中庭を探して」

ロマネスクが踵を返す。それに続こうと振り向いたブーンの腕が、壇上の燭台を倒した。
その瞬間、足元の石畳の感触が無くなる。

( ;^ω^)「おおおおおおお!?」

ξ゚听)ξ「ブーン!?」

(;><)「大丈夫なんですか?」

巻き上がる埃に立て続けにくしゃみをし、開いた落とし穴の入り口を見上げる。

( ФωФ)「これが地下の墓所か……ブーン、よじ登れそうか?」

( ^ω^)「ええと……この箱を足場にすれば大丈夫ですお」

上部が張り出した長方形の箱に足をかけ、ロマネスクが差し出した手を握る。
自然、引っ張り上げる腕に力を込めるロマネスクの視線が下を向いた。

 

170 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:18:39.77 ID: jhmJDjAX0
( ФωФ)「ブーン、貴公が踏みつけているそれは……」

( ^ω^)「んお?」

足元を見る。自分が上に立っているそれは、ちょうど人が入れるような大きさだ。
さらには、足を上げ下ろしする度に空ろな音が地下墓地の暗がりに響く。

(;><)「……棺桶なんです」

ξ;゚听)ξ「……あっさり見つかったわね」

( ФωФ)「……まあいい。それを破壊すれば奴はもはや甦れは……何だ!?」

突如、聖堂の入り口から響く、激しい剣戟の音と叫び声。
外に繋がれている馬が、凄絶な鳴き声を上げるのを最後に、
再びの静寂が辺りを包む。

( ФωФ)「貴公らはここで棺を壊せ、我輩は彼奴を仕留めに行く」

長剣の鞘を払い、ロマネスクが門へと駆ける。

( ><)「僕も行くんで──」

(#ФωФ)「ならん!!」

 

171 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:21:00.00 ID: jhmJDjAX0
怒気を孕んだロマネスクの一喝にビロードが動きを止める。

( ФωФ)「我が領内を穢す者から我が民を護る。
それが領主として、騎士としての我輩の勤めであり誇りだ。
手出しは一切無用」

( ^ω^)「ロマネスクさん……勝ってくださいお」

( ФωФ)「──当然だ」

手甲を嵌めた左腕を上げたロマネスクの背中が、戸外に広がる闇に消えた。

 

173 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:22:26.29 ID: jhmJDjAX0
◆15

【+  】ゞ゚)「遅カッタジャアナイカ。 先ニ食事ハ済マセテシマッタゾ」

白い面貌に刻まれた、笑いに歪む死神の鎌から血が滴る。
骨ばった長い指が見た目とは掛け離れた膂力で騎士の首を掴み上げ、
鎧の鎖ごと引き千切られた頚動脈はなおも、ウォッサムの口元を赤く汚す。

【+  】ゞ゚)「ダガ、ヤハリ馬ヤ男ノ血ナド不味クテ前菜ニモナラン」

無造作に力を失ったロマネスクの足元に投げ捨て、朱交じりの唾を吐く。
主を失った金十字の盾を汚す唾を見据えるロマネスクの金眼が、
獲物を捕らえる猫のように細くなった。

( ФωФ)「滅する準備は整ったか、下種」

【+  】ゞ゚)「滅スル? アァ、オ前ガ領地トモドモ今夜中ニ滅スル準備ハ出来テイルナ」

 

175 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:24:49.43 ID: jhmJDjAX0
言って、ウォッサムが高らかに嘲笑する。
刈り取るものと刈られる者。
その絶対的な差を形にするように、ふわりとロマネスクを見下ろす位置へと浮かぶ。

【+  】ゞ゚)「臭イから察スルニ、アノ女モ来テイルヨウダナ。
オ前タチヲ目ノ前デ喰ラッテカラ、恐怖ニ震エル指先カラユックリト味ワッテヤル。
イヤ、アノ女ノ仲間ノ肉ヲ喰ワセテミルノモ面白ソウダ。
ドンナ顔デ咀嚼シ、飲ミ込ムダロウナァ──!」

哄笑がどんどんと高くなり、人語を超えた引き攣れたような絶叫に変わる。
それが極限まで高まり、そして

【+  】ゞ゚)「ダガ、マズハ我ヲ傷ツケタオ前ヲ下僕ドモノ餌ニシテヤル──!」

吐き出された呪詛とともに、木々のない空に再び渦巻く蝙蝠の群。
ウォッサムの絶叫に唱和する金切り声を上げ、
直下のロマネスクへと黒い雨が降り注ぐ。

 

179 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:28:47.83 ID: jhmJDjAX0
【+  】ゞ゚)「死ヌガイイ──!!」

ウォッサムの歓喜の絶叫。
この男さえ消えれば、自分がこの地の王となる。
有り余るほどの餌と、絶望と怨嗟の声に彩られた声劇。
三百年の放浪の対価としては、悪くない結末だ。

空から伸びる、黒雲の先端がロマネスクの頭上に懸かる。

( ФωФ)「──────」

そのままの落下速度で、

蝙蝠の群れは、ロマネスクに触れる事無く塵となって四散した。

【+  】ゞ゚)「────!?」

 

( ФωФ)「我輩はワラキュラ公にして竜騎師団長、」

ロマネスクが、初めて驚愕を白貌に表したウォッサムに告げる。

( ФωФ)「そして『結界』の魔術師、ヴラド=ロマネスク=ツェペシュ。
それが、貴様を葬る者の名だ!!」

投擲された馬上槍が、ウォッサムの右胸を貫いた。

 

181 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:31:32.32 ID: jhmJDjAX0
◆16

【+  】ゞ゚゚)「AAAAAAUUUUUUUUOOOOOOOOHH!!」

槍に貫かれた傷跡から黒煙をたなびかせ、ウォッサムが咆哮する。

なぜだ。
なぜ我が無力で卑小で餌でしかないこの男に二度も傷付けられる。
祖を殺し、放浪の旅に出でて幾星霜、
対象を魅了する術も、鳥獣や死者を操る術も覚えた。
我の下僕の数はゆうに千を越える。
悪魔祓いを生業としていた神父さえ、我の前では蛆虫のように這うのがやっとだった。
我は『骸の王』。
死者を創り、死者の上に立つ、絶対的存在──!

【+  】ゞ゚)「ソレガ、ナゼオ前ノヨウナ塵ニ!!」

喀血混じりのウォッサムの言葉に、ロマネスクが応える。

 

184 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:36:05.33 ID: jhmJDjAX0
( ФωФ)「貴様が虚に拠っているからだ。
信仰、正義、忠勇、博愛のいずれも持たぬような輩では、
いかに年月を生きようとそれは偽りの生に過ぎん」

【+  】ゞ゚)「戯レ言ヲホザクナ人間──!!
ナラバ、ソコニ転ガッテイル死体ハナンダ。抵抗スラ儘ナラズ、
我ノ餌ニ成リ果テタ、ソレガオ前ノ言ウ信仰ヤ正義ノ結果カ」

血走った眼で睨み、言葉を吐く吸血鬼に、ロマネスクは冷たくなった戦友を見やり、

( ФωФ)「野辺に倒れ伏そうとも、弱きを護り、悪に抗うが
ワラキュラ竜騎師としての誉れ。たとい彼の身は朽ちようと、
その高潔な魂は神の御許と」

馬上槍を強く握り直し、続ける。

( ФωФ)「我が心、そしてこの槍に宿っている」

ウォッサムへと向けられた穂先が、月光に白く煌いた。

 

187 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:41:32.35 ID: jhmJDjAX0
十分だ。
もう十分だ。
これ以上この男の偽善に付き合う必要など無い。
残り五千の下僕で、この男も、この男の仲間も、全て貪り尽くす。
魔術師だろうと、傷が癒えた我の敵では──

【+  】ゞ゚)「ナゼダ!  我ニ何ヲシタ!」

右胸に開いた孔から、とめどなく漏れゆく黒い霧。傷が塞がるまでの時間は稼いだはずなのに。
閉じるどころか、どんどんと傷口が爛れていく。

(;><)「な、なんとか終わったんです」

( ^ω^)「あんまり堅い木なもんだから、ドクオの爆弾で木っ端微塵に吹き飛ばしましたお」

教会の入り口から、顔に煤をつけた三人が姿を現した。

【+  】ゞ゚)「マサカ、棺ヲ壊シタノカ!!」

ξ゚听)ξ「ご名答、アンタの寝床はもう無いわよ」

 

190 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:44:03.85 ID: jhmJDjAX0
【+  】ゞ゚゚)「小娘エェェェェェ!!」

月を背景に吼えるウォッサムに呼応して、
周囲の木々から野犬、蝙蝠、そして死者の群がおぞましい合唱を奏でる。

【【【+  】】】ゞ゚゚)))「殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス
殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス
殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺──!!」

すでに言葉ですらない音が捻じ曲げられた口から噴出し、
空と地を埋め尽くすウォッサムの下僕が呪詛の旋律を奏でる、
さながら地獄に演劇というものがあれば、これがそうなのだろう──。

(;><)「ブーンさん!!」

ξ;゚听)ξ「……絶望的ね」

絶望の色がビロードの顔に浮かぶ。
冷静な態度を崩さないツンも、さすがに蒼白さを隠せてはいなかった。

 

193 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:49:23.96 ID: jhmJDjAX0
( ^ω^)「二人とも大丈夫だお。ロマネスクさんは勝つお」

握られたカトラスが小刻みに震える。
幾千の敵に対し、味方はわずかに四人。絶望的なのは分かり切っている。
それでも、勝つ、と言ってくれた。だからこそ、信じるのだ。
圧倒的な絶望を前に、槍を構えるこの男を。

( ФωФ)「闇より光へと昇華する族にぞ我等は属する──」

【+  】ゞ゚)「何ダ? 圧倒的ナ我ガ下僕達ノ全軍ヲ見テ気デモ触レタカ?」

憎悪と侮蔑の視線で中空からロマネスクを見下ろすウォッサム。

( ФωФ)「貴様には到底分からぬだろう。人の崇高さを、光を求める心が」

【+  】ゞ゚)「ソレガ何ニナル? オ前タチヲコノ絶望カラ救ッテクレルノカ?
……ナラ、ソノ心トヤラヲ信ジテ死ネ!!」

 

196 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:51:35.87 ID: jhmJDjAX0
捻じくれた爪が振り下ろされ、周囲の森から、上空から、
獣と死者が爪と牙を剥き出して中心のロマネスクへと殺到する。

( ФωФ)「一つ聞くが、この全てが貴様の下僕なのだな?」

上空からの爪が触れる寸前、ロマネスクが問う。

【+  】ゞ゚)「ソウダ、オ前ハ特別ニ全軍デ骨モ残ズ喰ラッテヤル!!」

(  ω )「そうか、」

一秒の半分にも満たない瞑目。

 

( ФωФ)「──ならば、やはり貴様の負けだ、下種」

 

198 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:55:16.96 ID: jhmJDjAX0
馬上槍の石突を、足元の地面に突き刺した。

 

                 weiser Aufsatzwald
( ФωФ)「葬送結界────『白塔森林』」

 

白い森が、出現する。
その一本ごとの全てにウォッサムの眷属を串刺しにし、
鬱稜と広がる黒い森の天蓋よりも遥かに高く、月下に幾千の杭が聳える。

【+  】;ゞ゚゚)「──ァ───ガ」

一際高く、月に近い杭に股下から口を貫かれ、ウォッサムが苦悶に呻く。

 

199 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:56:43.36 ID: jhmJDjAX0
( ФωФ)「闇より光へと昇華する族にぞ我等は属する。
たとえ闇に心が潰されようと、一筋の光明を求め、人は希望を捨てぬ。
貴様の闇では、人の信ずる心の一部すら覆うことはできん」

聞いてすらいないのか、杭の束縛から逃れようと、
ウォッサムが痙攣するように体を揺らす。
だが、傷を癒せず、白木の杭による致命傷を負った身では、
傷口を広げるだけの結果にしかならなかった。

( ФωФ)「吸血鬼、貴様の罪業は人の手で裁けぬほどに深く重い。
故に、我輩は貴様を断罪せぬ」

黒から深い藍へと、明け始めた夜空を穿つ白木の先端を見て、
ロマネスクがウォッサムへと最後の言葉を投げかける。

 

204 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 20:59:13.54 ID: jhmJDjAX0
( ФωФ)「貴様は神の庭で裁かれるがいい。
我輩にも貴様の安息を祈るくらいの慈悲は持ち合わせている。
──貴様の行く所に、安息があるならばな、エイメン」

巨大な蝋燭のように、白い木々の先端に火が点る。
明け方の空に、立ちのぼる無数の朱炎。

;;;;;;;;;;;;;ゞ゚゚)「────GGGGGAAAAAAARRRHHHHH!!」

( ФωФ)「……塵は塵に、灰は灰に」

両手で空を掻き、数百年を生きた吸血鬼が、静かに炎の中で崩れていく。
白木の根元まで達した炎が、十字を形作っていた。

 

206 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 21:01:14.54 ID: jhmJDjAX0
◆17

(;^ω^)「ロ、ロマネスクさん、今のは一体なんだったんですお!?」

静かに、言葉を奪われたかのように、
ウォッサムの消滅を見届けていたブーンが我に返る。
声に出さないものの、他二人も同じような面持ちだ。

( ФωФ)「……知るべき物と、知るべきでない物が世界にはある。
貴公らが見た物は、前者では無いとだけ言っておく」

( ><)「あの吸血鬼は、死んだんですか?」

( ФωФ)「あれは、異物へと堕ちた時から既に死んでいた。
我輩は彼奴をあるべき場所へと還しただけだ」

曙光に横顔を照らされたロマネスクが、ブーンたちに向き直る。
あれほど燃え盛っていた無数の白い杭は、
森の木々に燃え移ることなく、風に灰を散らせて消えた。

 

209 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 21:03:11.91 ID: jhmJDjAX0
( ;^ω^)「あ、そういえば城に残してきたドクオたちは大丈夫かお!?
早く城に戻るお!」

( ФωФ)「その必要は無い。すでに二人は安全な場所に送り届けた。
──あとは貴公らだけだ」

言葉とともに、水面に揺れる波紋のごとく、
ブーンの視界に映るロマネスクの姿が揺らぐ。

(;^ω-)「んお? 一体──」

ξ--)ξ「なんだか、急に眠く……」

( ФωФ)「貴公らの働き、誠に感謝する。ワラキュラは貴公らの協力で護られた」

 

210 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 21:04:00.56 ID: jhmJDjAX0
だが、と歪む視界の中でロマネスクが続ける。

( ФωФ)「本来、ここは閉ざされた場所。我輩はこの地を外敵から守るべく、
結界を敷いた。此度は地図が貴公らを導いたが、それももう無いであろう」

輪郭さえも歪んだロマネスクの声が響く。
視界がゆっくりと白い光に包まれ、

( ФωФ)「いつか、世界を分かつ壁が不要になった時、
願わくば貴公らの子孫と合間見えん事を。さらばだ、勇敢なる旅人よ」

意識が、途切れた。

 

214 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 21:08:07.66 ID: jhmJDjAX0
◆18

('A`)「……い、……おい、起きろブーン!」

( ;^ω^)「こ、今度は何だお!?」

勢いよく毛布をはねのけた頭が、ドクオの顔にぶつかる。

('A`)「……っ痛え。なんだじゃねぇよ、朝だ朝」

顔をしかめるドクオに言われて左右を見渡す。
切り株が点在する森の中の空き地に、朝露に湿る竜胆が咲き、
荷馬車の脇ではフィレンクトが燻っている残り火を熾して
朝食の用意を進めている。
その周囲ではビロードとツンも眠たげな眼を擦りながら
毛布から身を起こしていた。

 

215 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 21:09:28.54 ID: jhmJDjAX0
( ;^ω^)「…………お?」

何か、しっくりと来ないような感覚が胃から沸き起こり、
毛布を畳みながら首を傾げる。

( ^ω^)「ドクオ、いつ城から出発したんだお?」

('A`)「ハァ?」

心底呆れたような顔をされた。

('A`)「このへんに城なんて影も形もねぇだろが。
一昨日通った町から30マイルは離れた山ン中だぞ、ここは」

( ^ω^)「ドクオ、からかってるのかお?
昨日はお城で宴会の後、夜中に……」

なぜか、記憶に霧がかかったかのようにあやふやになってしまっている。

('A`)「ブーン、いくら昨日の料理番がツンだったからって、
宴会の夢なんて妄想に逃げるのはぶふぇっ!」

言い終えるより先に、ツンの投げた鍋の蓋がドクオの側頭部に命中した。

 

218 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 21:12:23.21 ID: jhmJDjAX0
( ;^ω^)「……お大事にだお。フィレンクトさん、昨日城に行きませんでしたかお?」

(‘_L’)「城……ですか? 失礼ながら、坊ちゃんの記憶違いかと。
昨日はここで行商人の方と夜を明かしたはずですが……
そういえばどこに行かれたのでしょう?」

ξ゚听)ξ「私たちとは反対の方に行くようだったし、先に発ったんじゃないの?」

( ><)「まだ地図のお礼もちゃんとしてなかったんです」

( ^ω^)「地図?」

「昨日もらったじゃない、『旅先で見つけたものですが、
自分が持っていても使い道が無いので、ご入用ならどうぞ』って」

言って、片手に丸められた羊皮紙を広げる。
色褪せた表面に描かれた未知の海岸線と、奇妙な緯度経度。
そして、朝の光に透かされた「τ」の文字。
ブーンの素人目で見ても、間違いなくピリ・レイスの地図である事は分かった。

( ^ω^)「……これを、行商人さんが持ってたのかお?」

( ><)「ブーンさんが一番喜んでたんです。覚えてないんですか?」

(;‘_L’)「やはり、前の町で仕入れた貴腐ワインを空けてしまったのがいけませんでしたか」

フィレンクトが少々呆れの混じった視線を向けてくる。

( ^ω^)「本当に、夢だったのかお……?」

 

 

221 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 21:13:47.06 ID: jhmJDjAX0

谷風にたなびく山腹の煙を、ブーンたちからは見えない、古い城郭の上から
男が見つめる。
昨夜は肩を並べてワラキュラを守った戦友たちの行く末を案じるように、
その猫のような瞳に一抹の愁いが過る。

(  ω )「もし、我輩も──」

一際強い風が、男の羽織ったマントをばたつかせ、
言葉の続きは風の叫びにさらわれ、聞き取れない。
だが、身を翻して城壁から遠ざかる男の背中が、
雄弁に彼の意を物語っていた。

彼らは旅人。
未だ見ぬ土地へ、海へとその足を進め、
その腕で新しい世界を切り開く者。

己は護り手。
騎士となりし日から、槍と盾とをその腕に、
その身で国を、民を護ると誓う者。

 

222 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 21:14:43.70 ID: jhmJDjAX0
重なり合うはずの無い運命が交差する事だけでも、
いわば奇跡のようなものだ。
──だから、それは叶わない望み。
ただ一人となっても、この地を守護すると決めた時から捨てた物。

( ФωФ)「さらばだ、自由なる旅人たちよ。
天に祝福を、地には恵みを。そして、貴公らの道の先を、光が照らさんことを」

鬱蒼とした森の木々が、ワラキュラの護り手と、その領地を隠す。
記録に残ることは無く、語り継がれることも無い戦い。
だが、勇敢な旅人たちの記憶は、防人の心に留まり続ける──。

<第5話・了>

 

 

224 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 21:16:42.18 ID: jhmJDjAX0
◆幕間

再び、コンスタンツァ港にて──

('A`)「……なんか」

ξ゚听)ξ「今回って」

( ><)「完全に主役を持ってかれたんです」

(‘_L’)「前々回の投票で吸血鬼と串刺し公への期待レスがありましたからね」

('A`)「しかし全然航海してないな今回は」

( ;^ω^)「遺跡探索なんかはどうしても陸がメインになってしまうお」

( ><)「でも、それはそれで海とは違った醍醐味があるんです」

( ^ω^)「ちなみに本編に登場したワラキュラ竜騎師団は実在するお」

('A`)「竜騎”士”団だけどな。串刺し公の父、ヴラド=ドラクルが団長だった時もあるぜ」

(‘_L’)「騎士団の盾の紋章も竜十字でしたな」

 

225 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 21:18:57.81 ID: jhmJDjAX0
( ^ω^)「何はともあれ、これで地図も四枚目だお。ドクオ、新しいのは
どこの地図かわかるかお?」

('A`)「いや、全然」

ξ゚听)ξ「使えねぇ」

('A`)「ヒデェwwwwwでも、手がかりぐらいは掴んだぜ」

( ><)「何ですか?」

('A`)「右端に『ヴィンランド』って書いてあるんだが、
確かノルトラントの伝承にそんな名前の出てくる話があったはずなんだ。
調査しても損は無いと思うぜ?」

ξ゚听)ξ「ノルトラント……北海の端の島ね」

(‘_L’)「今から急げば、ギリギリで流氷で海が閉ざされる前に帰ってこれますな」

( ^ω^)「じゃあ全速力でそのノルトラントに行くお!」

( ><)「待ってくださいなんです。船の修理が先なんです」

 

228 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/02/26(火) 21:22:03.48 ID: jhmJDjAX0
(;^ω^)「あ……忘れてたお」

('A`)「このままの状態だと流氷にぶつかって沈みかねないからな」

( ><)「というわけで次回の話はカッセンダムが舞台なんです」

( ^ω^)「ツンの故郷だお」

ξ゚听)ξ「……まあ、何事も無ければいいんだけど」

(‘_L’)「何か心配事でも?」

ξ゚听)ξ「修理を依頼する船大工が……ちょっと、ね」

( ><)「次回、( ^ω^)ブーンが大航海に出るようです・第6話

                 『奇妙な船大工』 

( ^ω^)'A`)゚听)ξ‘_L’)><) 「「「「お楽しみに」」」」なんです!!」

 

 

 

 

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