2 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:27:55.40 ID: +GaHE7Sm0
◆第3話

◆航海日誌

1485年熱月21日・アブキール湾──

( ^ω^)「おいすー。キャプテンブーンですお」

( ^ω^)「東西に長い地中海もそろそろ東の端、明日はいよいよラウンジ首都ですお」

( ^ω^)「ブーンはイベリア半島から出たことが無かったのでこれが最初の海外体験ですお」

( ^ω^)「水夫の皆さんも久しぶりの上陸で士気が上がってますお」

( ^ω^)「ラウンジの大図書館で地図の情報が手に入るので、普段無気力なドクオまで盛り上がってますお」

( ^ω^)「ツンは……おっと、殴られるのは嫌なのでこれはやめておきますお。ブーンは学習する男ですお」

( ^ω^)「さて、今日はこの辺でやめにしておきますお」

 

 

3 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:29:34.06 ID: +GaHE7Sm0
◆1

日誌を閉じ、ブーンは甲板に出た。
夜明け前の暗く凪いだ地中海と、凛と輝く無数の星でブーンの視界が覆われる。
ランタンの明かりの周りで、雑談にふける見張りの水夫たちに声をかけ、船尾の一段と高くなっている所に腰掛けた。
ラウンジ大陸からの乾いた風が、この地特有の砂の匂いを運んでくる。
夜、暇な時はこうして空を見上げ、星の動きを覚える。それがブーンの最近の習慣となっていた。

( ^ω^)「十字架型が鷲座で、天の川の向こうのが琴座、柄杓が大熊座で……」

ツンに教わった星座の形を反芻する。蛍のように光る無数の輝きの中から、一際大きい物を中心に指で空に線を描いていく。
獅子座、カシオペア、蟹座、アルゴー座……。

( ^ω^)「ん? 見慣れない星が地平線にあるお。 それに他の星座の位置も何だか低いお……」
('A`)「どうした、ブーン?」

ドクオが梯子の下から顔を覗かせる。いつもの寝ぼけ眼ではなく、今日は割りとすっきりした顔をしていた。

 

4 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:31:28.10 ID: +GaHE7Sm0
( ^ω^)「ドクオ、お早うだお。こんな時間に起きてくるなんて珍しいお」

('A`)「もうすぐラウンジ帝都だからな。地図の手がかりが手に入るかと思うと興奮してあまり眠れなかったんだ。
それよりさっき、何か言ってなかったか?」

( ^ω^)「そうだお。何だか星座の位置がいつもより低いんだお。ドクオには原因がわかるかお?」

ブーンの隣で胡座をかき、空を見上げる。確かに、星座の位置がヴィップで見るものとは異なっていた。

('A`)「あー……そうだな。これは一つの意見なんだが……笑うなよ?」

前置きをしてドクオは語り出す。

('A`)「実はこの世界は丸い、一つの球だって学説があるんだ」

( ^ω^)「……ドクオ、ラウンジに着いたら病院に行ったほうがいいお。世界が平らなのは常識だお」

(#'A`)「うるせーよ」

黙って聞け、とブーンの頭を小突いて話しを続ける。

 

5 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:34:21.20 ID: +GaHE7Sm0
('A`)「ヴィップ港を出入りする船を見てただろうから分かると思うが、船が水平線に消える時は、下の方から見えなくなるだろ?
世界がどこまでも平らだったら、遠ざかる船は小さくなっても、見えなくはならない。星の位置が変わるのも、
俺達が移動してるから、水平線に隠れて見えなくなってるだけなんだ」

( ^ω^)「……でも、世界が丸かったら、反対側にあるものは全部空に落っこちてしまうお。一体それはどうなってるんだお?」
「さあな。ま、俺達が航海を続けていけばそこまで行き着くこともあるかもな」

( ^ω^)「全部が逆さまの土地かお……」

濃紺色が少しずつ薄まってゆく空を見上げながら、物思いにふける二人の耳にラッパらしき音が届いた。
続いて歌のようなものが聞こえる。高音から低音へ、そしてまた高音へと寄せては返す波のごとき歌声は、
早朝の大気を震わせて地中海の波の上を渡っていく。

( ^ω^)「な、なんだお? ラウンジの方から聞こえるお。こんな朝早くからお祭りでもやってるのかお?」

ξ゚听)ξ「ナレアイ教の早朝の祈りよ」

金髪を風になびかせて甲板に出てきたツンが説明する。

 

7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:36:05.66 ID: +GaHE7Sm0
金髪を風になびかせて甲板に出てきたツンが説明する。

ξ゚听)ξ「ラウンジ帝国の国教、ナレアイ教では早朝、昼前、午後、夕暮れ、夜の五回祈りの時間があるの。この時間は
皇帝から最下層の奴隷までナレアイ教の聖地の方角を向いて祈りを捧げるわ」

( ^ω^)「あの歌のような物が祈りの言葉かお?」

ξ゚听)ξ「そう、意味は『神は善なり。一つにして至高の存在なり』ってとこね」

( ^ω^)「……なんだかブーンたちの祈りと似てるお」

('A`)「神様への祈りだからな、宗教は違っても意味合いは似たようなものになるんだろ」

朝靄を通して、船の前方に玉葱型のドームや尖塔、家屋の連なりが茫漠と見えてくる。
世界一の大河、ナイルの河口に広がる三角州の上に立てられた地中海最大の交易都市。
ラウンジ帝国が都をここに定める前はアレキサンドリアと呼ばれていた、ニューソク、ラウンジ、そしてまだほとんど知られていない
東方の大陸を繋ぐ水陸交通の要衝。

帝都ラウンジが、ブーン達の前にその威容を曝け出そうとしていた。

 

8 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:38:11.74 ID: +GaHE7Sm0
◆2

     「くぁせdrfftgyふじこlp;@!!」
     「swでfrgthyじゅきぉ;p!」

駱駝色の砂岩に青御影石でモザイク紋様の描かれたファサードを持つアーチ型の正門を潜ると、砂埃と数多の香辛料が入り混じった匂いが鼻腔を打つ。
広々とした大通りの左右にはカラフルな廂を思い思いに掲げた露天商が大声で通行人を呼び留め、体格のいい馬や駱駝に荷を乗せた交易商が
いつ果てるとも知れない値引き交渉を繰り広げている。軽装の鎧を着込み、半月刀を腰に差した警備兵や、巻物の束を小脇に抱えて小走りに急ぐ文官、
透き通る紗のベールを目深に被り、香水の入った壺を頭上に抱える女たちが行きかう活況は、ここが皇帝のお膝元であり、1千年の歴史を持つ地中海、
いや世界でも指折りの大都市であることを雄弁に物語っていた。

( ><)「どこもかしこも人だらけなんです!」

港湾局に停泊料を払い、ラウンジの外港に船を横付けしたブーン一行は、港から王宮へと一直線に伸びる帝都の目抜き通りへと足を踏み入れていた。
懸念されていたビロードの上陸も、ジベタルラルでの厳重な審査とは対照的にあっさりと許可された。おそらくはラウンジ内海で上陸する者に
帝国を脅かせるほどの力は無いと判断しているのだろう。それが逆に、ラウンジという国の絶対的な自信を裏打ちしているようにビロードの目には写った。

 

 

9 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:40:28.06 ID: +GaHE7Sm0
( ^ω^)「おっおっおっ、月一回のアンダルシアの大市でもここまでの賑わいは無いお」

(‘_L’)「ラウンジではこれが平日の市況ですからね。帝国の祝祭日には各地から70万人がこの都を訪れると聞きます」

(;^ω^)「70万人! ハンザ同盟の全都市を合わせた人口よりも多いお」

ξ゚听)ξ「その人口を支えているのがラウンジを南北に流れる母なる河、ナイルってわけ」

ツンの指摘どおり、先程船上から見たラウンジ周辺の砂漠は、縦横無尽に灌漑され豊かな農地へと作り変えられていた。
キャラックはおろか、ガレオンすら楽に遡れるほどの大河は、その中州に鎮座するラウンジが小さな町に見えるほどに滔々と水を湛えて流れていた。

('A`)「さて、ここからの行動だが」

外国人向けの宿で宿泊する旨を伝え、王宮までの道のりの半ばほどにある方形の広場に差し掛かった所でドクオが口を開く。

('A`)「俺はこのまま大図書館に行って、ピリ・レイスの地図の手がかりを探す。ヴィップを出る時に、昔世話になった教授に紹介状を書いてもらったんで
一般人の見れない第2階層まで閲覧できるはずだ」

ξ゚听)ξ「私はちょっとこの町の旧い知り合いに用があるから、アンタ達とは別行動ね」

(‘_L’)「では、私達はクラシックに運ぶための絨毯の品定めに参りましょうか」

( ^ω^)「ドクオ、朗報を期待してるお」

 

 

10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:42:19.39 ID: +GaHE7Sm0

ラウンジ下町、絨毯通り──

大通りから横道に折れ、乾季の強烈な陽射しを避けるために、建物の屋上に張り渡された棒に薄布を被せたアーケードの下の雑踏を歩く。
薄暗い道には大通りと変わらない人数が、肩や担いだ荷物が互いにぶつからないよう体を傾けてすれ違う。
交易商人たちにとっては大通りではなく、こういった狭い路地に構えられた幾つもの卸商こそが、その商売の目的地なのだ。

( ^ω^)「なんだかいい匂いがするお」

( ><)「これは……お香の匂いなんです」

(‘_L’)「ラウンジ人はこういった香を好みますからな。顧客を歓待するため、一軒々々独自の調合をして焚き込めるのだと聞き及んでおります」

戸の脇や窓枠に置かれた香炉からは、甘く鼻をくすぐるような白煙が薄っすらとたなびいている。
フィレンクトはその煙の中を左右に首を傾げ、暖簾代わりに戸に架けられた絨毯を吟味していたが、やおら一軒の絨毯屋へと足を踏み入れていった。

(‘_L’)「絨毯問屋は客に見定めてもらうため、自慢の一品をその戸口に掲げています。顧客は絨毯の目の細かさや模様の精緻さ、使われている羊毛の柔らかさなどを
確かめ、懐具合と相談して取引先を決めるというわけです」

( ^ω^)「勉強になりますお」

 

12 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:45:24.66 ID: +GaHE7Sm0
流石は世界中から品物が集まる交易都市というべきか、ヴィップ語を流暢に話す店主に奥に通され、フィレンクトが来訪の目的を告げる。
丁稚が倉庫から様々な大きさや形をした絨毯を3人の目の前に広げ、その一つ一つを吟味しながら値段を交渉していく。

( ^ω^)「…………」

( ><)「…………」

(;^ω^)「……退屈だお」

(;><)「足が痺れてきたんです」

ラウンジでの商談には時間がかかる。品物の値が決まり、双方が握手を交わすのに早くても数時間、長い時にはほぼ丸一日を交渉に費やすことになるのだ。
それが商売上の礼儀であり、相手の言い値を呑むことは逆に不誠実さの証として敬遠される。だが、フィレンクトとは違い、絨毯に関する知識に乏しい二人にとっては
目の前の幾何学模様の波を見続けることにも、いい加減飽きが来ていた。

( ^ω^)「ちょっとその辺を散歩してきますお」

( ><)「外の空気を吸いに失礼するんです」

迷子にならないで下さいよ、と言い残して商談に戻るフィレンクトを残し、二人は近辺の散策を始めた。

 

13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:48:34.94 ID: +GaHE7Sm0
◆3

( ><)「け、剣を飲み込んだら口から炎が出てきたんです!!」

( ^ω^)「何かのトリックのはずだお。本当にやってたら命が何個あっても足らないお」

 

(;><)「ひゃああぁぁ!! 巻きつかれてるんです! にゅるにゅるして冷たいんです!」

( ^ω^)「ビロードは怖がりだお。ただのかわいらしい蛇だお」

     「それ、コブラ、猛毒。噛まれる、人、死ぬ」

(;><)「…………きゅう」

     「牙、抜いてある。安心する」

(;^ω^)「……先に言えお」

 

(*><)「〜〜〜〜っ、酸っぱいけど美味しいんです! クセになる味なんです!」

( ^ω^)「おっおっおっおっ、こっちのもねっとりした食感が後を引くお」

ラウンジの奥地から来たと思われる、黒光りする肌を持つ大道芸人の一座を見物し、ターバンを巻いた獣使いが次々に籠から取り出す
珍獣らに驚嘆の声を上げる。台の上にうず高く積み上げられたザボンやナツメヤシを気前良く振舞う果物商を冷やかしての徘徊に
夢中になっていた二人は、群衆の中から伸びてきた細く茶色い腕が、彼らの腰に触れるのには気づいていなかった。

 

14 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:50:37.94 ID: +GaHE7Sm0

 

その頃、大図書館前──

(;'A`)「閲覧どころか入館すら出来ない? なんだよそれ! ちゃんとトレド大学からの紹介状も持ってきているんだぞ!」

    「ええ、書類上の不備はありませんし、貴方の身元もしっかりしています。ですが、お見せできないのには理由があるのです」

気色ばむドクオに顔色一つ変えず、老齢の文官がにべも無く言う。

    「現在、大図書館は資料整理を兼ねた改修工事を行っており、それが終わるまでの間は宰相の許可された者以外の立ち入りは禁じられております」

    「ですが、仮に改修の終わった後でおいでになられても、閲覧は不可能でしょうな」

老齢の文官の言葉を、眼鏡を掛けた若い文官が引き継ぐ。知識を鼻にかけて人を見下す目つきをした、ドクオが一番嫌いな種類の人間だ。

    「聞けば貴方は、ピリ・レイスの地図を探しておいでだとか」

眼鏡の奥に嘲笑の色が浮かぶ。未だにそんな馬鹿げた物を信じる奴がいるのか──と言いたげに口元が歪む。

 

 

15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:52:39.55 ID: +GaHE7Sm0
   「先月の宰相様の具申を受け、皇帝陛下は他国に対する、軍事にかかわる書籍の禁輸をお命じになられました。
これらの書籍には地図も含まれており、地図類はアスケリ、すなわち我が国の士族以上しか閲覧を許されない第3階層に移される事に相成りました」

たとえ、ピリ・レイスの地図のような子供の落書き以上の価値を持たないものであってもね。小馬鹿にするような言い方で出口を掌で指し示す。
どうぞお帰り下さい、というわけだ。

──上司の顔色を伺うしか能の無い小物が威張りやがって。

慇懃な笑みを浮かべる文官に心の中で毒吐く。とはいえ、このまま押し問答を続けても埒が明かない。無理にごねれば衛兵につまみ出されるのが落ちだろう。
解決策は改修が終わるのを待ってラウンジの貴族の協力を得る事だが、生憎とドクオにそのような知り合いはいなかった。

('A`)「八方塞がりかよ……」

天を仰ぎ、溜息を漏らす。午後の太陽はドクオの心情などそ知らぬ顔で、ラウンジの町並みを睥睨していた。

 

17 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:57:29.61 ID: +GaHE7Sm0
同時刻、とある酒場にて──

ドクオが溜息とともに宿屋への帰路へと着いた頃、ツン・デ=レーヴェンブロイの顔にも焦燥と落胆が浮かんでいた。
回り歩いた酒場はこれで17軒目。幾つかの酒場では旧い知り合いに出会うことが出来た。残りは空振り。言い寄ってきた好色そうな男どもを
叩き伏せること数回。そして、

ξ--)ξ「手がかりはなし、か……」

そうそう自分の目指す物の情報が手に入るわけではない。一ヶ所でじっとしてくれているならともかく、相手は動きを止めると死んでしまう魚のようなものだ。
さらには名前を変えている可能性だってある。分かってはいるのだが、手足に蓄積した疲労はいつもより重く感じられた。

ξ゚听)ξ「ありがとう、少ないけど貰っておいて」

幾許かの情報代を、今は酒場の用心棒となっている、昔の仲間に握らせる。何故船を降りたのか、どうしてこのような場末でくすぶっているのかは
訊ねる気はないし、そうするべきではないと思っている。彼には彼の理由があったのだろうし、自分は自分の理由で船に乗ることを選び続けている。
それ以上でもそれ以下でもない。

ビール蔵を改築した半地下式のひんやりとした酒場の階段を上り、地上に出ると熱気と喧騒が四方から押し寄せてくる。
だが、それ以上に心の焦燥は熱く、気付けば親指の爪を噛んでいた。

ξ゚听)ξ(こんな時、アイツならなんて言うかな──)

 

18 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 01:58:27.21 ID: +GaHE7Sm0
自分が今の船に乗るきっかけになった男の顔を思い浮かべる。見ず知らずの他人の夢を叶えるために、誰も見たことの無い遠くまで行こうとしている男。
あるいは彼なら、この膠着した状況を打開してくれるだろうか。
そこまで考えた所で、甘えを払うように首を振る。彼を、いや彼だからこそ、この一事に巻き込んではならない。
今までも、そしてこれからも、私の夢と言える程に綺麗でもない目標に辿り着くまでは、船のクルーはあくまで船を共にする「仲間」でしかない。

ξ゚听)ξ「そうじゃなきゃ、いけないのよ」

言い聞かせるように呟き、次の酒場へと踵を返す。
胸元に隠したロケットの鎖が、ツンの動きに合わせて、乾いた音を立てた。

 

21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:04:44.06 ID: +GaHE7Sm0
◆4

( ><)「そろそろ日が暮れるんです。帰らないとフィレンクトさんが心配するんです」

( ^ω^)「だお、さっきの商店に戻る……お?」

陽が西に傾き始めた頃、ヴィップの祝祭日ですら見られないほどの数々の見世物や珍しい食を堪能した二人は、ようやく本来の
用を思い出し、帰途に着こうとしていた。

( ><)「どうかしたんですか?」

(;^ω^)「……帰り道がわからないお。ここは一体どこだお?」

( ><)「……買い食いしながら歩いてたから、お店に沿って歩けば戻れると思うんです!」

( ^ω^)「日が暮れないうちに急ぐお」

踏み固められたナイルの砂に、長く伸びたブーンとビロードの影が落ちる。
言葉の通じない異国の地で、道に迷うのは子供でなくとも不安が高まる。口にこそ出さないものの、二人の足は小走りになっていた。

( ^ω^)「ここの角を右に曲がったはずだお…………!」

橙色に染まる西陽に反射する汗さえ拭わずに、帰途を急いでいたブーンの足が角を曲がった所で止まる。
硬直するブーンの肩越しに、その先を見たビロードが叫び声をあげた。

 

23 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:07:14.66 ID: +GaHE7Sm0
(;><)「店が……店が無いんです!!」

夕べの祈りに間に合わせるように、露天を解体して家路に着く人々が、異国の服装をしたブーン達を一瞥しながら通り過ぎていく。
道を尋ねようと思わず肩に手を掛けようとして、思いとどまる。言葉が分からない、という事がこれほど人を無力にさせるとは。

(;><)「どどど、どうすればいいんですか?」

( ^ω^)「落ち着くお、こんなこともあろうかとドクオに宿の名前を書いてもらったお」

( ><)「最初からそれを人に見せれば良かったんです!」

( ^ω^)「ちょっと待ってろお、確か……」

腰の財布に手を伸ばしたブーンが、そのままの体勢で凍りつく。

( ^ω^)「ビロード、落ち着いて聞くお」

( ><)「どうしたんです?」

 

(;^ω^)「財布、掏られたお」

 

24 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:09:24.07 ID: +GaHE7Sm0
薄闇の空に夕べの祈祷の最後の一小節が余韻を残して消える頃、ブーンとビロードは小さな広場の中央にある
オベリスクの根元に座り込んでいた。砂に籠もっていた残熱は瞬く間に消え、真夏だというのに冷涼さを帯びた風が
褐色の埃を運んでゆく。

( ´ω`)「腹減ったお……」

( ><)「…………」

ブーンの呟きにビロードは答える気力も無い。日が暮れる前になんとかして見覚えのある場所に出ようと闇雲に歩き回った結果、
全く成果の無いままに無駄な体力を消耗してしまった。入り組んだ迷路のような路地を幾つも渡り歩き、この広場を見つけたことでさえ
僥倖にすら感じられる。

( ´ω`)「ドクオもツンもこんなダメ船長に呆れてしまってるお……」

意思とは関係無しに空腹を訴え続ける胃袋をさすりながら、星の瞬き始めた夜空を見上げる。
今頃はみな宿に到着して、帰りが遅いのを心配しているだろうか。くたびれた足を伸ばしたその時、硬質な衝撃が脛に走り、続けて罵声が響いた。

(;^ω^)「ご、ごめんなさいですお! 転ばせるつもりは無かったんですお!」

(;^ω^)「お金は今、持ち合わせが無いんですお! 明日まで待ってくださいお!」

(;^ω^)「謝ってるような顔じゃないですかお? この顔は生まれつきだから変えられませんお」

 

25 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:14:10.83 ID: +GaHE7Sm0
必死で謝罪の言葉を並べ立てるが、ヴィップ語なので通じていないであろう事はもとより、絡んできた三人組の男たちからは強い酒の臭いが漂っていた。
その内の一人が怒声を上げ、ブーンの胸倉が掴まれる。数発は殴られるだろうと覚悟して、歯を食い縛り、目を閉じた。

( ^ω^)「…………痛くないお?」

来るはずの衝撃がいつまでたってもこない事を訝しく思い、薄目を開ける。
振り上げられた男の腕は、その頭上から伸びる指で、止められていた。

見上げるほどの巨躯。ブーンを掴んでいる男が子供にすら見えるその身長は、7フィートはあるだろうか。
ラウンジの武官の衣装を着たその肩からは、隆々とした筋肉に覆われた腕が伸び、顔の下半分を覆う黒髭は威風堂々と波打っている。
そして、見る者を竦ませずにはいられない強烈な視線が、険しい双眸から放たれていた。視線の向けられていないブーンが、思わず口に出してしまうほどに。

 

「こっち見んなお」

( ゚д゚)

( ゚д゚ )

 

27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:17:43.42 ID: +GaHE7Sm0
◆5

ブーンの呟きが耳に入ったのか、酔っ払いを掴む手はそのままに、男がブーンに声をかける。

( ゚д゚)「その言葉……汝ら、ヴィップの民なのか?」

(;^ω^)「そ、そうですお」

男の視線に一瞬怯んだものの、ヴィップ本国の発音に劣らない流暢な声に安心して返事をする。

( ゚д゚)「見た所、この者たちと諍いになっていたようだが」

( ^ω^)「ブーンの足がぶつかってしまったんですが、ラウンジ語が分からないので謝罪が通じないみたいなんですお。
通訳をお願いできませんかお?」

( ゚д゚)「それには及ばん。酔ってなお、異郷の客人に拳を上げるような輩に侘びを入れる必要は無い」

男は振り向き、三人組に何事かを告げる。何を言われたのか、酔いも醒めた顔を蒼白に染めた三人は、男が手を離すなり夜の雑踏へと逃げ込んでいった。

( ゚д゚)「ああいった小物はどこにでもいる。気を悪く召されるな。時に、そこに倒れているのは汝の仲間か?」

(;><)「お腹が減って動けないんです……」

ブーンは頷き、男にこれまでの顛末を話す。顎鬚に手を当ててブーンの話を聞いていた男は、話し終えると同時に豪快に笑い、ビロードをその肩に担ぎ上げた。

( ゚д゚)「事情は相分かった。では参るぞ、ブーンとやら」

( ^ω^)「ど、どこに行くんですかお?」

( ゚д゚)「腹が減っているのであろう? では夕餉を馳走せねばな。世界三大料理の一柱を成すラウンジ料理を振舞おうではないか」

 

28 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:20:46.15 ID: +GaHE7Sm0
( ゚д゚)『おやじ、よく焼いたのを三串ほど頼む』

篝火がそこかしこに燃え盛り、料理を頼む声や乾杯の音頭が飛び交う、昼間と変わらない盛況を見せる広場。
その一角に設けられた円卓に席を取ると、男は肉を炙っている中年の露天商にぞんざいな口ぶりで注文を伝えた。

( ゚д゚)「申し遅れたが某の名はミルナ、このラウンジの士族である。これも何かの縁、存分に餐を楽しまれよ」

( ^ω^)「ブーンですお、エスポワール号の船長をやっていますお」

( ><)「ビロード=ワカンナインデスなんです。一文無しの僕達を助けて頂いた上にご馳走までしてもらえるなんて、
どうお礼を言っていいかわかんないんです」

( ゚д゚)「気にすることは無い。客人をもてなすのはラウンジの民としての勤め、まして旅先で難儀している者を放って置いたとあらば
このミルナ、先祖に言い訳が立たぬ」

自己紹介を満足に交わす暇も無く、目の前に料理が運ばれてくる。未だに表面で脂のはぜている串焼きの肉と、付け合せの野菜。
ラウンジだからこそ可能な、香辛料をふんだんに使った焼肉の香ばしい匂いが空腹の二人の鼻腔を刺激する。

( ゚д゚)「ケバブという。遠慮なく食するがよい」

(;><)「こ、こんな大きな肉を一人で食べるんですか?」

( ゚д゚)「本来は薄切りにして供するものなのだが、某はこのままかぶりつく方が性に合っていてな。汝らも試してみるがいい」

(*^ω^)=3「いただきますお。ハムッ、ハフハフッ、ハムッ!」

 

30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:26:19.28 ID: +GaHE7Sm0
パリッとした皮に歯を立てると同時に溶け出した脂が弾け、唇の隙間から肥えた羊の熱い肉汁が舌を潤していく。
柔らかく、それでいて弾力のある肉質を咥えたまま串から引き千切り、前歯で、犬歯で、奥歯で順々に感触を堪能する。
喉を流れ落ちる旨みが瞬間的に揮発し、絶妙に配合された香辛料の香りと相俟って、脳裏へと鼻腔の奥を突き上げた。

(*゚ω゚)「FUOOOOOOOOU!! なんという、なんという旨さですお! こんな肉は生まれて初めて食べましたお!」

(*><)「羊とは思えない柔らかさなんです! こってりしているのに口の中に溜まらない、何度でも食べたくなる味なんです! 喋っている時間が惜しいんです!」

満足そうに哄笑し、ミルナも自分の串にかぶり付く。

( ^ω^)「この白い塊はもしかしてヨーグルトですかお?」

( ゚д゚)「ケバブはそのままでも美味いが、その味を完成させるのがヨーグルトだ。かけて食すがいい」

( ><)「試してみるんです!!」

( ^ω^)「…………」

( ><)「…………」

( ゚д゚)「…………」

(*゚゚ω゚゚)=3「FUWOOOOOOUAAHHH!? もはやこの世の物とは思えない旨さですお! ケバブがヨーグルトの爽やかさを!
ヨーグルトがケバブのとろける旨みを互いに引き立てているお! 例えるならダンテに対するボッカチオ! デューラーに対するファン・アイク!!
ラファエロの聖母子像に対するミケランジェロのピエタのような絶妙な味のコンビネーションですお!!」

(*><)「ノーコメントなんです! 今は食べるのに忙しすぎるんです!!」

 

32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:30:26.12 ID: +GaHE7Sm0
しばしの間、円卓には咀嚼音と嚥下音、そして時折上がる驚きの声以外の物音は聞かれなかった。
食べ終えた頃を見計らって、陶製の水差しが運ばれてくる。
ミルナはそれを取ると、ブーン、ビロードの前に置かれた小さな杯に陶器の中身を注いでいった。

( ^ω^)「色の付いた……お湯ですかお?」

( ><)「ブーンさん、これはお茶なんです。ずっと東の大陸から運ばれてきた薬草を煮出したものなんです」

( ゚д゚)「左様、脂物を食したあとはこれで喉を潤すがいい」

(;^ω^)「ありがたく頂きますお、熱っ、熱いですお!!」

( ゚д゚)「ラウンジの茶は初めてか? ゆっくりと冷まして飲むがよい。その間、汝らの旅の話を聞かせてはくれぬだろうか」

砂漠から吹く冷たい夜風で杯を冷ましながら、ブーンはこれまでの出来事をミルナに話す。
父が亡くなり、店が立ち行かなくなった事。
遭難した男と、彼の持っていたピリ・レイスの地図の事。
黄金郷を見つけるために航海に出ることを決意した事。
ツンとの出会いや、洋上での厳しいしごきの事。
ドクオの話していた、世界が丸いという学説の事。
ビロードの密航などの不都合な話を除き、ヴィップを出てからの事を余す所なく語った。

ブーンが話し終えると、冷め切った杯を一気に空け、ミルナは大きく息を吐いた。

( ゚д゚)「ブーン、汝はよき友に恵まれておるな」

( ^ω^)「ブーンもそう思いますお」

互いに顔を見合わせて笑う。初見であんなにも鋭かった視線は、もう怖くは無かった。

 

34 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:32:57.60 ID: +GaHE7Sm0
( ゚д゚)「しかし、ピリ・レイスの地図か……」

( ^ω^)「ミルナさんもただの御伽話だと思いますかお?」

( ゚д゚)「いや、思わん」

静かに、だが断固とした口調でミルナが言い切る。

( ゚д゚)「ピリ・レイスは先代の皇帝に仕えた、文武ともに群を抜いていた大提督だ。当時知られていた世界の中で、最遠の海にまで
航海をし、ラウンジの版図の拡大に大きく貢献した」

( ><)「…………」

( ゚д゚)「彼が描き遺した地図のために世間ではとやかく言われてはいるが、あれだけの功績を残した人物だ。
もし彼の描いた地図に黄金郷があるというのなら、それはきっと実在するのだろう。それに……」

( ^ω^)「? なんですかお?」

( ゚д゚)「いや、何でもない。それより、もう少しだけ某に付き合ってはくれまいか? 汝らも久しぶりの陸であろう。
ラウンジならではの風呂に案内しようと思うのだが。無論、宿までは後ほど送っていく」

( ^ω^)「断る理由は無いですお。よろこんでご同行しますお」

 

35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:35:09.31 ID: +GaHE7Sm0
◆6

磨き上げた大理石で出来た部屋の中に、濛々と水蒸気が立ち込める。
冷え込んだ外気とは対照的に、ラウンジの昼間さえ越えるほどの蒸し暑さが3人の体から汗を噴出させる。

( ><)「すごく蒸し暑いんです……」

( ^ω^)「これがラウンジの風呂ですかお……ミルナさん、浴槽はどこですかお?」

( ゚д゚)「ラウンジの風呂は浴槽を使わん。まずはそこの台に横になるがよい」

ミルナの言ったとおり、湯気に霞む風呂場には、円状に人が横たわれるほどの大きさの8つの直方体が並んでいた。
全裸に腰に当てたタオルのみといった格好で、手近な台に上りうつ伏せになる。
台自体も内部から温められているのか、肌に触れた箇所から熱が伝わってきた。

( ^ω^)「ほどよい熱さが気持ちいいお」

( ><)「体の中から温まれる感じなんです。でもここでどうやって体を洗うかわかんないんです」

( ゚д゚)「しばし待たれい」

水蒸気の向こう側から、ブーン達と同じような半裸の人影が現れる。
背は低いものの体格はミルナと比べても遜色なく、筋肉の塊というイメージをブーンに与えた。

 

38 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:39:48.66 ID: +GaHE7Sm0
( ><)「僕達の他にもお客さんが来てるんですか?」

(;^ω^)「……理由は分からないけどやな予感がするお」

熱気に包み込まれた部屋の中で、背中に悪寒が走る。
そのブーンの不安を裏打ちするかのように、新たに入って来た男は台に上がることなく、そのまま傍らまで寄ると、
台を跨いでブーンの太ももの上に馬乗りになった。

(;゚ω゚)「ミルナさん、これはどういう事ですかお!? なんだかアブノーマルな雰囲気がビンビンしてますお!」

( ゚д゚)「慌てるなブーン。ここからがラウンジの風呂の醍醐味だ。初めてだと少々痛いが良いものだぞ」

意に介さず、ミルナは目を閉じたまま落ち着いた様子で答える。男がブーンの腰に手をかけ、あちこちを指で
まさぐり始めた。

(;゚ω゚)「良くないですお! ブーンは初めてが男とだなんて嫌ですお!」

最後のあがきとばかりに、体を捻って男の下から逃れようとする。だが体重差もあってか、がっちりと抱え込まれた
下半身は男の尻と台の間に隙間無く固定されてしまっていた。絶望に染められたブーンの脳裏に、生まれてから
今までの思い出が走馬燈のように横切る。

( ´ω`) (とーちゃん、ドクオ、ツン、フィレンクトさん、ブーンは今日、男になりますお……)

覚悟を決めたブーンの背後から、男の力強い一撃が加えられた。

(*゚ω゚)「アッ──!!」

 

41 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:44:11.06 ID: +GaHE7Sm0
目の粗い麻布のざらりとした感触が、痛みを伴って腰から肩へと走り抜ける。男の手の動きにつれて、
航海中の溜まりに溜まった垢が背中から剥がれ落ちていく。ひとしきり擦られた後に、熱い湯を浴びせられた
感触は、まさに爽快そのものだった。

(*^ω^)「おっおっおっおっ、たしかにこれは病み付きになりますお」

(*><)「なんだか血の巡りがよくなった気がするんです!」

( ゚д゚)「ラウンジ独特の垢落としは気持ちいいだろう。心ゆくまで旅の疲れを癒せ」

 

長風呂を終え、凛とした月明かりの下を足どりも軽く歩く。火照った体を吹き渡るナイルの夜風が加減良く冷ましてくれる。

(0゜^ω^)「お肌がつやつやになりましたお」

( ><)「何から何までお世話になってしまって、本当にありがとうなんです!」

( ゚д゚)「先にも申したとおり、客人の歓待はラウンジの民の誇りだ。礼には及ばぬ、それに──」

 

大通りに通じる裏路地を先導していたミルナの足がピタリと止まる。

( ゚д゚)「風呂で汚れを落とした直後で申し訳ないが、少々運動に付き合ってもらうことになるやもしれん」

月光を照り返し、爛々と輝くミルナの眼が、路地奥の深い闇を射抜く。

( ゚д゚)「……そろそろ姿を見せたらどうだ」

 

42 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:46:14.58 ID: +GaHE7Sm0
◆7

 

声に呼応するように、闇が形を成す。
夜と同じ色の外套で全身を覆い、覆面に隠れた目──とおぼしき場所からはまぎれもなく一種の敵対的な空気が──
ありていに言うなら純粋な殺気が放たれていた。

( ゚д゚)「汝らは何処の手の者だ」

放たれた殺気を受け止め、さらに鋭さを加えて向けられるミルナの視線を気にするでもなく、
無表情に、無機的に、音も無く、ローブをまとった人影はブーンたちに向かって歩を進める。

( ゚д゚)「三人、か……」

( ><)「後ろからも二人、囲みに来てるんです」

人が二人、並んで通れるかという細い路地での前後からの挟撃。逃げ場は、ない。

( ゚д゚)「もう一度だけ聞く。汝らの雇い主は誰だ」

返答は無く、代わりに刺客が一斉に体を覆う布の下から武器を引き抜く。柄の根から大きく湾曲し、振り下ろした時の
リーチを補うべく鍛え上げられた形状。鎧の上から叩き割るのではなく、鎧の隙間を切り裂くことを目的とした薄く軽い刃。
五葉の半月刀が闇に浮かび、その腹を閃かせる。

 

43 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:49:40.00 ID: +GaHE7Sm0
( ゚д゚)「……そうか。ならば某も剣で語るとしよう。ブーン、ビロード、汝らは背後の二人を頼む」

( ^ω^)「やってみますお」

( ><)「ここは通さないんです!」

ミルナが柄に手をかけるのに合わせ、二人も鞘から剣を抜く。

(;^ω^) (こいつら……なんなんだお?)

目の前の黒外套に向けて、カトラスを構える。だが、刃の先にいる相手は手にした半月刀を構えることも無く、幽鬼のように佇んでいるだけだ。
恐れや怒りといった感情が覆面の奥から全く伺えない。

(;><)(まるで死人を相手にしてるみたいなんです……)

フェレロ大公家の嫡男としての英才教育には勿論剣技も含まれる。ニーソクを出る頃には名うての傭兵隊長から3本に1本は取れるようになっていた。
とはいえ、実戦はこれが初めてだ。レイピアの切先が、微かに震える。

( ゚д゚)「来ないのか? ならばこちらから────っ!!」

ミルナの言葉を引き金として。魂を入れられたが如く、5つの影が線となって突進した。

 

44 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:51:47.17 ID: +GaHE7Sm0
躊躇の無い一投足。正面中央の刺客が、ミルナへと向かって加速する。手練の軍人ですら距離感を誤るほど急速に間を詰められる。
その手の中の半月刀は低空を飛行する燕の様に。銀の燕はミルナの足元で急上昇し、喉笛へと喰らいつく。
ミルナの手は、未だ腰にかけられたままだ。

( ゚д゚)「……斧で空を割ることは出来ぬ。剣で海を割くことはできぬ」

──辞世の句か。ミルナが次の言葉を継ぐ前に、刺客の刃は、

 

( ゚д゚ )「同じく、汝らがこのミルナを斬る事あたわず。ラウンジの武勇、しかと見て冥土の土産に持っていけ」

 

半ばから断ち折られ、その主だった物の頭とともに、宙を舞っていた。

ミルナの手に掲げられた、鈍色の剣。巨大な体躯に誂えて鍛えられたのか、襲撃者の持つ半月刀よりも一回り大きいそれは
中央部でほぼ半円を描くように湾曲し、切先はミルナの手元に届かんばかりの位置にある。馬蹄形をしたその刃にはたった今
斬った血の曇りすら残っていない。

金属質の音を立てて、宙を舞う首が地面に落ちる。覆面の外れたその顔には、蜥蜴の頭を模したような仮面が張り付いていた。

( ゚д゚)「ふん、汝ら『山の民』か」

 

47 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:54:56.67 ID: +GaHE7Sm0
正体が暴かれた事に臆することも無く、あるいはここで仕留めさえすれば同じだと考えているのか、残りの刺客が動く。
一人は先程と同じく正面から。もう一人は背後を取ろうとするように右へと散開する。

( #゚д゚)「っせいいいぃぃっ!!」

ミルナの背筋が大きく膨らみ、その腕、そして延長上にある剣へと内在された膂力を伝達する。
風音さえ聞こえない。巨漢に似つかわしくないほどに精緻に、洗練された一振りが正面の刺客へと向けられた。

     「!!」

前任者の二の舞を避ける為、上体を仰け反らせて鋭い一撃をかわす。先程、そこに斃れ臥した死骸が首を切り落とされた際に
ミルナの腕の疾さ、足の踏み込み、剣の届く距離は把握した。この位置なら、刃は髪一本分の隙間を残して通り過ぎ、第二撃に先んじて首を取れる──!

 

 

自分の延髄が断ち切れる音を聞きながら、刺客は、自分の見通しの甘さを最期の視界に納めた。

大気を切り裂く速さで振り下ろされた剣が、敵の喉元に食い込む。弧を描いた剣跡がその軌道の頂点で急制動をかけられ、重心が寄るように鍛造された
刃先が、馬蹄形を三日月状に開いていく。

( ゚д゚)「ダマスクスの切れ味、最期にとくと味わえ」

(;^ω^)「ミルナさん、後ろですお!!」

 

51 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:57:31.44 ID: +GaHE7Sm0
カトラスの鎬で襲撃者の斬撃を受け止めながらブーンが叫ぶ。
もともと身軽な体格なのか、血を滲ませる訓練の賜物なのか。そこが地面であるかのように壁を蹴って、第三の刺客がミルナの背後に着地する。
飛びながら体に加えた捻りを加速度に、切り上げるようにしてミルナの首筋を狙う。真っ向から斬り合っていては力負けする。だからこそ、
加えられた剣閃はいずれも相手の最も弱い部分を突く事を念頭におかれていた。

( ゚д゚)「分かっておる」

刃が戻りきらない内に逆手に切り替え、薙ぐようにダマスクス剣を後ろに振る。刃の内部に撓められた力が硬質さと柔軟さを持って
剣を元の形に変形させてゆく。

    「…………!」

鮮赤の飛沫が、砂地に吸い込まれて暗い彩りを添える。ミルナの背後への一振りは狙い過たずその切先に、刺客の喉笛を、釣り上げられた魚のように仕留めていた。

 

53 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 02:59:34.37 ID: +GaHE7Sm0
(;><) (……この人たち、痛みを感じてないんです!)

ビロードの柳の細さを持つレイピアがしなり、襲撃者の斬撃の軌道を変えていく。直後、跳ねた尖頭が蛇のように手首に絡まり、深い孔を穿つ。
だが、朱血を傷口から噴き出しながらも、刺客の次の手に衰えの色は無かった。
ラウンジの剣術に特徴的な、半円を描く軌跡が真上、水平、斜方から素早い切り返しとともにビロードを襲う。
その全てを或いは避け、或いは捌いて反撃に移る。

ラウンジの剣術が半円を象るものだとすれば、ビロードの持つレイピアが描くのは、螺旋。
細身の剣ゆえのしなりに腕の捻りを加えて、相手の攻撃の原点へと突きを放つ。リポストと呼ばれる、後の先を取るレイピアならではの技だ。
だが、いくら腕や肩に風穴を開けられ、夥しい血を流そうとも、体力の限界が無いかのように相手は斬りつけるのを止めようとはしない。
無論、心臓や頭を狙えばいかな化物でも動きを止めるだろう。しかし自分の身を守る為とはいえ、人を殺してしまう事への恐れがビロードに
致命的な一撃を与えることを躊躇わせていた。

 

55 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:02:11.78 ID: +GaHE7Sm0
(メ^ω^)「ふう、ふう、腕が疲れてきたお……」

ミルナやビロードとは違い、格別戦闘訓練も受けていないブーンの動きが乱れる。持ち前の身体能力の高さで凶刃を避け続けていたものの、
所詮素人では限界がある。ビロードが一瞬その方に気を取られた隙に、刺客の刃が眼前に迫ってきていた。

(;><)「しまったなんです!!」

( ゚д゚)「ご苦労、よくぞ持ち堪えた」

刀がビロードの喉元に触れる刹那、二人の頭上を剣風が駈ける。思わず首をすくめたビロードとブーンが見たのは、胴の中央を泣き別れにされた
自分たちの相手だった。

( ><)「助かったんです、ありがとうございますなんです!!」

( ^ω^)「九死に一生を得ました……お?」

自分達の背後に立つミルナの頭上に懸かる、中天に差し掛かった満月。

 

 

その銀光が、刃となって、落ちてくる。

 

56 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:06:03.25 ID: +GaHE7Sm0
(;><)「もう一人いたんです!!」

( ゚д゚)「屋上か──!」

戦闘の終焉を見計らって、屋上に潜んでいた刺客がその身を翻して空を堕ちる。狙うは、ミルナただ一人。
この速さで、この高さから落下すれば、たとえミルナを仕留めた所で自身も深手を負うだろう。そんな事は分かっていた。
だが、そんな瑣事はどうでもいい。報酬と引き換えに依頼を果たす。それだけが真理だ。それだけが死すべき理由だ。

( ;゚д゚)「くっ──!!」

ダマスクスを振り上げ、ミルナが空を睨む。だが、剣が天頂に届く前に、相手の刃先が到達するだろう。
ビロードの細身の剣では、衝撃を受け止めることさえ適わない。

(#゚ω゚)「おおおおおおおおおおおおおお!!」

疲労困憊の足で地面を叩き付け、ブーンが路地の壁に向けて疾駆する。その先にあるのは、開いた窓。
壁を跳躍してミルナの背後を取った刺客の見様見真似で、窓枠を強く蹴る。

だが、襲撃者を止めるにはまだ高さが足りない。

(;゚ω゚)(何か、何か無いかお──!)

扉の脇に設けられた微かな凸部。カンテラを下げるのに使うと思われるそれに、爪先を、そして全身の体重を乗せる。

(#゚ω゚)「持ってくれおおおおおおおお!!」

縮めた足に全力を込め、跳ぶ。間に合え。落ちて来る月に向かって、カトラスを突き上げる。

静謐な光を投げかける満月を背景に、二つの影が、重なった。

 

 

57 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:08:30.64 ID: +GaHE7Sm0
◆8

肩に二度、重い衝撃が疾る。刺客にぶつかった衝撃と、地面に叩き付けられた衝撃。手にしていたカトラスは、どこかに弾き飛ばされていた。

(メメ^ω^)「ミルナさんは……無事かお?」

痛む肩を庇いながら起き上がり、周りを見渡した刹那、上半身を地面に押さえ込まれる。
蜥蜴のような顔。無感情に思われた仮面の奥の眼が怒りに燃えていた。せわしない吐息が、ブーンの顔に吹き付けられる。
刺客が、短剣を引き抜き、ブーンへと振り下ろす。暖かい物が、ブーンの顔にぴしゃりと飛び散った。

(メ;^ω^)「…………んお?」

刺客の首元から突き出す、細身の剣先。断末魔の痙攣を見せる襲撃者が、鈍い音を立てて上体を地面に倒す。

(;><)「間に合って、よかったんです……」

息を荒げ、汗まみれのビロードが、レイピアを死体から引き抜いた。

 

59 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 猿食らいましたwww 投稿日: 2008/01/20(日) 03:17:31.59 ID: +GaHE7Sm0
( ゚д゚)「ブーン、某の危急を救ってくれた事、このミルナ深く礼を言う」

(メ^ω^)「当然の事をしたまでですお」

( ゚д゚)「当然の事、か。一度見ただけで刺客の真似をし、より高く跳ぶための足がかりをあの状況で見つけた観察眼、並大抵の物ではないぞ」

(メ^ω^)「褒め過ぎですお」

( ゚д゚)「だが、勇気と無謀とは紙一重だ。そしてお前の見せた勇気は、いつ無謀に変わるかも知れん危うさを秘めている。
その勇気、無謀にしない為にも自らの身を守る術は鍛えておけ」

(メ^ω^)「肝に銘じて置きますお」

( ゚д゚)「そしてビロード、汝の剣さばき、実に見事なものだった。我がラウンジの武人にも勝るとも劣らぬ技量だ」

( ><)「恐縮なんです」

( ゚д゚)「しかし汝の剣には躊躇いがある。敵に情けを見せれば、それは汝や、汝の守ろうとする者に災いをもたらす事になる」

(;><)「それは……そうなんです。でも、僕は誰も死なないですむんなら、そっちの方がいいんです」

通りの奥から甲冑の擦れ合う音が聞こえ、やがて警備兵と思われる一団が走ってくる。
路地の惨状に眼を見開いた隊長とおぼしき人物は、ミルナと二言三言交わすと、顔を青褪めさせ、部下に何事か指示を出す。
剣に付いた血を拭い、鞘に収めた二人にミルナが声を掛けた。

 

62 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:21:54.02 ID: +GaHE7Sm0
( ゚д゚)「今宵は楽しい宴の後にこのような事に巻き込んでしまい誠にすまぬ。某はこれから行かねばならぬ所があるので、宿へはこの者に送らせよう」

傍らの兵士を指す。

( ゚д゚)「侘びといっては何だが、明日はラウンジの祝日、皇宮の庭では臣民、異郷の民を招いて正午に食事が振舞われる。某も出席する予定なので
そこに来て欲しい。ささやかながら礼をしよう」

(メ^ω^)「お礼とかはいいですけど皇宮には興味ありますお。明日会えるのを楽しみにしていますお」

( ゚д゚)「汝らの友も是非同行してもらいたい。汝らの話を聞いて興味が沸いたのでな」

(メ^ω^)「伝えておきますお」

汝らに平安あれ、そう言い残し、ミルナは警備兵の一団と共に踵を返し、夜の闇へと消えていった。

 

66 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:30:49.59 ID: +GaHE7Sm0
ξ#゚听)ξ「どこをほっつき歩いていたのよこの白豚ァァァ!!」

(#)ω(#)「痛いですお、話を聞いて、ちょwwwww」

夜半を過ぎた頃、ようやく宿に帰り着いたブーンとビロードは、土間に正座させられ、ツンの自称『教育的指導』を受けていた。

(;><)「顔が原型をとどめてないんです……さっきの刺客より怖いんです」

(;‘_L’)「ツン様、目を離してしまった私にも過失はありますのでその辺で」

フィレンクトのとりなしで、ようやくツンの怒りも一段落する。

(#'A`)「で、俺たちが汗水たらしてお前らを探している時に、二人して飯食って風呂入ってご満悦ってか?」

ツンほどではないにせよ、ドクオの顔にも怒りの色が表れていた。

(#;^ω^)「ご満悦どころの騒ぎじゃないお! 殺されかけたお!!」

ビロードと口々に、昼からの一部始終を話す。だが、話し終えても二人の疑惑は晴れなかった。

 

67 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:34:09.23 ID: +GaHE7Sm0
ξ#゚听)ξ「……怪しいわね。口裏合わせてるんじゃないの?」

(;^ω^)「そんなことは無いですお! この通り、ちゃんと財布も掏られて文無しですお!!」

('A`)「自慢げに言うことじゃねぇだろ」

( ^ω^)「そういうドクオたちは今日一日何をしてたお?」

( ‘_L’)「絨毯の買い付けは無事終わりましたよ。明日には荷が港の方へ運び込まれるそうです」

ξ゚听)ξ「……別に。知り合いと会ってただけだし、特別報告するような事は無いわよ」

('A`)「俺の方は……振り出しだな。図書館にいた文官が嫌味な野郎でさ……」

それぞれの成果を報告しあう。

 

69 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:36:37.41 ID: +GaHE7Sm0
('A`)「……で、協力してくれそうな貴族を見つけようと思うんだが、生憎とそんな知り合いはいなくてな」

( ^ω^)「だったらミルナさんに頼めばいいお。明日会う予定だお」

ξ゚听)ξ「……ミルナ?」

( ><)「さっき話した、僕らの恩人なんです。ラウンジの士族の方なんです」

('A`)「って事は、そのミルナって奴に図書館に入れてもらえるよう頼めばいい訳か」

( ^ω^)「みんなにも会いたいって言ってたお。きっと協力してもらえるお」

ξ゚听)ξ「決まりね、じゃあ明日に備えて、今日はもう休みましょ」

('A`)「そうだな」

部屋へと向かうツンたちに続き、ブーンも立ち上がろうとする。

 

ξ#゚听)ξ「アンタたちはそのまま朝までそこで正座」

(;^ω^)「ヒドスwwwww」

(;><)「足が痛いんです……」

 

72 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:40:39.53 ID: +GaHE7Sm0
◆9

 

(;'A`)「すげぇ人数だな……」

( ‘_L’)「ラウンジの祝日ですからね。おそらくここにいるだけでも一万人は下らないでしょう」

鮮やかな色合いの絹布が掛けられた背の低いテーブルが幾つも、花崗岩の石畳で隙間無く舗装された中庭に設けられ、
湯気を立てるラウンジ料理の数々や、意匠を凝らした切り口の果物がその一つ一つに山と盛られている。
そこかしこでラウンジ語や他国の言葉での乾杯が聞こえ、宮廷お抱えの音楽家の奏でる調べが晴れた空に響き渡る。

('A`)「にしても……あいつら、ここに来た理由わかってんのか?」

(*^ω^)「フォ────ゥ!! 昨日のケバブも美味しかったけど、この焼き飯もたまらないお! おかわりお願いしますお!」

( ><)「鶏の揚げ物もジューシーさが堪らないんです! 辛いのに後を引く味なんです!」

奇声を上げつつ宮廷料理を堪能するブーンの襟首を掴み、無理やりに皿から引き離す。

('A`)「おいブーン、お前、今日ここに来た目的分かってんだろうな?」

(*^ω^)「? ドクオもこれ食えお。折角タダ飯が食えるのに楽しまないのは損だお」

(#'A`)「あ゛? ここに来た目的は何だ?」

(;^ω^)「分かったからこめかみをグリグリするのはやめるお」

 

74 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:44:30.59 ID: +GaHE7Sm0
仕方なく皿から目を上げ、人で溢れ返る中庭を見渡す。儀杖用の華美な鎧を着込んだラウンジの武官の姿は
ちらほら伺えたが、その中に昨日出会った巨体は見当たらなかった。

( ^ω^)「昨晩はブーンと別れた後にも用事があったみたいだお。きっと寝坊でもしてるんだお」

('A`)「担がれたんじゃないのか、お前? ラウンジの鎧を着てるからって、武官だとは限らないだろ?」

( ^ω^)「ミルナさんは人を騙すような人間じゃないお。ドクオも会ってみれば分かるお」

ξ゚听)ξ「ねえ、その事なんだけど……」

ツンが会話に割って入る。昨日、ブーンから事の顛末を聞き及んでから、ずっと心に引っかかっていた事がある。

ξ゚听)ξ「たまたま名前が同じってだけかも知れないけれど、ミルナって名前、確かこの国の……」

      「臣民ならびに異国の民の方々よ、どうか静粛に」

ツンの疑問は鳴り響いたファンファーレにかき消され、位の高そうな文官が壇上から声を放ち、通辞がそれを
各国語で繰り返す。会場のざわめきが静かになるのを見計らって文官が言葉を続けるとともに、中庭を見下ろすバルコニーに、
衛兵に囲まれた巨躯が姿を現す。

      「偉大にして勇猛、寛大にして慈愛なる方、ラウンジ帝国全土に威光をしろしめす第五代皇帝、クォッチ=ミルナ陛下の御成りである」

                   ( ゚д゚)  

                   ( ゚д゚ )

金糸の刺繍を施した最上の綾絹をその身に纏い、皇帝の象徴である四重冠の下から、威厳ある視線で中庭の群衆を睥睨するその人物は、
見間違えようも無くブーンが昨日肩を並べて戦った男だった。

 

76 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:47:41.49 ID: +GaHE7Sm0
◆10

アラベスク調の精巧なレリーフが天井や壁に彫り込まれ、白黒の大理石で見事なモザイク模様が描かれた回廊を、宦官の案内に付き従って歩く。
皇宮であると同時に、ナレアイ教の大聖堂でもある巨大な建物の中では巻物を抱えた神官らが忙しく動き回り、時折見られる緑地には孔雀や豹などの
珍獣が気ままに闊歩している。

(;><)「ブーンさん、皇帝陛下に生意気な口利いちゃったんです!」

(;^ω^)「ブーンなんて夕飯と風呂奢らせてるお。皇帝にメシ奢らせるなんて前代未聞だお」

ξ;゚听)ξ「…………」

(;゚A゚)「…………」

ミルナが挨拶と各国大使からの表敬を受け、奥に下がってから程無く、宦官が通辞を引き連れてブーンたちについて来るよう要請した。
いささか茫然自失の体をなすドクオとツンを後ろに、ブーンとビロードが耳打ちを交わす。
幾度も角を曲がり、方向感覚を失い始めた頃、先を歩いていた宦官が振り返り、一行に道を空ける。

    「どうぞお進み下さい」

通辞の言葉の先には、ブーンの身長の三倍はあるアーチ型をした、観音開きの扉が待ち構えていた。
黒大理石の一枚岩を切り出した表面には、幾何学模様や勇壮なる戦闘絵巻、神と人との契約などが浮き彫りになっており、
この扉一つで船一隻が新造できるほどの経費が掛かっている事を如実に示していた。
ブーンたちが扉の前へ足を踏み出すのに合わせて、扉が内側に音も無く開く。

 

78 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:53:15.17 ID: +GaHE7Sm0
( ゚д゚)「ブーン、ビロード、他の者もよく参ったな。大儀である」

書記官を傍らに、ブーンたちの宿泊する宿の敷地ほどの広さを持つ部屋の中央から、ミルナが声をかける。
皇帝の謁見室の外で、ドクオの後ろに控える宦官と通辞が平伏した。

( ><)「ラウンジ皇帝陛下、本日は内々にお招きに預かり恐悦至極なんです」

( ゚д゚)「なに、昨日の礼のつもりだ。楽にしてもらって構わん」

ビロードが跪き、胸に手を当てて礼の形をとる。慌てて他の四人もビロードの後に倣った。
ミルナが人払いを命じ、ブーンらに座椅子に座るよう促す。緊張の面持ちで着座する5人に、天蓋つきの長椅子に座ったミルナが口を開いた。

( ゚д゚)「さて、汝らが──」

(;^ω^)「ごめんなさいですお!!」

ブーンの大声が部屋にこだまする。あっけにとられたドクオを、ツンを、フィレンクトを、そしてミルナを尻目に、ブーンが続ける。

(;^ω^)「昨日は何から何まで奢ってもらってしまって申し訳ないんですお! 交易でお金が儲かったら必ず払いに来るんですお、ですから
それまで待っていて欲しいんですお!」

ξ;゚听)ξ(馬鹿……)

(;'A`)(馬鹿野郎……)

(;><)(馬鹿なんです……)

(;‘_L’)(坊ちゃん、それは……)

 

79 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:55:49.72 ID: +GaHE7Sm0
応接机に舞い降りる静寂。ミルナの目が点になり、次の瞬間、雷音のような爆笑が開け放たれた窓の外まで鳴り響いた。

( ゚д゚)「ブーン、汝というのは、本当に、面白い男だな」

腹を仰け反らせ、息を切らしながらミルナが言う。皇帝の言葉を遮るばかりか、自分の正体を知るに至ってなお、旧知の友のように
接してくれるとは。実に、清々しい漢だ。

( ゚д゚)「本題に入ろう。汝らがラウンジに来た目的とは、交易の他、ピリ・レイスの地図の手がかりを探したいという事であったな」

( ><)「そうなんです、ただちょっと問題があるんです」

( ゚д゚)「先月に発布した地図禁輸の法のことだな」

ミルナが頷く。大宰相の発案による士族以下への海図、地図の閲覧や譲渡を禁じた新法は、航海術を発展させ、ラウンジ南端周りで
東方交易を目指すニューソク諸国の力を削ぐには、確かに理に適っている。だが、軍用の精密な地図はともかく、ラウンジ建国以前の
古地図やピリ・レイスの地図といった一見実用性の無いような物まで規制するのは腑に落ちなかった。

('A`)「……というわけで、製図や測量に詳しいラウンジ士族の方を紹介していただくのに陛下にお口添えして頂ければ」

ドクオが話し終える。

( ゚д゚)「確かに我が国には多く、地図作製に秀でた人材もおる。その者たちに模写を任せるのも悪くは無かろう」

( ゚д゚)「だが、地図を見たところで、実際にその土地を目にしなければ気付けぬ事も多い。然り、汝ら自身の目でピリ・レイスの地図の実物を見るのが、
その得る所も多かろう」

ミルナが長椅子を立つ。

( ゚д゚)「ついて参れ。ラウンジの知恵の源を見ることを余が許可しよう」

 

81 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 03:58:06.68 ID: +GaHE7Sm0
◆11

  バジリカ・ビブロス
──『書物の聖堂』。ラウンジが建国するはるか昔、クラシックに立ち並ぶ廃墟が地中海の雄として殷賑を極めていた頃、
アレキサンドリアと呼ばれていたこの町の地下を穿ち、図書館の礎が築かれた。以来、千と五百年にわたりこの砂漠の書庫は
その主を幾度も変えつつも、洋の東西を行き交う商人や探険家、学者から知識を吸収し、自らを肥大化させてきた。書物だけではない。、
クラシック時代の彩色陶器や彫像。ウンエイ帝国期の尚武の気風を感じさせる重厚な鎧。ラウンジの建国から拡大、戦争と繁栄を織り込んだ
タペストリ。そして海を越えてやってきた異国の扇や刀剣が数知れない部屋の奥に眠る。アレキサンドリア大図書館は図書館であると同時に
博物館、美術館としてもその役割を十二分に果たしているのだ。

ξ゚听)ξ「ひどく暗いのね……こんなので地図が見つかるのかしら?」

('A`)「古い書物や美術品は、陽光に曝されるだけで傷み始める。保護のためにも、暗ければ暗いほどいいんだ」

( ゚д゚)「幸い改修中と言う事もあって、地図の類は一箇所に纏められておる。数は多いものの、このアレキサンドリアの司書官ならそう手間は取るまい」

光量の抑えられたランタンがほのかに照らす石造りの廊下に硬い靴音が反響する。
地底へと続く階段を下りると、ドクオが昨日押し問答をした初老の司書と、白皙を長く垂らした、さらに年老いた司書が出迎えた。

 

82 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:01:06.03 ID: +GaHE7Sm0
( ゚д゚)「館長、地図は見つかったか」

ミルナの問いかけに、館長と呼ばれた老人が長い眉で覆われた眼の下から答える。

    「ピリ・レイス提督の地図は……彼の死去後……散逸してしまいまして……現在アレキサンドリアにあるのは……一枚きりで御座います」

('A`)「散逸? ここは世界一警備も厳重な事で知られていると思ったんだがな」

ドクオが苛立ちの色を隠そうともせず言い放つ。

    「ピリ・レイスの地図は彼が航海に持ち出したものも多く……部下が盗んで逃亡したものもあると聞きます……貴方様のお連れ様が
その一片を持っていらっしゃるのが、地図が散逸した証拠……」

間延びした館長の説明にドクオが舌打ちする。

( ^ω^)「まあまあ、一枚でもないよりましですお」

( ><)「その地図はどこにあるんですか?」

     「こちらへ……」

館長がランタンを手に持ち、一行を先導する。連れられて入った天井の低い部屋は、廊下よりも僅かに明るく、
部屋の角にある机の上には一枚の羊皮紙が拡げられていた。

 

84 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:03:33.37 ID: +GaHE7Sm0
( ^ω^)「これが、もう一枚のピリ・レイスの地図かお……」

( ><)「一体全部で何枚あるんですか?」

     「さあ……散逸していますので正確な数は……ただ、彼の部下の言葉によれば十数枚かと……」

( ^ω^)「とりあえずドクオ、解読をお願いするお」

('A`)「ああ」

ドクオが机に向かい、カンテラを翳して地図の表記を確かめる。
描かれている部分は、地中海からラウンジの太西洋岸にかけての沿海図。
船乗りらしい力強い筆跡、途中で途切れる海岸線、そして、海図の隅に書き込まれた『ピリ・レイス 1452』の文字。
紛れもない、ピリ・レイス直筆の地図だった。

頭を上げ、深く息を吐く。

( ^ω^)「ドクオ、どうだったかお?」

('A`)「間違いない。正真正銘の本物だ」

 

87 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:05:33.90 ID: +GaHE7Sm0
ξ゚听)ξ「でもこの地図、海岸線が途中で切れたり、あちこちに変な数字が書き込まれてるわね。ブーンの持っている地図もこうなの?」
( ^ω^)「そうだお、ツンにはまだ見せてなかったお?」

ブーンが胸元から折りたたんだ羊皮紙を拡げ、ツンに見せた。丁度、ドクオの面前に地図の裏が来る。

(;'A`)「…………!!」

 

心臓が、飛び跳ねた。

('A`)「ブーン、それ貸せ」

(;^ω^)「い、いきなりどうしたんだおドクオ? ドクオは前にも見たはずだお」

ブーンが何か喚いているがどうでもいい。羊皮紙をひったくるように掴み、壁に下げられたカンテラの間近へと地図の──裏側を向ける。

 

鍵が、見えた。

 

89 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:08:05.62 ID: +GaHE7Sm0
◆12

( ^ω^)「ドクオ、地図の裏なんかしげしげと見てどうしたお?」

('A`)「ブーン、これを見ろ」

ブーンにも見えるように、地図を斜めに掲げる。カンテラの放つ淡い橙色に透かされた地図に、一つの影が出来る。

( ^ω^)「……ブーンの口かお?」

( ><)「クラシック文字のオメガなんです」

羊皮紙に透けない部分が形作ったのは『ω』の文字。
思い出したように2枚目の地図を手に取り、カンテラの光にかざす。
──表れた文字は、『γ』

('A`)「図書館長、このことは知ってましたか?」

ドクオが老人を勢い込んで問い詰める。

   「いいえ……私どもは……極力書籍を……光に当てないようにしているので……」

('A`)「でも、クラシック文字ということは……」

( ゚д゚)「ブーン、そしてドクオ、話がある。その地図を持って、ついて参れ」

 

91 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:10:13.82 ID: +GaHE7Sm0
興奮が作り出す部屋のざわめきが、ミルナの一声に静まり返る。
後も見ずに、ミルナが地上への通路へと歩き去る。 顔を見合わせたのち、ブーンたちは地図を持ってミルナの後を追った。

 

( ゚д゚)「これを見て欲しい」

先に通された豪奢な部屋、その隣がミルナの執務室だった。必要最低限の装飾を施された、華美さを一切排した調度品。
他人に見せる事を目的としない部屋の質素な様子こそ、本来ミルナが好む気風なのだろう。
重厚な机の鍵を開け、ミルナは机上に蓋の付いた小箱を置く。分厚い手が蓋を押し上げると、中には一枚の紙が入っていた。

( ゚д゚)「汝らに見せたい物というのは、これだ」

広げられた紙。羊皮紙よりもさらに薄いそれは、ナイルの岸辺に生える草を編んで作った物だ。
パピルスと呼ばれるそれの表面には、何本もの直線や斜線と、その升目の所々に打たれた赤い点のみが刻まれていた。

( ^ω^)「これがどうかしましたかお?」

('A`)「!!……これは」

ドクオが顔を上げるのを見て、ミルナは先を続ける。

 

( ゚д゚)「そう、これもまた、ピリ・レイスの地図なのだ」

 

92 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:12:33.63 ID: +GaHE7Sm0
◆13

( ^ω^)「? これが地図ですかお? ただの方眼紙に見えますお。それにクラシック文字の透かしも無いみたいですお」

自分の手にある二枚と比べて、ミルナの示した紙にはあるべき海岸線や島が全く描かれていない。
紙の質も羊皮紙ではなく、航海に持ち歩くのに適さないパピルス製だ。

('A`)「ブーン、この紙を、お前の持ってる地図の上に重ねてみろ。線を合わせるようにな」

( ^ω^)「? ちょっと失礼しますお」

('A`)「どうだ、お前にも見えるだろ?」

(;^ω^)「こ、これは……!」

ドクオの言う通りに、パピルスを『γ』の透かしが入った羊皮紙に重ね、海図に書き込まれた斜線や直線の重なるところを探していく。
やがて、パズルのピースをはめ込むように二重の線が一つになり、新たな地図が浮かび上がる。

 

93 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:15:36.53 ID: +GaHE7Sm0
( ><)「赤い点が、陸地の上にあるんです!」

('A`)「それだけじゃないぜ。ビロード、点の数を数えてみろ」

( ><)「16、17,18……24個、全部で24個あるんです!」

('A`)「ああ、それじゃ聞くが、クラシック文字の総数は幾つだ?」

( ><)「!! 24個なんです!」

ξ゚听)ξ「じゃあこの点は、もしかして」

( ^ω^)「地図のありかを示しているのかお!?」

('∀`)「普通に考えれば、そうなるな」

答えて、ドクオは改心の笑みを浮かべる。手がかりどころか、地図の鍵そのものが手に入った。
一日前の絶望感から比べれば、なんという僥倖か。

( ゚д゚)「……やはり、そうだったか」

歓声を上げるブーンたちが、言葉の主の方を見る。押し出すように呟いたミルナの顔には、微かな寂寥感のようなものがあった。

( ゚д゚)「ブーン、この地図は」

机の縁に手をやり、愛し子を抱き上げるようにパピルスを手に取る。

( ゚д゚)「この地図は、生前、ピリ・レイス本人が余にくれた物だ」

 

95 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:17:16.22 ID: +GaHE7Sm0
( ゚д゚)「もう20年以上も前のことになる。当時皇太子だった余は、いずれ帝位を継ぐ者として日夜研鑽する毎日であった」

過ぎし日を回顧するかのように、ミルナがしばし目を閉じる。

( ゚д゚)「皇帝とは至高の存在であらねばならぬ。同じ年頃の友さえ持たぬ余は、侍従の目を盗んでは港へ行き、波の彼方に旅立つ船へ思いを馳せたものだ。
ピリ・レイスが航海から帰る日には、屋敷を訪ねて異国の文物や航海中の労苦などの話に一晩中聞き入った」

崩れることのない皇帝としての表情の下から、船乗りに憧れる少年の面影が覗く。

( ゚д゚)「彼が最後の航海に出る前に、余はこれを献上された。 そういえば当事の余も、ブーンのような顔をしてこれを受け取っていたな。訝る余に対し、
ピリ・レイスは『いずれ来る日のために、殿下にお預け致します』と言っていた」

苦笑するミルナ。その視線の先には、憧れを抱いていた提督の後姿が、今も見えるのだろうか。
笑みを消し、ミルナがブーンの目をまっすぐに見つめる。視線で人を射殺せるほどの、真剣な眼差し。

 

( ゚д゚ )「この地図を、汝に託す」

 

96 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:19:36.07 ID: +GaHE7Sm0
◆14

(;^ω^)「これは……戴けませんお。これは陛下がピリ・レイス提督から貰った大切なものですお」

( ゚д゚ )「だが、汝の黄金郷を探し当てるという夢には、無くてはならないものだぞ。昨晩余に語ったお前の決意はその程度なのか?」

圧倒的な眼力が、ブーンの背筋を竦ませる。

( ^ω^)「これは、この地図は陛下の……ミルナさんの夢ですお。ピリ・レイス提督と見たこと無い世界を見たかったミルナさんの夢なんですお。
だからそんな簡単に貰ったり出来る物じゃないですお」

ブーンに向けられる圧力が不意に消える。ラウンジ皇帝、クォッチ=ミルナは執務室の窓から、眼下に広がる帝都の市街、豊かに流れるナイル、そして、
その河口に面する港から、水平線へと消えていく帆船のマストを見つめていた。

 

( ゚д゚)「ブーン、余も一緒に汝らと旅をしたい」

皇帝としてではなく。未知の世界に憧れる船乗りとしての真摯な言葉。

 

100 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:22:13.94 ID: +GaHE7Sm0
( д )「だが、余はこの広大なラウンジを治める皇帝だ。四方3000万の民の安寧こそが、余の第一の望みであり、勤めである」

水平線に消えた船を見送り、ミルナが言い聞かせるように呟く。皇帝の四重冠は、その重さにラウンジの平和を背負っているかの如くブーンには思えた。

( ゚д゚ )「ブーン、汝に頼む。ピリ・レイスが見た物、見ようとした物を見て来い。そして再びこの帝都を訪れた時に、余に教えて欲しい。彼が余にこの地図を託した意味を。
皇帝としてではなく、汝の友、クォッチ=ミルナとして、汝にこの地図を預ける」

再び、視線の奔流がブーンを襲う。しかし、

( ^ω^)「ミルナさん、その頼みお引き受けしますお」

ブーンは動じることなく、ミルナの眼を見据えて、渡された地図を受け取った。

( ^ω^)「きっと朗報をお持ちいたしますお」

( ゚д゚)「期待しているぞ、ブーン。それから、ビロード=フェレロ」

(;><)「は、はいなんです!!」

 

102 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:26:26.83 ID: +GaHE7Sm0
言ってはいないはずの本名を呼ばれ、やや上ずった声でビロードが返事をする。

( ゚д゚)「改めて、汝の剣捌き、見事なものであった」

(;><)「こ、光栄の極みなんです!」

( ゚д゚)「汝の技、優しさ、仲間を守る想い、しかと見届けた。今は敵として合間見えるニーソクも、汝が跡目を継ぐ頃には和解できておるやも知れん」

( ><)「ミルナ陛下……」

( ゚д゚)「それまで切磋琢磨し、ブーンを輔ける力となってやれ」

( ><)「御意なんです!」

( ゚д゚)「ドクオ、ツン、フィレンクト、汝らもその持てる力でブーンの夢を支えてやるがよい」

('A`)「了解しました」

ξ゚听)ξ「力の及ぶ限り」

(‘_L’)「この身に換えましても」

謁見の終わりを知らせる銅鑼が鳴り響く。侍従がミルナの耳元で囁き、後ろに下がった。
                                      サラーム・アレーコム
( ゚д゚)「またいつの日か、会うこともあるだろう。その日まで、汝らの前途に、平安を」

 

103 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:27:34.46 ID: +GaHE7Sm0
侍従の案内でブーンたちが退出し、執務室に静寂が戻る。部屋を出る前に、ミルナはもう一度だけ水平線を眺めた。

( ゚д゚ )(ピリ・レイス……彼らは、貴公の見た世界の果てを見ることができるだろうか。そして貴公さえ見つけること叶わなかった黄金郷を──)

ナイルの風に、船は帆をはらむ。
手に入れたのは、新しき地図。託された物は、見果てぬ夢。
空白の地図を埋めるべく、船は大海原を行く。先に見えるは夢か、希望か──

<第3話・了>

 

104 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:30:21.74 ID: +GaHE7Sm0
◆幕間

──ラウンジ港出港管理局にて

('A`)「しっかし奢ってもらった相手が皇帝だなんて、お前もよくよく運がいいな」

( ^ω^)「ブーンも知った瞬間は首が飛ぶかと焦ったお」

(‘_L’)「災い転じて福をなす、という所でしょうか。ですが、今後は無断で目の届かない所に行かないで下さいよ」

(;^ω^)「……ブーンは子供ですかお」

ξ゚听)ξ「行動範囲が狭い分、子供の方がマシね」

(;><)「返す言葉も無いんです」

('A`)「まあ地図がこれで3枚になった事だし、今回は無罪放免にしてやるよ」

(‘_L’)「ミルナ皇帝陛下のお口添えのおかげで免税証も発行されましたし、思ったより早く探検航海に必要な資金も工面できそうです」

 

108 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:33:18.02 ID: +GaHE7Sm0
('A`)「と、なるとどこへ行くかだな」

( ^ω^)「それはもちろん、次の地図のありかだお!! ドクオ、『γ』の地図に載ってる赤い印はどこだお?」

('A`)「ちょっと待ってろ、この位置だと……ワラキュラ公国の内陸と、交易都市ガイドラインだな」

ξ゚听)ξ「ワラキュラはダーダネルス海峡を抜けて黒海からドナウ川を遡れば割りとスムーズに行けるわね」

(‘_L’)「ただ、あそこは閉鎖的な上にこれといった交易品も無いですからね……」

( ><)「もう一つのガイドラインというのは聞いたことが無いんです。どこなんですか?」

('A`)「ガイドラインってのはサヘル砂漠のど真ん中にある交易都市だ。向こうからは地中海に来れても、

こっちから行こうとすると砂漠の中で迷子になってお陀仏、帰ってきた奴がいないから『幻の交易都市』って呼ばれてるんだ」

(‘_L’)「交易都市ということは、何が特産品なのでしょうか」

('A`)「ん〜、最後に往来があったのが3世紀も前だからなぁ。その時はラウンジ帝都の道が金と象牙で溢れ返ったらしいですよ」

( ^ω^)「有り余るほどの金と象牙かお……これは一儲けのチャンスだお」

ξ゚听)ξ「でも、海から行くとしたらラウンジ西海岸を回っていくことになるわ。始終暴風雨が荒れ狂ってるから、アンタたちみたいに

外洋航海の基礎を覚えたばっかりの素人じゃ持て余す事になるわよ」

(‘_L’)「砂漠に詳しい案内人も必要になりますね……」

 

110 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/20(日) 04:36:24.26 ID: +GaHE7Sm0
( ^ω^)「比較的安全なルートで次の地図を手に入れるか、多少危険でも地図と儲けの一石二鳥を狙うかかお……迷うお」

('A`)「ここは一つ、水夫たちにも聞いてみたらどうだ?」

( ^ω^)「そうするお! じゃあオーディエンスいくお! 水夫の皆さんお願いしますお!」

1.ダーダネルス海峡を通ってワラキュラ公国内を探索 (低リスク、低収入、地図あり)
2.ラウンジ西海岸を南下し、交易都市ガイドラインを目指す (高リスク、高収入、地図あり)

 

( ^ω^)「深夜で人も少ないので昼の12時までに多かったほうに決めますお。
スレが落ちてたら落ちた時点での統計にしますお」

 

 

 

 

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