235 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:31:17.06 ID: 2rdswzgo0
◆第2話

◆航海日誌

1485年熱月14日・ヴィップ港沖合──

( ^ω^)「おいすー。キャプテンブーンですお」

( ^ω^)「結局行先は水夫たちへのアンケートの結果、ラウンジ帝国首都、ラウンジに決まりましたお」

( ^ω^)「ドクオによると、ラウンジにある大図書館には帝国が征服した各地からの文献が集まるので、ピリ・レイスの地図の
手がかりも掴めそうとの話ですお」

( ^ω^)「ブーンもラウンジには行った事がないのでどんな食べ物があるのか楽しみですお」

( ^ω^)「あ、もちろんラウンジ特有の交易品にも興味がわきますお。ツンの言う食い意地だけの男じゃないですお」

( ^ω^)「……さっきからツンがしつこく呼んでますお。そろそろ行かないと、あのビッチに何やらされるかわかったもんj」

 

 

238 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:32:41.10 ID: 2rdswzgo0
◆1

( #)ω^)「……痛いお。いったい僕が何をしたかお?」

ξ#゚听)ξ「……思い出すまでもう少し『治療』が必要かしら?」

( ^ω^)「ほんの冗談ですお。ブーンの記憶力は抜群ですお」

ξ゚听)ξ「まったく……航路も決まったことだし、食料、水は十分にあるから途中で寄港する必要はないわね。
このまま半島を回ってジベタルラル海峡まで直行するわよ」

( ^ω^)「なんですお、その菜食主義者みたいな名前の海峡は?」

('A`)「ジベタルラル海峡──太西洋とラウンジの内海でもある地中海を繋ぐ、唯一の海峡さ。こいつのおかげで
地中海ではラウンジ海軍の絶対優位が保証されてるんだ」

(‘_L’)「またの名を大瀑布海峡、4フィート海峡とも言いますね。世界7大奇景の内の一つに数えられると存じております」

(;^ω^)「大幕府? 4フィート? そんなに短い海峡なのかお?」

('A`)「ま、行けば分かるさ」

大陸へと吹き寄せる穏やかな西風に乗って、エスポワール号は小波の立つ太西洋を南東へと向かう。
ブーン達と同じくラウンジ国内での貿易で小金を稼ごうとする商人のバス、ベルガンティンや、
海外貿易特権を許されたハンザ同盟の巨大なガレオン、ラウンジ商人が交易に使用する特徴ある形のダウが
そこかしこを漂い、ジベタルラルへの航路はさながら船の博覧会と化していた。

 

 

241 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:35:09.45 ID: 2rdswzgo0
ξ゚听)ξ「商船隊の航路に沿っていけば海賊も手出しはしてこないし、迷う心配もないわね。ま、初心者向けの航路の一つだし
この際、みんなには航海術をみっちりと覚えてもらうわ。後々外洋に出るときのためにね」

( ^ω^)「やっぱり僕らの船が一番小さいお……いつかあんなガレオンを指揮してみたいお」

ξ゚听)ξ「まずドクオは六分儀を使った経緯度の計り方、海図の作成方法、信号旗による通信を覚えてもらうわ。どれも
外洋航海には必須の知識よ」

('A`)「分かった」

( ^ω^)「ぴかぴかの真鍮の大砲だお……ブーンも海戦で『左舷、弾幕薄いお!何やってるお!』とかやってみたいお……」

ξ゚听)ξ「フィレンクトさんは主計長をお願い。それから、帆や索具、船体各部の用語を間違えずに覚えて。
嵐や戦闘では一秒が生死を分ける事態になるから」

(‘_L’)「微力を尽くしましょう」

( ^ω^)「おお? トビウオだお! 本当に魚なのに空飛んでるお!! 凄いお! きっと魚もブーンしたいお!」

 

244 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:37:01.23 ID: 2rdswzgo0
ξ゚听)ξ「で、ブーンは……」

( ^ω^)「どっちが速くブーンできるか競争だお! ブーンも負けないお!」

ξ゚听)ξ「…………」

⊂( ^ω^)⊃「ブーン、ブーン」

ξ#゚听)ξ「…………おい」

⊂( ^ω^)⊃「ブーン、ブー」

ξ#゚听)ξ「おい豚ァ!!」

(;^ω^)「き、急に何ですかお!?」

ξ゚听)ξ「喜びなさい、アンタにも仕事をあげるわ。名誉ある仕事だからきっちり頑張りなさい」

( ^ω^)「どんな仕事ですかお。wktkですお」

ξ゚听)ξ「これよ」

ツンが手に持っている物は人の身長よりやや短い、細い円柱状の器具。先端で円柱と垂直に交わり、左右に突き出た直方体。
そして直方体の表面にあしらわれた無数の柔軟に動く棘。さながら丁字型を思い描かせるその全体は、
ブーンが覚える仕事にぴったりと誂えたかのように洗練された形状をしていた。

 

248 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:39:15.11 ID: 2rdswzgo0
( ^ω^)「……これは……デッキブラシですかお?」

ξ゚听)ξ「他の何に見えるって言うのよ」

( ^ω^)「これで僕は何をすればいいんですかお?」

ツンは見る者を恋に落としそうな爽やかな笑みを浮かべ、真珠色の唇の間からブーンにとっての地獄の時間の開始を告げた。

ξ#゚听)ξ「 働 け 」

 

249 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:40:17.75 ID: 2rdswzgo0
◆2

1485年熱月17日・ジベタルラル沖──

ヴィップを出港して三日、途中天候が崩れることもなくブーン達はイベリヤ半島を反時計回りに航海し、
ジベラルタル海峡まで20海里の洋上へと来ていた。

(;^ω^)「ぶもおおおおおおおおお!!」

ξ#゚听)ξ「キリキリ動けこの白豚ァ! 腰に力を入れて擦れ! 船はお前の命なんだ、心を込めて磨き上げろ!!
何だそのへっぴり腰は! 爺いのファックの方がまだ気合が入ってるぞ!!」

('A`)「毎日毎日、アイツらもよく飽きずにやるなぁ…」

甲板上で鞭を振り上げるツンと、汗まみれになりながらデッキブラシを必死で動かすものの、
心なしか楽しそうなブーンに信号表から目をやり、ドクオは誰ともなしに呟いた。

 

 

253 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:41:07.65 ID: 2rdswzgo0
(‘_L’)「ツン様は坊ちゃんを一日も早く、一人前に育て上げたいのでしょう」

漏れた呟きが耳に入ったのか、船倉から出納帳を持って上がってきたフィレンクトが苦笑混じりに答える。

('A`)「あ、フィレンクトさん、お疲れ様です」

(‘_L’)「『自分に甘い者は他人にも厳しくなれない』。亡き旦那様の言葉ですが、ツン様を見ていますと
改めて含蓄のある言葉だと考えさせられます。坊ちゃんのみならず、私やドクオ様の教育にも時間を割き、
なおかつこの混雑した航路の中で最適な位置に船を動かしておられる」

('A`)「へぇ……」

少々驚いた。初見でのフィレンクトの印象といえば、ブーンのお守り役でその半生を商店で地味な業務に費やしてきた、
可も無く不可も無い男といった感じだったからだ。その男がこれほどの観察眼を持っているとは。

(‘_L’)「坊ちゃまは少々自分に甘い部分がありますので、ツン様のご指導は坊ちゃまにとっても成長の良い機会だと思います」

('∀`)「ハハ、そうですね。この分だと順調な航海になりそうだ」

(‘_L’)「……その事なのですが、少々問題が」

 

257 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:42:39.20 ID: 2rdswzgo0
フィレンクトの眉が顰められる。寄り掛かっていた麻袋から身を起こし、ドクオは居住いを正した。
自然と声が抑えられ、密談をしているような雰囲気が醸し出される。

('A`)「一体何があったんですか」

(‘_L’)「実は、出納帳に記載した食料の消費量と船倉の在庫が合わないのです」

(;'A`)「食料……アイツじゃないんですか」

目だけで甲板磨きに勤しむ旧友を指す。

(‘_L’)「いえ、坊ちゃんでしたら台所以外からのつまみ食いはしておりません。他の者も、船倉の鍵は私が全て管理していますので、
私の管理無しに食料庫に入れる者はおりません」

('A`)「ということは……」

船倉内に密航者がいる。口にこそ出さなかったものの、二人は同じ結論を導き出していた。
が、その静寂はブーンの大声によって破られる事になる。

(;^ω^)「おおおおおお!? 一体なんなんだお?」

 

258 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:43:22.90 ID: 2rdswzgo0
水平線の先から響く、轟音。騎兵部隊の一斉突撃の足音と、パン屋が小麦粉を挽く石臼の擦れ合う音。
音としてはそれらに近い。だが、この音量から判断すれば水平線の向こうにいるのはラウンジ軍の騎兵全てと、
ニューソク大陸全土のパン屋が一堂に会している。そう思わざるを得ないほど、空に轟き、帆という帆を震わせる
音は凄まじいものだった。

ξ゚听)ξ「……そろそろ到着ね。手の空いてる者は荷揚げの準備に回って! ブーン、アンタも!!」

( ^ω^)「は、はいですお!」

船倉への梯子へと走るブーンを横目に、ドクオとフィレンクトもそれぞれの持ち場へと向かう。
その脳裏からは、先程までの会話は片隅に追いやられていた。

 

261 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:44:35.02 ID: 2rdswzgo0
◆3

エスポワール号、食料庫──

( ^ω^)「おいすー、おいすー、仕事が好っきー」

乾パンの袋や小麦粉の樽を持ち上げ、梯子の下で待ち受けている船員に渡す。ブーンの親しみやすい顔つきと
持ち前の明るい性格から、3日前に雇ったばかりの船員たちもブーンと気さくに冗談を言い合う仲になっていた。
もっとも、彼らの尊敬を得るにはまだまだ時間がかかりそうだったが。
干し肉、青りんご、人参と次々に積まれた樽や木箱が運び出されていく。

( ^ω^)「おいすー、おいすー、さて、次の荷物はこれかお?」

腰に力をいれ、木箱を担ぎ上げる。数日にわたるツンのしごきの成果か、出港時には持ち上げるだけでへたばっていた
木箱の重さも、以前より軽く感じられる。

????「痛っ」

( ^ω^)「おっと、ぶつけてしまってごめんですお。……? 誰もいないお」

右に曲がる際に、担いでいた箱が他の木箱にぶつかってしまう。確かに誰かの声がしたと思ったのだが、
この辺りで作業をしているのはブーンの他にはいない。

( ^ω^)「……まあ気にせず作業を続けるお。……お?」

 

264 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:45:48.59 ID: 2rdswzgo0
気を取り直して木箱を持ち直した時、腹の虫が鳴ったのが聞こえた。それも、ブーンの間近で。

( ^ω^)「……変だお。昼ごはんはさっきお腹いっぱい食ったお。なのに腹の虫が鳴るわけないお」

????「…………」

キョロキョロ

( ^ω^)「休憩がてらに何かお腹に入れておくのもいいお。たしかこの箱は青りんごのはずだお」

( ^ω^)「ではいただきますお」

( ^ω^)「…………」

( ><) 「…………」

(;^ω^)「お、おおおおおおおおお!?」

(;><) 「も、もうダメなんです……」

木箱の中にうずくまり、青い顔で腹部を押さえる青年と、目が、合った。

 

 

267 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:49:17.20 ID: 2rdswzgo0
( ><)「助かったんです! ありがとうなんです! 命の恩人なんです!!」

('A`)「…………」

ξ゚听)ξ「…………」

(‘_L’)「…………」

( ^ω^)「豪快な食べっぷりだお」

コックが用意した料理の数々をまたたく間に口に詰め込み、食べ終えた皿を積み上げていく。
何日も、いや何週間も食べていなかったかのような青年の食欲にツンもドクオも、半ば呆れていた。

( ><)「ふう、ごちそうさまなんです。おいしかったんです」

( ^ω^)「それは良かったお」

('A`)「いや、良くねーだろ。この船はこれからジベタルラルを通過する。ラウンジは主要人物の暗殺とかを恐れて、
密航とか密輸が見つかったら当事者はもちろん、密航が見つかった船のクルーだって厳罰を受ける」

( ^ω^)「で、でもどうするお? 他の船も密集してるから、ここから引き返すのは無理だお」

('A`)「そうだな……まあ船乗りのルールに則って、このまま簀巻きにして海に放り込むか」

(#^ω^)「それは非道すぎるお! そこまで鬼畜な事は船長として認められないお」

ξ゚听)ξ「妥当な案としては、ボートを下ろして近くの海岸に向かってもらうのがいいわね」

( ><)「あの……」

 

 

275 名前: AA忘れたので修正 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:56:17.88 ID: 2rdswzgo0
青年が口を開き、皆の視線が注がれる。

( ><)「虫のいい事とは百も承知なんです。僕を船員として雇ってほしいんです!」

('A`)「ハァ? 何考えてんだお前。どこの馬の骨とも分からない密航者をクルーに出来るわけないだろ?」

失礼しましたなんです、と、青年は最敬礼の姿勢を取る。軍人や役人では真似できない、生まれながらの貴族ならではの優雅な一礼。

( ><)「僕の名前はビロード=フェレロ。ニーソクのフェレロ大公家の長男なんです」

これが証拠なんです、と腰のレイピアを見せる。柄に彫られた二匹の海竜は、確かにその持ち主がフェレロ大公家の一員であることを示していた。
フェレロ大公家。水の都ニーソクを治める『十人委員会』の事実上の筆頭であり、その当主は代々ニーソク海軍の提督を
勤めるという伝統がある。

('A`「で、そのフェレロ家のボンボンがなんでまたこの船に密航してるんだ?」

( ><)「実は……勘当されたんです」

 

 

278 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:58:25.08 ID: 2rdswzgo0
ビロードの話を略すとこうなる。現在ラウンジ帝国と停戦状態にあるニーソク共和国は、旧領土である地中海沿岸を取り返すために、
ある奇策を打ち出した。曰く、ラウンジ大陸にある「伝説のプレステ=イェゲーの国」を発見、同盟を結び、ラウンジ帝国を挟撃する
というものである。その使者として選ばれたのが自分であり、同盟締結まで帰還してはならぬ、との厳命が出ていると。

( ;><)「だから、どうしてもプレステ=イェゲーの国を発見しなくちゃならないんです! お願いなんです!!
甲板磨きでも船底の垢汲みでもなんでもやりますから雇って下さいなんです!!」

甲板に土下座をして頼み込むビロード。クルーのある者は彼を見つめ、ある者はあえて目を逸らし、一様に沈黙を守っていた。

('A`)「できねーな」

無情な一言。吐き捨てるように言葉を投げかけたドクオが、追い打ちを掛ける。

('A`)「さっきも言った通り、この船はジベタルラルに向かっている。密航がばれたらお前もこの船も一巻の終わりだ。
それに、俺達はある目的のためにラウンジの大図書館に行かなくちゃならねぇ。だからラウンジを倒す為の手助けは出来ねーんだよ」

(‘_L’)「それに、入港申請書には既に全員分の名前を書き終えてありますから、今更追加するのはまず無理でしょうな」

フィレンクトが首をひねりながら付け加えた。

('A`)「そーいう事だから、ボートをくれてやるからここから近い陸地に向かってくれ。まあ運が悪かったと思って諦めてくれよ」

全身を震わせて涙を零すビロード。だが、それを拭うと顔を上げ、

( ><)「……わかりましたなんです。皆さんにこれ以上ご迷惑は掛けられないんです。ご飯、ご馳走様でした。美味しかったんです」

( ^ω^)「待つお」

 

 

282 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 22:03:40.59 ID: 2rdswzgo0
頭を下げようとしたビロードの肩をブーンが掴む。

ξ;゚听)ξ「ブーン!?」

('A`)「おいおい、幾らなんでもこれは無理ってもんだぜ」

ツン達の驚きを他所に、ブーンはビロードに語りかける。

( ^ω^)「本当に、ビロードは国の為だけにそこまでやるのかお?」

( ;><)「……え? と、当然なんです! フェレロ大公家の嫡男として」

( ^ω^)「ビロード、僕はビロードが全てを話してくれたら力になってもいいと思ってるお。ビロードは『誰の為に、その夢を叶えたいんだお』?」

( ;><)「ぼ、僕は……」

動揺し、逡巡するビロード。しかし、ブーンがゆっくり頷くと、シャツの中に入れていた懐中時計を取り出す。
カチリと開いた裏蓋には、麗しい少女の笑顔があった。

 

 

283 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 22:05:03.83 ID: 2rdswzgo0
ξ゚听)ξ「……これは?」

ツンが訊ねる。

( ><)「チンポッポちゃんなんです。幼馴染で……僕の婚約者なんです。僕は、この笑顔を守りたいんです」

顔を真っ赤にして、それでも、ビロードは力強く言い切った。

( ^ω^)「いいお。ビロードの決意は受けとめたお。今度は僕が決意を見せる番だお」

( ^ω^)「みんな、それでいいかお?」

最初に口を開いたのはツンだった。

ξ゚听)ξ「貴方が船長なんだから決めたことには従うわよ…というのは卑怯よね。私は彼を助けるのは危険だと思うけれど……彼が誰かの為に
ここまで必死になっている、だから彼が夢に進むのを手伝えるのなら手伝いたいと思ってるわ」

( ><)「ツンさん……」

続いて、フィレンクトが答える。

(‘_L’)「私の助力がフェレロ公子だけでなく、公子が守ろうとする方々に、少しでもお力になれるのであれば、喜んで」

( ><)「フィレンクトさん……」

あとは一人だけ。ブーン、ツン、フィレンクトの目がドクオへと注がれる。

 

 

287 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 22:07:51.67 ID: 2rdswzgo0
('A`)「…………っ、あ〜もう、わかったよ! 手伝うよ、手伝ってやるよ!! じゃなきゃブーンの決断に乗った俺が馬鹿みたいじゃないか!」

( ><)「ドクオさん! 皆さん! ありがとうなんです!!」

('A`)「けどな、言っとくが、俺はお前を助けるんじゃないからな! お前を助けてやろうとしてるブーンを手伝ってやるだけだから、そこんとこ勘違いするなよ!!」

(*^ω^)「うほっ」

(#'A`)「お前も勘違いするな!!」

 

(‘_L’)「しかし、どうやってフェレロ公子を通関させるかが問題ですね。書類の偽造は出来そうにありませんし」

( ^ω^)「その点についてはブーンに考えがあるお。ドクオ、協力してくれお。あとフィレンクトさんにも一役買ってもらいますお」

 

365 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:19:07.87 ID: /t/SKw1g0
◆4

( ^ω^)「凄い光景だお……」

('A`)「やっぱ実物は迫力あるな……」

( ><)「絵でしか見たことがなかったんです」

ブーン、ドクオ、ビロードの3人は舷側から見えるジベタルラル海峡、セウタ通関の光景に圧倒されていた。
海峡を挟んで向かい合うジベタルラル、セウタの両岸。その両側とも、細い地峡を残して切り立った崖で覆われている。
高さはおよそ1500フィート以上だろうか。その二つの頂上から、水が、流れ落ちている。

ξ゚听)ξ「どう、驚いた? こればかりは何度見てもまた見に来たくなるのよね」

3人の後ろからツンが声を掛ける。海峡を中心に、船の左右から迫ってくる2つの大瀑布。水飛沫がマストの上まで跳ね上がり、
ラウンジへと入場する門のように幾重もの虹を形作る。滝の根元には水車を10倍に大きくしたような機械が据え付けられ、
水の流れに合わせて急速に回転していた。

(‘_L’)「海側からは滝と海峡に守られ、陸側には三重の城壁。まさに難攻不落の要塞ですね」

ξ゚听)ξ「そろそろ私達の番だから、荷揚げの準備をして。ビロード君は作戦通りにね」

( ^ω^)「おいすー」

('A`)「了解!」

( ><)「わかったんです!」

 

 

367 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:21:43.62 ID: /t/SKw1g0
信号旗の誘導に従って、エスポワール号が荷揚げ用の桟橋に横付けされる。ジベタルラル海峡を通過する船は
例外なくここで全ての荷を一度降ろさなくてはならない。

( ^ω^)「でも何でいちいち荷の揚げ降ろしをしなきゃならないんだお? 通関だけだったら他の港と同じように、役人が乗り込んできて
調べればいいお。不便極まりないお」

ξ゚听)ξ「それはこの海峡のもう一つの特性上、仕方ないわね」

( ^ω^)「もう一つの特性って、確か『4フィート海峡』ってヤツかお? どう見ても幅も長さも4フィート以上あるお」

ξ゚听)ξ「まあ、見てればわかるわよ」

(‘_L’)(フェレロ公子、箱の中は苦しくありませんか?)

( ><)(大丈夫なんです。息抜きの穴もちゃんとあるんです)

(‘_L’)(これから船が海峡を通過するまでの間、飲食は出来ませんがご辛抱ください)

( ><)b(前の密航に比べたら大した事ないんです。がんばるんです!)

ビロードの入った木箱を含む、エスポワール号の荷物をセウタ通関の役人に引き渡したフィレンクトは、
貨物と人でごった返す埠頭を船に向かって歩いていた。

(‘_L’)「おっと、これは失礼しました。お怪我はありませんか?」

    「いえ、大丈夫です。こちらこそよそ見をして申し訳ない」

陸揚げ中の荷物を運んでいた商人とぶつかり、相手の荷物が散らばる。元の木箱へ収めるのを手伝い、
すみません、ともう一度謝ってフィレンクトはその場を後にした。

 

 

368 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:26:08.04 ID: /t/SKw1g0
( ^ω^)「なるほど、これが4フィート海峡の秘密だったお」

('A`)「スゲーな、海底に手が届きそうだぜ」

ジベタルラル海峡。この海峡が地中海の門としてラウンジの海上戦力の絶対優勢を支える秘密がここにあった。
ジベタルラル海峡の深度は平均4フィート、最深部でも6フィート。必然的に、ここを通る船は喫水をそれ以上に浅くする必要がある。
それゆえ、砲弾や火薬などの重量物は陸揚げせざるを得ず、結果としてここであらゆる船が武装解除を行う羽目になっていた。
もちろん大砲を大量に積んだ戦列艦の類は、この海峡を通ることすら不可能だ。
地中海へと入る船の列と、地中海から出る船の列。地べたを這うようにして航行する船同士が次々にすれ違ってゆくのは、まさに世界
7大奇景と呼ぶにふさわしい物だった。

( ^ω^)「……んお?あれは何だお?」

船の進みとほぼ同じ速さで、四角い物体が陸を動いていく。よく見ると、物体そのものが動いているのではなく、
その下にある、蝶番で止められた何千枚もの板が動いていたのだ。

 

 

370 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:26:51.98 ID: /t/SKw1g0
( ^ω^)「ツン! あれは何かお!?」

ξ゚听)ξ「ああ、『コンベア』ね。さっき見た水車の回転を、この地峡に並べられた歯車に伝えて、そのうえに並べてある板を動かしているのよ。
上に載ってるのは海峡を通る船の荷物。船の進みに合わせて貨物を海峡の出口に送ることで、海峡を抜けると同時に船荷を拾って出発できるってわけ」

(;^ω^)「仕組みはよく分からんけどとにかく凄いお……」

不意に甲高いラッパの音が海峡にこだまする。怪訝そうに顔を向けるブーンにツンが説明する。

ξ゚听)ξ「この海峡を通過するのに丸一日かかるから、船員の半数には上陸許可が出るの。今のはそれの合図」

('A`)「んじゃ俺は予定通り作戦を実行する」

ξ゚听)ξ「アタシも上陸するわ、久しぶりにお風呂に入りたいし」

(‘_L’)「この際ですから、生鮮食料を少し補充して置きましょう」

( ^ω^)「じゃあブーンは」

('A`)ξ゚听)ξ(‘_L’)「「「留守番」」をお願いします」

(;^ω^)「おまwwwwwww」

 

371 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:30:37.28 ID: /t/SKw1g0
◆5

夜、セウタ通関出口貨物倉庫──

( ><)「ようやく落ち着いたみたいなんです」

(;><)「丸一日箱の中で揺すぶられてフラフラなんです」

( ><)「でもちんぽっぽちゃんの為なら頑張れるんです!」

服の中の丸い金属の感触を確かめる。真鍮と銀で出来た懐中時計は、なぜか少し暖かい気がした。

( ><)「!」

倉庫の扉を開く、重々しい音。

( ><)(もう出港準備が整ったんでしょうか?)

それに続く、石を穿つ複数の硬い軍靴の音。ゆっくりと近づくそれは、ビロードの近くで止まる。と、木箱の蓋を外す音が聞こえた。

(;><)(臨検なんです!!)

 

373 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:31:30.79 ID: /t/SKw1g0
しばらくして、蓋を戻す音がする。軍靴はさらに近づき、ビロードの2つ隣の箱を空ける。

(;><)(まさか、ブーンさんの作戦が失敗したんですか?)

確たる証拠はない。今のビロードに出来ることは極力音を立てず、小さく縮こまる事だけだった。
足音が近づき、ビロードの隣の箱が開けられる。作戦が失敗したのか、それとも。

──ブーン達が裏切ったのか。

( ><)(そんな事ないんです!! あの人たちの目は正直だったんです!)

少しでも、そんな汚い事を考えてしまった自分を恥じる。代わりに懐中時計を固く握り締めた。
足音がし、止まる。そして自分の頭上から、ごそり、と蓋がずれる音が聞こえた。

 

 

375 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:37:30.16 ID: /t/SKw1g0
「…………」

ラウンジの下士官は不機嫌だった。今日の午後には非番で町に繰り出せる筈が、密輸をしようとするものがいる、との
密告で、深夜の臨検に駆り出されたのだ。本当なら今頃は、安宿で贔屓の娼婦と蜜月の時間を過ごしていたものを。
舌打ちして、次の木箱の蓋を開ける。水夫の食料だろう、青林檎が蓋すれすれまで詰まっている。

「…………」

ふと、喉の渇きを覚えた。水筒に手を伸ばしたが、目の前にある物を見て思い直す。窃盗は重罪だが、この倉庫を点検しているのは
自分だけだ。それに、わざわざ深夜まで駆り出されて戦利品の一つも無いというのはおかしかろう。そう考え、果物に手を伸ばした。

 

(#><)(こいつ、船の食糧をちょろまかしてるんです! 兵士のくせに窃盗なんです!)

大声で叫び、窃盗犯を捕まえたい衝動に駆られたが、自分の現状を考え、懐中時計を再び握り締める。
それが少し強かったせいか。

留め金の外れる、金属音が響いた。

 

377 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:38:38.77 ID: /t/SKw1g0

 

「おい、密輸品が見つかったぞ、武器だ!! 5番倉庫だ! 全員集まれ!」

弾かれる様にラウンジ兵が立ち上がり、齧りかけの林檎を投げ捨て、呼び声のした方向へと走り去る。

(;><)(た、助かったんです……)

蓋を戻し、再び林檎に埋もれたビロードの疲労困憊した意識は、そのまま闇へと溶けていった。

 

 

379 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:46:28.06 ID: /t/SKw1g0
◆6

(#><)「もう少しで見つかる所だったんです!!」

昨日と同じか、それ以上に旺盛な食欲で皿を空にしながらビロードが文句を言う。

( ^ω^)「まあまあ、終わりよければすべてよしだお」

('A`)「しっかし、あえて密輸品があるって情報を流して、フィレンクトさんが荷物に仕込んだピストルを発見させるとはな。
ビロードが先に見つけられてたらどうするつもりだったんだ、お前?」

( ^ω^)「大人しくリンゴに埋もれていれば見つかる可能性は低いお。深夜の臨検なんて面倒すぎてみんな適当にやるお。
その点ピストルは荷物の一番上に置いたから蓋を開けただけで見つかるお」

(‘_L’)「こんな所で昔の特技が役に立つとは……人生とは分からないものです」

(;><)「生きた心地がしなかったんです!」

 

 

380 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:47:32.34 ID: /t/SKw1g0

ξ;゚听)ξ「でも、無関係の人を巻き込んじゃったわね……」

( ^ω^)「その点は大丈夫だお」

( ^ω^)「あのピストルはブーンが持ってたオモチャだお。銃身の中は上から下まで鉛が詰まってるお。あんなので人を殺せるわけないお。
見つかっても取り調べとしばらくの入港禁止が関の山だお」

(‘_L’)「ところで、フェレロ公子はこれから私どもの船に乗られるのですよね? でしたら船員登録される際に、偽名を使う必要がありますね。
その名字では、すぐに出自を疑われてしまいますから」

( ><)「そうなんです、どんな名前がいいかわかんないんです」

('A`)「いっそ、ワカンナインデスって名字にしちまったらどうだ? 変り種過ぎて逆に疑われないかもな」

( ><)「いいアイディアなんです! これからはビロード=ワカンナインデスと名乗るんです!」

 

 

381 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:48:35.35 ID: /t/SKw1g0

ブーン、ドクオ、ツン、フィレンクトに新たに加わった仲間、ビロード=フェレロ。
婚約者の為に祖国を守るという新たな願いを乗せて、エスポワール号は東へと帆をはらませる。
目指すは、ラウンジ帝都、旧アレキサンドリア。ピリ・レイスの地図ははたして彼らに幸運をもたらすのか、災厄をもたらすのか。
それは、運命のみが知っている──。

<第2話・了>

 

 

383 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:50:34.03 ID: /t/SKw1g0
◆幕間

─地中海の真ん中で

( ^ω^)「さて、2話目もなんとか終わったですお。帝都で追加情報が入ると思ってた皆さん、ごめんですお」

( ^ω^)「ラウンジでの出来事は第3話に持ち越しですお」

('A`)「いよいよピリ・レイスの地図の手がかりが入るな」

( ^ω^)「しかし、本当に奇妙な地図だお。誰も知らない場所をどうやって描いたんだお?」

ξ゚听)ξ「実際のピリ・レイスの地図はもっと奇妙だけどね」

(‘_L’)「なにしろ、氷に覆われてない南極大陸の海岸線ですからね」

('A`)「南極が氷に覆われてない頃まで遡ると、南極自体の形も変わっちまうしな」

 

384 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:51:09.13 ID: /t/SKw1g0
( ^ω^)「偶然だ、とか後世のこじつけだとかいう説もあるお」

( ><)「このままだとオーパーツ探しの旅になりそうなんです」

('A`)「ま、俺達がどうなるかは読者の選択肢次第なんだけどな」

(‘_L’)「交易商となるか、冒険家として名を上げるか、戦いに身を投じるか」

( ^ω^)「最終的にはみんなの夢を叶えてあげたいお」

ξ゚听)ξ「それはアンタの頑張り次第よ」

( ><)「というわけで今日はこの辺でお開きなんです」

('A`)「長くなるか短くなるか分からんが」

( ^ω^)ξ゚听)ξ('A`)(‘_L’)( ><)「「「「「今後とも『ブーンが大航海に出るようです』をよろしくお願いします」」」」」

 

 

 

 

 

385 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:53:33.82 ID: 10bwlGdEO

読者参加型はgdgdになりやすいから気をつけろよ

 

 

393 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 05:09:34.78 ID: /t/SKw1g0
>>385

( ^ω^)「ご忠告ありがとうございますお。イベント一つ一つのプロット自体は練ってありますので、
読者の皆様に何から何まで頼るわけではないですお」

( ^ω^)「ただ、大航海時代のように、読者の皆様もブーン達と旅をする雰囲気を味わえる
ようにしたいと思っての選択肢方式ですお」

 

 

389 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/16(水) 04:56:42.66 ID: RepyYC8cO
面白かた乙

暇なら>>268について教えてほしい

268 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/15(火) 21:49:58.00 ID: 6zKp7F1qO
オスマントルコがラウンジ ?
ポルトガルが出発点?

イマイチ解らない・・・

 

>>389

( ^ω^)「地形は実在の物と同じですが、国の位置などが少々違ってますお」

ニューソク大陸=ヨーロッパ大陸
ヴィップ=リスボン(町のイメージはパロス)
ニーソク=ヴェネチア
ラウンジ大陸=アフリカ大陸
ラウンジ帝国=オスマン朝トルコ
帝都ラウンジ=アレキサンドリア

( ^ω^)「あと、イベリア半島は国によって統一されているわけでなく、
当時のドイツやイタリアのように自由都市が幾つもある感じですお」

( ^ω^)「こんな感じでいいですかお?」

 

 

 

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