6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:26:10.53 ID: bNZ7XS4FO
涼やかに鳴り響く風鈴と細やかに囁くやうに河の音
それだけが、私の、全て
それだけが、私の、世界
静かに満ち足りた幸福といふ牢獄
欲望もなく意思もなくただそこで年老いて朽ちる筈
そこから連れ出したのは貴方
お兄様が来てから私の中に不足が生まれた。
お兄様が来てから私の中に欲望が芽生えた。
まだ足りない、もっと欲しいわ。
お兄様を、、、、
頂戴、、、
( ^ω^)は色織のようです
8 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:28:32.44 ID: bNZ7XS4FO
朝起きて夜眠るのが私の仕事。後は死なないやう最低限食事を取ればそれで全て。
日がな一日中だらしなくしていても誰が叱るわけでもないわ。
お父様は畏れて近寄らず
お母様もただ私を崇めているから
津出家世継としてはこんなものでよろしいのでせう?
ξ゚听)ξ「バケモノとして生まれたからには少し暴れてみたいものですけれども……」
ξ゚听)ξ「ねぇ…?ブーン……?」
( ・□・)「イケナイ、オジョウサマソレハイケナイ」
9 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:29:32.66 ID: bNZ7XS4FO
木で造られた文明閉鎖以前の不細工なカラクリ人形が口を開いた。
私が生まれてからきっといつか朽ち果てる時までの唯一の話し相手。
( ・□・)「オジョウサマハアバレテハイケナイ。アバレテハイケナイ。」
ξ゚听)ξ「あら何故かしらねぇ、お家のため?それともそうさせないやう命じられた貴方のためかしら?」
いつにもなく強情に言ふものだから少し意地悪をしたくなった。
ξ゚ー゚)ξ「貴方だってはしゃぐ私に叩き壊されたくないものねぇ…?フフフ」
11 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:30:43.48 ID: bNZ7XS4FO
ブーンは私の身の回りの面倒を見るやう命ぜられたカラクリ人形だ。しかしそれと共にもう一つ重大な命令を課せられている。
それは私が暴走した時の後始末。
津出家十一代目世継にして一族に稀に表れる「人形サマ」(ヒトガタサマ)を、殺してでも止めるやう、壊されてでも仕えるやう命ぜられた哀れなカラクリ人形だった。
( ・□・)「ソレハチガウオジョウサマ。ソレハチガウ、チガウ」
ξ゚听)ξ「?」
18 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:33:59.22 ID: bNZ7XS4FO
ξ゚听)ξ「それじゃぁ何故かしら、何故暴れてはイケナイの?ブーン」
( ・□・)「アトデジブン二、ワルイコワルイコスルカラ」
ξ゚ー゚)ξ「ウフフ、後悔するって言いたいのかしら?この私が、ヒトガタサマの私がそんな事くらいで心を動かされる訳ないじゃない」
( ・□・)「イマハワカラナイ。ブーンジャワカラナイ。デモイツカキットワカル。ブーンジャナイヒトガオジョウサマ二オシエル。」
19 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:35:30.61 ID: bNZ7XS4FO
分からないわ、分かりたくもない。
浮世に生まれてから今日、親ですら人間として扱ってくれないのに、木偶人形しか話し相手もいないのに、そんな人が現われるやう願うくらいなら最初から何も望まないほうがマシだわ。
ξ゚听)ξ「絵空事ね。」
十一の年、春の頃。
ずっと続くと思っていた優しいカラクリ人形との緩やかな日々。
それは突然に終わりを告げた。
21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:36:43.81 ID: bNZ7XS4FO
月の光に石灯篭。明かりは充分で庭の様子が良く窺えた。
風が吹き松がざわめく、余韻で外れにある池に波紋が揺れる。
そんな何でもない一つ一つにさえ気を取られる。
そう、私は緊張していた。
突然松の一つが大きく揺れる、それから飛び出したナニカがあちらこちらの木々を飛び回る。
大丈夫。見えている。きっと傷つけず抑え込める。
瞬間ナニカは大きく跳び月の光が遮られる。
落ちて来るソレは刃を振りかざし私の首元に左から叩きつけようと。
24 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:37:17.85 ID: bNZ7XS4FO
しかし届かない。
届かせない。左手の指二本、人指し指と親指で刃を軽く止どめる。
右手で着物の懐から無色様の札を取り出してソレに貼り付けた。
( ・□・)「ギギギギギ…ギ……ギ」
抑えつけて数分、ようやく停止する。
最近はいつもこうだ。
ブーンが目覚めては暴れ回り私が苦労してそれを止める。
逆じゃないか……私がいつかどうしようもなくなった時お前が私を助けてくれる…
ξ゚听)ξ「そうじゃなかったの……ブーン…?」
26 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:39:21.26 ID: bNZ7XS4FO
それは私が十五の年を迎えようとした日に送られてきた。
毎年毎年その日には私宛に沢山の貢ぎ物が屋敷に届くから、私はそのいかにも怪しげな桐の箱を、大して疑うこともなく安易に開いてしまった。
ξ゚听)ξ「毎年のことながらよく飽きないものね、次期当主の御機嫌とりにどこも必死。」
津出家十一代目世継のうえ、少し面妖な生まれ方をしてしまったのだから仕方もないのだけれど。
ξ゚听)ξ「機嫌を損ねて意地悪はされたくないものね…ウフフフフ…アラ?」
そこにあったのは飾りもなくただ物を収めるためだけにあるやうな桐の箱。
28 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:39:58.08 ID: bNZ7XS4FO
他のあからさまに媚びを売るやうな豪華絢爛な物々とは趣が違って見えたから
ξ゚ー゚)ξ「面白いわぁ」
( ・□・)「イケナイ!ブーンシラベルマエ!!イケナイ!」
ニンギョウガトメルノモキカズヒライテシマッタノダ、ソコニハアア、ツキモノガイルトモシラズ
とても醜悪で
とても美しかった
それは見る人全て目をそむけてしまいそうなバケモノで、それなのに全て計算されたかのやうな理想的な機能美。
一目見ただけで分かる。ソレは私に取り憑きにきたのだと。
31 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:41:21.44 ID: bNZ7XS4FO
呆然としていた私に向かってその頭はまるで錐のやうに螺旋を描く小さな蛇は、跳んだ。
一瞬、微動だにできないまま私は考えた。
このままでいればあれは口に入ってくるだらう
手をかざせばあの頭で穴を開けるのかしらん
目を閉じれば、、、私を替わってくれるかもしれない
充分に浮世には飽いていたから、この辺で退場させてもらってもよろしいかしら!
しかし目を開けても期待していたやうな光景は訪れなかった。
そこにはただ…私を全ての害悪から守らんと、両手を広げ立ち尽くす木偶人形の姿があった。
33 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:42:54.33 ID: bNZ7XS4FO
( ・□・)「マニアッタ、ブブブーンブブブブ」
額に穴が開いている
( ・□・)「ダ・イジョ・ウブブ?オジョウサブブ」
少し不調子になったときの口癖が絶えない
( ・□・)「オジョ・ブブサマ、オネネネネガイ・ダカラ」
いつもどうりすぎる平坦な口調で
( ・□・)「ブーン二サヨナラ・サヨナラ・サヨナラ、シテ」
ブーンは最後のお願いを口にした。
36 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:44:46.61 ID: bNZ7XS4FO
それから今まで私はブーンの願いを叶えることができないままでいる。
ブーンが暴れてはそれを止めて、ブーンが眠りにつけば私も少し休息する。
あれから一睡もしていない。
ヒトガタサマである私とはいえ酷く疲れているのを感じる。
でも、それでも私にはブーンのお願いを叶えてあげることなんかできない。
ブーンがいなくなったら私は…本当に停止してしまうかもしれない。不感のまま生きて行くつもりはないわ。
39 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:47:51.33 ID: bNZ7XS4FO
ξ゚听)ξ「叶えてなんかあげないんだから」
私に出来ることはもう無かった。
ξ゚听)ξ「きっと助ける」
ブーンを完全に殲滅すること以外は。
ξ;;)ξ「だから…誰か……助けて…」
誰が来る筈もないのに願った。
誰が来る筈もないから諦めやうとした。
けど
貴方が来た
「遅れて済まなかったお。ツン」
何故かその声はブーンに似ている気がした。
40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:48:14.46 ID: bNZ7XS4FO
( ^ω^)「遅れて済まなかったお。ツン」
ξ゚听)ξ「……だぁれ…?アナタ」
恥ずべき所を見られた、と思った。
少なくともそれが希望だなんて私は思わなかった。
ξ゚听)ξ「迂闊に近寄ると殺すわ」
着物の袖で静かに涙を拭き、速やかに臨戦体制を整えた。
( ^ω^)「君の兄だよ」
男は言うと手に持ったアタッシュケースを床に置いた。
( ^ω^)「君を」
( ^ω^)「助けに来た」
42 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/03(土) 21:49:05.52 ID: bNZ7XS4FO
あまりに怪しいから私はその首にナイフを突き付けた。
着物に武器を隠し持つのは武家の娘の嗜みだから、袖から刃を滑るやうに出した。
ξ゚听)ξ「ピタリ」
悪戯するやうに擬音を自ら口に出して
ξ゚听)ξ「後一寸でも力を入れればアナタの首から噴水が沸き出すわ」
私は警告した。
ξ゚听)ξ「さ…アナタは誰かしらん?」
男は小さく溜息を吐いた。
( ^ω^)「それ程追い込まれていたのかい……本当に遅れて済まなかったお」
( ^ω^)「僕は君の兄。内藤境だ。」
〜つづく〜