2 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:29:50 ID: WttnhqY80
_サロン県
8月の空の下、性懲りも無く空は今日も青い。
なんでそんなに青いんだー。
蝉の鳴き声と、球児たちの怒声、歓声と、バットにボールが当たる音。
そして、乾いたアスファルトの上を自動車が滑る音しか聞こえない。
いや、それだけ聞こえれば十分なのだ。
俺が住んでいた街には、無駄な音が多すぎる。
俺はずっと白と黒のユニフォームの試合を見ていた。
試合がどんな展開になろうが、内藤はグラウンドの方を向かない。
俯いたまま、チンタラと草を刈っている。
彼の真っ白すぎるユニフォームに、背番号はついていない。
('A`)ドクオは夏の旅に出るようです
3 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:32:19 ID: WttnhqY80
「ゲーームセット!!」
審判の声が轟く。試合が終わったようだ。
「ありがとっしたーーー!!」
練習試合といえども、きっちりとした挨拶を両チームは交わし合う。
内藤がやっとグラウンドの方を見た。しかし、すぐに元の体勢に戻った。
・・・
試合が終わると、白チームの監督らしき人物が西瓜を両手に抱え持ってきた。
マネージャーの女の子が出てきて、それを丁寧に何等分にも分けていく。
黒チームも、白チームのほうのベンチに寄ってきた。皆一斉に、和気藹々と西瓜を食べ始める。
4 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:34:21 ID: WttnhqY80
('A`)「腹減ったな・・・」
('A`)(内藤はまだ草刈りをしているな)
(;^ω^)「ふぅ・・」
(;^ω^)「やっとここらへんは全部刈り終わったおww」
( ^ω^)「ん・・。みんなスイカ食べてるお」
( ^ω^)「おいしそーだおーーーwww」
5 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:35:44 ID: WttnhqY80
( ^ω^)「・・・・ww」
「あれ?まだ3個ぐらい残ってんじゃん!!」
「誰か食ってないやつがいるのか?」
「ま、いいだろww食べちゃっていーよね?」
「よしゃ!3回のホームランを称え、残りはやろう!」
「コーチあざっす!やった〜!」
「はは、まるでガキだなお前!」
( ^ω^)「・・・」
( ω )「ま、いいお」
6 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:38:31 ID: WttnhqY80
野球部は二玉のスイカをあっという間に平らげてしまった。
黒チームはそそくさと帰っていく。
白チームは、試合に出ていた人たちは校舎の方へ戻っていき、残った部員でグラウンドの整備が始まった。
「内藤ー!!いつまで草刈りしてんだよ!整備しに来い!!」
(;^ω^)「は、はい!すんませんだお!今すぐ行きますお」
7 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:40:33 ID: WttnhqY80
('A`)「そりゃないだろ」
コーチの内藤に対する扱いが酷すぎて、思わず声が出た。
内藤は汗をぬぐい、草刈り鎌を手に、グラウンドへ急ぐ。
・・だが、グラウンドを見れば、整備はもうほぼ終わっている。
それが理由でまた内藤は怒られた。たまらない気分だ。
「遅いんだよ内藤!!もう一年がほとんど片しちまったじゃねーか」
(;^ω^)「すいませんだおすいませんだお」
「・・・ま、いい。帰れ」
(;^ω^)「あざっした!失礼しますお!」
8 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:43:45 ID: WttnhqY80
校門前で内藤を待つことにした。
なんだか、あいつと話したい気分なんだ。どうしても。
('A`)(内藤おせぇな・・・)
俺は校舎を眺める。
('A`)(サロン北高か・・)
('A`)(さっきから出てくる生徒を見てるけど、女子のクオリティーはこっちのほうが上だなww)
('A`)(ん〜。サロン北高・・)
('A`)(どっかで聞いたことあるんだよ)
11 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:46:39 ID: WttnhqY80
ふと校舎を見上げた。
俺は上方にある垂れ幕に気がついた。
「祝 野球部甲子園2年連続出場」
(;'A`)「ぶっ・・!」
('A`)「強豪高なんだな」
('A`)「思い出した。去年の甲子園で、VIP県の代表と当たったんだよ」
('A`)「でも、今日練習試合してたってことは、今年は負けちゃったのか」
('A`)「3年連続はならなかったのか〜・・ たいしたことないな」
13 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:49:39 ID: WttnhqY80
「そ ん な こ と な い お 〜 w」
(;'A`)「!?」
(A';)
( ^ω^)「待っててくれてありがとだお〜w」
('A`)「お・・おう」
内藤の脅かしに気が緩んだか、俺のすきっ腹が音をあげる。
14 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:50:36 ID: WttnhqY80
ぎゅるーーー・・
(;'A`)「あいや・・・」
( ^ω^)「腹減ってるお?」
('A`)「ん・・うん」
( ^ω^)「ボクんちに来るおww」
('A`)「い・・いいのか?」
遠慮という思考が今思えば欠如していた。
しかし本能には逆らえない。
( ^ω^)「おっおっww」
16 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:53:12 ID: WttnhqY80
そして俺と内藤は、共に田舎道を歩いた。
サロン県の入口付近は店が立ち並んでいて、結構な街並みだと思っていた。しかし、ちょっと外れると途端に田舎の風景だ。
だが悪くない。全然悪くない・・・。
稲穂にトンボがたくさん止まっている。その身はまだ赤くない。行く先には、陽炎が揺れている。
いつのまにか、風の音と、俺たちが喋る音しか聞こえなくなった。
17 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:55:37 ID: WttnhqY80
('A`)「それ、サロン北の制服か」
( ^ω^)「このポロシャツだっせーーおww」
( ^ω^)「ドックンもそう思わないかお?」
('A`)「ドックン・・wそんな風に呼ばれたのは初めてだよ」
('A`)「・・ってか胸んとこについてる校章?がもっさいな!なんだか!」
( ^ω^)「やっぱりwそう思うお?wフヒヒw」
( ^ω^)「ところでドクオのチャリ、かっけーおww」
( ^ω^)「旅専用って感じがするおw」
('A`)「んー。これか。親父のなんだ」
( ^ω^)「へぇーww」
こんな感じで俺たちは会話を幾つも交し合った。
・・・とんと久しぶりだ。こんな仲良く誰かと話したのは。
そんな何気ないことに俺はいちいち感動していた。
内藤と俺は気が合う。間違いなくだ。
19 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 21:57:54 ID: WttnhqY80
('A`)「でさーww」
( ^ω^)「・・・」
('A`)「・・・?」
( ω )「うそついて、ごめんだお」
俺は精一杯その話題を避けているつもりだった。
しかし、内藤のほうから出してくるとは。
20 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:00:52 ID: WttnhqY80
('A`)「う、嘘って・・」
( ω )「一番センターとか」
( ω )「根も葉もねぇこと言っちゃってごめんだお」
('A`)「あ、ああ。そんなこと別に・・」
( ω )「本当のボクは・・」
( ω )「いつも・・」
( ω )「今日みたいに・・・」
('A`)「・・」
('A`)「ぶえっきゅしょい!!!」
( ^ω^)「お?」
21 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:03:29 ID: WttnhqY80
('A`)ずずっ・・
('A`)「へへ・・。昨日、ちょっと涼しいカッコで寝ちゃったかな」
( ^ω^)「ティッシュだおww」
('A`)「ありがとよ」
俺は故意に大きなクシャミをつき、内藤の言葉を塞き止めた。
内藤はどうも自分を無理に責め過ぎているような気がする。気持ちはわかるけど・・
「駄目だ、内藤。
22 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:06:08 ID: WttnhqY80
そんなの、誰かに話してどうにかなるような問題じゃねぇだろう。
試合に出られないのが・・、悔しかったらよぉ」
(#'A`)「死ぬ気で人の何倍も頑張ってみんかい!!」
( ω )
('A`)「え?あ?・・・ ん?」
(;'A`)「・・・・・・・・・!!!」
23 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:09:47 ID: WttnhqY80
なんということだ。
頭の中でだけ思っていたことが、いつの間にか口に出ていた。
こんなことってやはりあるのか。
内藤は真っ青な顔をしている。やばい。やばすぎる状況を生んでしまった。
(;'A`)「あ!今のは・・wその・・、いやな・・」
( ω )「・・・・・・・・・・死ぬ気でやっても」
( ω )「追いつけねぇから」
( ω )「困ってんだおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
25 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:13:31 ID: WttnhqY80
内藤は肩にかけた野球バッグを左右に揺らして走って行ってしまった。
被っていた野球帽が脱げたのも気にしないで行ってしまった。
・・どうしよう。
俺は内藤の野球帽を手にとって、立ち尽くした。
内藤は、陽炎の向こうへ消えていく。
通り過ぎた自転車の、ハンドルに垂れ下がっていた誰かのラジオから
甲子園の中継が聞こえる。
26 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:16:09 ID: WttnhqY80
少し時間が経ち、呆然と立ち尽くした後で、俺は自転車を漕ぎ始めた。
進路はとりあえず内藤が走っていったほうだ。左手には・・彼の野球帽。
そして自分の発言の底の浅さに心から腹が立った。
同じ台詞を、少し前の自分が受け取ったらどう反応するだろう・・?
きっと彼と同じように激怒しただろう。
とにかく自分にイライラし、ペダルを漕ぐ勢いがいつもより激しくなった。しかし内藤の姿は見えてこない。
自転車を漕ぐ俺の脳裏に、とあるやり取りが過ぎった。
28 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:20:17 ID: WttnhqY80
・・・・・・・・・・・・・・・・・
('A`)「は〜・・・。模試、またクラスでビリだよ」
('A`)「無理してこんな高校入るんじゃなかった」
('A`)「はーーあ!」
J( 'ー`)し「あらドクオ、この成績表・・」
('A`)「あ・・。うるせーー!!見るなよ!!??何も言葉を投げるな!!」
J( 'ー`)し「・・・」
29 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:21:17 ID: WttnhqY80
('A`)「見んなって言ってんだろーー!!」
('A`)「返せ!」
J( 'ー`)し「あんたはきっと・・」
('A`)「うるせーーってんだよ!調子が、悪かったんだよ!!」
J( 'ー`)し「・・・」
J( 'ー`)し「そお」
('A`)(勉強したってしたって、テストになると駄目なんだよ!!!!!!!!!!)
('A`)(周りが頭良すぎんだよ!!まったくよぉ!!)
('A`)「けっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
30 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:22:59 ID: WttnhqY80
かーちゃんはあの時、俺に何の言葉をかけようとしたんだろう?
あの時の俺と、内藤が、重なる。オーバーラップする。
・・・内藤、待ってくれ!
('A`)「ないとーーーー!!!!!」
誰もいない、何も無い、だだっぴろい、田舎道
気付くと俺は内藤の名を叫びながら自転車を漕いでいた。
腹が減っていたことなどもう忘れた。
31 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:26:36 ID: WttnhqY80
('A`) シャカシャカ・・
( ' A ` ) シャカシャカ・・・
( ' A ` )シャカシャカ・・・
「はい、50円。ありがとねぇー」
( ^ω^)「ここの駄菓子屋は安くてサイコーだおww」
( ' A ` )シャカシャカ・・・
( ' A ` )シャカシャカ・・・
( ' A ` )「ないとーーーー!!!!!」
( ^ω^)ぺろぺろ
(^ω^;)「お??」
32 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:29:26 ID: WttnhqY80
('A`;)「・・ちょww ftgyふじこplp;:;::」
俺は急いでブレーキを・・・
かけるのも忘れたわ!!
(;'A`)「あ」
ずっしゃああああああああああ
(^ω^;)「ドクオーー!!」
初めて・・・
マジコケしてしまった。
体中が痛い。でもそんなことは関係ない。
内藤に謝らなくては。
33 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:30:26 ID: WttnhqY80
(;^ω^)「ぎょええええ!!ドクオ!大丈夫かおww」
(;;'A`)「はぁ・・はぁ・・・よゆーーだぜ」
(;;'A`)「それより、これ・・」
( ^ω^)「おっww帽子wwやっぱり落としていたんだおww」
(;;'A`)「内藤!さっきは・・軽率な発言、正直すまんかった!!」
(;^ω^)「大丈夫だおww」
( ^ω^)「ボクこそ、いきなり走り出しちゃってごめんだお!」
('A`)「は・・はは」
( ^ω^)「おっおっwww」
('A`)^ω^)「はははwwwwwwおっおっwww」
34 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:35:13 ID: WttnhqY80
俺たちは笑いあった。
俺はすり傷だらけで、内藤は持っているアイスが溶けている。
でもやっぱりそんなの関係なかった。
笑い声はどこに反射するでもなく、すっ・・とお互いの心に染み渡った。
駄菓子屋の奥で、おばあちゃんがにこにこしている。
35 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/31(火) 22:36:04 ID: WttnhqY80
( ^ω^)「ドクオ!」
('A`)「ん?」
( ^ω^)「帽子を届けてくれたお礼だおww。この駄菓子屋でなんでもおごってやるおww」
('A`)「ktkrwwwwwwwwww」
・・・・・・
二人の間に、清らかな何かを感じた。
すぐ傍で流れている小川のせせらぎのような
頭上に広がる青空のような
俺の頬を伝う汗のような
内藤の真っ黒に焼けた腕のような
(白球編2 おわり)