2 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 00:23:12 ID: yVPKvvZq0

俺が夏を嫌悪する理由。

それは、夏が"なんでもあり"的なイメージを持ってるからだ。
なんでもありだから、世の若者はここぞとばかりに、この季節に集中して遊びまくる。何かに夢中になる。あぁ、むかつく。
だが俺は、誰とも遊ぶことがなく、何かに夢中になることもなく、淡々と変わらない日々を過ごすだけだ。あぁ、むかつく。
夏なんてキライだ。「夏」という一文字をフルに活用してフルに活動する奴らがキライだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・ところで話しは変わるけどよ

 

 

3 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 00:24:52 ID: yVPKvvZq0

"旅"という行為のキモは、とにかく自分が住んでいる場所から離れることにある。
だが、それだけではただの移動、逃避等になる。美しい景色に遭遇したり、たくさんの人たちとの出会いなどによって肉付けされて初めて"旅"という行為になる。

・・・それが俺の考え。そう、俺は"旅"というものを物凄く特別な何かと勘違いしているのだ。なんというか香ばしい馬鹿者なのだ。

 

 

でも、いいんじゃないか?特別な何かととらえても。

 

 

だって、今は夏じゃないか。

 

・・あれ?

('A`)ドクオが夏の旅に出るようです

 

 

5 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 00:30:28 ID: yVPKvvZq0

最初の目的地へ歩を進める俺の行進曲は、勿論四方八方から鳴り響く蝉の声・・

 

 

 

('A`)「ミンミンミンミンとうるせぇなぁ・・・・」

 

 

 

ところでまだ、自宅から500メートルほどしか離れていない。
最終目的地であるおじさんの家まで、ずっと徒歩だったら何日かかるかわからないだろう。
だが、移動手段は公的機関を使わないと自分でルールを作ってしまった。

 

とすれば、アレしかないわけで。

 

 

6 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 00:34:48 ID: yVPKvvZq0

('A`)「着いた」

大通りから少し外れたところに最初の目的地はあった。
幼少のころからお世話になっている古びた自転車屋だ。

店内は薄暗く、奥の方からテレビの音が聞こえる

 

('A`)「誰もいないなぁ」

('A`)「こんにちわー。ドクオですがぁー・・・」

 

よっこらしょ

 

(,,゚Д゚)「はいはい」

工務ズボンに肌着一枚という、職業が分かり易い格好をしたおっさんが奥からでてきた。
俺にとっては結構馴染みのある人物だ。確か名前はギコさんだ。

 

 

7 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 00:38:54 ID: yVPKvvZq0

('A`)「ドクオですが、父が頼んでいたやつは整備できましたか?」

(,,゚Д゚)「おー、もうバッチリだよ。これだろ?」

 

おじさんは隅にある自転車に被せてあった布を取り、俺に見せた。
それは、親父が昔使っていたマウンテンバイクだ。シャーシの光沢が、俺にはとても眩しく見えた。
なぜ俺が親父のマウンテンバイクを?その理由はまた後で。

 

('A`)「ああ!これです。ありがとうございます」

(,,゚Д゚)「なんだってこいつを今更整備したんだ?」

(,,゚Д゚)「こいつで、どっか遠くにでかけるのか?」

('A`)「まぁ・・ちょっと、はい」

(,,゚Д゚)「そうか〜・・」

 

 

9 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 00:41:36 ID: yVPKvvZq0

おっさんは、他の自転車を磨きながら一人呟く。

(,,゚Д゚)「若いうちは、なんでもやってみい。俺くらいの年になるとなぁ〜・・
     どこへも行けなくなっちまうんだw」

 

 

 

 

 

('A`)「・・・」

"若いうちはなんでもやれ"
大人が俺たちによく言う台詞だ。今更俺にとって何の意味も重さもない・・・
・・というのは、やはり心に嘘をつきすぎているだろうか?
確実に言えるのは、数日前の俺にとっては大嫌いな言葉だったろうということだ。俺は、何も出来ずにいたから。そんな人間だったから。

 

 

10 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 00:47:21 ID: yVPKvvZq0

おっさんは、自転車のハンドルを撫でながら続ける。

 

(,,゚Д゚)「ドクオくんはなぁ〜・・、このマウンテンバイクで、今からどこへでも、どこまでも行けるんだ。

     ・・なぜだと思う?

      若いからだよwww」

 

 

 

(,,゚Д゚)「おっさんは思うんだけどねぇ〜。若いってのは、それだけでもう素晴らしいんだ。若さ故の特別な力ってのがあるんだよ。
     絶対、持て余しちゃいけないよ。」

 

 

('A`)「・・・」

 

 

11 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 00:49:18 ID: yVPKvvZq0

おっさんの言葉は妙だ。
正しいことを言っているような、だけど、物凄く使い古されてきた言葉を、また使っているような・・

それにしても、"若い"ということはそんなに特別だろうか?
誰もが手にすることができるものなのに、そんな価値があるものだろうか?
・・これはきっとあれだ。しょうがないんだ。俺はまだ17年しか生きていないから、分からないだけなのかもしれない。

 

"無くなって初めて気付く大切さ"というやつを

 

俺は、無言の内に親父から手渡された整備の料金をおっさんに手渡した。
おっさんの手は、大きくてザラザラしていた。おっさんは喋り続ける。

 

 

(,,゚Д゚)「おっさんがドクオくんぐらいの頃はなぁ〜・・」

 

 

13 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 00:52:46 ID: yVPKvvZq0

(,,゚Д゚)「いや、やめておこうww すまんすまん」

(,,゚Д゚)「じゃ、良い旅を!」

 

 

 

 

('A`)「・・!」

俺は何も言ってないのに、おっさんは俺が旅をすることを見抜いていたようだ。
ま、この荷物を見れば誰でもわかるか・・。

 

('A`)「・・なんでもやれ・・ってかあ」

('A`)「若さかぁ・・」

('A`)「・・良い旅・・・・」

(,,゚Д゚)「おいおいwどうしたんだドクオくん」

 

14 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 00:54:30 ID: yVPKvvZq0

俺は、自転車を入口まで運び、おっさんに背中を向けて、そこで初めて口を開くことができた。

('A`)「・・・おっさん、俺、自信ねぇ」
しかし、口にする言葉は弱音だった。

 

 

 

 

(,,゚Д゚)「・・・・」

二人の間に、ちょっとの沈黙が流れていた。
俺はハンドルを握りながら、ただぼーっと空を眺めていた。おっさんは、「ふーむ」とか、「むぅ」とか呟いていた。

 

15 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 00:56:29 ID: yVPKvvZq0

二人の間に、ちょっとの沈黙が流れていた。
俺はハンドルを握りながら、ただぼーっと空を眺めていた。おっさんは、「ふーむ」とか、「むぅ」とか呟いていた。

そして、俺がサドルに乗りかけた瞬間だった。
おっさんは「うむ!」と納得したような声を発した。俺は気だるそうに後ろを振り向く。

 

 

(,,゚Д゚)「気弱になってるみたいだなぁドクオくんww」

 

 

16 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 00:58:35 ID: yVPKvvZq0

(,,゚Д゚)「あれは君が五歳くらいのときかなぁ・・。
     おっさんと、君のお父さんと、ドクオくんで、補助輪なしで自転車に乗る練習をしたのは覚えてるか?河川敷で」

('A`)「んーー・・」

('A`)「おぼろげながら」

 

(,,゚Д゚)「おっさんが後ろを掴んでいたと思って、本当は一人で乗れていたなあw」

('A`)「・・まあ、そうやって覚えるものですからね」

('A`)「・・それで?」

 

(,,゚Д゚)「あのとき、自分はどこまでも行けるんだ!みたいな感覚にはならなかったかい?」

('A`)「・・なりましたね」

 

20 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 01:05:17 ID: yVPKvvZq0

(,,゚Д゚)「・・そうだよ!その感じなんだよww」

 

 

(,,゚Д゚)「あのときの気持ちを思い出してほしんだ。"自分はなんでもできる!"っていう気持ちをね。地球は自分を中心に回っているのだと信じて疑わないようなww」

 

 

 

(,,゚Д゚)「・・・それを心に留めておけば、その自転車はきっとどこまでも走り続けると思うよ」

 

21 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 01:09:18 ID: yVPKvvZq0

素直に嬉しい。
だから、目頭が熱くなる。もう、駄目だ。おっさんの方を向いていられない。
しかし、言う事は言わなければならない。

 

 

( A )「・・ありがとうございました。それじゃ・・」

 

 

 

精一杯の言葉だ。
そして、俺はおっさんに感謝と別れを告げた。おっさんは「いいんだよいいんだよ」みたいな、満足気な顔をしていた。
再びサドルに乗り、ペダルを漕ぎ出すと、澄んだ風が体に当たるのを久方ぶりに感じた。やはりママチャリとは全然違う。軽い。
・・・後ろからギコさんが「ぐっどらっくぅーーーwww」と叫んで見送るのが分かる。でも後ろは振り向いてはいけない。

 

22 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 01:10:28 ID: yVPKvvZq0

自転車屋との距離がどんどん、どんどん開いていく。

 

 

 

おっさん。

俺は、どこまでも行けるような気がするよ。

 

 

24 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/07/28(土) 01:15:47 ID: yVPKvvZq0

"たくさんの人との出会い"・・・なんて、実際はそう簡単にいかないと思っていた。
でも違う。案外、簡単だった。

人は、生きていく以上、誰かと必ず関わる。

それは、ただすれ違ったり、一、二言言葉を交し合うだけのことかもしれない。

でも、"旅"という行為の上では、その全てが日常の何十倍も意味あるものに変化することに気付いた。

ただ、自転車を取りにいっただけのことなのに

俺の心は、何かでもういっぱいになっている。いっぱいいっぱいだ。

自宅から、まだわずか500メートル。
俺があの自転車屋に居た数十分間は、この旅において既にかなりの意味を持つ時間だった。

・・なんだか、前途多難だなぁ

でもよ、

ありがとう。おっさん。

(旅心編 おわり)

 

 

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