338 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:06:52.12 ID: K49nFN8m0
朝。
('A`)「…むにゃ」
俺は立て掛けの時計を見た。
('A`)「10時だってさ…」
また自宅に戻ってきたことで、生活リズムが戻ってしまったのか。
それとも、余りにも疲れていたから、こんな時間まで寝てしまったのか。
('A`)(後者だと信じたいね)
重い体を起こす。べたべたになった髪の毛が気持ち悪い。
343 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:09:04.15 ID: K49nFN8m0
かーちゃんは庭いじり。
親父は仕事。
叔父さんは… 早朝に帰ったか。
なんてことないただの1日が、ただの休日が、普通の日々が、
また始まろうとしていた。
('A`)(だからどーしたってんだよ)
まだ眠たい体を引き摺り、俺は自室へと向かう。
349 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:12:58.61 ID: K49nFN8m0
ドアノブを引いて、俺は驚愕する。
あんなに小汚かった部屋が、綺麗さっぱりとしているのだ。
白いカーテンが風に揺れ、俺は涼しさを感じる。
('A`)「かーちゃん、俺がいない間掃除してくれてたんだな」
久しぶりに自分のベッドに寝転がってみる。
ああ、やはりこの感じだ。
何だかんだで自分のベッドが1番だ…
('A`)(ま、寝袋も悪くはないぜ)
357 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:15:48.22 ID: K49nFN8m0
机の上には、課題のテキストが積み重ねられている。
('A`)「うわあああ……」
('A`)「でもまあ、間に合わなくても一つずつやっていこうか」
以前の俺なら、面倒だから投げていたところだが、
不思議と今はやる気があった。
('A`)「ん?」
('A`)「なんだろうこの画用紙は」
361 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:19:58.92 ID: K49nFN8m0
('A`)「…」
('A`)「あっ!」
昨日のことなのに、すっかり忘れていた自分を憎んだ。
これは、ヘリカルからもらった絵。
家に帰ってからの楽しみと思って、ずっと見ていなかったのだが、
昨夜はすぐに寝てしまった――
('A`)「よし… 見てみよう」
絵は、色鉛筆で描かれていた。あまり力強くないタッチが、優しげだ。
('A`)「この真ん中の自転車に乗ってるのが、ヘリカルだな」
('A`)「髭を生やしてるのが叔父さん。口紅つけてるのがしぃさん」
('A`)「店の3人はなんだか手抜きだなーww …で俺は」
367 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:21:26.49 ID: K49nFN8m0
('A`)「おや、随分優しい笑顔だな」
初対面のときは、「幽霊みたい」と言われたのに。
随分イメージアップしたもんだな としみじみ思ってしまう。
( A )「みんな――――」
379 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:27:42.95 ID: K49nFN8m0
(*゚ー゚)「約束なのよね。お父さんと…」
(´・ω・`) 「……今度会うとき、俺の酒飲ませてやるって、約束したんだ」
*(‘‘)*「帰ってくる! だって… やくそくだもん!」
―――――――
海が見える町で出会った、暖かい人たち。
人って、色んな「約束」が重なり合って、繋がって、毎日を暮らしてるんだと思った。
俺も… この旅で沢山の人と「約束」をした。
…守れるかな。
387 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:30:19.26 ID: K49nFN8m0
('A`)「よし! この絵は貼っておこう」
俺は引き出しから画鋲を取りだし、ヘリカルの絵を壁に貼りつけた。
シンプルな部屋の中で、この絵だけが一際目立って実にいい感じである。
('A`)「ふふっ……」
(;'A`)「それじゃ、課題… 頑張るかな」
393 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:33:10.03 ID: K49nFN8m0
*
*
*
残りカスみたいな夏休みは、あっという間に過ぎていった。
朝から晩まで机に噛り付くような毎日。
何度も投げ出しそうになったが、棚に丁寧に並べた”おみやげ”を眺めると、
不思議とまだ頑張れるのであった。
('A`)(明日は始業式か……)
412 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:37:12.60 ID: K49nFN8m0
※
J( 'ー`)し「おはよう。ドクオ」
('A`)「…ああ」
(,,'A`)「なんだあ!? 今日から学校で憂鬱か!? ははは」
('A`)「…ああ」
J( 'ー`)し「いいじゃないの、旅も無事終えれたんだし」
J( 'ー`)し「課題も、大分終わったんでしょ?」
('A`)「…ああ」
ああ、ああ って。俺はコミュニケーション下手な引き篭もりか。
…だけど、なんだろう。
このモヤモヤした感情は。
418 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:43:18.28 ID: K49nFN8m0
また、どうしようもない男が過ごす、どうしようもない学校生活が始まっていく。
学校では、俺を変わらず馬鹿にするヤツらが待っているだろう。
講習をさぼって、教師たちの俺を見る視線は痛いだろう。
教室に溢れかえるのは、”この夏をどれだけ楽しんだか”ってアピール合戦。
誰とエッチしただの。誰とお祭りにいっただの。何のライブに行っただの。
上から見下すつもりはない。羨ましがる必要もない。
ただ、そんな雰囲気の中、黙って、ただ机に突っ伏せる自分を想像したら、
また、単なる空気へと変わってしまう自分を想像したら、やるせない気持ちになる。
夏休み前の自分に、不可抗力で戻されるのが、
どうしようもなく、恐い。
426 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:46:02.03 ID: K49nFN8m0
俺は、部屋で学校へ行く準備をしていた。
訳の分からない一人言を呟きながら。
('A`)「俺さー… 旅に出たんだ」
('A`)「それで… キャッチボールとかして」
('A`)「ああだめだめ」
('A`)「可愛い女の子とお祭りに行って…」
('A`)「うーん…」
('A`)(…学校行きたくない)
435 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:50:54.00 ID: K49nFN8m0
鞄を放り投げて、布団被って眠りたいとすら考えた。
('A`)「ちくしょー!」
枕を壁に叩きつける。
すると、その振動で棚からとあるものが落ちた。
('A`)「これは…」
('A`)「内藤からもらったボール」
('A`)「内藤… 俺に勇気、分けてくれよ」
441 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:53:49.34 ID: K49nFN8m0
( ^ω^) 「ドクオ!!!」
( ^ω^) 「なぁに腐った顔してんだお!」
( ^ω^) 「おまえは、僕を強くさせてくれたお!」
( ^ω^) 「そしておまえも、強くなったんだお」
( ^ω^) 「夢中になれること…」
( ^ω^) 「そんなもん、簡単に見つかる方がおかしいんだお」
( ^ω^) 「でも、外に出なきゃ… 何も、変わらないんだお」
( ^ω^) 「このままじゃ… ダメだおっ」
ボール越しに、聞こえてくる。
あの日、あの時の、友の声が――――
('A`)「内藤っ…」
450 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 03:00:37.23 ID: K49nFN8m0
※
内藤のおかげで、俺はなんとか家を出ることが出来た。
しかし、次なる関門が待ちうける。
('A`)「うっ…」
朝日も、今日だけは刺々しい。
嫌だ、家に戻りたい。
だがしかし、俺は、車庫のシャッターを持ち上げる。
旅を共にした自転車が出迎えた。
久しぶりにそのスマートな車体を見て、俺は夏休みのことを思い出す。
('A`)「ああ… 余計に行きたくなくなったよ」
その時、車庫に一陣の風が吹く。
ハンドルに括りつけた黄色いリボンが、ふわっと、浮いた。
453 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 03:04:48.12 ID: SspcwwI00
ξ゚听)ξ「どうしたの? そんなにくたびれて」
ξ゚听)ξ「ドクオ、私を乗せて、あの下り坂走ってくれたじゃない」
ξ゚听)ξ「学校までの数百メートルだって、どうってことないでしょ?」
ξ゚听)ξ「君は、大人だよ」
ξ゚听)ξ「学校のやつらになんか負けない。大丈夫」
ξ゚听)ξ「私が、保障する―――」
('A`)「ツン……」
俺は、自転車を家の前まで持っていった。
あとは、これに乗って、ただ真っ直ぐ漕ぐだけ。
漕ぐだけ………
457 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 03:08:21.38 ID: SspcwwI00
俺はハンドルを握り、瞳を閉じる。
そして、旅先で出会った人々の顔、顔を思い浮かべた。
―――よし、行ける。
俺は、もう前までの俺じゃない。
自信を持っていくんだ、俺は、あの旅で、変われたんだと。
もう、ダメな人間じゃない。
…瞳を、開いた。
464 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 03:13:05.44 ID: SspcwwI00
('A`)「……!!!」
するとどうだろう。
目の前から向こうの角にかけて、ひたすら真っ直ぐに伸びていく通学路。
通学路? いや違う。
俺の目には、人生という大きな大きな旅路の、第一コースに見えたんだ。
夏の旅なんて、ちゃちなものじゃない。
人は皆、旅をしているのだ。
それぞれの答えに向かって。それぞれの世界に向かって。
内藤も、ツンも、アニーも、叔父さんも――――
471 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 03:17:31.71 ID: SspcwwI00
('A`)「分かった… あのメール…」
俺の胸に、”自信”という2文字がぐんぐんと沸いてきた。
どんなに辛いことがあっても、悲しいことがあっても、
頑張れそうな気がする。踏ん張れそうな気がする。
俺は、ニッとはにかんで、揚々とペダルを漕いだ。
自転車はぐんぐん加速していく。軽い。あの感じが戻ってくる。
半身を照らす朝陽を、今度は味方につけて、
自転車は、進んでいく。
ただまっすぐに、進んでいく。
476 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 03:22:35.10 ID: SspcwwI00
俺は今から、
旅に出ます。
人生という、長い、長い旅です。
探してください。
自分の探し方を、沢山の”素敵”を、
夏の旅で―――――――――――