138 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:51:07.62 ID: q29Wzvgm0

夜が明けた。
町はまた新しい朝を一つ迎える。
そして俺は、この町に別れを今日告げる。

 

('A`)「ん… んー…」

眠たい瞳をこじ開けて、俺は上体を起こした。
背伸びをすると、部屋に誰もいないことに気付く。

('A`)「あれ?」

('A`)「みんなもう起きてるのか?」

枕元の時計を見てみる。8時だ。
確かにいつもより遅く起きてしまったかもしれない。

 

 

144 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:55:19.83 ID: q29Wzvgm0
俺は着替えをして、仕度を整える。
荷造りは昨日のうちに粗方済ませたつもりだ。
顔を洗い… 歯を磨き… そんなことはどうでもいいか。

下へ降りる。
だがしかし、そこにも誰もいなかった。

 

('A`)「みなさんおはよ――」

('A`)「あれ? …いないや」

 

ドアが開いていた。
店の入り口から、朝の陽が射し込む。
その中、薄っすらと人の姿が見える。ヘリカルだ。
彼女は俺を手招いていた。

 

 

146 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:59:03.57 ID: q29Wzvgm0
*(‘‘)*「ドクオー! こっち、こっち!」

('A`)「あ、ああ…」

奥の先に一先ず置いといた大リュックを背負い、
俺は店先へと駆けた。
起き始めた太陽と、店のみんなが俺を出迎えていた。

 

(*゚ー゚)「おはよ、ドクオくん」

( ゚∀゚)「おはようっす!」

('A`)「お…おはようございます」

 

 

147 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:59:42.59 ID: q29Wzvgm0
トレーナー姿の叔父さんが、寝癖の髪を撫で付けて呟いた。

(´・ω・`) 「みんなでお前を送ろうと思ってな」

(´・ω・`) 「早起きしたんだよ… むにゃ」

('A`)「あ、ありがとうございます」

( ゚∀゚)「ドクオくん!!!」

*(‘‘)*「ドクオーー!!!」

( ><)「ドクオくぅ〜ん!!」

(*゚ー゚)「こらこら、順番順番」

 

 

154 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:00:52.96 ID: hhYFWt6C0
(*><)「ドクオくん、短い間だったけど」

「どいてっす!」

( ><)「ふぎゃ!」

我先にと出てきたのは、長岡さんだった。
昨日のように泣き顔ではない。
何かを決心したかのように、精悍な顔つきをしていた。

 

( ゚∀゚)「ドクオくん!」

( ゚∀゚)b「ぜぇぇったいまた戻ってくるっすよ!」

(*゚∀゚)「今度はちゃんと店開けてるっすから………」

('A`)「はい!」

 

 

158 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:03:44.91 ID: hhYFWt6C0
(*><)「短い間だったけど、僕は君みたいな…」

「おっととと」

( ><)「むぎゅ!」

次に俺の前に踊り出たのは杉浦さんだった。
杉浦さんはまたいつものように、眼鏡の縁をクイッとさせて、
俺に話しかける。

 

( ФωФ)「君は、まるで一冊の青春小説のようだった」

( ФωФ)「…いつでも我が家に戻ってきてくださいね」

('A`)「は、はい」

 

 

163 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:07:06.31 ID: hhYFWt6C0
( ><)「君みたいな素晴らしい高校生に出会えて…」

「ちょっといい?」

( ><)「うひゃあ!」

続けてしぃさんも顔を出す。
化粧をしていないのに美人に見えるのは、朝日の眩しさの性だろうか。
長く茶色い髪の毛が綺麗だ。

(*゚ー゚)「色々、あなたには世話になったわ……」

(*゚ー゚)「あんたなら、きっといい大人になれる。保障するわ」

(*゚ー゚)「少なくともあそこにいるロクデナシよりは… ね♪」

(´・ω・`) 「だぁれがロクデナシだよ」

('A`)(いい大人…か)

 

 

172 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:11:01.77 ID: hhYFWt6C0
(*><)「まだまだ日本も捨てたもんじゃないなって…僕…」

「はいはい、どいたどいたぁああ!!!」

( ><)「うにゃ!」

ビロードさんを突き飛ばして、
御待ちかねといったようにヘリカルが飛び出してくる。
手には、何か紙が握られていた。

 

*(‘‘)*「ぜったいまたこいよドクオ!」

*(‘‘)*「こなきゃゆるさないからなーー!!!」

*(‘‘)*「おしりぺんぺんだ!」

('A`)「それは恐い。行くさ。絶対また来る。」

 

*(‘‘)*「…うん。じゃあ、これ…」

ヘリカルは右手に持っていた紙筒を、俺に手渡した。

 

 

182 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:18:44.61 ID: hhYFWt6C0
*(‘‘)*「きのう、ご飯たべたあとかいたの!」

*(‘‘)*「ドクオがお父さんを連れてきてくれたから、」

*(‘‘)*「……アタシ、じてんしゃのれるようになったんだよね!」

*(‘‘)*「ドクオのこと、だいすき!!!!」

('A`)「…」

 

 

画用紙特有のざらざらした感触が、俺の左手を包んだ。 
ヘリカルはよほどしっかり持っていたのだろう。紙は少し温かい。
これは、彼女の温もりだな。

 

俺はこの場で絵を広げたくなる気持ちをぐっと抑え、
その代わり… ヘリカルを思いきってぎゅっと抱きしめてみた。

 

 

184 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:19:52.85 ID: hhYFWt6C0

*(‘‘)*「わっ、わわわっ」

*(‘‘)*「はずかしいぞドクオ! はなせっ!」

(*゚ー゚)「ふふっ。口では嫌がってるのになんだか楽しそうねヘリカル」

(´・ω・`) 「やーいロリコン」

 

力一杯抱きしめたあと、段々と力を抜いていき、そして離した。
ヘリカルがまた泣きそうになっているのに気が付いた。
鼻の頭が赤くなっている。

 

('A`)「泣いたらもうここには来ないぞ〜」

*(‘‘)*「!! な、泣かないもんっ!!!」

 

 

191 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:23:47.84 ID: hhYFWt6C0
( ><)「……」

 

(;'A`)(あ、ビロードさん)

 

( ;;)「僕から言うことは、もはやないんです!!!!!!!!」

( ;;)「うわああああ―――――――!!!!!」

 

ガシイイイイッ!!!

 

 

今度は逆に、俺がビロードさんの熱すぎる抱擁を食らったわけだが。

 

 

196 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:27:45.63 ID: hhYFWt6C0
(;'A`)「わっ、ちょっ」

( ><)「ドクオくーん! ドクオくーん!」

(´・ω・`) 「やーいホモ助ー」

 

( ><)「……」

 

一思いに抱きついた後、ビロードさんはすばやく手を離した。
そして空を指差しこう叫ぶ。

( ><)「今日は、新たなる旅立ちの日なんです――!!!!」

( ゚∀゚)*(‘‘)*「いぇーい!!!」

 

197 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:28:29.76 ID: hhYFWt6C0
('A`)「新たなる旅立ち… ですか」

('A`)「皆さん、本当にありがとうございます!」

「というわけで乗ってくれよ」

('A`)「はい!」

('A`)「…って、え?」

 

 

気が付くと、目の前には白い軽トラックが停まっていた。
叔父さんがウィンドーから、白い煙を吐いている。

荷台には、俺の自転車が丁寧に固定されて積まれてあった。

 

 

201 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:31:06.62 ID: hhYFWt6C0
(´・ω・`) 「帰りも自転車で帰ったら」

(´・ω・`) 「何日かかるか、わっかんねぇだろ〜」

(´・ω・`) 「兄貴に学校のことでとやかく言われるの嫌だしな」

(´・ω・`) 「まあ、これが最善だと思ってさ」

カーステレオから流れてくるラジオが、こちらまで聞こえてくる。
確かに…… 帰り道も何が起こるかわからないし、
ここは善意にあやかったほうが…

('A`)「い、いいんですか?」

 

(´・ω・`) 「ああ。責任持っておまえを送り届けてやるよ」

(´・ω・`) (あん時のお礼も込めてな)

 

 

206 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:33:19.84 ID: hhYFWt6C0
俺は最後に、もう一度だけみんなと握手をした。

そして、トラックに乗り込む前に後ろを振り返る。
「しょぼくれ酒場」という看板が、太陽に反射して、キラキラ光って見えた。
俺の目には、それがなんだかとても頼もしく見える。

 

悩みを持っている人や、

元気がない人たちが何故か集まる居酒屋。

 

 

('A`)(なんか嫌なことがあったら、来てみよう)

('A`)(その時この店は、必ず俺に元気をくれる… はず)

 

209 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:37:19.37 ID: hhYFWt6C0
(´・ω・`) 「それじゃ、行こうか」

俺は固いシートに腰を下ろす。
煙たい空気の中、シートベルトを締めると、最後の言葉が聞こえてきた。

 

( ゚∀゚)「さよならっすー!!!」

*(‘‘)*「またねーー!!」

( ФωФ)「お元気でー」

(*゚ー゚)「しっかりご飯食べなよ!」

( ><)「ばいばーーい!」

 

 

210 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:38:11.67 ID: hhYFWt6C0

俺も窓から首を出し、
皆へと向かって叫ぶ。

('A`)「はいー! みなさんも、お元気で!!!」

 

 

 

 

言葉が途切れた瞬間、トラックは走り出した。
勿論、見えなくなるまで俺は手を振り続けた。

 

 

217 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:40:40.65 ID: hhYFWt6C0

どこか未訪地へと足を運ぶ場合。

行きは長く感じるが、帰りは短く感じる。
それは、人間の脳の構造による、至極当たり前のことらしい。

行きは全てが初めて見る景色ばかりだ。
だから脳がそれらを記憶として残そうとするため、長く感じる。
しかし帰りは、既に見てしまった景色ばかりだから、行きよりも脳が働かずに早く感じる。

 

 

 

('A`)(早い… 早いなあ)

('A`)(もう、海を見たときのトンネルかぁ)

 

219 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:43:30.60 ID: hhYFWt6C0
赤信号で、トラックが止まった。
叔父さんは後ろからバスケットを取りだし、俺に差し出す。

 

(´・ω・`) 「しぃが朝早くに起きて作ってくれたんだ」

(´・ω・`) 「朝飯代わりだ。食え」

蓋を開けた瞬間、海苔の良い匂いが車内に広がる。
中には数個のおにぎりが入っていた。

 

('A`)「あ、ありがとうございます……」

(´・ω・`) 「…」

 

224 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:47:11.52 ID: hhYFWt6C0
(´・ω・`) 「それにしてもだ」

(´・ω・`) 「痛かったぜ。おまえのパンチ」

赤信号に退屈した叔父さんの口から、予期せぬ一言が出た。
すっかり忘れたものだと思っていたのに。

(;'A`)「す、すいません!」

(;'A`)「俺、馬鹿で、ついついあんときは感情的になってしまって…」

(;'A`)「…」

 

「いや、いいんだ」

 

 

225 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:49:23.91 ID: hhYFWt6C0
(´・ω・`) 「月並みな表現をするとすれば」

(´・ω・`) 「あの一発で目が覚めた… というか」

(´・ω・`) 「ふんっ」

('A`)「…」

俺は右手をグーの形にしてみる。
叔父さんの頬を殴ったあの感触は、もう無い。

 

(´・ω・`) 「本当に守るべき約束がなんなのか分かったのさ」

(´・ω・`) 「…ありがとよ、ドク坊」

その一言と共に、
タイミングよく信号は青に変わった。

 

 

228 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:52:20.29 ID: hhYFWt6C0
トラックはどんどん進んでいく。
叔父さんの話では、夕方の頃には着けるそうだ。

あの道、この道

 

自転車で俺は、走ったんだなあ…

 

自分で自分が、なんだか信じられなかった。
4日前の自分が、5日前の自分が、6日前の自分が―――

 

 

ウィンドーの外。次々と切り替わっていく風景に、居たなんて。

 

 

231 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:55:08.64 ID: hhYFWt6C0
('A`)(信じられねえよ)

('A`)(ほんとに、信じられねえ)

('A`)(俺、この夏までろくすっぽ住んでる町から出られなかったんだぜ)

('A`)(…)

 

 

高速を抜けると、
アニーと共に写真の場所を探しまわった町に出た。

 

232 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:55:54.30 ID: hhYFWt6C0
( ´_ゝ`)「ドクオ、さがすの、てつだってくれるのか?」

( ´_ゝ`)「オットーはわすれてなんかいなかった ココロにちゃんとうつしていたんだ」

( ´_ゝ`)「すばらしいスマイルだ」

―――――

 

 

アニーが探していた場所はもうここには無かった。
だけど、彼はその場所は心の中にあると言った。

 

形として残すのではなく、心に残すことを彼は教えてくれた。

 

 

238 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 00:59:09.60 ID: hhYFWt6C0
(´・ω・`) 「お、サロン県に入ったぞ」

その言葉を聞き、俺の腹が鳴る。
時刻は既にお昼を過ぎていた。

(´・ω・`) 「そこのドライブインで何か食べていこうか」

('A`)「あ、はい」

 

ドライブインか。アニーと初めて出会った場所。
俺は移動中の有り余る時間で、旅の思い出にどっぷり浸かっていた。

 

('A`)(挙動不審ですごい目立ってたんだよなー。ふふっ)

 

243 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:02:51.35 ID: hhYFWt6C0

ドライブインの食堂で、叔父さんは俺に尋ねる。

(´・ω・`) 「おまえさー… 旅での1番の思い出って何よ」

('A`)「思い出っすか? 1番っすか?」

(´・ω・`) 「ああ」

 

('A`)「んー…」

('A`)「んー…」

('A`)「んん〜…」

 

('A`)「決められないっすね」

 

 

244 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:03:17.86 ID: hhYFWt6C0
(´・ω・`) 「…そっか」

('A`)「…はい」

食堂に限らず、車内での会話も終始こんな感じだった。
なんというか、淡々としているんだよな。叔父さんとの会話は。

 

 

 

―――食事を終え、トラックは再び走り出す。

 

 

247 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:04:25.16 ID: K49nFN8m0
道をひたすらに南へ。
恐ろしいほどに変わりゆく町の風景。
でも、全部一度見たときがあるのが誇らしいと自分で思った。
道路沿いに自分が寝泊まりした公園なんかがあると、それはそれは堪らない気持ちになる。

 

(´・ω・`) 「なんだ、急だなー」

('A`)「ここは……」

 

 

 

 

ツンと別れた、坂道じゃないか。

 

250 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:08:10.21 ID: K49nFN8m0
ξ;听)ξ「おまえみたいな、自由に好き勝手なことやってる奴、大嫌いなんだよ!!

ξ;- )ξ「私もね…、うっ、ときどき、自分で自分が何やってんのか分からなくなるのよ!!!!」

ξ; )ξ「………ここにいるから……」

 

 

―――――――

彼女は俺と似ていた。
自分に大きな大きなコンプレックスを抱いていたんだ。
だから制御できなくて、周りに当たっていた。

 

 

…彼女の笑い顔を見たとき、「もう死んでもいいや」って、思った。

 

 

257 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:11:40.46 ID: K49nFN8m0
(´・ω・`) 「ここらへんは結構、街っぽいよね」

('A`)「はい」

 

ウインドー越しに見える景色と、そこを自転車で走っていた俺がリンクする。
ツンと一緒に行った商店街、ここでお祭りをやっていたんだっけ。
その後神社に行って…

 

 

その時見せた彼女の泣き顔は、今でも忘れられないさ。

 

 

258 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:14:12.50 ID: K49nFN8m0

思い出に浸っていると、時間を忘れる。

思う存分浸ったかと思うと、
また次の風景が待ち受けるからだ。

 

(´・ω・`) 「おお、今度は田舎っぽくなってきた」

(´・ω・`) 「つーか、今までで1番田舎っぺだなこりゃ」

 

 

 

店やビルは姿を消し、
見渡す限りの田園風景がそこには広がっていた。
稲穂が風に仲良く揺れている。

 

 

262 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:17:01.55 ID: K49nFN8m0

遠目に、何やら見覚えのある看板が見える。
あれは――――

 

('A`)「ブンブン軒だ!」

(´・ω・`) 「なんだそこ?」

(;'A`)「あ、いや。 旅先で立ち寄った定食屋です」

(´・ω・`) 「へえ、よく覚えてるな」

(´・ω・`) 「でもまあ、俺の居酒屋のほうが美味かっただろう? ははっ」

 

('A`)(…内藤)

 

266 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:19:07.41 ID: K49nFN8m0
(  ω )「・・・・・・・・・・死ぬ気でやっても、追いつけないから…
       困ってんだおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

( ^ω^)「内藤選手!見事なファインプレイ!!試合終了ですwww」

( ^ω^)「今、ドクオは・・   
       ”一生懸命になれることを探すこと”に・・・、一生懸命に、夢中になってるんだお」

―――――

 

内藤には、夢中になれるものがあった。
野球という一つの事に全てを注ぎ込んでいた。
その瞳は何より純粋で、俺はそんな彼の姿が堪らなく羨ましかった。

 

 

いつか、あいつみたいな生き方を必ず見つけたいと思う。

 

 

274 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:22:15.03 ID: K49nFN8m0

( A )「……」

 

何時の間にか俺は寝てしまっていた。
思い出に深く浸かりすぎて、眠りの世界に引き摺り込まれたといった感じか。
そして、気がつき目を覚ました頃には、
辺りは薄暗くなっていた。

 

('A`)「あの…、ここ、どこでしょうかね」

(´・ω・`) 「ふぁああ… もうすぐVIP県さ」

 

自動車という乗り物は偉大だ。
俺が何日もかけて進んだ道を、1日で走破してしまう。

 

 

278 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:25:22.77 ID: K49nFN8m0
(´・ω・`) 「なんだ、この辺りはやけに公園が多いな」

(´・ω・`) 「そういえば、野宿とかってしたんか?」

('A`)「ええ、もうバリバリですよ」

 

 

旅に出て、ありとあらゆる公園で寝止まりをしたもんだ。
野宿はいい。暑苦しいけど、予想外にいいものだった。
地球の丸さを、感じられるんだ。

 

そして、俺が安全に野宿ライフを満喫できたのは―――――

 

('A`)(ウホッ、いい男)

 

286 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:29:14.24 ID: K49nFN8m0
N| "゚'` {"゚`lリ「やらないか」

N| "゚'` {"゚`lリ「君は旅人として失格だ」

N| "゚'` {"゚`lリ「出会う人はいい人ばかりじゃない。
         俺みたいなホモもいれば、お金を盗む悪いやつだっているのさ」

―――――

阿部さん。

阿部さんは俺を”旅人”にさせてくれた人だ。
出会う人はいい人ばかりじゃない―――  うん。
まあ、八割方いい人だったけど、言ってることは正しかったな。

 

別れるときに貰った公園リスト、多分死ぬまで持ち続けると思う。

 

 

290 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:32:59.36 ID: K49nFN8m0
日が暮れる頃、トラックはVIP県入りした。
叔父さんの計算は少しズレていたようで、完全に帰宅できるのは恐らく22時頃。

 

('A`)「ああ〜、着いちゃうのか。遂に…」

(´・ω・`) 「途中、ホームシックとかにはならなかったのかい」

('A`)「ホームシックっすか…」

 

本当に時々だけど、野宿してるとき、
お月様がカーチャンに見えたときがある。

 

 

(*'A`)(なぁんて言えないよなあ)

 

 

296 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:36:28.16 ID: K49nFN8m0
風景が、実に見慣れた画へと変化していく。
それを見て、俺は凄まじいほどに懐かしい気分になる。

('A`)(…帰ってきた。帰ってきたんだ)

 

 

帰宅して、英雄として崇められるわけではない。
何か楽しいことが待っているわけではない。
何一つ偉いことなんかしてない。

 

だが、俺の心は不思議と昂ぶっていた。

 

 

297 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:37:17.11 ID: K49nFN8m0

とうとうトラックは、俺の街に入る。
ここからならもう歩いてでも帰れる、という所まで辿り着いていた。

得体のしれない気持ちが、俺の胸をキュンキュンと締め付けていた。

(´・ω・`) 「どこで下ろせばいいんだい?」

('A`)「えと…」

 

 

あと家まで数メートル。
道先に、とある店が見えた。

 

―――「ギコ自転車店」

 

 

301 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:40:43.37 ID: K49nFN8m0
(,,゚Д゚)「若いうちは、なんでもやってみい。俺くらいの年になるとなぁ〜・・
     どこへも行けなくなっちまうんだ」

(,,゚Д゚)「ドクオくんはなぁ〜・・、このマウンテンバイクで、今からどこへでも、どこまでも行けるんだ。
     ・・なぜだと思う? 若いからだよ」

(,,゚Д゚)「あのときの気持ちを思い出してほしんだ。
     "自分はなんでもできる!"っていう気持ちをね。
     地球は自分を中心に回っているのだと信じて疑わないような」

――――

旅の始まりは、おっさんの店に行ったのが最初だっけ。
旅を終えた今、思い返してみる。あのおっさん、中々深いこと言ってたんだなあ…

事実、俺はこのマウンテンバイクでどこへでもいけた。どこまでも、行けた。

 

 

途中壊されたりもしたけど、調子すんげぇ良かったぜ。おっさん。

 

304 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:44:00.09 ID: K49nFN8m0
J( 'ー`)し(まだかしらねー… ああ、心配!)

結局、家の前まで俺は送ってもらった。
トラックを下りると、俺は故郷の空気を目一杯に吸い込んだ。
旅に出て気がついたことが一つ、その町によって空気の味って違うんだ。かなり。

 

玄関では、かーちゃんが迎えに来ていた。

 

 

 

 

 

J( 'ー`)し(あっ!!)

 

 

306 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:44:43.60 ID: K49nFN8m0
リュックを重たげに降ろす。
俺はわざと、かなり疲れたかのように呟いた。

 

('A`)「ただいまっ」

 

J( 'ー`)し「おかえり!! かーちゃん、アンタのことずーっとずーっと…」

('A`)「心配してたんだよぉ! ってか?」

J( 'ー`)し「そうよ!!」

 

(´・ω・`) 「おばんですー」

J( 'ー`)し「ショボンさん!」

 

 

309 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:48:06.64 ID: K49nFN8m0
かーちゃんは叔父さんに、何度もぺこぺこと頭を下げる。
叔父さんは苦笑いをしながら、いつものように寝癖頭を掻き毟っていた。
基本的に、あの人は褒められるのに慣れていないんだな。

J( 'ー`)し「今からまた何時間もかけて帰るんですか?」

(´・ω・`) 「ええ」

J( 'ー`)し「今夜は、泊まっていってくださいよ!」

('A`)「!」

(´・ω・`) 「あ、そうですか? じゃあ、ちょっと妻に電話してみますね」

 

叔父さんは徐に携帯電話を取り出した。
…そういえば、俺の携帯のロックは……

 

 

310 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:48:49.69 ID: K49nFN8m0
trrrrr

(´・ω・`) 「あ、もしもし?」

「あ! そろそろ着いた?」

(´・ω・`) 「うん。今まさに」

「良かったあ、無事に着いて」

(´・ω・`) 「俺さあ、兄貴んちに泊まろうかと思う」

「え!? あんた明日も色々と――」

(´・ω・`) 「”ショボンが残暑の旅に出るようです” アディオス!」

「ちょっとまちなさ」

 

 

 

ツーツーツー・・・・

 

 

315 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:52:52.99 ID: K49nFN8m0
(´・ω・`) 「というわけで一晩お世話になります」

J( 'ー`)し「どうぞどうぞ! お上がりください」

(;'A`)(相変わらずだな〜)

 

俺は靴を脱ぎ、久方ぶりに自宅へと足を踏み入れた。
家に帰るまでが遠足。という言い回しがあるが、
俺の場合に適用するとなれば、
家に帰るまでが旅。 だろうか。

 

 

 

だとすれば、俺の旅は今この時を持って、終わったのだ。

 

 

319 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:56:20.72 ID: K49nFN8m0
( A )「長かった…」

( A )「本当に…」

 

階段を上って、自室へと向かう気力などない。
俺は居間へとふらふらと軟着陸し、
リュックを放ってソファーに崩れ落ちた。

「おい! 俺に何一つ言葉をかけずぶっ倒れるたぁどういうことだい」

 

('A`)「親父…?」

(,,'∀`)ニヤリ

目の前には、缶ビールを持って顔を紅潮させた懐かしい顔があった。

 

 

322 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 01:59:23.12 ID: K49nFN8m0
('A`)「いや…」

('A`)「ただ1日中トラックに座ってるというのも」

('A`)「疲れるもんだね」

 

(,,'A`)「いい顔だ」

('A`)「?」

(,,'A`)「いい顔になったよ、おまえ」

「兄貴ー!」

('A`,,)「ん、その声はショボンじゃねーか!」

 

 

324 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:00:09.25 ID: K49nFN8m0
(´・ω・`) 「あんたの息子、無事送り届けたぜ」

(´・ω・`) 「さ、久しぶりに尋ねてきたことだし飲もうや」

(,,'A`)「おうよ!」

 

親父は叔父さんと共に俺の視界から消えていった。

「いい顔になった」

旅から帰ってきた俺に、たったそれだけの言葉を送って去っていった。

…しかし、それで充分すぎると思った。

 

 

331 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/24(土) 02:03:31.04 ID: K49nFN8m0
「ヘリカルちゃん、おっきくなったか?」

「おうよ、すくすく育ってるぜ」

「そういえばおまえ、店をバーにするって話しは…」

「アーアーキコエナーイ」

 

 

( A )「…」

 

俺は眠った。ソファーにもたれて。
泥のように、眠りこけた。
今までの疲れを、全力をかけて癒すかのように――――

 

 

 

 

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