食材が入ったダンボールを運ぶ俺を、
間延びした声が呼ぶ。
「おい、ドク坊」
('A`)「あ… はい」
振り返ると、そこには叔父さんがいた。
いつものように煙草を咥えながら、柱に掛けられたカレンダーを指差している。
16 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:35:59.94 ID: c8QNC6qN0
('A`)「……」
(´・ω・`) 「そろそろなんじゃないか?」
('A`)「はい。そろそろですね」
――カレーを皆で食べた日から早1週間が経っていた。
この1週間は、店をまた開くための準備期間だった。
食材を準備したり、店をぴかぴかに磨きあげたり…
最初はそこにあるのかさえ分からなかった店だった。
しかし皆で体裁を整えれば、こんなにもまともな外観になるのかと、
俺は関心していた。
この1週間、特に新しいことはなく、緩やかに時間は過ぎていった。
旅に出て、そんなにしょっちゅう何かが起こる訳ではない。
今までが異常だったくらいだ。
俺はこの現状に文句は覚えなかった。
20 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:38:51.04 ID: c8QNC6qN0
旅は何時の間にか始まり、何時の間にか静かに終わるものだと思うから。
21 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:39:29.41 ID: c8QNC6qN0
「おっ、このお店また開くのかい?」
( ゚∀゚)「そうなんすよ!」
がららっ
('A`)「俺も、磨くの手伝いますよ」
(゚∀゚ )「ありがたいっす」
タワシを手に取り、ホースから流れる水でそれを濡らす。
流水が、太陽の光りに晒されて綺麗に光っていた。
( ゚∀゚)「いやー、随分ぴかぴかになったっすね!」
('A`)「そうですね…」
( ゚∀゚)「どうしたっす? 元気ないっすよドクオくん!」
('A`)「あ、いや…」
29 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:43:25.38 ID: c8QNC6qN0
( ゚∀゚)「もしかしてもう帰るなんて言わないっすよね?」
('A`)「その…まさかです」
( ゚∀゚)
( ゚∀゚)「またまた冗談きついっすよ!」
(;゚∀゚)「夏休み、まだまだあるっすよね?」
長岡さんが、俺が去るのを惜しむ素振りを見せてくれた。
それだけで、俺は嬉しかったさ。
37 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:47:44.85 ID: c8QNC6qN0
('A`)「おー腰イテ」
俺は空を見上げた。
いつもと変わらない青がそこにはあった。
('A`)(この町ともお別れかあ……)
( ;∀゚)「せっかく友達になれたのに…」
( ;∀゚)「悲しいっす! めっちゃ悲しいっす!」
('A`)「俺もですよ」
少しだけ開いた口から、小さな溜め息が漏れる。
虚しさではない、単純にこの地を離れるのが悲しいな、という感情―――
40 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:50:42.15 ID: c8QNC6qN0
――――
(´・ω・`) 「そろそろなんじゃないか?」
('A`)「はい。そろそろですね」
('A`)(…何がだ?)
(´・ω・`) 「兄貴から電話があったんだ」
('A`)「兄貴? ああ、親父のことですか」
(´・ω・`) 「元気でやっとるか って」
('A`)「わざわざ…」
(´・ω・`) 「ちゃんと元気に過ごしてるって言ったよ
それで、最後にこう言ったんだ」
(,,'A`)(もうすぐ学校始まるからよぉ、そこんとこ知らせといてくれ)
43 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:53:49.02 ID: c8QNC6qN0
('A`)「あ………」
(´・ω・`) 「そもそも、まだ君がここに居るってことに驚いてたぜ」
(´・ω・`) 「とっくに折り返してるもんだと、言っていた」
(´・ω・`) 「出発の予定は立っているのかい?」
(;'A`)「ぜ、全然」
(´・ω・`) 「夏休みの宿題も沢山あるんだろう。高校二年生は大事だからな」
(´・ω・`) 「ヘリカルも、今二階で頑張ってるんだが…」
('A`)「あ、明日出発します」
(´・ω・`) 「…そうかい。悲しくなるな」
――――
48 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:58:16.08 ID: c8QNC6qN0
急に決めすぎたかな。
でも、いいか。これまでだってそうしてきた。
出会いも突然で、別れも突然。それがいいんじゃないか。
実質、夏休みはあと数日しか残っていない。
来週の頭にはもう始業式だ。
…始業式。いきなり現実に戻された気がする。
いや、現実――?
今生きているここだって現実だ。この町は架空の存在ではない。
俺は、全てを生で感じ取った。
俺はこの体一つで今までの体験を受け取ることができたんだ。
('A`)「…」
今更になって俺は考えてみる。
なんで俺はここまで来れたのだろうかと?
50 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:58:54.78 ID: c8QNC6qN0
('A`)「そもそもなんで俺は旅に出たんだっけ?」
( ゚∀゚)「ドクオくん!ドクオくん!」
( ゚∀゚)「ヘリカルちゃんが呼んでるみたいっすよ!」
('A`)「あ、はい。どうもです」
53 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:00:08.80 ID: c8QNC6qN0
俺は店内に再び入った。
杉浦さんは勿論読書、叔父さんは漫画を読みながら煙草をプカプカと。
ビロードさんとしぃさんはいない。
どうやら夏休みの間だけは、海の家のアルバイトを続けるらしい。
二階に上がり、居間へ入る。
ヘリカルがわざとらしく唸りの声をあげながら宿題を解いていた。
*(‘‘)*「うー うー…」
('A`)「どうした?」
*(‘‘)*「おお、来たかドクオっ! まあ、ここ座れよ!」
61 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:03:42.67 ID: q29Wzvgm0
彼女ともだいぶ仲良くなった。
長岡さんやビロードさんと同様に、俺のことを兄のように慕ってくれる。
俺は一人っ子だ。そして、兄弟も必要ないと小さい頃から決めていた。
しかし、中々可愛いもんだな なんて今は思っている。
*(‘‘)*「しゅくだいがおわらないんだよぉ〜、わからないんだよぉ〜」
('A`)「溜め込んでるからだろ」
*(‘‘)*「むぅー… ここ、教えてよ!」
('A`)「虫食い算か… よっしゃ」
66 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:08:17.90 ID: q29Wzvgm0
※
*(‘‘)*「やったー! 算数おわった!」
('A`)(約1ヶ月ぶりに触れた学問が”算数”とは…)
気がつくと、太陽が沈んでいた。
茜色に染められた部屋が、なんだか哀愁を誘った。
そうか、この家とも今日でお別れなんだな。
下の店から声が聞こえてきた。
「ヘリカルー ドク坊ー 夕飯の時間だー」
*(‘‘)*「はーい! ドクオ、行くぞ!」
67 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:09:15.18 ID: q29Wzvgm0
俺達は店に下りた。毎晩のことながらいい匂いが漂ってくる。
今夜は、既にしぃさんとビロードさんも食卓に座っていた。
*(‘‘)*「あ! お母さん、ビロード!」
( ><)「ただいまなんです!」
( ><)「今日は早く帰ってこれたんです!」
(*゚ー゚)「海水浴場も、明日で終わりなのよ」
(´・ω・`) 「そうか、夏の終わりって感じがするなあ…」
(>< )「クラゲがうようよしてるんです〜」
*(‘‘)*「うわー、くらげ、嫌い!」
71 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:13:00.89 ID: q29Wzvgm0
※
*(‘‘)*「いただきまーす!」
その一声に皆も続く。
一斉に話し声が沸く。
しぃさんが口を開く。
(*゚ー゚)「ねえ! なんか今日気合入っちゃってない?」
(´・ω・`) 「ああ、だってドク坊とメシを食べるのは今夜が最後だからな」
そしてすぐさま沈黙は訪れる。
(*゚ー゚)「…え?」
73 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:13:41.52 ID: q29Wzvgm0
*(‘‘)*「え――――!!」
*(‘‘)*「なんでなんでなんでなんで!?」
*(‘‘)*「うそだ――――!」
急にヘリカルが癇癪を起こす。
言葉は、真っ直ぐに俺の心に突き刺さった。
(;'A`)「……」
(;'A`)「ご、ごめんなヘリカル」
(;'A`)「俺も、おまえと同じで学校があるんだよ… うん」
*(‘‘)*「ドクオ! おまえこの町のがっこうにかよえ!!!!」
(´・ω・`) 「こら… 無茶なことはあまり言うなよ。ヘリカル」
79 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:18:11.59 ID: q29Wzvgm0
*(‘‘)*「だってぇーーーー!!!!」
*(‘‘)*「えっ… えっ…」
*(;;)*「うわああああん やだよぉ、やだよーーー!!!」
体を仰け反らせて、ヘリカルがわんわんと泣き喚く。
この子は、俺のために泣いてくれているんだ。
この子にとって、俺は必要な存在だったってことか?
まあ、小さい子の感情なんて、短絡的でごく単純なのかもしれないけど。
そうだとしても、尚更……
('A`)「ご、ごめん」
「うわああああああん」
(;'A`)「?」
84 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:20:20.26 ID: q29Wzvgm0
俺は咄嗟に後ろを振り向いた。
そこには、ヘリカル以上に泣きじゃくる長岡さんの姿があった。
鼻水も垂れ流して、感情オープンリーチといった様子だ。
鼻から、ご飯粒が出ていた。
( ;∀゚)「うわあああ〜ん!! うわああ〜ん!!」
( ;∀゚)「嫌っすー、俺もドクオくんがいなくなるのはたまらなく嫌っすー…」
*(;;)*「「うわあああああん」」(゚∀; )
つられて今度はビロードさんも泣き出す。
( ><)「せっかく… ひぐっ。みんながまた元に戻れたのに… ひぐっ」
( ;;)「びえーんびえーんびえーん!!!!」
(´・ω・`) 「あららぁ」
89 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:24:36.19 ID: q29Wzvgm0
3種の泣き声が店内をこだまする。
その様子を黙視していた杉浦さんが、口を開く。
( ФωФ)「…」
( ФωФ)「まあ、家族のような存在でしたからね」
( ФωФ)「ドクオくん」
(;'A`)「は、はい?」
( ФωФ)「…ここは、ドクオくんの第二の我が家です」
(*ФωФ)「いつでも、帰ってきてくれて、いいんですよ」
ショボンさんがしゃもじで杉浦さんの頭を叩いた。
(#ФωФ)「…」
(´・ω・`) 「なぁーに綺麗に締めてるんだよっ」
96 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:26:53.87 ID: q29Wzvgm0
('A`)「い、いやっ!……」
( A )「え、えっとそのぅ…」
無意識に、涙は、頬を、流れる。
止めようと思っても、止まらない。
(;A;)「ありがとうございます……」
(;A;)「みなさん、いろいろと、ほんとにほんとに……」
(;A`)「あれ? なんで俺泣いてるんだろう? おっかしいな…」
(つA`)「へへ…」
102 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:30:58.79 ID: q29Wzvgm0
( ;;)「びえーんびえーん」
( ;∀;)「うわぁああんうわあぁあん」
*(;;)*「あーんあーん……」
(*;ー゚)「…」
( ФωФ)「…」
(つA;)「……」
(´・ω・`) 「ちぇっ」
(´・ω・`) 「俺の料理、全部涙味になっちゃうぜ」
(´;ω・`)「…」
107 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:34:05.07 ID: q29Wzvgm0
*
*
*
――そして夜
( ゚∀゚)「ほんとに…、最後の夜なんすね」
('A`)「あ、はい」
( ゚∀゚)「俺、ドクオくんがうらやましいっす」
('A`)「へ?」
長岡さんは部屋の窓を少しだけ開けた。
部屋を照らしていたのは、瞬く星と丸い月だけだった。
涼しげな風が、俺と長岡さんの髪を揺らす。
110 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:37:43.17 ID: q29Wzvgm0
( -∀-)「僕は高校に行かないですぐ就職したっす」
( -∀-)「だから、ドクオ君みたいに旅だとか」
( -∀-)「色々青春してる子が非常にうらやましいなー… と」
布団に入っていた杉浦さんが、いきなり口を挟む。
( ФωФ)「…同意…です」
( ゚∀゚)「おやおや寝言かな? つまり、そういうことっす」
('A`)「青春だなんて、そんな」
( ゚∀゚)「いやー、僕は、君がとっても”今”をエンジョイしてるように見えるっす」
( ゚∀゚)「…そもそも、なんで旅に出ようなんて思ったんすか?」
('A`)「ええと、それは…」
115 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:39:18.90 ID: q29Wzvgm0
長岡さんの枕元にあった携帯電話を見て、
俺はふと思い出す。
('A`)「メールです」
( ゚∀゚)「メール?」
('A`)「とある日、1通のメールが来たんです」
('A`)「…夏休みが終わった後の自分から」
(;゚∀゚)「な!!! なんですと!!」
('A`)「信じなくてもいいです」
(;゚∀゚)「いや、今夜でお別れだし、全力で信じるっす!」
('A`)「…どうも」
「本文には、”旅に出ます 探してください”と」
「それを見て… なんか知らないけど、気が付いたら旅に出てました」
124 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:43:15.92 ID: q29Wzvgm0
( ゚∀゚)「へえ、変な文章っす! 謎だらけっすね」
(;'A`)「はい」
( ゚∀゚)「それで… 探せたんですか?」
('A`)「え?」
( ゚∀゚)「”探してください”ってメールが来たんす」
( ゚∀゚)「何か、見つかったすか?」
(;'A`)「そ、それはその……」
俺は答えられない。
そういえば、メールの内容なんて余り考えたことも無かった。
長岡さんは続けた。
126 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:44:40.71 ID: q29Wzvgm0
( -∀-)「きっと… たっくさん見つけたんで、言えないんすね?」
('A`)「…」
そう切り返されるとは思わなかった。
俺は、この旅で何を得たんだろう?
一から考えるには、今は時間が足りなさ過ぎる。
( -∀-)「言わなくても、なんだか分かるっす。伝わってくるっす。ふっふっふ」
('A`)(たくさん… か)
128 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:45:54.43 ID: q29Wzvgm0
( -∀-)「…」
( ゚∀゚)「寝るっす!」
( ゚∀゚)「朝、早いんすよね? 夜更かしは体に毒っすよ」
長岡さんは布団に潜り込んだかと思うと、
すぐに寝息を立てて眠り始めた。きっとたぬき寝入りだ。
131 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:47:14.93 ID: q29Wzvgm0
('A`)「…」
しばし、夏の夜の風に晒されていたかったが、
眠たくて、いや、眠りたくて、
俺も布団に入った。特に考えたいことは無かった。
旅が、終わろうとしている。