6 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:32:43.54 ID: c8QNC6qN0
('A`)「えっと……、野菜はこっちですよね」

食材が入ったダンボールを運ぶ俺を、
間延びした声が呼ぶ。

 

「おい、ドク坊」

 

('A`)「あ… はい」

 

振り返ると、そこには叔父さんがいた。
いつものように煙草を咥えながら、柱に掛けられたカレンダーを指差している。

 

 

 

16 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:35:59.94 ID: c8QNC6qN0
('A`)「……」

 

(´・ω・`) 「そろそろなんじゃないか?」

('A`)「はい。そろそろですね」

 

 

――カレーを皆で食べた日から早1週間が経っていた。
この1週間は、店をまた開くための準備期間だった。
食材を準備したり、店をぴかぴかに磨きあげたり…

最初はそこにあるのかさえ分からなかった店だった。
しかし皆で体裁を整えれば、こんなにもまともな外観になるのかと、
俺は関心していた。

この1週間、特に新しいことはなく、緩やかに時間は過ぎていった。
旅に出て、そんなにしょっちゅう何かが起こる訳ではない。
今までが異常だったくらいだ。
俺はこの現状に文句は覚えなかった。

 

 

 

20 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:38:51.04 ID: c8QNC6qN0

 

旅は何時の間にか始まり、何時の間にか静かに終わるものだと思うから。

 

 

 

21 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:39:29.41 ID: c8QNC6qN0

  「おっ、このお店また開くのかい?」

( ゚∀゚)「そうなんすよ!」

がららっ

('A`)「俺も、磨くの手伝いますよ」

(゚∀゚ )「ありがたいっす」

 

タワシを手に取り、ホースから流れる水でそれを濡らす。
流水が、太陽の光りに晒されて綺麗に光っていた。

( ゚∀゚)「いやー、随分ぴかぴかになったっすね!」

('A`)「そうですね…」

( ゚∀゚)「どうしたっす? 元気ないっすよドクオくん!」

('A`)「あ、いや…」

 

 

29 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:43:25.38 ID: c8QNC6qN0
( ゚∀゚)「もしかしてもう帰るなんて言わないっすよね?」

('A`)「その…まさかです」

 

( ゚∀゚)

 

( ゚∀゚)「またまた冗談きついっすよ!」

(;゚∀゚)「夏休み、まだまだあるっすよね?」

 

長岡さんが、俺が去るのを惜しむ素振りを見せてくれた。
それだけで、俺は嬉しかったさ。

 

 

37 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:47:44.85 ID: c8QNC6qN0
('A`)「おー腰イテ」

 

俺は空を見上げた。
いつもと変わらない青がそこにはあった。

('A`)(この町ともお別れかあ……)

( ;∀゚)「せっかく友達になれたのに…」

( ;∀゚)「悲しいっす! めっちゃ悲しいっす!」

('A`)「俺もですよ」

 

少しだけ開いた口から、小さな溜め息が漏れる。
虚しさではない、単純にこの地を離れるのが悲しいな、という感情―――

 

 

40 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:50:42.15 ID: c8QNC6qN0
――――

(´・ω・`) 「そろそろなんじゃないか?」

('A`)「はい。そろそろですね」

('A`)(…何がだ?)

(´・ω・`) 「兄貴から電話があったんだ」

('A`)「兄貴? ああ、親父のことですか」

(´・ω・`) 「元気でやっとるか って」

('A`)「わざわざ…」

(´・ω・`) 「ちゃんと元気に過ごしてるって言ったよ
      それで、最後にこう言ったんだ」

 

   (,,'A`)(もうすぐ学校始まるからよぉ、そこんとこ知らせといてくれ)

 

 

43 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:53:49.02 ID: c8QNC6qN0
('A`)「あ………」

(´・ω・`) 「そもそも、まだ君がここに居るってことに驚いてたぜ」

(´・ω・`) 「とっくに折り返してるもんだと、言っていた」

(´・ω・`) 「出発の予定は立っているのかい?」

(;'A`)「ぜ、全然」

(´・ω・`) 「夏休みの宿題も沢山あるんだろう。高校二年生は大事だからな」

(´・ω・`) 「ヘリカルも、今二階で頑張ってるんだが…」

('A`)「あ、明日出発します」

(´・ω・`) 「…そうかい。悲しくなるな」

――――

 

 

48 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:58:16.08 ID: c8QNC6qN0
急に決めすぎたかな。
でも、いいか。これまでだってそうしてきた。
出会いも突然で、別れも突然。それがいいんじゃないか。

実質、夏休みはあと数日しか残っていない。
来週の頭にはもう始業式だ。

…始業式。いきなり現実に戻された気がする。

いや、現実――?
今生きているここだって現実だ。この町は架空の存在ではない。
俺は、全てを生で感じ取った。
俺はこの体一つで今までの体験を受け取ることができたんだ。

 

('A`)「…」

 

今更になって俺は考えてみる。
なんで俺はここまで来れたのだろうかと?

 

 

50 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 22:58:54.78 ID: c8QNC6qN0

 

 

('A`)「そもそもなんで俺は旅に出たんだっけ?」

 

 

( ゚∀゚)「ドクオくん!ドクオくん!」

( ゚∀゚)「ヘリカルちゃんが呼んでるみたいっすよ!」

('A`)「あ、はい。どうもです」

 

 

53 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:00:08.80 ID: c8QNC6qN0
俺は店内に再び入った。
杉浦さんは勿論読書、叔父さんは漫画を読みながら煙草をプカプカと。
ビロードさんとしぃさんはいない。
どうやら夏休みの間だけは、海の家のアルバイトを続けるらしい。

二階に上がり、居間へ入る。
ヘリカルがわざとらしく唸りの声をあげながら宿題を解いていた。

 

*(‘‘)*「うー うー…」

('A`)「どうした?」

*(‘‘)*「おお、来たかドクオっ! まあ、ここ座れよ!」

 

61 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:03:42.67 ID: q29Wzvgm0
彼女ともだいぶ仲良くなった。
長岡さんやビロードさんと同様に、俺のことを兄のように慕ってくれる。
俺は一人っ子だ。そして、兄弟も必要ないと小さい頃から決めていた。
しかし、中々可愛いもんだな なんて今は思っている。

 

*(‘‘)*「しゅくだいがおわらないんだよぉ〜、わからないんだよぉ〜」

('A`)「溜め込んでるからだろ」

*(‘‘)*「むぅー… ここ、教えてよ!」

('A`)「虫食い算か… よっしゃ」

 

66 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:08:17.90 ID: q29Wzvgm0

*(‘‘)*「やったー! 算数おわった!」

('A`)(約1ヶ月ぶりに触れた学問が”算数”とは…)

気がつくと、太陽が沈んでいた。
茜色に染められた部屋が、なんだか哀愁を誘った。
そうか、この家とも今日でお別れなんだな。

下の店から声が聞こえてきた。

 

 

 

「ヘリカルー ドク坊ー 夕飯の時間だー」

*(‘‘)*「はーい! ドクオ、行くぞ!」

 

67 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:09:15.18 ID: q29Wzvgm0
俺達は店に下りた。毎晩のことながらいい匂いが漂ってくる。
今夜は、既にしぃさんとビロードさんも食卓に座っていた。

*(‘‘)*「あ! お母さん、ビロード!」

( ><)「ただいまなんです!」

( ><)「今日は早く帰ってこれたんです!」

(*゚ー゚)「海水浴場も、明日で終わりなのよ」

(´・ω・`) 「そうか、夏の終わりって感じがするなあ…」

(>< )「クラゲがうようよしてるんです〜」

*(‘‘)*「うわー、くらげ、嫌い!」

 

71 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:13:00.89 ID: q29Wzvgm0

*(‘‘)*「いただきまーす!」

 

その一声に皆も続く。
一斉に話し声が沸く。
しぃさんが口を開く。

 

(*゚ー゚)「ねえ! なんか今日気合入っちゃってない?」

 

(´・ω・`) 「ああ、だってドク坊とメシを食べるのは今夜が最後だからな」

そしてすぐさま沈黙は訪れる。

 

 

(*゚ー゚)「…え?」

 

73 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:13:41.52 ID: q29Wzvgm0

*(‘‘)*「え――――!!」

*(‘‘)*「なんでなんでなんでなんで!?」

*(‘‘)*「うそだ――――!」

急にヘリカルが癇癪を起こす。
言葉は、真っ直ぐに俺の心に突き刺さった。

(;'A`)「……」

(;'A`)「ご、ごめんなヘリカル」

(;'A`)「俺も、おまえと同じで学校があるんだよ… うん」

*(‘‘)*「ドクオ! おまえこの町のがっこうにかよえ!!!!」

(´・ω・`) 「こら… 無茶なことはあまり言うなよ。ヘリカル」

 

79 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:18:11.59 ID: q29Wzvgm0
*(‘‘)*「だってぇーーーー!!!!」

*(‘‘)*「えっ… えっ…」

*(;;)*「うわああああん やだよぉ、やだよーーー!!!」

体を仰け反らせて、ヘリカルがわんわんと泣き喚く。

この子は、俺のために泣いてくれているんだ。

この子にとって、俺は必要な存在だったってことか?

まあ、小さい子の感情なんて、短絡的でごく単純なのかもしれないけど。

そうだとしても、尚更……

('A`)「ご、ごめん」

「うわああああああん」

(;'A`)「?」

 

84 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:20:20.26 ID: q29Wzvgm0
俺は咄嗟に後ろを振り向いた。
そこには、ヘリカル以上に泣きじゃくる長岡さんの姿があった。
鼻水も垂れ流して、感情オープンリーチといった様子だ。
鼻から、ご飯粒が出ていた。

( ;∀゚)「うわあああ〜ん!! うわああ〜ん!!」

( ;∀゚)「嫌っすー、俺もドクオくんがいなくなるのはたまらなく嫌っすー…」

*(;;)*「「うわあああああん」」(゚∀; )

 

つられて今度はビロードさんも泣き出す。

 

( ><)「せっかく… ひぐっ。みんながまた元に戻れたのに… ひぐっ」

( ;;)「びえーんびえーんびえーん!!!!」

(´・ω・`) 「あららぁ」

 

 

89 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:24:36.19 ID: q29Wzvgm0
3種の泣き声が店内をこだまする。
その様子を黙視していた杉浦さんが、口を開く。

( ФωФ)「…」

( ФωФ)「まあ、家族のような存在でしたからね」

( ФωФ)「ドクオくん」

(;'A`)「は、はい?」

( ФωФ)「…ここは、ドクオくんの第二の我が家です」

(*ФωФ)「いつでも、帰ってきてくれて、いいんですよ」

ショボンさんがしゃもじで杉浦さんの頭を叩いた。

(#ФωФ)「…」

 

(´・ω・`) 「なぁーに綺麗に締めてるんだよっ」

 

96 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:26:53.87 ID: q29Wzvgm0
('A`)「い、いやっ!……」

( A )「え、えっとそのぅ…」

無意識に、涙は、頬を、流れる。
止めようと思っても、止まらない。

 

(;A;)「ありがとうございます……」

(;A;)「みなさん、いろいろと、ほんとにほんとに……」

 

(;A`)「あれ? なんで俺泣いてるんだろう? おっかしいな…」

 

(つA`)「へへ…」

 

 

102 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:30:58.79 ID: q29Wzvgm0

( ;;)「びえーんびえーん」

( ;∀;)「うわぁああんうわあぁあん」

*(;;)*「あーんあーん……」

(*;ー゚)「…」

( ФωФ)「…」

(つA;)「……」

 

 

 

(´・ω・`) 「ちぇっ」

(´・ω・`) 「俺の料理、全部涙味になっちゃうぜ」

(´;ω・`)「…」

 

107 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:34:05.07 ID: q29Wzvgm0

 

 


――そして夜

( ゚∀゚)「ほんとに…、最後の夜なんすね」

('A`)「あ、はい」

( ゚∀゚)「俺、ドクオくんがうらやましいっす」

('A`)「へ?」

 

 

長岡さんは部屋の窓を少しだけ開けた。
部屋を照らしていたのは、瞬く星と丸い月だけだった。
涼しげな風が、俺と長岡さんの髪を揺らす。

 

 

110 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:37:43.17 ID: q29Wzvgm0
( -∀-)「僕は高校に行かないですぐ就職したっす」

( -∀-)「だから、ドクオ君みたいに旅だとか」

( -∀-)「色々青春してる子が非常にうらやましいなー… と」

布団に入っていた杉浦さんが、いきなり口を挟む。

( ФωФ)「…同意…です」

( ゚∀゚)「おやおや寝言かな? つまり、そういうことっす」

('A`)「青春だなんて、そんな」

 

( ゚∀゚)「いやー、僕は、君がとっても”今”をエンジョイしてるように見えるっす」

( ゚∀゚)「…そもそも、なんで旅に出ようなんて思ったんすか?」

('A`)「ええと、それは…」

 

 

115 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:39:18.90 ID: q29Wzvgm0
長岡さんの枕元にあった携帯電話を見て、
俺はふと思い出す。

('A`)「メールです」

( ゚∀゚)「メール?」

 

('A`)「とある日、1通のメールが来たんです」

('A`)「…夏休みが終わった後の自分から」

(;゚∀゚)「な!!! なんですと!!」

('A`)「信じなくてもいいです」

(;゚∀゚)「いや、今夜でお別れだし、全力で信じるっす!」

('A`)「…どうも」

 

「本文には、”旅に出ます 探してください”と」

  「それを見て… なんか知らないけど、気が付いたら旅に出てました」

 

 

124 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:43:15.92 ID: q29Wzvgm0
( ゚∀゚)「へえ、変な文章っす! 謎だらけっすね」

(;'A`)「はい」

 

 

( ゚∀゚)「それで… 探せたんですか?」

('A`)「え?」

( ゚∀゚)「”探してください”ってメールが来たんす」

( ゚∀゚)「何か、見つかったすか?」

(;'A`)「そ、それはその……」

俺は答えられない。
そういえば、メールの内容なんて余り考えたことも無かった。
長岡さんは続けた。

 

 

126 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:44:40.71 ID: q29Wzvgm0
( -∀-)「きっと… たっくさん見つけたんで、言えないんすね?」

 

('A`)「…」

そう切り返されるとは思わなかった。
俺は、この旅で何を得たんだろう? 
一から考えるには、今は時間が足りなさ過ぎる。

( -∀-)「言わなくても、なんだか分かるっす。伝わってくるっす。ふっふっふ」

 

 

('A`)(たくさん… か)

 

 

128 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:45:54.43 ID: q29Wzvgm0
( -∀-)「…」

( ゚∀゚)「寝るっす!」

( ゚∀゚)「朝、早いんすよね? 夜更かしは体に毒っすよ」

長岡さんは布団に潜り込んだかと思うと、
すぐに寝息を立てて眠り始めた。きっとたぬき寝入りだ。

 


131 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/23(金) 23:47:14.93 ID: q29Wzvgm0
('A`)「…」

 

しばし、夏の夜の風に晒されていたかったが、
眠たくて、いや、眠りたくて、
俺も布団に入った。特に考えたいことは無かった。

 

 

 

 

 

旅が、終わろうとしている。

 

 


 

 

 

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