―――夕方。
太陽を、雲が覆い隠していた。
隙間、隙間から斜陽が漏れて、それがまるで光のカーテンのように見える。
薄い茜色のカーテン。
俺とビロードさんとしぃさんは「しょぼくれ酒場」へと向かう。
あと数百メートルで着くところだった。
曲がり角の向こうから、子供達の楽しげな声が響いてくる。
ドクオが夏の旅に出るようです
8 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 22:39:19.11 ID: UniCmAbK0
『あした、ひがし公園に9時ねー!!』
『うんわかってるよ! 行くね!』
『ばいばーい!』
『ばいばーーい!』
(*゚ー゚)「あら、いいタイミングね」
( ><)「そうなんです!」
('A`)「?」
9 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 22:40:56.98 ID: UniCmAbK0
曲がり角から現れたのは、良い色に焼けた肌を持つ可愛い少女だった。
麦わら帽子を首に下げ、虫カゴを肩に下げ、
今日も一日遊びきったような… 満足気な顔をしている。
年齢は6、7歳程度だろうか。
*(‘‘)*「あっ!! お母さん、ビロード!」
(*゚ー゚)「ただいま、ヘリカル」
( ><)「ヘリカルちゃんだ!」
ヘリカルと呼ばれた少女は、すぐさまビロードとしぃさんの間に割って入った。
そして、二人と手を繋いで歩き始める。
*(‘‘)*「今日ねえ!アタシねえ!友達と蝉とりしたの!見てこれ!」
14 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 22:42:54.21 ID: UniCmAbK0
ヘリカルは虫カゴをしぃさんに差し出して見せた。
するとカゴの中にいた数匹の蝉は、いきなり住み場を動かされて驚いたのだろう。一斉に鳴き始めた。
非常にうるさい。
(;><)「わわっ!元気いっぱいなんですー!」
(*゚ー゚)「いっぱい捕まえたわねk〜」
*(‘‘)*「うん!!!」
ヘリカルは満面の笑みを浮かべる。それを見て、しぃさんとビロードさんも優しく微笑む。
俺は、なんだか優しい気分になった。
('A`)(こんな元気のいい女の子、いたっけなあ。保育園の頃)
16 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 22:44:19.32 ID: UniCmAbK0
今度は俺のほうを向き、
無垢な顔をしてしぃさんにヘリカルは尋ねた。
*(‘‘)*「ねえお母さん、この人誰?」
(*゚ー゚)「こら、人を指差しちゃいけませんよ」
( ><)「彼はドクオくん! 店長の親戚なんです!」
(*'A`)「あっ、ども……」
*(‘‘)*「お父さんの親戚?
ふぅん!なんだか幽霊みたいな顔っ!」
(#'A`)(むっ)
(*゚ー゚)「この子はヘリカルよ。私の娘なの」
17 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 22:45:48.12 ID: UniCmAbK0
(*゚ー゚)「この子はヘリカルよ。私の娘なの」
('A`)「ああ、はい。」
('A`)「よろしく、ヘリカルちゃん」
*(‘‘)*「よろしくなドクオ!!!」
(#'A`)(呼び捨て……)
(;゚ー゚)「ごめんなさいね。不作法な子で…」
(A`)「いえいえ、大丈夫っす」
*(‘‘)*「ビロードもよびすてだもんねー!」
( ><)「ははっ。そうだね!」
19 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 22:47:18.81 ID: UniCmAbK0
――四人で道を歩いていくと、分かれ道に差し掛かった。
右を行けば、ショボンさんの家だ。
しかし、二人の手を繋ぐヘリカルの足が左へ歩を進めるので、
横隊はもつれてしまった。
*(‘‘)*「あれれ?今日はおばさんの家にいかないの?」
しぃさんがしゃがみ、ヘリカルと目線を合わせて言う。
(*゚ー゚)「今日はね、お父さんの所へ帰るの」
( ><)「ドクオ君の歓迎パーティーするです!」
*(‘‘)*「ほんと!?お父さんに、お母さん会うの?やった!!!」
*(‘‘)*「午前中にお店行ったんだけどさぁ〜」
*(‘‘)*「今日も開いてないんだよ!」
*(‘‘)*「……お母さんが出てってもう一ヶ月だよ?」
22 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 22:50:18.24 ID: UniCmAbK0
ヘリカルが頬っぺたを膨らまして、文句を垂れる。
ビロードさんはちょっと困ったような顔をしていた。
しぃさんは、軽く笑い、呟く。わざと影があるように。
遠くの空を見て。
(*゚ー゚)「あの人も素直じゃないのよ……」
その一言には ”深い大人の事情”が隠されているのだと、
俺はすぐさま察知した。
(;'A`)(でも、俺に何ができるって話しだよな)
25 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 22:51:42.72 ID: UniCmAbK0
※
(´・ω・`) 「はら」
( ゚∀゚)「へっ」
( ФωФ)「た…」
がらっ………
( ><)「ただいまなんですー!」
(´・ω・`) 「よう。早くメシつく――――」
(*゚ー゚)「…ただいま」*(‘‘)*「ただいま!!!!」
(;'A`)><)「…」
27 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 22:52:29.17 ID: UniCmAbK0
しぃさんが姿を露にしたそのとき、場は一斉に静まり返った。
長岡さんと杉浦さんの表情には安堵が、
叔父さんの表情には純粋な驚きが浮かんでいるようだ。
(´・ω・`) 「お、おまえ」
(*゚ー゚)「せっかくドクオ君が尋ねてきてくれたんだもの」
(*゚ー゚)「おもてなししなきゃ、ねえビロード君?」
(>< )「は、はいなんです!」
しぃさんは叔父さんとまったく目を合わせずに、
棚から赤いエプロンを取り出し身につけた。
長岡さんが、ビロードさんに詰め寄る。
30 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 22:54:36.64 ID: UniCmAbK0
( ゚∀゚)(ようよう、ビロードたん)
( ゚∀゚)(やるねー。君の差し金っすか?)
(;><)(ううん!違うんです! ドクオ君の提案!)
二人で何やら話をしているようだと思えば、
突然こちらを振り向いたではないか。
(゚∀゚ )「ほう! ドックン中々やるっすね!」
('A`)「あ、いや…」
(´・ω・`) 「なんだ、しぃを連れてきたのはおまえかドク坊」
32 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 22:57:00.20 ID: UniCmAbK0
叔父さんが少し逆立った口調で、俺を咎める。
しぃさんは無言で厨房に入り、腕まくりをして、調理用具をせっせと洗い始めた。
水が勢いよく流れる音が聞こえる。
俺はしどろもどろに返事をした。
('A`)「す、すいません」
(´・ω・`) 「手伝って来いとは言ったけど、連れてこいとは言ってないよなあ?」
すかさず長岡さんが口を挟む。
( ゚∀゚)「またまた店長!嬉しいくせに!!!!!!!」
その瞬間、彼の頬を目掛けて叔父さんの拳が飛んだのは言うまでもない。
ちなみに俺へのフォローのつもりで言ったのではなく、天然故の発言だろうか。
(#;∀;)「ひどいっす」
( ФωФ)「君は、Mだな」
36 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 22:58:57.47 ID: UniCmAbK0
今度は厨房と入り口、前後から声が飛んできた。
*(‘‘)*「お父さん!!ジョルジュを殴っちゃだめーー!!」
(*゚ー゚)「相変らず口より手が先に出るわね…」
(´・ω・`) 「う、うるせいやい」
叔父さんは髪を掻きむしりながら、ばつの悪い表情で言った。
流石に妻子の同時から言葉で制止されると、
叔父さんもタジタジという様子だった。
38 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:00:56.32 ID: UniCmAbK0
お次にビロードさんの快活な声が店内に響く。
( ><)「店長!店長! 今日くらい一家団欒を楽しむです!」
杉浦さんが落ち着いたトーンで続けた。
( ФωФ)「そうですね、最近は殺伐とした食卓が続いていたので」
叔父さんは、元から下がっている眉尻をさらに下げたような、
正にしょぼんとした顔つきで椅子に腰を下ろした。
「もう、仕方ねえや」とでも、言いたそうな口だった。
いつの間にか、長岡さんはしぃさんの横で皿を洗っている。
39 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:02:30.78 ID: UniCmAbK0
(*゚ー゚)(ちょっと、そんなに酷かったの?)
(;゚∀゚)(飲み放題暴れ放題っす!)
(´・ω・`) じろー…
(;゚∀゚)「えへへ」
(´・ω・`) 「ふんっ」
(´・ω・`) 「ドク坊、座れよ」
('A`)「はい」
叔父さんは煙草を胸ポケットから取り出し、
テーブルをバンバンと二回叩いた。
俺は叔父さんの向かい側の椅子に腰掛ける。
44 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:04:28.81 ID: UniCmAbK0
叔父さんが煙草に火を付けようとしたとき、
しぃさんの間延びした声がこちらへ飛んできた。
(*゚ー゚)「ちょっとお、ヘリカルいるんだから煙草はやめてよね、料理も不味くなるし」
(*゚ー゚)「あ、杉浦くんとビロードくん、手伝ってよ」
(´・ω・`) 「…」
何故か叔父さんは、やけに素直になってきた。
黙って煙草をポケットに戻すと、
無表情で、窓の外の暮れゆく街を眺めた。俺も倣って眺め始めた。
うーむ、この町の夕陽も綺麗だな…。
48 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:06:26.96 ID: UniCmAbK0
一つ向こうの団体用テーブルで、蝉を見ていたヘリカルが、
こちらへ駆け寄ってきた。
*(‘‘)*「お父さん、お父さんのひざに座ってもいい?」
(´・ω・`) 「…、ああ、いいよ」
叔父さんは椅子を引いて、小柄なヘリカルの身体を膝に乗せた。
叔父さんが、今までにないくらい優しく柔らかい表情になる。
…そうだよな、やっぱり娘は可愛いもんだよ。
俺は、親子のふれあいってのは、
あんまりじろじろ見るものじゃないなと思った。
だから、ずうっと窓の外を眺めていた。
51 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:08:35.39 ID: UniCmAbK0
(´・ω・`) 「なーヘリカル、今日は何して遊んだんだい?」
*(‘‘)*「あれ!」
ヘリカルが指差した先には、虫取りカゴがあるのだろうか。
視界の右に入る叔父さんは眉毛を上下させた。そして、無精髭を擦って優しく問いかける。
(´・ω・`) 「どこで取ったんだい? いっぱいいるなあ」
*(‘‘)*「やる夫こうえん!」
(´・ω・`) 「そうかあ、あそこはカブトムシもとれるんだ」
(´・ω・`) 「こんど、いっしょにとりにいくかい?」
*(‘‘)*「えっ、ほんと!? いく! アタシ、カブトムシとりに行くー!」
53 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:10:51.31 ID: UniCmAbK0
ヘリカルの無邪気な反応は厨房にいる三人と、俺を和ませた。
俺にもこんな頃ってあったっけ…?
まあ、忘れてしまったことだ。
(´・ω・`) 「よおし、じゃあいつ行こう? 明日は日曜だから…」
*(‘‘)*「やっぱりだめっ!」
(´・ω・`) 「?」
*(‘‘)*「アタシは、お父さんとお母さんと行きたいっ!!」
55 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:12:09.84 ID: UniCmAbK0
その一言で、また場が少し静まる。
叔父さんは、抑揚の無い声でずっと「ん〜」と唸っている。
そして、厨房のしぃさんに向けてこう言った。
(ω・`) 「だ、そうだ〜」
(;><)(なぁにが”だ、そうだ〜”なんです)
( ФωФ)(相変らず…)
しぃさんはあっけらかんな声ですぐに答えた。
(*゚ー゚)「ヘリカルごめーん、パス!」
(;'A`)「えっ?」
*(‘‘)*「えーーーーー!?」
57 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:13:28.74 ID: UniCmAbK0
(*゚ー゚)「行ってやろうかな〜って思ったけど、明日は先に予定入ってるでしょ?」
*(‘‘)*「えー? 何ー? 友達とあそびいっちゃだめ! お母さん!」
(*゚ー゚)「ちーがーう! ヘリカルが言い出したんでしょ?」
(´・ω・`) 「……あ、思い出した」
(´・ω・`) 「自転車の練習に、行くんだったね」
野菜を炒めている勢いの良い音に混じって、しぃさんの返答が返ってきた。
「あたりー!」と。
叔父さんは小さくため息をつき、また微笑んでヘリカルを見つめた。
そういう仕草一つ一つが、実に「パパ」らしくて、
俺はなんだか、さっきから微笑ましい気持ちで一杯になっていた。
58 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:14:46.04 ID: UniCmAbK0
(*゚ー゚)「自転車のやくそくは、お父さんとしかしてないよねー?」
(*゚ー゚)「だから、お父さんと一緒に公園に行ってらっしゃいな!」
(*゚ー゚)「週末は稼ぎ時なのよー、ね? ビロードくん?」
(>< )「は、はいなんです…」
( ゚∀゚)b「嬢ちゃん! 補助輪なしでちゃんと乗れるように頑張るっすよ!」
*(‘‘)*b「まかしとけ!!!」
( ФωФ)「私たちは開店もしないのに留守番でもしていますか…」
( ゚∀゚)「っつーかそれがデフォっす!」
話しはまとまったみたいだ。
自転車の練習か。俺も、ギコさんと親父と河川敷でやったものだ。懐かしい。
それにしてもしぃさんは切り返しが上手いな。
そう思った。
61 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:16:47.75 ID: UniCmAbK0
(´・ω・`) (……)
(´・ω・`) (ったくもー)
(´・ω・`) 「よし、じゃあがんばるかヘリカル」
*(‘‘)*「えいえいおー!」
( -∀-)「なんだかんだで親は子に勝てないっすねー」
( ФωФ)「店長の感情の良いストッパーになります」
(*゚ー゚)「……」
俺は密かに思う。
本当は叔父さんは、しぃさんとヘリカルと一緒に、カブトムシを捕まえたかったんじゃないかなあ。
…なんて。
63 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:19:59.15 ID: UniCmAbK0
※
料理が出来上がり、俺たちは食卓を囲んだ。
天井にぶら下がった拳大の豆電球が、食卓を暖かくを照らしていた。
揚げられた肉の香ばしい匂いや、特製のソースの甘酸っぱい香りが俺の鼻をくすぐる。
( ゚∀゚)「やっぱしぃさんの料理UMEEEEEEEEEEEEE!!!!」
('A`)「こ、これは美味い! こんな美味いもん食べたの久しぶりだ……」
(´・ω・`) 「ヘリカル、たまねぎも食べろよ」
*(‘‘)*「うう〜」
(*゚ー゚)「どんどんおかわりあるからね」
( ><)(毎日寄ってって晩御飯作っていた僕の立場は…)
ぽんぽんっ
m(ФωФ )「君の料理も、塩味が抑えられていて中々良いよ。うむ」
(*><)「あ、ありがと…」
72 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:24:36.41 ID: UniCmAbK0
やはり大人数で食卓を囲むというのは、楽しいものなのだ。
腹が減っていたのも明らかに起因しているが、
美味しい。こんなに料理が美味しいと感じたことはない。
家で一人で、勝手にカップラーメン等を食べていた自分が、
何だか急に恥ずかしくなる。
自分は今、貧相な身体をしているのも自業自得なのかもしれないな。
そんなことも思った。
(´・ω・`) 「いただき」
( ゚∀゚)「あーーー!!! 店長それ俺のエビフライっすよ!!」
*(‘‘)*「えいっ」
(゚∀゚ )「ぎゃーー!!! ピーマン俺の皿に乗せないでよ!! アレルギーなんすよ!!」
( ФωФ)「ぐびっ」
(#゚∀゚)「杉浦ァー!! 俺のジュース何飲んでるっすか!!!!!!」
( ФωФ)「え、ああ。ごめん」
(*'A`)(いいなあ……)
76 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:27:56.62 ID: UniCmAbK0
(´・ω・`) 「杉浦ぁー 酒」
( ФωФ)「どうぞ」
(´・ω・`) 「杉浦ぁー 酒」
( ФωФ)「どうぞ」
(´・ω・`) 「すっぎうらーー おさけぇー」
( ФωФ)「どうz」
(´・ω・`) 「酒だ!! 酒を出せ!!」
( ФωФ)「これで最後です」
(;゚∀゚)(おい…… これは、やばいぞ…)
('A`;)「…え?」
長岡さんの予感は、後にピシャリと当たるのだった。
78 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:29:44.76 ID: UniCmAbK0
※
夕食の時間は続いた。とても温かな時間。
長岡さんやヘリカルの笑い声に俺は包まれ、悪い気分ではなかった。
いつまでも、この空間に居たいとさえ思える。
しかし、その良い雰囲気は容赦なく叔父さん、否、飲兵衛によって、
崩されるのであった。
79 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:30:50.33 ID: UniCmAbK0
――コトン
少し強めにコップを置く音が聞こえた。
そして、酒気を帯びた乱暴な口調で叔父さんはこう呟く。
(´・ω・`) 「…味が濃いな」
一気に場が静まりかえる。
硬直した皆の顔を見て、俺は少なからず緊張する。
(ああ、またかという顔をした人もいるが)
81 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:32:35.31 ID: UniCmAbK0
(*゚ー゚)「…え?」
(´・ω・`) 「味が濃いって言ってるんだよ。 こんなんじゃ、しょっぱ過ぎて食べられないなっ!!!!」
(;'A`)「いや、俺はこのくらいがちょうどいいですけど……」
(´・ω・`) ギロッ
(;'A`)「…」
(*゚ー゚)「あら、私はちゃんとお父さんから教わった通りに調理しましたけど?」
(´・ω・`) 「けっ。おまえは荒巻さんから何を教わったんだ!?」
(*゚ー゚)「粗方全部教えてもらいましたけど何か問題でも?」
(*゚ー゚)「アンタこそ、酒飲みすぎて舌がおかしくなったんじゃないの!?」
84 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:34:11.47 ID: UniCmAbK0
もうこうなったら止める余地がない。
こうして、
見たくもない聞きたくもない、夫婦喧嘩が始まったのであった。
(;><)「あわわわわ…」
(;゚∀゚)「やばいっす」
( ФωФ)「耳栓いるかい?」
*(‘‘)*「アタシいる!」
('A`)「酔っ払いになんか相手しないほうがいいd」
ドンッ!!!
(;'A`)「ひょえっ!」
(´・ω・`) 「こんな飯食べられねーな! ふん!」
87 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:36:21.89 ID: UniCmAbK0
(´・ω・`) 「…ん?」
(´・ω・`) 「これはなんだ?」
(´・ω・`) 「毛だな。毛が入っていた」
(´・ω・`) 「料理に自分の髪の毛が入ってるなんて、料理人失格だー!!」
(*゚ー゚)「…」
(´・ω・`) 「小学生の調理実習からやり直せ!」
(*゚ー゚)「…」
(*゚ー゚)「…はあ?」
(*゚ー゚)「アンタ、それよーく見てみなよ。真っ黒じゃない」
(*゚ー゚)「私の髪の色は全部茶色よ?」
(´・ω・`) 「…うっ」
(*゚ー゚)「アンタの髪の毛が落ちただけじゃない! バカバカしい!!」
(*゚ー゚)「そういえば、アンタ最近、前髪上がってきたわねー。禿げた!?」
(#´・ω・`) 「…」
90 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:39:28.97 ID: UniCmAbK0
叔父さんの拳が小刻みに震える。しぃさんは顔が真っ赤だ。
俺と長岡さんは身を寄せ合って、恐る恐る傍観していた。
ヘリカルと杉浦さんは食事を続けていて、一番酷いのがビロードさん。
今にも泣き出しそうな潤んだ瞳で、頭を抱え怯えている。
(;'A`)゚∀゚;)「ガクガクブルブル」
*(‘‘)*「ぱくぱく」
( ФωФ)「むしゃむしゃ」
(*゚ー゚)「…」
(´・ω・`) 「…」
(;><)「まんじゅうこわいまんじゅうこわい」
93 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:41:29.09 ID: UniCmAbK0
――ドンッ!!
拳がテーブルに強く叩きつけられた。
テーブルが揺れ、ヘリカルが嫌そうな顔をした。
(;゚∀゚)(;'A`)(><;)「「「ひいっ!!!」」」
(´・ω・`) 「…俺は最初っから、ここを継ぐ気なんてなかったんだ」
(´・ω・`) 「いっとくけど、まだ俺は”バーボンハウス”諦めてねえからな」
(;゚∀゚)「店長!! それマジっすか!?」
(´・ω・`) 「黙れ」
(;゚∀゚)「御意」
(*゚ー゚)「嫌だね。そんなの、絶対嫌だ」
(´・ω・`) 「おまえがどう言おうと俺はやる!」
(*゚ー゚)「あ、あんたねえ! 数週間経って少しは頭を冷やしたと思ったら…」
(*゚ー゚)「まるで変わってない! 真性のバカよ!!!」
95 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:42:28.48 ID: UniCmAbK0
(´・ω・`) 「うるさい五月蝿い!!」
(´・ω・`) 「〜ったく、先代もこんなヒスな娘を持って苦労なさったんだろうな」
(*゚ー゚)「ヒスだって!?」
(´・ω・`) 「現に俺、苦労してるもんな」
(*゚ー゚)「……」
96 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:43:13.24 ID: UniCmAbK0
お互いに、全ての弾を撃ちつくしたような雰囲気になった。
こうして、罵り合いはひとまず中断されたのだが、代わりに襲来したのは勿論…
(;'A`)「…」
(;゚∀゚)「…」
( ФωФ)むしゃむしゃ
*(‘‘)* もぐもぐ
(´・ω・`) 「…」
(*゚ー゚)「…」
そう、恐怖のハイパー沈黙タイム。
最高に気まずい雰囲気の中、
杉浦さんとヘリカルの料理を食べる音だけが聞こえた。
99 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:46:21.62 ID: UniCmAbK0
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「大体なあ、最初におまえが…」
がたん!
(´・ω・`) 「?」
叔父さんが早々に沈黙を裂いて、第二ラウンドをおっ始めようとしたそのときだった。
ビロードさんが、一筋の美しい涙を流しながら遂に、遂に立ち上がったッ!!
(;><)「ややややや、やめてくださいなんですー!!!」
104 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:49:57.17 ID: UniCmAbK0
(;><)「ややややや、やめてくださいなんですー!!!」
(;><)「夫婦喧嘩はやめてくださいなんです!! 二人とも!!」
(;><)「バーボンハウスとか!! みんなで話し合えばいいんです!みんなで!」
(;><)「へっ、へっ、へっ」
(;><)「へっくちい!」
(;><)「…じゃなかった! へ、ヘリカルちゃんもいるんですよ!?」
(;><)「や、やめてくださいなんです…」
( つ<)「うっ、えぐっ」
( つ<)「びえーんびえーん……」
( ФωФ)「…あーあ」
( ゚∀゚)「おまえが言うなっちゅうねん」
106 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:55:01.53 ID: BAk1VM8u0
その脇で、ヘリカルは拗ねたような顔をして、
皿の上の野菜を転がしていた。
どちらが子供なんだか分からない状況で、今度はビロードさんの嗚咽のみが響いた。
沈黙よりはマシだろうか? いやいやそんなことはない。
(*゚ー゚)「ビロード君…」
( ><)「しぃさーん うぇっ、うえっ」
(´・ω・`) 「ふん……」
(*゚ー゚)「とりあえず、ごちそうさましましょうか。ね、ごちそうさま」
ヘリカルが耳栓を外し、
小声で「ごちそうさま」と呟いて台所に食器を置きに行った。
そして、早々に二階へ上がっていく。
(*゚ー゚)「とりあえず私は、今夜こっちに泊まらせてもらうわ」
(*゚ー゚)「もう一度じっくり話し合いましょう」
(´・ω・`) 「嫌だね」
112 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/17(土) 23:59:54.96 ID: BAk1VM8u0
( ゚∀゚)「ちょ! 店長、そこは… ねえ?」
(´・ω・`) 「今夜は俺が出て行くとしよう」
(´・ω・`) 「どけ」
( ゚∀゚)「は、はいっ!」
叔父さんは、凄い形相をして店から出て行った。
勢いよくドアを閉めた音が、非情に胸を刺す。
ヘリカルを膝に乗せているときとは全く異なる表情。
人間、やはり表情豊かなのだ。例え表面がクールに見えても。
いや、クールに見えるからこそ、実は表情豊かなのだ… ってそんなこと関係ないんだ。
関係ないことを考えるのは俺の癖だ。
そして俺が今悩み思索すべきこと、それは何だ!?
( ФωФ)「あのー、ドクオくん。みんなで皿洗いましょう」
('A`;)「あっ、はい。そうですね」
116 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 00:04:27.81 ID: j/YucwwS0
※
町は夜を迎えた。
二階の、各々の部屋へと家族は戻っていた。
俺と長岡さんと杉浦さんは大部屋。ヘリカルとしぃさんは居間でテレビでも見ているのだろうか。
( ゚∀゚)「あ、それダウト!!」
( ФωФ)「…」
( ФωФ)「残念だね」
( ゚∀゚)「ぎゃーー!!! 全部もらっちまうのか!」
('A`)「いやー楽しいですね。修学旅行みたいです」
( ゚∀゚)「懐かしいな!! 木刀買ってホテルの物壊したっけ!」
( ФωФ)「あうあう」
('A`)(叔父さん、今、どこで何をしているのかな…)
120 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 00:12:04.90 ID: j/YucwwS0
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チーンジャラジャラ
(´・ω・`) 「よし、揃え、あと一つだ」
(´・ω・`) 「…ちっ、駄目か」
(´・ω・`) 「…あ、煙草もうねえや」
(´・ω・`) 「…はあ」
(´・ω・`) 「飲ませてえよ。俺のカクテル。約束なんだ」
(´・ω・`) 「もうとっくに昔のことなのにな…」
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121 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 00:13:56.84 ID: j/YucwwS0
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(*゚ー゚)(お父さん、私は絶対この店を守るよ。約束だから)
(*゚ー゚)(ショボンだって分かってくれるよ)
(*-ー-)(だって父さんが見込んだ男でしょ…?)
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124 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 00:14:57.82 ID: j/YucwwS0
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*(‘‘)*「ぶすーっ」
( ゚∀゚)「なあ、ヘリカルちゃん!! トランプやるっす!!」
*(‘‘)*「ぶすーっ」
*(‘‘)*「やんない…」
( ゚∀゚)「なんでっすか?」
*(;;)*「お父さんとお母さんいつもけんかばっか! もうやだ!」
*(;;)*「じてんしゃのやくそくもやぶるし!!!」
*(;;)*「あーんあーんあーーん!!!!!」
(;゚∀゚)('A`;)「……」
( ФωФ)「あ、それダウト」
(;><)「ギャー! やられたんです!!」
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127 名前: 1 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 00:17:51.50 ID: j/YucwwS0
('A`)「…」
俺は部屋の窓を開け、夏の夜の、生暖かい空気に触れた。
なんだか落ち着く。
今日までこの空気に包まれていつも眠っていたからかな…。
('A`)(あのとき言った、”バーボンハウス”って、なんだろ…?)
(やくそく編3 おわり)