6 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 19:38:43.97 ID:D2DgdSav0

アニーと別れた俺の心には、何か満たされるものがあった。
内藤や、ツンと別れたときの気持ちとは、違うベクトルのものだ。

結論から言うと、アニーとの目的は果せなかった。
写真の中にあった風景は、閑静な団地に変わっていた。

しかし、アニーから

「これでいいじゃないか」
「いいんだよ」

そんな風に言い包められて、それで納得してしまった俺がいる。
「そうか、別に見つからなくても、良かったんだ」と。
俺は、そんな俺を少し好きになった。

そういう、気がする。

 

 

9 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 19:41:34.83 ID:D2DgdSav0

―――自転車は、あと僅かの距離であるショボンさんの家へと、ひた走る。

 

太陽が真上にあった。
風鈴が囁いていた。
子供たちが市民プールから帰ろうとしている。
老人が団扇を手に散歩をしている。

何でもないような風景を、俺は特別なものだと、
切り取って、そして心に貼り付けてきたつもりだ。いや、無意識にそうしてきた。
そしてこれからもそうしていきたいなあ。

そんなことを彼は強く思わせてくれた。

 

('A`)「ああ、この距離がもどかしいっ!!」

('A`)「早く着かないかな……」

('A`)「………」

唇の上についた汗をぺろりと舐める。
俺は暑い空気を切り裂いて、ひたすら先を急いだ。

 

 

11 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 19:44:35.83 ID:D2DgdSav0

しばらく進んでいると、道先に緑が多くなってきた。
右を見上げれば、山肌が見える。

遠方へ伸びる道路はぐにゃりと波を打ってるかのようで、
その先は一つの暗闇――トンネルへと続いていた。

('A`)(そういや……)

俺の頭の中では、出発する前の親父との会話が再生されていた。

 

('A`)「なあ、ショボン叔父さんはどんなところに住んでいるんだ?」

(,,'A`)「あそこはなあ…… 海があるな。海に面した所だ」

('A`)「へえ… 海か。もしかして、小さい頃連れてってもらった海水浴場?」

(,,'A`)「そうだな」

 

 

12 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 19:48:48.63 ID:D2DgdSav0
('A`)(もしかして、この蛇行した道を抜けて)

('A`)(トンネルを通過したら)

海が見えてくるのかもしれないと、
俺は胸を躍らせた。

……そして、海が見えてきたら、
ショボン叔父さんの家もすぐ見つかるはず。

('A`)「よっしゃ――!! …あぁ」

だがしかし、何度も経験してる通りだ。
心の勢いに身体がついて行くのは、非常に苦しいことなのだ
いや……

気合で頑張ろう。

 

 

15 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 19:54:30.13 ID:D2DgdSav0

数十分をかけて、
ようやく俺はトンネルの入り口まで辿り着いた。
入り口からは、ひんやりとした風が吹き、俺の火照った体を冷ましてくれた。

('A`)「ふーむ」

俺はペダルから足を離し、地につけ、
トンネルを見つめてみる。
老朽化が進んでいるみたいで、苔や蔦が生茂り、少しおどろおどろしい雰囲気だ。

('A`)「トンネルの向こうは不思議な国 とまではいかないが」

('A`)「何か、何か俺を待っているに違いない!」

そんなことを思いつつ、トンネルへ踏み込んでいく。

 

17 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 19:58:48.45 ID:D2DgdSav0
仄暗い黄色のランプが、トンネルを照らす。
中は無風で、しかし熱気は充満していない。

('A`)「トンネルを自転車で通過するなんて、初体験だなあ」

外見の老朽とは裏腹に、トンネルの路面は緩やかだ。
とてもすいすいと進んでいくことができる。
なんとなく鼻歌を歌いたい気分。

('A`)「〜♪」

多少大きな声を出しても、
道路を行き交う車の轟音に掻き消されるのが、なんだか楽しい。

 

 

18 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 20:01:01.51 ID:D2DgdSav0
('A`)「…ん?」

トンネルの距離を「少し長いな…」と感じ始めてきたときだった。
俺の鼻が、とある匂いに反応する。

 

コンクリートじゃなくて、
車のガスじゃなくて、
これは……

('A`)「…潮の匂い?」

 

予想が当たったのだろうか。
間違い無いな、ここを抜ければそこは海だ。
ペダルを漕ぐ足に、力が入った。

 

 

19 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 20:03:35.44 ID:D2DgdSav0
ほの暗いと思っていた黄色の光りが、
段々と淡く、眩しくなっていくような気がする。
視界も少しクリアだ。

('A`)「光が見えてきた!」

('A`)「出口だな!」

 

対向側を走る車が、次々とライトを付け始める。
俺は、進行側の車に倣ってライトを落とす。

 

潮の匂いが、段々と強まってきた。
まだ見ぬ先へと、微かなイメージを持ちつつ、
トンネルは終わりを迎える。

(;'A`)「はあはあ……」

 

 

21 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 20:06:11.46 ID:9iPzyZ2K0
俺はトンネルを抜けた。

暗闇にある時間居たせいか、
太陽の光がいつもの何倍もの強さで襲ってくる。

( A )「く、くわあ〜」

('A )「……」

('A`)「海だっ!!」

ガードレールを隔てて、やや遠方に群青色の海が広がっていた。
少し視点を下げると、様々な柄のパラソルがこちらを向いている。
テトラポットが線を成し、華やぐ人々の声が聞こえてくるようだ……。

('A`)「海…」

('A`)「いいねえ海」

 

 

24 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 20:09:18.10 ID:9iPzyZ2K0
上を見上げれば空の青。

そして頭を下ろせば海の青。こちらはやや深みがある青。
俺の旅情が、最大にまで膨張する。
俺の心は必死にここから見える景色を、いつまでも覚えていようとする。

――そんなこと意識しなくても、本当に印象に残ったのなら、
いつまでも残るんだけどな。

 

('A`)(そんなこと、わかっているけど)

('A`)(かれこれ5分間棒立ちの俺)

('A`) ぼーっ…

 

('A`)(小さい頃以来だなあ。ナマで海を見るのは。 こんなに雄大だっけ?)

 

そんな気持ちを抱きつつ、俺はふと我に返った。
俺は再び自転車に跨る。さあ、あともうひと踏ん張りさ。

 

 

29 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 20:36:00.04 ID:9iPzyZ2K0

道路に沿って走行すると、
残念ながら海から僅かに離れていく。
途中、海水場へと別れる道もあった。
もし海水パンツがあるならば、ちょっくら泳いでいきたい気もする。

しかし、毎日陽に当たっているのにあまり日焼けしないこの貧弱な肌と、
痩せ細っていて弱弱しい肉体を晒すのが嫌だ。

('A`)(うーん。もう少し黒くはならないものかね)

俺はハンドルを握る腕を見た。
腕は、少し赤みを帯びているだけ。ああ、やだな。

 

('A`)(ああー、内藤みたいな隆々とした肉体になりたいよ)

まあでも、顔がこんな→( ^ω^)だから、
あいつはあまりたくましくは見えないんだがね。

 

 

31 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 20:38:53.56 ID:9iPzyZ2K0
('A`)「ふう……」

しばらく走っていると、風景は山と海だけから、
少しずつ町並みへと変わる。
俺は広場のようなところに自転車を停め、ベンチに腰を下ろした。
そして、地図を開く。

('A`)「親父の地図、見辛いなあ……」

サロン県内に着き、さらに海が見える町まで辿り着いた。
だからこれからは、親父が作ってくれた地図にシフト。

('A`)「どっちがどっちなんだろう……?」

手作り感溢れるその地図は、見辛くも俺を目的地へと確実に導いてくれる。
…と、思う。

 

('A`)「なるほど、2丁目ね。 ”しょぼくれ酒場”か」

 

 

34 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 20:44:51.69 ID:9iPzyZ2K0
ショボン叔父さんは、
個人経営の居酒屋「しょぼくれ酒場」を奥さんと一緒に経営している。
もちろん、足を運んだことは一度も無い。

('A`)「この店の名前はいいな…」

('A`)「いじけてるみたいだ」

海からどんどん遠ざかり、俺は町の中へと入っていく。
所変わればなんとやら で、やはり町によって空気や景色が全く違う。

 

('A`)「ここらの女子高生の制服はかわいいなあ」

 

 

そんな下心も持ちつつ、俺は地図を頼りに町を散策していく。

 

 

36 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 20:50:47.96 ID:9iPzyZ2K0
故郷と離れた町の風を受けつつ、
俺の自転車はどうやら目的地へ着いたようだ。
しかし、なぜか感慨深いものはない。 何故だろうか?

(;'A`)「あれ…… ここ、二丁目だよねえ」

二丁目はとても狭いエリアだ。
俺は建っている店を一軒ずつ見て周りながら、町内を巡ったはず…

 

(;'A`)「なんで、ないんだろう」

 

そう、最終の目的的である居酒屋が、
どこにも見当たらないのだ。

 

 

37 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 20:54:02.42 ID:9iPzyZ2K0
('A`)「なんでだろう…」

俺は、通行人に声を掛けた。

('A`)「あの、すいません」

「なんだね?」

('A`)「”しょぼくれ酒場”ってどこですかね?」

('A`)「ここにあるはずなんですけど…」

初老の通行人は、少し考えたあと、はっとした顔でこちらを見つめた。

「きみ、ショボンさんに何か用かね?」

('A`)「はい。尋ねに来たんです」

 

 

38 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 20:57:23.93 ID:9iPzyZ2K0
「そりゃまた…」

老人は、また一呼吸を置いた。
そして、とある建物を黙って指差した。

(;'A`)「…あれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

老人の指先にあったのは、
寂れた一軒の建物。入り口はくすんでいて、目に留まらなかった………

 

 

40 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 21:00:37.48 ID:9iPzyZ2K0
('A`;)「え? あ、あのもしかして」

老人は僅かに頷き、早々に去ってしまった。
まさか……

俺は寂れた建物に近づいた。
町に揉み消され、ひっそりと行き場を無くしているように見える。
だがしかし、入り口に「閉店」などという張り紙は無い。
店内が、上方のガラスから微かに見える。
薄暗い灯りがついていた。
人はいるということか?しかし、ドアは閉まっている。

 

('A`)「あのー! もしもし……」

 

 

俺はドアを軽く叩いた。

 

 

43 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 21:04:22.35 ID:9iPzyZ2K0
「兄貴ぃ! 誰か来たみたいっすよ」

「出たほうがよろしいのではないかと私は思います」

「……誰だ? まったく…」

 

酒気を帯びたような、ピッチが定まらない声の主が一人いる。
聞き覚えがある。彼がショボン叔父さんだ。
そして、足音が段々とこちらへ近づいてくる。ああ、やっと対峙のときなのか……

 

ガラッ!

 

 

 

(;'A`)「あ、あの……」

 

 

48 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 21:14:09.46 ID:9iPzyZ2K0
(´・ω・`) 「うぃー……」

 

出てきた人物は
くたびれたシワシワのシャツに、赤い頬、片手に酒瓶。
無精髭がだらしなく、髪の毛も色んな方向へはねていた。

…こんな人だったっけ?叔父さんって……
そして、挨拶を言おうとした次の瞬間だった。

 

50 名前: ◆ps3CKPkBXI投稿日:07/10/27(土) 21:16:53.46 ID:9iPzyZ2K0
(´・ω・`)
「やあ
ようこそ、”しょぼくれ酒場へ”
このいも焼酎はサービスだから、まずは飲め、飲まなきゃシメる
 
うん、「閉店」なんだ。澄まない。
嫁さんもそりゃ逃げるわな。許して再婚してもらおうとも思っていない。

でも、この寂れた入り口を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「同情」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした現代社会で、そういう気持ちを忘れないで欲しい。
そう思いつつ、昼間から酒を浴びる俺。

じゃあ、注文をきkうぇあjkfrh;」

 

 

 

(´・ω・`) 「……ところでおまえ誰?」

 

 

(やくそく編1 おわり)

 

 

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