4 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 22:54:08 ID: 4AEQ8iCb0
※
空はオレンジの絵の具で染まっていた。
それに段々と黒の絵の具が混じっていき、天上は俺達が進む道を徐々に暗くさせた。
俺は徐に、腕に巻いた時計に目を配った。時刻は19時半を周っている。
対向車線を走る車のライトが、俺とアニーの体躯を薄黄色に照らした。
('A`)「もうすぐラウンジ県だ」
独り言と小粒の汗を、
ポツリと地に落とす。
('A`)「もうすぐ夜が来る」
ドクオは夏の旅に出るようです
6 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 22:58:33 ID: 4AEQ8iCb0
道沿いの商店は、どこもかしこもシャッターを閉めていた。
俺は太腿を擦ってみる。筋肉が張っていた。
('A`)(飛ばしすぎちゃったかなあ… ちょっと疲れてきたよ)
(;´_ゝ`)「……」
アニーの自転車を漕ぐペースはとても速い。
その調子は落ちることなく、弾丸のようにアスファルトを突き進んでいく。
(;'A`)(待ってくれやー)
最初は同じ速度で走っていけたのだが、俺は自分の体力ってやつを分かっちゃいない。
というか、ペース配分がなっていない。
飛ばしすぎたのだ。明らかに。
(;'A`)(…あいやー)
7 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:02:08 ID: 4AEQ8iCb0
俺とアニーの距離が段々と開いていく。彼の大柄な背中が小さくなっていく。
距離を置いて、彼を後ろの視点から見つめてみた。
一定の速さ、変わらないフォームでどんどん直進していく姿は、
まるでテレビで見た競輪の選手のようだ。
そして俺はへばってしまって、さしずめ古い自転車をガタガタ進ませる老婆のよう。
(;'A`)「あうあう」
('A`)「うぇっ、ウェイト」
('A`)「アニー、プリーズウェイト〜」
力を振り絞り、最大限アニーとの距離を詰めて呼びかけを投げる。
(;´_ゝ`)
しかし、俺の努力空しく、
アニーはただ黙々とペダルを踏み続けた。
11 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:07:36 ID: 4AEQ8iCb0
(;'A`)「ちいっ」
仕方がないから俺は後に続いた。
これ以上距離が開かないよう、精一杯ハンドルを握りながら。
(;'A`)「はひゅう。ふひゅう」
この旅に出て、体力は以前より少しは上昇したと思った。
ツンと出会った日。
そう、雨の中で必死で自転車を漕いで、倒れてしまった日もそう思った。
しかし、それはやはり思い違いだったか…?
(;'A`)「次の信号、赤になれ!赤になれ!」
12 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:11:45 ID: 4AEQ8iCb0
(;'A`)(諦めるものか。サロン県までもう少しなんだ)
そう、アニーが速すぎるのだ。彼はきっとアスリートなのだ。
そう思い込んで、俺は自分の限界を信じる。
いける。まだいける。
(;'A`)「…やっぱ無理☆」
その瞬間
一瞬の緩みから全てが決壊し、俺は転倒した。
アスファルトに身を打ち付けるのはこれで二度目なのだった。
13 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:15:54 ID: 4AEQ8iCb0
(; A )「……」
今回は転倒したものの、意識は失ってはいない。
きっと気の緩みから、体のバランスが崩れてしまったのだろう。
肘と脇腹にジンジンとした痛みを抱え、
転倒した自転車と重なりながら、俺は夜空を見る。
(;'A`)「一番星見っけ」
(;'A`)「…あ〜。腕痛い」
(;'A`)「腹減った」
アスファルトに、自転車と被さり寝転がりながら、
コイツは何をしているのだろうか。
そんな場合じゃない。
(;'A`)「アニーは…」
半身を持ち上げて、道の先を見る。
俺は、赤信号で足を止めるアニーの姿を見つけた。
14 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:18:08 ID: 4AEQ8iCb0
(;´_ゝ`)「フゥ……」
( ´_ゝ`)「?」
( ´_ゝ`)「ナニカが… タリナイ」
( ´_ゝ`)「!」
(;;´_ゝ`)「ドクだ!ドクがいない!」
「おーい、アニー。ここだよー」 ('A`)ノ
( ´_ゝ`)「……」
(;´_ゝ`)「OH!そんなトコロでなにクタバッテルんだ!!」
17 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:20:16 ID: 4AEQ8iCb0
良かった。アニーが俺に気づいてくれた。こちらに手を振っている。
もし信号が青だったならば、彼はあのまま突き抜けてしまっただろう。
それじゃお互い困るというものだ。
俺は立ち上がり、砂を払い、自転車をノロノロと牽いて彼の元へ向かった。
(;'A`)「良かったあ。赤信号で」
( ´_ゝ`)「バナナのカワでスリップしちゃったのかい?」
(*´_ゝ`)「HAHAHA!!」
(#'A`)「…」
(;´_ゝ`)「Sorry… Sorry for you」
('A`)「もうちょっと、ペース。ペースダウン」
19 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:23:03 ID: 4AEQ8iCb0
( ´_ゝ`)「OK」
( ´_ゝ`)「でも、あのカンバンを見てくれないか?」
('A`)「…ん? 標識?」
俺は上を見上げた。
道路標識は、俺達の進行方向をこう示してあった。
↑ サロン県 0.3km
('A`)「…なんと」
20 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:25:04 ID: 4AEQ8iCb0
そう。
ふと気づけば、俺達はサロン県に着いていたのだ。
正確にはあと三百メートルなのだが、もう着いたも同然。
(*´_ゝ`)「やったな… ドク」
(*´_ゝ`)「Good job だよ」
('A`)「ああ…」
なんだか心の中の突っ掛かりがストンと取れた気がした。
…何故だろう?
( ´_ゝ`)「ヨロコブのはまだ早い」
('A`)「うん、まだ”おまえの場所”を見つけてないもんな」
( ´_ゝ`)「Yes」
俺は時計を見てみる。二十時を少し過ぎていた。車の流れは一層激しくなっていた。
22 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:28:08 ID: 4AEQ8iCb0
漆黒に染まってしまった夜の空を見上げ、俺は呟く。
('A`)「すっかりもう夜だな」
本来、二十時という時間帯に、
「すっかりもう夜」なんて表現は使わない。
旅に出る前は、テレビやネットやゲーム。それらのゴールデンタイムである時間帯だ。
しかし、今じゃすっかりその時間は、就寝時間へとすり替わった。
この時間帯。
もしアニーと出会っていなかったら、今頃いつものように寝床を探している最中だろう。
('A`)「ふああ……」
思わず欠伸を漏らしてしまう。
二十時に体が眠くなるなんて、俺はまるで幼児のようだと思ってしまった。
23 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:30:27 ID: 4AEQ8iCb0
( ´_ゝ`)「フォオオオオ」
('A` )「なんだ、うつったか?」
(*´_ゝ`)「フフフ…」
俺とアニーは一旦自転車を漕ぐのを止め、牽きながら歩いていた。
その脇で、大なり小なりの自動車が、俺達の何倍ものスピードで行き来していた。
そしてその流れの隙間から覗くことができる向こう側の景色は、
暗闇に包まれてはいたが、雄大に広がる田園風景だった。
耳を澄ますと、車がアスファルトを滑る音に混じって、虫の音が聞こえるんだ。
目にする車のナンバーは、サロン県ナンバーの車体が多く、達成感を感じてしまう。
肉体の疲れもあってか、自然と足取りが遅く、遅くなっていく……
26 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:35:42 ID: 4AEQ8iCb0
('A`) ぽけーっ
( ´_ゝ`)「Very tired」
( ´_ゝ`)「寝るばしょを さがさないか?」
('A`)「…ん? あ、ああ」
先に寝床の話しを切り出してきたのはアニーからだった。
疲れている俺の様子を察してなのか?
( ´_ゝ`)「じゃあつぎのみちを…」
( ´_ゝ`)「み…g…」
( _ゝ )「zzzZZZZ」
……単に自分も疲れてしまったからか。
28 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:39:27 ID: 4AEQ8iCb0
※
大道を外れて、住宅街を徘徊する俺とアニー。
サロンの街並みはVIP、ラウンジより、緑が多いと感じる。少し田舎っぽいというか。
('A`)「良いかアニー。野宿に最適な公園を選ぶコツとは…」
( _ゝ )「…」
('A`)「まず一つは〜…」
('A`)「〜〜〜〜」
( ´_ゝ )「…zzZ」
('A`)「これくらいかな」
('A`)「聞いてた?」
( ´_ゝ`)「Um..... ああ、イヌのウンコにはきをつけるんだろ?」
('A`)「駄目だこりゃ」
29 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:42:27 ID: 4AEQ8iCb0
大体、15分くらい周辺をふらふらしていると、2箇所は公園が見つかる。
アニーの適当な独断により、遊具が沢山ある方の公園に野宿することが決まった。
きっと、日本の公園の遊具が物珍しいのだろう。まあ、俺は寝れればどこだっていいんだけどな。
俺は公園という場所に泊まるのが好きだった。
一日が終わり、公園のベンチに腰を下ろすたびに、旅を始めたばかりの頃を思い出す。
('A`)「…ふむ」
('A`)「よし、ここは安全だな。今夜の寝床はここにしよう」
( ´_ゝ`)「なにが安全ナンダイ?」
('A`)「ちょっ、おま… 早速ブランコで遊んでやがる。疲れてたんじゃなかったのかよ」
(*´_ゝ`)「コレ、おもしれえYO!!」
(;'A`)「おいおい…」
31 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:46:13 ID: 4AEQ8iCb0
(;'A`)
('A`)
('A`)(阿部さん……)
俺は阿部さんからもらった紙を丁寧に畳んで、リュックの小ポケットに戻した。
彼と別れてからどれくらい経っただろうか。(とはいえ縁日で再会したが)
そして、サロンの空を眺めつつ、ちょっとだけ頭の中を空にしてみる。
一日の中で一番、時間が、綺麗に、そして緩やかに、過ぎていく時。
……さて、眠るとしよう。
33 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:47:48 ID: 4AEQ8iCb0
('A`)「おーいアニー。寝袋のスペアがあるんだが…」
( _ゝ )「ZZZZZZZZZZ」
(;'A`)「…おいおい」
遊ぶだけ遊んだらさっさと寝る。
ある意味羨ましい人物である彼は、自分の寝袋の中で既に眠りについていた。
下宿のことを気にしていた一方で、やはりこうなることを覚悟していたのだろうか。
('A`)「俺もねーむろっと」
('A`)「ふああ」
35 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:53:41 ID: 4AEQ8iCb0
毎晩のことだ。
寝袋から、顔をひょこっと出して空を見つめる。
そのたびに思うことがある。
空は広い。どこまでも続く。
俺たちはいつも、この空の下で泣いたり笑ったりしているんだな。
当たり前のことだ。至極当たり前のこと。
でも、そんな当たり前のことに気付けなかった、以前の俺がいる。
海の向こうにある、アニーの国の空も、ここの空と一体を成しているのだ。
そこに住む人々の、髪の色や目の色、話す言葉が全く異なろうが、
見上げる空の、その雄大さと、鮮やかな色は、変わらないんだ。
('A`)(変わらないんだ……)
部屋の窓から見るより、こうして寝転んで眺めるほうが、
地球の丸みを感じられると、俺は思った。
夏の空は、好きなんだ。
37 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/20(土) 23:58:42 ID: 4AEQ8iCb0
瞼の裏は、何の映像も写さず、
ただ黒色を提供して、疲れた俺を眠りへ誘うだけだった。
本当に眠いときは、瞳を閉じた途端に、
何も考えられずに眠りへ落ちてしまうのだ。
( A ) ………
( _ゝ ) ………
アニーは、まだ見ぬ景色を切望する思いを胸に
俺は、サロンの地を遂に踏むことができた という達成感を胸に
今日という一日を終えたのだった。
39 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:00:02 ID: ISRRBGan0
※
ゆっくりと意識が目覚める。
朝の空気を目一杯に吸い込むと、俺の体は機能する。
('A`)「うーん……」
大きく伸びをする俺の視界に入ってきたのは、
ジャングルジムの上で遠くを見つめるアニーだった。
( ´_ゝ`)「!! Good mornning Doku」
('A`)「おはよう」
('A`)「朝から何してるの?」
( ´_ゝ`)「まち… まちをね、みていたんだ」
41 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:00:42 ID: ISRRBGan0
※
ゆっくりと意識が目覚める。
朝の空気を目一杯に吸い込むと、俺の体は機能する。
('A`)「うーん……」
大きく伸びをする俺の視界に入ってきたのは、
ジャングルジムの上で遠くを見つめるアニーだった。
( ´_ゝ`)「!! Good mornning Doku」
('A`)「おはよう」
('A`)「朝から何してるの?」
( ´_ゝ`)「まち… まちをね、みていたんだ」
42 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:01:16 ID: ISRRBGan0
起きたばかりで、まだ鈍い体で、
俺もジャングルジムをよじ登る。子供の頃を微かに思い出した。
('A`)「ひゃー」
('A`)「朝のいい運動に… ならないけど」
('A`)「いいな。こういうのも」
バランスよく、手と腰を鉄の棒の上に乗せて、アニーの隣に並ぶ。
彼は「町を見ていた」 と言うが、そこから見える範囲はもちろん狭いものだ。
('A`)「何が見えるんだ?」
('A`)「公園の小さなグランドと、家の屋根が重なっているのしか見えないぜ」
43 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:02:42 ID: ISRRBGan0
アニーは不適に笑い、こう言った。
( ´_ゝ`)「ジューブンじゃないか それだけで」
('A`)「!?」
( ´_ゝ`)「じぶんの め というレンズに」
( ´_ゝ`)「うつった しかくでも まるでもない けしきはね」
( ´_ゝ`)「そのうつしたイッシュン しか見れないものなんだ」
('A`)(なんだよく分からないな)
45 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:04:11 ID: ISRRBGan0
( ´_ゝ`)「ボクはさっきから ここにすわって」
( ´_ゝ`)「ココロに なんまいも しゃしんをとったよ」
( ´_ゝ`)「だんだん、まちがあかるくなるしゃしん あかるくなったしゃしん」
( ´_ゝ`)「でんせんに ことりがとまったしゃしん とびたったしゃしん」
( ´_ゝ`)「さんぽのいぬが はしるしゃしん あるくしゃしん」
( ´_ゝ`)「ぜんぶ、そのイッシュン しか じぶんのレンズに うつせないんだよ」
('A`)「………」
50 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:06:20 ID: ISRRBGan0
アニーは高い鼻を摩り、今度は満足気な表情を作る。
( ´_ゝ`)「ぼく にほんごヘタだから わかりづらい ごめんね」
('A`)「いいや。そんなことねえよ。伝わったよ。 ……ほんとに」
( ´_ゝ`)「ひとみに写したメモリーは そのうち消える」
( ´_ゝ`)「……でも、いつまでたっても きえないメモリーもある」
52 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:09:50 ID: ISRRBGan0
('A`)「ああ。あの写真の風景だろ?」
('A`)「もう、お前の言いたいことは十分に分かってるつもりさ」
太陽が輝き始めた。
淡く、優しく、まだ強くない日光に二人の体が晒される。
('A`)「よし、早く飯食べて出発しよう」
( ´_ゝ`)「ああ」
53 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:11:49 ID: ISRRBGan0
※
公園を出発してから数時間が経過した。
町から、段々と冷たくて気持ちのいい空気が無くなっていく。
代わりに訪れるのは、強い日差し。
Tシャツには早くも汗が染みてきた。
('A`)「今日もあっついわ」
( ´_ゝ`)「……」
アニーは注意深く、町を散策していた。
きっと自分の記憶と、町並みをリンクさせているのだろう。
( ´_ゝ`)「……」
55 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:15:30 ID: ISRRBGan0
('A`)「あぁ〜。もう十時だ」
('A`)「なあ、この角の先にコンビニあるみたいだから、休まないか?」
そう言って、ハンドルのブレーキを軽く握ったときだった。
アニーの青い瞳がギョロリと一方向を見ている。
何か重大なことを発見したような表情だ。まさか。
( ´_ゝ`)「―――!!」
( ´_ゝ`)「ドク!! look!!! あのヤマをミロ!!」
(;'A`)「ん?」
アニーの大きく太い指が指した先には、斜面が禿げた山があった。
これは俺にもなんとなく見覚えがある。
――そうだ。
57 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:18:09 ID: ISRRBGan0
(;´_ゝ`)「やった!間違いないよ!」
アニーは咄嗟にポケットから写真を取り出して、俺に見せる。
見慣れてしまったセピアの風景の奥にあったのは、
あのはげ山だった。確かにあの山だ。はげている箇所が丸きり同じ…。
( ´_ゝ`)「あのマウンテンにむかってはしれば」
('A`)「…見つかるかも ってか?」
荒削りで無計画な考えだった。
だが、もはやそれくらいしか手はない。
( ´_ゝ`)「Ohhhhhhhhh!!!!!11」
58 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:20:17 ID: ISRRBGan0
アニーは軽く腰を上げて、立ち乗りでグングンと町を走っていく。
俺は追い付くのがやっとだ。
もともと近い位置にあったはげ山との距離が、どんどん縮まる。
( ´_ゝ`)「―――!!!」
(;'A`)「今度はどうした?」
(;´_ゝ`)「こ、このダガシヤ!!! まだあったのか!!!」
急ブレーキをかけ、アニーが次に発見したのは、
幼い日に通ったらしい駄菓子屋だった。
彼の心のメモリーが、この町と確実にリンクし始めている。
59 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:22:08 ID: ISRRBGan0
('A`)「凄いな!! もう見つかったも同然じゃないか?」
( ´_ゝ`)「ぶつぶつ… ここに… あるから… だから…」
( ´_ゝ`)「レフト!!!」
数秒だけ考えごとをして、
アニーはまたロケットのように飛んでいく。
そして、道の先でまた何かを発見し、また数秒だけ考えて、自転車を走らせた。
( ´_ゝ`)「木のでんちゅうだ!!」
( ´_ゝ`)「しょんべん・コゾー!!」
( ´_ゝ`)「ステーションは たてかえたのか!?」
(;´_ゝ`)「ライト!! レフト!! ライトだ!!!」
60 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:23:18 ID: ISRRBGan0
左へ右へと曲がりながらも、
確実に「あの場所」へ近づいている実感が沸いてきた。
('A`)(実際に見てみるとどんなんなんだろう…)
( ´_ゝ`)(オットー…)
( ´_ゝ`)(変わらない。カワッテいないんだよ)
( ´_ゝ`)(良かった…… あれがおこったのが、このまちじゃなくて)
( ´_ゝ;)(ほんとうによかったよ…)
二台の自転車が軽快に道路を走る。
二人とも漕ぐスピードが落ち着いてきた。俺の腕は肘から手の甲までじっとりと汗で濡れている。
アニーの青いTシャツも、背中の部分が汗でびしょびしょだ。
75 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:57:44 ID: ql96934q0
※
( ´_ゝ`)「――!!」
('A`)「お、また手がかりが見つかったか?」
( ´_ゝ`)「……この、さきだ」
( ´_ゝ`)「このヒマワリのみちのさきなんだ」
道沿いには、大きなヒマワリが何本も並んでいた。
どれも頭を垂れていて、会釈をしているようだ。
ヒマワリはやや東向きに頭を垂れている。そして、今の進行方向も東――。
真っ直ぐ伸びる道路の向こうには、陽炎が揺れている。
( ´_ゝ`)「いこう」
77 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 00:59:53 ID: ql96934q0
黙ってただ、進み続ける。
アニーによれば、この道を真っ直ぐ進んだのち、
左に曲がれば、開けた場所があるそうだ。
つまり、そこがラズベリーの草原。
('A`)「…」
( ´_ゝ`)「……………」
―――
(´_ゝ`) ついに おわかれか オットー
(´<_`) さすがだな おにいちゃん
(;<_`) かなしくないのか?
(´_ゝ`) かなしいさ………
79 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:02:04 ID: ql96934q0
(´_ゝ`) でもYOー
(´_ゝ`) あにきってのは なみだをみせちゃいけねーんだ
(´_ゝ`) Are you ok?
(´<_;) さすがだな おにいちゃん……
「アニー、ほら早く来るんだ」
(´_ゝ`) じかんだ
(´<_;) おにいちゃん!!!
(´_ゝ`) なあに
(´_ゝ`) オットーのこえがきこえたら、うみをおよいで、すぐかけつけるYOー
(´<_;) さすがだな…
80 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:04:54 ID: ql96934q0
(´_ゝ`) そんじゃ…
(´<_`) まって!!!
(´_ゝ`) ??
(´<_`) これ、あげるよ
(´_ゝ`) いいの? だいじにしてたじゃないカYO−
(´<_`) おにいちゃんに、もっててほしいんだ!!
(´_ゝ`)……はあくした
―――
( ´_ゝ`)(把握した)
(;'A`)「あー、もう。かなりこの道長いな……」
85 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:08:33 ID: ql96934q0
道の先で揺らめく陽炎は、行けども行けども突き当たりに辿り着けない俺達を、
笑っているような気がした。
アニーの本気の速度で行けばすぐ着くだろうが、
彼は何か物思いに耽っている。ノロノロ運転だ。
もうすぐ探していた場所に辿り着けるというのに、どうしたのだろうか?
('A`)「あと…50…46…43メートル…」
( ´_ゝ`)「…」
( ´_ゝ`)「ヨシ」
( ´_ゝ`)「とばすぞ!!!!」
90 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:14:46 ID: ql96934q0
またアニーは腰を浮かし、立ちこぎでスパートに入った。
アニーの隆々とした太腿が、汗を弾いている……
(;'A`)「おい、ちょっと待って!!」
(;´_ゝ`)「…」
風景が加速する。
陽炎を追い越していく。
何も考えられなくなる。
そして、
突き当たりを曲がった俺たちの目に、飛び込んできたものは――――
91 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:19:46 ID: ql96934q0
(;'A`)「…………」
( ´_ゝ`)「………」
思わず、口を、大きく開いてしまった。
自転車を漕ぐ足を、止めることが出来なかった。
曲がった先に見えた景色。それは
(;'A`)(アパートがこんなにたくさん…… 団地か)
(;'A`)(あの写真の面影は、一欠けらも無いじゃないか)
( ´_ゝ`)「……」
(;'A`)「もうちょっと、奥まで進んでみようぜ。な!」
96 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:25:53 ID: ql96934q0
待っていたのは、黄金色の草原でも、
紫色のラベンダーでもなかった。
無機質に立ち並ぶ、大きな集合住宅。
本来そこにあったはずの、自然の景観をぶち壊すほどの。
ここに、アニーの場所があったのは間違いなかった。
禿げ山を正面に捉えている構図が、写真とぴったり一致していたからだ。
しかし、それをハッキリと言葉にするのは、
余りに辛すぎる。
( ´_ゝ`)「……」
('A`)「……」
団地は閑静だった。
時々、子供のはしゃぐ声が聞こえてきた。
98 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:30:11 ID: ql96934q0
('A`)(明らかに、山を、草原を拓いて建てましたって感じが…)
('A`)(やはり、時の流れは景色を変えるか)
( ´_ゝ`)「…ヤッパリね」
('A`)「!?」
( ´_ゝ`)「なんとなく、わかっていたんだよ」
( A )「……」
('A`)「ほら!でもさ! この、この奥にまた何かあるかもしれんし」
(#´_ゝ`)「シャラップ!!!」
('A`)「ひっ…」
103 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:35:08 ID: ql96934q0
俺に怒声を投げたあと、アニーは拳を強く握り潰した。
それから、ゆっくりと写真を取り出し、
それを見つめながら、その大きな大きな体を、震わしている。
自転車は、止め具をつけずに、
アスファルトに転がったままに放置されていた。
( _ゝ )「…」
(;'A`)「ごめん、な…」
( ´_ゝ`)「いいや。 ちょっとカッとなりすぎたよ」
( ´_ゝ`)「HAHA……」
106 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:39:34 ID: ql96934q0
気がついたことがある。
本当に、外国人はリアクションがでかい。
嬉しいときは馬鹿笑い、悲しいときは顔面蒼白。
中学生のころ、英語の教科書で見た押絵そのものだと、
アニーを見て思う。
( ´_ゝ`)「……」
('A`)(どうしたものかな)
( ´_ゝ`)(どうしたものカナ)
( ´_ゝ`)「オットー……」
ふと気がつくと、
アニーは、リュックから何かを取り出していた。
108 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:43:21 ID: ql96934q0
('A`)「…ん? アニー、それなに?」
( ´_ゝ`)「…これかい?」
( ´_ゝ`)「これは…」
( ´_ゝ`)「オットーのかたみなんだ」
形見? 薄々勘付いていたが、何となく繋がり始めた。
彼が写真の中の風景を、探していた理由。
そして、俺が彼から受け取ったものは――
('A`)「随分、古い型のカメラだな」
( ´_ゝ`)「アンティークさ。 ふふっ…」
111 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:48:34 ID: ql96934q0
形見のカメラは、市販のインスタントカメラより一回り大きかった。
あちらこちらが金属製で、特有の冷たさを感じるはずなのに、何故か暖かい。
これが、持ち主の温もりというのなら納得だ。
('A`)「ちゃんと撮れるのか?」
( ´_ゝ`)「もちろん」
('A`)「このカメラで、風景を収めようとしたのかい?」
( ´_ゝ`)「ああ……」
( ´_ゝ`)「ボクは、小さいときにおとうとといきわかれたんだ」
('A`)「!?」
114 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:52:20 ID: ql96934q0
アニーは、青空を仰ぎながら話しを続ける。
俺は、カメラを摩りながら黙ってそれを聞くしかなかった。
( ´_ゝ`)「おやがリコンし」
( ´_ゝ`)「ボクは、アメリカンのパパにひきとられ、海のムコウに」
( ´_ゝ`)「おとうとは、ジャパニーズのママにひきとられ、ここにのこったんだ」
( ´_ゝ`)「すうかげつご、たよりがきた」
( ´_ゝ`)「マロン県にひっこししました と」
( ´_ゝ`)「そのすうかげつご、なにがあったとおもう?」
117 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 01:56:35 ID: ql96934q0
('A`)「マロン県、20年前…」
('A`)「…!!」
(;'A`)「だっ、大震災…」
マロン県は、学校の教科書に載るくらいの大地震が起こった地だった。
延べ数千人が被害に見舞われ、大怪我、死を被った。
(;'A`)「まさか…」
アニーは、黙ってゆっくりと頷く。
「そんなことがあったのか」で済まされた過去の事柄が、
いきなりグッと接近した瞬間だった。
119 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:01:19 ID: ql96934q0
( ´_ゝ`)「ひにくにも、それの”イチブシジュー”をしったのは」
( ´_ゝ`)「けっこう、あとになってからだったよ」
( ;_ゝ`)「…またあおうと、ぜったいやくそくしたのにな…」
(;'A`)「アニー…」
アニーの体が震える。大粒の涙が、2滴、3滴だけ地に落ちた。
予想に反して、その流れはすぐに止まった。
真っ赤になった顔を上げて、彼は話を続ける。
( ´_ゝ`)「…ココロに」
( ´_ゝ`)「ココロにのこしたしゃしんは、ずっときえないままだよ」
121 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:06:02 ID: ql96934q0
( ´_ゝ`)「あのひ… ここで…」
( ´_ゝ`)「かけっこしたコト くさのかんむりをつくったコト」
( ´_ゝ`)「きんじょのコとあそんだコト」
( ´_ゝ`)「オットーの えがお なきがお おこったかお」
( ´_ゝ`)「ぜんぶ、このメでうつした! そして、ココロにのこっている!」
( ´_ゝ`)「でも、オットーは、それをわすれてないかな?」
( ´_ゝ`)「そらのうえで いたいたいとないていないかな?」
( ;_ゝ;)「――そんなことばかりを、ぼくはオトナになってからも、うみのむこうでなやんだよ」
('A`)「……」
また、大粒の涙が地に落ちた。
窓から、専業主婦が物珍しそうな顔で俺たちを傍観している。
125 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:10:03 ID: ql96934q0
さすがだな … … … …
わすれてなんか いるもんか … … … … …
( ;_ゝ`)「!!!???」
いきなり、アニーの体が波を打ち、背筋がグンと伸びた。何かに気付いたように。
そして、周囲を見渡し始めた。
(;'A`)「どうしたんだ? アニー」
127 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:15:15 ID: ql96934q0
( ´_ゝ`)「…オットー?」
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)「こっちだ!! こっちだよドク!!」
何を言い出すのかと思うと、突然アニーは一方向に走り出した。
倒れたままの自転車を踏み付け、
転がっている子供のボールを蹴っ飛ばし、
住人のおばさんの挨拶を無視する程に、
夢中で走っていた。
(;'A`)「ま、まてよー!!」
俺も自転車を放り出して、必死で走り出す。畜生、やっぱり足も速いなアイツは…
しかし、それは彼を動かす「何か」も加担しているのだ。
何があるんだ。この先に。
134 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:22:17 ID: ql96934q0
三つ目の建物の裏側に、山肌があった。
まさに山を拓いてここを建てたのが、丸分かりである。
アニーはそこをぐんぐんと登っていく。俺も負けじと、登っていく。
(;´_ゝ`)「ぬおおおおお!!!!」
(;'A`)「ひぃ…ひぃ…」
一足先に、アニーが上に到達した。
そして、両膝をガクッと落とし、何かに感激している。
(;'A`)「ま…さか…」
( ´_ゝ`)「カモン!ドク!はやく… きてごらんよ!!!」
137 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:28:42 ID: ql96934q0
('A`)「よっし… 着いたぞ」
('A`)「――!!!」
( ´_ゝ`)「ほら… キレイだろ?」
( ;_ゝ`)「HAHA… ラベンダーさ…」
( ;_ゝ`)「オットーが… おしえてくれたんダ…」
( ;_ゝ`)「のこってたんダ…」
ほんの僅かな範囲だが、あの写真で見たのと同じ色の植物が、ラベンダーが、
そこで生きていた。根を生やしていた。
その色は、古ぼけた写真で見るよりよっぽど鮮明で、とても華奢な身なのに、
とても力強く俺の目には見えたんだ。
139 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:32:15 ID: ql96934q0
('A`)「…ん?」
植物に見惚れていた俺は、ふとポケットの異物感に気づく。
('A`)「あ、カメラ… 撮らなくていいのかい?」
('A`)「めちゃくちゃ縮小されちゃったけどな! はは…」
( ´_ゝ`)「いいんだ」
('A`)「…え?」
( ´_ゝ`)「オットーはわすれてなんかいなかった ココロにちゃんとうつしていたんだ」
( ´_ゝ`)「このカメラのフィルムが たくさんのこっているのにもなっとくだよ……」
('A`)「??」
142 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:38:12 ID: ql96934q0
( ´_ゝ`)「きみは、ぼくいじょうに、ココロにのこしていたんだな」
( ;_ゝ`)「だから、こんなカメラ、ひつようなかったのかもな……」
('A`)「俺さあ、思うんだけど」
('A`)「オットーは”共有”したかったんじゃないかな? そのカメラを通して」
('A`)「二人、別々の場所にいれば、目にする景色… 心に残す景色も違うだろ?」
('A`)「きっと、海の向こうの写真を撮って送ったりしてほしかったんだよ」
( ´_ゝ`)「… いいこというナ かおのわりに」
('A`)
(*'A`)「余計なお世話だよ」
147 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:42:23 ID: ql96934q0
( ´_ゝ`)「きょゆうか……」
( ´_ゝ`)「それじゃあ、このふたりのけしきは」
( ´_ゝ`)「とるひつようは、なかったのかもね」
('A`)「そうだよ!!」
( ´_ゝ`)(このラベンダーは、オットーがまもってくれたんダ………)
( ´_ゝ`)(このラベンダーは、ぼくとオットーのメモリーなんだからなぁ……)
('A`)「凄く都合いいこと言うかもしれないけどごめんよ」
('A`)「でも、アニーの持論に合わせたらこうなる」
( ´_ゝ`)「…なんだい?」
148 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:46:24 ID: ql96934q0
('A`)「結局、この写真の風景は消えちまったワケだが」
('A`)「アニーと、オットーの心の中には残っていたんだ」
('A`)「すごく安直で、すごく曖昧な 事の片し方だろ?」
('A`)「でも、それでいいと思うんだ俺」
( ´_ゝ`)「……」
( ´_ゝ`)「それを前提にさがしていたつもり」
俺は山肌から飛び降りてしまった。
流石だな兄者
152 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:50:31 ID: ql96934q0
( ´_ゝ`)「おーい!! ダイジョブかー!!」
('A`)ノ「あいたた… ああ、大丈夫だよ〜」
( ´_ゝ`)「今、そっちに向かうよ」
――
(;'A`)「しっかしなあ、最初からそう思っていたのか」
( ´_ゝ`)「でも、かくしんがもてなかった」
( ´_ゝ`)「オットーはココロのなかがからっぽになっていたかもしれない」
('A`)「まあ…そうだな そうだよな」
153 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:55:28 ID: zkKI8+XQ0
※
時刻は昼を過ぎている。もうすぐ、一日が一番暑くなる時間帯だ。
俺とアニーは、突き当りの場所まで戻っていた。
…遠方を眺める。ハゲ山が見える。
そしてその下には、閑静な団地が並んでいた。
アニーの場所は消えていた―――。
( ´_ゝ`)「DE・MO・SA」
( ´_ゝ`)「けっかオーライだよナ」
(*'A`)「おめーが言うなよ」
( ´_ゝ`)「……」
( ´_ゝ`)「…おわかれの、じかんだ」
156 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 02:59:06 ID: zkKI8+XQ0
('A`)「…おう。 これから、どうするんだ?」
( ´_ゝ`)「ぼくは、このじてんしゃでこれからマロンにいくよ」
(;'A`)「!? どれだけ離れてると思ってるんだよ!!!」
( ´_ゝ`)「ふふっ… にほんのサマーは まだこれからさ」
( ´_ゝ`)「そして、オットーのおはかにいく」
( ´_ゝ`)「カメラをかえしにいくんだ……」
('A`)「そうか、頑張ってな」
( ´_ゝ`)「ドクオは?」
159 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 03:02:59 ID: zkKI8+XQ0
('A`)「俺は…… この逆方向に突っ切れば、目的地が見えてくる、はず……」
( ´_ゝ`)「そうか。じゃあ、ほんとにここでおわかれなんだな」
アニーの自転車のシャーシが、太陽に反射してキラリと輝いた。
…その瞬間、二人の間に鋭い風がひゅっと通り過ぎる。
( ´_ゝ`)「…ありがとう。ほんとうにありがとう」
( ´_ゝ`)「いくらアリガトウ といってもたりないくらいダ」
('A`)「はは…。 一回で十分さ」
161 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 03:06:37 ID: zkKI8+XQ0
俺とアニーは、固く強く、手を握り合う。
アニーの手は俺より二周りも大きい。それでいて、何故か優しい暖かさがあると感じた。
そう、あのカメラと同様に。
( ´_ゝ`)「サイゴに…これをもらってクレ」
('A`)「…これ、ラベンダーじゃないか!?」
( ´_ゝ`)「ふふっ… いっぽんだけハイシャクしたのさ」
( ´_ゝ`)「ぼくと、オットーからの おまもりだよ」
('A`)「…そうか、ありがとよ」
163 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 03:10:10 ID: zkKI8+XQ0
俺はラベンダーを丁寧にハンカチで包み、
押し潰されないリュックの箇所にそれを仕舞った。
その途端、アニーの表情が極端に崩れ始めたではないか。
( ´_ゝ`)「ふっ… フフフフフフフ」
('A`)「な!? どうしたんだよアニー。いきなり」
(*´_ゝ`)「アハハハハハハハア!!!!」
('A`)「ちょ! いや、おま… 」
165 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 03:13:00 ID: zkKI8+XQ0
(*´_ゝ`)「アヒャヒャHAHAHAHAAwwwwwwww」
(*'A`)「ぷっ!」
('∀`)「あははははっ!!!! 」
―――――カシャッ!
('∀`)「……え?」
( ´_ゝ`)「……ナイス・ショット」
(;'A`)「あっ! おまえ、どさくさに紛れて写真撮りやがったな!?」
( ´_ゝ`)「にほんごワカリマセーン!」
(;'A`)「このやろ!!」
168 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 03:16:46 ID: zkKI8+XQ0
( ´_ゝ`)「すばらしいスマイルだ」
( ´_ゝ`)「きみとであえたこと ほんとうにかんしゃしている」
( ´_ゝ`)「だから、ココロだけじゃなく、写真にもおさめたかったのさ」
('A`)「この」
(;A`)「やろ……」
( ´_ゝ`)「おいおい、なにをないてるんダイ?」
( ´_ゝ`)「わらったり、ないたり」
( ´_ゝ`)「…いそがしいやつだな〜」
('A`)「…ふ、ふん。目にごみが入っただけだよ。本当にな」
( ´_ゝ`)「それはジャパニーズ・ジョークか?」
('A`)「…さあね」
169 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 03:23:55 ID: zkKI8+XQ0
( ´_ゝ`)b「Good luck!!!!」
('A`)b「お前もな!」
※
アニーは道を下り、
俺はショボンおじさんの家へと、また進み始める。
俺の心には、
幾つもの風景が残されている。
何でもないような一枚、何かの節目であった一枚。
…一つ一つ、大事にしていこう。 俺の旅に、また一つ課題が増えてしまったな。
171 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/10/21(日) 03:25:35 ID: zkKI8+XQ0
だからアニー。
お前と、二つの県を跨いであちこち走り回ったこともさ、一生心に残しておこうと思うよ。
そして、おまえは俺の積極性を引き出してくれたんだ。ありがとう。
………じゃあな!
(異郷編3 おわり)