2 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/09(日) 22:44:08.67 ID: 8fISEQeF0

 

親父の五連速式のマウンテンバイクは、軽快に国道を走っていた。
自転車屋さんにメンテナンスを受けてもらっただけあって、ますます乗り心地は良くなっている。
ラウンジ県まであと数キロ。

 

ハンドルに括り付けられたツンのリボンが、そよそよと風に泳いでいた。

 

 

6 名前: ”あと”ですね Mail: 投稿日: 2007/09/09(日) 22:46:47.98 ID: 8fISEQeF0
俺はツンとおばさんと別れた後、無我夢中で自転車を漕いでいた。
心の中にはさわやかな気持ちが立ち込めていて、それが俺をぐんぐん先へと進ませる。
本当にラウンジまであと少しだ。

('A`)「ふぅ…」

('A`)「ちっと休もう」

だが、今回の一件で「無理はよくない」ということが分かった。(当たり前だが)
俺はパーキングエリアで休憩することにした。
…ツンと別れてもう3時間が経っていた。だが空はまだまだ青い。そう、夏の昼は長い。

 

7 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 22:49:06.27 ID: 8fISEQeF0
自販機で飲み物を買い、用を足し、建物に寄りかかりながら日陰で涼んでいた。
空を見上げる。幾重にも重なった雲の隙間から、綺麗な青が見える。
そして、目線を下げた俺の視界に飛び込んできたのは……

(;´_ゝ`)「クッジューテルミーーーーー!!!!!!!!!!!」

外人さんだった。

 

 

 

 

ドクオは夏の旅に出るようです

 

8 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 22:52:09.89 ID: 8fISEQeF0

「え…?英語か?ごめん、よくわからないな…」

( ´_ゝ`)「オゥノゥ! ソーリー…」

( ´_ゝ`)「!!!」

( ´_ゝ`)「ちょと、すいませーーーん!!」

「!!!(厄介なことになりそうだ…にげろ…)」

(;´_ゝ`)「オゥ……」

 

妙にテンションが高いその外国人は、通りかかった人々に手当たり次第何かを尋ねているようだった。
かなりの長身には、旅用のリュックサックはとてもよく似合っていた。
鼻はツンと高く、髪はブラウンの天然パーマ、瞳はブルー。年齢は20代そこらだろうか。
すげえ、俺、生で外人見ちゃったよ。

 

12 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 22:55:14.72 ID: 8fISEQeF0
('A`)(アメリカ人かな?喋ってる言葉は英語だな)

('A`)(うーん。学校に来るELT以外では、こんな間近で見るのは初めてかもしれない)

( ´_ゝ`)ジィーーー…

('A`)(ん?)

そんなことを思っていると、外人さんと俺の目がバッチリと合う。

( ´_ゝ`)「・・・・!!!!」

(;'A`)(うわっ)

 

その瞬間、俺はなんとなく悟ったね。

こりゃあ面倒なことに巻き込まれるぞと。

 

13 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 22:57:30.08 ID: 8fISEQeF0
外国人は俺を目掛け、凄まじいダッシュでこちらへ向かって来た。
そして、目の前で立ち止まり、汗を拭いながら流暢に俺に話し掛ける。

( ´_ゝ`)「そのリュック、ぼくもおなじね」

外国人は半分身を翻し、一杯ものが詰まった背中のリュックを叩いた。
それよりだ。どうやら、日本語は少し話せるようだ。

(;'A`)「お…同じ」

 

( ´_ゝ`)「Are you traveler?」

(;'A`)「う…うん!?」

 

14 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 22:59:37.02 ID: 8fISEQeF0
外国人が発した英語は、学校で耳にするリスニングテストのCDなんかより、ずっとずっと聞き取り辛かった。
「訛っている発音」とは、こういうことを指すのだと分かった。

それでも「アーユー」までは難無く分かった。しかし、それに続いた単語が聞き取れない。
トルァ… トラベ… ベルァ…

…?

( ´_ゝ`)「Um…. tourist?」

(;'A`)「…ツァリ?」

駄目だ。さっぱり分からない。
何かで困っているのは分かる。助けてやりたい気持ちも無い訳じゃない。(早いとこラウンジへ行きたいが)

しかし、俺の異文化交流スキルはさっぱりだ。
中学校から学んできた「英語」なんて科目は、さっぱり役に立たない。

それは、俺が馬鹿なだけなんだろうけど。

 

17 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 23:02:10.96 ID: 8fISEQeF0
俺は一つの結論を出した。

困っているところ悪いが、俺はギブアップだ。
という意思くらいははっきり出そう。

('A`)「I can't…」

(;'A`)「アイキャントスピークエングリッシュ」

…我ながら酷い発音だ。そこらの中学生の方がましだ。

( ´_ゝ`)「……」

 

これで静かに去ってくれる。
そう考えていた時期が俺にもありました。

( ´_ゝ`)「キミ、いまイングリッシュいったよ」

 

(;'A`)(……こいつぁ策士!!!!!!)

 

20 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 23:05:10.18 ID: 8fISEQeF0
外国人は無精髭をさすりながら、俺を見下して笑う。
身長が高い性もあるが、海の向こうの人たちの笑い方は豪快だ。

( ´_ゝ`)「HaHa!!!!」

( ´_ゝ`)「You are funny」

これは聞き取れた。ファニー。可笑しいってか。

(;'A`)「ごめんなさいねえ」

 

外人は続ける。

( ´_ゝ`)「ぼくがちょと、いじわるだったよ」

( ´_ゝ`)「きみも、ぼくとおなじ」

 

( ´_ゝ`)「タビビトだろ?」

 

23 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 23:08:24.74 ID: 8fISEQeF0
「タビビト」

 

妙にクリアに耳に入ってきた、この言葉。
そうか、もう俺も一端の旅人に見えるか。なんだか俺は嬉しくなり、ついつい反応する。
「協力してやろうじゃないか」そんな気持ちもなぜか沸々と湧き上がる。

(*'A`)「オーイエス! ユートゥ?ユートゥ?」

 

( ´_ゝ`)「イエス。ぼくは、たびする りゆうある」

( ´_ゝ`)「だから、にほんきた」

('A`)「へえ…。その理由を教えてくれないか」

(;´_ゝ`)「さがしてるところが あるんだ」

 

 

27 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 23:11:00.33 ID: 8fISEQeF0
__

気がつくと、俺と外国人…。名前は「アニー」というらしい。
俺達はパーキングエリア内の食堂で軽食を取りながら会話をしていた。

( ´_ゝ`)「キミをみて すぐピンときた」

( ´_ゝ`)「ぼくとおなじだと」

('A`)「ああ、まあね…」

('A`)「アニーみたいに特別な理由はないけど…」

('A`)「その場所の、手がかりはあるのか?」

( ´_ゝ`)「Please wait」

アニーはアメリカ人の癖に中々日本語が上手い。それもそのはずで、なんとハーフだそうだ。
4歳までを、ここサロン県で過ごしたらしい。
彼は大きな上半身を折りたたんで、リュックの中を探り始めた。

 

29 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 23:14:52.31 ID: 8fISEQeF0
( ´_ゝ`)「This」

アニーは一つの写真をリュックの小ポケットから取り出し、テーブルに置いた。
色褪せた風景の中で、子供のころのアニーとその兄弟らしき人物が肩を組んで笑っていた。

 

('A`)「綺麗だなあ…。ここは草原みたいだな。この、奥に広がる紫なのは?」

( ´_ゝ`)「lavender」

('A`)「??」

('A`)「ら・・べんだー?」

( ´_ゝ`)「そう」

 

 

33 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 23:19:19.70 ID: 8fISEQeF0
( ´_ゝ`)「It searches for this place. (この場所を探しているんだ)」

 

 

 

('A`)「……」

('A`)「あ…。ああ!なんとなく分かったよ。」

( ´_ゝ`)「ありがとう」

('A`)(サーチ… さがす、さがす…)

('A`)(この場所を?)

 

 

35 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 23:22:55.19 ID: 8fISEQeF0
アニーは水をぐいと流し込み、写真を撫でながら呟いた。

( ´_ゝ`)「このしゃしん みてると」

( ´_ゝ`)「あのひのラベンダーのにおいがもどってくるよ…」

('A`)「へえ。この隣にいるのはおまえの兄弟か?」

( ´_ゝ`)「Yes」

( ´_ゝ`)「なまえ オットー」

( ´_ゝ`)「いいおとうとだった…」

('A`)「だった?」

( ´_ゝ`)「…なんでもない」

外国人のモーションはやはり大きい。たちまちアニーは「Oh my god」の体勢を作る。
何かワケありのようだ。俺の協力しようという意欲がまた大きくなる。
なんだろう。このワクワクする感じは、旅に出る前じゃ絶対得られなかった感覚だ。

 

37 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 23:24:40.35 ID: 8fISEQeF0
俺も冷水の入ったコップを飲み干す。
窓の向こうでは、車の窓ガラスが太陽の光を反射していた。

 

('A`)「草原…。奥にはラベンダー…。」

('A`)「なんだかファンシーな場所だな。こんなところ、日本にあるのか?」

 

 

( ´_ゝ`)「さんにちくらい さがした」

(;´_ゝ`)「でも…。みつからない。not found.」

( ´_ゝ`)「・・・・」

( ´_ゝ`)「ドクオ、さがすの、てつだってくれるのか?」

 

38 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 23:26:51.56 ID: 8fISEQeF0

 

 

 

('A`)「もちろん」

 

 

 

40 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 2007/09/09(日) 23:28:29.01 ID: 8fISEQeF0

即答した。
前々から感じていた。
俺の中で何かが変わりつつあるという「予感」が、「確信」に繋がった瞬間だった。

 

動く。俺は動けるんだ。
行動力が、自分でも驚く程の行動力が身に付いた。

 

旅に出る前の俺と、今の俺じゃ、全然違う。

 

(異郷編1 おわり)

 

 

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