4 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:01:39 ID: K/WiUcCs0

数分くらい商店街から離れていくと、こじんまりとした神社が見えてきた。空き地のような広い敷地を構えている。
しかし、「ここか?」と俺がツンに尋ねても、黙ったままだ。
仕方がないから敷地内に入ると、ツンはやっと口を開いた。

 

ξ゚听)ξ「…やっぱりいい」

('A`)「ん?なんでだよ。せっかく連れてきてやったのに」

ξ゚听)ξ「いいって言ってるじゃん。早く戻ってよ」

 

 

ツンはどうも神社へ行くことを拒否しているようだ。
なぜだろう。静かな場所に行って食べ物を食べたいんじゃなかったのか。
理由を尋ねてもやはり無視を続ける。

 

 

5 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:03:34 ID: K/WiUcCs0

 

 

('A`)ドクオは夏の旅に出るようです

 

このままでは困ると、俺は話しを繋げる。

('A`)「じゃあ…、商店街に戻るのか?」

ξ゚听)ξ「嫌だ」

('A`)「なんだよ。俺も立ちっぱなしは疲れた。ここで休もう」

 

ξ゚听)ξ「…いやだよっ」

 

急に幼子のようにツンは駄々を捏ね始めた。よほど彼女が嫌がる理由が敷地内にあるのだろう。
俺はそれがどうしても知りたくなった。同時に、さっきから抑えていた尿意がどんどん大きくなっていく。

 

 

7 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:05:19 ID: K/WiUcCs0

('A`)「んーー!」

ξ゚听)ξ「なんだよ」

('A`)「…立ち小便がしたくなった。あっちの草むらなら大丈夫だよな?」

ξ゚听)ξ「…キモイ」

('A`)「はは。じゃあちょっと行ってくるから待ってて」

 

そう言って俺は、敷地内の周りを覆う草むらの中へと身を隠した。
別に隠しているつもりはないのだが、ここは神社の灯りが届かないので体が暗闇に包まれるのだ。
ちなみにその場所に着くまで結構距離があった。90メートル弱だろうか。

 

 

10 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:07:39 ID: K/WiUcCs0

ジョロロ…

('A`)「…ふぃー。野外プレイもだいぶ慣れたな」

用を足した後、しばらく向こうの端から端まで見渡してみる。暗闇に目が慣れて段々と視界がクリアになり、人がいることを確認した。
2…3人か。その集団は緑や赤の光をあちこちに散らしている。どうやら花火をしているようだ。
人がいないから行きたくないのか。それだけではないだろう。きっとその人物を嫌がっているんだ。
俺はもうちょっと様子を見ることにした。

 

 

('A`)「背丈は俺よりみんな大きいな。なんか恐い連中だ」

('A`)「…ん。なんだろ。あいつらどっか同じとこを見てる」

 

 

11 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:09:21 ID: K/WiUcCs0

「おい、あそこになんかいるぞ」

 「ホントだ。あんなとこで何やってんの」

   「結構可愛いじゃん。なあ、ちょっと行こうぜ」

 

何か話し合っているようだが、聞き取れない。
咲いていた花火が全て消え、集団は歩き始めた。こちら側へじゃない…、入り口のほうだ。

 

 

ξ゚听)ξ「…来る」

ξ゚听)ξ「でも、暗くて誰だかわからないよ」

ξ゚听)ξ「…ばかドクオ。早く来てよ」

 

 

12 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:11:05 ID: K/WiUcCs0

「おいーーっす!」

 

ξ゚听)ξ(…!誰こいつら!?)

   「こんなところで何してんの」

ξ゚听)ξ「べっ、別にただ立ち寄っただけよ」

 

('A`)「何だ、ツンと話してるぞ…」

「神社に立ち寄っただけって変じゃね?」

 「可愛い浴衣着てんね」

 

ツンの周りを、大柄な男達が囲む。

 

 

14 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:13:06 ID: K/WiUcCs0

('A`)「…これはなんという…」

(;'A`)「はっ!! 助けるべきだろ自分!!」

 

草むらを掻き分けて俺はツンの元へと急いだ。
暗闇と生い茂った草の性で前方が見えない…。早くも走れない。
俺は不安な気持ちで胸がいっぱいになる。とにかく、ツンを助けねばと、早く早くと急かしていた。

しかし、脳の命令はそう簡単にスムーズに体に行き届くわけではない。

 

 

('A`)「どわっち!」

('A`)「あ…足がもつれた」

 

 

15 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:15:11 ID: K/WiUcCs0

 

 

('A`)(…つぅーーーーーーん!!!)

 

 

('A`)「はっ!」

('A`)「心の中とはいえあの生意気娘の名を叫んでしまった!」

…でもそんなの今は関係ない。
あの男達がツンに何か乱暴をしたら、おばさんに合わす顔がない。
俺は本能的にも分かっていたし、頭でも理解していた。
ツンが危険だ。

 

 

16 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:16:50 ID: K/WiUcCs0

__

「まだ祭りって終わってないよねー」

 「足、悪ぃの?」

  「ねえねえ、ちょっと俺たちと一緒に行こうよ」

ξ゚听)ξ「何言ってんだよ!き…消えろ」

  「消えろはないんじゃね?」

 「ちょっと生意気だなこいつ」

ξ゚听)ξ(ほんとマジうざい…)

ぶんっ!

「わ!危ねえなこいつ。いきなりターンしやがって」

 「車椅子も安全運転で行こうぜ、な」

 

 

18 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:18:03 ID: K/WiUcCs0

人が走る音と、何か車輪がアスファルトを滑る音が聞こえる。
ツンが何らかの状況に追い込まれているということだろうか。
やばい。本格的に焦ってきた。入り口まで後数メートル…。

 

ξ;゚听)ξ「………」

「逃げる気かよー」

 

ξ;゚听)ξ(もっと!もっと早く走りなさいよこのポンコツ!)

タタタッ…

「頑張ってるみたいだけど、よゆーで追い抜けちゃうよ?」

 

ξ;゚听)ξ「はぁはぁ……」

「やっぱ、車椅子じゃーねー」

 

ξ;゚听)ξ「!!」

 

 

21 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:19:47 ID: K/WiUcCs0

ξ )ξ( ('A`)『く、車椅子が人の足に勝てるわけねーだろっ』  )

 

 

 

ξ )ξ

 

 

 

 

ξ;听)ξ「……」

 

「おいおい、泣き出しちゃったよ」

 「別にそんなつもりなかったけどねぇ」

   「…なんか一気にシラけたよ。行こう行こう」

 

 

23 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:21:59 ID: K/WiUcCs0

ようやく草むらを抜けた俺は辺りを見回す。
入り口からちょっと離れたところに集団とツンはいた。
急いで俺は駆けつける。

 

(;'A`)「はぁはぁ…やっと、追いついた」

ξ )ξ

 

(だれあいつ…?)

 

(;'A`)「ちょ、ちょっとまてーーやおまえらぁああ!!!」

 

 

「あん?」

(;'A`)「この子になにしたぁあああ!!」

 

 

26 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:24:15 ID: K/WiUcCs0

ξ )ξ「!!」

 

こんな風に啖呵を切るのは生まれて初めてだと思う。
ツンはずっと下を向いたままだ。男たちはこちらにガンを飛ばしながら話しかけてくる。
恐い…。すごく恐いけど、ここで下がったら、俺は金玉を持ってる資格なんかないと思った。

 

「別になにもしてねーよ」

 「ああ。まじなにもしてねー。そいつ泣いてっけど、理由知らんし」

 

男たちの態度は冷え冷えとしていた。俺はツンの方を振り向く。

 

 

27 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:26:00 ID: K/WiUcCs0

('A`;)「ほ、ほんとかツン」

ξ )ξ「…」

 

 

ξ )ξ「えっちなこと、されそうになった」

 

 

「はあ!!??」

 

男たちは顔を見合わせて困惑していた。よく見ると、ツンの浴衣や髪型が少し乱れているじゃないか。騙されないぞDQNめ
…本当に危ない。ガチで取り返しのつかない事態になるところだった。

そして俺の感情の矛先は、男たちに向けられる。

 

 

29 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:27:47 ID: K/WiUcCs0

('A`)「ぶるああああああ!!!」

('A`)「ツン!!おまえは先にどっか行ってろ!!」

ξ )ξ「うん」

 

('A`)「こんのクソ外道がーーー!!!!」

「…なんだこいつ。(外道はその女だと思うんだが)」

 「ってかさ、おまえ、その子のなんなの?彼氏…ではないよな。その面で」

('A`)「彼氏なんかじゃねえ!!俺はな」

('A`)「…」

 

 

('A`)「なんだろうか?」

 

 

31 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:30:57 ID: K/WiUcCs0

俺がふと怒らせた肩を沈めると、その隙に男たちは、ここぞとばかりに闇の中へと消えてしまった。

「まじイミフーーww」などという言葉を吐き残して。

 

(;'A`)「よし。なんとか追っ払ったぞ」

ξ )ξ「…あいつらがアンタに呆れて、勝手にどっか行っただけだよ」

ツンは俺の斜め後ろで冷めた顔をしていた。

('A`;)「ツン!どっか行ってろって言ったじゃんか」

 

 

36 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:33:09 ID: K/WiUcCs0

 

 

 

ξ )ξ「そんな必要ないよ」

 

 

('A`;)「な…なんでだよ」

 

 

 

 

       だって、ウソだもん。

 

 

37 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:34:25 ID: K/WiUcCs0

('A`)

 

 

うそ?

 

 

 

ξ゚听)ξ

 

 

 

ちょっと、遊びいかないかって誘われただけよ

 

 

( A )

 

40 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:35:40 ID: K/WiUcCs0

無意識に手がでた。
堪忍袋の尾が切れたとはこういうことだろうか?

 

ξ゚听)ξ「つっ!!!!!」

 

俺の手がツンの頬にぴしゃりと当たる。
本当に無意識のうちに手が伸びたとしか言い様がないのだ。
…自然と頬を打つ強さに加減が無くなっていた。

 

 

(;'A`)「……」

 

 

41 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:38:24 ID: K/WiUcCs0

(; A )「……」

 

俺とツンは共に俯いていた。俺は彼女を殴った右の掌を見つめる。
そして…、頭を上げた。

 

ξ )ξ

 

まだツンは俯いている。
暗さと前髪に隠れてよくわからなかったが、仄かに頬は赤くなっているようだった。

 

 

42 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:38:51 ID: K/WiUcCs0

('A`)「…」

 

俺は何も喋らなかった。
彼女から口を開くのを待っていたのだ。

 

 

おまえは言う事があるはずだ。

俺に。

 

 

43 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:41:00 ID: K/WiUcCs0

二人の間に沈黙が流れていた。
しかし街の方からはまだまだ楽しそうな声が聞こえてくる。

 

俺は段々我を取り戻してきて、「人を平手打ちとはいえ殴ったのは初めてだ」なんて思っていた。
それからまたちょっとだけ時間が経って、ようやくツンもゆっくり頭を上げ始める。

 

彼女の瞳は弱弱しく潤み、長いまつ毛はしっとりと濡れていた。

 

…泣けば済むことじゃない。だが、俺はかなり動揺した。
夕方見せた顔じゃない。

 

これは、夕方俺と喧嘩をしたときに見せた顔とは違う。

 

 

46 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:43:43 ID: K/WiUcCs0

ξ;- )ξ「…」

 

('A`)「ごっ」

('A`)「ごめんな。」

 

俺はツンの口から謝罪の言葉が出るのを待つために、沈黙を作った。
それなのに、顔を上げたツンの表情は、逆に俺の口から
「ごめん」その言葉を出させるように作用した。こんな風になるはずじゃなかったのに。

 

ξ;- )ξ「ひぐっ…ひぐ…」

ツンは嗚咽交じりに泣き出した。
まるで幼児のようだ。そして、流れる涙を手の甲で拭い、口を開く。

 

 

48 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:45:54 ID: K/WiUcCs0

…声も体も、全てが震えていた。
鼻から水が垂れてきそうな具合だった。ツンは塞き止めたものを一気に流すように喋り始める。

 

ξ;- )ξ「ドクオ…うっ、ごめん…ごめんなさい…」

ξ;- )ξ「きっ、キライだよねアンタだって…ひぐっ!…私のこと…」

ξ;- )ξ「我侭でさ…、意味不明でさ…、ヒステリックでさ…、さっきから困ってるでしょ?」

ξ;- )ξ「私もね…、うっ、ときどき、自分で自分が何やってんのか分からなくなるのよ!!!!」

 

 

 

 

('A`)「…」

 

 

50 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:49:57 ID: K/WiUcCs0

俺は何も言えない。何を言ったらいいのかわからない。
…でも、口を開かなきゃ駄目だ。
パニックになっているツンに自分の言葉を挟ませて、"会話"を成り立たせなくては。

 

だって、このままじゃ彼女は自分を責め続けて、心が破裂させるだろう。
きっと…、今までもそうしてきたんだ。
胸の中の辛いことや黒いものを、こうやって涙と一緒にして吐き出すしか術がなかったんだ。
高圧的な態度は、それを精一杯抑制するための仮面なのだ。

 

 

なぜか俺はそのことを一瞬にして悟っていた。
それは、俺も彼女と同じように胸の中にドロドロしたものを抱えている人間だったから。

 

それを、こんなふうに自分の外に吐き出せるかどうか。

 

それだけの違いだったんだ。
やっと気付いた。彼女も俺と同じなのかもしれないと。

 

 

51 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:51:47 ID: K/WiUcCs0

ξ;- )ξ「こっ、この足がぁ!!悪いのよ!」

 

ツンは左足を浴衣の布地越しに、拳で殴り始めた。鈍い音が出る。

 

('A`)「やめろよ!おい!ますますひどくなるよ!やめろって…」

 

俺はそれを両腕で制止する。ツンは呆気なく俺の力に抑えられ、再び小さく泣き始めた。
俺と彼女の距離が狭まる。よし、今なら話しかけられる。俺は腕を解いた。

 

 

53 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:53:57 ID: K/WiUcCs0

('A`)「一つずつ、聞いていくよ…」

('A`)「いや、それよりまず、俺からだな」

('A`)「さっきは殴って悪かった。顔は女の命なのにな…。最悪だったよ俺」

 

俺は車椅子の前で土下座をした。地に頭をつけるのは、初めてだ。

 

('A`)「あと、急に用を足しにどっか行っちゃってごめん」

('A`)「元はといえば、俺がもう少し我慢してれば変な男たちも寄り付かなかったんだ」

どうしても、目線を完全に合わせて彼女に言葉を渡すことができない。
ツンは黙ったまま、俺の話しを聞いている。

 

 

54 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:55:40 ID: K/WiUcCs0

('A`)「…でさ、今度はツンのほうなんだけど」

('A`)「まずは、なんで神社に入りたくなかったんだ?」

 

ξ;- )ξ「クラスメイト…」

('A`)「クラスメイト?」

ξ;- )ξ「花火してたでしょ?クラスメイトがいると思って…行きたく、なかった」

('A`)「馬鹿にされるのか?何か言われるのか?」

 

 

ξ;- )ξ「馬鹿にされるっていうか、学校では、シカトされる」

ξ;- )ξ「そのくせにこういう場所で会うとね、嫌な目をされるの…」

ξ;- )ξ「ひぐっ…。だから嫌だった…。ドクオに、その姿を見られるのも…、嫌だった!」

 

 

59 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 21:58:53 ID: K/WiUcCs0

ツンの口調が段々と幼くなっていた。
学校では空気扱い。しかし外では生殺し…。
よくあるパターンだ。俺もそういう状況に追い込まれた時期は無かったとは言い切れない。
ところでなぜツンが学校でそんな扱いを受けるのだろうか?
…尋ねようと思ったが、即座にその考えは閉まった。
ハブられている人間に、ハブられている理由を尋ねるなんて、ひどすぎる。馬鹿げてる。
大体予想もできる…。だからやめておこう。

 

 

俺は続けた。

('A`)「そっか…。じゃあ、なんでウソついたんだよ」

('A`)「お前の身に何かあったらな」

('A`)「おばさんにどう俺は…」

('A`)「それにな、お前だって…」

 

 

60 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:01:12 ID: K/WiUcCs0

責めているわけではないのに、自然と口調が厳しくなる。
それ以前に自分でも何言ってるかよく分からなくなってきた。
俺はとりあえずツンの返答を待つ。

 

 

ξ;- )ξ「別に…、理由…、ない」

ξ;- )ξ「でもっ…、こんなに怒られるって分からなかった。うっうっ」

 

 

 

もはやあの高圧的で棘棘しかったあの姿はない。
目の前にいるのは、ただ子猫のようにすすり泣くただの女の子だ。

 

 

62 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:03:08 ID: K/WiUcCs0

ξ;- )ξ「本当に私って、わけわからない…」

ξ;- )ξ「ごめんなさい、ごめんなさい…」

 

もうここまで弱くなってしまった姿を見てしまったら、こっちも潔くそれを許さざるを得ない。

('A`)「…わかったよ。もういいよ」

('A`)「ん」

俺はツンの膝にちょこんと乗っていた焼きそばに気がついた。
だいぶ中身がぐちゃぐちゃになっている。

 

('A`)「じゃあ…、誰もいなくなったし焼きそば食べようか?」

 

 

72 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:16:52 ID: 9M8Vx6I00

('A`)「…早くしないと、冷めちゃうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ξ;- )ξ「もう……、冷めてるよ」

 

75 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:18:12 ID: 9M8Vx6I00

___祭りが終わり、俺たちは家へと戻った。

 

 

おばさんが「花火しない?」と誘ってきたが、俺もツンもそれを断った。
ツンがなぜやりたがらないかはわからないが、俺はとにかく疲れていた。疲労しきっていた。

 

 

そもそも俺は病み上がりの体だったのだ。
部屋に戻ってきた俺は、畳の上で体を大の字にし、今日一日を振り返った。

 

76 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:19:37 ID: 9M8Vx6I00

('A`)「ええと…、昼過ぎに雨が降ってきて、ぶっ倒れて」

('A`)「夕方に目覚めて、気がつくとそこは見知らぬ部屋でした…っと」

('A`)「そこにいたのはツンという少女で、そいつはなんと俺の自転車を破壊しやがった…とさ」

('A`)「んで……メシ食べさせてもらって…いや、自転車を破壊されたのが先だったか?…えと…んと……」

( A )「……ぐぅ」

 

 

 

眠りの世界に片足を突っ込んだ俺の耳に、大きな音が入ってきた。戸を開ける音だ。

 

77 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:21:02 ID: 9M8Vx6I00

('A`)「ふがっ!」

目線を上げた先には、浴衣からまた私服に着替えたツンがいた。

 

ξ゚听)ξ「部屋…、来ない?」

 

 

 

 

('A`)「え!?いやいや…、そんな」

ξ゚听)ξ「来なさいよ」

(;'A`)「うん……」

家に戻ってきて、彼女はまた"元"に戻ったみたいだった。

俺は疲れた体を持ち上げ、言われるままにツンについていく。

 

78 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:23:12 ID: 9M8Vx6I00

ξ゚听)ξ「ここよ」

ツンは客間のエリアから離れた一室で立ち止まり、ドアノブを回した。

 

 

('A`)「おっ…………」

目の前に広がったのは、定石通り並べられたぬいぐるみや女の子らしい色調のインテリア…だったが、それより目を惹かれたのは…

 

 

 

('A`)「す、すっげえ量のテープとCDだな!!!」

ツンの部屋には入り口のところを除く三辺に二つずつ棚が置いてあり、その中にはテープやらCDやら漫画やらが敷き詰められていた。

 

80 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:24:45 ID: 9M8Vx6I00

ξ゚听)ξ「うん。ひいた?」

('A`)「い、いや全然」

 

ξ゚听)ξ「私ね…、こんなんで全然友達いないし、外にも自由に遊びいけないし」

ξ゚听)ξ「この部屋が一番のお友達なのよね。今も、今までも」

そう言ってツンはラックからCDのケースを取り出し、コンポに差し込んだ。
絞った音量で、お洒落な曲が部屋に流れる。いい雰囲気だ。

 

 

ξ゚听)ξ「でも、あんたとはいい友達になれそう」

('A`)「!?」

 

82 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:27:21 ID: 9M8Vx6I00

ξ゚听)ξ「あんなに本気でキレられたの、ドクオが初めて」

ξ゚听)ξ「あんなに私が人前でグチャグチャに泣いたの、ドクオが初めて」

 

ξ )ξ「私って見る目あるわねー」

('A`)「…そだな。俺を助けてくれたもんな」

 

たった半日で、人を見る目は変わると思った。
そしてあのとき、本気で俺はツンを心の底から心配して、良かったと思えた。
本当に、良かった。

 

83 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:29:45 ID: 9M8Vx6I00

ξ゚听)ξ「…」

('A`)「…」

 

俺はツンが出してくれたお茶を啜っていた。
彼女は何もいわず窓の外から星を見ている。

('A`)「なあツン、おすすめはどれだ?」

俺は棚を見回しながらツンに尋ねた。

 

 

 

85 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:31:09 ID: 9M8Vx6I00

ξ゚听)ξ「うーん。これかなぁ」

ツンは車椅子でこちらに近づき、二段目の棚からテープを取り出した。

少しだけ色褪せたラベルには

『フルーツバスケット』

と書かれている。

 

87 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:31:56 ID: 9M8Vx6I00

('A`)「これってどんな映画なんだ?」

ξ゚听)ξ「三人の女の子がね、イカダ作って島から逃げ出すの」

('A`)「…」

('A`)「え、それだけか?」

 

ξ゚听)ξ「それだけよ」

('A`)「へぇ。こんなにいっぱい映画のテープあるから、そういうのにはウルサイと思っていたんだが…」

ξ゚听)ξ「私の身の回りにはね…」

ξ゚听)ξ「できない"それだけ"が多すぎるのよ」

('A`)「えっ、あ…ごめん」

ξ゚听)ξ「別に謝らなくていいよ」

 

90 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:34:21 ID: 9M8Vx6I00

('A`)「えっ、あ…ごめん」

ξ゚听)ξ「別に謝らなくていいよ」

ξ゚听)ξ「だからね、そんな変哲もない普通な映画が楽しいの」

ξ゚听)ξ「それにね…」

 

 

ξ゚听)ξ「この映画に出てくる女の子たちの顔が好きなの」

('A`)「表情?」

ξ゚听)ξ「うんっ」

ツンは寂しげに微笑む。

ξ゚听)ξ「演技だけど…、それでも私には眩しすぎるくらいいい笑顔してるんだよ?みんな」

 

92 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:38:21 ID: 9M8Vx6I00

ξ゚听)ξ「あとね…、すっごく気に入ってるシーンがあるんだ。この映画には」

('A`)「へぇ。そいつぁどんな?」

ξ゚听)ξ「女の子がね…他の女の子たちと別れちゃうの」

('A`)「うんうん」

ξ゚听)ξ「それでね…、その去ろうとした女の子は」

ξ゚听)ξ「"また会えるかな?"って別れ際に言ったのよ」

('A`)「なんかその時点でいいシーンだな」

ξ゚听)ξ「そして残された子は、彼女にこう返事する…」

 

 

94 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:41:13 ID: 9M8Vx6I00

('A`)「ほうほう、その言葉がジーンとくるんだな?」

ξ゚听)ξ「えと…、ジーンってくるより、なんか励まされるんだ」

('A`)「それで?残された女の子はなんて言ってやったんだ?」

ξ゚听)ξ「……」

 

 

 

 

 

ξ゚听)ξ「い・わ・な・い!」

(;'A`)「なんでだよー」

ξ゚听)ξ「実際に観てみなさいよ」

 

 

95 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:42:50 ID: 9M8Vx6I00

「観る時間なんてねぇよー」と俺はぼやくと、彼女はいたずらに微笑んだ。

しかし、少し時間が経つと、その表情は、段々とまた曇っていく…。
そんなとき、俺の頭にとある提案が浮かんだ。

 

 

('A`)「なあ、花火しにいかないか?」

ξ゚听)ξ「花火?」

('A`)「ああ…。玄関に袋が置いてあったぞ」

('A`)「おばさんがせっかく準備してくれたんだ。ちょっとくらいやらないか?」

 

ξ゚听)ξ「うん…」

 

 

97 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:44:59 ID: 9M8Vx6I00

俺は畳部屋に戻り、リュックの小ポケットからマッチと蝋燭を取り出した。
どこかで必要になるかもしれないと、こういう小物は何種類も用意したつもりだ。
花火の為に使うとは思ってもみなかったが。

 

__そして縁側に出ると、既にツンが花火の入った袋を持って待っていた。

 

俺は蝋燭に火をつけ、蝋を地面に垂らしてしっかりと火種を立てた。
袋の中にあった花火セットのビニールを破る音が聞こえる。

 

ξ゚听)ξ「はい、これ…」

 

ツンは両手に一本ずつ手持ち花火を持っていた。
車椅子でゆっくりと俺のほうへと近づき、左手に持っていた花火を手渡してくれた。

 

 

100 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:46:36 ID: 9M8Vx6I00

('A`)「お、ありがと…」

 

 

二本の花火が蝋燭へと近づく。

数秒ほど先端を火の中で燻らしていると、音とともに青と赤の花が咲いた。

 

('A`)「おぉ…、やっぱりこういうベーシックなのもいいな」

ξ゚听)ξ「そだね…」

 

俺の花火から咲いていた青い光が緑へと変わり、ツンの花火はまだ勢いよく赤色の閃光を噴出していた。
真っ暗な暗闇の中で、二本の花火が俺たちの姿を少しだけ照らす。

 

 

101 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:48:02 ID: 9M8Vx6I00

光から目を離し、ツンの方に視線をくべる。

ξ゚听)ξ「楽しいね…」

移り行く花火の色にツンは見惚れながら、優しく微笑んでいた。
しかし、俺はあまり気持ちがよくなかった。
それは…、その笑みは、自室で見せたあのどこか寂しげな笑み。
あれと、まったく同じ類のものだったからだ。

 

本当は物凄く可愛いんだろうその笑みから、哀しみを取り除いてやりたい。

そんな気持ちが俺の中に芽生える。

 

('A`)「なあツン、俺は…」

ξ゚听)ξ「え?」

('A`)「いや…なんでもない」

 

 

103 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/15(水) 22:50:33 ID: 9M8Vx6I00

 

 

 

 

 

___俺は君の、全力で笑った、純粋で、満面の笑顔が見たいんだ。

 

 

 

 

(自転車編5 おわり)

 

 

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