5 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:02:13 ID: 6CflUDW00

雨はまだ降り続いていた。
猛暑が続く毎日の中、この雨模様はきっと人々に涼しさをもたらしただろう。
だが俺の場合は違った。自分の体調管理の甘さと重なり、路上で気絶という最悪の事態を招いてしまったのだ。
ところがぎっちょん。
路上で「死ぬのかな・・」なんて朦朧としていたら、目が覚めて他人の家で俺は寝ていた。
ツンという女の子が俺を助けてくれたらしい。
命の恩人の割りに、彼女は俺に高圧的な態度を取り、なんだか怖い。

 

 

 

 

 

 

 

広い和室で、雨音だけが静かに聞こえる。

('A`)ドクオは夏の旅に出るようです

 

 

7 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:04:33 ID: 6CflUDW00

再び目を覚ました俺は部屋を見渡す。

 

 

ツンが出て行って、さらに恐ろしいほど殺風景だ。
どうやらツンはまだ戻っていないらしい。枕元で看病なんて、やっぱり都市伝説だ。
ましてやあの性格だから、どうせ俺はあのままずっと寝かされていたのだろう。放置プレイか。
さっき呼ばれて出てったのは、きっと俺の処置についてでも話し合うためかもしれない。

 

 

('A`)「よいしょ・・と」

 

 

8 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:06:45 ID: 6CflUDW00

俺は体を起こして立ってみた。頭痛は感じないが、まだ少しだるさが残る。
だが、いつまでもここで寝ているわけにもいられない。雨が止んだらすぐに行かなくてはならない。
そう思い障子を開けて、縁側から雨をただ眺めていた。

 

ξ゚听)ξ「あっ」

ふと隣のほうを見ると、車椅子に乗ったツンの姿が。

 

 

ツンは俺と決して目を合わせないようにして喋る。

ξ゚听)ξ「なぁんだ」

ξ゚听)ξ「もう立てるくらい元気になったんだ」

 

 

9 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:09:11 ID: 6CflUDW00

('A`)「あ、ああ」

確かにずっとほったらかしにされて寝てた割りには治りが早い。さすが若さだ。

ξ゚听)ξ「じゃあ、もうこれ要らないねえ」

 

そう言って彼女はタオルと水が入った桶を胸に掲げる。

 

 

('A`)「あっ」

('A`)「もしかして・・ずっと看病してくれていたのか?」

 

 

10 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:11:00 ID: 6CflUDW00

この「もしかして」が当たりでもはずれでも、良い反応を導くことはできない。
さっきの数分間の初接触でそんなことは分かっていたのに、口は動いてしまった。

 

 

ξ゚听)ξ「そうよ?」

ξ゚听)ξ「私は別に、ほったらかしてそのまま寝てれば治ると思ったんだけどね」

ξ゚听)ξ「ママがうるさいから仕方なく看病してやってんの」

('A`)「・・・」

 

 

そらきた。こんな台詞を、目線を完全に逸らされながら言われたら、いくら相手が恩人でも嫌な気分になってくる。

 

 

11 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:14:30 ID: 6CflUDW00

ξ゚听)ξ「水とタオル、返してこよう」

そう言って彼女は車椅子をターンさせる。

ξ゚听)ξ「・・あ」

少しばかり距離が開いたところでツンは頭だけ振り向く。

ξ゚听)ξ「私がいなきゃ今頃ノタレ死にだったかもねぇ」

ξ゚听)ξ「私に感謝しなさいよ」

('A`)「う、うん」

ξ゚听)ξ「は?」

 

ξ゚听)ξ「ちゃんと言えよ」

 

(;'A`)「ありがとう・・」

 

 

14 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:22:06 ID: 6CflUDW00

なんでいちいちこんなふうに尖っているんだろうか。
だがしかし俺はここで話を止めるわけにはいかない。いくつか訊きたいことがあるのだ。

 

('A`)「なあ、ツン」

ξ゚听)ξ「何よ」

('A`)「俺の荷物は?」

ξ゚听)ξ「入り口に全部置いてあるわよ」

('A`)「ここは地理的にはどこなんだ?」

ξ゚听)ξ「サロン岡市よ」

('A`)(よかった。倒れた場所から離れてない。それどころか近づけた)

 

 

16 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:28:07 ID: 6CflUDW00

ξ゚听)ξ「すぐに行っちゃうの?」

('A`)「うん。雨が止んだら」

ξ゚听)ξ「残念ながらそれは駄目」

('A`)「・・?。どうしてだよ」

ξ゚听)ξ「ママが、ご飯食べていきなさいって」

('A`)「いやっ。そこまで世話には」

その瞬間、俺の腹から情けない音が出た。

ぎゅるる

('A`)「・・」

 

 

17 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:32:28 ID: 6CflUDW00

ξ゚听)ξ「私は今すぐにでも帰ってほしい気分なんだけどね」

ξ゚听)ξ「ママがあんたと色々話ししたいっていうから」

ξ゚听)ξ「じゃ、6時になったらリビングまで来て」

 

('A`)「うん」

 

 

そこで会話に一呼吸が入ると、ツンは無駄なことなど何も口にせずそのまま車椅子を走らせて行ってしまった。
夕飯を食べさせてもらうのは有難い。倒れていたところを看病してくれたのも本当に感謝している。

ただひとつ、あの子の態度がなんだか胸に重いものを残す。

 

 

19 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:36:25 ID: 6CflUDW00

_

从'ー'从「まぁ、自転車でVIPからラウンジまで旅を?」

从'ー'从「いいわねぇ・・」

 

ツンの母親は娘と違って温厚で、また少々お喋りな人だった。
箸を休めては俺に質問を投げる。

从'ー'从「寝る場所とかはどうしてるのかしら?」

('A`)「公園ですね」

从'ー'从「やっぱり野宿なの〜。大変ねえ」

ξ゚听)ξ「・・・」

ツンは、俺の向かいでつまらなさそうに箸でおかずを転がしている。
その姿はまるで幼児のようで、彼女の幼い一面を感じとれる。

 

 

23 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:41:51 ID: 6CflUDW00

从'ー'从「ツン?食べないの?」

ξ゚听)ξ「食欲、ないの」

从'ー'从「そう・・」

 

ツンは俯いたままだ。そして間髪入れずまた会話が始まる。

从'ー'从「ドクオくん」

('A`)「はぁ」

从'ー'从「じゃあ、今夜の泊まるところは?」

('A`)「ここから最寄りの公園は・・」

俺が脳内で地図を広げていると、おばさんが立ち上がってブラインドを上げた。
窓に雨が激しく打ち付けている。

从'ー'从「晴れそうにないから、今夜はうちに泊まっていきなさい」

 

 

25 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:48:43 ID: 6CflUDW00

ここで遠慮したとしても、家を後にした俺に打つ手立てはない。
快くその善意を受け取りたいが・・

 

 

ξ゚听)ξ「チッ」

从'ー'从「こら!」

ξ゚听)ξ「・・・」

 

 

不満そうな顔をしたツンを見るとサイコーに気まずくなる。しかし、朝になればもう彼女ともお別れだ。

 

('A`)「ありがとうございます」

俺はツンの家に泊まることになった。

 

 

26 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:52:42 ID: 6CflUDW00

夕食を終え、俺は寝ていた和室に戻った。
"女の子の家"という感覚はまったくない。ツンの家はお屋敷なので、ここは旅館の一室のようなものだ。
こうして一人になると公園なんかよりずっと居心地がいい。

 

畳に寝そべり、ただぼーっとしていると、雨の音がだんだんと静かになっていくのが分かる。

 

・・もしかして

俺は障子の隙間から外を見る

 

 

('A`)「雨、止んだじゃん!」

 

 

28 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 21:56:39 ID: 6CflUDW00

よく見るとまだポツポツとは降っていたが、ほとんど止んだようなものだ。
・・だが、今日はここに泊まることにしよう。
夏の雨は、激しく降って、急に止む。空はいつものこの時間帯のように、綺麗な色を帯びてきた。
そう思って、俺は再び畳に寝そべる。

 

 

 

すると、今度は外を見た逆方向から、なにやら物音が聞こえてきた。

金属音か?何かと何かがぶつかる音だ。何かを叩いている。

俺は、そっと障子を開けてみた。

 

 

 

ξ;゚听)ξ「・・・・」

 

33 名前: 所々修正 ◆ps3CKPkBXI Mail: 投稿日: 07/08/09(木) 22:04:43 ID: 6CflUDW00

なんと、車椅子に乗ったツンがハンマーのようなもので俺の自転車のペダルを叩いている。
手前のペダルを、何度も何度も彼女は叩いていた。
もちろんペダルは壊れていないが、ところどころがかなりへこんでいる。
なぜこんなことを!? 目線を変えると、ブレーキとタイヤを繋ぐ線の部分が切られているじゃないか。
・・・自転車を壊されているのか!!!

 

 

 

(;'A`)「・・お、おい!!!」

 

 

 

 

俺はそれを見るなり、すぐさま縁側から飛び出す。
勿論素足だが、そんなことは関係なく、俺は自分の自転車が壊されてたことで、パニックのような状態になっていた。

 

 

35 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 22:06:44 ID: 6CflUDW00

ξ゚听)ξ「!!!」

 

ツンは俺に気づくと、ハンマーを手に急いで車椅子を発進させた。

 

必死でツンは車椅子を走らせて俺から逃げる。

 

だが、すぐに追いつき、俺は肘掛を両手で掴んでツンを押さえた。
俺はツンに呟く。

 

('A`)「く、車椅子が人の足に勝てるわけねーだろっ」

 

 

36 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 22:09:31 ID: 6CflUDW00

彼女は車椅子を勢いよくターンして、俺の腕を肘掛から振り解いた。
俺の正面に来た彼女の顔は真っ赤になり、目にはうっすら涙を浮かべている。

 

 

この時点で俺はようやく自分の言葉が不味いものだったと気づく。

 

 

(;'A`)「・・・」

ξ;听)ξ「しね!!」

 

 

 

彼女はハンマーを俺に向かって振り回す。
俺はそれを避けるのに精一杯で、自分の言葉について謝ることも、相手の行動を糾弾することも、ままならない。

 

 

37 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 22:10:52 ID: 6CflUDW00

ξ;听)ξ「ばかやろう!ばかやろう!」

 

 

ハンマーの動きはもちろん不規則極まりなく、後退してもすぐ車椅子を操作して間を詰めてくる。

 

 

ツンは右手を振り回しているだけ、俺は全身でそれを避けている。
体力の消耗は俺の方が圧倒的に激しい。
息が切れ、動きが鈍り始めたときだった。

 

(;'A`)「や・・やめ」

(; A )「・・っ!!」

 

 

39 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 22:12:37 ID: 6CflUDW00

右の二の腕に、ズシリと重いものがめり込んでくる感覚が走る。
俺は思わず腕を掴んで膝をつき、ツンのほうも動きが止まる。

 

 

そこでようやく俺は言葉を口に出すことができた。

 

 

(;'A`)「お、おい!!」

(;'A`)「なんで俺の自転車ぶっ壊してんだよ・・・・」

 

ξ;听)ξ「・・」

 

(;'A`)「言えよ!!」

 

 

41 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 22:15:31 ID: 6CflUDW00

ツンは涙を指の先で拭き取りながら言い返す。

ξ;听)ξ「む・・・むかつくんだよ!!!」

 

 

(;'A`)「はぁ??」

 

 

ξ;听)ξ「・・・旅?・・・VIP県からラウンジ県?・・・野宿?」

 

 

ξ;听)ξ「おまえみたいな、自由に好き勝手なことやってる奴」

 

 

ξ;听)ξ「大嫌いなんだよ!!」

 

 

42 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 22:16:39 ID: 6CflUDW00

('A`)「じゃ・・じゃあ」

 

 

 

('A`)「なんで助けてくれたんだよ!!」

 

ξ;听)ξ「・・・」

 

ツンは口ごもり、俺は続ける。

 

('A`)「俺、看病してくれてすごく嬉しかったのにさ」

('A`)「・・今はなんだか色んな意味で悲しいよ」

 

 

43 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 22:17:50 ID: 6CflUDW00

ξ;听)ξ「・・・」

ξ;听)ξ「うるさいうるさいうるさい!!!」

 

 

再びツンがハンマーを振り回す。
だが俺は冷静さを取り戻していたので、簡単にツンの腕を掴んで制止することができた。

 

 

ξ;听)ξ「さ、触るな!離せ!」

 

俺は素直にその言葉に従う。
・・ツンはゆっくりと腕を下ろす。

 

 

44 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 22:21:11 ID: 6CflUDW00

ツンは瞳いっぱいに涙を溜めて、それが流れないように我慢していた。
しかし、1滴、2滴とそれは零れ落ちていく。
口をきゅっと結んで堪えるその姿は、リビングで見たのと同じように、幼さを感じられた。

 

 

今度は俺は自転車の方に目を向ける。
これじゃブレーキをかけることができないし、ペダルの損傷のせいで、かなり運転に支障を来たすだろう。
こんな状態じゃ自転車を漕ぐことはできない。

 

('A`)(・・自転車)

('A`)(どうしてくれるんだ?)

 

 

48 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 22:23:45 ID: 6CflUDW00

俺は下を俯いた。

 

 

 

眼中に入る水溜りに、オレンジ色の入道雲が写る。

 

 

 

( A )「・・・・・」

 

ξ )ξ「・・・・・」

 

 

二人の沈黙を、雨で休んでいた蝉たちの一斉の泣き声が包む。

そしてそれを割るように、どこかのスピーカーから、乾いた声が聞こえた。

 

 

51 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 22:29:59 ID: 6CflUDW00

『・・・町内会から連絡です・・・・』

 

从'ー'从「二人とも〜、スイカ切ったから食べましょう〜」

从;'ー'从「・・・!!!!!!!!!」

从;'ー'从(ど・・どうしたのこの自転車!?)

 

『・・・雨が止んだので、当初の予定通り・・・』

 

( A )「・・・」

ξ )ξ「・・・」

 

 

52 名前: 1 ◆ps3CKPkBXIMail: 投稿日: 07/08/09(木) 22:30:58 ID: 6CflUDW00

从;'ー'从「つ・・ツンちゃん?」

 

『・・・サロン岡市の夏祭り、納涼歩行者天国を夜7時より開始します・・・』

 

( A )(俺の旅、終わった)

 

『・・・大通りの通行止めは6時45分から・・・』

 

从;'ー'从「・・・・」

 

『・・・・・』

(自転車編3 おわり)

 

 

 

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