2 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:22:51.32 ID: v8IVI5DC0
ブーンスレ。

VIPを開けば必ずと言っていいほど見受けられる、読み物、創作としてのスレッド。

同じような趣旨のスレッドの中ではトップクラスの規模を誇り、その内容も様々。
似通ったものもあるが、その内容は実に多岐に渡る。

人の移り変わりを経て、このブーンスレが現在まで保ち続けているのは、一重にその自由さからだと言える。

まず、ブーンスレには決まったジャンルが存在しない。

ファンタジー、SF、ミステリー、コメディ……ブーンスレにはそのどれもが存在する。
わけのわからない言葉の羅列を書いてみても、それなりに評価されることさえある。

そして、ブーンスレの書き方には決まったルールが存在しない。

誰かが作ると決めた時から、後はその書く者の自己判断に委ねられるのだ。
もちろん是非を問われる場合もあるが、そんなものを全て突っぱねた例も存在している。

“誰でも自由に書ける。”

これこそが、ブーンスレが今まで継続されてきた理由であり、大きな魅力の一つなのである。

 

3 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:25:05.12 ID: v8IVI5DC0
ただし、そんなブーンスレにも、ある一つの、根底とも呼べる決まりごとがある。

それは、「ブーン達」を登場させること。

まさに大前提、至極当たり前の事柄である。

とにかく、ブーンスレなのだから「ブーン達」が出てくる必要があるわけだ。

しかし、扱うのは何もブーンでなくともよい。
その他にも、様々なキャラクターがスレッドには登場している。

言ってしまえば、ブーンを使わなくてもいいのだ。
使わない方が都合が良かったり、単純に嫌いだったり、自分がやりやすい方法を取ればいい。
クリープの代わりにコーヒーに刺身醤油を入れる人がまずいないのと同じことだ。

そしてもちろん、それを咎める者などいない。

これさえクリアすれば、後はオリジナリティを尊重するも、盗作以外で何かの二次創作を製作するも、各人の自由。

それが、ブーンスレなのである。

 

6 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:27:46.06 ID: v8IVI5DC0
ブーンスレには「ブーン達」を登場させなくてはならない、と言ったが、その「ブーン達」の扱われ方も様々である。

そもそも、ブーンというキャラクターだけでも決まった性格は存在しない。
特徴的な喋り方、腕を広げて走る……一応個性と呼べるものはあるが、曖昧の域は出ていないだろう。

それ故、キャラクターの性格も書く者の意思に委ねられる。
朗らかだったり、陰険だったり、残忍な性格を持っていたり……。

少なからずある公式の設定さえ、歪められて登場させられることもある。
その場合は、代わりに高水準のクオリティを要求されるが。

だが、ちょっと待って欲しい。

キャラクターが一人であるのに対して、このように多種多様な性格付け。

普通ならありえない。多重人格にも程があると言っていい。

 

7 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:30:16.57 ID: v8IVI5DC0
ならば何故か。

簡単なことである。演じているのだ。

「ブーン達」は作者に与えられた台本に沿って行動する、役者なのだ。

彼らはそれぞれ控え室に待機し、出番が来るその時をじっと待っている。

きっと他の役者のことを意識もしているだろうし、自らの人気を気にして考え込んだりするかもしれない。

仮に、「ブーン達」を演劇集団――劇団であるとする。

それならば、彼らは実に優れた役者だと言えるだろう。
作者が決めた演技を忠実にこなし、そのゴールに向かって文句も言わず追走する。

完璧なまでに自らを殺し、与えられた役を徹底的に演じるのだ。

そして、キャラ達の関係もきっと悪いものではないだろう。
彼らは作者の言うとおり動くだけなので、演技論をぶつけたりすることもない。

もしかしたら、昔話を肴に酒を酌み交わしているのかもしれない。
物語の中ではいがみ合っているキャラも、素に戻れば友人……なんてこともありえるわけだ。

人によっては、これを残念に思うかもしれないだろう。

だが、それが彼らのブーンスレにおけるアイデンティティなのだ。

 

9 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:32:49.42 ID: v8IVI5DC0
では、もしもそんな常識を覆す事象が起こったなら。

キャラクター達を個の存在として扱い、人と同じく動ける権利を与えたなら。

そして、その生の感情を吐き出さざるを得ない、特殊な環境が用意されたならば。

 

一体、彼らはどのように考え、どのように動くのだろうか。

 

 

10 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:34:51.91 ID: v8IVI5DC0

“友達を疑ってかかるのは、友達からだまされるよりも恥ずかしいことだ。”

ラ・ロシュフコー[ラ・ロシュフーコー]
(17世紀フランスのモラリスト・著述家、1613〜1680)

 

12 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:37:23.76 ID: v8IVI5DC0
( ^ω^)「あれ……?」

気が付けば、彼は白い部屋の中にいた。

窓も、何かしらの出っ張りすらない、ただ平坦な壁に包まれた、真っ白な空間。
全く違う色彩であるが、漆黒の宇宙を想像させるような、そんな何も無い場所だった。

(;^ω^)「え、ちょ、ここどこだお?」

やっとこさ脳みそに血が流れ始めたんだろう。
周りを見渡しながら、同時に自分が尻餅をついていることにも気付く。

しばしぼーっとしていたのは、今いる場所が彼の記憶のどこにもない場所だったからだ。

自分が今おかれている事態を認識し、慌てふためく様子が見て取れる。

(;^ω^)「うはwww怪現象ktkr」

条件反射なんだろうか。思いもよらぬ軽口が飛び出した。

きっと、彼の産まれた場所がそういう場所だったから、そんな反応を示したんだろう。
いや、産まれたというより、存在を与えられた、の方が正しいだろうか。

とにかく、彼――内藤ホライゾン。
皆からブーンという名で親しまれているこの男は、このどことも知れない場所で目を覚ました。

 

 

15 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:40:41.25 ID: v8IVI5DC0
(;^ω^)(新しいブーンスレ? でも、何も聞かされてないお)

色んな思考を張り巡らせてみるが、その答えが出るはずもない。
彼は、自分がどうやってこの場所に来たかすらわからないのだ。

だが、かすかな記憶ならまだ残っている。

彼が覚えている最後の記憶は、最近完結を迎えたブーンスレでのものだ。
大作ではないが密かな人気を抱えていた良作で、温かな「乙」とささやかな感想が述べられた光景を憶えていた。

(;^ω^)(……あれ、そこから全く記憶がないお)

そこで生じる、まるで必然のような違和感。

どんなに頭を捻ってみても、その先のことが一向に思い出せない。
まるでビデオテープが焼き切れてしまったかのように、記憶はそこでぷっつりと途絶える。

例えようのない気持ちの悪さだけが残っていた。

( ^ω^)「……まあいいお。とにかくここから出るお」

と、呟いたはいいものの、当然どうすればいいかなどはわからない。
パソコンもないので、誰かに助けを求めるわけにもいかない。

( ^ω^)「おっ」

しかし、何かないかと目を凝らしていたおかげで、彼はあるものを発見した。

ドアだ。

 

17 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:43:23.15 ID: v8IVI5DC0
( ^ω^)「すいません。ちょっとお邪魔しますお」

特に怪しむ様子もなく、彼は部屋に一つしかなかったドアを開ける。

すると、その先にはまた別の空間が広がっていた。

( ^ω^)「おっ!」

彼は驚きと、少々の喜びが含まれた声を上げる。

新たな部屋はまたしても白一色だったが、今度は真ん中に黒塗りのテーブルが一つ。
それを囲むように、五つの革椅子も用意されてある。
やはり窓はなく、代わりに壁の一面には巨大なモニターが施されていた。

殺風景と言うのとは違うが、またしても、ほぼ何も無い空間だった。

そして、もちろん声を上げたのはこの部屋の内装に対してではない。

その部屋の中に、見知った人物の姿があったからだ。

('A`)「おう」

(´・ω・`)「やあ」

( ,,゚Д゚) 「お前も来てたのか」

ξ ゚听)ξ「ちょっとブーン! なんなのよこれは!」

 

19 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:45:19.72 ID: v8IVI5DC0
出会っていきなりなんなのよと言われ、それはこっちが聞きたい、とブーンは思った。

 

( ^ω^)あな素晴らしきかなブーンスレ、のようです

 

 

21 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:47:58.88 ID: v8IVI5DC0
( ,,゚Д゚) 「もちつけ、ツン。内藤だって俺らと同じようにここに来たんだろ」

どことなく硬派な印象を受ける男……いや、雄猫。
口をへの字にした少女に対し、慣れた感じでなだめる。

彼の名は、ギコ。

ξ ゚听)ξ「じゃあなに? 全員わけもわからずここに来たってこと?」

少女は素直に不平を口に出し、不満そうにどかっと椅子に座る。
革とスプリングは何も言わず、その体を受け止めた。

彼女の名は、ツン。

(´・ω・`)「一体どこなんだろうね……ここ」

見た目も、その言動からも、弱気な心がひしひしと伝わってくる。
勝気な少女がそばにいるせいか、一層それが引き立っていた。

彼の名は、ショボーン。

('A`)「マンドクセ」

先ほどから椅子に腰掛けたまま、ほとんど動こうとしない。
口にすることは、ただ怠惰な一言だけ。

彼の名は、ドクオ。

 

22 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:50:29.24 ID: v8IVI5DC0
( ^ω^)「うお! なんかすごいところに迷い込んじまったぞゴルァ……って感じかおwww」

( ,,゚Д゚) 「なんか全然不安そうじゃねえなゴルァ」

(´・ω・`)「むしろ楽しそうだよね」

ξ ゚听)ξ「ブーン、アンタも何も知らないの?」

ツンの質問に、ブーンはどことなく楽しそうにコクコクと頷く。
今の状況をわかっているのかと、ツンは呆れ気味に息を吐いた。

( ^ω^)「おっ? アンタも、ってことは、みんなそうなんだお?」

ξ ゚听)ξ「どうやらそうみたいね。あたしは久し振りに更新されたスレに出た時から、全く記憶がない」

ツンの答えを皮切りに、他の者達も自分の記憶を話し始めるが、その内容はどれも似たようなもの。
いつも通りに来た役を演じ終わって、気が付いたらここに……というものばかりだった。

( ,,゚Д゚) 「もしかして、これもブーンスレなのか?」

(´・ω・`)「でも、それだったらちゃんと自分がやる役割が伝わってるはずだけど……」

( ^ω^)「これから伝えられる、とかかお?」

ξ ゚听)ξ「でも、そんなこと今までなかったじゃない」

 

23 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:52:53.27 ID: v8IVI5DC0
四人はそれぞれ首を捻り、椅子に腰掛けた一人は退屈そうにその光景を眺める。
しかし、できることはせいぜい可能性を示唆することが精一杯だ。

言うまでもなく、彼らはあくまで受け身の存在なのだから。

だが、それでもその様子には若干の余裕が見られていた。
何故なら、今までにもこれと同じか、それ以上に突飛な状況を演じたことがあるからだ。

それに、作者の逃亡が日常茶飯事の彼らである。
このぐらいでは驚かない、というところだろうか。

( ^ω^)「……おっおっおっ」

ξ ゚听)ξ「……」

(´・ω・`)「……」

そして、長考。

語る言葉も尽くされ、後は各々で考える他ない。
最も、ちゃんと考えているのか不明なものもいたりしたが。

しかし、その静寂もすぐに破られた。

「……お集まりの皆さん……」

( ^ω^)「おっ!」

(;,,゚Д゚) 「なっ、なんだゴルァ!?」

 

25 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:55:28.96 ID: v8IVI5DC0
突然、声が聞こえてきた。

しかし、どこからしたかは判断できなく、なんだか部屋全体からしたように聞こえた。
どうやら、立体的な音響を使っているようだ。

「ようこそ、この部屋に。突然連れて来てしまって申し訳ありません」

( ,,゚Д゚) 「一体なんなんだこれはゴルァ! 謝るよりもちゃんと説明しろ!」

「おっと、これはこれは。それでは説明させていただきます。今から、あなたたち五人にゲームをやっていただきたい」

(´・ω・`)「ゲーム?」

「なに、簡単なゲームです。誰でもできるような、ね」

ξ ゚听)ξ「なんでそんなことしなくちゃいけないのよ!」

「それは言うことができません。悪しからず」

声は加工されて誰だかわからなくなっていたが、その態度は随分飄々としていた。
狼狽する彼らに対して、あくまで他人事であるかのように。

いきなり連れて来られて、そんな物言いをされて、五人がいい思いをするはずがない。

「ゲームは一人ずつ行ってもらいます。そして、もし一人でも失敗すれば、必ず一人にペナルティを受けてもらいます」

( ^ω^)「ペナルティ?」

「はい、それは“除外”させてもらうことです」

 

26 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 22:58:18.21 ID: v8IVI5DC0
ξ ゚听)ξ「除外……? この場から外されるってこと?」

「そういうことにもなります」

('A`)「……じゃあ、俺を除外してくれ」

その場の視線が、一斉にその声の方向へと向く。

今まで黙り込み、微動だにしなかったドクオが、ゆっくりと立ち上がっていた。

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっとドクオ! アンタ何考えてんのよ!?」

(;'A`)「だ、だって、スレの更新予定日が近いし……」

ξ;゚听)ξ「え、あ……」

それを聞いて、ツンは特に何も言えなくなる。
ドクオと言えば、今やブーンに匹敵するほどの人気を持つキャラクターだ。
彼の役目はほぼ毎日あると言ってもいい。

登場が確定的なスレの更新予告など、いくらでもあるのだ。

「除外希望……ですか。それは考えてなかったなあ」

('A`)「とにかく、ここから早く出せ。俺はこんなことに付き合ってなんかられないんだよ」

「はあ……皆さんはそれでよろしいですか?」

その質問に対して、他の四人は一様に口を噤んでいた。
特に遮る理由がないというのもあるが、この展開に混乱しているというのもあるだろう。

 

27 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:00:38.42 ID: v8IVI5DC0
「それでは、少々予定外ですが、ドクオさんを除外させていただきます」

('A`)「ああ」

「はい、除外させていただきました」

( ^ω^)「え?」

当然ながら、その場にいる全員はぽかんと口を開けて呆ける。

だが、異変は確実に起こっていた。それも、一目でわかるぐらいに。

(´・ω・`) 「……あれ? ドクオは?」

ξ ゚听)ξ「え……あ、あれ?」

(;,,゚Д゚)「お、おい!? ドクオがいねえぞゴルァ!」

まさに、その言葉通りのことが起こっていた。

先ほどまでいたはずのドクオの姿が、今や忽然と消え去ってしまっている。
四人は周りをぐるぐると見渡すが、それほど広い部屋ではない。

本当に、ドクオはいなくなっていた。

「それでは、ゲームの開始ということでよろしいでしょうか」

(;^ω^)「よ、よろしいじゃねえお! ドクオはどこに行ったんだお!?」

 

28 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:03:40.97 ID: v8IVI5DC0
当然の疑問だった。

一瞬にして人が消える。

普通ではありえないことが、今彼らのすぐ近くで起こったのだ。
何もせずに静観する方がおかしい。

「ですから、“除外”させていただきました」

(;´・ω・`) 「ちゃ、ちゃんと外に出られたのかい!?」

「いえ、そういうことではありません。何しろ、ドクオさんはもうこの世に存在しませんから」

瞬間、その場が凍りついた。

 

29 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:05:37.62 ID: v8IVI5DC0
(;,,゚Д゚)「……し、死んだのかゴルァ……?」

ξ;゚听)ξ「う、嘘でしょ……!?」

「いえ、死んだわけではありません。存在を除外させてもらいました」

緊張感は解けないものの、今度は同じくらいの嫌疑感が浮かび上がる。

声の主が一体何を言っているのか、その場の誰もがそれを求めた。

「私が除外させていただいたのは、ドクオさんの存在です」

(;,,゚Д゚)「だ、だからどういうことだゴルァ!」

「そうですね、手っ取り早く見てもらいましょう」

すると、壁の一面を占めていたモニターに何かの映像が映り込む。
それが何なのか、彼らはすぐに理解できた。

(;^ω^)「これ、VIPだお」

ニュース速報(VIP)@2ちゃんねる、通称VIP。

モニターが映したのは、そのスレッド一覧だった。
そして、同時に見慣れた矢印のカーソルが画面上を動き、とあるスレをクリックする。

それは、絶大な人気を誇る、ブーンスレを代表するような作品のスレだった。

 

31 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:08:20.06 ID: v8IVI5DC0
(;^ω^)「……あれ?」

画面がスレの過去ログをスクロールする中、ブーン達はすぐにその異変に気付いた。
自らも登場しているその作品に、あるはずのものがない。

そう、ドクオの姿だけが、ない。

(;´・ω・`) 「これ、ドクオも出演してたよね……?」

ξ;゚听)ξ「しゅ、出演どころか主役級のはずよ!」

ドクオがいるはずの部分には、見慣れない新しい顔文字が登場していた。

しかし、それに対するスレの反応は「wktk」だの「支援」だの、全くいつもと変わらない。

それはまるで、ドクオなど初めからいなかったかのように。

(;,,゚Д゚)「……! が、画面が変わった……?」

驚く彼らを突き放すように、モニターは別のページを映し出す。
それは、やはり彼らの見知った光景。

ブーンスレの、まとめサイトだった。

(;^ω^)「い、いないお……どこにも……」

(;´・ω・`) 「オムソバにも、ブーン百合にも……」

ξ;゚听)ξ「ドクオが……いない……」

 

33 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:10:53.01 ID: v8IVI5DC0
「おわかりいただけたでしょうか」

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと! こんなの加工すればすぐできるんだからね!」

(;,,゚Д゚)「そ、そうだゴルァ! 悪趣味だぞ!」

賢明な判断であるはずのその叫びも、何故か滑稽なものにしか見えなかった。

それに対して声の主は何も言わず、ただただ彼らの不安だけが募っていく。

「ご安心ください。ゲームに全員が成功すれば、誰も除外されずに済みます」

(;^ω^)「そ、そうなのかお……」

「ですが、そう上手くはいかないでしょう」

ξ;゚听)ξ「な、なんでよ」

「あなた達の中に、わざと悪い結果に向かうようにするものがいます」

その場にいた全員が、「えっ」と、驚愕の声を上げた。

 

34 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:13:26.89 ID: v8IVI5DC0
ξ;゚听)ξ「ど、どういうことよ……?」

「言った通りです。あなた達の中にはわざとゲームを失敗させようとするもの……“ファントム”がいます」

条件反射と言うものなのか、その場の全員がお互いを見渡す。

その視線に込められているのは、未だ半信半疑のものである。
しかし、数刻前のものとでも、全く違うものであった。

(;´・ω・`) 「あ、予め失敗することが決まっているっていうのかい……?」

(;^ω^)「ブ、ブーンは違うお!」

ξ;゚听)ξ「あたしだって違うわよ!」

(;,,゚Д゚)「落ち着けお前ら! こんな奴の言うことを信じるんじゃねえ!!」

鶴の一声というやつなのか、ギコの後に喋ろうとする者はいなかった。

しかし、不安が消え去ったわけではない。

もし、ギコの言う通り、全ては偽りだったとしても、画像も加工してあったものだとしても。
ドクオがこの場から一瞬にして消え去ったことは事実。

用心しない理由はないというものだ。

 

36 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:16:31.07 ID: v8IVI5DC0
「それでは、ゲームを開始させてもらいます」

(;,,゚Д゚)「お、おい! ちょ、ちょま……!」

「まずは、このゲームです」

途端、部屋の天上が開いたのか、何か白いものがテーブルの上に落下してきた。

かこん、と何かがぶつかる音が弾け、そのまま物体はずるりと床へ落ちていく。

( ^ω^)「これは……縄跳び、かお?」

ブーンが落ちてきたものを拾うと、それはよく学校などで見かける、スタンダードな縄跳びであった。
一応その隅々まで調べてみるが、特に不審な点はない。
恐らくは、スポーツショップで売っているような廉価品だろう。

「それを使って、二重跳びをしてもらいます」

( ^ω^)「えっ……なんだお、そんなんでいいのかお」

ブーンは縄跳びの柄を両手で持ちながら、少し拍子抜けするような表情を作る。
恐らく、自信の表れなのだろう。軽やかな感じで、その場で二、三回平跳びをして見せた。

( ,,゚Д゚) 「なんだ……本当に簡単なんだな」

ξ ゚听)ξ「よくわかんないわね……」

愚痴を漏らしつつも、彼らは一様に安堵の表情を見せる。

一人を、除いて。

 

38 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:18:59.42 ID: v8IVI5DC0
(;´・ω・`) 「……」

( ^ω^)「……? ショボ……?」

その時のショボーンの様相からは、誰の目にも焦りが伝わってきていた。

そして、その焦りが何に依るものなのか……そんなもの、誰にだって想像できる。

(;,,゚Д゚)「ショボ、まさかお前……」

ξ;゚听)ξ「できない、の……?」

その言葉は、決して彼を馬鹿にするようなものではない。
哀れみでもなく、どちらかと言えば呆れや怒りに近く、そして、一気に絶望へと向かうものだ。

そんな質問にショボーンができることなど、申し訳無さそうに、震えて、頭を垂れる以外にない。

(;´・ω・`) 「ご、ごめん……で、でも、運動ができるとか、僕にはあんまりそういうイメージがないし……」

それは、暗に彼らの限界を表す言葉だった。

彼らにとって、自らを構成するものは他人のイメージなのだ。
それが個性となり、それを使って作者はブーンスレを創造する。

そして、ショボーンの代表的なイメージは、弱気、バーボンマスター、そして知的キャラ。

運動ができる、という設定の作品に登場したことがないわけではない。
だが、どうしても、彼は体力よりも知力が先行されるキャラになってしまっていた。

せめて、ブーンやツンのように、活発なイメージぐらいあれば、なんとかなったのかもしれないが。

 

39 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:21:42.70 ID: v8IVI5DC0
「言っておきますが、ゲームの内容を変更することはできません」

(;^ω^)「……!」

「そして、もしゲーム自体を拒否するならば、全員を除外させていただきます」

それは、傷口に塩を塗るような、ともすれば処刑宣告にすらなるような言葉だった。

一時は余裕を見せていた三人の表情も、ショボーンと同じく暗く、重いものに変わる。
こうなってはもはや、縄跳びも首をくくるための道具にすら見えているかもしれない。

(;,,゚Д゚)「ど、どうするよ……?」

ξ;゚听)ξ「どうするったって……」

場に沈黙が広がる。

だが、もはや彼らに選択肢は無いと言って等しかった。

(;,,゚Д゚)「……とりあえず、跳べる奴は跳んでおいた方がいいんじゃないか」

(;^ω^)「……従うのかお?」

(;,,゚Д゚)「そ、そんなこと言ったって……どうしろってんだよゴルァ……」

ブーンもそれ以上、ギコに反論することはしなかった。
そして、ある程度緊張を持っていただろうが、難なく二重跳びを成功。
続いてギコ、そしてツンが一度失敗するも、その後は落ち着いて仕事をこなす。

そうして、縄はショボーンの手へと渡る。

 

40 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:24:56.84 ID: v8IVI5DC0
(;´・ω・`) 「……」

(;,,゚Д゚)「いいかショボ、腕を回すんじゃねえ、手首を意識して回すんだゴルァ」

率先して、ギコがショボーンに跳び方のコツを教えようとする。

だが、その震える腕に、溢れ出す汗に、その言葉がどれだけ届いているというのか。
もはや、今の彼には呼吸することすら難しいというのに。

「失敗は二回までです。さ、ショボーンさんどうぞ」

(;´・ω・`) 「う、あ……」

しかし、ショボーンは縄を握ったまま、それ以上動くことができなかった。
その代わり、動悸は増し、呼吸も荒くなり、下手すると眩暈を起こしそうな感覚に陥る。
できることなら、このまま気絶してしまいたい、とも思ったかもしれない。

「あまり長引くようなら、失敗という扱いにしますが」

(;´・ω・`) 「……はあっ、はあっ……はあっ……!」

ショボーンの手に、痛みが走るほどに力が込められる。
そんな様子を、他の三人は黙って見守るしかない。
こんな時に如何な言葉をかけようとも、意味のないことなどわかっていた。

やがて、ショボーンは歯を食いしばり、その呼吸を完全に停止させる。
手首と膝が動き、白い弧を描いた縄が空中に向かって弾んでいく。
ただギコに言われた通りに、神に祈るでもなく、ただ夢中で体を動かした。

――しかし、飛ぶことは叶わなかった。

 

42 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:28:06.05 ID: v8IVI5DC0
「では、残念ながらこのゲームは失敗とさせていただきます」

(;´・ω・`) 「……ごめん……」

(;^ω^)「……」

それは、今にも消え去りそうな謝罪だった。

ショボーンは力なく膝を落とし、そのまま頭を抱える。
何も言うことはない、そして、何かを言ってやることもできない。

全ては、残酷な結果に身を任せるだけ。

「それでは、以上の結果を踏まえ、投票タイムに移行します」

(;,,゚Д゚)「え?」

「ペナルティを受けるべきだと思う人物を選び、挙手をしてください」

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっとどういうこと!?」

その場の緊張感が、また違ったものへと変わる。

彼らはてっきり、ゲームに失敗した者がペナルティを受けると思っていた。
しかし、実際はそうではないと言う。

除外する者は、自分らで選べと、そう声は告げた。

 

45 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:30:36.01 ID: v8IVI5DC0
(;,,゚Д゚)「お、俺たちで決めろってのかゴルァ!?」

ξ;゚听)ξ「じょ、冗談じゃないわよっ!」

「当然ですが、全ての票を等しくすることは認めません。とにかく一人を決めてもらいます」

そのあまりにも一方的なルールに、彼らは当然ながら憤りを露にする。

だが、今本当に辛いのは誰なのか。

そんなものは、決まっている。

(´・ω・`) 「……みんな、僕でいいよ」

ξ;゚听)ξ「えっ……」

(´・ω・`) 「失敗したのは僕だから……僕を選べばいいよ」

ショボーンは、既に諦めていた。

もはや、投票を行うことなど、彼にとっては無意味に等しい。
消えるまでの時間が、わずかに、そして悪趣味に延びただけに過ぎない。

恐らくは、ここで同情を誘うことだってできただろう。
だが、そうしたところで、誰が評価を覆してくれるだろうか。
こんな絶望的で、命懸けの、常識が通用しないこの場所で。

生きるために誰かを犠牲にしないといけない以上の理由を、彼は持ち合わせていない。

だから、二重跳びを失敗した時点で、既に彼のペナルティは決まっていたのだ。

 

46 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:33:22.20 ID: v8IVI5DC0
その後は、機械的だった。

ショボーンの名が告げられた時、彼以外の三人は力なくその手を挙げた。

自分に票を入れることは認めないと言われ、ショボーンはギコに手を挙げた。

そして、ショボーンという存在はこの世から消えた。

 

47 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:36:00.88 ID: v8IVI5DC0
( ^ω^)「……」

ξ ゚听)ξ「……」

場を包んだのは、相変わらずの沈黙だった。

ショボーンは、ドクオと同じように一瞬にしてこの場から消え去った。
しかも、今度は見ている者の目の前で、だ。

机の上にあった埃を、ふっと吹き飛ばすかのように、まるでショボーンがいた空間だけ切り取ったかのように。

超常現象というものは得てして、奇術やトリックがあるもののように見えたりする。
しかし、それは全てを上から押さえつけるような、圧倒的な説得力を持った消失だった。

もはや、彼らには疑う余地すらないと、決め付けられたのかもしれない。

( ,,゚Д゚) 「……あの、さ……」

( ^ω^)「……なんだお?」

( ,,゚Д゚) 「……ショボが、ファントムってのだった……っていう可能性はねえのかな」

ξ;゚听)ξ「……ちょっとギコ、本気で言ってるの!?」

その一言は、また別な沈黙をその場にもたらした。

だが、それは嵐の前の静けさ、ほんの少しの閑話に過ぎない。

 

49 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:38:49.78 ID: v8IVI5DC0
(;,,゚Д゚) 「も、もしも、もしもの話だゴルァ……」

ξ;゚听)ξ「信じられない!! ショボは自分から名乗り出たのよ!?」

(;,,゚Д゚) 「無神経だってのはわかってんよ! ただ可能性の話をしただけだろゴルァ!?」

(;^ω^)「ちょwwwお、落ち着けお!」

ツンはギコに対し、目に余るほどの怒りを見せた。
ブーンが慌てて止めなければ、彼女はギコを引っ叩いたかもしれない。

確かに、ギコの発言は無神経としか言いようが無い。
だが、彼も今の状態に混乱していた、と捉えることだってできるはずだ。

極度の緊張状態が、彼らの考える力、冷静さを根こそぎ奪っていく。

「残念ですが、ショボーンさんはファントムではありません」

ξ;゚听)ξ「当たり前よ!!」

「まずは落ち着いてください。その方が、あなた達のためでもあります」

(;,,゚Д゚) 「ど、どういうことだゴルァ?」

すると、モニター上に何やら記号が浮かびだした。
それは特別なものではなく、誰もが知っている「四則」と呼ばれるもの。

「次のゲームは、暗算です」

 

51 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:41:37.64 ID: v8IVI5DC0
画面上に表示される四つの記号。

それは先ほどの二重跳びとは全く別の趣旨を意味していた。

(;^ω^)「暗算……」

瞬間、ブーンの体温がわずかに上下する。

彼はその名を冠する通りブーンスレの主役級、最多出場を誇るキャラクターだ。
だが、だからといってなんでもオールマイティにこなせる、というわけではない。

ショボーンは知的なイメージを有していたが、彼は決してそうではないのだ。

もちろん、過去には天才的な知能を持って出演したこともある。
だが、それは数ある作品群のほんの一握り。

むしろ、彼の使いどころはその対極が多いと言っていいだろう。
もしかしたら、そのギャップが評価される形のものもあったかもしれない。

「それでは、ブーンさんから始めたいと思います」

(;^ω^)「えっ! あ、えあ、あう……」

そんな気持ちを知ってか知らずか、無慈悲な声は挑戦者にブーンを選ぶ。

モニターに、数字と記号が表示された。

 

52 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:44:19.45 ID: v8IVI5DC0
「解答までの時間は三十秒。今回は一度の失敗も許されません。それでは、どうぞ」

(;^ω^)「え、えーっと、えーっ……」

表示された問題は、少し考えればわかるような割り算。
馬鹿みたいに数の桁が多いなど、そんなこともなかった。
落ち着いてやれば、三十秒どころかかなり余裕を持って答えられるだろう。

しかし、今はそのどの条件も当てはまらない。

(;^ω^)(まず三で割って、その残りが……えーっと……だから……)

不安、焦り、緊張。

ただの数学のテストとは比べられない、本当に命が懸かった難題。

「それでは、解答をどうぞ」

(;^ω^)「あっ、えっと……さ、さんじゅう……」

例えるならば、老朽化が進んだ釣り橋の上を渡るような。
別の道を行こうにも、すぐに後ろから追っ手が迫って来ているような。

(;^ω^)「……はち……」

そして。

「……不正解です」

ブーンは、その道を踏み外した。

 

54 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:46:48.44 ID: v8IVI5DC0
(;゚ω゚)「えっ! あっ! 違うお! 三十七だお!!」

「それでは、次はツンさんお願いします」

(;゚ω゚)「違う! 違うんだお! 三十八じゃなくて三十七なんだお!!」

しかし、声はブーンの叫びに答えなかった。

例えその答えが正解だろうとなかろうと、そんなことは問題ではない。

ブーンはできなかった。目の前にあった命綱を、あろうことか掴み損ねた。

もう、変わらない。もう、戻せない。

(;゚ω゚)「違うんだお! 三十七なんだお!」

「ブーンさん、それ以上言うならあなたを除外します。それではツンさん、どうぞ」

ξ;゚听)ξ「……」

モニターに表示されたのは、やはりそう難しくない掛け算だった。
それでも三十秒をぎりぎり使って、ツンは解答する。

正解だった。

「続けて、ギコさん」

(;,,゚Д゚) 「あ、ああ……」

もう、ブーンは声も出なかった。

 

57 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:50:26.71 ID: v8IVI5DC0
(;,,゚Д゚) 「……よ、四十二……」

「正解です」

(;,,゚Д゚) 「よしっ!」

少し自信なさげな解答だったものの、その結果にほっとギコは胸を撫で下ろす。

「それでは、以上の結果を踏まえて、投票タイムに移らせてもらいます」

(  ω )「……」

ブーンは、もはや生きている心地がしなかった。
死刑を待つ囚人とは、このような気持ちなのだろうか。

もう、後悔することすら無意味。
自分で自分を慰めるような、そんな余地すらない。
仕方がなかったのだと、開き直る勇気もない。

何も、できない。

ξ ゚听)ξ「……ねえ、ファントムは、まだ私達の中にいるのよね?」

「ええ、そうですよ」

ξ ゚听)ξ「……そう」

「それでは、投票を開始します」

 

61 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:53:06.52 ID: v8IVI5DC0
「そうですね、ではまずツンさんを除外すべきだと思う方は挙手を」

当然、誰も手を挙げようとはしない。

ブーンも自分以外で手を挙げる義務はあるが、今はその気力すら起こらなかった。

「では、ブーンさんを除外すべきだと思う方は挙手を」

( ,,゚Д゚) 「……え?」

その時ふと、ギコが声を上げた。

そして、彼の脳裏には無数の疑問が浮かび上がる。
彼の目の前で、突如信じられないような事態が起こった。

一体それがどのような結果を引き起こすのか、彼はすぐに理解できない。

しかし、何かが彼の胸に広がっていく。

ただ衝撃を受けたのではなく、自らの本能が警鐘を鳴らすかのように。
何かざわざわとするものが、彼の胸を支配していく。

ツンは、手を挙げなかった。

 

62 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:55:46.07 ID: v8IVI5DC0
(;,,゚Д゚) 「え、な、なんで……」

ξ ゚听)ξ「……ギコ、アンタがファントムでしょう」

(;,,゚Д゚) 「はっ、はぁっ!?」

素っ頓狂な叫びと共に、ギコの感情が一気に昂ぶる。
彼にとっては稲妻のような一言だった。

ξ ゚听)ξ「そうとしか考えられないわよ」

(;,,゚Д゚) 「ふっ、ふざけんなゴルァ!!」

ξ ゚听)ξ「だっておかしいじゃない、もしブーンがファントムなら、ここで失敗するのはありえないわ」

ξ ゚听)ξ「ショボが失敗して、今の空気はなんとなくゲームに失敗した人が除外されるものになってた」

ξ ゚听)ξ「でも、だったらファントムがそんなリスクを犯すなんて考えられない」

ξ ゚听)ξ「それに、アンタは正解したわ」

(;,,゚Д゚) 「はあ!?」

ξ ゚听)ξ「アンタっていう、ギコっていうキャラは、頭がいいイメージはそんなにないじゃない」

(;,,゚Д゚) 「なっ!?」

 

64 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 23:58:15.58 ID: v8IVI5DC0
それは、とんでもない理由なのかもしれない。

だが、彼らにとって、これ以上の理由はないのかもしれなかった。

確かに、ギコというキャラに付いてまわるイメージは、熱血、兄貴肌、豪快、なんてとこだろう。
頭がいい、とは少し言い難い。

(;,,゚Д゚) 「そ、そんなことはねえ! 俺は教授キャラだってやってるんだぞ!」

ξ ゚听)ξ「それでもやっぱり……私はアンタがファントムだと思うわ」

(;,,゚Д゚) 「くっ……そ、それならお前だって同じだろうがっ! だったら俺はお前に票を変えるぞ!」

ξ;゚听)ξ「そ、それは……」

「……ブーンさんはどうされますか?」

瞬間、そこにあった全ての視線が、ブーンに集められた。

絶望の淵にあったブーンにとって、これは紛れもない奇跡と呼ぶしかない。
ついさっきまで処刑台の上にいた自分が、今は全ての決定権を与えられている。

もはや、選択権などというものではない。
この場にいる見知った人物の命を、今まさにブーンが握っているのだ。

「どうされますか?」

(;^ω^)「……ギ、ギコを……」

そして、当然のように彼は生を選んだ。

 

66 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/10(月) 00:00:49.06 ID: /Fi6ZDg30
(;,,゚Д゚) 「ふ、ふざけ――」

「では、ギコさんを除外します」

そして、ギコは最後の言葉もまともに言えぬまま、消えた。

「それでは、最後のゲームを始めます」

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと待ってよ! ギコがファントムだったの!?」

ツンはその問いによって、自らに免罪符を求めた。
先ほどの言動に、罪悪感がないはずがない。
これによって、彼女は少しでも救われたいと思っていた。

だが――

「……残念ですが、ファントムはまだあなた達の中に残っています」

返って来たのは、救いとは真逆の答えだった。

 

69 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/10(月) 00:03:08.78 ID: /Fi6ZDg30
ξ;゚听)ξ「えっ……じゃ、じゃあ……」

そうして、ツンの視線が自らの隣の人物へと動く。

怒りを超えた驚愕と、確信を持った視線。

それが、ぶつかる。

(;^ω^)「……ツ、ツン……」

二人は同じ表情のまま、少しの間見つめ合う。
それが、何を意味するのか。気付くには少し時間が必要だった。

「それでは、最後のゲームを開始します」

(;^ω^)「……!」

ξ;゚听)ξ「……!」

「種目はじゃんけん。投票は行わず、単純に負けた者を除外という形を取ります」

ふさわしいと言うべきなのか、最後は実力やキャラクターに関係のない、ただ運のみの勝負。

どちらから始めるでもなく、静かにそれは行われた。

 

71 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/10(月) 00:06:12.91 ID: /Fi6ZDg30
(;^ω^)「……じゃん、けん……」

ξ;゚听)ξ「……ほい」

勝敗は、あまりにも呆気なく決まった。

余計なことは喋らず、じっくりと考えることもなく。

ただ、二人には結果だけが与えられる。

ブーンがグー、ツンがチョキだった。

 

73 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/10(月) 00:09:06.95 ID: /Fi6ZDg30
「それでは、負けたツンさんを除外させていただきます」

(;^ω^)「……ツ、ツン……」

ξ ゚听)ξ「……いい気味ね」

(;^ω^)「え……」

ξ ゚听)ξ「何が、え……よ。思い通りなんだから、もっと喜べばいいじゃない」

何をするでもなく、ただ淡々とツンは皮肉った。
例え足掻いたところで、もう結果は覆らないことぐらいわかっている。
それでも、恨み言の一つでも言わなければ気が済まなかった。

(;^ω^)「……ツン、なんでなんだお……こんな……」

ξ ゚听)ξ「……何がよ」

(;^ω^)「……なんで、こんなことしたんだお」

ξ;゚听)ξ「え?」

そこで、ツンに新たな感情が芽生える。

恨みも、怒りも、全てが吹っ飛ぶような大きな……疑問が。

ξ;゚听)ξ「ねえブーン、アンタがファントムなんじゃ――」

しかし、その答えを聞く間もなく、彼女の体はその場から消えた。

 

76 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/10(月) 00:12:01.09 ID: /Fi6ZDg30
「おめでとうございますブーンさん。流石と言うところでしょうか」

(;^ω^)「……どういうことだお」

「これからもより一層のご活躍を期待しておりま……」

(;゚ω゚)「うるさい!! そんなことどうだっていいんだお!!」

今日初めて、ブーンが声を荒げる。

一人になって、ようやく感情の抑えが効かなくなったんだろうか。
その拳はわなわなと震え、怒りの炎に身を焦がしているようだ。

(;゚ω゚)「どういうことだお!! ツンがファントムじゃなかったのかお!?」

当然の疑問だろう。そして、それは消えた彼女の代返でもある。

しかして、声は至極冷静に答えた。

「正確に言いますと、ツンさんはファントムでもあります」

(;^ω^)「はあっ!? 何言ってるんだお! ちゃんと説明するお!」

「きっと、ブーンさんはファントムとは私と通ずる、内通者のようなものとお考えでしょうが……」

(;^ω^)「そ、そうだお! 違うのかお!」

「そのような人は、始めからあなた達の中には含まれていませんでした」

 

77 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/10(月) 00:14:51.01 ID: /Fi6ZDg30
ブーンはこれでもか、と言うほどに表情を歪める。

お前は何を言っているんだと、頭の中はちょっとしたパニック状態だろう。

(;^ω^)「じゃ、じゃあ、最初からファントムなんていなかったのかお!?」

「いえ、いましたよファントムは。実際に今もいるはずです」

(;^ω^)「は……?」

「ファントムってのは、文字通り“幻影”なんです。姿は見えない。でも、ちゃんといるんですよ」

(;^ω^)「……何、を……」

「あなた達は私の言うことを信じ、長年付き添った仲間を疑った。それこそが、ファントムの正体です」

瞬間、ブーンの心はどす黒い感情で埋め尽くされる。
悲しみ、呆れ、怒り、どれでもいい。

それらが合わさり、そして爆発した。

(;゚ω゚)「ふざけるなあああああっ!!」

目の前にあったモニターに、ブーンの拳が打ち込まれる。

何度も、何度も。

 

80 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/10(月) 00:17:51.39 ID: /Fi6ZDg30
(;゚ω゚)「ふざけるなっ!! ふざけるなああああっ!!」

「……その姿をもっと見ていたいのですが、残念ながらもう時間なんですよ」

(;゚ω゚)「ああっ!?」

「私だけがあなたを拘束するわけにはいかないんです。出演依頼は山のようにある」

(;゚ω゚)「待てっ!! この野郎待てぇっ!!」

「あ、そうだ、ご安心ください。除外した皆さんも、ちゃんと戻ってますよ」

(;゚ω゚)「待てえええええええっ!!」

そして、最後の一人も消えた。

まるで怨念のような、怒号を残しながら。

 

83 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/10(月) 00:20:15.26 ID: /Fi6ZDg30
――ふと、思う時がある。

ブーン達にとって、ブーンスレとは何なのか。

もし、本当に彼らが役者であるとしたら、ただの仕事のようなものなのか。

だが、彼らは拒否するということができない。
どんなに自分のイメージを壊されても、大人しく順ずることしかできない。

それでは、彼らはただの傀儡なのか。

いや、そう一概には言えない。
ブーンスレは自由に書けるが、決して守らなくてはならないことが無いわけではない。

実際、キャラを壊せば誰かが「こんなのは違う」と言うのだ。
「これはただの小説だ。もはやブーンスレではない」と、批判されたりもする。

従っているのはキャラだけではない。作者や読者もまた、何かに従っている。
曖昧なのはキャラだけではない。ブーンスレ自体も、未だ非常に曖昧なのだ。

しかし、どうだろう。
ブーンスレは笑いを生む。ブーンスレは興奮を生む。ブーンスレは感動を生む。

曖昧なものの集合体から、素晴らしい作品を作ることができる、見ることができる。

ああ、なんて魅力的なんだろう。

 

 

87 名前: ◆ehy9cdLo7I Mail: 投稿日: 2008/03/10(月) 00:23:05.46 ID: /Fi6ZDg30
もっといいものを作りたい、もっといいものを見たい。

ブーンスレは、人をどこまでも貪欲にさせる。

あな素晴らしきかな、ブーンスレ。

それはいつまでも、私の心を離さない。

 

                      <了>

 

 

 

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