334 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:10:04.46 ID: yVfKkUwb0
第7話 「アプー:家庭」
349 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:12:13.67 ID: yVfKkUwb0
ホライゾンとツンが別れてから、5年の月日が経った。
当時は幼子で言葉を思うように話せなかった末っ子のアプーも、今では小学校に通っている。
彼女の兄弟も通った、相変わらず然程大きくも無い学校だったが、そこに5年前の面影は殆ど無い。
新しく建設された体育館に植えられた卒業記念樹木、塗り直されたペンキ。
5年前を連想させるものがパッと見では見つけることが出来なかった。
それがいいのか悪いのかは分からない。
( ^ω^)「アプー、去年は授業参観、行けなくてゴメンお」
(*ノωノ)「ううん、パパは今日来てくれたし、気にしてない。
それよりも、今日はわたしのはっぴょうだから、ちゃんときいててね!」
( ^ω^)「ああ、一瞬たりとも気をぬかないお」
5年前に離婚してから、彼は躍起に仕事を探し、4ヶ月ほどかかって新しい就職先を決めた。
家族のために時間が取れて、30代の自分を雇ってくれるところなど無いと諦め切っていたが、頑張ればどうにかなるものだ。
捨てる神あれば拾う神ありとは言ったものだ。
それでも30代の新入社員など良い目で見られない、同期から上司にまで扱いに困られた。
しかし頑張っていれば想像以上に早く周りは認めてくれる。
半年も経てば、20代前半の同期ともタメ口で話し合える仲にまでなった。
元より彼は人当たりは悪くないのだ、改心したならそれは当然だったのだろう。
363 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:14:02.63 ID: yVfKkUwb0
アプーが小学一年生の頃の授業参観は、仕事が軌道に乗り始めていた時で、昇給を決める大事な時だった。
申し訳ないと思いながらも、苦渋の決断として彼は仕事を優先した。
(*ノωノ)「はずかしいから、パパは来なくてもいいの」
まだ若い母親が多い中、一人歳のいった父親がいれば当然いい目では見られない。
子供ながらにもそれを感じていたのかと彼はひどく辛い思いをした。
その週末に代わりに遊園地へ行ったが、そのしこりだけはずっと残っていた。
そして今年、有給をとっていよいよ授業参観の日が来た。
(*ノωノ)「パパ、今回は来てくれるの?
ぜったいだからね、休んじゃダメだからねっ!」
その嬉しそうな顔を見て、安心よりも先に嬉しさが体全体を支配した。
当日熱が42度あろうとも、絶対に参観してやると誓った。
そして今日は当日、体調もすこぶる良い、心は今までに無いほど奮い立っていた。
最後にこの学校に来たのは、5年前の子供たちの授業参観の日。
その日を思い出せる風景が残っていないのは良い事なのか悪い事なのか。
367 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:15:29.54 ID: yVfKkUwb0
階段を上り、2年生の教室へと足を踏み入れた。
まだ授業は始まっていないのか、数人の子供たちがはしゃいでいる。
そして彼の想像通り、既にいる保護者たちは皆揃いもそろって若い母親ばかりだった。
一人言い知れぬ疎外感を感じながらも、アプーを見つけて手を振った。
嬉しそうに口を緩ませながらも、やはり恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
それだけでも彼は満足だった。
( ^ω^)(来て良かったお……)
お洒落に身を包んだ今時の奥様の中、彼は一人スーツに身を包んでいた。
一人場違いな空気を感じながらも、後悔は無かった。
「はい、それでは本日の授業を始めます!」
375 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:17:16.67 ID: yVfKkUwb0
「今日は、宿題に出しておいた作文、『ぼく・わたしのおかあさん』を読んでもらいます。
まずは、斉藤君」
「うわ、マジぼくかよー」
「斉藤君の保護者の方は……」
教師が促すと、教室の後で恥ずかしそうに手を上げる女性がいた。
煌びやかに身を包みながらも、恥ずかしそうに微笑んで。
「お忙しい中来てくれてありがとうございます。
それでは、斉藤君、読んでください」
「はい、『ぼくのおかあさん』。
『ぼくのおかあさんは、とてもやさしいです。ぼくが、いたずらしたときでも……」
なるほど、どうりで男が彼一人なわけだ。
そう、今回の授業では『ぼく・わたしのおかあさん』という題名の作品を読むのだから。
しかしアプーはそんな事一言も言っていなかった。
そんな宿題が出たなど、何一つと彼は聞いていなかった。
この家庭を……子供心に何を思ったことだろうか。
考えれば考えるだけ、彼の胸は引き裂かれるような錯覚を覚えた。
381 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:18:47.60 ID: yVfKkUwb0
今日発表があると、どんな気持ちで子供が言ったのだろうか。
あの笑顔は本物だったのだろうか。
(;^ω^)(アプー……)
立ち眩みしそうなほど、心が締め付けられていた。
どこかの子供が発表している間ずっと、気持ち悪くて立っている事すら苦痛なほどだった。
「はい、斉藤君ありがとうございましたー。
優しいお母さんですね、大切にしてください、これからも。
そして次は……内藤さん、おねがいします」
(*ノωノ)「はーいっ!」
アプーは勢いよく手を上げて立ち上がった。
「内藤さんの保護者の方はどちらでしょうか?」
その声を聞き、申し訳なさそうに手を上げる彼を見た人たちは、一斉に目を丸くした。
教師の驚き具合は殊に酷く、まるで人生未曾有の失敗をしでかしたかのような表情をしていた。
彼も堂々としていればいいものを、どうやら体中から卑屈なオーラを漂わせていたようだ。
一見して誰もが片親だと分かってしまうほどに。
アプーは他人の目線に何一つ気配りもせず、父親の顔をちらりと見ると、すぐにも発表を始めた。
393 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:20:17.42 ID: yVfKkUwb0
(*ノωノ)「わたしのおかあさん」
403 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:21:23.75 ID: yVfKkUwb0
( ^ω^)「ツン、久しぶりだお。突然電話してすまないお」
ξ ゚听)ξ『ううん、私もアナタの声を聞きたいと思っていたところ。
あと、アプーとも話したいななんて、元気してる?』
( ^ω^)「アプーは元気だお、来月には授業参観もあって今から楽しみだお」
ξ ゚听)ξ『あ、去年は行けなかったってヤツ?
今年は行けるんだ、良かったわね』
( ^ω^)「絶対に行くお、それで……その、今週末会えるかお?」
ξ ゚听)ξ『本当突然ね、急な仕事でも入らない限り多分大丈夫よ』
( ^ω^)「じゃあ、久しぶりにアプーと三人で会わないかお?」
ξ ゚听)ξ『……そうね、私もアナタに会いたいと思っていたところだし』
( ^ω^)「それじゃあ、例の……レストランで待ち合わせしたいお」
ξ ゚听)ξ『例のレストランか……うん、分かった』
( ^ω^)「それじゃ、いきなり電話驚いたと思うけどすまなかったお」
ξ ゚听)ξ『気にしないで、それじゃ今週末ね、おやすみ。ちゃんと食事しなさいよ?』
( ^ω^)「分かってるお、大丈夫だお。おやすみ」
409 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:22:49.83 ID: yVfKkUwb0
( ^ω^)「アプー、ママのこと……覚えてるかお?」
(*ノωノ)「うん、覚えてる。ママ、綺麗だった」
( ^ω^)「そうだお、とっても綺麗だったお」
(*ノωノ)「会いたい」
( ^ω^)「この日曜日に会うんだお。それでアプー、また、ママと一緒になりたいかお?」
(*ノωノ)「うん!」
( ^ω^)「そうか、それじゃパパ頑張るお」
(*ノωノ)「パパ、頑張るの?」
( ^ω^)「うん、あの時の僕は何も知らなくて本当にダメダメだったお。
でも……今は違う、今ならきっと認めてもらえるから、アプーのためにも頑張るお。
しっかりと認めてもらえるように」
(*ノωノ)「?」
( ^ω^)「ちょっと分かり難かったかお? また、兄弟全員揃って食卓を囲うお」
(*ノωノ)「うん、ぜったい!」
( ^ω^)「ああ、約束するお」
418 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:24:26.05 ID: yVfKkUwb0
( ^ω^)「ごめん、待ったかお?」
ξ ゚听)ξ「ううん、今来たところだから大丈夫。アプー、こんにちはー」
(*ノωノ)「こんにちは!」
ξ ゚听)ξ「えらいえらい。ちゃんといい子にしてる?」
( ^ω^)「してるお、ね、アプー」
(*ノωノ)「うん!」
( ^ω^)「突然誘ったけど、本当に大丈夫だったのかお?」
ξ ゚听)ξ「ちょうど仕事もひとしきり終わったところだから心配無用。
アプーの顔を見るために頑張ったわよ。おかげでこんな可愛い顔見られて苦労も吹き飛ぶわ」
(*ノωノ)「あぷ」
( ^ω^)「それは良かったお」
ξ ゚听)ξ「そういえば本当突然だったけど、何か用件でもあったの?
( ^ω^)「ううん、後でいいお。それよりもしばらく話したいお」
ξ ゚听)ξ「話ねぇ……なんかアナタらしくないw
そういえばちゃんと食事とってるの? 給食費滞納なんてしていないわよね」
425 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:25:58.28 ID: yVfKkUwb0
( ^ω^)「大丈夫だお、お弁当の時なんてタコさんウインナー入れてるお」
(*ノωノ)「タコさんばっか」
(;^ω^)「うるさいお、タコさんしか作れないんだお!」
ξ ゚听)ξ「そっか、じゃあ今度私も作って欲しいわね、お弁当」
( ^ω^)「いつでも言ってくれお、早起きして腕によりをかけて作るお!
タコさんいっぱい入れてあげるお!」
ξ ゚听)ξ「そんなにいらないわよw 掃除洗濯もちゃんとやってるのかしら、安心した」
( ^ω^)「当たり前だお」
ξ ゚听)ξ「でももうちょっと気遣い足りないわね、アプーの洋服見ていると。
その辺りは女性の感覚が必要かしら、今度一緒に買いに行こうか」
(*ノωノ)「うん!」
( ^ω^)「助かるお、それに、今度なんて言わず……その、ずっと見てやって欲しいお、アプーを」
ξ ゚听)ξ「……」
ξ;゚听)ξ「あのね、突然ごめん……。その、私……来月に再婚することにしたの」
444 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:27:34.46 ID: yVfKkUwb0
( ^ω^)「おめでとう」
ξ ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「それは良かったお、相手は仕事関係かお?
ツンは面倒良くて優しいから、僕みたいなにまた騙されちゃいけないお?」
ξ ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「女性らしく、結婚して今度こそ幸せを手にして欲しいお。
僕が言っても笑われるかもしれないけど、心から祝福するお。
おめでとう」
ξ ;凵G)ξ「……ねぇ」
( ^ω^)「どうしたお?」
ξ ;凵G)ξ「私、今のアナタとなら、きっとやり直せたと思う……」
( ^ω^)「ツン……」
458 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:29:02.71 ID: yVfKkUwb0
( ^ω^)「おめでとう」
474 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/25(火) 22:30:43.16 ID: yVfKkUwb0
わたしのおかあさん
わたしのお母さんは、みんなのお母さんとちがいます。おべんと
うは、ぜんぜんきれいじゃないし、家に帰っても、いません。わた
しは、かぎを持っていつも学校にいっています。わたしと二人でも、
家は大きいです。へやは、だいどころと、げんかんと、いつもいる
テレビを見るへやと、わたしのへやと、わたしのお母さんのへやで
す。だれも使っていない、物おきのへやがふたつもあります。
わたしは、さみしくありません。いっしょにいるかぞくはお母さ
ん一人だけです。わたしが小さいころに、二人だけになりました。
よくお母さんは、しごとで夜おそく帰ってきます。そのときは、わ
たし一人だけでとてもさみしいですが、お母さんは、帰ってくると
いつもわたしと遊んでくれます。しゅくだいも手伝ってくれるし、
おこるとこわいけど、いつもはすごくやさしいです。だから、お母
さんと二人だけでも、さみしくありません。
わたしのお母さんは、みんなのお母さんとちがって、家にいない
だけじゃなくて、せもたかいし、ひげもはえています。そして、お
父さんでもあります。一人ではたらきながら、休みの日はいつもわ
たしとあそんでくれます。ほんとうにやさしくて、私はお母さんが
大好きです。
わがままばっかりで、ごめんなさい。お母さん、これからもお父
さんでもあって、やさしいままでいてください。あと、タコさんウ
インナーいがいも早くおぼえてください。
( ^ω^)が家庭を売るようです・END