5 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 21:56:50
今からもう…あの温かい団欒の輪を作ることは叶わない。
圭一が狂いだしたことによって…日常は戻ってこないのだから。
それを正すために…僕は来たのに…なんて様だ。

校長の鳴らすチャイムの音が聞こえ、僕は半分以上残っている弁当を鞄にしまった。

午後の授業も終わり、みんなは部活部活と機嫌は上々。
だが圭一は断る。

…あぁそうか。
今日はあの遺書を書く日だったけな。
どうせ狂ったことしか書かないというのに…無駄なことを。

圭一が参加しないということで、部活はお開き。
真っ直ぐ家に向かおうとしたら、古手梨花が話しかけてきた。
沙都子に聞かれたくないので、梨花ちゃんが適当な言い訳で先に帰るように促した。

「ねぇ、あなた大丈夫なの?」
「…なにがだお」
「なにがって…『鬼隠し』の世界がそのまま廻ってるじゃないの。
 これじゃ、結末も同じまんまで終わっちゃうわよ?」
「…そうだおね。それもいいかもしれないお」
「…どういうこと?」
「どういうこともなにも…僕はもう終わったんだお。
 どうせ狂った世界なんだお。僕にはもう関係ないんだお」
「ちょっと…ブーン?!」
「それじゃ、ここでお別れだお。また明日。」

 

7 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 21:59:35
何かを叫んでる古手梨花を置いて、僕は全速力で家へ向かった。

どうせキミも同じ。
僕と同じ存在のくせに。
僕だけ戦えと言ってるみたいで腹が立つ。
キミがここに来るように導いたくせに、キミは傍観者気取りで僕を前線に投げだしやがって…。

…まさか…
もともとそのつもりで連れてきたんじゃないだろうな。

積み木遊びに飽きた。
考えてみれば積み木遊びなんて創作の繰り返し。自分ひとりでも無限の可能性はある。
なのにわざわざ二人でやろうなんていいだした。
一人で出来ることに相手を作る理由。
…相手を倒し優越感に浸る。
それしか考えられない。

より自分に近い存在を作り…自分と同じようなことをさせる。
そして…自分に出来なかったことが出来るわけがない…と同族をつくり
自分はこんな過酷な運命を打ち破れたことがあるんだぞ、と優越感に浸る…
そういうシナリオか。

 

8 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:03:34
ふっ…つまり僕も…騙されたのか?

おもちゃにするためだけに召還された存在なのか?

「ぅ…ああああああああああああッッ!!!!!!!!」

僕は叫んだ。
遠くに居るであろう古手梨花にも聞こえるくらい叫んだ。
共に蝉も鳥も飛んでいった。

残されたのは僕一人。
間抜けな道化が惨劇の舞台にたった一人。
観客も居ない。褒めるものも貶すものも…誰も居ない。
暗い暗い闇の舞台。

もう僕は独りだ。

ひぐらしすら…ないていない。

 

9 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:06:34
6/24 金曜日
明日で全てが終わる。

今日は圭一が山狗のワゴンに轢かれかける日。
目的はわからないが、ともかく圭一は村人が犯人だと目星をつける。
そんな日。それだけの日。

親がうるさいので、惰性で学校へ向かう。
体操着の圭一を見て、運命の巡りを確認して席につく。
魅音やレナが挨拶してきたが、適当に手を振るだけして机につっぷした。

話す必要もないのだ。
何をやっても無駄な世界。
体調が悪いとでも嘘をついておけば、みんなほっておいてくれた。

…まるで

…雛見沢に来る前と同じだ。

 

僕には人に言いにくい趣味があった。
俗世間で言われるオタク系の趣味だ。
けど、友達には話したこともないし、話そうともしなかった。
きっと僕がそういう類のものに興味があるだなんて言ったら、友達は誰一人寄ってこなくなってしまいそうだったから。

けど…一人だけ。一人だけ…よかれと思って打ち明けたことがある。

 

10 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:09:30
それが…ツンだ。
家が近くで、幼稚園の頃からの長い付き合い。
プライバシーなんてもんはほとんどなかった。
親同士の仲もよかったので、チャイムを押さずに入ってきても何も言わないくらい。
それだけ親密だった。
親友だった。どの男友達よりも…ツンにはかなわなかった。
一番心を許した人間だった。
だから、春本を隠すみたいに隠蔽してた…それらの、オタク系のものをツンに見せてみた。
彼女は笑って、別に気にするでもなく、むしろ肯定して僕を理解してくれるように行動してくれた。
すごく嬉しかった。秘密にするよ、って固く誓ってくれた。

なのに…なのになのに………

その日も普通に登校した。
いつもと変わらない、適当に挨拶して雑談をする朝の団欒。

だが…その日は違った。
仲間達の輪に入ろうと向かった時。
その目がおかしいのに気づいた。

それは軽蔑の目。汚いものを見る目。

 

11 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:12:52
心当たりの全くない僕は、そんな意味のわからない拒絶に怒って問いただした。
すると、友人の一人が…言った。

「お前、こーゆーのが趣味なのかよ」

取り出したのは…僕の部屋にしかないはずの…一冊のライトノベル。
表紙についている特徴的な傷…間違いなかった。僕のものだった。
一般人100人を連れてきたら100人全員が、オタクの本だとわかるような題名に挿絵。
それをなぜ…友人が持っている?

ふと、視線に気づく。
そう…僕の言えない趣味を知っている人間は…彼女だけ。
ツンを見ると、罰が悪そうに下を出して会釈した。
その間に友人達はまくしたてるように僕へ言葉を浴びせる

「こんな本読んでんのかよお前」「萌え〜とか読みながら言ってんの?」「休日は秋葉原に常在とか?」
「アニメとかも見てんの?」「そういや深夜にやってるよな。」「萌えオタ御用達みたいなのだよな」
「マジかよ。気持ちわる!」「録画とかしてんの?」「部屋はグッズで一杯とか?」
「そういやお前、部屋で遊ぼうとしたら必死で断ったよな」「じゃあ、やっぱりそうなんじゃね?」
「気持ち悪い」「気持ち悪い」「気持ち悪い」「気持ち悪い」
「気持ち悪い」「気持ち悪い」「気持ち悪い」「気持ち悪い」
「気持ち悪い」「気持ち悪い」「気持ち悪い」「気持ち悪い」

 

12 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:16:28
僕は急いでトイレへ駆け込んだ。
そして、泣きながら嘔吐をし…来たばかりというのに早退した。

黙っててと言った。
秘密にしてと言った。

…裏切られた。
親友に裏切られた。友達に見捨てられた。

止まらない嘔吐物と涙が…僕の心をぐちゃぐちゃにした。

それから僕は学校に行くことをやめた。
人なんて信用できない。してはならないということを痛感したから。

そして部屋に引きこもり…絶対に裏切らない機械とだけ交流することにしたのだった。

…そんな過去があるから。
ここ、雛見沢の住人の団結力や親密性はすごく羨ましかった。
今ここに居るだけでも幸せなはずなのに…僕の心は……前と同じ。
所詮どこへ行っても、僕は僕。
世間に忌み嫌われる存在なんだろうね。

軽く自嘲して、僕は仮面をつけた。
息苦しいけど…一番安心する
『無関心』という仮面を。

 

13 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:18:54
6月
25日
土曜日

世界が終わる。

ひぐらしのなく頃に。

登校すると、圭一が素振りをしていた。
特に気にするでもなく、席につく。
レナの手には絆創膏。痛々しいが、結局圭一に悪印象を与えただけなんだ。
なんとも思わない。
途中、魅音と口論する圭一の声が校庭から聞こえてきた。
こいつもまた圭一にひどいことを言われた可愛そうな子。
だが…こいつもまた圭一に恐怖を与えた悪いヤツ。
なんとも思わない。

そして、最後の授業が始まる。

二時間目は体育だった。
もちろん、元気がないみんなは体育などというお気楽なものをやる気力がない。
かわりに…呼び寄せた。僕を。
圭一は素振りをしている。それも遠くで。人気を避けるかのように。

僕は圭一にバレないように、裏庭のカレー用野菜園へ向かった。

いたのは、部活メンバー全員だった。
心なしか、みんな僕を睨んでいる。
見ているのではなく睨んでいるのだ。
何か知っているだろ、そんな目だ。

 

14 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:21:36
「…なんか用かお?」
「…言われなくてもわかるでしょ?」

不機嫌に返したのは魅音だった。
泣きはらした赤い目で僕を見ている。

「わかんないお」
「そんなわけないよ。ブーンくんだって気づいてるはずだよ。最近の圭一くんのこと!」

レナが見てるだけでひきつってしまうような指を押さえながら詰め寄る。

「…で、気づいてるからどうなんだお?」

開き直って答えた。
カチューシャを揺らめかせて沙都子がそれに返した。

「今、皆さんで何が出来るかを考えている所でしてよ。
 ブーンさんもどうかお力添えしていただければ嬉しいんですけど…」

僕は鼻で笑う。

「残念だお。僕じゃ力にはなれないお。
 いや…僕達じゃなんにも出来ないんだお」

全てを知っている古手梨花がそれに返答した。

「どういうこと?
 まだ何も始まってないのに…終わったとでも言うの?
 それが運命だというの?!」

 

 

 

15 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:24:08
梨花ちゃんの面をはずして古手梨花は話す。

癪に障る態度をぶつけられた僕は…
理性というリミッターをはずしてしまった。

「…何も始まってない? はっ。寝言は寝て言えよ!
 もうとっくに始まってたんだお!! ずーっとずーっと前から始まってたんだお!!
 それを始まってもない?! ふざけんなお!!!」

もうどうにでもなれ。そんな気分で僕は続ける。

「僕はずっと戦ってきた!! ここにきてから一度も休まず!! ただただ圭一を救うことだけ考えて戦ってきた!!!!
 キミたちの力も借りた! 打てる策は打ってきた!! いけると思った!! 打ち勝てると思ったよ!!
 いつか圭一が言ってたように…運命なんて金魚すくいの網なんかよりももろいって、本気で思った!!!」

「でも現実は甘くないんだよ!! わかるか!? もう何をやっても無駄!! お前らじゃ何やっても無駄なんだよ!!!!!
 今日で全て終わり!! 魅音、レナ!! お前らは今日、圭一に金属バットで殴られて死ぬ!!!
 そして圭一も自分で喉を引き裂いて死ぬ!!! それが運命だ!!! 変えられない、絶対の摂理なんだよ!!!!!」
 それを一人間の分際で軽々しく語るなぁああああぁぁぁあああああッッ!!!!!」

咆哮をしたその直後。

僕の身体は何かに支配された。

筆舌に尽くしがたい痒み。
全身が覆われている。

そして喉が焼けるように熱い。
やがて熱さは耐えようのない痒みへ変わった。
僕はもう何も思わない。
本能に従うように、両手を喉元へ…。

 

 

 

16 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:26:25
途端に、僕の頬に衝撃がはしった。

鬼のような形相をしたレナが、僕の頬を平手打ちしていたのだ。

「…なんで…?」
「…え?」

レナは…怒っていた。
目を鋭くさせて怒るのではない。静かな怒りだった。

「なんで…そんなひどい事言うの? なんで絶対に無理なんて言うの?」
「……レ…」
「レナは…ううん。レナたちは…ただ、今まで通り。楽しくやりたかっただけ。
 圭一くんが変になっちゃったから…それを元通りに治そうと必死で頑張ってきたのに…」

「どうして…それを無駄だなんて言うの…?」

「私は…幸せというのが一瞬で崩れるのを知ってる。だから…そうならないように必死で努力してきた。
 でも壊れてしまった。……けどね…レナは去年のレナと違う。
 竜宮レナは…幸せを取り戻そうと…頑張ってたんだよ…?」

歯を食いしばるレナの隣に、魅音が歩み寄る。
魅音は涙を浮かべながら…拳を強く握り締めていた。

「私たちは、去年の私たちと違う。 前はダメだったけど…
 今度なら…うぅん。今度こそ困って、苦悩して、追い詰められてる人を助けたいって思った。
 だから…頑張ってきた。
 …天下御免の園崎魅音様の前で絶対駄目だなんて…言わせないよ…!!」

 

 

17 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:28:45
魅音とレナに隠れていた沙都子も僕の前へ。

「私も…頑張ってましたのよ。
 去年…私が甘えんぼさんで…弱かったから…にーにーはいなくなってしまった。
 …でも、それからは私も一人で頑張れるように努力してきたのですのよ」
「もう…にーにーを失うのは…嫌…!」

最後に…古手梨花。
スッと僕の前に立つと、古手梨花は僕の頬を叩いた。
レナと違って重くはなかったが…とても痛かった…。

「あなたの頑張りは認めるわ。
 誰よりも圭一を思って、誰よりもみんなが大好きで…」

「誰よりも意志の強い人だと思ってた。
 …なのに…なに? 駄目? 無駄? ふざけないでよ!!
 それとも何?! あなた、一人で戦って一人だけ負けたとでも思ってるの?!」

古手梨花は僕の胸倉をつかみ、叫んでいる。
誰もその代わり映えには言及しない。黙って見守ってるだけだった。

「…運命に抗うために必要なものはなんだった? 言ってみなさい」

「……運命に…抗う…ため…」

「そうよ。それがあなたがここに居る理由! あなたが居なければならない理由なの!!
 目を覚ましなさい内藤ホライゾン!! そして思い起こしなさい!! 運命に打ち勝つ…」

「戦う…意志…!!」

 

 

18 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:31:32
僕は立ち上がる。

そうだ。
そうだった。

古手梨花は…諦めたんじゃない。
いつも戦っていたんじゃないか。
負けても負けても…今度こそは、って…戦っていたじゃないか。
繰り返すうちに疲れてしまったこともある。でも、彼女は一度たりとも諦めはしなかった。
次へと向かう意志を持っていた。

なのに…僕は…?

全てを知っている。仲間達もいる。一度しか戦ってない。疲れるはずもない。
それなのに……僕は…なんで……

「ごめん…」

「…わかってくれた?」

「…うん。」

僕はレナを見る。
手には絆創膏。腫れもひどい。爪も剥がれてて痛々しい。
でもレナは諦めなかった。
嫌いな嘘を吐かれても、バットで脅されても、指に決して軽くない怪我を負わされても
それでも圭一を心配している。大好きな仲間だから。

 

 

19 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:33:49
「…レナ。指、大丈夫かお?」

「え? あ、うん。大丈夫だよ!」

そんなわけないだろ。
…でもその辛さを笑って誤魔化しちゃうのがレナなんだよな。

「レナ、ごめん。」

「? どうして謝るのかな? かな?」

「わかんなくてもいいお。 でも…ごめん。」

「…うん。」

レナは手をおさえながら、笑って答えた。

「魅音は…今朝、圭一と喧嘩してたおね。」

「…うん。まぁ…あれはちょっとおじさんが悪かったかなぁって…」

「うぅん。違うお。魅音が悪いんじゃないお」

あの時…僕はなにをしていた?

圭一が怒るのもわかってた。魅音が泣くのもわかってた。つい、悪口を口走っちゃうのもわかってた。
なのになにもしなかった。
知ってるくせに、行動しないことがどれだけ愚かなことか。

「ごめん。魅音」

「…」

 

 

20 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/10/15(月) 22:36:24
魅音は理解は出来てなかったと思うが黙って頷いてくれた。
次に僕は沙都子を見る。
そしてそっと頭を撫でて言う。

「沙都子。 無干渉だなんていってごめん」

「キミもキミなりに頑張ってたんだってことに気づけなかったお…本当にごめん」

「ブーンさん…」

「でも大丈夫。僕も頑張るお。戦うお。最後まで!」

今日で終わる運命でも

最後まで抗い続ける。
蛙の王様に足りなかったのは何だ?

たった一つ。
奇跡だ。
戦う意志は…時に奇跡を生み出す。

だから…僕は奇跡を起こす。最後まで戦って!!

「ブーン」

古手梨花が僕を呼ぶ。
その目は、何かを期待しているような…それでいて、僕を見守るような
温かな目だった。

「…まだ…いけるわよね?」

僕は力強く頷く。

「うん。『まだ』だ。『まだ』終わってないんだお!!」

いつの間にか
喉の痒みは無くなり
僕の目は正常に戻っていた。

 

 

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