2 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 20:20:53.41 ID: DiDRpmmv0
登校した僕は、とりあえずいつもの自分を装うことにした。
6/20 月曜日。
今日は…大石との接触の日。
惨劇から一夜明けた日。

運命がねじれ出す日。

圭一は前と同じで昨日のことなど気にせず元気だった。
わざと装っているのもある程度読み取れる。
…そう。今日からだ。

少しずつ圭一が拒絶を始め、僕らを犯人だと思い込み…
そして暴走する。
今日から始まるんだ。
大石のせいで…!!

何をすれば回避が出来るのだろうと考えた。
だがこれは必然。僕の力で干渉は出来ない。

それに、たとえ今日を凌いでも相手は常に圭一をマークしているだろう。
徒労に終わる可能性が高いのならば、今日は諦めるしかない。

 

 

3 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 20:23:45.54 ID: DiDRpmmv0
部活が始まってしばらくすると、圭一がゆっくりブリブリしにいった。
そしてすぐにレナも教室を出る。

「…なんかあやしいですわね。」
「きっと二人で作戦でも練ってますです。」
「くっくっく。 二人がかりじゃないと勝てないだなんてまだまだだねぇ」

推理ゲームのカードで扇いだり、雑談をしながらみんなで二人を待った。
だが、教室に戻ってきたときはレナ一人だった。

「あれ? レナ、圭ちゃんは?」
「わからない。 だって圭一くんとおトイレ別だよ?」
「一緒に行ったらただの変態さんだお」

下品に魅音と笑い、沙都子やレナの冷ややかな視線を尻目にして僕らは圭一を待った。

だが、5分たっても10分たっても来ない。

「おっそいねぇ。 そうとうデカイもん溜めてたね圭ちゃん。」
「魅ぃちゃん…。」

教室の扉が開き、みんなの視線が集まる。
だが帰ってきたのは圭一ではなかった。
共通点があるとすれば、男の子というところだけだ。
その子は手を拭きながら、忘れ物でもしたかのか自分のロッカーへ向かった。

 

 

4 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 20:27:20.61 ID: DiDRpmmv0
「あ、ねぇ、圭ちゃん見なかった?」

仕草を見れば、トイレに行ってきた様子となんとなくわかる。
だからこの子に聞けばわかるはず。そう思って魅音は尋ねた。

「前原さん? …えっと…さっき先生に呼ばれてました」
「先生に?」
「なんか悪さでもしたんじゃありませんの?」

沙都子の冗談にみんなで笑う。
だが、その子は何かを思い出し、続けた。

「あ、そういえばその後、外に行ったら車にのってました。なんだかしんこくそうなかおで知らないおじさんと話してましたよ。」
「え?」

みんなの顔から笑いが消える。
子供が知らない顔。
つまり村の人間ではない。

「それはどんな感じの人でしたか?」
「うんと…しらがで、太ってて…赤いネクタイをしてた。」

みんなの顔に血の気がなかった。
そう、それだけで理解したのだ。

 

15 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 20:53:13.12 ID: DiDRpmmv0
大石が圭一に接触した。

先を知ってる僕はそこまで驚きはしなかったが、それでも嫌なことだ。

「…なんで大石さんが?」
「まさか…」

と沙都子は言葉を飲み込む。
出したくもない言葉『オヤシロ様の祟り』
沙都子にとって…いや、みんなにとって辛い出来事。
去年の悟史の失踪。
それが脳裏に浮かんだのだろうか。

大石は村の人から『オヤシロ様の使い』と呼ばれている。
彼が接触した人はことごとく失踪するからだ。
それはただ単に大石の警察的な勘が鋭いがゆえになんだろうが…
この村に根強く残る『ルールZ』のせいで、それを畏怖に変えてしまう。

「…今年も…あったの…?」

レナが重い口調で魅音に聞く。
村の暗部に関わってて、この雛見沢を実質牛耳ってる園崎家。
その次期頭首に聞けばわかるものだと思い、レナは尋ねたのだった。

「…うぅん。知らない。私…婆っちゃからは何も聞いてないよ…。」

だが魅音は予想とは違う答えを出した。
嘘が下手くそな魅音は、こんなに張り詰めた空気では出任せなどいえるはずもない。
本当に知らないみたいだ。

 

 

17 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 20:56:11.46 ID: DiDRpmmv0
「今日、聞いてみるね。それじゃこれでこの話はおしまい! さ、続き続き!」

辛気臭いのが嫌いな魅音はなんとか部活の空気を回帰しようとした。

『鬼隠し』では圭一がかえってきた時はわいわいやっていたはずだ。
だから、その事実を作らないとまずい。

「そうだお。 祟りは村を逃げたりするものに降りかかるんだお。
 みんなはここが好きなんだお? なら大丈夫だお。だから圭一には悪いけど早く続きをしようお!」

僕のから元気を汲み取ってくれたレナが便乗してくれた。
それから梨花ちゃん。最後に沙都子もちゃんと乗ってくれた。

それから5分経たないうちに圭一は戻ってきた。
レナが悶絶する姿を見てすぐに、安堵の顔になってくれたが…

これでもう圭一は『祟りの犯人は村ぐるみ』というのが刷り込まれてしまったに違いない。
僕も圭一にとっては村の住人。
信じてもらえるか…自信はない。

 

 

19 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 20:58:21.43 ID: DiDRpmmv0
6/21 火曜日。
誰しもこの日は驚いただろう。
ねじれが完成する日。
下準備は終わってしまった。惨劇への幕開けだ。

ご存知…今日は『嘘だッ!!!』の日。

これでもう圭一はL4までいってることがわかる。
疑心暗鬼に陥ってしまった彼を…どうすれば救えるのだろう。
陥る前に勝負をつけたかったが…いかんせん条件が悪すぎる。
くそっ…。
後悔だけはしないように行動してきたつもりなのに…。
まるで、テスト勉強したつもりが試験だと全然解けなかった時みたいだ…。
結局…徒労だったのか…?

…いや、まだわからない。
勝負は終わるまでが勝負なんだ。

ねぇ、運命さん。
きみは強大かもしれないけど…僕は打ち勝ってみせるよ。
教えてもらったから、彼らに。
だから諦めない。『まだ』だ。

ねむたそーな圭一が登校し、だるそーに授業を消化していく。
昼休みも飯を食ったらすぐに眠いから寝るといって机につっぷしてしまった。

その間に沙都子がこっそりトラップを仕掛けていたのは言うまでもないだろう。

 

 

20 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:01:24.51 ID: DiDRpmmv0
「……え、魅ぃちゃんそれっていつから?」
「もう次の日にはいなかったって。……綿流しの晩には失踪してたらしいよ。」

圭一が寝たと思い、魅音とレナが会話を始めた。
『祟り』の話だ。昨日魅音がお魎に聞いておくと言っていたから…それを話してあげてるのだろう。
僕も傍に立って聞いてみることにした。

「鷹野さんだけなの?」
「わかんない。私の知る限りではね。」
「それで、祟りってことは他にもいるんでしょ? 居なくなった人が。」
「…彼女が祟りにあったのか、オニカクシにあったのかはわかんないけどね…。」

圭一を見ると、ピクッと反応していた。
『オニカクシ』という聞きなれない単語を耳にしたからだろう。
だが、気づかない二人は続ける。

「じゃあどちらにせよ…もう一人いるんだよね? 二人目だよね?」
「オヤシロさまなら……ね。」
「でもでも! ……今年は噂になってないよ?」
「婆っちゃと村長さんが話してたんだけどさ。……今年は事前に警察と話が付けてあるらしいんだよ。
 ……何が起こっても、騒ぎにしないで穏便に片付ける、って。」
「じゃあ、もしかしたらレナたちが知らないだけで…どこかで誰かが…祟りにあったかもしれない…ってこと…?」
「…かも、ね。」
「じゃあ……次は…レナ、なのかな……。」
「……安心しなよ。レナはちゃんと帰ってきたよ。」
「……でも…悟史くんは…駄目だったんでしょ……?」
「昔の話だよ。もうやめよ、この話。」

それからは雑談に話は逸れていった。

 

 

22 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:04:32.05 ID: DiDRpmmv0
こんな話をしてたのかと、自分でびっくりする。
一番疑問に思ったのは、『富竹』というワードが一度も出てこないことだ。

…だがよぅく考えてみればそれも納得がいく。
なぜなら、富竹は部外者で、鷹野は村民。
しかも富竹は一昨日には東京へ帰るという話になっている。
なので、彼が居なくなっても別に不思議ではない。だから、地獄耳の村人でもそんな予想はできないわけか。

と考えていると圭一が沙都子のトラップにひっかかっていた。
でこピンをかまして先生に叱られて…。

紛れもない、いつもの風景だった。

だが…これでこの風景も見納めだと思うと…ちょっと寂寥感を覚えた。

 

 

23 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:07:38.34 ID: DiDRpmmv0
……今日出来ることはなにがある?
これから出来ることはなにがある?

どうしたらいい?
古手梨花に頼む?
いや、それもダメなのか。

とにかく時間がない。
あと4日。
それだけで圭一の目を覚まさせてやらねばならないのだ。

時間がない。

心なしかひぐらしのなき声が…弱々しい。
時間のなさを僕に教えているのか。
それともきみたちも、もう諦めてしまったのか。

頼むよ。
全てを知っているきみたちだけは…常に僕の味方であってくれ。

 

 

27 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:10:34.88 ID: DiDRpmmv0
【TIPS】  『異質ゆえの歪み』

今日、俺はは学校を休んだ。
昨日…『レナではない何か』を見てしまってから…とにかくレナが怖い。
村人たちも、『オヤシロ様の祟り』と称する殺人に手を加えているらしい。
特に…何気なく遊んでた魅音は特に怪しいらしい。
信じたくない。信じたくもない。
でも…昨日のレナを見る限りでは…それも真実なのかもしれないと思うようになってきた。

病院にいくと、妙に笑顔が素敵な医者が念入りに検査してくれた。
薬をもらい、注射まで打ってもらってしまった。
実質、ほぼ仮病だというのに…随分と大げさだな。
村には馴染めたかどうか尋ねてきたが、今の俺にとっては酷な質問でしかなかった。
この医者も信用できるとは限らない…。
適当に生返事をして診療所を出た。

帰りに、大石さんに出会った。
ここではしにくい話らしいので、興宮まで移動した。
制服がいやらしい喫茶店だったので、大石さんはお気に入りみたいだ。

最初は笑ってた大石さんも、途中で真剣な顔つきになり、『警告』までしてきた。
だが俺は大石さんのその警告を制し…より真実へと足を踏み入れることにした。

 

 

28 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:13:11.36 ID: DiDRpmmv0
俺は耳を疑った。
なんと…怪しいのは魅音だけではなかったのだ。
部活メンバー全員が…なにかしら『オヤシロ様の祟り』と関係していたのだ。

魅音は何度も逮捕され
沙都子は二年目の夫婦の娘。そして四年目の叔母と兄も関係している。
梨花ちゃんは三年目の神主夫婦の娘…。
レナは…前の学校で異常としか思えない暴力事件…
病院のカウンセリングで放った『オヤシロ様』という単語…。

偶然…なのか…?!
いや…偶然なんかではないんじゃないか…?!

鬼たちはあらかじめ生贄を決めておくらしい。
…ならば…最初っから俺を……?!

帰りの車で、大石さんは連絡用の電話番号をよこした。
どうしようもない時に電話しろとのことだ。

 

 

30 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:15:48.25 ID: DiDRpmmv0
つまりそれは最後のときに電話しろ…と言っているのだ。
俺を餌にして犯人をとっつかまえるつもりなんだろう…。
最後の時に電話したって…あんたは興宮だろ?
大石さんが来るまで俺が生きてる可能性なんて……くそっ…。

そして、最後の最後。大石さんは言い忘れいてた、とあることを告げた。

「あぁそうそう。あなたたちの中で唯一。関係してない人がいました。
 他の方に比べたら幾分か安全でしょうが、油断はしないでくださいね」

「え? だ、誰ですか?」
「ご存知でしょう。」

「内藤ホライゾンさんですよ。」

 

 

32 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:19:39.58 ID: DiDRpmmv0
6/22 水曜日
今日、圭一は学校を休んだ。
風邪らしい。
本当はレナに会うのが怖いから、という仮病なのだが…。
みんなは真剣に心配していた。

圭一がいない教室はなんだかちょっぴり寂しかった。
みんななんだかんだで元気がない。
唯一の男の子だし…
なによりも
沙都子は兄のように慕い。
レナはお嫁さんのように世話をしてあげて。
魅音は好意を抱いている。
梨花ちゃんはわからないけど…
古手梨花にとっては圭一はとてもとても大切な人。
百年いても飽きない仲間の一人。だから寂しくないわけがない。
僕も圭一の明るさは大好きだから…いないのはやはり同様に寂しい。

「今日は圭ちゃんいないし…部活はなしでいいよね?」

魅音の意見に反対するものは居なかった。
各自帰りの準備をして、さっさと別れの言葉を置いて教室を出て行ってしまった。

 

 

33 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:22:28.68 ID: DiDRpmmv0
「…あ、そうだ魅ぃちゃん。お見舞いいかない?」

沙都子たちの去った下駄箱で、レナが魅音へ提案した。

「…うん。いいねそれ! どうせ圭ちゃんのことだからお見舞いとかされたことなさそうだしね」

褒めて…はなさそうだな。
まぁ事実だし。都会っ子だし。
否定はしないでおいた。

「ブーンも来る?」

呆けていた僕への突然のお誘い。
狼狽しながらも、僕は肯定した。
ここ最近は圭一と話をしていない。
今どうなってるのか、それを見に行くぐらいはいいだろう。
はたして…僕を信じてくれているだろうか…。

いつもとは反対の道を歩き、とりあえず魅音の家へとあがる。
純和風の大豪邸。
平民ごときの僕は、なんだか居心地が悪かった。
だが話によれば、冬に麻雀をした仲らしいのでおどけているのはおかしいらしい。
普通にヤク○っぽい人が歩いていたりするから怖い怖い。

魅音に付いて台所へ向かう。
『目明し』での古手梨花が死んだ現場。
あまり気持ちのいい場所ではないな…と、初めてきた癖に悪印象をもってる僕は何様なんだろうねと自嘲した。
台所には魅音のお婆ちゃん、お魎が立っていた。
おはぎの製作をしている最中みたいだ。

 

 

35 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:25:26.68 ID: DiDRpmmv0
「おんやぁ、レナちゃんにブーン。来とったんね。」
「こんにちはお婆さん。わぁ、おはぎ作ってるんですね。」

それからは『罪滅し』の圭一覚醒どおり。
レナが丁寧に作ったおはぎに魅音がタバスコを注ぎ込む。
それなりの量だ。二、三滴なんかじゃない。

ただ僕はその光景を黙ってみていた。
防ぐことは出来ない。
ただ単にいじわるをしたいだけの彼女らを止める理由など僕は持ってないから。
けど…これで圭一は魅音たちが敵だと思ってしまう。
ならどうする?
くそ…考えれば考えるほど頭が混乱していく。
出来ることが見つからない。
何をすれば…何が出来ればいいんだ!?

「じゃあ、そろそろ行こっか!」

おはぎの包装を終えたレナが、重たそうな新聞紙を持って言った。

「くくく…病んでる圭ちゃんには随分と簡単な部活になっちゃったねぇ…」
「はぅ…でもタバスコは圭一くん怒っちゃうと思うな…思うな。」
「だったらレナも止めればよかったんだお」
「レナ、内心楽しんでたでしょ?
 圭ちゃんが涙目で唇真っ赤で火を噴く姿でも想像したんじゃないの〜?」
「な…涙目の圭一くん…はぅ…かぁいいよぅ…」

 

 

36 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:28:51.01 ID: DiDRpmmv0
赤面するレナとケラケラ笑う魅音と並んで園崎家を出る。
結構良い時間だ。ひぐらしの合唱はとっくに始まっている。

ここで…彼女らの阻止は出来ない。
レベルは格段に上がるだろう。下手したら即末期だ。
なら流されるままに…そして…

圭一が何かアクションをするのを待つしかない。
その時に色々と聞いてみよう。
それしかない。
常に頭をフル回転させて…なにが起きても対応できるように神経を張り巡らせておこう。
今日出来ることはそれくらいだろう。

前原家の呼び鈴を鳴らすと、しばらくして眠たそうな圭一が出てきた。
そして顔には一瞬の驚愕。
二人はお見舞いされたことがないという予想が的中したのだと思って嬉しそうだった。

そして雑談を続け…魅音が一歩前へ出る。

「お昼…何食べた?」

足元からゴトリという音がした。
圭一がおはぎの包みを落とした音だ。顔は冷や汗。
あぁ、本当にダメみたいだ。
…L4までいってないんじゃないかと、少し期待していた。
でも…くそ。…ダメ…だったか。

 

 

37 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:30:41.62 ID: DiDRpmmv0
圭一の狼狽する姿をレナと魅音はどう捉えているのだろう。
多分…純粋に驚いてる圭一を見てるのが楽しいのだろう。
軽いノリ。ちょっとした冗談。
それが圭一には恐怖しか与えていないということに気づかず…。

ふと汗だくの圭一と目が合った。
そして一瞬、口をぱくりとあけてからそのまま声を発した。

「ぶ、ブーン! ちょっと来てくれ!!」

集中していた僕は焦らず、普通に玄関を上がる。
すると、力強く襟元を引っ張られてリビングまで連れ込まれた。

「なにしにきた…?!」

圭一は僕を壁にたたきつけながら
でも襟元をつかんだまま小さく…恐怖を露わにして問う。

「何って…お見舞いだお。」

冷たく言ってしまったかもしれない。
圭一はそれをどう捉えてしまったのかわからないが、表情は更に強張った。

「どういう意味だよ…お見舞いって?!」
「意味もなにも…辞書にも載ってるそのまんまのお見舞いの意味だお。」

 

 

39 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:33:16.32 ID: DiDRpmmv0
圭一はうつむいて更に力をこめる。
その間僕は服が伸びるなぁ…などと悠長なことを考えていた。

「一つ聞いていいか?」
「なんだお?」
「お前は…なんか隠し事とかしてないか?」
「してないお。全然。」
「…じゃあもう一つ」
「お前は…魅音たちの仲間か?」
「当然だお。キミも僕もみんな仲間だお。」

圭一はやっと手を離した。
曇っている表情。そして僅かに見えた圭一の瞳。
『罪滅し』のレナと同じ。
目の光が…失われつつある。
生き生きとした目じゃない。世界を歪曲させて見る漆黒の瞳だ。
もう…取り戻せないのか?
いや…ここが際なのかもしれない。
今、ここで圭一に何かを伝えよう。
レベルは上がっても構わない。だから何か…少しでも信用できるようなことを…!

明日…何もない。圭一に危険はふりかからない。
なら…明後日!
明後日は…! そうだ…。これなら多分…。

 

 

40 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:35:43.56 ID: DiDRpmmv0
「圭一。」

圭一はやつれたような顔で振り返る。
僕はそっと近づき、小声で話しかける。

「明後日。明後日だお。きみの命を狙うヤツが来るかもしれないお」
「なっ?!」

圭一は驚きをあらわにして、声のボリュームも落とさずに僕に聞き返した。
その間。
僕の身体に言いようのない痒みが走ったが、圭一の声に耳をかたむけた。

「な、なんでだよ?! なんで俺なんだよ?! なんでブーンはそんなことを知ってるんだよ?!
 答えろ!!」

肩をゆすぶりながら焦って聞く圭一を制して、僕はしっかりとその無明の双眸を見つめる。

「僕はキミの仲間だから。ただそれだけだお。それじゃ、お大事に。」

それ以上は何も言うまい。
僕が玄関に戻ると、圭一も見送りなのか、僕の発言が気になるのかやってきた。

そして、レナがその顔色の悪さを察して今日はもう帰ろうと言い出した。

最後に、締められたドアを再びあけて魅音が言った。

明るく言った。

「明日、学校休んじゃ嫌だよ?」

 

 

42 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:38:28.48 ID: DiDRpmmv0
ひぐらしと交代して鈴虫がないている真っ暗な雛見沢へ僕らは歩み出た。

「しかし圭ちゃんもひどいね〜。 すぐチェーンかけるなんて。」
「そういう家なんだおきっと。」
「明日は圭一くん来れるかな? かな?」
「さぁてねぇ。もやしっ子だからもしかしたら来ないかもねぇ?
 レナ、明日は直接家に出迎えてあげたら?」
「うん。そうするね!」

嬉しそうに僕の前を歩いて話す二人。
殺意なんか微塵も感じられない。
こんな健気な二人を…圭一は疑ってしまったのか。
恐ろしいな…疑心暗鬼というやつは。
恐ろしいな…雛見沢症候群というやつは。

「あ、そうそう。ねぇ、ブーン」
「ん?」

魅音とレナがくるりとこちらに顔を向けて聞いてき…

 

…え?

 

 

44 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:41:19.41 ID: DiDRpmmv0

「さっき、圭ちゃんと何話してたの?」

質問はおかしくない。
ただ単に気になってるだけだろう。

でも…

でもでもでも
でもでもでもでも

なんで?

なんで…

魅音は…レナは…

 

僕を鬼のような瞳で見ているんだ?

 

47 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:44:15.51 ID: DiDRpmmv0
「え? あ…ちょ、ちょっと話しにくいことだお。」
「へぇ? 話しにくいこと? なにかな? かな?」

鷹のような鋭い目のレナが僕に聞く。
声も恐ろしい。まるで抑揚がない。冷えた声。

「お…女の子に話したらドン引きされるような話なんだお。聞かない方がいいお。」
「くっくっく。だいじょぶだいじょぶ。おじさん、耐性持ってるから話してごらんよ。」

と魅音が詰め寄ってくる。
魅音も同じだ。レナと同じ。
まるで血の気を感じないような…恐ろしい声と目つき。

「そ、それでも話せないんだお! 話したら圭一を裏切っちゃうから!!」
「そ。 ま、どうせくだらない話なんだろうけどね。くっくっくっくっく」

冷や汗の止まらない僕から視線をはずし、豹変した二人は前を歩く。
そしてレナと別れ、魅音とも別れる。

一人になった僕は。ただただ呆然として歩いていた。

どうして…?

 

 

 

49 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:47:14.82 ID: DiDRpmmv0
『豹変』の条件は一つ。
L4までレベルがあがること。
なら…今の僕は…

L4…?!

いや…おかしい。
だってまだ僕はL2だった。
圭一に話したのは一つだけ。
だからさっきの痒みはL3になった時のじゃないのか?

なぜ?!
どうしてなんだ?!

考えても考えても答えが見つからない。
ふと歩きにくいなと足元を見ると、靴紐がほどけていた。
結びなおそうとしゃがんだその時。

僕の耳に、聞こえないはずの音が聞こえてきた。

 

 

ぺたり

 

52 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:50:55.54 ID: DiDRpmmv0
「えっ?!」

思わず振り返る。
だが…誰も居ない。

誰も居ないのに足音は聞こえる。

僕の混乱した頭でもすぐに答えを導き出すことができた。

「羽…入…?」

返事はない。
でも気配はわかる。そこに羽入はいる!

だが話せないのであれば…どうすれば?

考えに考えたあげく、僕はあることを思いついた。

「羽入。これからいくつか質問をするお。
 はい、なら一回足音を鳴らしてくれお。いいえ、なら二回鳴らしてくれお。
 わかったお?」

ちょっと間が空いてから、僕の耳に「ぺた」という音が一度だけ聞こえてきた。

「今まで、圭一についてたのかお?」

ぺた

 

54 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:54:36.39 ID: DiDRpmmv0
「なぜ僕について来たんだお? 監視かお?」

ぺたぺた

「もしかして…謝ってるのかお?」

ぺた…ぺた

…ついてきた理由がわからない。
羽入の思考をこちらで勝手に読むようにでしか会話が出来ないのは不便だな。

「おもしろいから?」

ぺたぺた

「じゃあなんなんだお?! キミが何をしにくっついてきたのか全然わからないお?!」

ぺたぺたぺたぺたぺたぺた

地団太でも踏んでるのか、連続音が聞こえた。
きっとあぅあぅの代わりだな。

「すまないお。
 質問を変えるお。 今、僕はレベルいつくなんだお? 足音の数で教えてほしいお」

ぺたぺたぺた…ぺた。

足音は…確かに四回聞こえた。

 

 

55 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 21:57:25.58 ID: DiDRpmmv0
「やっぱり…僕はL4なのかお?」

ぺた

「どうしてだお? 僕は条件を犯したのは二回だけだったおね?!」

ぺた

「ならなんでだお?! なんで一気にL4までいってしまったんだお?!」

ぺたぺたぺたぺたぺた

地団太。
イエスかノーかでしか答えられないから…僕に意見は言えないわけか…。

「キミは…なぜ、僕がL4までいってしまったのかわかるのかお?」

ぺた

「それは…全てを知る僕ならばわかることかお?」

ぺた

「絶対?」

ぺた

 

 

56 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 22:00:09.94 ID: DiDRpmmv0
絶対にわかる?
どういうことだ?
さっき羽入は条件違反は二度だけと言った。
なら…他に可能性…

……あ。

 

そういうことか。
さっき、いやこの『鬼隠し』の世界の中心の人のことを考えれば用意じゃないか。

答えは一つ。

僕がL4までいってしまった理由。

それは…圭一と同じなんだ。

精神に負担をかけすぎたんだ。
情緒が不安定になり、ひとりで悩みすぎたせいで…僕のレベルが潜在的に一つあがってしまったのだ。

 

 

57 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 22:03:09.16 ID: DiDRpmmv0
至極当然のことだった。
ここに住んでる以上は、そんなことわかりきってるはずだったのに…
なぜ…くそ…

「治す方法は…ないのかお?」

…ぺた

「そうだおね。入江の力を借りたら即L5だし。
 それになにより時間がなさ過ぎる。 方法はなし…か」

ぺた

「ねぇ、羽入。キミはこの世界の結末を知っているのかお?」

ぺたぺた

「ふふ。キミや古手梨花すら知らない世界を…僕ごときが左右しちゃってるのか…
 それはたしかに…責任は重大だね。」

ぺたぺた

いいえ?
何でだろう。
世界に歪みをおかしてる僕は、ある意味だれよりも自分勝手なのに…。

 

 

58 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 22:05:50.00 ID: DiDRpmmv0
「気休めか慰めか。わからないけどありがとう…。羽入。
 古手梨花には伝えるのかお?」

ぺたぺた

「ありがとう」

ぺた

それっきり、足音は聞こえなくなった。
圭一の後ろに戻ったのだろう。

僕は再び歩み出す。

だが正直、心は不安だらけだった。

時間がない。
残された期間はたったの三日。

僕はまだ圭一にとって信用にたる人間にまでなってない。

なにより…僕自身がL4まで発症してしまったのだ。
厳しすぎる。
あと一つ…何かをしてしまったなら…僕はすぐに喉を引き裂くだろう。
それだけじゃない。
心に負担もかけてはならないのだ。

どうすればいいんだ。

 

 

60 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 22:08:17.17 ID: DiDRpmmv0
今の不安定な状態で会話をすると…思いがけないことでレベルがあがる可能性もある。
だからといってほっておいてもダメなのだ。
みすみす圭一を見殺しにするだけだ。

あははは。
なんだ、気づいてみれば

今の僕は世界を諦めた古手梨花と同じじゃないか。
干渉もせずに、ただただ惰性に生きて、最後の日を迎える。

それでいいのか?
それで僕は満足なのか?

ふふふ。
満足もなにも。
もう打つ手はほとんどうった。
なのにダメだった。

至極簡単じゃないか。

僕はこのゲームに負けたのだ。
思いがけない落とし穴に引っかかって、二度とはいずりだせなくなってしまったのだ。
しかも、ついさっきまでは穴にはまったことすら気づかなかったんだ。

 

 

61 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/30(日) 22:09:35.53 ID: DiDRpmmv0
そんな鈍重な僕が…世界を変える?
寝言は寝て言えよ。

これからどうしよう。

いや、悩むのもめんどうだ。
単純明快。

このまま世界が終わるのを見届けるしかないのだ。
僕の掛け金はすでにゼロ。でもゲームはまだ続く。
持ち金がなくなったプレイヤーはどうする?

ただただ、ゲームの行く末を見ているだけだ。

『どうせ』終わる世界なんだ。
『どうせ』僕がいなくても廻る世界なんだ。

 

『どうせ』………。

 

 

 

 

 

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