2 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:08:38.96 ID: RoAatcbm0

「ごめんなさいなのです。ボクはちょっとすることがあるのでお先に失礼しますのです。」

そう言って梨花ちゃんは沙都子と一緒に帰っていった。

今日は6月17日金曜日。
『鬼隠し』も七日進み、僕がここにきて一週間となる。

『空白の三日』の二日目。
今日は何事もなく(昨日はひどかったが)一日が過ぎ、さて部活の時間…
と思ったら梨花ちゃんはさっさと帰ってしまった。

「そっか。梨花ちゃんって巫女さんなんだよな。色々準備とかあるんだな」
「そうそう。警備も固めとかないとねぇ?」
「? なんのことだお?」

ニヤニヤ笑う魅音はレナを見ている。

「ほら、巫女さんをテイクアウトしちゃう子がいるしさ」
「は、はぅ…。だってだって…巫女さん姿の梨花ちゃんかぁいいんだもん…」
「だからってお持ち帰りは犯罪だからな。
 もし、奉納演舞の後に梨花ちゃんが居なかったら俺は真っ先にレナを指名手配させてもらうからな!」
「はぅ。圭一くんひどいよぅ…」

みんなで哄笑してから、部活中止を魅音が告げて僕らは方々に去っていった。
授業も早めに終わり、まるで土曜日の半日授業の気分だ。
家に帰ってもすることもない。
これからみんなで遊ぶにしても…うぅん。何ができるかな?

 

 

3 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:11:46.37 ID: RoAatcbm0
…そうだなぁ…。
…うん。そうだな。

僕は足の方向を昨日お世話になった場所へと向けた。

「ごめんくださいお。」
「あら、内藤くんじゃない。どうしたの? まだ昨日の傷が痛むのかしら?」

くすくすと古手梨花とは違い上品に笑う看護師、鷹野三四が診療所に入ってきた僕を出迎えた。

別の世界。
『祟殺し』などの世界で、彼女は毎度毎度、古手梨花を殺し大災害と称する大量殺人を指揮ってきた。
『鬼隠し』では直接の敵ではない。むしろあまり関係のない人。圭一には会ったのは二回目なのに、名前も覚えてもらえなかった。
だが、ただ一つ。今のこの『鬼隠し』の世界での彼女の役割がある。

それは『オヤシロ様の祟りの吹聴』だ。
綿流しの夜、富竹と共に彼女は圭一の知識を真摯なものへと進化させてしまう。
面白半分で言ってるつもりなのだろうが、発症している圭一にはそれが恐怖にしか思えないのだ。

 

 

5 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:15:23.72 ID: RoAatcbm0
「傷は全然大丈夫ですお。心配ないですお。 それより入江先生はどこにいますかお?」

だからと言って今ここで彼女に何かをするわけではない。
たとえ祭りには行くな、といっても、彼女と富竹はその日に祭具殿に忍び込むことになっている。
下手に喋って『事象の変換』をしてしまったら意味がない。
ならば、ここは穏便に。何事もなく普通の一村民として接そう。

「所長なら今日は野球の試合をしてるわよ。興宮の方のグラウンドでやってるからよかったら行ってみたら?」
「ありがとうだお!」

あぁ、興宮タイタンズと試合だったんだ。平日なのによくやるね。
ならちょっくら加勢にでも行こうかな。

鷹野から道を聞いてから、僕は診療所の傍にとめてあった自転車にまたがった。

「おや、内藤さんじゃないですか」

軽く息が弾み始めた頃に僕は興宮のグラウンドへと着いた。
自転車の音を聞きつけてか、すぐに入江は僕のもとに来てくれた。

 

 

6 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:18:45.51 ID: RoAatcbm0
「今日はどうしたんです? 興宮までお買い物ですか?」

僕はチラリとスコアボードを確認する。
あらあら、雛見沢ファイターズったら2点も差がつけられてるじゃないの。

「無論、助っ人をしにきたお。」
「え?」

僕は丘をザザーッと降りて、打席に立ってる富田くんに戦況を聞いた。

亀田くんはいないそうだ。魅音たちの加勢がないし、当然といえば当然か。
だが、相手のピッチャーも助っ人らしく中学生みたいだ。
ようは、劣化亀田くんだな。

「富田くん、後は僕に任せるお」
「え? でも…」

僕は震えている富田くんの肩に手をかけてそっとバッターボックスに立った。
どうやらまだガキンチョのくせにえげつない球を投げるみたいだ。
幼い富田くんはすっかりビビッてしまっている。

 

 

7 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:21:36.37 ID: RoAatcbm0
「誰だが知らないけど、俺の球打てんの?」

厨二病だなお前。いや、中二なのか。
その自信に満ちた態度、目上の方には敬語を使うようにと中学校では教えられなかったのかい?
あと、マウンド上でガムを噛むな。

「ま、誰もいいさ。 あんたで最後だしな。」

7回裏、二死 1、2塁。
長打が無いとでも思ってるのか、完全にバッター集中で配球している。
ちなみに塁に出た二人は、デッドボールで出塁したらしい。

様子見のボールが飛んでくる。
インコースぎりぎり。速さはなかなかだった。

「おいおい。ビビッてよけもしないのかよ?」

自分の球が通用すると思ってケラケラ笑う。
今の球は危険球にしてもいいくらいギリギリだった。
スポーツマンシップのある人なら謝るところだ。
だがこのガキは笑っている。

そういう常識もなにもないガキが大人になったらどうなることやら。
だから大人な僕が矯正してやる。
己の愚かさを知るがいい。

 

 

8 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:24:53.40 ID: RoAatcbm0
「おらぁ! 打ってみろよ!!」

全力投球だろうな。
速さがさっきとは違う。
けどね

僕は一度バットを斜め下に振る。
それから、想いっきり斜め上にかち上げた。

ダウンスイングだと思い、前進してきたピーの頭上を掠めるように白球が飛んでいく。
がさがさと遠くの木の葉っぱがゆれる光景が見え、ボールは見えなくなってしまった。

「DUVS。きみの弱さを思い知るがいいお」

「いやぁ、内藤さんって野球得意だったんですか? 全然知りませんでしたよ。」

試合後、入江がチームメイトとBBQをしている中に、たった二球分出ただけなのに参加した僕は、無心で肉をほおばっていた。

「いやいや、ちょっとかじった程度の知識だお。」
「知識だけであそこまで球を運ぶのはもうセンスの問題ですよ。」

それから野球チームに入らないかと勧誘されたが、丁寧にお断りしていおいた。

 

 

11 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: ミスってるorz 投稿日: 2007/09/22(土) 21:31:53.47 ID: RoAatcbm0
「監督。」
「はい?」

僕は唐突に切り出した。

「前原圭一って知ってますかお?」
「前原…あぁ。あの大きなお屋敷の…。 それがどうかしましたか?」

どう言えばいいのだろう。
症候群に関わる発言はダメだろうな。一気にレベルがあがってしまいそうだ。
なら…遠まわしにやんわりいくか。

「まだちゃんとこの村に馴染んでないと思うんですお。
 だから、もし圭一が診療所を訪ねることがあれば丁寧に診てやってほしいんですお。」

しばらく黙って聞いていた入江は、やさしく笑って首を縦に動かした。

「ええ。わかりました。」
「もやしっ子だから、多分近いうちに訪れるかもしれないですお」
「あっはっは。 内藤さんは前原さんを心配してるのかしてないのかどっちなんです?」
「両方ですお」

またいっせいに笑ってから、僕はお礼を言って言われて、再び自転車に乗って雛見沢へと向かった。

 

 

12 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:35:36.14 ID: RoAatcbm0
入江と接触がなければ、もしも『最後のとき』に変に不審がられるだろうし。
それに…もしも運よく後日圭一が訪れた場合に症候群を発見してくれたら…なんて期待もちょっぴりしている。
丁寧に、と一応言っておいたしね。
多分、風邪を丁寧に診察、という意味でとられているだろうが、滑り止め…といえばいいのかな。
とにかく、予備程度でいいから出来る範囲のことはしておくべきだろう。

さて、明日は何をしよう。

 

次の日 6/18 土曜日。
半ドンで、午後は思う存分部活…
かと思ったら魅音が明日の綿流しのお祭りの準備のために帰宅。

仕方ないから、今日は家でゆっくりさせてもらうか…。
準備の手伝いに行くのも面倒だしね。

家につき、手っ取り早く着替えて布団へ倒れこむ。

そういえば…ここ一週間休みがなかったなぁ。
圭一圭一って、そのために色々と動いて考えすぎた。
たまには休息入れないと僕が壊れてしまいそうだ。

だから…今日だけは…。

母の夕食の呼びかけをまどろみながら拒否し、僕はいつもの倍近く睡眠時間をとってしまったのだった。

 

 

13 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:38:53.80 ID: RoAatcbm0
起きた時はもうお昼で、僕は誰もが感じる微妙な後悔を覚えていた。
だがそれとは別の後悔もしていた。

6/19 日曜日。 『綿流し』のお祭りの日。
そして…運命の日。

富竹が死に、鷹野は失踪という『オヤシロ様の祟り』が起こる日。
それを阻止する術を僕は持たない。
だが、『オヤシロ様の祟り』による二次災害を防ぐために何かをしなければならない。
だから、爆睡なんかして余裕をぶっこいてる暇なんかないはずなのに、日々の疲れがたまった僕は…。

覚悟が足りなさすぎていた。
今日で運命が動き出すんだ。
もう少しシャンとしろよ内藤ホライズン!!

顔をパンっとたたき、僕が今日出来うることを考える。

まず本日、起こることを整理しよう。

 

 

14 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:42:40.97 ID: RoAatcbm0
みんなではしゃいで…奉納演舞を見る。
そして綿流しを行い…。

圭一はみんなとはぐれる。そして富竹、鷹野の二人と出会う。

…今日の出来ることはそこか。

圭一が富竹や鷹野と会うことを阻止すること。
だがどうする?
僕が分かれないように圭一を常にマークしてしまったら…
『話を聞く』事実と『二人に会った』事実が成立しなくなる。
一気にL4か…きついな。

ならどうする。

簡単だ。
僕が『直接介入』しなければいいのだから…
彼女らに任せるしかない。

 

 

15 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:46:14.42 ID: RoAatcbm0
「雛見沢6凶爆闘!!」

魅音の掛け声でいっせいに部活が始まった。
教えのとおりにたこ焼きはさめた物を選び、カキ氷は…普通にいただきました。
かぁいいものは、古びた時計をもっていったが圭一のオットセイがやはりナンバー1だった。
富竹への寄せ書きは機関車トミーと書きなぐっておいた。

そして演舞が始まり、綿流し。
一連の動作を行い、沢へ綿を流す。

夢にまで見た行い。
梨花ちゃんの演舞を生で見、自分も住人として綿流し。

傍観者だった僕としては涙すら出てきそうなくらい嬉しかった。

「あっれ〜? レナ、圭ちゃんは?」

魅音が周りを見渡しながら、レナに問う。
だがレナもキョロキョロしてから、首を横に振った。

 

 

17 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:49:05.41 ID: RoAatcbm0
「あら、大変ですわね。 こんな人ごみの中から探すのは難しいんじゃありませんこと?」
「みー、大丈夫ですよ。圭一も立派な村の住民なのです。心配いらないのです。」
「だよねー。ま、人が少なくなってきたら探そうか」

と言って魅音たちはおしゃべりを始めてしまった。
おいおい、頼むよ。

僕は梨花ちゃんをさりげなく呼び出して、頼んでみた。

「今日、やるべきことがあるんだお」

巫女姿の古手梨花は無表情のまま先を促した。

「圭一を富竹たちに会わせない。それが僕の出来る限界のことなんだお」
「ふぅん。またなかなか面白いことを考えたわね。」
「だから、君達にも協力してほしいんだお」

古手梨花はくすくすと笑って答えた。

「それでいいの?」
「え?」
「今あなたは私に頼んでるのよね?」
「それ以外何があるんだお?」
「『直接』頼んでるのよね?」
「あたりま…」

 

 

18 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:52:55.44 ID: RoAatcbm0
言いかけて口をつぐむ。
…しまった。
そういうことか…
盲点だった。

今ここで古手梨花に頼み、圭一を探させるという事をすると…
『直接介入』の条件にあてはまってしまうのか。
そしてそのまま連鎖すれば…一気にL5…!!
危なかった。浅はかな考えだったんだ…。

…ならば…
今の僕に何が出来るんだ…?!
今日何をして運命に抗う?!

「…ま、一応協力はするわ。あなたの頼み云々じゃない方法で圭一を探させるということも不可能ではないはずだから」
「え…?」

歯を食いしばっている僕に古手梨花は諦念のような感じのため息をはいてから、魅音たちの輪へ向かっていった。

 

 

20 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:55:57.62 ID: RoAatcbm0
「沙都子、何か忘れてませんですか?」
「へ? あ、そうでしたわね。」
「皆様方、そろそろ人も薄れてきたことですし、圭一さんを探しにいきませんこと?」
「あ〜、すっかり忘れてた。 今頃縮こまって震えてたりしないかねぇ?」
「ふ…震えてる圭一くん…はぅ…大丈夫だよ。レナが居れば安心だからね。」

かぁいいモードになったレナは人ごみを色つきアイシールドの人みたいに駆け抜けてどこかへ行ってしまった。

「じゃ、私らも探そうか。」

危機感などまったくない様子で、魅音たちは歩き出す。
梨花ちゃんに軽くお礼を言ったが、返答は重々しかった。

「…ダメかもしれないわね」
「え?」

何かを思い出すように、ちょっとだけ間を置いてから古手梨花は言った。

「私の感覚的に…もう圭一は二人に会ってしまってるんじゃないかしら。」
「な…?!」

 

 

22 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:58:13.89 ID: RoAatcbm0
だ、だって…そんなに時間はとってないし…まだ大丈夫じゃ…?
それにレナも探しに行ってるから、なんとかなるはずだ…。

「あなたは圭一がはぐれてから何処に行ったか覚えてる?」
「うんと…川だったかな…」

レナは…あぁ。お祭り会場の方に行ってしまったのか。

「…今頃『オヤシロ様の祟り』の話でも聞いて震えてるんじゃない?」

くすくす。

僕は拳をギュッと握る。

ダメ…だったか。

『話を聞かせない』ために二人との接触を回避させようとしたのに…。
もし、今ここで僕が圭一の下へ行った場合
『話を聞いた状態』でなおかつ、そこには居るはずのない僕の『直接介入』によってレベルは無駄にあがってしまう。
それだけは避けないとならない。

 

 

23 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/09/22(土) 21:59:26.68 ID: RoAatcbm0
僕のちっぽけな作戦は運命という壁に抗うには弱すぎたみたいだ。

だが…今日から本当に厳しくなる。
明日、大石が圭一のもとへ来る。
そしたら…ますます僕の状況は悪くなる。

一村民の僕と警察。
今日の話で雛見沢に不信感を抱いてしまった圭一にとって、部外者の大石は信用に足る人間のはずだ。
だから一村民程度の僕の話をどれだけ信じてくれるのか…正直自信はない。

でも諦めない。
まだこの物語は終わっていない。
まだ時間はあるんだ。
だから抗い続けよう。この惨劇に。

やっと見つけた圭一の顔色はあまり優れていなかった。
富竹たちの姿はなかったが、圭一の顔色を見れば二人に会ってしまったのは一目瞭然だ。

 

ひぐらしはまだないている。

 

 

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