4 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:09:55.11 ID: xedEMfO10

「な……し、知らないお…」

最初に「なかった」と答えようとしたのが失敗だった。
だが「なかった」よりも「知らない」のほうがアフターケアはできる。
今の一瞬で考えられる最善の返答だと思った。
だが僕の答えを聞いた圭一はしばらく…いや実際はほんの少しだろうが黙ったまま固まっていた。

…違う。
固まってなんかいない。
カタカタと音が聞こえてるじゃないか。
圭一が戸を力いっぱい握り締めてる音が…
悔しさで拳に力をこめてる音が…!!

「そうか…わかったよ…」

圭一は戸を力強く閉めて階下に向かった。

取り残された僕は漫画なんか読む気なんか全くおきない。
かわりに一生懸命考えた。

 

 

6 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:11:51.05 ID: xedEMfO10

…なぜなんだ?
雑誌は隠した。
圭一が確証を得る情報はなくしたはずなんだ。
隠した雑誌を見つけたのか?
いや、ゴミの下敷きにしたはずだから、掘り起こさないと手に入れることはできない。
掘りおこすにしても念のために、人の力じゃ上げられないような物を転がして重ねておいたはずなんだ。
できるわけがない。
だったら…なぜ…!?

僕は『鬼隠し』の時系列を必死で思い返す。

圭一が確証を得るには…やはり雑誌しかない。
鷹野や富竹なんかの信用より僕らの信用のほうがはるかに上。
それに、昨日は何もなかったじゃないか。
二人きりでも聞いてこなかったじゃないか。

「…!」

なら…
昨日のうちに何かがあったのか…?

また僕は時系列を思い返す。
昨日起こったことは…
たしか…

た し か … … ! !

 

 

7 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:14:14.58 ID: xedEMfO10

僕はゆっくりと後ろを振り返る

そこには、古びた雑誌が一つおいてあった。見覚えは全くない。
明らかに最近のではない。それに汚れている。
まるでゴミ箱から漁ってきたように

「ま…さか……!!」

手を伸ばし、それをパラパラとめくる。
そして確かにあった。
目をそらしたくなるような現実が。

『雛見沢ダムで悪夢の惨劇! リンチ・バラバラ殺人!』

「な…なんで……」
「なんで……っ??!!」

そこで僕はハッとした。
あの時の古手梨花の言葉が思い出される。

『無駄骨にならなければいいわね。』

古手梨花は…当てて見せたのだ。
僕の行為の結末を…!!

ひぐらしはもう…ないてしまったのだ…。

 

 

8 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:17:13.82 ID: xedEMfO10

かなかなという音が僕が今日最初に聞いた音だった。
布団から時計を覗くと、まだ6時過ぎだった。
ゆっくりと血の通ってない頭を起きあげ、日付を確認する。

今日は6月16日木曜日。
『鬼隠し』6日目だ。

『鬼隠し』では空白の時間がある。
それが今日6月16日から18日までの三日間だ。
つまりこの三日は未知の時間。
寝る前までは、起きたら勝手に綿流しの時間まで流れるかと思った。
だがちゃんと日付は一日しか進んでいない。
古手梨花も言ってた。『15日間』と。だからもし空白の時間が飛ばされるなら『12日間』になってたはず。

今日から三日はある意味、楽だ。
なにせ『事象の変換』という条件に全くとらわれないのだから。
何をしても許される日。さすがに後の展開に響くような大怪我とかは不味いが。
神経過敏にならなくても済むのだから、僕としては休憩地点だな。

ぐーっと伸びをしてから外を見る。
のどかな田舎の風景。
ここが血なまぐさい惨劇の舞台だなんて夢にも思わない。

 

 

9 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:19:29.75 ID: xedEMfO10

いや、惨劇の舞台などにしてはいけないのだ。
それが僕のここにいる理由。
僕の使命だ。

昨日、その使命のための防壁があっさりと砕かれてしまった。
まさか別の雑誌を見つけ、なおかつ記事も載ってるだなんて予想していなかった。

でもまだ諦めない。
校長先生がいつか言ってた台詞がある。

「『どうせ』という言葉を使った時点で勝負は終わっている」

今の僕には妙にしっくりくる言葉だ。
だから諦めない。僕は『どうせ』ダメだと思わない。『まだ』時間はある
『まだ』頑張れるんだ…!

テレビゲームも普及してないこの時代で、早起きほど暇なものはない。
すぐに二度寝してしまった僕は、結局遅刻寸前になってやっと起床するのだった。

 

 

10 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:22:28.01 ID: xedEMfO10

「部活メンバーしゅーごー!!」
「「「おー!」」」

体育の時間。
知恵先生が自由にしていいと許可を出したので、僕ら部活メンバーは体育にのっとった部活をやるため召集された。

「魅ぃちゃん、今日はなにするのかな? かな?」
「へっ。何が来ようと、昨日の俺が続けば負ける気がしねぇぜ!!」

圭一は普段通りだった。
僕にすら裏切られたと思ってるはずなのにいつもと同じ。
少し不安だったが、元気な笑顔をみてまだ心配はいらないと胸をなでおろすしかなかった。

「ねぇ魅音」
「ん? 何?」
「今日は部活メンバーだけじゃなくて、クラスのみんなでやらないかお? もちろん罰ゲームは僕らだけでいいお」
「…そうだねぇ…たしかに今日のおじさんは少人数でやるのより大人数でやるゲームがしたいと思ってたんだ。」
「じゃあ何にいたしますの? 魅音さん。」

考えるポーズをとっていた魅音は、ふと前方でボール遊びをしている子たちを見て頭上に豆電球を光らせた。

「よしっ! 今日はドッジボールにしようか!」
「ど、ドッジボールぅ?!」

圭一が素っ頓狂な声をあげる。
田舎育ちのみんなと比べたら運動能力が低い圭一は、それが勝敗を左右するドッジボールは苦手みたいだ。
かくいう僕も魅音たちに勝てるとは思えない。

 

 

11 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:25:18.60 ID: xedEMfO10

「( ・3・)<アルェ〜? 圭ちゃん、もしかして苦手なの〜?」
「そ、そんなわけあるかよ。お前が決めたゲームに文句言うつもりはねぇぜ!」
「ならさっそくチームわけをしましょうなのです。」

梨花ちゃんがにぱーと笑うと、魅音がクラスメートを集め始める。
いくら分校でも、ドッジボールをするに足りる人数はなかなか多い。

「この人数だとグーパーの成立も難しいお」
「ならわかりやすくわけよっか?」

魅音がニヤリと笑う。な、なにするだーきさま

「男の子と女の子でチームわけをしようじゃないの」
「えぇえええ?!」

こいつ…本当にcan't read air! notじゃねぇ! can'tなんだこいつは!!

「ちょっと待つお! 常識的に考えてそれはおかしくないかお?!」
「そ、そうだぜ! 人数の差が歴然じゃねぇか!」

圭一の言うとおりだ。
ここ雛見沢分校では男の子の方が少ない。
二十人ちょっとしかいないのに、ほぼ男:女=1:2の割合なので、普通に考えたら僕らが不利すぎる。

 

 

12 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:28:18.53 ID: xedEMfO10

「なにいってんの。男の子のほうが力も速さもあるんだから、これくらいのハンデ必要じゃーん?」

ま、間違ってはないんだけど…。なんか理不尽だ。
圭一もなんだかんだで言い返せないようだ。

「文句ないね? じゃ、さっさとコート描いて始めよ。
 あ、ちなみに頭部無効はなしね。頭だけで突進してくる人が出てきそうだから。」

魅音が圭一を見ながらけたけた笑う。
その間に沙都子が器用に一筆書きでラインを描き、すぐにドッジボールを始めることができた。

「それじゃ、ギャーギャー騒ぐそっちから攻めていいよ。」

魅音がポーンとボールをなげる。
大きさは大体ハンドボールサイズ。ゴム製。当たったら痛い程度のボール。

「外野は誰がいくお?」
「富田くん、岡村くん。頼む。」
「わかりました、前原さん!」

二人はささっと相手の陣の後ろへ移動した。
これで内野の人数は6人。魅音たちは12人。
ふざけるのも大概にしやがれ。

「どうするお圭一? ガチでやるしかないお?」
「…」

圭一は魅音が放ったボールを拾う。
そしてボールを握り、女の子たちを見る。

 

 

14 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:31:18.71 ID: xedEMfO10


なんだか圭一の様子がおかしい。
6月にしては暑い気温だが、まだ朝なので立ってるだけで汗が出るわけではない。
心なしか顔色も悪く見える。

…あ。
そうか。

圭一の犯した罪がトラウマになってしまってるのか。
彼がここにいるということは、幼女連続襲撃事件を起こしたということだから。

心機一転ここで頑張ると決めた彼にとってたとえボールであれ、もしも顔面に当たってしまったら…。
たぶん、精神的に負担がかかる。症状が悪化する可能性もある。
それだけはなんとか避けなければ。
僕は今朝の休憩地点という言葉を頭から消し去る。
ダメなんだね。
いつでもどこでも15日間。常に全力で運命に立ち向かわなければ。

「圭一」

圭一はピクっと反応する。

「ボール、貸してくれお。」

圭一は無言のまま、僕にボールを渡した。

 

 

15 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:34:20.48 ID: xedEMfO10

「圭一くん? なんだか調子悪そうだけど大丈夫かな? かな?」

レナはいち早く察したようだ。
圭一はレナの呼びかけにも無反応。

さすがに周りのみんなも心配し始めた。

「圭一さん?」
「圭ちゃん? どしたの?」

下級生の男の子も圭一の顔色を伺う。
あぁ、ダメだ。
小刻みに震える圭一を見ると、もう完璧に後悔しか残っていない都会に住んでいた頃の彼にしか見えない。
覇気も生気も感じられないからっぽの圭一。

僕はそっと肩に手をかける。

「大丈夫だお。」
「…」

僕は鼻でため息をついて、魅音たちに向き直る。

「ブーン、圭ちゃん大丈夫?」
「すきありぃいいいい!!!」

キラリと目を光らせ、僕はボールをぶん投げる。

 

 

17 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:37:38.06 ID: xedEMfO10

「おっとぉっ?!」

魅音はふいな攻撃にもしっかり反応し、横に避ける。
だが、魅音の後ろの子はそうはいかなかったみたいだ。

「いたっ!」

べちっという音がして、小さな女の子のおでこからボールが落ちる。

「っ…!」
「圭一!」

僕はふたたび圭一の肩に手をかける。

「大丈夫だって言ったお。」

ゆっくりゆっくり圭一は顔をあげる。

ボールを当てられた女の子はすりすりとおでこを押さえながら、外野に向かう最中だった。
女の子は圭一の視線に気づくと、にっこりと笑って首をかしげた。

「前原さんが注意をひきつけて、内藤さんがしとめるって作戦だったんですか?」
「えっ…?」
「そうだお。まんまとひかっかったお。でも恨んじゃダメだお。」

女の子はぷくーっと頬を膨らませて笑顔で外野に入っていった。

「あれは空気のボールだお。全力で投げたのが当たっても、そうそう怪我なんかしないお。」
「…」
「なにがあったのか知らないけど、ドッジボールが苦手なのは運動神経だけじゃないんだおね?」

 

 

19 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:40:18.60 ID: xedEMfO10

圭一は頷く。
過去や未来のことについては話せない。
相手に疑問を持たせない。
そういう条件なので、こういう知らないフリをして話せば大丈夫なはずだ。
思ったとおり、身体に変化はなかった。
だから僕は続ける。

「なら今日で得意になっちゃおう。 くだらない過去は捨て去るお。
 ここは雛見沢で、君は転校生、前原圭一。 何か不満があるのかお?」

圭一はやっと表情を浮かべてくれた。
はにかんだ笑顔。それだけでも嬉しかった。

「そう…だな…。俺は…雛見沢に住んでる一学生。前原圭一なんだよ…な。」

言い聞かせるように圭一は拳を握った。
そしてその手を開き、両頬をパンとたたいた。

「よっしゃぁ!! かかってこーい!!」

魅音はボールを拾って怪しく笑う。

「にひひ。おじさんに二回目はないからねぇ?」
「人数の差を作戦でうめるのは圭一くんらしいね!」
「ま、私のトラップに比べたらまだまだ甘ちゃんですけどね」
「負けたら頭をなでなでしてあげますですよ。」

 

 

21 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:43:21.60 ID: xedEMfO10

やっと、陽気な雛見沢分校が戻ってきた。
圭一も一応気をつけてか、低めの球で女の子どもをつぎつぎと倒していった。
だが、いくらなんでも多勢に無勢。
なにより、部活メンバーの最強クラスが全部あっちにいっているのだ。
僕と圭一はなんとか避けながら反撃をしていたが、いつの間にか二人だけになってしまった。

「いやぁ、盛り上がってきたねぇ!」

ボールはこっちが持っている。
魅音は低姿勢に構えながら汗を滴らせて嬉しそうに言った。

「あの人数差をここまで埋めたまでは誉めてさしあげますわ。」
「でもここからはそうはいかないのですよ。にぱー☆」
「さ、かかっておいで! 圭一くん! ブーンくん!」

魅音たちのチームもあとは部活メンバーだけ。
最後にして最大の敵のみ残ってしまった。

「おりやぁあああ!!」

ボールを持っていた圭一は一番強いであろう魅音にボールを投げつける。
低い姿勢の魅音はしっかり軌道を捉え、がっちりのボールを受け止める。

「うっ…!」
「へへーん。都会育ちのもやしっこの球なんて、おじさんには効かないよ〜?」

 

 

23 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:46:20.41 ID: xedEMfO10

魅音は体勢を戻し、ボールを構える。
まずいな。さきほどから見ているかぎり、ほぼ一撃必殺レベルの速さを魅音は持っている。
たった二人なら…負けるのも時間の問題だ。

「そうだね。でもおじさん的にはそれじゃつまらないと思うわけよ。」

僕と圭一は顔を見合わせて、首をかしげる。
すると魅音は後ろを向いて、外野の富田くんに言った。

「わるいけど、ボールもう一個持ってきてくれる?」
「え? あ、はい。」

富田くんは一度その場を離れてどこかへ行き、同じようなボールを持ってきた。
それを受け取りながら魅音は言う。

「一度だけ大大チャンスをあげよう。今からボールを一個増やす。こっちが持ってたボールもあげよう」

ボールを二つとも転がしてよこした。
何を考えてるんだ?

「あとは好きなようにどうぞ。」

魅音は手の平をこっちに向けて、捕球体勢に入った。

なるほどね、魅音なりのスリルを味わい方ってわけか。
こっから僕たちがどう逆転しようと頑張るのかを試しているんだな。
でも魅音の目にはどうせ自分達が勝つ! という覇気がこもっている。
妙に癪に障るな。
そんな挑戦的な態度をとられたら…

 

 

24 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:49:22.00 ID: xedEMfO10

「燃えないわけがないじゃねーか!!」

後は圭一が代弁してくれた。
僕らは顔を近づけ、作戦を練る。

「どうするお? そのまま一気に投げるかお?」
「いや、それだと見破られるだろ。魅音の動きは贔屓目に見てもよすぎる。」
「じゃあどうするお? 弱そうな梨花ちゃんから狙うかお?」
「それもあるが…いや、ダメだな。きっと読まれてる。」
「ならどうするんだお?! 魅音には効かない、弱い梨花ちゃんもダメ。一体どうすればいいんだお?!」
「人間ってのは、基本的に一つの物事にしか集中できない」

圭一は急にもっともらしく語り始めた。

「魅音だって人間だ。いくら極限でも、いや極限だからこそ一つの物事に全力でかけてくるに違いない。」
「つまり…時間差攻撃でいくしかない…!」
「じ、時間差…?!」
「そう。まず、ブーンが投げる。たぶん、魅音はキャッチするだろう。
 そこへ俺がほぼ同時にボールを投げる。捕球体勢が低めの魅音なら頭部ががら空きだぜ!」

圭一の何気ない言葉に僕はちょっと安心する。
ちゃんと過去とは決別できたんだね。
君の口から『頭を狙う』なんて言葉が出てくるだなんて、感無量だよ。
僕は圭一の意思を尊重して、力強く頷いた。

「じゃ、思いっきり助走かけていくお」
「おっしゃあ! いくぜ!!」

 

 

25 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:52:27.44 ID: xedEMfO10

内野の一番後ろまで下がって、僕らはボールを構える。
視線は魅音ただ一人!
僕は先にスタートをきり、相手の陣地のラインギリギリに左足を出し全体重を乗せてボールを…放つ!!

カッと目を見開いた魅音は僕のボールの軌道をとらえ、キャッチする。
頭は…がら空き!!

「いけぇ圭い…」

僕は勢いそのまま身体をひねって圭一を見る。

「え?」

圭一の体勢は奇妙だった。
投げる体勢とはかけ離れている。
まるで、脚の力が抜けて崩れるような…

どしゃっと圭一は無様な格好で転んだ。
テンテンと情けない音がしてボールは沙都子の手にすくいあげられた。

「をーほっほっほ!! まんまとひっかかりましたわね圭一さん!」

まさか…

「さきほど富田さんがボールをとりに行く際に、一つトラップを仕掛けさせてもらいましたわ」

圭一の足を見る。
砂に隠れて…バナナが落ちていた。

 

 

28 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:55:16.46 ID: xedEMfO10

「て…てめぇ沙都子!!」
「をーほっほっほ! 恨んではいけませんことよ圭一さん。
 会則第二条。勝利のためにあらゆる努力をすること、ですわ!」

沙都子はそのまま圭一にボールを当てた。
転んだままの格好だったで、相手の陣地のまん前なので回避なんかできるわけがない。

残るは…僕一人。

「なっはっは。沙都子もやるねぇ! おじさんもびっくりだよ。」
「うふふ。これであとはブーンくんだけだね、だね☆」
「今日の罰ゲームが楽しみなのです。にぱー☆」
「さ、覚悟なさいまし!! ブーンさん!!」

沙都子がボールを投げる。
それをかわすと、すぐに魅音のボールが飛んできた。
紙一重でよける。
すると外野からの攻撃。僕は不恰好によける。
すると、もう魅音とレナがボールを構えていた。
僕は中腰のまま。
あぁ…終わり…か。

あの二人の攻撃をこのままの体勢で避けるなんて無理だ。
チェックメイト。僕らの負け。
でもここまで善戦したんだから、ちょっと清清しいかな。

 

 

35 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 20:59:09.45 ID: xedEMfO10

魅音とレナの手からボールが放たれる。
上段と下段にボールが来ている。回避は不可能。

ごめん圭一。あとちょっとで勝てたんだけど…僕の力不足だ。
あはは。あと少しで魅音たちを僕たち専属メイドさんに出きたんだけどなぁ…惜しかったなぁ…。

…メイド…かぁ…。膝枕でゴロゴロしたかった。耳かきとかお茶酌みとか。
着替えの瞬間を覗いちゃったりちか、短めのふわふわスカートがめくれてパンツがチラリズムとか…。
圭一と…楽しみたかったな…。

僕の身体が脈打つ。
楽しみたかった…?

バカを言うなよ内藤ホライゾン。
まだ過去にすらなってないのに楽しみたかった?
寝言は寝て言え。
今僕が想像したのはすべてありえる未来。
その未来に、あと一歩届かなかったからって諦めるのか!?

これから惨劇を回避するためにたくさんたくさん挫折を味わうかもしれないのに…
この程度の状況で僕は…何を弱音を吐いてるんだ?

 

 

36 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 21:00:51.40 ID: xedEMfO10

惨劇に挑むとき、一番の武器はなんだ!?
知ってる。
たくさんの世界で彼らに教えられてる。
だから実行しろ!
思い起こせ!
戦う意志を!!
運命に立ち向かう力を!!!
この身に宿すんだぁああああああああああ!!!!!

 

 

 

 

 

フカーイーナゲーキーノモーリーヒグラシノーナークー

 

 

39 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 21:03:23.87 ID: xedEMfO10

異様にゆっくりに見えるボールを僕は身体をひねらせて回避する。

「「えっ?!」」

魅音もレナも驚愕の表情。
無理もない。だってあの速さで、あの姿勢でよけるなんて思わなかっただろうから。

外野の子もびっくりしている。
レナの球はともかく、魅音の全力投球なんか捕球できるわけなくボールをはじいてしまう。

おあつらえむきに転がってきたボールを僕はつかみ、魅音たちを見据える。

「なんで…よけられ…?」
「…ブーンくん? ブーンくんだよね?」
「なんだか…別人みたいでしてよ…?」
「みー。覚醒しちゃったのですよ。」
「覚醒?」

沙都子が驚いている横で、魅音が外野からのボールを受け取る。

「な…なにがなんだかわからないけど…早々にしとめさせてもらうよ!」

魅音はボールを投げる。

「遅い。」

ハエだってとまってしまいそうなくらいゆっくりに見えるボールを僕は握ったボールで地面にたたきつける。
そして、地面に跳ね返ったボールをもう片方の手でつかむ。

 

 

41 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 21:06:27.81 ID: xedEMfO10

「なっ…?!」
「に…人間技じゃないよ…?!」

「ふふふ。」

僕は不適に笑う。
魅音たちは後ずさる。
完全に気おされている。

「人間技じゃない? …バカなことを言わないでほしいお。こんなのまだまだ序の口だお」

僕はスッと左手のボールを地面に置く。

魅音たちの後ろで同じように口をあんぐりしている圭一を見る。
そして、一度だけアイコンタクトをしてから頷く。
意志が伝わったかわからないが、圭一はハッとしたような顔になってくれた。
それで十分だ。

「さ、まずは沙都子。圭一を倒した君からだお。」

沙都子はグッと歯を食いしばり構える。

「じゃ、いくお?」

 

 

42 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 21:09:18.62 ID: xedEMfO10

わざわざ、合図をしてやった僕を慈悲深く思うがいいさ。

目を見開き、僕は一度距離をおき、ピッチャーのようにボールを構える。

「第一の秘球…蛟竜!!」

僕は全身を使って、ボールを投げる。
その速さは自負するのもなんだが、魅音とは比べ物にならないくらい速い。

「ひっ?!」

沙都子が小さく悲鳴をあげ、捕球体勢を解き反射的に右へ飛ぶ。
だが、無駄だな

「あいたっ!」

沙都子の無防備な背中に超速のままボールがあたる。
超高速のスライダー。それが蛟竜だ。

はじかれたボールは僕らの外野へと落ちていった。

「次はレナだお。」

レナがピクッとなる。
沙都子と同じように目には闘志がこもっている。
そして捕球体勢を作った。

 

 

43 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 21:12:31.60 ID: xedEMfO10

「レナの動体視力はすばらしいと思うお。かぁいいモードだったら今の僕でもあやういかもしれないお。」
「でもね、僕にとって動体視力ってのは武器にならないって教えてあげるお。」

レナは厳しい表情で僕を見つめている。
君の頭には、どうせハッタリだ、という感じの言葉が浮かんでるんだろうね。
見極めようったって無駄さ。
僕は砂煙を巻くくらい片足を大きく上げる。

「大リーグボール二号!!」

マサカリ投法でその砂煙の中へボールを投げる。

「…えっ!?」

気づいたときは遅いんだよレナ。
レナのお腹からボールがこぼれ、僕の足元転がってくる。

消える魔球。大リーグボール二号。

「梨花ちゃんは痛いの苦手みたいだから、優しいのでやってあげるお」

普通の投球フォームで、梨花ちゃんへボールを投げる。

「…?」

みんなからもわかるだろう。
今度の球は異様に遅い。僕だけゆっくりに見えてるんじゃない。本当に遅い。
遅すぎるくらいだ。
だから余裕だと思い梨花ちゃんは手を伸ばした。

 

 

46 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 21:15:34.96 ID: xedEMfO10

「っ!!」

途端に梨花ちゃんは手を離し、ボールは再び僕の足元へ。

強烈なバックスピンをかけた球。
ゆっくりに見えるけど、手をのばしたら最後。その回転に負けてついつい手放してしまうだろう。

「最後は魅音だお。」

もうその顔に余裕はない。
魅音の顔には冷や汗と、焦りしかない。

「ブーンを甘くみてたよ…まさかこんなエクストラステージがあるだなんて思ってなかった。」
「そうだおね。魅音たちがいなかったら僕もエクストラステージには上がれなかったお。感謝するお。」
「だから、君には僕が持ってる最高の技で仕留めてあげるお!」

魅音が構えると同時に僕はボールを垂直にたたきつける。

「えっ!?」

そして高く上がったボールを僕は跳躍してキャッチする。

「21世紀最強最悪の格闘技…テニヌの技だお!!」

ギリリッと身体を思いっきりひねり…

「KOOLドライヴっ!!!」

強烈なスピンを加えて放った。
魅音はそれを抱えるように受け止める!

 

 

48 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 21:19:42.95 ID: xedEMfO10

「うっ…くっ…!!」

魅音の身体を削るようにしてイレギュラーなスピンが起こっている。

「くあっ!!」

バチッと魅音からボールが離れ、高く舞い上がる。

「ふふふ…勝った…勝ったお…!!」

「違う! ブーン! まだだ!!」

着地と同時に圭一が叫ぶ。

ふと上を見上げる。

ボールの軌道が…相手の外野へ…

「し、しまった!?」

当たってから地面について初めてヒットとなる。
つまり外野に取られたら無効だ。

 

 

51 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 21:21:56.65 ID: xedEMfO10

くっ…おっ…!!」

着地の体勢から、必死で身体を伸ばす。
高く飛びすぎた衝撃で全然動かない。
倒れこみながらボールに手を伸ばすが…

「残念でしたわね。ブーンさん」

沙都子がその手にボールを握っていた。

体力と集中の切れた僕はもうあんな回避はできない。
今度こそジ・エンドか…

と諦め、沙都子の嬉しそうな笑顔を瞼にやきつけ目を閉じた。

「あいた!」

声を上げたのは僕じゃない。
ちょっと低めの女の子の声。
魅音だった。

テンテンとボールが魅音の足元を転がる。

「…やった…!」

圭一だった。
さきほど沙都子を倒した蛟竜の球を拾っていた圭一が最後のスキをついて魅音にボールを投げたのだ。

 

 

52 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 21:24:47.17 ID: xedEMfO10

「おおお!!! 圭一よくやったおぉおおぉお!!!!」
「前原さん!!」
「圭一さん!」

僕を含めた男の子組みが圭一を囲み褒め称える。
胴上げしたいくらいだが、僕以外の子の身長を考えると無理だった。

「ははは。みんなありがとな。」

圭一は照れながらみんなに握手をする。
そして僕とはガッチリと握手をしてくれた。

「あの時、ブーンのアイコンタクトがなかったら俺もダメだったよ。」
「圭一を信じてて正解だったお」

え? と圭一は手を離して聞き返す。

「あの時は…『僕を信じろ』って意味だったんじゃないのか?」
「へ? 違うお。僕は『圭一を信じる』って意味で目配せしたんだお?」

僕たちは一瞬固まる。
そして、破顔一笑して肩を叩き合う。

「やっぱり圭一と僕は似てるお!」
「だな。ほんと、最後のブーンはか神ががってたぜ!!」

 

 

54 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/09/01(土) 21:26:09.22 ID: xedEMfO10

負けた女の子チームがブーブー言いながらこっちへとやってきた。

「あはは。負けちゃったね。」
「ブーンが凄すぎたのですよ。」
「私がちゃんと周りを見ていれば…。いいえ、それも含めてブーンさんの実力ですわね。」

みんなが負けた事を潔く認めていた。が、一人だけ口を三にして文句を垂れてる人がいた。

「ちぇ〜。おじさん的に最後のは納得いかないな〜…」

ブツブツ言ってる魅音の前に僕と圭一は立ちふさがる。

そして圭一と顔を見合わせてから笑い。言ってやった。

「魅音自身が決めたことだろ?」
「さっき沙都子も言ってたお。」

「「会則第二条。勝利のためにあらゆる努力をすること!!」」

男の子たちの合唱が分校に響き渡っていた。

「あ、魅音。さっきの技で服が破けておっ*いがこぼれそうだから早く着替えた方がいいお。」

僕が次に目覚めると、そこは診療所のベッドだった。

 

 

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