37 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:21:21.76 ID: /4uAvQe30
「とりあえず、情報を整理していいかお?」
「どうぞ。」
僕は汚れた服も着替えず、古手神社の境内で梨花ちゃんと話していた。
沙都子は今料理でもしてる最中だから聞かれる心配はないと古手梨花は言っていた。
「まず、発症条件の境目について聞きたいお」
「たしかに、事象の変換によって僕のレベルは1上がったお。」
「あの行為によって、圭一はあの日に雑誌を読まない。という事実が確定したからでしょうね。」
「でもおかしくないかお?」
「なにが?」
「例えば今朝のことだお。『鬼隠し』ではレナパンは一度か二度しかはなってないはずだお
けど僕は何度かレナパンを受けた。それは事象の変換にはならないのかお?」
ふぅっ、と古手梨花はため息をつく。疲れからではなく、呆れから出てくるため息。
「あなた、ちゃんと私の話を聞いてたの?」
「お…一応そのつもりだお…」
もう一度ため息。
「私は『あなたの直接介入による事象変換はなし』と言ったのよ。」
「?? ますますなんだか…」
理解の悪い僕に古手梨花はイライラしたような口調で答える。
「噛み砕いて言うと、あなたが吹き込みや、割って入った結果に起こるべき事象が変わったらレベルを上げると言ってるの」
……あぁ。
38 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:23:11.57 ID: /4uAvQe30
「つまり、僕が関わったが故に、これからの物語が変わったらいけないってことかお?」
「そういうこと」
「でもでも、今朝のは僕が関わってたお?」
古手梨花は釣りあがった眉を重力にまかせ、また幸せを逃がす吐息を深くつく。
「あなた自分でこれからの物語が変わったらと言ったじゃないの」
「そもそも、あなたがここに存在する時点で事象の変換はおきてるのよ?
でも何も起こらないのはなぜだかわかる?」
「わかんないお」
「…はぁ。つまり、多少の誤差は認められてるってことよ。
あなたが居ても居なくても『鬼隠し』は正しく進むの。
あなたが直接関わったことによって、『鬼隠し』に変化したらレベルがあがるってこと」
「…ちょ、ちょっと待つお!!」
「今度はなに?!」
ついには怒鳴らせてしまった。うぅ…理解力のなさが悔やまれるお…。
「なら圭一が魅音とレナを殺さないという事実ができた場合も、レベルはあがっちゃうってことかお?」
「あなた真性のバカね」
「そ…それくらいわかってるお」
「『直接介入』って何度言ったらわかるの?!
圭一が圭一自身の意思で疑心暗鬼が解ければ、それはあなたの直接介入にはならないの!」
「あっ…あぁ、なるへそ!」
「まったく…あなたを連れてきたのは間違いだったかしら…」
39 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:25:16.66 ID: /4uAvQe30
ひぇぇ。怒らせてしまったお。シュークリームでもお供え…ってそれは羽入か。
……ん?
…羽…入…?
「そ、そうだ。羽入は何してるお?!」
「…さっきから私のそばにいるわよ」
目を凝らしても、耳を澄ましても羽入の声も姿も足音も聞こえない。
あ、僕はまだL2だったな。
「この子に頼っても無駄よ。むしろこの子の方が私より役に立たないし。」
古手梨花は虚空を指さして話をしている。
「『祭囃し』じゃないんだから、具現化なんかできないし、大体小心者だから使えな…あぁうっとしいわね!」
何もないところにブンブン手を回している。端から見れば変人でしかない。
「とにかく、この子も圭一をストーキングするって事実を作らなければならないの。だからなにやっても無駄よ。」
「そうかお…」
「他は?」
「うんと…あ、過去のことを教えてはならないってことについてだお」
「そのまんまの意味じゃない」
「違うお。『過去』という定義の境界がわからないんだお」
41 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:27:16.42 ID: /4uAvQe30
今度は古手梨花が首をかしげる。
「だからそのままの意味でしょ?
『あなたが知りえない過去』について話せばレベルがあがるってこと」
「…その『僕が知りえない過去』と決断するのは誰だお?」
「相手によるわ。話した人の判断よ」
「へ?」
僕は情けない声を漏らして、古手梨花に聞き返した
「君じゃないのかお?」
「その場に私がいるとは限らないわ。あなたが過去や未来のことに関して話をした場合
相手に不信感や疑念がわいたら、その時点でレベルがあがるように設定されてる」
「そう…かお…」
「あと圭一だけは特別よ」
「ま…まだ何かあるのかお? あきらかに厳しくなってないかお?」
「最初に説明するのを忘れただけよ。
圭一の場合のみ、『知りえない過去』だけでなく『知ってはならない過去』を話せばアウトということになってる」
「ということことは…」
「考えるとおりね。あなたは仲間と同じ条件。
つまり…」
「事件については話せない…か。」
古手梨花は頷き、僕はがっくりと肩を落とす。
それから彼女はは神社の方角をさして言った。
42 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:29:11.52 ID: /4uAvQe30
「そろそろいいかしら? 沙都子が待ってるだろうから」
「…うん。ありがとうだお」
精神年齢はとっくに老婆の少女は短く別れの挨拶を残して、優雅に髪をゆらめかせてひぐらしのなく雛見沢へと溶けていった。
帰り道も僕はしょんぼりしたままだった。
あまりにも条件が厳しすぎる。
明らかに最初に決めたのより厳しくなってないか?
まさか、後から自分で付け加えてるんじゃないだろうな…。
「…」
圭一の症状が進行したら、圭一は目に映るすべてが嘘や欺瞞に見えてくるだろう。
仲間の説得や健気な姿すら『異常』と決め付け、一人暴走してしまうくらいだ。
そんな中で…少しでもボロが出てしまったら、いとも簡単に僕自身の症状レベルはあがるだろう。
しかもそれは圭一だけではない。古手梨花以外の誰にも話してはならないのだ。
僕は深くため息をつく。そうでもしてないと心が壊れそうになる。
そう。明日はピクニック。
楽しければきっとみんなの過去とか未来なんかまったく気にならないだろう。
だから明日はいつもどおり、一人の仲間として楽しもう。
44 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:30:35.08 ID: /4uAvQe30
次の日のピクニック。
昨日のように調子をあわせて、とにかくはしゃぎにはしゃいだ。
また沙都子関係でレナパンをくらったり、さりげなく古手梨花に毒舌をはかれたり。
だが何より重視したのは圭一との関係を良くする事。これは絶対にはずせない。
昼食を終えてみんなが食休みしてる最中に圭一に尋ねてみた。
「圭一はメイドさんとか好きかお?」
「は? お、おい、いきなりなんだよブーン」
おやおや。まだ新参だから本性を隠してるのかな?
くくく、萌えの伝道師の君がこの話題に乗り気じゃないわけがないよね。
「ふりふりのカチューシャつけて、ひらひらのスカートつけて、おかえりなさいませご主人様とか最高だとは思わないかお?」
「……」
「朝はおはようございます、夜はおやすみなさいませ、友人の紹介ではこれが私のご主人様ですといってくれる従順なメイドさん」
「…さ…」
「…最高だお?」
「最高じゃねぇか!!」
やっと圭一の明るい笑顔を見れた。
…って目を輝かせすぎだお。
45 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:32:17.37 ID: /4uAvQe30
「あのふりふりカチューシャははずせないよな!」
「だおだお! 袖口のフリルも得点高いお!!」
「わかってるじゃねぇかブーン!! なんかお前とは気が合うな!!」
「当然だお!! 圭一と僕は似てるお!!」
「だから、困ったりしたらすぐに相談するお。いつだって僕は圭一の味方だお!!」
ハッとしたような表情を浮かべる圭一。照れくさそうに指で鼻下をこすってから言った。
「…ありがとな。 俺もいつだってブーンの味方だぜ」
そう、これは必要だった。
『罪滅し』で圭一がレナを信用させたように、自分だけは大丈夫だよってのをすり込ませる。
そうすれば、もし圭一がおかしくなっても僕にだけは心を開くはず…。
『罪滅し』を見た限り効果は薄いかもしれないが、ないわけではない。なら少しでも保険はかけておくべきだろう。
けど僕がするべきなのはそれだけではない。
「違うお」
「え?」
「僕だけの味方じゃなくて、僕たちの味方にいつまでもあってほしいお」
「ブーン…。
………そう…だよな。みんなが俺の味方なら、俺だってみんなの味方だもんな!!」
「おーい、男同士で盛り上がってないでこっち来なよ〜」
魅音の声で僕たちは輪の中へと戻っていった。
圭一は発症してしまったとは思えないくらい、ちゃんと鵜呑みにしてくれた。
それが凄く嬉しかった。
46 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:34:39.20 ID: /4uAvQe30
「圭一は…大丈夫かお…?」
「知るわけないでしょ。」
ひぐらしのなく雛見沢。
僕はまた古手神社で百年を生きる魔女と話をしていた。
神社の境内から眺めるすばらしい景色と、橙に染まる古手梨花はすごく神秘的だった。
「私にだって知らない世界になってるのだもの。未来予知なんて能力は持ってないわよ」
そうだった。古手梨花は過去を未来につなげられる存在だった。
だからいくら彼女でもこの先はわからないってことか。
「なら、なんで昨日はあんなこと言ったんだお?」
「あんなことって?」
「やっても無駄みたいなことだお」
「あぁ。…別に。なんとなくよ」
古手梨花はまた、顔を夕日色に塗りつぶした。
すると、何かに気づいたかのように目を一度開いてから、また顔を僕に向ける。
「そうそう。今日、あなたがすべきことはなにもないみたいに思ってるだろうけど」
「明日、すべきことの予習はできるのかしら?」
「へ?」
頭の悪い僕にはさっぱりだ。
明日の…予習?
47 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:36:11.75 ID: /4uAvQe30
「明日は圭一が部活に参加する日よ。忘れたの?」
そうか。それがどうし…
「あ…」
「そうよ。あなたはこの村に半年前に来た設定。
当然、部活に参加してることになってるのよ?」
いじわるなくすくす笑いが頭に響く。
「つ…つまり…あ…明日…僕が…まけたら…」
「もちろん、レベルはあがるわ」
「ぴぃゃああああぁああぁあ!!!」
やばいやばい。
どうしよう?!
落ち着け、KOOLじゃなくてCOOLになるんだ…
よく考えろ内藤ホライゾン
…明日はジジ抜きだったな…カードに傷が付いてるから…みんなは淡々とゲームを進められるんだよな
なら……
…そうか!
カードの傷を暗記しちゃえばいいんだ!!
「ちょ、ちょっと学校行ってくるお!!」
「気をつけなさいよ。誰かに見つかったら言い訳は難しいから
明日の部活でやるからなんて営林所の人に言って信じてもらえるかしらね?」
悪態をつく古手梨花に別れの言葉を置いていき、僕は一目散に学校へ駆け出した。
幸い(本当は無用心だが)窓が開いていて、なんとか侵入することができた。
48 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:38:23.99 ID: /4uAvQe30
四次元ロッカーを開けて、カードを探す。
これは犯人当てゲーム。これはウノ…
これか…?
いや違う。新品じゃないか。
なるべく音を立てないように5分ほど散策をすると、やっと奥底から古びたカードケースが見つかった。
「まったく、整理整頓はちゃんとやっとくべきだお!」
泥棒まがいのことをしてる僕にいえる台詞じゃないな。
そう自嘲してから、適当にロッカーの中身を突っ込んでから僕は窓から飛び出し家へ帰った。
「…ブーンくん、眠たそうだけど…大丈夫かな? …かな?」
次の日。
朝の挨拶のあと、レナは僕の顔を見ながら尋ねてきた。
「あ、レナ…大丈夫だお。くまさんが僕の眼下で爆走してるだけだお。」
「けどひっどい隈だね。昨日なんか面白いテレビやってたっけ?」
「どうせブーンのことだからエロイ番組だと思ったら実は違ってがっくりしてたんだろ?」
「な…ぶ、ブーンさんたら不潔ですわよ?!」
「怒ってはダメなのですよ沙都子。ブーンだって男の子なのですよ〜?」
すりすりと梨花ちゃんは僕の頭を撫でる。
圭一たちの推理は的外れもいいところだが、反論するのも面倒なくらいしんどいので
「ちょっとお勉強してただけだお…。」
「え?! 勉強?!」
49 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:40:23.76 ID: /4uAvQe30
魅音が声をあげる。いやいや、きみ受験生なんだから驚かないでよ。
ちなみに僕の言ってるお勉強とはカードの傷の暗記。
夜中までやって、今朝はカードを元の位置に戻すためにかなり早く家を出た。
睡眠時間が削られるわけだよね。
いつもは健康的な生活リズムをつくってる僕からしたら過酷な一日だよ。
「なんだよ、ブーンだって受験があるから、別に不思議なことじゃないだろ」
「いや、だって前にも言ったじゃん? ここいらだと出席日数足りてれば進学できるって」
「そういやそうだったな…じゃあ俺が必死こいて見につけた二次関数とかも水の泡なのか?
ブーンが昨日やったことも無駄なのかよ?」
「だ、大丈夫だよ圭一くん。二次関数なんて一部の社会にしか役に立たないんだから。
レナは、二次関数を解くっていう考える力が必要なんだと思ってる。
悩んで悩んで、それで思考力を養成するっていうのが私たちがやってる『勉強』なんじゃないかな? かな?
だから、ブーンくんや圭一くんがこれまでしてきたことは決して無駄じゃないと思うよ?」
僕は夢うつつで聞き耳をたてていた。
この話は『鬼隠し』の初日で話したのと同じ話だ。
50 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:41:12.13 ID: /4uAvQe30
だが微妙に違う。
『僕』という存在によってレナの意見などが僅かに異なっている。
だがもちろんのこと、僕の身体に変化はない。なにせ物語に直接関与してるわけではないからね。
こういう経験をつんで、境界線を学ぼう。少しの誤差でも聞き漏らしたりしないように。
そう、レベルアップが無意識に発動をしてしまうことを防ぐ鍵は経験だけなのだ。
だから、今日も、疲れてても、眠くても。少しでも情報を手に入れるために努力しよう。
惨劇への扉はまだ開かれていないはず。
だからそれまで、僕は学び続けよう。
そう。
ひぐらしがなくまでに…。
63 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 22:12:48.60 ID: /4uAvQe30
朝。
学校ではいつもの風景。
沙都子は登校時間早いくせになにもせず、ただ梨花ちゃんと話していただけだった。
「トラップというのはたまに仕掛けるくらいがいいんですのよ。
毎日毎日やって圭一さんを鍛えるというのも一理ありますが、やはり真髄は『ある日突然』でしてよ!!」
というのが沙都子の言い分だった。
ならもう少し寝てればいいのにといったら、生活リズムが崩れるから、とのこと。
いやはや、トラップのためにわが身すら犠牲にする沙都子はある意味えらいね。
その日はなんなく過ぎていった。
圭一もレナも魅音もなにも変わらない。いつもの日常。いつもの風景。
ゾンビ鬼では僕の持ち前の機敏さを利用したが、重要な話がある、と古手梨花に言われてほいほい付いていったら鬼にされてしまった。
まぁ結果は魅音とレナが勝たなければならないので仕方ないといえば仕方ない。
業後の部活も、暗記のおかげで『圭一のビリ』という事実は作ることができたし。
ちなみに罰ゲームの落書きには「メイドオタです」ってかいておいた。
反省なら奈落の底においてきたさ。
そして圭一たちと別れ、僕はホッと胸をなでおろした。
圭一は何も聞いてこなかった。
トイレなど、二人きりの空間でも何も聞いてこなかった。
つまり、あの日の隠蔽作戦はちゃんと成功したということだ。
今の圭一は僕たちを信用しているはず。
だからきっと大丈夫。
このまま事件について触れなければきっと大丈夫だ。
僕は何度も胸にその言葉を刻み、梨花ちゃんたちと別れた。
64 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 22:15:32.11 ID: /4uAvQe30
【TIPS】 「廻る、廻る。」
部活と称するカードゲーム対戦が終わったあと、俺は家に帰って顔を洗っていた。
母さんや父さんに会わなくてすんだのが不幸中の幸いだった。
これからレナとゴミ山へ宝探しにいく予定になっている。
俺はさっさと着替えて、家を飛び出す。
今日はレナがほしがっていたケンタくん人形を発掘する日なのだ。
きっと救出してあげれば喜ぶだろう。
元工事現場につくと、レナはブンブン鉈をふってこっちを見ていた。
「圭一く〜ん! 待ってたよ。今日もがんばろ!」
「鉈は鞘とかをかぶせて持って来い。抜き身はさすがにまずいだろ!」
「なくしちゃったみたいで…ないんだもん。」
俺はレナの奇癖なんか雛見沢ではとっくに知れ渡ってるんだろうなぁ…などと考えてから作業に移ることにした。
「ま、いっか! 今日で決めるぜ! 最後の梁をぶっとばせば……」
しばらく鉈を使って奮闘する。
先日、付き合った時の疲れが加わって、身体の筋肉が悲鳴をあげ始める。
65 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 22:17:04.00 ID: /4uAvQe30
「ちょ、ちょっと休憩…。レナ、良かったら何か飲み物でも持ってきてくれるとありがたいんだが…」
「あ、うん! ちょっと待っててね!」
レナは嬉しそうな顔をして足場の悪い山をいとも簡単に駆け抜けていった。
田舎育ちってすげぇなぁ…
俺の息とひぐらしだけが俺の頭を満たす。
じっと止まってたら蚊に刺されまくるので、疲れない程度に歩き回ることにした。
「何か役に立つものがあるかもしれないしな…」
心地よい風を感じながら歩いていると、突然俺の視界が夕焼けに変わった。
「おわっ?!」
ドシーンとおもいっきり尻から地面にぶつかり、俺は悶絶する。
「な…なんだよ…」
何かに滑ったのか?
66 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 22:18:21.74 ID: /4uAvQe30
振り向いてみてみると、それは
古びた週刊誌 だった。
「ったく…なんでもありなんだな…捨てるモノは…」
どうせ暇だし。
俺はその週刊誌を手に取り、パラパラとめくり始めた。
そして知りもしない事件や有名人の話がつらつらと並べてあるページをめくった時
俺の目に、知っている単語が飛び込んできた。
「…え…?」
そこには「雛見沢ダムで悪夢の惨劇! リンチ・バラバラ殺人!」という文字がデカデカと書かれていた。
67 名前: 1 ◆HDN9TwkiEc Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 22:19:47.06 ID: /4uAvQe30
『鬼隠し』五日目
今のところ圭一は特に問題なさそうだ。
まだ僕らを信用しているように見える。
変わらずはしゃいで、変わらず笑って
たしか圭一はL3までもう進んでいるはずだ。
それでも沙都子みたいに注射がなくても壊れることなく、日常に溶け込んでいる圭一を見ていると心底安心する。
そんな弛緩しきった心で、あの圭一の一言を聞いた時は飛び上がりそうだった。
「なぁブーン、今日俺んち来ないか?」
「え…?」
こんな展開はしらない。
圭一は誰も家に招かないはずだ。
たしか他編でも見たことなかったな。
緩んだ心を引き締め、冷静に考えてみる。
そう、これはイレギュラーだ。
『僕』という存在の介入によって発生したバグともいえる現象。
けど身体には変化なく、レベルは上がってるようには思えない。
直接介入ではなく、圭一の意思による改変なのだから条件には当てはまらないみたいだ。
それに、これは何より圭一の信頼の証。
疑心暗鬼に陥ってしまってる圭一なら無用心に家へ上がらせようとはしないだろう。
この行為は僕にとってすごく嬉しいことだった。
68 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 22:22:22.18 ID: /4uAvQe30
ちょっと戸惑ってから、僕はなるべく焦らずに答える。
「いいお。けどレナたちは呼ばないのかお?」
「え? あ、あぁ。ちょっと話しにくいことだからな」
…なるほど。
メイドさんとかそっち系の話でもする気だな。
そりゃレナなんか呼んだら神速拳がいくつ飛んでくるかわからないもんね。
「じゃ、帰りにそのまま行くって形でいいかお?」
「あぁ。いいぜ。」
その日も部活は大貧民。
酒池肉林の圭一のそばで僕は『犬のようにお座り』というわけのわからない罰ゲームを引き当ててしまったので
レナたちのエロスティックバイオレンスな格好や口調を涙を流してみてるしかなかった。
だが最後のどんでん返しで灰になった圭一を見るとけっこうすっきりした。
ざまぁwwwwwwwww
「あれ? ブーンくんって家の方向そっちだったかな? かな?」
圭一と魅音と一緒に帰ろうとする僕を見てレナが不思議がる。
ちなみにレナは梨花ちゃんお持ち帰り権をゲットしているので、今日は別々で帰ることになっている。
69 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 22:24:24.61 ID: /4uAvQe30
「俺が呼んだんだ。今日ちょっと話したいことがあってな」
「なに〜? おじさんなら何でも相談にのるけど?」
「いや、魅音じゃダメだ。これは男同士でなければ話せないことなんだ!」
「ふ〜ん…」
魅音もレナもいかがわしい目線で僕だけを見てくる。
なんで僕だけ変態さんにみられるのはどうしてなんだぜ?
途中で富竹に会い、茶化されたが僕は適当にあしらっておいた。
さりげに「さよなら、時報」って言ったが聞こえてなかったみたいだ
魅音にばいばいと言って別れる。
残った僕らは雛見沢に不釣合いな豪邸へと足を進めた。
両親は今不在らしい。
買い物にでも行ってるんだろう。
階段を上がってすぐに圭一の部屋への戸があった。
ガラッとあけて、散らかり具合などを確認すると自分の部屋とそっくりで少し笑ってしまう。
70 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 22:26:11.27 ID: /4uAvQe30
「な、なんだよ?」
「いや、やっぱり僕と圭一は似てるなって思って」
「ブーンもおんなじような部屋なのか?」
「散らかってる配置もまったく同じだお。」
「ははは。散らかってるんじゃないぞ、俺はあえておいてるんだ」
「それも僕と同じ言い訳だお」
あははと笑い、僕は適当に座る。
「漫画でも読んで待っててくれよ。お茶持ってくるからさ」
「了解だお」
完全に調子に乗っていた。
だって僕が今日呼ばれたのは、圭一が信頼してる証だと本気で疑ってなかったから。
だから戸をあけたまま停止した圭一を見て不信感を抱かなかった僕は心底間抜けだったのだ。
「なぁ、ブーン」
次の一言で僕の身体は戦慄する。
「昔さ…あの元ダム工事現場で…事件があったよな…?」
71 名前: 1 ◆uJDnI3yb4w Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 22:27:54.94 ID: /4uAvQe30
「…え……?」
圭一はそのままの僕に背を向けた姿勢で突っ立っている。
圭一は…なんと言った?
今…なんて言った?
「も…もう一回いってほしいお…ちょっと聞き取れ…」
「あのダム工事現場で殺人事件があっただろっ??!!」
今度は聞こえた。
はっきり聞こえた。
幻聴なんかじゃない。
明確に、怒鳴って圭一は聞いたんだ。
一番信頼している僕に
事 件 は あ っ た だ ろ ? と 『僕』 に 聞 い て い る ん だ … ! !
ゴクリと生唾を飲み込む。
思考回路がうまく制御できない。
何を答えればいいのかわからず、頭の中がごちゃごちゃになる。
その時、ふと古手梨花の言葉が鮮明に浮かび上がった。
『あなたは村の仲間たちと同じ…』
僕は口を開いた。