2 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:39:49.18 ID: /4uAvQe30

「おっおっおっwwwwww」

僕は夢中でエンターキーを押していた。
世界観に取り込まれてからは、食事も睡眠もとらずにひたすらページをめくっていた。

「ちょwwwwwww空気投げとかwwwwwwその前に魅音は空気嫁wwwwwwwwwww」

もうわかる人にはわかるだろう。
僕が今ハマっているのは大ヒットサウンドノベル「ひぐらしのなく頃に」だ。

パートスレが嫌いな僕はよく目に入ってくるそのスレタイがうざったくて、信者を煽ってやろうとそのスレを開いたんだ。
そしたら案の定。
ミイラ取りがミイラになるってのかな。
テンプレの公式サイトなどを巡ってるうちに、いつのまにか人差し指は体験版をDLするためのクリックをしていて
いつのまにか通販で「礼」まで注文していたというわけだ。

そして今は祭囃し編をやっている。
出題編の奇妙なもやもやが嘘のような展開に少し戸惑ったが、これはこれでいいと思ってる。

EDのそらのむこうが流れ、ついにひぐらしの世界は終わりを告げる。

「このやり終わった後のやるせなさは異常だお…」

やり終わったという疲労感がどっと押し寄せ、瞼がトロンとしてくる。
限界かなと思い、大きくのびをしてから椅子にもたれ回想する。

 

 

3 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:40:11.73 ID: /4uAvQe30

綿流しの「目」にはびびらされたなぁ・・・。思わず肛門から茶色い何かがはみだしちゃったし。
すじこで抜いたのもいい思い出だし。黒梨花を初めてみたあのぞくぞく感は異常だった。
グギャリオンもなかなかイカれててよかった。罪滅ぼしは思わず全僕が泣いた。
皆殺しのどうしようもなさ。祭囃しのあの爽快感。楽しかった。

「…でもやっぱり…」

僕が一番好きなのは、世界観をあらわす序章「鬼隠し編」だ。

みんなの必死な姿。全てをやり終えた後にやりなおしてみると、ものすごく悲しい話だとわかる。
どうしてああなってしまったのだろう。
もし僕があの世界にいたら何が出来るだろう。無理やり殴ってでも圭一の目を覚まさせるか
いや、それよりみんなが事件のことを話してしまえばいいのか
いやいや…

想像は止まらない。それこそ無限に可能性があるんではないかと思える。
そんな自分ワールドに浸っている時、扉越しに声が聞こえてきた。

「起きてる?」

かーちゃんだ。気配でも察知したのだろう。
だが僕は無言のままでいる。

「今日もツンちゃん来てるよ。たまには行ってあげたらどう?」
「うるさいお。」

 

 

4 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:40:26.13 ID: /4uAvQe30

たった一言。
それだけでかーちゃんはため息をついて、扉から離れた。

あまり言いたくないが、僕はいま不登校というやつだ。
理由は…それも言いたくないがあえて言おう。
友達に裏切られたから。
それこそ数え切れないほどの裏切りを受けた。
最初は軽いものだった。集合時間をわざと間違えて教えたり、これ三人用だからとか言われたり
日に日にエスカレートしていって、最後には僕の公言できない秘密をばらされた。

だから僕は誰も信用しない。
さっき家の前まで来たツンって女の子も、きっと自分がいい顔したいから僕を毎日誘っているだけなんだ。
学級委員長さんは偉いですねぇ。
けど僕は騙されない。利用されない。

その点では対照的な世界をつくってるひぐらしが僕は大好きだった。
仲間を信用して惨劇を打ち破る。鳥肌ものじゃないか。

だから、僕の境遇に似た鬼隠し編が一番好きだった。
僕ならあれをこうして、これをこうして・・・

いつの間にか睡魔に負けてしまった僕は、ひぐらしを起動したままその象徴の鳴き声を子守唄に夢の世界へと向かっていた。

 

 

6 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:42:27.52 ID: /4uAvQe30

( ^ω^)が条件の下、惨劇を打ち破るそうです。

 

 

 

 

 

「……?」

目を覚ました。
いや、覚ましてるのか?
ふわふわするような気持ちの悪い感覚。
あぁ、プールで力なく浮かんでる感じに近いな。
それでももう少し無重力感がある。

それに目の前に広がっている不思議な光景。
万華鏡の中に入ったようにきらきらする何かの中に僕はいるみたいだ。
まるで星空の中にいるみたいだ。

 

 

9 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:44:48.82 ID: /4uAvQe30

「…お?」

そのきらきらの一つが僕に近寄ってきた。
そっと手を差し出すと、手のひらに触れない程度に浮かんで輝き続けていた。

すると、突然頭の中に声が響いてきた。

「ようこそ、カケラ紡ぎへ。」

二重三重にしたような変な女の声が頭の中に響く。

「だ、誰だお!?」

どこにいるかもわからない相手に話しかけてみる。
会話も通じるか心配だったが、それは取り越し苦労だったみたいだ。

「あら、まだわからないの? くすくす…」
「そ、そそそその笑いかたは…!!?」
「わかったみたいね。そう、古手梨花よ。」
(たかのんだと思ったとは言えないお…)
「あなた、随分と鬼隠しのカケラを気にしてるみたいね。」

どこから見てたの? なぜ知ってるの?
そんなつっこみをいれることなく、僕は話を続ける。

11 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:45:30.33 ID: /4uAvQe30

「そうだお。なんか親近感があって一番好きな話なんだお。」
「ふぅん…」
「どうすれば惨劇を回避できたかも死ぬほど考えたお。」
「熱心ね…」
「僕が行って圭一を、レナを、魅音を助けてやりたいと思ったくらいだお。」
「そう」

唐突に古手梨花は切り出した。

「ならやってみる?」
「……え?」

「あなたが雛見沢へ行って、鬼隠しの惨劇を回避させてみないかって言ってるのよ。」

あまりにも現実離れしすぎて頭が回転しない
なに? 雛見沢へいける? 鬼隠しの世界へいける? 僕がストーリーに入れる?

「な、なんで…?」

僕が搾り出した声は思考とまったく関係してないことだった。
しかし、古手梨花の声はちゃんと答える。

「そうね。一人で積木をするより、二人でやるほうが盛り上がるし飽きないでしょ?」
「まぁわからないでも…」
「だからあなたにチャンスをあげる。一度だけよ?」
「たった一度でも光栄だお。 早くお願いするお!」

 

 

12 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:46:30.48 ID: /4uAvQe30

ここまで話していれば、僕の手のひらに浮かんでいるきらきらが何かはすぐに想定できた。
これは鬼隠しのカケラだ。間違いない
どうすればここに入れるのかそわそわしている僕を制するように声が入ってきた。

「くすくす…あわてないの。 もう少し話を聞きなさい。」
「お?」
「あなたは『祭囃し』の世界まで知ってるんでしょ?」
「今朝やり終えたばかりだお」
「つまり、鬼隠しのすべてを知っているわけなのよね?」
「うんまぁ、描写されてないところ以外は大体…」
「それじゃあつまらないと思うの。」
「?」

何が言いたいのかさっぱりわからない。
あるのかないのかわからない足場に地団太を踏みながら僕は古手梨花が続けるのを待つ。

「そうね、こうしましょう。」
「なんだお?」
「条件をつけるわ。あなたはその中で惨劇を回避して。」
「じょう…けん…?」
「普通にやったらつまらないもの。どうせあなたはすぐに圭一に真実を伝えるのでしょう?」
「おっ…」

 

 

13 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:47:31.17 ID: /4uAvQe30

たしかに、それが一番だと思ってる。そうすればすぐに何もかもが終わるじゃないか。
それじゃ駄目なの?

「その条件は…そうね…」

古手梨花は驚くべき条件を連ね始めた。

「まずあなたはL1の状態からスタートしてもらうわ。
ステータスは、圭一より半年ほど早く転校してきた普通の男の子ね。」
「わかったお。」
「それで…過去、未来のことを一つ話すたびに症候群のレベルをあげさせてもらうわ。」
「え?」

過去、未来…つまり、事件のことは話せない? これからのことも話せないのか?

「圭一を無理やり目覚めさせるのもダメよ。あくまで『気づかせ』ないとダメだからね。」
「それは過酷だお…」

「当たり前でしょ。
圭一はこのカケラがないと、仲間を信じること、ルールXを破る鍵を見つけられないのだもの。
用は罪滅ぼしの世界での圭一覚醒を前倒しにするってことよ。」

それで納得できた。
もしここで圭一に仲間を信じる大切さ、相談することの必要性を学ばなかったら皆殺し以降が成立しなくなる。
そうなれば、きっと最大の惨劇の回避はできない。

 

 

14 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:48:51.53 ID: /4uAvQe30

「わかったお。」
「あなたがいられる期間は『鬼隠し編』の時間だけよ。つまり15日間ね。」
「了解だお!」

「…う〜ん…まだパンチが足りないわね。」
「なんという刺激不足…。僕は間違いなく苦労する…。」

「その時点でのあなたの直接介入による事象の変換もなしにしましょう。」
「どういうことだお?」
「たとえば、鬼隠し初日。圭一は沙都子のトラップを紙一重でかわすでしょ?」
「墨汁のやつだおね。」
「そのことを知ってるあなたが、それを妨害したりしてはならない。
圭一はトラップを回避する、という事実を作らなきゃだめよ。
妨害して、その時点で起こるべき事実が成立しなかった場合は、症候群のレベルを1上げるわ。」
「すごい厳しいけど…頑張るお。」

「以上よ。頑張ってね。私はずっと傍で見てるから。」

手の平のカケラが一層光りを増したかと思うと、僕の意識は吹き飛んだ。

次に目が覚めた時、僕はセミの鳴き声に起こされたのだった。

 

15 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:50:28.42 ID: /4uAvQe30

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜鬼正し編〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「…?」

目覚めた時に違和感があった。
おかしいな。なんだか天井が高く感じる。

それに…あれ?
僕はパソコンをしたまま眠っちゃったんじゃなかったっけ?

上半身をむくりと起き上がらせる。
…どこだここ?

パソコンもフィギュアもゲームもない。
生活必需品と散らかった衣服などが部屋を構成していた。
自分の居場所を確認する。
どうやら僕は布団で眠ってたみたいだ。

知らない家。知らない空気。ありえないセミの鳴き声。
なんなんだ?

昨日のことを思い返してみる。

えっと…ゲームやってて眠くなって…それで…

それで…

「…あっ!!」

 

 

17 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:51:12.92 ID: /4uAvQe30

部屋のカーテンを開けて外を見る。
僕が住んでる町じゃない。ごみごみした風景がなくなっている。
でも僕はここを知っている。知らないわけがない!

「ひ…雛見沢だお…!!!」

一人感動の声を上げて、出てすぐに見つけた階段を駆け下りる。
リビングと思わしき所へ入り、母ちゃんを確認した。
全く変わらないいつもの母ちゃんだ。
もちろん、ボクの記憶に残ってる母ちゃんと比べてだが。

「ど、どうしたのブーン?」
「こ、ここここここはどこだお!?」

母ちゃんは目をまん丸にして、僕の額に手を当てた。

「大丈夫? 熱でもあるの?」

あぁ、まどっころしい。
その手をやさしく振りほどいて、僕は直接聞いてみた。

「ここは雛見沢だおね!?」

母ちゃんはあきれたように笑いながら鼻でため息をついて答えた。

「そうよ。半年も前に引っ越してきたんだからいい加減に覚えなさい。」
「おっおっおっwwwwwwwwww」

 

 

18 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:52:31.70 ID: /4uAvQe30

食卓に広げられている前の世界のものとはかけ離れた食事をすぐさまかっこむ。
ごちそうさまを言いながら、部屋に戻って壁にかかっていた制服に40秒で着替える。

「いってきますお!!」

母ちゃんのいってらっしゃいを玄関越しに聞き、僕は家を飛び出した。

凄い凄い!! 古手梨花は本当にかなえてくれたんだ!!
なんて澄んだ空気。なんて綺麗な風景。
ここが憧れてた雛見沢なんだ!!

「…あ…。」

家を出てからしばらく走って、僕はあることを忘れていた。とっても大事なことだ。

「が…学校の行き方がわからないお…」

どれだけひぐらしをやっていても、学校への細かな道のりなんか説明されていない。
モデルの白川郷の地図なんか地元の人でないと覚えていないだろう。
…どうしよう…。
田舎だけあって、人にまだ一度も出会っていない。
ここはどこなのかもわからない…。
家に帰ろうか?
…って…がむしゃらに走ったからどうやって来たのかもわからないや…
方向音痴はこれだから困る

と、悩んでいると僕の目はあるものを捉えた。

 

19 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:53:59.99 ID: /4uAvQe30

「あっ、あれは…!!!」

短い髪にカチューシャの少女と、パッツン+長髪の少女。
ここまでいえばわかる人にはわかるだろう。
いたずら盛りの下級生 (俺の嫁) 北条 沙都子。
癒しの神(俺の嫁) 古手 梨花だ。

「沙都子!! 梨花ちゃん!!」

僕の呼びかけにすぐ様反応する二人。
駆け寄ってみても変な反応なんかせず、普通に接してくれた。

「おはようございます、ブーンさん。 今日はお早いですわね。」
「ブーン、おはようなのです。」

やばい。頭が沸騰しそうだ。
二人に会えただけでも嬉しいのに、名前(本名は内藤ホライズンだが、あだ名でも十分だ)まで呼ばれたら鼻血出して倒れるくらいの自信はある。
だが実際はそんなことはなく。ただニヤニヤしてるだけで済んだ。
初対面だが初対面ではないので、ボロを出さないようなるべく二人に合わせて僕は学校へ向かった。

「今日は二日ぶりに圭一さんが帰ってきますから、とびっきりのトラップをおみまいしてさしあげましょうかしら。」

沙都子の不敵な笑みを見つつ、今日が「鬼隠し」初日だということを知る。
古手梨花の言ってたことに間違いはないみたいだ。

二人のおかげで学校へつき、教室へ入る。
さすがにまだ誰もいないみたいだ。

 

 

20 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:55:24.79 ID: /4uAvQe30

「をっほっほ!! さぁて、何を仕掛けましょうか。」

すると梨花ちゃんが黒板消しを持ってきて沙都子へこれをしかけたらどうかと相談し始めた。
なんだ、トラップってのは二人の相談によって出来ていたのか。
てっきり沙都子だけかと思ってたが・・・。

「ブーンさん、手伝ってくださいまし!」

はっ、と我に返り僕が二人に見とれていたことに気づく。
いやいや、ロリコンじゃないよ僕は。

「ブーンは黒板消しをお願いしますです。」

沙都子を見ると、すでに墨汁たっぷりのすずりをセットしていた。
この中では一番背の高い僕が引き戸に黒板消しをはさみ、梨花ちゃんは縄跳びのトラップを作っていた。

「さて…こんな感じですわね」

僕はちょっと間を置いてくすりと笑い、沙都子に提案してみた。

「取っ手に画鋲を貼り付けるのはどうだお?」
「それは名案ですわ!!」

そう提案するや否や、梨花ちゃんがもう画鋲とテープを持ってきていた。

 

 

21 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:57:15.23 ID: /4uAvQe30

「これで圭一もきっとびっくりしますです。」

にぱーと笑う梨花ちゃんをお持ち帰りしたくなるが、それはまずいのでさっさと画鋲のトラップの設置に回った。
圭一たちがくるのはたしか授業が始まる少し前だったかな。
ほかの生徒はどうするのかな、と思っていたら沙都子は他の生徒には窓から入ってくるように指示していた。
誰もためらわずに唯々諾々してるのが少し恐ろしく感じた。

しばらく経つと、大きめの三つの足音が廊下から響いてきた。
そして引き戸の前に立つと、会話を始めた。

「…ここで先頭を譲るとはな。お手並み拝見ってことかよ。」

男の子の声。
あぁ、来たんだ。ついに…!!

「ど、どうしたの…二人とも…?」

この可愛い声は…あの子だね

「下がってろレナ。危ないぞ。……ヤツだ!」
「えぇ…? じゃあ…沙都子ちゃんが…?」

少しの間があると、男の方はブツブツと何か言い始めた。

「…見え見えのワナだな。引き戸の上に挟んだ黒板消し。…見え見えだぜ!沙都子!」

僕の仕掛けた罠がこんなふうに話されるなんて、なぜだが嬉しい。
傍の沙都子が小さく笑った。

 

 

22 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 20:58:59.98 ID: /4uAvQe30

すると、扉越しの三人目の声が聞こえてきた。

「お見事、圭ちゃん!…こりゃあ今回は勝負あったかな?」

女の子にしてはちょっと低めのトーン。きっと彼女は空気が読めない。
その声に男は反論する。

「…いや、相手は沙都子だ。これだけとは思えない…!」

彼は冷静に分析を始めた。だが所詮KOOLだな。ふふふ…。

「見たところ、黒板消しは普通。石とかは入れてないみたいだな。」
「じゃあさじゃあさ、ガラガラって開けて落としちゃえばいいんじゃないかな…?」
「それだ!」

ここで彼はたぶん、僕の提案した罠を見つけたはず。
だが甘い甘い。沙都子をなめた時点でKOOLの負けだ!

「見事なコンボだ沙都子! だが所詮はガキの浅知恵だったな!」

とガラガラっと戸を開ける。
その顔を見ようとした途端に彼は頭をがくんと落下させた。

「圭ちゃん、避けて!!!」

空気読めない子こと、園崎魅音の叫びに反応し、すずりをかわす。
痛そうに腰をおさえながら彼、 口先の魔術師こと前原圭一は起き上がる。

 

 

23 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:00:16.44 ID: /4uAvQe30

「……いてて…てッ?!」

それから墨汁のたんまり入ったすずりを見てちょっとひきつった顔をした。
そんな顔を見て、沙都子は心底嬉しそうに僕の横をするりと抜けて圭一の前に立った。

「あらあらこれはこれは。おはようございます圭一さん。朝から賑やかですわねー!」
「一段とスペシャルなトラップワークになったじゃねえか、沙都子!」

沙都子がそれを煙にまくと、圭一はひねった腰をおさえて顔をしかめる
そこへ、梨花ちゃんが歩み寄る。
頭を撫でて、痛いの痛いの飛んでけー、か。

「僕の膨らんで痛い股間もなでなでしてほしいお…」

ぞくっと寒気がして振り返ると、レナが汚いものを見る目で僕を見ていた。
それはそれでゾクゾクしちゃうけどねっ☆

見えない拳が飛んできて、僕の視界が天井に向かう前にはレナは普段のレナに変わって挨拶していた。
それから圭一が梨花ちゃんにお礼と挨拶をして、沙都子を摘み上げて脅すと

「…ふ、ふわぁあぁあぁあ…ん! 悔しくなんかないもん! ふわぁあぁああん!」

再び梨花ちゃんの慰めが入って、そこに恍惚の表情を浮かべたレナが…

「…はぅ…」
「泣いてる沙都子…かぁいい…お、お持ちかえr」

僕がお持ち帰りモードになった瞬間に、鼻面に何かがぶつかり、血と共にまた視線が上を向く。
こ…これが竜宮レナのかぁいいモードか…。レナ…恐ろしい子…!!

 

 

25 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:02:06.00 ID: /4uAvQe30

その後のお持ち帰り云々の危険なレナの発言に便乗すると
今度は膝(と思ったら魅音によれば肘らしい)をくらって三度目のダウンをした僕だった。

それから先生がきて、授業が始まる。

どちらかといえば圭一達に年齢が近いので、三人と机をくっつけて勉強をする。

「圭一くんはお勉強教えるのうまいね。わかりやすいよ。」
「どうせ僕の頭じゃ人には教えられないお」
「そ、そんなことないよ。ほら、人には得意不得意があるじゃない?
 文系分野はたしかに圭一くんの方がわかりやすいけど、ブーンくんの理系分野はすごく楽しいよ!」

この何気ないフォローは欣喜雀躍してもよろしいくらいだな。
まぁ口先の魔術師のKに勝てる自身はないなぁ。

「でも物理は圭ちゃんの方がわかりやすいかな」

エアーブレイカーMION。レナのフォローを一言でぶち壊すその発言! そこに痺れないし憧れない。

それから受験云々の話になって、圭一がレナの独占家庭教師宣言をし頭からポンッと。
それを見てた魅音の口が 3 になってぶーぶー言ってるのを見計らって提案してみた。

「な、なら魅音は僕とプライベートレッスンしないかお!?」
「…ブーンと?」
「そうだお。
 朝はおはようから始まっていっぱい楽しくさせて笑わせて寝る時はおやすみって言って
 受験生としての殻を破るついでに膜もやブッ!?」
「ブーンくんが何の話してるかわからないな。あはは」

 

 

26 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:03:55.15 ID: /4uAvQe30

四度目のレナパン。机につっぷしてる間に授業は終わってしまいましたとさ。
というか誰か起こしてくれてもいいじゃん…。

目が覚めればランチタイムだった。
机をくっつけて食べるなんて感覚は小学校以来なので、新鮮な気分と懐かしい気分の両方が味わえて気分が良かった。
沙都子と戯れてる隙に僕は圭一のおかずをもりもり食っておいた。
うらむなら僕と同じ時代に生まれたことをうらんでくれ。

会食というのもここ数年はご無沙汰だった。
ちょっと慣れなかったけどみんなからしたら僕はずっと前からいるブーンという男の子なのでボロは出せない。
少しどもったり、口の中のものをカタパルトスローして圭一の顔面に惨劇を起こしてしまったりしたけど
笑って、怒られて、また笑って、それでおしまい。

本当に楽しい。 それ以外の言葉ではこの楽しさは表現できないと思う。

惨劇が起こるまでまだ時間はある。 だから今はもう少しだけ。 この幸せに浸っていても、罰はあたらないよね。

「……?」

顔を綻ばせてみんなと話している中で

梨花ちゃんだけ、僕を見る目が違っていた。

そう。
ですます口調の梨花ちゃんではなく
百年を旅する魔女、古手梨花としての目力がその大きな瞳に含まれていた。

 

 

27 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:05:10.62 ID: /4uAvQe30

家に帰り、冷静に、クールになって考えてみる。

昼の梨花ちゃんの視線で一気に現実に返された僕は、何ができるかを考えてみた。
いくらまだ何もおきなくとも時間はどんどん減っているんだ。
ただただ眺めているだけじゃダメだ。何かアクションを起こさないと…。
僕は記憶に残る『鬼隠し編』についての情報を整理する。

まず、圭一の疑心暗鬼の発端。
明日のピクニックの後のゴミ山散策。

そこで彼は富竹から話を聞く
だがレナは教えてくれない。

その翌日、週刊誌を拾う。
記事があったことにより確信をもった圭一だが、レナたちは依然そのことを隠し続ける。
それが不安で、寂しくて…話してくれないのが悔しくて…圭一は狂い始めるのか…。

つまりそこが引き金。

なら、するべきことは一つ。

撃鉄は起こす前にへし折ってやる…!!

まだひぐらしのなくオレンジ色の雛見沢へ、僕は再び駆け出した。

 

 

28 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:07:15.07 ID: /4uAvQe30

ゴミ山の位置なら既に地図で確認した。
学校に行くときもこうすれば良かったな、と苦笑いして元ダム工事現場に足を踏み入れる。

よかった、レナは居ないみたい。

異様に足場が悪いので、所々お留守の足元に何かがひかっかるが、なんとか散策は続けられる。
汗がじんわりと滲み出し、ほどよい疲労が襲ってきた頃に、僕はやっとお目当てのそれを発見した。

「…これ…かお…?」

タフロープで巻かれた週刊誌の山。
一応、中を確認する。
…これだ!
風化したページには雛見沢で起こったリンチについての記事が書かれていた。
僕はそれを再度束に戻して、ゴミ山の端っこの方へ埋めた。
周りにケンタくん人形はなかったから、ここではないはずだ。

「これで大丈夫…と…。」

記事の発見がなければ、圭一は富竹よりレナ達を信じるだろう。
それなら「仲間を信じる」という条件は満たされてるはずだから、きっと…。

その時
僕の身体がドクンと脈を打った。

…なんだ? 今の?

全身に一瞬痒みがはしるような、嫌な感覚。
わけがわからず、帰り道を歩いていると、小さな影が僕の前に立ちふさがった

 

 

29 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:09:36.36 ID: /4uAvQe30

夕焼けを背に立っていたのは、古手梨花だった。
梨花ちゃんではなく、古手梨花だ。
子供の癖に子供らしくない、大人びた顔つきを見れば、すぐにわかる。

「…感じた?」

古手梨花はニヤリと笑っていながら口を開いた。

「まだ何もされてないお。」

僕は薄々とわかっていながら、皮肉で返してみた。
だが古手梨花は構わず続ける。

「さっきの行為によりあなたは今、L2よ。 覚えておきなさい」

嫌な汗が頬をつたった。 やはり嘘やでまかせではないみたいだ。
そしてこの古手梨花は…僕のことを知っている。
あの異空間で会った古手梨花の記憶を持っているのか。

「…君と僕とは会ったことがあるかお?」

古手梨花はそれを耳にするとくすくすと笑った。
この笑声を生で聞くと、こんなにも恐ろしく、こんなにも人を不快に、不安にさせるとは思ってもいなかった。

 

 

30 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:11:28.43 ID: /4uAvQe30

「当然でしょう。 あなたは半年前にここへ来たのだもの。私とあなたは仲のいい友達って関係のはずよ?」

はぐらかす古手梨花を無視して僕はもういちど、確信に近い意味を含めて言ってみる。

「そうじゃないお。 雛見沢以外のどこかで会ったことはないかと聞いてるんだお。」

また、くすくす。

「そうね。 あなたを連れてくる際に会ったかしら。」

やはり、あの古手梨花なのか。

「なかなか優秀なことを考えたわね。 今の圭一はレナ達の方を信じている。
 だからこのまま、自分達を信じるようにすれば惨劇は回避できる…そう考えたのね。」
「何かおかしいかお?」
「別に。おかしくなんかないわ。 ただ、無駄骨にならなければいいわね。」
「―――…どういうことだお!?」

まるで僕のしたことの結末を知ってるかのように話す古手梨花に少し怒りがわいた。

「どうもこうもないわ。 ただ言葉そのままの意味よ。」

くるりと長い髪を翻し、古手梨花は足を進め始めた。
僕はその隣に慌ててかけよる。

「ま、待ってほしいお。」
「なに? もう話すことはないと思うけど?」
「今、きみの記憶はどこまであるんだお?」

異世界で僕と出会ったということは、つまり…

 

31 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:13:03.07 ID: /4uAvQe30

「あなた達のいう『祭囃し編』までの記憶ならあるわよ。 どうやらあなたと同じみたいね。」
「ならなぜきみは何もしないんだお!?」

そう、この世界の結末を知っているのなら動いたっておかしくはないはずだ。
なのになぜ動かない?
幸せな結末を手にしたら、もう抜け出せない迷路には興味ないのか?

「当然でしょう。 この世界の私はなにかしたかしら?」
「…あ…。」
「この世界の私は、惨劇の引き金がひかれた瞬間にもう興味を失っていた。」
「だから、この世界ではみんなの知る『梨花ちゃん』を演じなければならない。 わかる?」

つまり、古手梨花に助けを求めるのは不可能…か…
僕はがっくり膝を落として、その場に止まる。
もし今日の作戦が失敗したら、その後はどうしよう。
確信はなくても最悪の場合は考えておくべきだろう。
…なんせあの古手梨花が言ったんだ…。笑い飛ばすには重すぎる。

そんな僕の頭に、圭一や沙都子の頭を撫でるときと同じように、小さな手がのっかる。

「でも…」

 

 

32 名前: 1 ◆4A.yls8Ing Mail: 投稿日: 2007/08/29(水) 21:14:13.15 ID: /4uAvQe30

古手梨花は僕に光明を授けてくれた。

「ま、相談に乗るくらいはできるかもね…」
「え?」
「直接、この世界を改変する力は私は持ってない。してはならないことだからね。
 けど、あなたがこの世界を改変する手助けぐらいはしてあげるわ。 どう?」
「り、梨花ちゃん……!!」
「鼻水が汚いから抱きつかないで」

泣きっ面で放った抱きつきを緊急回避されて、田んぼにダイブする僕をみて梨花ちゃんはくすくす笑った。
つられて僕も笑った。

今はそのくすくす笑いがこの上なく頼もしく感じられた。

 

 

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