1 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:25:24.20 ID: M0BI5SzD0
5人の男女が食卓につき、
思い思いの量のレトルトスープをパンと一緒に食べていた。
ξ゚听)ξ「せっかくあんなに立派なキッチンがあるというのに、
なんだってあたしたちはこんなものを食べないといけないのかしら」
金髪の女が、不満そうにそう言った。
4人の視線が彼女に集まる。
(´・ω・`)「しょうがないよ、こんな状況なんだ。
ご飯が食べられるだけ幸運だと思わないと」
大柄な男がなだめるようにそう言うと、
金髪の女はそれで納得したのか、文句を続けようとはしなかった。
彼らの会話が弾むことはなく、
スプーンやバターナイフが食器と当たる音だけがカチャカチャと鳴っている。
やがて、痩せた男が口を開いた。
('A`)「これから僕たちは寝るわけだけれど、一人になるのはいかにも危険だ。
リビングルームで全員一緒に寝ることにしないか?」
そうだな、と大柄な男が賛意を示す。
しかし、5人全員が賛成したわけではなかった。
( ・∀・)「ふざけるな! 人殺しと一緒になんか寝られるか!
俺は自分の部屋に戻るんだからな!」
彼らは山荘に閉じ込められていた。
4 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:27:56.25 ID: M0BI5SzD0
『('A`)はライ麦畑でつかまえないようです』
僕が死のうと思ったのは、煙草がなくなったからだった。
僕は部屋を掃除していた。
僕のそれまで所属していた劇団が解散することになったからだ。
人はそれぞれ気分転換の方法が異なるが、
とても嫌なことがあって気分転換をしなければならない場合、
僕は決まって部屋の掃除をすることにしていた。
('A`)「綺麗な部屋は、再出発を考えるのにふさわしいんだ」
その気分転換の方法を馬鹿にされるたび、僕はそう言ってきた。
僕を女手ひとつで育ててくれたかーちゃんが死んだときもそうしたし、
先日、それまで恋人であったクーに別れを告げられたときも、
僕は自分の部屋を入居時の状態同然になるまで掃除した。
6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:30:05.23 ID: M0BI5SzD0
('A`)「絶望したときは、部屋をまっさらな状態にするべきだ。
リセットするんだよ。
頭の中もリセットし、また1からがんばるんだ」
そして、すべてをリセットするために、
僕はリセットされた部屋でゆっくりと煙草を1本吸うのである。
僕はこれまでそうやって数々の苦難を乗り越えてきたし、
これからもそうする筈だった。
フロアリングの床にワックスをほどこした僕は、大きくひとつ息を吐いた。
壁にかけられたジャケットの内ポケットを探り、
煙草の箱をそこから取り出す。
しかし、そこには1本の煙草も入っていなかった。
嫌いになるにはもう少しだった僕の人生に見切りをつけるには、
それは十分すぎる理由だったわけである。
8 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:32:27.44 ID: M0BI5SzD0
死のうと思った僕がまずやったのは、
部屋を整理して出たゴミを丁寧に分別して捨てに行くことだった。
('A`)「死ぬのは僕の勝手だけれど、
それで人に迷惑をかけるのはなんとなく嫌だ」
死に心地が悪いだろうな、と思ったのだ。
そんなものがあるかどうかは知らないけれど、
あった場合に困るのは、他ならぬ僕なのである。
何種類かのビニール袋にいらないものを放り入れながら、
電気と水道を止めてもらって今のうちに入金しておこう、と考えた。
家具も処分しておくべきである。
僕の生活は豊かなものとはいえないが、
それでも人が一人生きていけるだけのものは持っている。
何人かの友人に報告を入れる必要があるかもしれない。
死ぬのも意外と手間がかかるな、と僕は思った。
そして、唐突に思いついた。
('A`)「最後にドライブをしておこう」
僕は幼い頃から車のことが好きだった。
学生時代にアルバイトをして貯めた金でまずやったことは、
中古車の購入である。
そのとき買ったカローラにすっかり愛着をもっていて、
それから10年近く経った今でも僕はそれに乗っていた。
9 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:35:26.90 ID: M0BI5SzD0
知り合いの工場の隅を借りて、定期的に手入れをしているのが良いのだろう。
製造されてから15年ほど経っているにもかかわらず、
僕のカローラは、まったく故障する素振りを見せようとしない。
今日もカローラはご機嫌だった。
僕が奥まで入れてかき回してやると、彼女は嬉しそうに声を上げた。
僕は国道に出ると、道なりにひた走ることにした。
しばらく走ると海が見えてくる予定の道だ。
目的なしにドライブをするとき、僕は、
決まってこの道を通ることにしている。
僕は車が好きだけれど、車を改造するのが好きなわけではない。
構造を知り、手入れをし、
あとは好きな道をそれなりの速度で走ることができれば
僕はその他に1つのことしか望まない。
それは、音楽だ。
僕のカローラには、一人前にCDチェンジャーがついていた。
スピーカーも、まだ僕の恋人だったころのクーが
誕生日に買ってくれた、BOSE製の良品だ。
僕のカローラは美しい声色で僕に歌を聞かせてくれる。
やがて海沿いを走るようになると、
僕はアクセルを深く踏んで彼女と合唱した。
10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:39:28.21 ID: M0BI5SzD0
僕とカローラの合唱に割り込んでくるものがいた。
携帯電話だった。
僕の携帯電話は、機械特有の空気の読めなさで
僕たちの『傘拍子』に『ヒキコモリロリン』で割り込んできた。
('A`)「もうちょっとさ、曲調合わせるとかなんとかしろよな」
僕は、そうこぼしながらも携帯電話を手に取った。
着信元は、僕の元恋人で、
僕の所属していた劇団のマネージャー業みたいなことを
やっていたクーだった。
僕は高鳴りそうになる心臓を落ち着かせようと
大きくひとつ息を吐き、携帯電話の通話ボタンを押した。
川 ゚ -゚)「よかった。繋がった。
無視されたらどうしようかと思っていたよ」
今どこにいるんだ、とクーは訊いてきた。
僕は車を路肩に停めた。左手に海が見えている。
('A`)「海だ。僕は、海にいる」
川 ゚ -゚)「泳いでいるのか?」
('A`)「そうだね。最近の携帯電話は便利なもんで、
泳ぎながら話す機能もついている」
クーが小さく笑うのが携帯電話から伝わってくる。
何の用だ、と僕は訊いた。
13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:41:32.68 ID: M0BI5SzD0
仕事の話だ、とクーは言った。
川 ゚ -゚)「残念か?」
('A`)「残念だね。
ある感想ブログが大好きで、
それに取り上げられたくて短編をひとつこしらえたら
華麗にスルーされたときと同じくらい残念だ」
何の話だ、とクーは訊く。
こっちの話だ、と僕は答えた。
('A`)「で、仕事って?」
僕の記憶が正しければ
劇団はめでたく解散になった筈だけど、と僕は言った。
川 ゚ -゚)「劇団にではない」
('A`)「僕個人になのか?」
川 ゚ -゚)「それも正確ではないな」
元劇団員の何人かへの依頼だ、とクーは言う。
川 ゚ -゚)「君とモララー、ショボンにだ」
挙げられた名前の中にはひっかかるところがあるけれど、
3人選ぶとすれば妥当なところだな、と僕は思った。
15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:44:15.74 ID: M0BI5SzD0
('A`)「依頼主は?」
川 ゚ -゚)「VIPテレビだ」
なんだって、と僕は声を上げる。
('A`)「テレビに出られるのか?」
川 ゚ -゚)「もちろんだ」
これで出られなかったら驚くな、とクーは言った。
マジかよ、と僕は呟いた。
興奮によって体温が急上昇している。
車の窓を開けると入ってきた冷たい風は、僕の頬に心地良かった。
('A`)「でも、なんで僕たちが?」
思い出したように僕は訊く。
川 ゚ -゚)「なんでも、本格ミステリ風のコントのようなものを撮りたいらしい。
古典的なシチュエーションのものを大真面目にやることで、
逆に笑えるものを作りたいとのことだった」
知名度のない役者を使った方が
面白いと思ったのかもな、とクーは言った。
16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:47:07.08 ID: M0BI5SzD0
ひょっとしたら、プロデューサーか何かが
僕たちの劇団を見て気に入ってくれたのかもしれないな、と僕は思った。
人選が的確だったからだ。
道は閉ざされたわけではないのかもしれない。
('A`)「まだ死んでなくて良かった」
僕はそう呟いた。
川 ゚ -゚)「なんだって?」
('A`)「死ぬのは、意外と面倒なんだ。
面倒くささに乾杯だ」
川 ゚ -゚)「どういう意味だ?
何を言っているのかわからない」
僕もだ、と僕は言った。
クーは小さく笑っている。
川 ゚ -゚)「じゃ、受けるんだな?」
もちろんだ、と僕は答える。
ジャケットの内ポケットから煙草の箱を取り出した。
箱の中は、空だった。
21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:49:41.56 ID: M0BI5SzD0
普段着で行き着替えのようなものはもってくるな、
とのことだったので、僕はそれに従った。
携帯電話も持っていない。
何故か煙草も持ってくるなと言われたので、
僕は出発前にたっぷりと吸い溜めしておいた。
僕はカローラと合唱しながら、VIP山荘へ向かっている。
VIP山荘は、その名の通り山の中にある。
しかし、地図で見たところ、それほど人里離れてはいなかった。
吹雪になったとしても、隔離されはしないだろう。
('A`)「ま、どっちにしろ、この季節じゃまだ雪には早いけどな」
僕は曲の合間にそんなことを考えた。
国道を離れ、山道に入る。
しばらく走ったところで自動販売機が見えたので、
僕は急にコーラが飲みたくなって、停まることにした。
2台並んだ自動販売機の脇には、赤いビートルが停まっていた。
僕はその後ろにカローラを停め、
ハンドル脇の小銭入れからコーラ代を用意する。
顔を上げると、ドアのすぐ向こうに女の人が立っていた。
彼女はすらりと背が高く、黒のセーターが大きく前にせりだしていた。
ストレートの長髪は見事なブロンドで、おそらく外国人なのだろう。
黒ぶちの眼鏡の奥では緑色の瞳が僕を見つめている。
僕が車から出ると、彼女は声をかけてきた。
26 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:52:50.20 ID: M0BI5SzD0
ハハ ロ -ロ)ハ「Hi.」
彼女は綺麗な発音で僕に挨拶をした。
英語だ。
外国人は積極的だな、と僕は思った。
ハイ、と僕が返事をすると、彼女は早口で何かをまくしたててきた。
僕は小さく舌打ちし、ヘイ、とそれを遮った。
('A`)「Speak Japanese or more slowly.
You're in Japan.」
日本語で喋らないならゆっくり喋れ、ここは日本だ、と
僕は彼女に言ってやる。
彼女は小さく息を呑み、眼鏡の奥からすがるような目を向けてきた。
ハハ ロ -ロ)ハ「The key is in my locked car.
What shall I do ?
(鍵を車に閉じ込めちゃったの。
私、どうすれば良いのかわからないわ)」
('A`)「Call JAF. Do you have a cellphone ?
(JAF呼べよ。携帯持ってねーの?)」
ノー、と彼女は答えた。
すがるような視線はどこへやら、眉間に皺が寄っている。
ハハ ロ -ロ)ハ「But I do know JAF. Don't you have a cellphone ?
(でもJAFは知ってるわ。あんたこそ、携帯くらいもってないの?)」
28 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:55:15.53 ID: M0BI5SzD0
余裕がないからなのだろうが、彼女の態度は妙に刺々しかった。
それに伴い、僕の応対も刺々しいものになる。
ノー、アイ、ドント、と僕が突き放すように答えると、
オーウ、と彼女は両手で頭を抱えて天を仰いだ。
('A`)「そういうリアクションって、誇張表現じゃないんだな」
僕はそう思っただけだった。
がっくりと肩を落とした彼女をよそに、僕は自動販売機でコーラを買った。
やはりコーラは缶に限る。
ペットボトルは邪道なのであり、
僕はペットボトルでしかコーラを売らない種類のコンビニを憎悪している。
僕がカローラに戻ろうとすると、
外国人の女がドアを塞ぐように立っていた。
('A`)「Get out of my way.(どけよ、邪魔だ)」
ハハ ロ -ロ)ハ「Come on. Don't tease me.
Your mom must've told you to give a hand to the miserable.
(ねえ、いじわるしないでよ。
かわいそうな人は助けてやれってお母さんに言われなかった?)」
('A`)「She's gone.」
かーちゃんなら死んだよ、と僕は言った。
彼女を手で押しのけると、僕はカローラに乗り込んだ。
30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 16:57:12.45 ID: M0BI5SzD0
僕がカローラに挿入したところで、助手席側のドアが開き、
外国人の女が乗り込んできた。
('A`)「What fuck are you doing ?」
何乗ってんだ、と僕は彼女を睨みつける。
たくましいもので、彼女は僕に笑顔を見せてきた。
ハハ ロ -ロ)ハ「Would you mind bringing me to somewhere ?
(お願いよ。どこか乗せてって)」
僕は大きくひとつ息を吐いた。
コーラを開け、一口飲み、ドリンクホルダーに立てかける。
僕は面倒事が嫌いなのだ。
('A`)「Where is somewhere ?(お前さ、どこかってどこだよ)」
ハハ ロ -ロ)ハ「Hm, central city or somewhere with a phone at it.
(だから、街中とかさ、電話があるとこよ)」
('A`)「戻んのかよ」
面倒くせーな、と僕が呟くと、
オア、と彼女は言った。
ハハ ロ -ロ)ハ「Vip cottage, my goal.
(それか、VIP山荘ね。私、そこに向かってるの)」
お前もかよ、と僕は呟いた。同業者なのかもしれない。
34 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:00:23.96 ID: M0BI5SzD0
同じ仕事に関わる以上、
少しは親しくなっておいた方が何かと良いのかもしれない。
そう思った僕は、車を発進させながら彼女に話しかけることにした。
('A`)「I'm Dokuo, going to the cottage too.
(僕はドクオ。行き先は一緒だ)」
ハハ ロ -ロ)ハ「Wow. I'm Hallow. Let's come together.
(マジで。私はハロー、よろしくね)」
『私はおはようございます』と脳内変換された後、
そんなわけないな、と僕は考え直した。
('A`)「Your name is Hello ?(ヘローってあんたの名前?)」
ハハ ロ -ロ)ハ「Yeah, but not "HELLO," "HALLOW."
(そうよ、でもその発音だと『おはよう』になっちゃう。
私はハロー、HALLOWさん)」
('A`)「Halloween?(ハロウィンのハロー?)」
イエース、とハローは親指を立ててみせる。
一瞬、ぶん殴ってやりたくなった。
38 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:03:28.89 ID: M0BI5SzD0
僕のようなろくに異文化交流をしたことのない人間にとって、
外国人といえばアメリカ人に決まっている。
しかし、ハローは英国人だった。
ハハ ロ -ロ)ハ「I'm from England, Liverpool.」
ハローは僕にそう言った。
リバポー、と彼女の口から発せられるのを訊いた瞬間、
僕は脊髄反射で飛びついた。
('A`)「Steven Gerrard ?(ジェラードの?)」
ハハ ロ -ロ)ハ「Yeah ! Michael Owen !(そうそう、オーウェンの)」
このやりとりを境に、僕の彼女に対する印象はがらりと変わった。
オーウェンはもはやリバプールにいないけれど、そんなことはどうでも良い。
マージーサイドダービーってどんな雰囲気なの、と
僕のサッカーに関する情熱をぶつけると、
ハローは母国の誇りをもってそれに対応する。
僕たちの話は弾み、
ドリンクホルダーに立てかけられたコーラがなくなる頃には
すっかり旧知の仲のようになっていた。
42 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:06:39.41 ID: M0BI5SzD0
僕たちを乗せたカローラは、意外なほど山中深くまで進むことになった。
地図で見た限りではそれほど遠くないと思っていたのだが、
どうやら僕の思い違いだったようだ。
カローラは僕の好きなバンドの歌を歌っている。
帰国子女がボーカルで、主に彼が作詞を行うバンドだ。
彼の英語は帰国子女らしいフランクな文法で構成されていて、
歌詞を見れば、僕レベルの英語力でも容易に間違いが発見できる。
ハハ ロ -ロ)ハ「There's something wrong.
(歌詞、間違ってるわね)」
だから、ハローにそう言われたときも、僕はそれほど意外ではなかった。
僕のカローラはそのとき『おとぎ』を歌っていた。
その英語の歌詞の1部分を拾い、
ハローは得意げになって僕に文法的な誤りを指摘する。
ハハ ロ -ロ)ハ「They said "we've gave from birthday,"
which should be "we've given from birthday."
(たとえば"we've gave from birthday"って歌われてるけど、
ちゃんと書くなら"we've given from birthday"にしないとね)」
日本人であるせいか、僕には英語における文法的な誤りが
どの程度重要なものなのかわからない。
意味が通じるのだからそれで良いとも思えるし、
僕の母国語である日本語にしても『ら』抜き言葉が深く浸透している。
言葉はそれ自体が生きているものなのだ。
文法や語法などというものは、僕たちが勝手に考えているに過ぎない。
45 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:09:07.23 ID: M0BI5SzD0
('A`)「That's not wrong, exceptional.
(それは間違いとはいわない。破格っていうんだよ)」
僕はハローにそう言った。
マシンガンのような反論が襲いかかってくるかと思っていたのだが、
意外にもハローは僕に笑いかけてきただけだった。
ハハ ロ -ロ)ハ「That's right. I just tried teasing you.
(それで良いのよ。ちょっとからかってみたくなっただけ)」
ハローはそう言い、
その歌詞の狙いであろうポイントなどを色々と説明してくれた。
僕の英語は十分なものではないので、
ちょっと専門的な内容になっただけで単語がわからなくなってしまう。
ハハ ロ -ロ)ハ「You got it ?(わかった?)」
だから、ハローにそう訊かれたときも、
僕は曖昧に頷くことしかできなかった。
なんとなく気恥ずかしくなって、僕は話題を変えることにした。
('A`)「I thought foreign actresses had their secretaries with them.
(つーかさ、マネージャーとかって付いてくるもんじゃねーのかよ)」
ハハ ロ -ロ)ハ「Not necessary.」
別に決まってるわけじゃないし、と彼女は笑う。
僕たちを乗せたカローラはVIP山荘に到着した。
46 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:12:26.69 ID: M0BI5SzD0
山荘の入り口には、ショボンがぽつりと立っていた。
『VIP山荘』と書かれた看板に寄りかかるようにしてこちらを見ている。
僕は彼に近づくと、窓を開けて挨拶した。
('A`)「おう。何してんの?」
(´・ω・`)「おでむかえ。何、新しい彼女?」
ショボンは窓から覗き込むようにしてハローに小さく手を振った。
ハローも手を振ってそれに応じる。
そんなわけないだろ、と僕は言った。
('A`)「出演者なんじゃないの。
さっきそこで拾ったんだ。ここに行くって言っていた」
(´・ω・`)「外国人?」
('A`)「見ればわかるだろ」
(´・ω・`)「うん。
でも、山荘にはバリバリの巻き巻きの金髪なのに
ネイティブジャパニーズな女の子がいるからね」
ふーん、と僕は中途半端な声を出す。
ふと思いつき、煙草もってないかと僕はショボンに訊いてみた。
(´・ω・`)「持ってないよ。持ってくるなって言われたろ?」
だよね、と僕は呟いた。
48 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:15:26.47 ID: M0BI5SzD0
ショボンは断りなしにカローラの後部座席に乗り込んできた。
('A`)「何? どっか行くの?」
(´・ω・`)「うん、駐車場にね。
ここの駐車場には、駐車上の注意があるんだ」
ショボンはそう言い、小さく笑った。
僕からは苦笑いしかでてこない。
ハローが僕たちのやりとりを不思議そうに眺めていたが、
いちいち英訳したりはしなかった。
ショボンのナビゲートに従って駐車場に辿りつくと、
そこには見慣れないベンツが停まっていた。
つまり、僕たち劇団員ではない人物のものなのだろう。
(´・ω・`)「あのメルセデスから離して停めるんだ」
ショボンは後部座席から身を乗り出し、
Sクラスのベンツを指さしながらそう言った。
なんで、と僕は素朴な質問を口にする。
(´・ω・`)「爆発するからさ」
ショボンは当たり前のことのようにそう言った。
51 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:18:04.40 ID: M0BI5SzD0
爆発するんだ、と僕は呆けたような声を出した。
それを聞いたショボンは笑い、
車は爆発するもんだ、と格言を引用するような口ぶりで言った。
なになに、とハローが好奇心いっぱいの目を向けてくる。
('A`)「That car will explode.(あれ、爆発するんだって)」
僕はベンツを指さしながらそう言った。
ワーオ、とハローが少し興奮した声を出す。
それを聞き、ワーオ、とショボンが少し興奮した声を出した。
(´・ω・`)「英語だ、すげー。洋モノだ!」
('A`)「洋モノゆーな」
(´・ω・`)「いやー、僕はじめてだよ。
名前何ていうの? What's your name ?」
ショボンは身を乗り出してハローにそう訊いている。
やがて名前を聞き出したショボンは、
ハローね、ハローさん、と何度か呟いていた。
(´・ω・`)「I'm Shobone. Glad to meet you, Ms Hollow !
(僕はショボン、よろしくハローさん!)」
これであってるかな、とショボンは僕に訊いてきた。
たぶんね、と僕は返事する。
ハローはそのやりとりが少し気になっているようだった。
54 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:21:08.76 ID: M0BI5SzD0
('A`)「He said he's erecting.(こいつ、勃起しちゃったってさ)」
だから、僕はショボンを指さしてそう言った。
ワーオ、とハローがニヤ笑いを浮かべてショボンを横目に見る。
(;´・ω・`)「なに? え、なに?
ドクオ、君、何言ったのさ」
('A`)「うん。気に入ったみたいだったから、
代わりに告っといてやったよ」
(;´・ω・`)「それは嘘だろ。本当は何を言ったんだ」
僕はショボンの追求をはぐらかしながら、
空いているスペースの中で最も安全だと思われるところに駐車した。
車から降りても、ショボンはまだオタオタしている。
('A`)「英語、勉強しといた方が良かったな?」
僕はニヤつきながらそう言った。
ショボンは僕を睨みつけている。
('A`)「ヒントをやろう。彼女は今、お前のどこを見てるかな?」
ハローは、明らかにショボンの股間を見ていた。
(;´・ω・`)「お前、マジ何言ったんだ!」
僕とハローは顔を見合わせ、大いに笑った。
56 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:24:04.67 ID: M0BI5SzD0
無事にショボンの名誉を挽回した僕たちは、
VIP山荘へ向かう前に、爆発する予定のベンツを観察することにした。
('A`)「爆発ってさ、いつすんの?」
僕は窓から車内を覗き込みながらそう言った。
運転席の革張りのシートは何の変哲もなかったが、
このベンツには助手席がついていない。
(´・ω・`)「あれだよ。殺人事件が起こって一同騒然、
俺はここから出て行くぞパターンだ」
('A`)「ああ、キー回したら爆発、ってやつ?」
(´・ω・`)「そうそう。
だから、ここで死ぬのはこのメルセデスの持ち主ってことになるね」
誰かはまだわからないけど、とショボンは言った。
('A`)「そいつはどうやって脱出すんの?」
(´・ω・`)「助手席がないだろ。
よく見ると、底が扉になっている」
車内を指さし、ショボンは言った。
再び注意深く見てみると、わずかに取っ手のようなものが見えている。
(´・ω・`)「あの下には、マンホールのように穴が開いているんだってさ。
キーを回したら30秒後に爆発するから、
回した人は素早く穴を伝って逃げるように、とのことだった」
59 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:26:30.63 ID: M0BI5SzD0
山荘にはモララーとクーがいた。
僕の元友人と、元恋人だ。
挨拶をしてきたので、僕も彼らに挨拶を返した。
このツーショットを改めて目の当たりにしているにもかかわらず、
僕は意外と普通だった。
モララーが声を上げると、奥から女の人が出てきた。
バリバリの巻き巻きの金髪である。
僕は思わず隣のハローと見比べた。
ξ゚听)ξ「こんにちは。あなたがドクオさん?」
そうだ、と僕は頷く。
ξ゚听)ξ「Ms Hallow ?」
イエス、とハローは頷いた。
ξ゚听)ξ「あたしはツン。よろしくね。
じゃ、揃ったことだし、
これからやってもらうことを説明します」
僕たちはツンに促されるままソファに腰掛けた。
なかなか座り心地の良いソファだった。
61 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:29:18.56 ID: M0BI5SzD0
概要は話されてると思うけど、とツンは言った。
ξ゚听)ξ「これはテレビの収録です。
といっても、カメラマンはいません。
この山荘には至るところに隠しカメラが設置されていて、
それによって撮影が行われます」
( ・∀・)「ふーん。
でも、それじゃ、あまり撮影っぽくありませんね」
燃えないな、とモララーが言う。
そうですね、とツンは答えた。
ξ゚听)ξ「燃える必要はありません。
というか、あまり迫真の演技をされても困ります」
モララーが身を乗り出した。
なんでですか、とツンに訊く。
モララーはかなりやる気になっているようだった。
僕もそうである筈なのに、彼のやる気満々な様子をみると、
しおしおとやる気が萎えていくのが自分でわかる。
('A`)「ひょっとして、あなたも参加するんですか?」
僕が控えめにそう訊くと、
そうです、とツンは小さく頷いた。
ξ゚听)ξ「あたしとクーさんは役者ではありません。
演技力に差がありすぎると興ざめになるかもしれないのです」
63 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:32:27.13 ID: M0BI5SzD0
ちょっと待て、とクーが声を上げた。
川 ゚ -゚)「わたしも参加するのか?」
ξ゚听)ξ「そうですよ。そう説明しませんでしたっけ」
川 ゚ -゚)「わたしは、ここに同行しろとしか言われていない」
ξ゚听)ξ「では手違いですね」
あなたにも参加してもらいます、とツンは言った。
彼女の事務的な口調はクーの反論を許さない。
クーは何か言いたそうにしながらも口をつぐみ、
助けを求めるようにモララーを見た。
モララーは、クーの視線に構わず
部屋中を眺め回し隠しカメラを探している。
おそらく、自分の最も映えるアングルで振舞えるように、
位置を把握しておきたいのだろう。
やがてモララーを諦めると、クーは僕に視線を向けた。
僕はそれを受け止め、しかし何も言わずにソファに深く腰掛ける。
ξ゚听)ξ「クーさん、構いませんね?」
ツンはクーにそう言った。
クーは僕から目を逸らすと、力なく頷いた。
64 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:35:51.44 ID: M0BI5SzD0
(´・ω・`)「ミステリ的なものを撮るとのことでしたよね」
僕たちを包む気まずい空気を吹き飛ばそうと思ったのか、
ショボンが発言して話題を変えた。
そうですよ、とツンは頷く。
(´・ω・`)「つまり、僕たちは何人か殺され、
誰かが犯人になるというわけだ」
ショボンは全員の顔を見渡しながらそう言った。
モララーが思い出したように声を上げる。
( ・∀・)「探偵役もいるってことだ。
探偵役は、主役だ。
それは誰がやるんですか?」
もちろん俺でしょ、といわんばかりの口調でモララーはそう言った。
モララーが期待一杯にツンを見ていると、ツンは首を横に振る。
ξ゚听)ξ「探偵役はこの後来ます。
主役は彼で、あなたたちは流れにまかせて動いてもらいます」
なんだよ、とモララーは足を放るようにしてソファに身を沈めた。
(´・ω・`)「流れにまかせて、とはどういう意味なのでしょう」
ショボンはツンにそう訊いた。
65 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:39:07.96 ID: M0BI5SzD0
ξ゚听)ξ「そのままの意味です。
あなたたちに台本はありません。
役作りのようなものも、あなたたちに任せます」
(´・ω・`)「それは、無責任ではありませんか」
ξ゚听)ξ「そうは思いませんね。
そのために、
あなたたちのような経験豊富な劇団員を選んだのですから」
ツンは突き放すような口調でそう言った。
言いたいことは山ほどあるだろうが、ショボンはそれきり口を開かない。
僕はショボンの代わりに質問をすることにした。
('A`)「じゃあ、どうやってストーリーは進んでいくんだ?」
ξ゚听)ξ「それはもちろん、人の死によってです」
ミステリですから、とツンが言う。
僕たちはそれぞれ曖昧に頷いた。
なんとなく理解はできるけれど、
こんな説明で納得できる人間はこの世にいない。
('A`)「それは、誰に殺されるのかな」
ξ゚听)ξ「それも流れで決まります。
探偵が推理して、犯人だと思った人が犯人です」
ミステリですから、とツンは言った。
68 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:41:28.68 ID: M0BI5SzD0
( ・∀・)「なんだよ、
テレビってのはこんなにいい加減なもんなのかよ」
どっちらけだな、とモララーが毒づいた。
ツンはモララーに構わない。
ξ゚听)ξ「探偵役は、内藤ホライゾンです」
ツンは僕たちにそう言った。
ほう、と僕の口から声が漏れる。
内藤ホライゾンは知名度のある俳優だ。
('A`)「『名探偵ブーン』の?」
ξ゚听)ξ「そうです」
ふーん、と僕は曖昧な声を出した。
様々な感想が生まれているのだけれど、
それらはうまく言葉にならない。
(´・ω・`)「『名探偵ブーン』シリーズは打ち切られましたよね?」
ショボンは訊きにくいことをあっさり訊いた。
72 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:43:21.25 ID: M0BI5SzD0
そうですね、とツンは簡単に頷いた。
ξ゚听)ξ「『名探偵ブーン』シリーズは打ち切られました。
視聴率の低下が原因です」
( ・∀・)「本格ミステリなんて、今日び流行りませんからね」
ツンはわずかに感情のこもった目でモララーを睨みつけた。
ξ゚听)ξ「そうですね。だから、今回は特別編のようなものです。
本格ミステリは古い題材ですが、
その古い題材をネタにすることはできます」
あまり趣味の良い話ではないな、と僕は思った。
ツンの説明はあらかた終わったようで、
僕たちはそのまま内藤ホライゾンの到着を待つことになった。
ツンはハローと英語で話しあっている。
今の説明をやり直しているのだろう。
ツンの英語は、僕のなんちゃってイングリッシュとは
比べ物にならないほど流暢で、
僕は近くに座っていながらほとんど聞き取ることができなかった。
途切れ途切れにしか聞き取れない英語の中で
僕の興味をそそったのは、"RADWIMPS"という単語だった。
彼女たちの話はそれなりに盛り上がっているようで、
ツンも彼らが好きなのかな、と僕は少し親しみを感じた。
73 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:46:32.15 ID: M0BI5SzD0
僕はツンに断り、キッチンに入った。
コーヒーを飲みたかったのだ。
VIP山荘のキッチンには、豆挽きのコーヒーメーカーが備え付けられていた。
コーヒーメーカーには電動ミルが付属している。
それとは別に、レトロな手動ミルが脇に置かれていた。
僕は手動ミルとコーヒー豆を手に取ると、
椅子のひとつに腰掛けてコーヒー豆を挽くことにした。
様々なことをぼんやり考えながらハンドルを回していると、
キッチンにクーが入ってきた。
川 ゚ -゚)「座っても良いかな」
自分から声をかけない僕にそう言って、
クーは僕の傍に腰掛けた。
('A`)「そういうのは、普通、返事がくるまで待つもんだ」
そうだな、とクーは言った。
僕は豆挽き作業に集中する。
やがて豆を挽き終わると、僕はコーヒーメーカーにフィルタをセットし、
その上に挽いた豆ををばらまいた。
ミネラルウォーターを求めて冷蔵庫を開けると、
そこには飲み物以外何もはいっていなかった。
75 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:48:12.76 ID: M0BI5SzD0
('A`)「不自然だろ」
僕はそう呟いた。
クーはその呟きを聞きつけたのか、
椅子に座ったまま身をねじって僕の方に向いてきた。
川 ゚ -゚)「いや、自然だろう。
山荘モノでは立派なキッチンでレトルトスープというのが定番だ」
確かにそうだな、と僕は頷いた。
('A`)「に、してもさ。別にあっても良い筈だ」
僕はコーヒーメーカーにミネラルウォーターを注ぎ込んだ。
お前も飲むかと訊いたら飲むと返ってきたので、
僕はコーヒーカップを2つ食器棚から持ってきた。
僕たちは1つのテーブルにつき、
お互い黙々とコーヒーカップを口に運んでいる。
おそらくクーは、僕が彼女を助けなかったことに対する
文句でも言いに来たのだろう。
しかし、クーは、自分からそのような話をはじめられない種類の人間だ。
僕がクーの恋人であったならば、
うまく彼女の不満を吐き出させてやったことだろう。
実際はそうでないので、僕はそうしようとしなかった。
76 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:51:43.15 ID: M0BI5SzD0
しばらく時間が経った後、
どうすれば良いんだ、とクーは言葉を吐き出した。
何が、と僕は訊き返す。
川 ゚ -゚)「わたしは演技なんかできないよ。
しかし、収録には参加しなければならない。
どうすれば良いのかわからない」
僕は大きくひとつ息を吐いた。
ひとたび余計なことを言い始めたら、
きっと僕は止まらなくなってしまうことだろう。
('A`)「じゃあ、さっさと死ねば良い」
だから、僕はシンプルにそう言った。
川 ゚ -゚)「なんだって?」
('A`)「ああ、別に喧嘩を売ってるわけじゃない。
お話的に、ってことだよ。
ストーリーは僕たちの行動で変わるみたいだし、
さっさとフェードアウトしてしまえば良いだろ」
なるほど、とクーは頷いた。
川 ゚ -゚)「でも、どうやって?」
78 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:54:14.67 ID: M0BI5SzD0
('A`)「この話には、僕たちの予想できないことが多すぎる」
僕はクーにそう言った。
クーは真剣に僕の話を聞いている。
それは僕にとって快感で、
きっとまだこの女が好きなんだろうな、と僕は少し苦笑した。
('A`)「殺害方法もわからない以上、
僕たちにストーリーを先回りした行動を取ることは現状不可能だ」
川 ゚ -゚)「そんなことは、わたしにもわかる。
どうすればわたしは死ねるのだ?」
('A`)「ひとつだけ、明らかになっている殺害方法がある」
僕がクーにそう言うと、車か、と彼女は呟いた。
('A`)「そうだよ、爆発するベンツだ。
最初の殺人がいつ、どのように起こるかはわからないが、
2番目の殺人はわかる」
あの車だ、と僕は言った。
クーは小さく頷いた。
('A`)「ストーリーを流れで決める以上、
どの役割になるかは早い者勝ちだ。
お前はあの車の持ち主になり、キーを回して死ねば良い」
81 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:57:00.23 ID: M0BI5SzD0
大きくひとつ息を吐いた後コーヒーを飲み干し、
ありがとう、とクーは言った。
川 ゚ -゚)「なるべく早く死ぬようにするよ」
('A`)「そうしろ。車に乗った後どうすれば良いのか知ってるか?」
知っている、とクーは答えた。
お節介だったかな、と僕は小さく苦笑する。
コーヒーを飲み終えた僕たちがリビングルームに戻ると、
ドアの前にツンが立っていた。
僕はひどく驚いた。
ξ゚听)ξ「今、呼びに行くところでした。
もうじき内藤ホライゾンが到着します」
ツンは僕たちにそう言った。
リビングルームには全員が揃っている。
ツンは5人を見渡すと、大きくひとつ息を吐いた。
ξ゚听)ξ「内藤ホライゾンが入ると共に撮影は開始します。
NGなどによる撮影の中断はありません。
すべてはあなたたちにかかっています。
良いものを撮りましょう」
ではよろしくお願いします、とツンは早口でまくしたてる。
心なしか、皆の表情に緊張のようなものが生じている。
山荘の扉が開かれた。
84 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 17:59:19.64 ID: M0BI5SzD0
内藤ホライゾンは、探偵帽を頭に被り口にパイプを咥える
ステレオタイプな格好をしていた。
ホームズを意識しているのだろうが、
そのコートは明らかにコロンボを模したもので、整合性が取れていない。
それが『名探偵ブーン』の服装だった。
( ^ω^)「いやーまいった。外はひどい吹雪ですお。
すみませんが、しばらくここにいさせてもらえませんかお?」
僕は反射的に窓の外に目をやった。
相変わらず、雪さえ降っていない。
そもそも、この季節に吹雪になることなどありえないのだ。
そのまま誰も反応できずにいると、ツンが飛び出すように口を開いた。
ξ゚听)ξ「ブーン! あんた、こんなところで何してんのよ」
( ^ω^)「ツンかお。いや、僕はただ散歩をしていただけで、
吹雪いてきたから避難したんだお」
ξ゚听)ξ「なにそれ、馬鹿じゃないの。
もう、しょうがないから天候が安定するまでここにいなさい。
この人たちはあたしの友達だから、
失礼したら承知しないわよ」
内藤ホライゾンは僕たちをぐるりと見渡すと、
よろしくお願いしますお、とおじぎをした。
88 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:01:21.09 ID: M0BI5SzD0
僕たちは戸惑いながらも内藤ホライゾンに挨拶を返した。
山荘の中は暖房が効いていて十分温かいにもかかわらず、
彼はコロンボ風のコートを脱ごうとしない。
ホームズ風の帽子も脱がず、左手にパイプをくゆらせている。
('A`)「煙草が吸いたいな」
パイプを吸う内藤ホライゾンを見、僕は思った。
右手が無意識にジャケットの内ポケットへと伸びるかけるが、
そこに何も入っていないことはわかりきっている。
大きくひとつ息を吐くと、内藤ホライゾンと目が合った。
彼は僕に歩み寄り、右手を出して握手を求めてきた。
('A`)「よろしく。ドクオです」
僕はそう言い、内藤ホライゾンの手を握った。
彼の手はふっくらと温かい。
内藤ホライゾンは僕の目を見ながら、にっこりと微笑んだ。
( ^ω^)「ドクオさんは、バイニンですお?」
('A`)「は?」
91 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:03:32.39 ID: M0BI5SzD0
この男は何を言っているんだ。
僕はまずそう思った。
続いて『バイニン』が『売人』へと脳内変換される。
('A`)「僕は、麻薬に関わったことなんかない」
僕は単純にそう思った。
違う、と否定しようとしていると、
内藤ホライゾン越しにツンが僕を睨みつけているのに気がついた。
ξ゚听)ξ「あんた、わかってんでしょうね」
彼女の目は僕にそう言っている。
これは本格ミステリだったな、と僕は思い出した。
内藤ホライゾンは、なかなか返事をしない僕を
不思議そうに見つめている。
ひょっとしたら、返事をするまで、僕は手を離してもらえないのかもしれない。
('A`)「……そうですよ。しかし、何故それを?」
僕がそう訊くと、内藤ホライゾンは満足そうに大きく頷き、
僕の手首を掴んで右手を開かせた。
( ^ω^)「この中指の麻雀ダコ、そして指輪。
それほど難しい推理ではありませんお」
そっちのバイニンかよ、と僕は思った。
麻雀放浪記的な発想だ。
93 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:06:16.06 ID: M0BI5SzD0
確かに僕の中指には麻雀ダコができている。
真面目な学生たちの中指に作られているべき場所から
1センチほど回り込むと、麻雀ダコに到達する。
そして、僕の中指には指輪が光っている。
この指輪を買った当時、僕はまだ麻雀狂いで、
麻雀小説で指輪を嵌めたイカサマ職人の話を読んでいたので
本当に可能なのかと買ってみたのだ。
結果は悲惨なものだった。
麻雀牌は僕の予想以上に重く、またツルツルとしていて、
とてもじゃないが挟んで持ち上げたりはできなかった。
その後僕は演劇と出会い、麻雀からは足を洗うわけだけれど、
まさかこのような取り上げられ方をするとは思わなかった。
僕の設定は、プロの麻雀打ちというわけだ。
僕の雀力はプロレベルには程遠いものだけれど、
どちらかというと演じやすいものであるように思われた。
ハローなんか、日本語が喋れないのに通訳にされてしまったのだ。
('A`)「しかし、めちゃくちゃだな」
そう呟くと、僕はまた煙草が吸いたくなった。
ショボンと握手を交わした内藤ホライゾンが、改めて名を訊かれている。
( ^ω^)「僕はブーン。探偵ですお!」
彼はそう言っていた。
95 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:08:11.85 ID: M0BI5SzD0
部屋割りを決めよう、という話になった。
(´・ω・`)「吹雪は当分止みそうにないからね。
僕たちは、何日間かここに留まることになるかもしれない。
夜になってからゴタゴタするよりも、
今のうちに決めておいた方が良いんじゃないかな」
ショボンがそんなことを言ったからだ。
当然、僕たちの中に反対する者はいなかった。
どこからか、ツンが山荘の見取り図のようなものを持ってきた。
ξ゚听)ξ「部屋は人数分あるわ。
本来あんたみたいなやつに部屋を貸す筋合いはないんだから、
皆の寛大さに感謝しなさいよね」
ツンは内藤ホライゾンを睨み、そう言った。
部屋の数は7つで、ちょうど人数分ということになる。
( ・∀・)「1部屋だけ、少し離れたところにあるんだな」
見取り図を覗き込んだモララーはそう言った。
そうね、とツンが頷く。
その瞬間、この部屋に入った者が1人目の被害者になるな、と僕は感じた。
ξ゚听)ξ「うーん、どうやって決めよっか」
希望ある人いる、とツンが皆を見回しながら訊く。
声を上げる者はいなかった。
97 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:10:34.88 ID: M0BI5SzD0
僕は素早くクーの表情を伺った。
彼女は部屋割りの重要性に気づいていないのか、
手持ち無沙汰に窓の外を眺めている。
('A`)「変な知恵をつけさせるんじゃなかったかな」
僕は小さく舌打ちをした。
クーの頭の中には、いかに車で死ぬ展開にもっていこうかと
いうことしかなくなってしまっているのだろう。
クーは僕の視線に気づかない。
声を上げて知らせるわけにもいかず、僕は歯がゆい思いをした。
(´・ω・`)「じゃ、早い者勝ちで良いんじゃないかな。
部屋の設備に違いはあるの?」
ないわ、とツンが答える。
モララーが素早く見取り図を指さした。
( ・∀・)「それなら俺はここにしよう。
なかなか眺めが良さそうだ」
その指の先にあるのは、離れた部屋ではなかった。
それを皮切りに、次々と泊まる部屋が決められていく。
僕は祈るような気持ちで成り行きを見守ったが、
離れた部屋を選択したのはハローだった。
99 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:12:35.56 ID: M0BI5SzD0
見取り図では通路を一本隔てた程度の離れ方だったのだが、
実際見てみると、ハローの部屋は
僕たちの部屋からずいぶんと遠いところに位置していた。
ハハ ロ -ロ)ハ「See you later, Dokuo.」
じゃあまたね、と別れ際にハローは言った。
自分が1人目の被害者になるであろうことに気づいていないのか、
彼女の足取りや口調に動揺は見られない。
僕は彼女に小さく手を振った。
殺されるタイミングによっては、
僕は二度と彼女の顔を見られなくなるかもしれない。
それは少し寂しいな、と僕は思った。
僕は自分にあてがわれた部屋に入ると、
ベッドに腰掛け、大きくひとつ息を吐いた。
そして、再び煙草が吸いたくなった。
クーのことを思い出したからだ。
じゃあまたな、と僕はあの時も言われたのだ。
('A`)「クーに言われたのは日本語だったけどな」
僕の部屋の窓からは、駐車場が見えていた。
101 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:14:12.52 ID: M0BI5SzD0
モララーは才能に溢れる独善的な人間だった。
モララーにとっての演劇は、自分の才能を誇示し、目立つためのものである。
そのため、自分が主役でなければ
著しくモチベーションが下がるという欠点が彼にはあった。
僕は再三その欠点を直せと彼に言った。
しかし、そのすべては徒労に終わった。
僕たちの劇団を成り立たせていたものは僕とモララー、ショボンの力量であり、
その内2人が仲違いした以上、劇団の解散は必然的なものだったのだろう。
僕たちの仲違いの直接的な原因は、クーを巡っての三角関係にあった。
モララーはとても頭が良く、また、
欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れようとする種類の人間である。
そんなモララーにクーを狙われた時点で、
僕たちの別れは、劇団の解散と同様、必然的なものとなったのかもしれない。
巧妙な情報操作によって、僕は浮気の事実を作り上げられた。
そのことについて僕がクーに弁明することはなく、
ほどなく僕は、クーに別れを告げられることとなる。
川 ゚ -゚)「何か言ったらどうなんだ。
それとも、何も言えないだけなのか?」
クーに詰め寄られた僕は、しかし何も言わなかった。
面倒くさくなってしまったのだ。
何を言っても無駄な気がしたし、何かを言う自分というものを想像すると、
それはとても間抜けなように思われた。
103 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:16:17.73 ID: M0BI5SzD0
クーと別れた僕は部屋を掃除し、
リセットされた部屋で煙草を一本ゆっくりと吸った。
不思議なことに、そのとき
クーに対する怒りやモララーに対する憤りはほとんど生じはしなかった。
稽古や舞台で顔を合わせる頻度は変わらなかったが、
僕が自分からクーに話しかけることはなくなった。
ある日、本屋で立ち読みをしていると、背後から声をかけられた。
振り向くと、そこにはクーが立っていた。
読んでいたハードカバーを棚に戻し、僕は彼女に挨拶をした。
川 ゚ -゚)「ずっとドクオに謝りたかった」
クーは僕にそう言った。
周りの人が、何事かと僕たちに注目する。
本屋を出るよう彼女を促し、
僕たちは街を歩きながら話すことにした。
クーは本屋の向かいに建っているコーヒーショップに入ろうと
言ったのだが、僕はそれを断った。
断ってから気づいたのだけれど、
僕がクーからの申し出を断ったのは、これがはじめてのことだった。
105 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:18:46.52 ID: M0BI5SzD0
君の浮気はわたしの誤解だった、とクーは僕に謝った。
川 ゚ -゚)「申し訳ない。今思えば、わたしは軽率な行動をとってしまった」
僕は何も言わずに頷くと、クーと並んでしばらく歩いた。
やがて公園が見えてきた。
そこには人の姿が見当たらなかったため、僕はベンチに座ることにした。
僕は胸ポケットから煙草の箱をライターと一緒に取り出すと、
1本の煙草を咥えて丁寧に火をつけた。
肺を煙草の煙で満たし、僕は大きくひとつ息を吐いた。
クーは、何も言わない僕を、立ったままで見つめている。
('A`)「なんだよ。僕は別に怒ってないぜ」
僕は少し笑ってそう言った。
それにつられたのか、クーの口の端がわずかに歪む。
とても笑顔とは言えない表情で、クーはかすかに首を振った。
川 ゚ -゚)「わたしは今、どうすれば良いのかわからないんだ」
なんでだよ、と僕は言った。
('A`)「お前は、お前の好きにすれば良いじゃあないか」
110 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:20:57.72 ID: M0BI5SzD0
クーは大きくひとつ息を吐き、その場に座り込んで僕を見上げた。
川 ゚ -゚)「それならこう言い換えよう。
わたしは今、自分がどうしたいのかがわからない。
様々な選択肢がわたしの前に転がっているのはわかっているが、
そのどれを選んでも後悔する気がするんだ」
なるほどね、と僕は頷く。
('A`)「でもさ、そういう相談を当事者である僕にするのは、
ちょっとズルいんじゃあないか?」
ズボンのベルト留めに引っ掛けている携帯灰皿で
煙草の火をもみ消しながら、僕はクーにそう言った。
そうかもしれない、とクーは小さく笑った。
川 ゚ -゚)「しかし、わたしは元々ズルいんだ。
だからこの相談は取り下げないよ。
わたしはどうするべきだと思う?」
('A`)「そうだな。もちろん僕は、
クーは今すぐこの胸に飛び込んでくるべきだと思っている。
でも、クーがそういうことをできない人間だということもわかっているよ」
それは答えになってない、とクーは首を横に振る。
そうだね、と僕は言った。
114 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:23:10.82 ID: M0BI5SzD0
('A`)「結局のところ、なるようにしかならないんじゃあないかな。
そのときの気分次第で決めてしまえば良いんだと思う。
僕はその選択に文句をつけることはしないよ」
つもりとしてはね、と僕は言った。
川 ゚ -゚)「このような相談にそういう答え方をするのは、
とてもズルいとわたしは思う」
('A`)「うん。僕は、元々ズルいんだ」
僕はそう言い、小さく笑った。
おそらく僕は、このとき強引にクーを抱きしめてやれば良かったのだろう。
彼女も、少なくとも心の一部では、そのような展開を期待していた筈である。
しかし、僕はそうした行動を取れない種類の人間だった。
そのことは僕が一番良く知っている。
そのことを二番目に良く知っているのかもしれないクーは、
大きくひとつ息を吐き、立ち上がって尻に付着した砂を払った。
川 ゚ -゚)「わたしたちは似ているな。
取るべき行動を知っていて、それでも思うように取ることができない。
がむしゃらというのが苦手なんだな」
そうかもしれない、と僕は目を閉じ頷いた。
117 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:25:07.26 ID: M0BI5SzD0
もう行くよ、とクーは言った。
僕はそれに頷いた。
('A`)「決めたら、教えてくれ」
川 ゚ -゚)「わかった」
行きかけるクーを、しかし僕は呼び止めた。
('A`)「やっぱり言い直そう。
僕のところに戻ってくることがあるのなら、そのときは僕に教えてくれ」
クーは苦笑いを浮かべ、小さく頷いた。
再び彼女は歩きだし、思い出したようにこちらに振り向く。
川 ゚ -゚)「ドクオはそれで満足なのか?」
どうだろう、と僕は肩をすくめる。
('A`)「僕はクーのことが好きだから、
きっと、何をされても嫌いにはなれない。
だから、クーは好きにすれば良いんだ。
僕にとって何が悲劇かというと、それは、
クーが自分の意志以外の理由で僕の傍にいることだ」
僕たちは、そのまましばらく見つめ合っていた。
やがてクーは諦めたように小さく笑みを浮かべると、
じゃあまたな、と僕に言った。
クーが去った後も僕はベンチに腰掛け、そこで何本かの煙草を吸った。
119 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:27:02.61 ID: M0BI5SzD0
僕の部屋の窓からは、駐車場が見えている。
僕を現実に引き戻したのは女の人の悲鳴だった。
僕には聞き覚えのない種類の声だった。
つまり、クーのものではない。
英語圏の人の発するものには聞こえなかったので、
ハローのものでもないのだろう。
ツンのものということだ。僕は最初の殺人を予感した。
部屋から出て辺りを伺うと、僕の他全員が既に廊下に集まっていた。
ツンが地べたに座り込んでいる。
(´・ω・`)「どうしたんだ?」
ショボンが声をかけるが、ツンは小刻みに震えるばかりで答えられない。
彼女にできるのは指さすことくらいで、その先には、
ずいぶん離れたところにハローの部屋に通じるドアが開かれていた。
あまりに離れているので、その中の様子は僕たちにはわからない。
( ・∀・)「……いや、遠いよ」
モララーが呟くようにそう言った。
ツンはモララーを睨みつける。
ξ#゚听)ξ「一回あそこで悲鳴をあげたんだけど、
誰も出てきてくれなかったのよ」
ま、遠いからな、とドアを眺めながら僕は思った。
121 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:30:11.20 ID: M0BI5SzD0
やり直そうか、という話になった。
あまりに間抜けな場面になってしまったからである。
撮影の中断はないと言っていたけれど、
放送時に編集することは可能なはずだ。
ツンをドアの前まで移動させ、
僕たちはそれぞれの部屋の前あたりまで戻ることにした。
やがてツンの悲鳴が上がる。
さっき現場に出てきた順番で、僕たちはツンのところへ顔を出した。
僕は当然最後となる。
僕が人の輪に加わると、
厳しい表情でこちらを見ている内藤ホライゾンと目が合った。
床に座り込んでいるツンに、ショボンがやさしく声をかける。
(´・ω・`)「どうしたんだ?」
ξ゚听)ξ「あれ……あれ……」
ツンは小さく震えながら、部屋の中を指さしている。
ハローの部屋に目をやると、
ぶちまけられた赤色の中に、人のようなものが横たわっていた。
124 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:31:37.88 ID: M0BI5SzD0
悲鳴要員が足りないな、と僕は思った。
僕たち6人の中に女は、ツンとクーだけである。
ツンは第一発見者となっているし、
クーはこういう場面に直面したとき息を呑む種類の人間だ。
ここは女性の悲鳴で事件を盛り上げるべき場面なのだけれど、
人選がなっていない。
僕がショボンの顔色を伺うと、彼は僕と目が合い小さく苦笑した。
( ^ω^)「全員動かないでくださいお。
これから僕が部屋に入り、中の様子を調べますお」
内藤ホライゾンは僕たちにそう宣言し、
コロンボコートのポケットからハンカチを取り出した。
( ・∀・)「死んでいるのか?」
しゃがみこみ、ハンカチ越しに
人のようなものに触れている内藤ホライゾンに声がかけられる。
どうやら人のようなものはマネキンか何かのようで、
男女兼用にしようと思ったのか、ハローより軽くひとまわりは大きかった。
( ^ω^)「残念ながら、亡くなっておられますお」
立ち上がり、内藤ホライゾンはそう言った。
127 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:33:20.76 ID: M0BI5SzD0
嘘だろ、と独り言にしては大きな声で、僕たちはそれぞれ呟いた。
内藤ホライゾンはハンカチをポケットに収め、
僕たちの様子をゆっくりと見回した。
( ^ω^)「嘘ではありませんお」
彼は丁寧な口調でそう言った。
警察に電話するようツンに頼み、
あまり現場に触れるな、と僕たちに命令する。
これは、あれがなされるな、と僕は思った。
本格ミステリにはなくてはならない要素であり、
これがなくては第一の殺人が意味をなさない。
僕は人のようなものの傍に立つ内藤ホライゾンを見守った。
誰もが彼に注目し、あれがなされるのを待っている。
あれは、探偵役にのみなせる業である。
彼はこのためにいると言っても良い。
なかなか実行しない内藤ホライゾンに疑問を抱き、
僕は彼の全身をくまなく眺めてみた。
内藤ホライゾンは、明らかに勃起していた。
( ^ω^)「これは、殺人ですお!」
そして彼は、ここに殺人宣言をなした。
131 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:35:47.48 ID: M0BI5SzD0
電話に走っていたツンが戻ってきた。
彼女の息は乱れ、前髪が額に貼りついている。
ξ;゚听)ξ「電話が、通じないの!」
彼女は叫ぶようにそう言った。
僕たちはにわかにざわめきだつ。
どういうことだよ、とモララーが言った。
( ・∀・)「どこの電話を使ったんだ?」
ξ;゚听)ξ「あたしの部屋の電話とリビングルームの電話、
そして玄関ホールの電話よ。
どれも通じないの!」
ツンが早口にまくしたてる。
モララーは小さく舌打ちし、
なんなんだよ、と爪を噛みながら小さく何度も呟いた。
落ち着こう、と自分にもそう言い聞かせるようにショボンが言った。
(´・ω・`)「この吹雪だ、ひょっとしたら積もった雪の重さか何かで
電話線が切れてしまっただけかもしれない。
ブーンさんはああ言ったけど、
ハローも他殺だったと決まったわけじゃあない。
慌てても何も状況は改善されない。落ち着くんだ」
133 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:37:07.50 ID: M0BI5SzD0
血の臭いが充満したハローの部屋に入ると、
人のようなものはうつぶせになっていることがわかった。
マネキンと呼ぶにはあまりに造りが大雑把である。
内藤ホライゾンは部屋の中をくまなく観察し、
僕たちもなるべくものに触れないようにしながら辺りを見回した。
ベッドの脇に置いてあるくず入れに、
ビニール製のパックのようなものが多数放り込まれているのが目に付いた。
('A`)「『輸血用血液』、ね」
僕はその表面に書かれた文字を黙読する。
一応本物の血にしたということなのだろう。
人のようなものは傷つけられていないので
ハローの死因は不明だけれど、
これだけ血が出ているということは、斬り殺されたか何かであるに違いない。
人のようなものを観察していると、
右手が指さすような形になっていることに気がついた。
その先には、血と思われる赤で、文字のようなものが書かれている。
http://boonpict.run.buttobi.net/cgi-bin/up/src/boonpic_1303.jpg
ダイイングメッセージだ、と僕は皆に聞こえるように呟いた。
136 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:38:54.49 ID: M0BI5SzD0
グザイかな、とダイイングメッセージを見たショボンが呟いた。
(´・ω・`)「力学で、応力やたわみを求めるときなんかに
計算上使われる記号だね。
僕にはそんな風に見て取れる」
('A`)「ハローはそれで何を伝えようとしているんだ?」
僕がショボンにそう訊くと、
そこまではわからないよ、と彼は答えた。
( ^ω^)「しかし、角度で見え方が異なりますお。
確かに縦に見ればグザイに見えるけど、
横に眺めれば筆記体で何か単語を書き殴ったようにも見えますお」
内藤ホライゾンが、僕たちに割り込むようにそう言った。
そんなのはどうでも良いよ、とモララーが声を上げる。
( ・∀・)「今大事なことは、ハローが死んで、
俺たちは生きているってことだ。
素人はしゃしゃり出ずに、
警察を呼んで捜査してもらうべきだ」
138 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:40:26.93 ID: M0BI5SzD0
僕たちは一旦、リビングルームに戻ることにした。
モララーが電話機を乱暴に扱っている。
( ・∀・)「くそ、なんなんだこれ。
全然繋がらないじゃあないか!」
だからそう言ったでしょ、と呟くツンにモララーは構わない。
彼は受話器を電話機に叩きつけたり電話機自体を叩いたりしながら
なんとか電話を繋げようとする。
彼が電話機を持ち上げたところで、
切断されたコードがぶら下がっていることに気がついた。
( ・∀・)「なんだこれ。切られてるじゃあないか!」
モララーはコードの切断面を皆に見せながらそう言った。
鬼気迫る表情で僕たちを睨みまわす。
('A`)「やめろ、モララー。
僕たちがやったわけじゃあないだろ」
モララーとのテンションの差を生むように、
努めて平易な口調で僕は言った。
モララーが僕に歩み寄ってくる。
( ・∀・)「なんだと、ドクオ。じゃあ誰がやったっていうんだ。
ひょっとして、お前なんじゃあないのか」
141 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:42:19.54 ID: M0BI5SzD0
なんだと、と僕はモララーを睨み返した。
僕たちは無言で睨み合う。
しばらく経った後、
その張り詰めた空気に仲裁を入れてくれたのはショボンだった。
(´・ω・`)「やめろよ、喧嘩してる場合じゃないだろ」
ショボンは僕たちの間に体を入れるようにしながらそう言った。
モララーが大きく舌打ちし、踵を返して僕と距離を取る。
彼はどっかりとソファに座り、大きくひとつ息を吐いた。
(´・ω・`)「犯人は、きっと外部の人間に違いない。
この山荘に忍び込み、ハローを殺して電話線を切ったんだ」
さすがにあの状況からハロー自殺説を展開することは
無謀だと思ったのか、ショボンは僕たちにそう言った。
モララーが動く気配がなかったので、僕が代わりに反論する。
('A`)「でもさ、それならそいつは今どこにいるんだ?
山荘の外か? それは無理だ。
この吹雪の中外にいたら、そいつはそれで死んでしまう」
この山荘の中か、とモララーが呟いた。
探偵役でない僕たちに許された意見はこの程度のものである。
内藤ホライゾンが口を開いた。
143 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:44:18.79 ID: M0BI5SzD0
( ^ω^)「犯人は、外部の者ではありませんお」
内藤ホライゾンはゆっくりとそう言った。
何故だ、と僕たちから声が上がる。
彼はそれに取り合わずにパイプを口に運び、深く呼吸をした。
僕はまた煙草が吸いたくなった。
( ^ω^)「外部の者の犯行なら、
犯人は僕たちの目を逃れるために
山荘内を逃げ回っている筈ですお」
内藤ホライゾンはそう言った。
彼はパイプを持っていない左手を大きく広げ、
勃起しながら演説を続ける。
降る雪のせいで、僕たちの足音は残ってしまいますお、と彼は言った。
( ^ω^)「僕たちに見られなかった以上、
犯人はハローさんを殺害した後一旦窓から外に出、
再び山荘内に入り込んだと想像できますお。
足跡を見ればわかる通り、
逃げ回った形跡はありませんお」
そう言うと内藤ホライゾンは大きくひとつ息を吐き、
続けざまにパイプを吸った。
僕はこのときはじめて気づいたのだが、彼の吐く息は透明だった。
147 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:46:33.19 ID: M0BI5SzD0
本物じゃないのか、と僕は思った。
そういえば、内藤ホライゾンは幾度となくパイプを吸ってはいるけれど、
一度として僕たちの前でパイプに火をつけていない。
そして、煙草の葉のようなものをパイプに仕込む様子も見せていないのだ。
僕はパイプを吸ったことがないので、その仕組みは正確には知らないけれど、
まさか使い捨てということはないだろう。
ホームズの帽子にコロンボのコート。
そして手にはニセモノのパイプを握り、
吹雪や足跡はCGのようなもので後付けするのかもしれないが、
根拠の薄い推理で勃起しながら演説をする。
('A`)「こいつ、頭でもおかしいんじゃないのか」
僕は心の中でそんな疑問を呟いた。
無意識に右手がジャケットの内ポケットに伸びていたことに気づき、
そこに煙草はないよと苦笑する。
内藤ホライゾンはなおも演説を続けていたようで、
僕は苦笑を表情からしまい込むと、彼の話に耳を傾けた。
( ^ω^)「犯人は、この中にいますお!」
彼はそう言っていた。
148 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:49:12.88 ID: M0BI5SzD0
なんだって、と僕たちは声を上げた。
(´・ω・`)「そんな、めちゃくちゃだ!」
首を振りながらショボンがそう言った。
内藤ホライゾンはショボンを見つめる。
( ^ω^)「少なくとも、その確率は高いですお。
数日経てば吹雪も止むと思われますお、
それまでお互いに見張って安全を確保しましょうお」
内藤ホライゾンがそう言ったきり、沈黙が僕たちを支配した。
僕がクーに視線をやると、彼女は僕を見つめていた。
川 ゚ -゚)「そろそろ良いかな」
彼女の目はそう訊いている。
僕がクーに小さく頷いてやると、
もう嫌だ、と彼女は大きく声を上げた。
川 ゚ -゚)「わたしは今から車で麓まで降りて助けを呼んでくる!」
待てよ、とモララーに声をかけられる。
( ・∀・)「お前の車はチェーン履いていないだろ。
こんな天候の山道をそれで降りるなんて自殺行為だ」
151 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:52:02.88 ID: M0BI5SzD0
川 ゚ -゚)「それじゃあモララーは、
このまま殺人犯とひとつ屋根の下にいることは
自殺行為じゃないと言うのか?」
( ・∀・)「危ないって言ってんだよ」
劇中でも恋人同士という設定なのか、
彼らはありふれた言い争いをしばらく続けた。
('A`)「ここでクーが死ぬと、バランスが悪くなるな」
それを右から左に聞き流しながら、僕はそんなことを考えた。
クーが首尾よく死んだ場合、残されるのは男4人に女1人いうことになる。
それほどミステリの知識が豊富なわけではないけれど、
犯人候補の中に女が1人しかいなくなるという事態は
僕にはイレギュラーなものに思われる。
川 ゚ -゚)「もういい、わたしは行くって決めたんだ。
止めないでくれ!」
僕がクーに意識を戻すと、彼女は山荘を飛び出すところだった。
待て、と声を上げながら、モララーはクーを追ってはいかない。
僕たちは、クーが駐車場に走っていくのを窓越しに眺めた。
153 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:54:14.18 ID: M0BI5SzD0
駐車場に走り込むクーを視界に収めながら、
なぜ30秒後なのだろう、と僕は疑問をもった。
('A`)「その間にトンネルを通って逃げるなら、
トンネルを抜けた先に起爆スイッチのようなものを置けば良い筈だ」
もしそれに30秒以上かかるというのなら、
30秒後に爆発するのは極めて危険だ。
そして30秒かからないなら、そうした方がタイムラグが少なく済む。
考えれば考えるほど、僕には合理的な説明がつかなくなっていく。
僕の視線の先ではクーがベンツに乗り込んでいた。
('A`)「スタントマンを使うわけでもない。
僕たち出演者に大きな怪我を負わせたらあちらも大変だろうし、
万一死なせでもしたら放送はできなくなってしまう」
なぜ30秒後なんだ、と僕は小さく呟いた。
僕たちの位置からは、車内の様子は見て取れない。
トンネルの様子もわからない。
('A`)「本当に、クーは逃げられるのか?」
僕はマンホールのような穴の存在を確認したわけではないし、
助手席に備え付けられた扉のようなものが開くのかどうかもわからないのだ。
158 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:56:39.43 ID: M0BI5SzD0
クーは既にキーを回したのだろうか。
爆発するまでの30秒間、彼女は何を思うのだろう。
僕は際限なく思考の海に沈んでいった。
('A`)「そもそも、ハローは本当に生きているのか?」
僕はそんなことさえ考えていた。
ハローの部屋に横たわる人のようなものは、
彼女より軽く一回りは大きな大雑把な作りのものだった。
('A`)「軽く一回りは大きいということは、
ちょうど彼女を中に閉じ込めておける大きさだ」
ぞくり、と僕の背筋を何かが走りぬけた。
僕が内藤ホライゾンに目をやると、
彼は僕たちの様子を真剣な表情で観察していた。
僕がツンに目をやると、
彼女は内藤ホライゾンをうっとりと見つめている。
モララーとショボンは窓越しに駐車場を眺めている。
馬鹿な考えだ、考えすぎだと僕は判断するけれど、
僕の本能的な部分が恐怖を感じずにいられない。
駐車場で、ベンツが爆発した。
163 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 18:58:14.17 ID: M0BI5SzD0
モララーが言葉にならない叫び声を上げた。
窓に張り付くようにして外を見ている。
爆発は思っていたよりも大きなもので、
カローラは無事だろうか、と僕は頭の一部で考えた。
内藤ホライゾンは静かに首を振っている。
(´・ω・`)「車には細工がなされている。
僕たちは完全に閉じ込められてるってわけだ」
ショボンは、呟くように状況を説明した。
その冷静な物言いが気に障った様子で、モララーが彼につっかかる。
( ・∀・)「お前、クーが死んだんだぞ。ハローもだ。
なんでそんなに冷静でいられるんだよ」
冷静なわけないだろ、とショボンは言った。
(´・ω・`)「ただ、動揺してても状況は変わらない。
僕たちはこれからの数日間を生き延びないといけないんだ」
( ・∀・)「それがむかつくって言ってんだよ。
お前、不自然だぞ。お前が犯人なんじゃあないのか?」
(´・ω・`)「その考えは馬鹿げている。
それを言うなら、そうやって人をやたらと犯人呼ばわりするところは
とても不自然だ。君こそ犯人なんじゃあないのか?」
166 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 19:00:25.88 ID: M0BI5SzD0
なんだと、とモララーがショボンを睨みつける。
なんだよ、とショボンはそれを真正面から受け止める。
役回りとしては僕が止めるべきなんだろうな、と僕は思った。
しかし僕の体は動かない。
僕の目は原型をとどめていないベンツを窓越しにいつまでも見つめ、
頭の中では様々な思考が同時にループを繰り返している。
ξ゚听)ξ「ちょっと、あんたたち、やめなさいよ!」
いつまでも動こうとしない僕に業を煮やしたのか、
ツンが2人の間に割り込んだ。
僕はツンの姿を目に捕らえ、
彼女の巻き巻きになっている金髪はグザイに似て見えるな、とふと思った。
ξ゚听)ξ「落ち着きなさいって。
ショボン、さっき落ち着けって言ってたのあんたでしょ」
(´・ω・`)「僕は落ち着いてるさ」
ショボンはツンにそう言った。
モララーに掴まれた上着の乱れを整え、大きくひとつ息を吐く。
モララーはひどく興奮して見えた。
( ・∀・)「くそ、なんだよお前ら。共犯なんじゃねーのか。
そういえば、ツン、お前の髪型はあの記号に似ているな!」
モララーは、ツバも吐かんばかりにそう言った。
168 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 19:02:07.16 ID: M0BI5SzD0
言った瞬間我に返ったようで、モララーは、
しまった、という表情を顔に浮かべた。
ショボンが心配そうにそれを見つめる。
僕も内心息を呑んだ。
その推理は、僕たちに許されたものではないかもしれないのだ。
しかし、ツンや内藤ホライゾンに動揺は見られなかった。
ξ゚听)ξ「なによ! あたしがやったって言うの!?」
仲裁に入ったはずのツンがモララーにつっかかる。
それでモララーとショボンは安心を得たのか、演技を再開した。
モララーとツンが喧嘩腰になり、ショボンがそれを食い止める。
内藤ホライゾンの様子を伺うと、彼は僕を見つめていた。
('A`)「お前が2人を殺したのか?」
内藤ホライゾンと合った目を逸らさず、僕は心の中で呟いた。
彼はそれに答えない。
何か言ったらどうなんだ、と僕は思った。
('A`)「それとも、何も言えないだけなのか?」
『答えられない』はひとつの答えになり得るのである。
煙草を吸いたいな、と僕は思った。
170 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 19:05:02.64 ID: M0BI5SzD0
大きくひとつ息を吐き、僕はリビングルームを出ることにした。
( ・∀・)「おい、どこ行くんだよ」
背後から声がかけられる。
便所だよ、と僕は答えた。
(´・ω・`)「一人になるのは危険だって」
('A`)「犯人はこの中にいるんだろ?
それなら、お前らが一箇所にいる限り、それほど危険なことではない」
一緒に行こうか、と提案するショボンを手で制す。
('A`)「お前が犯人だった場合のことを考えろよ。
僕は便所では死にたくない」
危険なことはわかっている。
ひょっとしたら僕は、一人になった瞬間殺されてしまうかもしれない。
しかし、僕は一人になりたかった。
誰もいないところで考えを整理する必要があったのだ。
('A`)「それに、僕はおそらく殺されない」
僕はそう考えていた。
なぜなら、この殺人事件の犯人は、僕であると思われるからだ。
172 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 19:06:35.54 ID: M0BI5SzD0
僕は小便器に向かって放尿しながら、頭の中でアルファベットを並べた。
中学校でアルファベットを習った際、教師はブロック体で書くよう勧めたが、
僕が気に入ったのは筆記体の方だった。
筆記体で書かれた文章はとても英語っぽく見えて、
僕はそれが好きだったのだ。
受験の英作文で筆記体を書くのは不利になり得るぞ、と
忠告されはしたけれど、僕は依然として筆記体を貫いた。
そんな部分で僕を不適格だと見なすような学校なら
こっちの方から願い下げだ、と当時の僕は思っていた。
('A`)「"ve"と筆記体で綴ると、90度回転させたとき、
ちょうどグザイのように見えるに違いない」
僕はそう思った。
そして、僕は"ve"に関する記憶がある。
ハローとの思い出だ。
ラドウィンプスの話をツンがハローとしていたときに漏れたのかもしれない。
ハハ ロ -ロ)ハ「This makes "ve" sound again.
(こうすると、『ve』の音が繰り返されるでしょ)」
『おとぎ』を聴いたとき、ハローは僕にそう言ったのだ。
"gave"を"give"の過去分詞として使うのはアメリカ英語にある使い方で、
私たちイングランド人はこんな使い方はしないけど、と
彼女は僕に英国人らしいプライドの高さを垣間見せた。
174 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 19:08:25.40 ID: M0BI5SzD0
第一の殺人事件があったとき、僕が到着したのは最後だった。
これも僕が犯人役となったとき、トリックの成立を容易にする。
たとえばハローを殺害した後窓から外に出、
そのまま自分の部屋の窓から入って顔を見せたことにすれば良い。
('A`)「思えば、この面子で実際殺人事件があった場合、
一番動機を用意しやすいのが僕なんだ」
僕は小便器に水を流しながらそう思った。
今まで死んだのはハローとクーだ。
ハローに対する動機はでっちあげるより他にないけれど、
クーは僕の元恋人で、僕は彼女に振られている。
これから誰が殺されるかはわからない。
しかし、僕からクーを奪っていったのはモララーであり、
ショボンは僕の所属していた劇団の代表者だったのだ。
それらしい動機はいくらでも挙げられる。
内藤ホライゾンとツンは探偵役とその身内であり、殺される必要はない。
('A`)「第一、実際に殺人が起きているのだとしたら、
彼らのどちらかが犯人なんだ」
あるいは彼らの両方だ、と僕は思った。
176 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 19:10:13.76 ID: M0BI5SzD0
この一連の出来事は、思えば最初からおかしかった。
30秒で爆発する車のこともそうだけれど、
金も人脈もあるテレビ局がクーやツンのような素人を出演させる必要がない。
山荘も僕が地図で確認した場所より山深くにあるし、
ハローの部屋は見取り図で見たよりも僕たちの部屋から離れていた。
僕が考えつくだけでこれだけの事実が挙げられる。
('A`)「あれは、あの部屋に入った者に抵抗されたとき、
声が漏れないようにするためだったのではないだろうか」
僕はそう考えた。
考えれば考えるほど、ハローとクーは死んでいる方が自然なように思われる。
それはとてもおそろしいことであるに違いないのにもかかわらず、
ハンドソープを泡立てる僕の手が震えることはなかったし、
鏡に映る僕の目は爛々と輝いているように見えた。
簡潔に言うならば、現実味がないのだ。
まるで何かゲームでもしているかのように思えてくる。
('A`)「その上、僕は、ひょっとしたらモララーを殺せるのかもしれない」
鏡の向こうにいる僕に向かって、僕はそう呟いた。
その言葉が耳に届いた瞬間、彼の口の両端がキュッと持ち上がるのが見えた。
僕の心臓は激しく鼓動し、こめかみを血が駆け上っているのがわかる。
煙草が吸いたいな、と僕は思った。
178 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 19:12:09.02 ID: M0BI5SzD0
僕はサリンジャーの代表作を思い出していた。
ライ麦畑で子どもたちが遊びまわっている。
そのライ麦畑は、少し行った先が崖になっていて、
子どもたちはそれに気づかない。
彼は少し離れたところからそれを眺め、
やがて子どもたちの中のひとりが崖に落ちそうになると、
彼はそっとそれを止めてやる。
そんな人間になりたいと彼は言っていた。
確か、そんな話だ。
僕は主人公の名前さえ覚えていないが、
その1パラグラフほどの長さの彼の台詞は、強く印象に残っている。
('A`)「この山荘は、ライ麦畑だ」
少し行った先は崖になっている。
皆はそれに気づかないのだ。
('A`)「あるいは、崖などないのかもしれない」
僕はそれでも構わなかった。
それならクーとハローは生きている。
僕の馬鹿げた妄想が妄想のままで終わってくれるなら、
きっとそれが一番望ましいことなのだ。
183 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 19:14:09.22 ID: M0BI5SzD0
('A`)「僕はキャッチャー・イン・ザ・ライになる必要はない」
それをもじって考えるなら、僕がなるのはウォッチャー・イン・ザ・ライだ。
ライ麦畑の傍観者。僕は彼らを助けない。
('A`)「ただし、僕は彼らを殺さない。
僕は殺人事件の犯人になるかもしれないが、殺人者ではない」
ただ見ているだけだ。
僕のどこに罪があるというのだろう。
そこに崖があることを僕が知っているかどうか、確かめる術はないのである。
('A`)「だから、僕は、ハローの死を確認してはならない」
僕はトイレを出ると、まっすぐリビングルームに戻ることにした。
そこには4人の男女がいた。
僕たち5人は、この山荘のルールに支配されている。
それは、ミステリであるというルールだ。
死ぬ流れになった者は、死ぬ。殺される。
その流れは僕たちによって作られているのである。
すっかり太陽は沈んでしまい、駐車場は窓から見えなくなっていた。
188 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 19:16:42.81 ID: M0BI5SzD0
(´・ω・`)「暗くなってしまったな。これからどうしよう」
僕たちは、発言したショボンに注目した。
彼は大きくひとつ息を吐き、ゆっくりと台詞を繋げていく。
(´・ω・`)「正直なところ、
僕はまだこの中に犯人がいるなんて信じられないんだ。
用心はしなければならないけれど、
ガチガチに緊張する必要を感じない。
全員ここで過ごすことを前提に、行動は自由にして良いと思う」
誰か反対する人いる、とショボンは僕たちを大きく見渡す。
誰も反論したりはしなかった。
( ^ω^)「それで良いと思いますお。
こうして一箇所にいる以上、犯人もうかつには動けませんお」
殺人をこれ以上重ねさせないことは可能ですお、と内藤ホライゾンは言った。
さほど考えることなく、モララーはそれに頷いた。反対意見はでてこない。
かなりの時間を緊張下で過ごした様子のショボンが大きく背伸びをすると、
良い音で関節が数箇所鳴り、モララーを除く僕たちの表情を少し和ませた。
191 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 19:19:25.50 ID: M0BI5SzD0
( ・∀・)「反対はしないが、俺は実際この中に犯人がいると思っている。
吹雪が収まったら必ず警察に引き渡してやるんだからな!
犯人は、それまで、せいぜい覚悟でもしてろ」
彼は全員を一通り睨みつけ、そう言った。
僕はそれに頷いた。
('A`)「それで良いんだ。
僕たちは素人なんだし、あまりでしゃばらない方が良い。
僕たちにできるのは、用心し、吹雪が収まるのを待つことだけだ」
自分の命は自分で注意して守るしかないんだ、と僕は言った。
多分、モララーはこの発言を伏線のように感じ取ってくれることだろう。
彼の優秀さに疑いの余地はなく、僕は信頼を置いていた。
選択肢は無数にあるのだ。
選択肢の数を減らし、彼がひとつの選択をする流れにもっていく。
僕にできるのはそのくらいのことであり、また、そのくらいがちょうど良かった。
よくよく考えると、僕にそれほど強烈な殺意があるわけではないのである。
かつてもそうであったように、僕はそれほど大きな憤りを抱いてはいない。
全ては、この、VIP山荘の状況なのである。それが、僕にそうさせるのだ。
198 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/12/07(金) 19:22:59.81 ID: M0BI5SzD0
('A`)「乱暴な言い方をするならば――」
死のうが死ぬまいが、僕にとってはどちらでも良いのである。
死ぬかどうかを僕が自由にできるのならば、どうぞ彼には死んでいただきたい。
その程度の殺意に過ぎない。
('A`)「僕はライ麦畑でつかまえない。
といって突き落とすわけでもない。
少し誘導はするけれど、落ちるかどうかは彼が選択することだ」
できれば落ちて欲しいけどな、と僕は思った。
あるいは、モララーが落ちなかった場合、僕は激しく後悔するかもしれない。
あるいは、僕は、彼を突き落としたくてしょうがないのかもしれない。
('A`)「しかし、僕はこの程度の殺意しか抱けない種類の人間なんだ。
取るべき行動を知っていても、思うように取ることはできない。
がむしゃらというのが苦手なんだ」
それで構わないさ、と僕は小さく呟いた。
もうじき夕食の時間となるだろう。
辺りをぼんやり眺めていると、僕はツンと目が合った。
彼女はそのまま目を逸らさず、僕に小さく微笑んだ。
お
わ
り