2 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 21:58:46.10 ID: 3puA4gLP0
少女は泣いていた。
”また”なくしてしまった。
大切な人を、”また”なくしてしまった。

探せど探せど。
人を掻い潜り、邪魔する芥は払いのけ、
亡くしてしまったら、奪えば良い、
無くしてしまったら、探せば良い、
されど、見つからぬ時は、ほろほろ、ほろほろ悲しむのみ。

一晩中駆け回って、けれど会えずに落ち込んだ。
小さな体が疲れを覚えてしまい、少女は一度身を引いた。
体を真赤に染め上げて。

 

4 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 21:59:58.40 ID: 3puA4gLP0
少女は泣いていた。
あの時からずっと一緒だった……が、側にいない。
薄汚れた小屋の中、小さく丸くなって、自分を抱いて眠りにつく。
一人で寝るのは久々だった。

けれど冷たい板の上、
ろくに眠れず、結局少女は起き上がった。

すぐ横に置いていた二本の脇差を手に取ると、刃が朝日に光る。
ずしりとくる鉄の重みも、少女にとっては慣れたもの。

”取り返さねば、奪い返さねば”

鬼はそればかりを考えていた。

 

6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:00:52.64 ID: 3puA4gLP0
 

 

( ^ω^)内藤は鬼を追うようです

  六、 掴むもの、

 

 

 

7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:02:11.90 ID: 3puA4gLP0
少女は歓喜に叫んだ。
すぐそこに探していた人物が居る、たったそれだけのことに。
世界中を恐怖に振るわせた「鬼」と呼ばれた者は、喜びを声にするだけだった。
そこに「鬼」の面はない。
一人の少女がいるだけだった。

甲高い声を上げて、脇差を捨て、ひたすら走る。
この泣きながら疾走する少女を、
一人の女が建物の影からじっと見つめていたことに誰が気付こうか。

ξ゚ -゚)ξ

そう、生気を感じさせない表情で、津出がひっそりと佇んでいた。
津出が身に纏っている着物の殆どには、黒く固まった血がべとりと付着している。
けれど津出はそんなことも気にもせず立っていた。
手には一本の包丁。
大事そうに胸元で握っている。

少し歩いたところに、すぐに首のいるさらし台がある。
少し走れば、すぐさまさらし台に着く。
津出は、大きく息を吐いた。 そして―――

 

8 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:04:45.30 ID: 3puA4gLP0
さらし台の近くには、立ち入らないようにと命じてあった。
潜んでいることを鬼に気付かれてもならない上に、
危険なため、全員が室内にいるようにと言われたからだ。

流れ矢が飛んでくる可能性があり、”鬼討伐”の邪魔になる恐れがある。
なので、そこに人が存在するなどとは、誰も思わなかった。
建物の影に隠れていて、遠目には見えなかった。

そして―――津出は現れ、鬼に向かって行ったのだ。

津出が現れた瞬間、内藤は狼狽した。
先ほど別れたばかりの津出がここにいるとは、想定外も良いところ。
一体津出が何をしようとしているのか、見当がつかない。
しかし、このままでは津出が死んでしまう、ということだけは理解できた。

 

9 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:06:02.32 ID: 3puA4gLP0
(;^ω^)「っ…!」

内藤の考えたことは、この作戦の成功よりも津出の命だった。
このままでは、津出は矢の雨に打たれて死んでしまう。

女が出てきたところで、誰一人として躊躇などするものか。
一人の女の命よりも、鬼の命を奪う方が大事なのだ。

だから、内藤は叫んだ。

(;゚ω゚)「うつなああああああああああああああああ!!」

絶妙な瞬間だった。
これ以上もなく張った弓が、内藤の合図に合わせて、びいんと一斉に跳ねる。
そうして射った矢は、ひゅうと音を立てて空気を切る。

 

10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:07:55.03 ID: 3puA4gLP0
 

 

 

ξ#゚听)「家族の仇!」

少女の目の前に、津出は突如現れた。
単に走ってきただけなのだから、瞬間的なものではないが、
少女があまりにも”首”に気を取られていた為にそう感じたのだ。

(*゚∀゚)「っ?」

津出は体当たりをするように、少女にぶつかった。
どん、と音がして、それきり二人は動かなくなる。
腹に包丁が刺さったのだが、少女は何が起こったのか理解できない様子だった。

 

13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:10:17.94 ID: 3puA4gLP0
ただ、目の前に目的のものがあるのに、手が届かないことが不思議だ、というように
少女は津出と抱き合うようにして手を伸ばした。
あともう少しで届くのに、届かない。
津出の肩越しに見える首は、目と口が塞がっていて顔がよく見えない。
賢明にその首へ手を伸ばす少女の肩は、

びくりとはねた。

(* ∀ )「ヒッ」

ξ )ξ「うっ、あっ」

はねたのは一度きりではなく、痙攣するように何度もはねる。
跳ねは少女だけでは飽き足らず、津出にまで侵食した。
横から、後ろから、矢が”ざあざあ”と降ってくる。
傘を持たない二人は、抱きしめあって通過するのを待つのみだった。

 

14 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:12:11.00 ID: 3puA4gLP0
(* ∀ )

ξ )ξ

そして立ったままの針山がその場に残された。
人っ子一人見当たらない道の中心で、佇む姿はもの寂しい。
建物の隙間から鬼の様子を伺っていた男が、ぽつりともらす。

('A`)「…あっけない最期だな」
  _
( ゚∀゚)「まだわからねえだろ、”鬼”なんだからこれくらいじゃ死なねーかも」

顎を触りながら、漏らすことなく鬼を睨んでいる長岡を、欝多は笑った。
残念そうな顔色だった。
世界がひっくりかえるくらいの”何か”を望んでいたのに、”何か”は脆くも壊れてしまったのだ。
それは鬼という不可思議ではなく、

('A`)「鬼じゃねえよ、人だ」

ただの人だった。
人だからすぐに死ぬ。
何ともつまらない、と欝多は思った。

 

15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:14:09.79 ID: 3puA4gLP0
この二人の横を、”なんともつまらなく脆い”人が、ふらふらと通り過ぎて外に出た。
内藤は、しかし余所見をすることなく、鬼のもとへと歩いていく。

鬼が死んだはずなのに何人も近づけないでいたのは、単なる恐怖心からである。
死んだという確実な証拠がないため、迂闊に近寄れないでいただけだ。
もし生きていたら、殺されるかもしれない。
だから皆、誰かが先に行かないかと念じていた。

その念が通じたのかは定かではないが、内藤は鬼へと辿り着いた。
鬼と言ってもなんのことはない、ただの死体。
様々な箇所に矢が当たりすぎて、どこが顔かもわかりはしない。
わかりはしないが、塊の一つは間違いなく津出だった。
勘違いでも、見間違いでもない。

( ゚ω゚)「津出…殿……」

 

16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:15:40.90 ID: 3puA4gLP0
内藤は矢と矢の間をぬって津出に触れた。
ほんのり暖かい肌からは、急激に温度を失っていることが容易に知れた。
それほどまでに血が流れて、柔らかさもなくなっている。

(  ω )「下手糞が弓なんか持つから、的以外に当たるんだお…」

津出を鬼から剥がそうとするが、中々離れない。
無理に力を入れたら、ぴくりと鬼が動いた。

(* ∀ )「………」

(;゚ω゚)「なっ…」

これほどまでに矢を受けて、死んでいなかったとは。
化け物はやはり化け物だと、内藤は刀を掴む

(* ∀ )「―――…」

が、すぐに柄から手を離した。
鬼が何か喋っている。
ひゅうひゅう、と苦しそうに空気を漏らしながら、何かを喋っている。

 

17 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:17:44.58 ID: 3puA4gLP0
どんな遺言を残してくれるんだ。
内藤は憎悪と期待を込めて耳を澄ました。

鬼はやはり腕を前に伸ばしながら、
矢のせいで、殆ど動かせない腕を懸命に伸ばしながら、

(*   )「アァ………ジ………」

何かを呼んで、それ以上動かなくなった。

 

19 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:19:42.67 ID: 3puA4gLP0
 

 

 

(  ω )「そん…な…」

内藤は悲しかった。
津出を殺した鬼が、あっけなく死んでしまった。
もっと苦しんで死ぬべきだと内藤は思ったのだ。
もっと足掻いてくれるはずだと思ったのだ。
だから非常に悔しかった。

(#゚ω゚)「畜生………畜生…畜生!!」

もしこれが津出でなければ、内藤はどうにも思わなかっただろう。
しかし知り合いだったのがいけなかった。

内藤は考えることを放棄して、一度離した手を再び柄に当てた。
刀の使い方を忘れてしまったのかと思ってしまうほど大振りに、刀を振るう。
焦点など定まっていなかった。

(;'A`)「内藤! 何やってんだ!!」

 

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:21:42.06 ID: 3puA4gLP0
欝多が止めに入るまで、内藤は立ったままの鬼を斬り続けた。
刃が振るたびに、矢と肉片が飛び散る。
二人だった塊が、いつしか一つになっていた。

(# ω )「とめてくれるなお!」

(;'A`)「そりゃあ鬼じゃねえだろが! おまえの好きな女じゃねえのかよ!」

(# ω )「僕の…僕の好きな…?」

肩で息をしながら、内藤は目の前の塊を見た。
人の面影など既になく、気付いた時には涙もでなかった。
ただの肉塊に、情愛など浮かぶはずなく、

 

21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:22:00.03 ID: 3puA4gLP0
 

 

 

 

―――服を着たところで、肉は所詮肉。

 

 

 

 

 

24 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:23:57.54 ID: 3puA4gLP0
  _
( ゚∀゚)「それでよお」

役所の中、長岡が椅子に深く腰をかけ、煙を吐く。
煙管の先を上下に動かしながら、長岡は真面目くさった表情をした。
  _
( ゚∀゚)「鬼の持っている脇差を見てみたんだ。 それが」

(´<_` )「俺の持っている刀の家紋と同じ、と」
  _
( ゚∀゚)「そうだ、その上、お前は脇差を持っていない」

いくら真面目にみせようとしても、はなから笑った顔は変わらないらしい。
もしかしたらこの男、生まれた瞬間から笑っていたのかもしれないと旺杜は思った。

(´<_` )「確かにそうだ」

それと対極に位置するほど、旺杜(おうと)は無表情だった。
無表情で固まってしまっているように見える。
きっと生まれた時さえ「おぎゃあ」とも泣かなかっただろう、と長岡は思った。

 

26 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:27:06.91 ID: 3puA4gLP0
(´<_` )「それで、何が言いたいんだ?」
  _
( ゚∀゚)「まあ急かすなって」

煙管の灰を一旦落とした。
そのまま、煙管は机に置き、少しだけ乗り出す。
  _
( ゚∀゚)「はじめ見たときから分かりきったことだ。
     お前は首の兄なんだ。 そして鬼とも知り合いだった」

(´<_` )「…で?」
  _
( ゚∀゚)「凶悪犯は家族もろとも死刑ってのは知ってるよな」

(´<_` )「ああ、知っている。 だが、それがどうした?」

長岡が目を細くする。
声も幾ばくか低かった。
  _
( ゚∀゚)「ばれないとでも思ってるのか?」

 

28 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:29:26.48 ID: 3puA4gLP0
(´<_` )「兄弟だという証拠はどこにある?」
  _
( ゚∀゚)「………」

(´<_` )「………」

しばらくの間、二人に会話はなかった。
しかし、長岡が唐突に、足元から一つの箱を取り出す。
頭一つが丁度入りそうな大きさだった。
  _
( ゚∀゚)「…これ、わかるよな?」

旺杜は答えなかった。
代わりに長岡が脇差を手に取る。
鞘を抜き、頭上高く掲げ、勢いをつけて振り降ろす。
その先には、箱。

 

30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:31:31.23 ID: 3puA4gLP0
(´<_`;)「くっ!」

きいんと鳴って、長岡の脇差が塞がれた。
微動だにしなかった旺杜が、寸前で刀を抜いたのだ。

これで終わりかと思いきや、長岡は更に追い討ちをかける。
旺杜の反応が一瞬遅れた。 それが明暗を分ける。

( <_ ;)「やめろおおおっ!」

旺杜の叫びも虚しく、箱は音を立てて真っ二つに割れた。
しかし、長岡は
  _
( ゚∀゚)「うっそー。 この箱には何もはいってませーん」

壊れた箱を叩きながら、
とうとう最後まで嫌味な笑みを浮かべた。
安堵の溜息を漏らす旺杜に、長岡は更に問う。
  _
( ゚∀゚)「兄弟だってばれたらやばいのはわかる。
     けどよ、何でそこまで関係を否定するんだ?」

(´<_` )「………」

(´<_` )「……俺は、そんなやつは知らない」

旺杜はしばらく俯いていた後、足早に役所から出て行った。

 

31 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:33:44.28 ID: 3puA4gLP0
 

 

 

旺杜が役所をたってから数刻、今度は欝多が現れた。
自分が乱暴に開けたせいで外れた戸を、こっそりと直す。
一度閉めなおして、再び入ってきた。

('A`)「おーす、どうだー順調かー?」
  _,
( ゚∀゚)「普通」

一部始終を見ていた長岡が、気の毒そうな顔をしつつ茶を出した。
その茶を受け取り、音をたてて茶をすする。
今日はあのまずい饅頭は出ない。

 

32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:35:39.95 ID: 3puA4gLP0
('A`)「意外とつまらなかったな」
  _
( ゚∀゚)「あっけなく死んでくれたからな。
     だが被害も大きい…町も役人もこれからが大変だぜ」

ふう、と吐いた煙は、机に積まれた紙に吸い込まれて消えていく。
煙管を口に咥えたまま、長岡は続ける。
  _
( ゚∀゚)「とりあえずは上に報告と、首の処理だな」

('A`)「首か、そんなもんあったな。
    どうするんだ? どこで解体する予定だ?」
  _
( ゚∀゚)「ああ、それなんだけどな。 これが困ったことに」

 

37 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:39:18.25 ID: 3puA4gLP0
へらへらと笑って、仕舞っていた箱を取り出した。
それを欝多に渡して、もう一度笑う。
首が入っているにしては、軽すぎる、箱。

(;'A`)「おま…中身……どこやったんだ?」
  _
( ゚∀゚)「気付いたらなくてさあ。 あーこれどう報告しようかねえ」

(;'A`)「もう既に埋めました。 とかじゃあ駄目だよなあ」

どっさりと椅子に構えたまま、煙をふかす。
見事な輪を作ってみせた。
  _
( ゚∀゚)「一応”鬼”の仲間だからなあ、
     それ相応の処分をしとかないとと言われたんだけど」

('A`)「俺はしらねえぞ」
  _
( ゚∀゚)「めんどくせえな………逃げるか」

 

39 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:41:23.52 ID: 3puA4gLP0
 

 

 

 

見えるものは、空ばかりだった。
することはない。
できることがない。
見えるものは、空ばかりだった。

 

40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:41:46.40 ID: 3puA4gLP0
川 ゚ -゚)「…しくったなあ…」

空は天を仰ぎながらぼやいた。
暗闇を走ったせいで、足元が見えずに崖から落ちてしまったのだった。
幸いにして深くなく、柔らかな土があったので、命はある。
しかし、足は動かない、色んなところが折れていた。
このままでは命すらないだろう。
それもそれで良いかもしれない、と半分考えかけている。

仇を取れなかった。
その上、妹をもう一人無くしてしまった。

川 ゚ -゚)「何のために…」

 

43 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:44:22.18 ID: 3puA4gLP0
自分のしたことと言えば、
妹を無駄死にさせ、おめおめと逃げ帰り、再び戻ったが結局自滅しただけだ。
ここで死んだら、ただの死に損。

川 ゚ -゚)「何のために私は…」

仇を討とうとしたのだろう。
することのない空は、そればかりを考えていた。

木々の擦れる音と、鳥の鳴き声以外に、はじめて空は何かを聞いた。
徐々に近づいてくるそれは、誰かの足音。
少し急いた、草を踏む音が近づいてきたのだ。

 

44 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:46:36.55 ID: 3puA4gLP0
空の頭上で、一人の男が足を止めた。
漠然とした不自然さを感じて、崖の下を覗き込んだのだ。
すると運の悪いことに、空と目があってしまった。

川 ゚ -゚)「……やあ、こんにちは」

取り合えず挨拶をしてみた。
返事はないだろうと空は思っていたが、意に反して男は挨拶を返した。
驚いてよくよくみれば、それは知った顔だった。

川 ゚ -゚)「旺杜殿?」

空が最後に旺杜をみたのは、鬼の手中だった。
自分が鬼から奪い、必死の思いで逃げ帰った際に持っていたものだった。
死んだはずの男がいる。
これはきっと幽霊なのだと思った。
自分は既に死んでしまったのだろう、と。

 

47 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:48:22.99 ID: 3puA4gLP0
川 ゚ -゚)「………」

空は何かを言いかけたが、旺杜の手に持った荷物が目に入ると、つい息を呑んでしまった。
布で包まれた、人の頭ほどの大きさのもの。
この大きさを空は知っていた。

川;゚ -゚)「それは…」

何かがおかしいとは思ったが、いくら考えても答えは出なかった。
答えを考えるのを止めたのは、
旺杜が、手をかそうかと聞いたからだ。

川 ゚ -゚)「どこへ連れて行ってくれるんだ? 極楽か? 地獄か?」

旺杜はしばらく考えた後、好きなところへ行けば良い、と返事をした。
空は、ああそうだな、とぼんやり旺杜の顔を見る。
しかし行きたい場所がわからない。

 

49 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:50:21.93 ID: 3puA4gLP0
川 ゚ -゚)「私はどこへ行けばいいんだ?」

するとまたしても、好きなところへ行けば良いと返ってきた。
好きなところとはどこだろう、と空は考える。
どこにも行きたいところはない。
それは何故なのだろう。

暫くの間考えて、考えて、ようやく空に答えが見えた。

川 ゚ -゚)「折角だが、遠慮しておこう」

そうか、と短い声が帰ってきて、旺杜は来た時と同じく、足早にこの場を去った。
旺杜には行きたいところがあるのだろう、そこへ行くために、ここには何の未練もない。

空は微笑んだ。
自分の行きたい場所がわかったからだ。

そう実感すると、今この状況が、非常にうきうきした愉快なものに感じられた。
動けない空だが、着実に行きたい場所へ向かって行っているのだ。
それがとても嬉しかった。

川 ゚ ー゚)「火糸(ひいと)、萩(しゅう)…もうすぐ会えるからな…」

目の前に広がる青い一面に、空は思い出を重ねた。

 

51 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:52:54.30 ID: 3puA4gLP0

 

 

 

 

 

男は部屋で膝を抱えるばかりだった。

こんなことをしている場合ではないと男は理解していた。
しかし、その場から動けないでいるのは事実。
自分が何をしたいのかはわからない。

どうしようも無かったと言えば、嘘になる。

 

52 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:53:14.49 ID: 3puA4gLP0
男ははじめから臆病だった。
誰かがどうにかしてくれないかと、希望と抱いていた。
その結果がこれだ。
鬼という象徴に、色んなものを持っていかれた。
男が愛していたはずだった人も、そうでない人も。

けれど、漠然とした何かを感じているのも確かだった。
その何かが一体何なのかはわからない。
もしかしたら存在しないのかもしれない。
だからこそ、気付いてしまったのだ。

自分が人ではないことに。

 

53 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:53:55.16 ID: 3puA4gLP0
 

( ^ω^)「………」     |           (^ω^ )

男が顔を上げると、壁際に置かれている姿見が目に入った。
その奥にいるのは、自分に似通った男。
見た所、ただの人である。
その男が、じっとこちらを見てくるのだ。
あまりにも狂気に溢れた視線のせいで、目を逸らすことができない。

ついに、鏡に映る男は口を開いた。
単純な問いかけだった。

(;^ω^)           |「お前は誰だお?」(^ω^ )

男はそう言った。
男は確かにそう聞いた。
男は再び口を開く。

(;^ω^)「僕は僕だお」   |            (^ω^ )

 

55 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:56:50.17 ID: 3puA4gLP0
そうだ、自分は、自分以外の何者でもない。
男が言うと、鏡の男は悲しそうな顔をした。

(;^ω^)           |            (^ω^ )

(;^ω^)           |「僕って誰だお?」 (^ω^ )

再び鏡の男は似た質問を繰り返した。
単純明快な答えだが、男は答えを持っていなかった。

(;^ω^)「ぼ、僕は…」    |            (^ω^ )

言いかけて口を閉ざした。
鏡の男は相変わらず悲しそうな顔で口を閉ざしていた。

 

57 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 22:58:44.94 ID: 3puA4gLP0
男は答えを持ってはいなかったが、
鏡の向こうの男は答えを持っていた。
そう、男は知っていた。

( ^ω^)「僕は…」

鏡の男は言葉を紡いだ。
男も同時に口を開いた。

( ^ω^)「僕は、血も涙もない…」

男は、少女を”鬼”だと思っていた。
男だけでなく、誰もが少女は”鬼”だと祭り上げた。
それはある種の恐怖、そしてある種の宗教。
だからこそ、鬼の死体は今、鬼として厳重に保管されている。

しかし、男は知った。
鬼は鬼ではなかったということを。

( ^ω^)「鬼…?」

 

60 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 23:00:47.50 ID: 3puA4gLP0
男は問うたが、それに答える者は居なかった。
代わりに、誰かの足音がぎしぎしと廊下に響く。
軋みは丁度、内藤の部屋の前で止まった。

('A`)「おおい、まだ寝てんのか」

( ^ω^)「欝多かお」

('A`)「かお、じゃねえよ。 この糞忙しい時に怠けやがって、ずりいな」

ずかずかと部屋へ入ってくる。
欝多が歩く度に、畳はたわみ、元に戻るを繰り返す。

( ^ω^)「何しに来たんだお」

('A`)「そりゃあ、怠惰なお仲間を呼びに来たっていう口実でだな」

だるそうに欝多は胡坐をかいた。
姿見と目が合い、そこに映る内藤の目とも合う。
欝多は首を捻った。

 

62 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 23:03:07.61 ID: 3puA4gLP0
('A`)「内藤?」

( ^ω^)「なんだお?」

('A`)「いいや…気のせいだ…なんでもない」

欝多は鏡から目を逸らし、床に置いてある本に手を伸ばした。
流行りの小説のひとつで、人とは・生きることとは何かを延々と悩む男の話であった。
文学の苦手な内藤がこの本を最後まで読むわけがない。

内容を思い出しながら欝多が頁を捲っているとき、突然内藤が立ち上がった。
どうした、と声をかけるも、内藤は答えない。

('A`)「おい、どこに行くんだ?」

( ^ω^)「厠だお」

外していた刀を二本ほど腰に差して、内藤は部屋を出る。
迷わず歩む男の行く先は、厠とは真逆の方向だった。

 

64 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/04/27(日) 23:04:02.51 ID: 3puA4gLP0
 

 

 

('A`)「…ああ、いやだねえ」

部屋に残された欝多は、はあ、とやる気のない溜息をついた。
先ほどから変わらずに本を読んでいたのだが、ふいに顔を上げる。
そこには欝多と全く同じ顔をした男が居た。

('A`)「何だっていうんだあいつは、鬼みたいな形相しやがって」

今度は欠伸が出た。
昼寝でもするかと横になる。
いくら待てども、内藤は戻ってはこなかった。

 

  六、 掴むもの、みな鬼

( ^ω^)内藤は鬼を追うようです―――終

 

 

 

 


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