2 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 23:33:07.91 ID: sP9rtqqR0
朝日が差す前に、町には朝が訪れた。
太陽が昇りきっていないという理由だけではなく、非常に暗い朝だった。
それなのに。

煮えたぎった豆を部屋一面にばら撒いた。
そういう状況に町全体が置かれていた。

(;^ω^)「もつちおけ!! まずは生存者の確認からだお!!
      死んでしまった人は挙手を!」

('A`)「…お前が落ち着け」

(;^ω^)「落ちつけ言っても、落ち着いてなんかられないお」

('A`)「どうせすぐには片付かねえよ。 ゆっくりやろうぜ」

生き残った数少ない役人たちは、この後処理に追われていた。
追われ、追われて、それでもなお、問題は山積みなのだ。
どこを歩いても血の臭いが追いかけてくる。

 

5 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 23:35:31.92 ID: sP9rtqqR0
( ^ω^)「ゆっくりやって…これ以上の被害が出るかもしれないお」

('A`)「じゃあ、急いだら被害はでねえのか?」

(;^ω^)「………」

内藤は返す言葉もなかった。
一晩という短くも長い間、鬼を倒す時間があったのに、一人として鬼を見ることがなかった。
居たかもしれないが、恐らく全滅。
戦のようだと誰もが思った。

これがただ一匹の鬼によってなされたことだと思うと、

( ^ω^)「ぞっとするお…」

('A`)「ぞっとしないねえ」

二者はそれぞれの思いを口にした。
 

 

茂名の屋敷前、青空の下、目の前には大勢の町人。
ある者は喚きちらし、泣き崩れ、混乱の招いた二次災害。
その騒動の水面下。

全ては水の底で、人の見えぬ暗闇で、

 

6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 23:36:35.21 ID: sP9rtqqR0
 
 
 
 
 
( ^ω^)内藤は鬼を追うようです

  五、 鬼は鬼を呼ぶ。 人は鬼に成る。
 
 
 
 
 

 

7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 23:38:43.27 ID: sP9rtqqR0
茂名を先頭にして役人は集結した。
町の人数が半数に減ってしまったのではないかと思われる今日、
数の把握と安全確保の為に、町人は同じ場所、茂名の屋敷へと集められたのだ。

それらの人々をぐるりと眺める。
一晩しか経っていないのに、皆が皆疲れきった表情だ。
それもこれも、鬼の怒りに触れたから。
どうして触れたのか知っている分、内藤は申し訳ない気分になった。

大切なものを奪われたから。
この一つしかないだろう。

そうやって軽い反省を終えた時、知った顔が見えないことに気がついた。
隣に立っていた欝多がびっくりするほど大きな声で叫んで、
町人が避ける暇もないほどの速さで屋敷を出る。
何度も人にぶつかったが、そんなことは気にしない。
そんなことだから、

(;'A`)「おい、どこへ行くんだ」

と後ろから叫んだ声も耳に入らず、
内藤は鬼のような形相で、欝多の視界から消えていった。
取り残された欝多は、気まずそうに頬をぼりぼりと掻く。

 

10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 23:41:36.65 ID: sP9rtqqR0
('A`)「まあ、どこに行ったかは見当がつくけどよお」

抜け出す良い口実、とばかりに欝多は後を追おうとした。
しかしその背に「おい」と声をかけられてしまう。

('A`)「いやあ、内藤がどっかいっちまったんで、連れ戻そうと…」

(´・ω・`)「へえ、どこか行っちゃったんだ」

('A`)「……って、なんだ、史余(しよ)さんかい」

振り返りながら言い訳をしたが、欝多に声をかけたのは、想定した相手とは違っていた。
どこか重苦しい雰囲気を醸し出しながら喋り出す史余に、
もっと嫌な相手につかまっちまったな、と舌打ちをする。

 

12 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 23:44:24.23 ID: sP9rtqqR0
(´・ω・`)「酷い有様だねえ」

('A`)「ああ、そうだな」

(´・ω・`)「役人は無能だね」

('A`)「その通りだ」

肯定する言葉に反省の色などない。
欝多はにたり、と唇の端を吊り上げた。

('A`)「自分のところが無事だったんだ、どうも思ってないくせによく言うよ」

(´・ω・`)「やだね、そう思われてるのかい?」

史余は欠伸を一つした。
これだけ周囲は酷い有様なのに、まるで緊張感がない。

 

13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 23:47:21.30 ID: sP9rtqqR0
(´・ω・`)「商売相手が居なくなって、こっちは商売あがったりだよ」

死人は大勢いるのに、怪我人はさっぱりいないんだもの。
恐らく本心からでたその言葉を、欝多は乾いた笑いで返した。
その笑い声に合わせて、史余も適当に笑ってみせる。

('A`)「どうして、お前みたいなやつが死ななかったのかね」

(´・ω・`)「さあ、どうしてだろうねえ」

悲しみと恐怖に暮れる朝早く。
二人は眼差しも口元も真面目なままで、声だけの笑い声を響かせた。

いつもどの時代も、
先に死ぬのはまともな奴だと、相場は決まっている。

欝多は内藤の走っていた方向を見て笑った。
史余が「何を見ているんだい」と問うたが、「いいや何も」と口ごもる。
そして、生き残るのは鬼ばかり。

 

15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 23:48:23.19 ID: sP9rtqqR0
 
__________ 
 
 
 
(; ω )「―――殿! 津出殿!!」

死体、町人の死体、男の死体、子供の死体、―――女の死体。
違う、これも違う、それでは、これは。

(;゚ω゚)「津出殿!! いたら! いたらどうか返事を!」

静まりかえった屋敷を、内藤は一人駆け回る。
時折現れる死体をひっくりかえし、目的の女でないことに逐一安堵する。
それでも死体が転がって居るという、ここに鬼がきたという事実が拭えない。
更に集めた人々の中に、その顔が居なかったことから、無事でいる可能性は低い。

低いが、捨てられない。

(;゚ω゚)「津出殿!」

 

16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 23:50:38.79 ID: sP9rtqqR0
次に開けた部屋で、内藤は女を見つけた。
女は死体を抱きかかえ、静かに俯いている。
まるで女までもが死人のようだった。
それでも、死体を撫でている女の腕が、生きていることを確信させる。

(;^ω^)「津出殿…よかった!」

内藤は大きく息をついて女に駆け寄り、目の前に跪いた。
本当に、よかった。
もしこの女を失っていたら、きっと自分も鬼のように我を失ってしまったかもしれない。
自分の一番大切にしている者は、許嫁でも親友でもなくこの女だと、内藤は自覚していた。

女は静かに首を上げる。

ξ゚听)ξ「内藤さん」

その顔はやつれていた。
目の下に隈をつけ、そっと内藤を見る。
他の町人と同じく、女も昨夜は寝ていないようだった。

 

18 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 23:53:58.15 ID: sP9rtqqR0
(;^ω^)「よかった、本当によかったお。
      屋敷に来ていないから、もしかしたら、と思ったんだお」

ξ゚听)ξ「私は無事。 …私、だけが」

伏目がちに津出は呟いた。
そして愛おしそうに、腕にいる死体を撫でる。

それは目を見開いたままの少女で、津出に似た顔立ちをしていた。
少しだけ幼いそれは、女の妹。
ころころと良く笑う可愛らしい娘だったと、よく覚えている。
つい先日まで元気で笑っていたのだから、忘れようがない。

その愛らしい大きな瞳が、今はぎょろりと内藤を見上げていた。

( ´ω`)「……心中お察ししますお」

死体など、よく見るものではない。
娘の胴と首が離れていることに気付いてしまったのだ。
勿論、昨日見た首のように動くことも喋ることもない。
死んでいる。 あたりまえのことだ。

ξ゚听)ξ「私からも、心中お察し致します」

 

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 23:55:46.72 ID: sP9rtqqR0
返って来た言葉に、内藤は少なからず驚いた。
一体何を察されたのだろう、と考える。
見張りをしていたというのに、この有様になってしまったからだろうか。
それで、町人から非難されて居心地が悪い、ということだろうか。

ξ゚ -゚)ξ「……ご存知ない、の?」

はあ、まあ、と曖昧な言葉ばかり紡ぐ内藤を不自然に思った津出は、
若干刺の入った意味合いで続けた。
始終撫でていた死体への手が止まる。

( ^ω^)「ああ、いえ……」

ξ゚听)ξ「本当に、知らないの?」

鋭く尖った言葉だった。
それが内藤に突き刺さる。
はあ、まあ、と内藤は再び返した。

 

22 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:01:03.19 ID: 2bpan9uX0
ξ゚听)ξ「……自分の妻君の安否も確かめずに、私のところにきたの?」

咎めるというよりも、軽蔑している口調であった。
ようやく内藤は、何故津出が冷たい声だったのかに気付いた。
内藤が冷たい人間だったからだ。

(;^ω^)「いえ…これには訳が…」

あの女とはまだ婚約しておりませんでしたゆえ。
言い訳をしそうになったが、普通の神経をしていれば、
許嫁より先に他の女のところに理由なしにくるわけがない。
津出の言葉が内藤の全てだ。

女の口調から察するに、許嫁である麗子は既にこの世にいない。
それを知らずに、ここに来た。
そして嫌われたくないという思いから、つい、口を出た。

津出が唇を開いたので、何か言われるのではないかと身構える。

ξ゚ -゚)ξ「…私は無事。 私だけが無事だったわ」

けれど、津出はさきほどの言葉を再び繰り返しただけだった。

 

24 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:02:29.92 ID: 2bpan9uX0
ξ゚ -゚)ξ「父上も、母上も、兄上も、姉上も、妹も…」

一言ずつ区切る。
その一言ずつ、思い出しているようだった。

ξ゚ -゚)ξ「確かに私だけが生き残ったわ。
      運がよかったのか、悪かったのかはわからないの、でもね」

(;^ω^)「津出殿…」

ξ゚ -゚)ξ「皆、愛していたの。 だって家族だもの…愛していたの」

津出は、自らの妹の頭をぎゅう、と抱きしめた。
頭だけを持ち上げて、頭の離れてしまった体を膝の上に横たえて、着物が真赤に染まっている。
今にも泣きそうなほど悲痛な表情だったが、涙はでない。

ξ゚听)ξ「愛していたら、真っ先にそこに行くはずよ、なのに、なのに…」

鬼。 と、津出は呟いた。
目の前にいるのは、例え無意味だったとしても、町を守るために一晩中駆け回ったはずの人だのに。
仇を見るような目つきで睨んで、鬼。 と呟いた。

 

26 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:05:02.95 ID: 2bpan9uX0
ξ゚听)ξ「鬼。 あなたは、鬼よ」

(;^ω^)「津出殿、ぼ、僕は…」

もしも内藤が知っていたのならば、津出はここまで嫌悪感を抱かなかった。
それよりも、悲しみを共有する相手だと認識しただろう。
けれど内藤は知らなかった。
ただ、それだけの違いだった。

ξ゚听)ξ「鬼の話を聞く耳なんか持ち合わせてないの。 帰ってくださる?」

(;^ω^)「津出殿!」

内藤は津出の肩を掴んだ。
近い距離で目と目が合うが、

ξ゚ -゚)ξ「帰ってください」

有無を言わせぬ口調に、内藤の口はそれ以上音を紡ぐことができなかった。
触れた肩をそっと放し、ゆっくりあとずさる。
その部屋を出るときまで、じっと、津出の抱いた首がうらめしそうに内藤を見つめていた。

 


32 名前: ありがとう、再開します。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:20:04.88 ID: 2bpan9uX0
 
 
 
津出の家の外で、内藤は再び女の家を見つめた。
朝だというのに薄暗く冷たい印象のその家からは、異様な雰囲気が出ているような気がする。
気のせいだとわかっていても、背筋を撫でる悪寒から逃れられなかった。

(;^ω^)(なぜ…いや…しかたないことだお…)

頭を振ってその場を足早に去る。
昨日までは強く、美しかった人が、今では廃人一歩手前に見えた。
それほどまでに家族の命というものは、一個人の中で重たい。
でも大丈夫、命さえあればなんとでもなる。
頭の中でそう繰り返すのだが、嫌な予感は拭えずにいた。

大通りに出る。
死体の処理は一応している為、この辺に死体は少なかった。
地面を見ればところどころに黒く血の混ざった砂が散っているが、これもそのうち消えるだろう。

何も考えずに歩いていると、ついつい自分の知っている方向に歩いてしまうものである。
足の覚えた道順は、自然といつものように動き出す。
内藤は特に意味もなく役所の前を通りかかった。
本来であれば、すぐに屋敷へと戻った方が良いのだが、そういう気分にもなれない。
後で何か言われるかもしれないが、大したことではない。

 

33 名前: ありがとう、再開します。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:22:56.64 ID: 2bpan9uX0
一応、町人は全員屋敷へ集まることになっている為、町にいるはずがない。
その上、こんな場所に用事のあるものなど殆ど居ない。
数少ない例外として、本人の意思で屋敷へ行くことを拒否するか、
役人が仕事のためにうろうろしているかのどちらかだ。

(´<_` )「………」

その数少ない例外の前者が役所の中を隙間から覗いていた。
とは言え、目的のものは見つからないらしく、細い目を更に細めている。

( ^ω^)(あれは確か、昨日の…)

旺杜(おうと)という物書きだ。
首とそっくりな顔をした、刀を一本差した風変わりな男だった。
何か用事があるのかと思い内藤は口を開く。

( ^ω^)「どうしたんだお? 町の人なら皆茂名殿の屋敷にいるお」

(´<_`;)「!」

声をかけただけなのに、男は妙に驚いた様子だった。
誰にも見つかりたくなかったと、空気がものを言う。
果たして、内藤は空気の読めない人間になってしまったわけだが、ふむ、と頭を捻った。

 

35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:24:40.91 ID: 2bpan9uX0
( ^ω^)(ここには長岡殿と、首しかいないはず…ということは…)

( ^ω^)「…中に入るかお?」

(´<_`;)「………ああ」

首に会いたいのだろうと内藤は理解する。
内藤の提案に、躊躇いがちに旺杜は頷いた。
 
 
 
中に入っても、今日は他の家とさほど変わらない静寂な空気が包んでいるだけだった。
「長岡殿」と内藤が呼ぶと、奥から気配だけがする。

「…ああ、そこでちょっと待ってくれ」

そう言われてから数分が経つ。
あまりにも遅いのでこちらから行こうとした時、長岡がやってきた。

 

37 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:26:29.69 ID: 2bpan9uX0
  _
( ゚∀゚)「わりぃわりぃ、待たせたな。 で、何のようだ?」

小脇に首を抱えている。
首には目隠しと、猿轡のための布が巻かれていた。
長岡が乱雑に卓に放り投げると、首はころころと転がり「うう」と唸る。
その様子を見つめていた旺杜からは、隠し切れない殺気が溢れていた。

(´<_` )「………それは…どうするんだ?」
  _
( ゚∀゚)「ああ、こいつか、囮に使うことが決定してな」

( ^ω^)「囮?」

それは内藤も初耳だ。
椅子に座りながら聞き返す。 目の前には首。
立ったままの旺杜にも促したが、旺杜はこのままで良いと断った。

 

39 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:29:48.92 ID: 2bpan9uX0
  _
( ゚∀゚)「こいつを晒して、鬼が来たところをとっつかまえようとな。
     鬼があそこまで荒れるほどのもんだ、昨日は無理でもまた探しにくるだろう」

まったく、これを持ってきた女っていうのは、大したものだと笑顔を見せる。
誰も太刀打ちができなかった鬼から奪ったのだ、確かに大したものだ。
しかしあれから一度も見ていない。
欝多は「あの森へ行った」と言い、真ならば鬼に会っているはずだ。

( ^ω^)(一体何があったんだお?)

内藤が知る術はなかった。
そこまで心配する仲でもなかった。
女のことは、次の会話によって忘れてしまう。
  _
( ゚∀゚)「そのための準備をしないとな。 ああ、お前も手伝っていけ」

(´<_` )「…俺か?」
  _
( ゚∀゚)「そうだ、刀を差してるってことは腕に自信があるんだろうよ。
     正直今は人が死にすぎて人手不足だ。 猫の手でも借りたい」

(´<_` )「まあいいが…死にすぎてって言う割りに、何の不満も無さそうだな」

長岡は普段から笑ったような口元をしているが、この不謹慎なほどの笑顔を差している。
旺杜の問いに、長岡は”にたにた”を止めずに鼻で笑った。

 

40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:32:50.52 ID: 2bpan9uX0
  _
( ゚∀゚)「別に死なれて困るような奴なんかいねえよ。
     鬼をつかまえりゃ褒美だって出る。
     それでまだ支障があるなら、この町を出ればいいだけだ」

(´<_` )「ふうん…鬼を捕まえた後、それはどうするんだ」
  _
( ゚∀゚)「なんだ、やっぱり気になるのか?」

長岡は卓上から首の耳をつまんで持ち上げた。
振り子のように左右に振ってみせ、挑発的に笑む。
旺杜は不機嫌を露につい手が出たが、長岡はひょいと避けた。

(´<_` )「似た顔だ、気にならないわけがないだろう」

空ぶった腕をゆっくりと下げて、言い訳じみた台詞を返す。
長岡は再び、ふふんと口を吊り上げた。
  _
( ゚∀゚)「そうかそうか、気になるだけなら、
     こいつが囮に使われた後にどうなるかなんてどうでもいいよなあ」

(´<_` )「…どうなるんだ」
  _
( ゚∀゚)「目玉をえぐり、鼻と耳を削ぎ、舌を抜き口を縫い、地に埋める」

(´<_`;)「なっ!」

 

42 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:36:21.15 ID: 2bpan9uX0
通常罪人などに施す処置をこの首にしているということは、それなりの罪としての名目なのだろう。
どういう事情でこのような姿になったのか、内藤にはわからなかったが、少しだけ首に同情をした。
首だけで生きているのだから、目を、鼻を、耳を奪ったところで、死なないかもしれないのだ。
もしもそうだとしたら、ただ存在するだけの拷問のような時間が流れることになる。

ふざけるな、と旺杜が卓を叩いた。
目の前で大きな音がして、傍観者に徹していた内藤は驚いて茶をこぼした。
  _
( ゚∀゚)「ふざけてなんかねえよ。 鬼の仲間だ。 それに、死体には死体らしくしてもらわねえとな。
     それにこれは首も同意してる」

(´<_`;)「同意…?」
  _
( ゚∀゚)「そうだよ、なあ?」

長岡が話しかけながら首の猿轡をはずした。
ゆっくりと口が開かれて「はい」と短い肯定が紡がれる。

(´<_`;)「まて、何故だ、何故そう言える!」
  _
( ゚∀゚)「ははは、必死だな」

 

43 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:39:22.98 ID: 2bpan9uX0
旺杜の怒声とも呼べる叫びに、首は冷静に答えた。
けれどその声は震えている。

(  _ゝ )「私は既に死者だからです。
       私はもう、十分に生きました。 唯一の気がかりもなくなりました」

ただ、と首は切なそうに声を漏らした。
長岡に目隠しを解くようにと催促する。
拒否をするかと思えば、長岡は素直に解いた。

( ´_ゝ`)「どうか、あなたの顔をよく見せて頂けませんか」

自分で顔の向きを動かせない為、首は目だけを旺杜に向けた。
その視線を受け、差し出した長岡の腕から、ひったくるように奪う。
旺杜は恐る恐る首を自分の目線まで上げた。
首が呟く。

( ´_ゝ`)「あなたは私の弟によく似ています…本当に…そっくりです」

(´<_`;)「…ぁ……」

( ´_ゝ`)「弟は死んでしまいましたが、どうか、あなたは生きてください」

最後にあなたを見れてよかった。
首はそう言って、再び目を閉じた。

 

45 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:41:07.28 ID: 2bpan9uX0
 
 
 
無遠慮に、許可もなく戸が開けられる。
明かりもなく閉めきっていた部屋に、外からの光が侵入した。
それと同時に、静寂の中で男の声が響く。

('A`)「長岡、茂名殿が呼んでるぞーって、何かお揃いだな」

( ^ω^)「お、欝多」

茂名の使いとして役所を訪れた欝多は、長岡を指名した。
その長岡は、何故呼ばれたかを了解していたらしく、すぐに旺杜から首を奪う。
外していた布を元通りに巻きなおして、颯爽と外へ出た。
  _
( ゚∀゚)「もう準備が出来たのか」

('A`)「ああ、あとは首と、鬼が来るのを待つだけだ」

(;^ω^)「ちょっ、ちょ、何も聞いてないお。 どういうことだお?」

先を進む二人を追い、内藤が小走りに駆け寄る。
その更に後ろを、旺杜が黙ってついてきた。
欝多は呆れて溜息をついた。

 

47 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:43:54.20 ID: 2bpan9uX0
('A`)「おまえがどっかに行ってる時に説明されたんだよ。
    まあ行けばわかる」

着いたのは大通りのど真ん中。
一番広い道の、一番目に付く場所だ。
そこに、台が置いてある。

( ^ω^)「さらし台?」

通常ならば、斬った後の罪人の首を乗せて置くための台だ。
長岡はそこに首を乗せる。

('A`)「こっちだ」

欝多は近くの民家へと勝手に入っていった。
不法侵入もいいところだが、欝多の他にも何人も人がいる。
彼らは皆弓を手に、隙間からさらし台を覗いていた。
弓を持っている者以外、人数は少なかったが、剣を手に待機している。

 

48 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:44:42.90 ID: 2bpan9uX0
('A`)「鬼が首を取りに来たところを一斉に撃つんだ」
  _
( ゚∀゚)「勿論ここだけじゃねえ、四方八方からだ」

よく見てみれば、向かい側の家屋からも人が覗いている。

( ^ω^)「…本当に、こんなもので鬼が倒せるのかお」

('A`)「そんなのやってみなきゃ、誰もわかんねえよ」

信じるだけだ、と欝多は言う。
何を信じるのだろう、と内藤は思った。

自分を、明日を、神を、死んでいった者たちを。
そんなものなどいくらでも思いつくが、どれも真実ではない。

ただ、真実でなくとも、結果は現れる。

 

49 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:49:31.14 ID: 2bpan9uX0
 
__________ 
 
 
 
来るのか来ないのか、ここは安全なのか、誰も知りえない。
 

何時間が経っただろう、緊迫が緩みかけた頃、鬼は静かにやってきた。
誰もその姿を拝めなかったことなど嘘だと思えるくらい、堂々と南門から歩いてきたのだ。

それは一見少女のようだった。
しかし、誰もが鬼だと本能で理解する。
脇差が両手に一本ずつ生えていて、動きは爪を連想させるほど体に馴染んでいた。
誰も居ないことで不思議そうに辺りを見渡し、それでも中に入ってくる。

( ^ω^)「来たお」

内藤が呟くと、奥で寛いでいた欝多が窓際へ寄る。
どこまでも自由な男だったが、このときばかりは流石に、緊張からかごくりと喉を鳴らしていた。

弓がたわむ。
合図があるまで、鬼がぎりぎりまで近づくまで、確実になるまで、射らない。
息を殺し、内藤は汗ばんだ手で刀を握った。
弓が利かなかった場合、自分達が行かねばならない。

 

50 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/20(木) 00:52:18.31 ID: 2bpan9uX0
一歩一歩はまだ遅い。
だが鬼は道の先に”あるもの”を見つける。
瞬間、暗い表情が一点の曇りもなく輝いた。
そして次には、大粒の涙が瞳から溢れ出る。

(* ∀ )「アアー…アアア…」

迷子の子供が、親に会えた時のように。

(*;∀;)「ヒャアアアー! アアー!!」

鬼は両手から刃を捨てた。
両手を前に、首に駆け寄る。
”鬼”が”少女”に戻った瞬間だった。
涙を流して、顔をくしゃくしゃにして、短く長い距離を縮めようと地を蹴る。

早く、早く会いたい。

 

合図と共に、弓が唸った。

五、 鬼は鬼を呼ぶ。 人は鬼に成る。―――終

 

 

 

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