2 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 15:56:12.40 ID: U8aAaFiT0
妹の代わりはいないのだと、
君は表情もかえずに言う。
かなしくはないのですかと問うても、
不思議そうに私を見るばかり。
君はいつから人ではなくなった?
いつから、いつから君は
「あああぁぁぁああぁあああっ…あぁああああああ!」
いつから、私は
「ああっ…あああ……」
3 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 15:57:59.89 ID: U8aAaFiT0
砂緒 空(すなお くう)は叫びながら走っていた。
一つに纏めた髪は乱れ、風を切るたびに宙に舞う。
全力で走っているものだから、日も落ちたこの森の中、足場も、視界も悪く、何度も転びかけた。
しかしそんなことに構っている余裕は、持ち合わせていない。
「はっ…ああっ…あああああ……!」
時折、空は思い出したように足を止める。
一度振り返って、切なく瞳を揺らし、
誰も追いかけてこないというのに、やはり恐怖に身を縮め、逃れるように叫ぶのだ。
「あぁぁああ! ああぁあああああぁぁあああ!」
空は一つの丸い、人の頭ほどの大きさの物を抱えていた。
両手で胸の前でそれを、ぎゅうと締め付けるようにする。
そうでもしなければ、震える自分を抑制できそうにない。
4 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:00:16.63 ID: U8aAaFiT0
どれだけ走ったか、空はやっとのこと町までたどり着いた。
門にはかがり火がぱちぱちと音を立てて揺らめいている。
見張りが門を挟んで左右に一人ずつ。
叫ぶ空に気付くと、すぐさま手に持っていた槍を前方に突きつけた。
人の姿を見ると空の瞳から涙が溢れ出した。
風よりも早く疾走していた足は減速する。
ふらふらとよろめき、泣きながら近づいてくる女に、門番は仰天した。
それよりも更に、空の抱えている荷物に驚く。
川 ; -;)「ああ……」
女は、首を抱えていたのだから。
6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:02:00.91 ID: U8aAaFiT0
( ^ω^)内藤は鬼を追うようです
四、 鬼のこと、首のこと、
7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:03:44.62 ID: U8aAaFiT0
時刻は夜である。
深夜まではもう少し時間があり、内藤は非番であった。
「一体今日は何なんだお」とぶつくさ言いながら、本日二度目の役所へと訪れる。
再び、内藤は呼ばれたのだ。
_
( ゚∀゚)「よお、また会ったな」
( ^ω^)「今度は一体何だお。 今日僕は休みなんだお?」
_
( ゚∀゚)「まあそう言うなって」
さほど変わりない様子で、内藤を呼び出した男、長岡は笑う。
その隣で欝多が妙な顔つきで、頭ほどの大きさの”何かが入っている包み”で遊んでいた。
本来であればもっと人数の多いこの部屋には、今は三人しかいない。
('A`)「俺は南門の番をしてたんだがな。 その時に昨日の女がやってきたんだよ」
( ^ω^)「ああ、空殿と火糸殿のことかお」
('A`)「髪の長い方だけだ」
とすると、空の方だ。
その空がどうしたのかと、内藤は続きを促す。
8 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:05:47.35 ID: U8aAaFiT0
('A`)「泣きながらこれを置いて行って、また森の方へ掛けてったぜ」
欝多は内藤に見えるよう包みを差し出す。
元々この包みは無かったようで、布に長岡の家紋が記されている。
わざわざ隠さなければならないものだったのだ。
('A`)「この風呂敷を見てくれ。 こいつをどう思う?」
( ^ω^)「普通の風呂敷だと思うけど…何が入ってるんだお?」
('A`)「ほら、あけてみろよ」
ドクオは内藤に投げてよこし、妙に嫌なずしりとした重さが内藤の腕に伝わる。
ところどころは硬く、しかし殆どは柔らかい。
触ったことがある感触。 だが何かがわからない。
ただ、嫌な気分だけが胸にくすぶる。
腕に抱えたまま、簡単な結び目を解く。
はらりと落ちた布と共に現れた物体を目に入れて、内藤は思わず”それ”を投げ捨ててしまった。
9 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:07:43.84 ID: U8aAaFiT0
(lll^ω^)「おおおおおおっ!」
(*'A`)「うひゃひゃひゃひゃ! ばーかばーか!」
_
( ゚∀゚)「餓鬼が…」
どん、と音を立ててから、首がごろごろと床に転がる。
驚いた内藤を、欝多は指を差して笑い、その欝多に溜息をつき、長岡が首を拾い上げる。
撫でるように、顔についた塵をはらった。
(lll^ω^)「どういう…ことだお?」
見慣れているはずのものだが、急に見せられると怖いものだ。
無意味にそう確認してから、内藤は欝多に問いかけた。
('A`)「しらねえよ、女が持ってきたんだ」
(;^ω^)「持ってきたって、空殿が殺したのかお!?」
('A`)「鬼が持っていたって言っていた。
多分本当だ…だからおまえを呼んだ」
(;^ω^)「鬼…鬼が何で首なんかを…?
誰かを殺した後なのかお?」
('A`)「しらねえって、だからすぐにあの森に戻っちまったって言っただろ」
(;^ω^)「鬼がいたのに!?」
10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:11:30.73 ID: U8aAaFiT0
('A`)「そんなに心配なら追いかけてけばいいだろ」
(;^ω^)「どこに行ったかもわからないのにかお!」
_
( ゚∀゚)「あー、あー。 その女のことは置いといてだ」
二人の会話を見ていた長岡が間に入った。
嗜めるように咳払いをし、持った首の顔を二人に見せる。
_
( ゚∀゚)「もしその女の言うことが本当なら…いや、本当でなくても。
この顔を見たことがないか?」
内藤はまじまじと首の顔を見た。
顔と言っても、首なのだから顔しかみるところはないのであるが。
どこかでも見たことがあるような気がする。
どこにでも見かけるような気もする。
細い目、すらりとした鼻筋、横一文字に結ばれている口。
不健康な肌の色。
けれど痛んではいなかったし、晒し首のように血を流して、その分痩せこけた様子でもなかった。
血が流れ出ないことから、切られてからかなり経つはずなのに、
まるで、生きている時と変わりない。
11 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:13:21.16 ID: U8aAaFiT0
('A`)「物書きだろ、詩とか小説とか書いてる」
見たことのない内藤は、一歩下がって二人の話を聞いていた。
他人に興味の薄い欝多が知っていることから、有名な人だということだけは理解できる。
_
( ゚∀゚)「そいつに似ている。 似てるが違う…なあ、そうだろ」
長岡は首に向かって話しかけた。
いくら生きているように見えても、当然首は首のまま、何も喋らない。
気が狂ったのではないかと、内藤は心配してしまった。
_
( ゚∀゚)「おい、返事をしろ」
それでも長岡は”それ”の頭を叩く。
そんなことをしても意味などないのに、とうとうおかしくなってしまったのだ。
きっと日ごろの疲れからくるものだろう。
最近は役人の誰も彼もが忙しいからだ、これも鬼のせいだ。
それで鬼が持っていたと聞いたこの首に当たってしまったのだ。
ああ、可哀想に。
12 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:15:55.00 ID: U8aAaFiT0
「…なんですか」
そう、哀れみを含んだ瞳で長岡を眺めていたものだから、
内藤はこの部屋にいる三人の内、誰の声でもない、声に驚いた。
(;^ω^)「ええっ!?」
長岡からその首をひったくって、再びじっと顔を凝視した。
開いているのかわからないほどの瞳が、内藤を見返す。
あまりにも内藤が顔を近づけるものだから、首の方が参ってしまった。
( ´_ゝ`)「…なん…ですか」
やはりしゃべった。
耳をすまさなければ聞こえないほど小さい声だったが、確かにしゃべった。
首より下がないのに、生きているなど有り得ないのに、その頭は動いた。
13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:18:10.63 ID: U8aAaFiT0
_
( ゚∀゚)「これが生きてるんだな。 まったく不思議なこともあるもんだ」
(;^ω^)「どういうからくりだお?」
_
( ゚∀゚)「からくりなんかじゃねえよ。 そいつは確かに生きてる」
その首の耳をつかんで、長岡は内藤から取り返した。
机の上に置き、こちらを見させる。
内藤は戸惑ったが、それ以上に首も戸惑っているようだった。
_
( ゚∀゚)「さて内藤も来たところだし、質問をはじめよう」
長岡は小刀をちらつかせる。
自力では動けない首への威圧だ。
_
( ゚∀゚)「おまえは誰だ?」
( ´_ゝ`)「…わかりません」
問いは頭から躓いた。
14 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:19:39.43 ID: U8aAaFiT0
_
( ゚∀゚)「わからないってこたあねえだろ。 自分の名だ」
( ´_ゝ`)「とうに忘れてしまいました」
丁寧な言葉を話した。
とは言っても、畏怖している様子も、慇懃な風でもなかった。
普段から使っている言葉なのだろう。
人を使う仕事についているわけでも、使われていたわけでもなさそうだった。
( ^ω^)「なんで忘れたんだお?」
( ´_ゝ`)「誰も私の名を呼ばないもので」
( ^ω^)「それじゃあ、呼ぶときに困るお」
( ´_ゝ`)「どうぞご自由に呼んで下さい」
15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:21:14.50 ID: U8aAaFiT0
('A`)「じゃあ首だ、首なんだから、首と呼ぼう」
欝多が割って入る。
いくらなんでもそれはない、と内藤がたしなめたが、
( ´_ゝ`)「ええ、それで結構です」
と首が言うものだから、結局そのように呼ぶことになってしまった。
この首はどこまでも単調だった。
その単調さが何かを思い出させる。
一体何なのだろうと何度も首を捻って、ぽんと手を打った。
('A`)「どうした?」
( ^ω^)「いや、なんでもないお」
長岡は次々と首を質問攻めにした。
首は静かに、答えられることには答え、わからないことは正直にその旨を伝えている。
内藤はそれらの質問を流しながら聞いていた。
16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:22:48.41 ID: U8aAaFiT0
やはり似ている。
今日の昼に会ったあの鬼面の男に。
喋りが似ているから、というわけではない。
見た目や雰囲気は全く違う。
だが、何かが似ているのだ。
それは恐らく”あきらめ”といった種類のものだと内藤は思った。
自分ではどうすることもできない、手を伸ばしても、距離は縮まらない。
諦めるしか方法はない。
だから、諦めた。
昨日の鬼面は、内藤を殺すことを。
それならば、この首は何を諦めたのだろう。
17 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:25:40.39 ID: U8aAaFiT0
('A`)「それじゃあ、鬼は一体なんなんだよ」
長々としていた質問が、ようやく確信についたので、内藤は顔を上げた。
首はやはり淡々と答える。
だがその声が震えはじめていた。
( ´_ゝ`)「…私の義妹です」
('A`)「妹?」
ええ。 と首は瞳を伏せる。
一旦呼吸を落ち着かせ、それから再び口を開いた。
( ´_ゝ`)「捨てられているところを、拾いました。
そして、あの子の心に鬼が潜んでいることも知らず、私は育てました」
首しかないのに息をするものなのだろうか、と内藤は考えながら聞く。
( ´_ゝ`)「はじめは、良かったのです。
何事もなく、すくすくと育ちました。
しかし、あの子の鬼は、消えてはくれませんでした」
喋ることに疲れているようだった。
話の途中で何度も息継ぎをし、時々顔を顰める。
けれど首は止めなかった。
何かに追われているかのように。
持っていない臓器全てはどこかにあって、それを吐き出してしまいたいかのように。
18 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:28:01.05 ID: U8aAaFiT0
( ´_ゝ`)「私が目の前で死んでしまったが為に、あの子の鬼が目覚めてしまいました。
その場にいるものを全て殺し、私を持って、あの子は…」
_
( ゚∀゚)「まて、何故こんなに人を殺しまくってるんだ」
( ´_ゝ`)「あの子は、私の弟を恨んでいるようでした。
弟のせいで、あの子は危ない目にあったのだと、
弟のせいで、私が死んでしまったのだと。
…あの子は、弟に似ている者を探しては殺しているのです。
もう既に、弟の顔など、覚えてはいまいに」
首は大きく溜息をついた。
そして小さく、一言だけ添えた。
( ´_ゝ`)「あの子は、私には止められません…」
体がないのだから仕方のないことだった。
今までも首はあれこれ言っていたのだろう。
けれどどれも聞き入れてはもらえなかったのだ。
口を塞がれてしまえば、首に出来ることは何もない。
19 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:30:00.98 ID: U8aAaFiT0
( ^ω^)「…ということは、首殿の弟さんはまだ生きているのかお?」
内藤の疑問に首が答えかけた時、扉が乱暴に叩かれた。
「どうぞ」と長岡が答えると、不機嫌そのものの男が中に入ってくる。
(´<_` )「こんな時間に呼び出して、役人っていうのは一体何を考え…」
男、旺杜(おうと)は入ってすぐ息を飲んだ。
首と目があって、旺杜の細い目が見開かれる。
首が置いてあることに驚いているようではなく、その首の顔形に驚いているようだった。
_
( ゚∀゚)「ああ、ようやくきなすったか」
旺杜の反応に、長岡は気分がよかった。
役人というのは、中にはぶらぶらと何もせずにいるものも居るが、
長岡はその全く逆で、悪いことや、いざこざがあると首を突っ込みたくなる性分だった。
そのせいで、よく「早死にするよ」と言われるが、長岡はそれを止めずにはいられない。
一種の趣味だからである。
20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:33:48.40 ID: U8aAaFiT0
なので、子供が嘘を見抜かれたような顔をした旺杜に、嬉々として挨拶をした。
旺杜はすぐに、その表情をいつもの無表情に戻したが、
狼狽しているのは傍から見ても明らかだった。
(;^ω^)(うわあ、本当に似てるお。 兄弟みたいだお)
やっとのこと内藤は、何故長岡が「この顔を見たことがないか」と質問したのかがわかった。
あまりにもその顔が酷似していたのだ。
しかし、長岡が何かを旺杜に問いかける前に、
( ´_ゝ`)「私の弟は既に死にました。 その方は…弟に似ていますが、別人でしょう」
と言うものだから、旺杜は目から鱗が落ちたような顔つきになってしまった。
そして今度は内に秘めることなく冷静そのものに、
対して長岡は苦りきった表情をする、折角の悪戯が失敗したのだ。
21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:37:14.67 ID: U8aAaFiT0
(´<_` )「で、用件は何だ?」
_
( ゚∀゚)「この顔を、見たことがないか?」
(´<_` )「そうだな、鏡を見るとたまに見るな。 …それだけか?」
旺杜の答えに、欝多はふひひ、と癪に触る声で笑う。
内藤が窘めるものの、その笑いは止まりそうにない。
_
( ゚∀゚)「お前には兄弟がいるはずだ、それの誰かじゃないのか」
(´<_` )「いいや、俺に兄弟はいない。 死んだ妹が一人いるだけだ」
問答は平行線を辿る。
旺杜の一挙手一投足は自然で、嘘をついている様子はまるでない。
その様子を、ただじっと、首が見ているだけだった。
22 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:39:29.61 ID: U8aAaFiT0
二人分の茶を汲んで、長岡の饅頭を出してくる。
ほう、と一息ついたところで、欝多が「なあ」と内藤をつっついた。
('A`)「役人ってえのは、暇でよくねえなあ」
内藤に確認のために問いかけているのか、それともただの独り言なのか、微妙な語調だった。
けれど、突付いたのだから、内藤に話かけていることだけはわかる。
( ^ω^)「何のことだお?」
('A`)「ありゃあ鬼の”大切なもん”なんだろう。
もし俺が”大切なもん”を奪われたら…ただじゃあおかねえけどな」
(;^ω^)「…それって…」
生首が動くという衝撃的なことに気を取られて、全く考えもしなかった。
だが確かにそうだ。
こうやって三年間も一人の男を探し、殺し続けてきた者が、奪われたままにしているはずがない。
25 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:43:21.59 ID: U8aAaFiT0
('A`)「今夜は荒れるかもな。
本当…役人は平和ぼけしてて、よくねえなあ」
言葉とは裏腹に、欝多は楽しそうだった。
茶を啜り、饅頭を口に含む。
(;'A`)「ごえええっ! まずうっ!」
( ^ω^)「やっぱり」
(;'A`)「知ってたんなら出すなよ! こんなまずいの!」
( ^ω^)「これしかないし、いいかなと」
(#'A`)「まずいならまだ食わねえほうがましだぼけっ!」
(;^ω^)「ああっ、およしになって」
食べかけの饅頭を内藤に投げた。
ああ勿体無い、食べ物は粗末にしてはいけないのにと拾い上げる。
27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:46:37.85 ID: U8aAaFiT0
('A`)「食うのか?」
( ^ω^)「流石に食べれないお」
砂のついてしまった饅頭を、芥箱に投げる。
弧を描いて落ちた先を、恨めしそうに見ている目に欝多は気付いた。
('A`)「何だ、食いてえのか?」
( ´_ゝ`)「………」
首は物欲しげに欝多を見上げ、小さく頷く。
近づいた欝多は、にたりと笑って
('A`)「ほら、やんよ」
( ´_ゝ`)「っ!」
顔に、唾を吐いた。
29 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:48:54.01 ID: U8aAaFiT0
(;^ω^)「欝多! 何をするんだお!」
('A`)「何って、唾はいただけだけど」
(;^ω^)「人に向かって最低だお!」
('A`)「人じゃあねえだろ、そんなのよ、饅頭なんて洒落たもの食わなくたって良いだろ」
(;^ω^)「欝多!」
( ´_ゝ`)「いえ、いいんです。 確かに私は死人ですから、物など食べなくとも…」
内藤は手拭きで首の顔を拭いた。
そして食べやすいように、一口大に千切った饅頭を首に与える。
「まずい」と内藤も欝多も言ったが、首は何とも美味しそうにした。
30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:50:45.31 ID: U8aAaFiT0
何度も何度も咀嚼し、味を噛み砕いて味わう。
無くなってもずっと噛んでいるので、
( ^ω^)「こんなので良いなら、まだまだあるから、無くなったら言うお」
と内藤が言うと、首はおずおずと、「もう一口いただけませんか」と返した。
再び内藤が欠片を与える。
嬉々としてそれを食す。
次第に、首の目尻からほろほろと涙が零れた。
(;^ω^)「ど、どうしたんだお。 喉に詰まったのかお?」
( ´_ゝ`)「いいえ、いいえ…。
こんなに美味しいものを食べたのは久しぶりです」
首は涙を流しながら微笑む。
( ´_ゝ`)「久しぶりに…人以外を食べました」
32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:52:38.51 ID: U8aAaFiT0
静かに流れた涙は、そのまま頬を伝って机に落ちる。
乾いた板に染みこんで、何も無かったかのように消えていく。
その一言によって訪れた静寂は、長岡が溜息をふぅとついて吹き飛ばした。
_
( ゚∀゚)「兎に角、こいつの処理は上に聞こう」
それじゃあご苦労だったな、帰って良いぞと、
今度は追い払われた旺杜は、部屋から出る際に一度、首を見た。
首も旺杜の視線に気付いて見上げる。
数秒間だけ見つめあって、旺杜は唇を血が出るほど噛み、帰っていった。
33 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:56:05.86 ID: U8aAaFiT0
________________________
欝多の言ったとおり、その夜は悲惨なものだった。
門と、中に数名配置するだけではなく、
役人と茂名一家の半数近くが町を埋めていたのに、
鬼はいったいどこからくるのか、するりするりと、その包囲網をくぐりぬけるのだ。
その夜の中、通りから少しはずれた、暗がりを巡回していた時に、
一人の女が内藤の名を呼びながらかけてくる。
ζ(゚ー゚;ζ「まってください、内藤さま!」
( ^ω^)「麗子殿、どうしたんだお? 今出歩くのは危ないお」
大層美人なこの女は、内藤の許婚だった。
欝多は面白くないと言いたげに舌打ちをする。
35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 16:58:56.68 ID: U8aAaFiT0
ζ(゚ー゚;ζ「いいえ、家に居たところで危険なのには変わりませぬ。
足手まといにならぬよう致しますので、どうかお傍に置いて下さいまし」
( ^ω^)「いくらどちらも危ない言っても、確立の高い方には置けないお。
もし僕の役に立ちたいなら、家の安全なところにいて欲しいお」
ζ(゚ー゚*ζ「しかし…!」
( ^ω^)「麗子殿。 僕は皆を守りたいんだお。 もちろん麗子殿のことも」
ζ(゚ー゚*ζ「…わかりました。 おつとめ中お邪魔してしまい申し訳ございません」
小さな体が、更に小さく見えた。
さびしそうに帰っていく背を見つめる内藤を、欝多はやはり、叩く。
36 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 17:00:39.78 ID: U8aAaFiT0
('A`)「けっ、いらねえなら俺にくれりゃいいのに」
(;^ω^)「欝多!」
('A`)「あんな女何とも思ってないくせに、いけしゃあしゃあと」
(;^ω^)「………」
('A`)「誰だっけね、津出だっけ? お前の好きなやつは」
(;^ω^)「…言うなお」
二人はそこで会話を一旦やめた。
遠くに聞こえる声に、足音に、耳を済ます。
38 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 17:04:28.50 ID: U8aAaFiT0
走っている。
誰かが走っている。
ばた、ばた、と遠くで複数名が走っていた。
そして止まると同時に、叫び声がする。
止んだと思えば、今度は再び怒声が聞こえる。
騒がしい夜だ。
('A`)「こんなんじゃ誰も寝れねえなあ」
( ^ω^)「寝てない方が安全なんじゃないかお?」
('A`)「何言ってるんだ、寝てれば恐怖を味わうことなく楽に死ねるのに」
確かにそうなのかもしれない。
腕に自信のあるものならともかく、
刀など握ったこともない一般人ができることと言えば、家族で肩を寄り添って震えることくらいだろう。
包丁なんかで対抗してみることも可能だが、殺人鬼に敵うはずもない。
( ^ω^)(さっさと…死ねば良いお。
それか、弟を殺して消えてしまえば良いお。 ついでに…)
ついでに、裏に、少しだけ残酷な意味を含ませて、内藤は思った。
そしてそれは叶ってしまうことになる。
40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/09(日) 17:08:39.80 ID: U8aAaFiT0
朝日に空が白ける頃、ヒャア、と甲高い声が町中に響いた。
遠吠えのような声は泣いているようだった。
死んでいる母猫の前でずっと鳴いている猫を、内藤は思い出す。
いくらその声を探し出そうとしても、内藤は見つけられなかった。
すぐ近くにいるはずなのに、どこにいるのか、正確な場所がわからない。
仔猫は、とぼとぼと南門へと歩いていく。
体を真赤に染め上げて、泣きながら歩いていた。
ヒャア、ヒャア、と、掠れた声を出す。
内藤は、夜中駆け回ってみたが、結局鬼を発見できなかった。
鬼ごっこをするには、この町は些か広すぎた。
見つけても、自分が倒せるかどうかもわからないけれど。
大量の死体に、とりあえず、悲しそうな顔だけしてみた。
残念ながら涙は出なかった。
四、 鬼のこと、首のこと、―――終