2 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 20:44:22.06 ID: ompFJRrF0
通りの端と端に、女が二人。
片は後ろに一本、長い髪を結んだ女。
男勝りな格好なれど、その美麗さは花をも霞ませる。

ノハ*゚听)「ねえさぁぁぁああぁぁぁぁあああん!!!」

その女を、もう片方の女は呼んだ。
距離としては遠く、米粒ほどにしか見えやしない。
けれど心で通じ合うのだ。

川 ゚ -゚)「火糸!」

女はすぐさま振り向いた。
涙目に走りよる女に気付き、硬く結んだ唇を綻ばせる。

ノハ;凵G)「ねえさぁぁぁああぁぁぁぁあああん!!!」

川 ゚ -゚)「よかった。 どこへ行っていたのかと…」

空(くう)は胸に飛んできた火糸(ひいと)を抱きしめる。
泣きじゃくる妹を宥め、頭を撫ぜる。

ノハT儺)「ねえさぁぁぁああぁぁぁぁあああん!!!」

川 ゚ -゚)「おまえ臭うな。 風呂入れ」

えんがちょ。 と、空は唱えた。

 

3 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 20:45:46.02 ID: ompFJRrF0
 
 
 
火糸により事情を説明されると、女は無駄の無い動作で頭を下げた。
頭を掻いた内藤の横で、欝多が「ほお」と声を上げる。

川 ゚ -゚)「礼を言う。 妹が世話になった」

( ^ω^)「世話になったと言うほ―――」

('∀`)「いいんだよ、どうせ暇をしてただけだしな」

(;^ω^)「欝多、し―――」

('∀`)「ところで、もう宿は決まってるのかい?
    よかったら一杯やってかないか」

(;^ω^)「おい欝―――」

川 ゚ -゚)「いや、気持ちだけ受け取っておこう」

そしてもう一度軽く頭を下げた。
すぐに立ち去る様子を見せた空に、火糸は大袈裟に驚いてみせる。

ノパ听)「ありゃ? ねえさんが酒を断るだなんて、明日は氷でも振るんじゃないか?」

 

4 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 20:48:37.21 ID: ompFJRrF0
酒とみれば、どんな種類だろうと見境なしに飛びつくざる女が珍しく酒を断った。
空を良く知る火糸が見れば、妙すぎることなのだ。
何度も首を傾げ、顔を覗いてくる火糸に、やれやれと首を振る。

川 ゚ -゚)「今日は既に酒の世話になったからな」

空は一人で納得し頷いて、整然と歩いていく。
火糸は空の普段との違いを不思議に思いながらも、追って去っていくのだった。

('A`)「けっ、なんだあの女。 すかしやがって」

( ^ω^)「下心ありありな顔で言い寄られたら誰だって引くお」

('A`)「はいはい、相手のいるやつは良いですねえ」

皮肉をたっぷりとぬった口調で帰路につく欝多の後に、内藤は続かなかった。
日の暮れる頃なので、内藤もそろそろと思ったのだが、どうにも心が騒いだのだ。
欝多が通りを曲がり、その姿が見えなくなるまで、目で追う。
見えなくなってからは、自分の立っていた風橋(かざばし)から下流の遠く遠くを見つめていた。

 

5 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 20:49:56.26 ID: ompFJRrF0
 
 
 
 
 
( ^ω^)内藤は鬼を追うようです

  三、 既に
 
 
 
 
 

6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 20:51:33.20 ID: ompFJRrF0
鬼だ。 と誰もが呟いた。
お天道様の眩しいばかりの日差しを受けて、鬼が堂々と道を歩いている。
隆隆たる肉体が一歩を踏み出すたびに、道行く人は恐れ、室内に隠れた。

武威風国、この町の南門から、茂名の屋敷まで通じる大通りを通り、鬼はまっすぐ屋敷へ歩いていく。
その足取りは堂々としているが、静かな怒りに満ちている。

鬼の前に、役人が立ちふさがった。
右手を刀の柄に当て、いつでも抜刀できる姿勢をとる。
  _
( ゚∀゚)「おい、おめえ、止まりやがれ」

役人の名は長岡という、低い声のよく通る男だ。
男は役人のうち同心を務めていたが、この町では役人の半数は茂名一家から選抜されている。
殆ど茂名一家の仕切る場だと言っても間違いはない。
例に漏れず、長岡も茂名一家の一員だった。

(=(   )「………」

鬼は何も言わなかった。
ただその面の奥で、目だけをぎょろりと動かして長岡を見下ろした。
仮面にある、小さな二つの穴を、長岡つきの小者が十手を手に睨む。

( ><)「止まれと言っているんです! 聞こえなかったんですか!」

 

7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 20:53:55.89 ID: ompFJRrF0
(=(   )「………」

鬼が左手を鞘にかけたことで、小者が鬼の前へと飛び出した。
長岡は小者を止めようと柄にかけていた手を慌てて離したが、
 _
(;゚∀゚)「あっ、こら待て!」

(;><)「え……?」

その隙もなく。
何が何だかわからないと言った顔つきで、小者は違和感に下を向いた。

腹が裂けている。
横に一筋、何かが滴っている。
気付き見上げれば、鬼が刀を振るった後だった。

 

8 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 20:56:03.48 ID: ompFJRrF0
(=(   )「………」

(;><)「………う…」
 _
(;゚∀゚)「おい! 大丈夫か!」

痛いというよりも先に、熱い、と小者は叫んだ。
叫んで、しりもちをついた小者の顔に、鬼は冷ややかに切先を当てる。
人質を取られ、長岡は身動きが取れなかった。
それでも、鬼が何かしようものならすぐに動けるようにと構える。

だが鬼は声を上げたのだ。

(=(   )「内藤地平という者をご存知ですか?」

乱暴な刀捌きとは裏腹に、至極丁寧な口調だった。

 

9 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 20:58:06.81 ID: ompFJRrF0
__________ 
 
 
無駄に広い茂名の屋敷だが、内藤は寝泊りを離れでいている。
内藤だけではなく、茂名に仕える侍の殆どはここで暮らしている。
家庭のある者は町で自分の家を持っていたりするが、内藤にはそれがなかった。

( ^ω^)「はぁ」

特に意味も無く、内藤は声に出して溜息をつく。
本日は珍しく非番であった。
だからといってやることもなく、縁側に出て、日の光の下だらだらと本を読む。
以前に「流行りだから」と、許嫁に押し付けられた、何冊もの本。
詩や小説ばかりの内容だったが、文字が苦手な内藤は、それを読むのにすら苦労する。
適当に開いた面から読み始めた。 詩だった。

( ^ω^)「ええと…『君の―――」

 

10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 20:59:07.13 ID: ompFJRrF0
 
  君の振るう刀はなにを求めているのだ。
  君の求める力はなにを護ろうというのだ。
  わたくしには君自身を殺めているようにしかみえず、
  ついに君を知ることができない。

  空を遮る格子の向こう、
  沈む湖面の更に下、
  君は忘れていまいか。 わたくしを、わたくしを、

  君はどこへゆくのか、
  その刀でどこへゆくのか、
  道を切り開かずともよいではないか、
  わたくしの隣では不満か、
  先を急かねば不安なのか。

 

  わたくしは、わたくしはこわい。

  わたくしの引いた手を振り払って、
  君はわたくしの手を引いて、
  いつのまにか、君の両手は力だけを連れている。

  君はその刀でわたくしを斬り、
  ぬれた手でわたくしを抱く。
  ひとつの涙も流さぬままに、
  そうしてわたくしを捨てるのだ。
 

 

11 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 20:59:43.74 ID: ompFJRrF0
まず始めの詩を、たどたどしくも読んだ。
最後まで読んでから、もう一度読み返す。
「切ないの」
と言った許嫁の言葉を思い出し、どこがどうなのか、理解しようと更に一度。
けれど挙句、

( ^ω^)「……わからんお」

とだけ呟いて、放り投げてしまった。
ごろんと寝転ぶ。
そしてまた、別なことを考える。

ああやってあの森に出向いてはみたものの、現れたのは偽者の鬼のみ。
本当にあの森にいるのかすらわからず、
先日会った姉妹と違って、自分にはそこまでして鬼を追う理由もなし。

―――やはりここは、お上に任せるのが適当だ。

よくよく考えずとも、三年間も逃げ通している鬼を捕まえるなど到底無理なのだ。
昨日一昨日は、久しぶりに血の臭いを嗅いだ所為で、神経が高ぶっていただけだろう。
そのせいで少しばかり、無謀なことを考えてしまっただけだ。

だがその神経も、寝て起きれば落ち着き払っている。
内藤は結局のところ、普通の人間と同じく、卑怯にもそこに落ち着いた。

 

13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:01:58.04 ID: ompFJRrF0
 
「内藤! おおい、内藤!」

塩梅よくひとりごちた矢先、男の声が自分を呼んだ。
折角横にした体を持ち上げて、見えぬ声の主へと声を重ねる。

( ^ω^)「なんだお!」

すぐに、主はやってきた。
なんだここに居たのか、あの女嘘をつきやがって。
と、小言を言いながら、ではあるが。
  _
( ゚∀゚)「内藤、おめえに客だぜ」

( ^ω^)「客? 僕にかお?」
  _
( ゚∀゚)「ああ”内藤地平” 間違いなくおめえに客だ」

 

14 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:04:17.91 ID: ompFJRrF0
何ともうきうきと言うものだから、
それに相応しくうきうきとした内容なのだろうと内藤は思った。
しかし長岡に連れられて行った役所には、一人のどでかい男が居るばかり。
男は縄で縛られ身動きが取れない上、何人もの役人に、常に刀を向けられている。

(;^ω^)「どういうことだお?」
  _
( ゚∀゚)「そういうことは本人に聞きな。 俺はただ鬼を捕まえただけだぜ」

( ^ω^)「……鬼?」

長岡は、床に落ちていた鬼の面を拾い上げ、内藤に投げた。
これはまさしく昨日出合った鬼面どもと同じもの。
この男が、鬼面の仲間だと容易に結びついた。

 

16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:06:27.66 ID: ompFJRrF0
( ^ω^)「僕に何か用ですかお? 鬼面殿」

(  ^^)「はい」

( ^ω^)「それは―――」

(  ^^)「貴方を殺しに来たのですが、無理でした」

物騒なことを高揚なく語る男に、内藤は困惑した。

単純に考えると、昨日の一件できたのだろう。
たしかに内藤は五人を、正しくは二人と一人を斬った。
内一人は、恐らく死んだ。

だが一人死んだくらいで、のこのこと町までくるほど賊は暇でも馬鹿でもないだろう。
あんなことをしているのだから、いつ斬られても不思議ではない。
命などとっくに捨てているはずなのに。

 

17 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:08:40.38 ID: ompFJRrF0
  _
( ゚∀゚)「用件はそれだけか?」

(  ^^)「ええ、それだけです」
  _
( ゚∀゚)「そうか。 ―――連れてけ」

長岡が言うと、役人はすぐに男を引っ張り上げた。
さして抵抗もせず、男は静かに歩いていく。
男は内藤とすれ違い様に、会釈をした。

―――用件は済みました。 それではさようなら。

殺しにきたというならば、それに相応しくどろどろとした感情があるはずだ。
なのに男は淡白だった。
無理だったから、はいそうですかと諦めるような奴は、恨みからの人殺しなどしない。
役所の外で、町人に石を投げられていたが、尚も男はあっさりとしている。

そんな男に内藤は戸惑った。

 

19 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:10:59.06 ID: ompFJRrF0
(;^ω^)「長岡殿、鬼が捕まったと言ったけど…」
  _
( ゚∀゚)「ああ、だが今話題の鬼じゃねえだろ」

( ^ω^)「お?」
  _
( ゚∀゚)「そんなの見りゃわかる。 誰でもわかる」

饅頭を勧めながら、長岡は続ける。
内藤は、小者の差し出した茶を飲み、饅頭を頬張った。 美味くない。
なんとなしに小者を見たら、気付いた小者が一礼をした。
胸に不自然に布を巻いている。
  _
( ゚∀゚)「あんなのに斬られるのは、平和ボケした平民か、よっぽどのドジだけだ」

そう言って、長岡は小者をちらりと見た。
申し訳なさそうに縮こまっている。
  _
( ゚∀゚)「刀の使い方が素人だった。 農民あがりだろう」

( ^ω^)「…多分、こないだの内乱で焼かれた村の一人じゃないかお」
  _
( ゚∀゚)「ああ、そんなのあったな。
     まあ、鬼のつらで堂々と町を歩いた上に、喧嘩まで仕掛けてきたんだ。
     町人の目もある。 奴が今まで何してきたかはしらんが、死刑だな」

( ^ω^)「でも本物の鬼じゃ…」
  _
( ゚∀゚)「おめえは馬鹿だ、奴だって鬼だよ」

 

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:13:26.42 ID: ompFJRrF0
長岡は鼻の先でせせら笑う。
むっと顔を顰めた内藤に、長岡は再び饅頭を勧めた。
そういえばこの男、人に勧めるばかりで自分は口を付けようとしない。

( ^ω^)「どこが鬼だっていうんだお? あいつは人間だお」
  _
( ゚∀゚)「なら、おめえの中でどういうのが鬼なんだ?」

( ^ω^)「どういうのって…赤い体、頭には角、口には牙、指には鋭い爪…」
  _
( ゚∀゚)「そんな奴いるわけねえだろ」

( ^ω^)「じゃあどんなのが鬼なんだお」

内藤は身を乗り出した。
反対に長岡は外方を向く。
  _
( ゚∀゚)「さあな」

(;^ω^)「え?」
  _
( ゚∀゚)「おめえに言ったって無駄だろうからな。
     さあさ、俺は忙しいんだ、早くどっか行け」

 

21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:15:58.40 ID: ompFJRrF0
長岡は立ち上がって、内藤をしっしと手で払う。
本当に忙しくて追い払うのではなく、面倒くさくてそうしているように見えた。

(;^ω^)「ちょ、ちょっと待てお!」
  _
( ゚∀゚)「そんなに知りたいなら、ほれ、これを貸してやるよ」

机の上に無造作に置いてあった物を長岡の差し出した。 真新しい本。
しかも先ほどまで、ほんの少しではあるが読んでいた本と同じものだ。

( ^ω^)「ああ、これ持ってるお」
  _
( ゚∀゚)「そうかいそうかい。 なら良いか」

渡そうとした本を、再び机に放り投げる。
これが鬼と何の関係があるのか、と内藤の顔に書いてある。
何かを言い出す前に、長岡は口を開いた。
  _
( ゚∀゚)「最後まで読めばわかる」

 

22 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:17:05.32 ID: ompFJRrF0
まあ文学なんぞ苦手中の苦手なおめえにわかるかどうかは別だよな。
笑いながら言った長岡の言葉を思い出して、内藤は帰路につく。
最後まで読んだところで、わかるようなことなのか。

許婚の女は、この本を切ないやら恋愛だどうのだのやらと、内藤に言葉の雨を浴びせた。
だが、長岡は鬼がわかる、と言うのだ。
双方に繋がりがあるとは思えない。

帰宅した内藤はもう一度本を見る。

表紙の中央には、こぢんまりと「詩集」の文字だけがある。
表題は特にないのだろう。
そういえば、先ほど読んだ詩にも題はなかった。

詩集の文字の下には、作者の名前が、これまた小さく書いてある。
その隣には林檎社、と、出版社の名が書かれていた。

内藤は作者の名を眺めた。
三年前に、ただ一人で武威風国に越してきた、刀を一本提げている物書き。
文学、芸術、そういう系統は何もわからぬ内藤でも、名前だけは聞いたことがある。

しかしながら、何となくではあるが、頭の隅に引っかかったのだ。

 

24 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:20:08.90 ID: ompFJRrF0
__________ 
 
 
 
空は通りがかりに、ふと、とある店に気がついた。
もしやと思い、かかっている暖簾の下から店内を除き見る。
視界に入ったのは背だけだったが、予想通りに居た。
旺杜(おうと)という、腰から一本の刀を提げている男だ。

川 ゚ -゚)「やあ、また会ったな」

空は旺杜に声をかけた。
それも、前回と同じ居酒屋、昨日と同じ席に男はいた。
馴染みの店なのだろう。

(´<_` )「ああ、ええと…誰だったかな」

始終俯き気味だった旺杜は、顔を少しだけ上げて空を確認した。
かなりの量を飲んでいるらしく、旺杜の目の前にはごろごろと空の容器が転がっていた。
それでも男の顔には一滴の酒の影も見えない。

川;゚ -゚)「昨日会ったばかりだというのに、忘れられるとは」

ノパ听)「ねえさん、知り合いかい?」

川 ゚ -゚)「ちょいとな」

 

25 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:22:21.47 ID: ompFJRrF0
二人の女を横目で見るとすぐに顔を逸らし、壁ばかりをじっと眺める。
自然な動作からは、男が毎日そうしていることが窺い知れた。

(´<_` )「妹を探していた酔っ払いか。 見つかってよかったな」

興味なさ気につぶやくと、旺杜はぐい、と酒を飲み干した。
それきり、二人を知らぬもののように黙りこんでしまう。
する話題がないというよりも、それ以上会話をする理由がない、といった風だった。

川 ゚ -゚)「小耳に挟んだんだが、あんた小説家なんだろう」

ピクリと耳を動かしたが、答える素振りはない。

川 ゚ -゚)「いやなに。 私もあんたの本の愛好者の一人なんだ。
     本物に会えて嬉しくてな」

握手をと伸べた手を、旺杜は取らない。
困ったように空は微笑んで、その手を引っ込めた。
間で、火糸が二人を交互に見比べる。

川 ゚ -゚)「ただ一つ聞きたいことがあるんだ」

 

26 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:26:36.54 ID: ompFJRrF0
(´<_` )「…なんだ」

川 ゚ -゚)「あんたの”弟”は鬼になったのか?」

空の問いに、旺杜ははっと顔を上げる。
見開かれた瞳は、空の視線と重なった。

(´<_` )「………」

暫く見詰め合った後、旺杜は気まずそうに目を逸らし、店主に酒を頼む。
男の飲んでいる酒の量は、目の前を埋め尽くしかけていた。
酒がきてから、かなりの時間を置いて旺杜は答える。
消え入りそうなほど小さな声だった。

(´<_` )「…ああ、なったよ」

川 ゚ -゚)「そうか…」

(´<_` )「あんたも鬼になろうというのか? 止めとけよ」

川 ゚ -゚)「ご忠告ありがたくお受けする」

 

27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:29:33.36 ID: ompFJRrF0
けれど、と空は続ける。

川 ゚ -゚)「もう遅いんだ」

慈愛に満ちた微笑みだった。
その笑みを旺杜が見ることはない。
すぐに空は火糸を連れて出て行ってしまったのだ。

(´<_` )「もう、遅いか…」

二人がいなくなってから、旺杜は壁に向かって呟いた。
いくら飲んでも、いくら飲んでも酒に酔うことはない。
酔えない事実に落胆し、後悔に身を焦がす。

 

世間を震わす化け物の、
鬼は自分か、それとも他者か。

頭を抱え考え込んでも、ただただ胸が苦しいばかり。

 

29 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:32:00.13 ID: ompFJRrF0
__________ 
 
 
 
ざく、ざく、と土を踏む。
道から離れ、かなりの時間が経った。
木々が密集しているため足場も良くない。 足が少し痛む。

川 ゚ -゚)「もう少しかな」

ノパ听)「どうなの? 本当に鬼なの?」

川 ゚ -゚)「あれは鬼だった、私が見間違うわけがない」

ノパ听)「うん、鬼を見たことあるのはねえさんだからね、信じるよ」

徐々に暗くなってきた。
今では橙の光が空を支配している。

川 ゚ -゚)「この辺で見失ったんだ…あとは探すしかない」

二人は狭い川にぶつかった。
急なではなく、なだらかな、ゆったりとした流れだ。
透明な水が、真赤に染まっている。
不吉だと火糸は思い、今の自分に相応しいと空は思った。

 

30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:36:20.75 ID: ompFJRrF0
川 ゚ -゚)「手分けして探そう。 鬼を見つけたら一度ここへ戻ってきて体勢を立て直す。
     見つからなくても、日が暮れる前にはここに」

ノパ听)「もし先に鬼に見つかったら?」

川 ゚ -゚)「倒せそうなら倒せ、無理だと思ったらすぐに逃げろ」

ノパ听)「わかった」

頷いて、二手にわかれた。
日が暮れる前と空は言ったが、そんなに時間はないだろう。
ここに来るまでに時間を使いすぎた。

なるべく気を張って、足音を立てないように歩く。
何の気なしに歩いていた普段と違って、意外と疲れる。

川 ゚ -゚)(火糸は大丈夫だろうか)

あの子は馬鹿だから考えなしに突っ込んでやしないか。
もっと色々言っておけばよかった。
なるべく周囲全てを視界に入れられるように、首を何度も振りながら考える。

川 ゚ -゚)「………?」

ついに、遠くに不自然なものを見つけた。
恐る恐る近づいていく。
足元で枝や木の葉の潰れる音を聞くたびに、念のため足を止める。

相当な時間をかけて辿りついた。

 

31 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:38:09.37 ID: ompFJRrF0
川 ゚ -゚)(小屋…?)

誰も訪れなくなってから久しい、壊れかけている小屋だった。
その中から何かの気配がする。 人か、獣か、それとも鬼か。

川;゚ -゚)「………」

息を殺して、更に近づいた。
そっと小屋の扉に背を付けると、気配は笑い声へと変わる。
高い、女の子供の声―――間違いない、鬼だ。

その声を聞いた瞬間、空の心臓は止まりそうなほど早鐘を撞いた。
緊張だけではない、不快感や憎悪、恐怖、すべてを含んだ結果だ。
二年の歳月を経て、忌々しい思い出が蘇る。

戸の隙間から空は覗き見た。
人ばかりを殺している鬼の、快楽者の顔を、再び拝んでやろうと。

 

32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:39:30.02 ID: ompFJRrF0
小屋の中は生臭かった。
魚介類の生臭さではなく、血の臭い。 それも、人の。

鬼は獲物を持ち帰ってきたところらしい。
若い男と思わしき物体を、脇差で裂いている。
かなり手馴れていた。
それもこれも、何年も同じことを続けているからだ。

”食べやすい”大きさに肉を切った。 だがこの肉は置いておく。
次に、部屋の隅に置いてあった、布で包まれた物を手に取った。
何重にも、幾重にも包まれている布を丁寧に取り外す。

人の生首が出てきた。
暗くて、その容姿は見えない。

鬼は大事そうに生首を持ち上げた。
抱きかかえ、さきほど切った肉を生のまま自分の口に含む。
そして、生首に与えた。

 

33 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/03(月) 21:42:27.56 ID: ompFJRrF0
川;゚ -゚)(ぐ…)

見ている空が吐きそうになる光景だった。
けれど、そんなものは序の口。
次に垣間見た時、空は生首と目があってしまったのだ。
人形がこちらを見ている気がする、ではなく、
生首の目玉が確かに動いて、扉を、空を見た。

川;゚ -゚)(なっ…)

驚愕した。 心底驚いた。
生首が動いたという理由もある。
けれど、本当に驚いたのはそれだけではない。
見知った男の顔と同じだったのだ。

川;゚ -゚)「旺杜殿!?」

叫んでから慌てて口を押さえた。
もう、遅かった。
 
 
 
 
三、 既に―――終

 

 

 

 

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