2 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:03:01.31 ID:8ajze95x0
内藤は茂名のだだっぴろい屋敷に住んでいる。
欝多も、同じく茂名の屋敷に住んでいる。
茂名の屋敷は、武威風国にあるこの町のど真ん中より少し北に位置していた。
これまたでかい屋敷の門をくぐり、しばらくまっすぐに歩くと、この町で一番賑わう表通りに出る。

通りから少し東へ歩くと、西の山から流れる川の支流のまた支流にかかる、
朱に塗られた小さな架け橋、風橋(かざばし)がある。
一人の女が中央で、水に移った自分を見つめるように、俯き気味にぽつんと立っていた。

この橋を過ぎれば、内藤の目的地である薬屋につく。
連なっている長屋の一番奥の暖簾。
内藤がくぐろうとすると、欝多が

('A`)「ああ、俺はここで待ってるわ」

といったので、しかたなく一人でこの薬屋へと入っていった。
元々欝多が薬だの何だのが嫌いだというのを内藤は知っていたので、
無理強いするのも面倒だからである。

 

 

3 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:04:45.75 ID:8ajze95x0
この薬屋を再び訪ねたのには訳があった。
史余(しよ)に”あの森に鬼がいる”と聞いたものの、
あの森のどこにいるかがわからない。
狭くは無い場所の中、闇雲に探すのは非常に骨の折れることなのだ。

( ^ω^)「どうもお早うございます」

(´・ω・`)「やあ内藤さん。 あれからどうですか?」

史余は余程あの森が気になるようで、挨拶をすると二言目には疑問が飛んできた。
”鬼を早くどうにかしてくれないか”と急かす口調に、内藤は微苦笑を浮かべる。

 

 

4 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:07:29.49 ID:8ajze95x0
( ^ω^)「これからあの森へ向かうところだお。
      なので史余殿、もう少し詳細を教えてくれお」

(´・ω・`)「詳細ねぇ。 この間話した通りですよ。
      あの森に鬼が住んでいるようですよ。と」

(;^ω^)「それだけじゃあ困るんだお」

(´・ω・`)「ふむ、とは言ってもねえ。 僕が見たわけじゃあないから。
      とりあえず街道から離れてはいないはずだよ」

史余の答えに、はあそうですか。 と、内藤は不明瞭な返事をした。
それ以外にもいくつか質問をしてみたのだが、史余の返事は全て”否”。
内藤は気落ちした様子で薬屋を出る。

 

 

5 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:11:19.86 ID:8ajze95x0
鬼を探すと言っても、鬼を見た者がいないのに、どうやって探すのだろうと幾度と思った。
街中で出会っても、気付かない可能性の方が高い。
もしかしたら今この瞬間、すれ違っているかもしれないのに。

('A`)「早かったな」

所在無気にうろうろとしていた欝多が、内藤を見るとすぐに寄ってくる。
”茂名一家”の者がつったっていると、どうしても最近の事件が連想されるようで、
何があったのかと野次馬ばりに、通り過ぎる町人の視線が欝多に集まっていたのだ。
それが欝多にとって非常に鬱陶しいものだった。

 

 

7 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:12:25.65 ID:8ajze95x0
('A`)「それで結果は?」

(;^ω^)「相変わらず」

溜息をついた内藤に、欝多は「まあそんなもんだ」とやる気なく答えた。
もとよりこの男、何も期待はしていなかったらしい。
目的の者に会えれば好し、会えずともしかたなし。
着の身着のままの性格を、内藤は羨ましく思った。
会話をしながらでも、自然と足があの森へ向かう南門へと向かう。

('A`)「そもそも、何で誰も鬼をみてないのかねえ。
    これだけ被害が出てるのに、一人も見てないってのはありえねえだろ」

 

 

8 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:14:25.52 ID:8ajze95x0
( ^ω^)「見てるのに見てないのかもしれない。 って茂名殿は言っていたお」

('A`)「なんだそりゃ?」

( ^ω^)「鬼だから不思議な術でも使うんじゃないかお?」

('A`)「そんなやついるわけねえだろ、鬼なんて愛称だ馬鹿」

(;^ω^)「そ、そうなのかお!? てっきり筋肉隆々の鬼がいるのかと」

('A`)「はいはいばーかばーか」

 

ノパ听)「おっとっと」

途上、一人の女が軽口をたたいていた欝多にぶつかる。
欝多はだらしなく開いていた唇をきっと閉めた。

 

 

9 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:16:09.11 ID:8ajze95x0
ノパー゚)「おや、失礼」

はきはきとした言葉遣いで、耳に聞こえの良い音の女だった。
内藤にとっては、強いて言ってそれだけの女だったが、
すぐさま去ろうとする女の腕を、欝多は掴んで止める。

ノパ听)「何するんだ!」

('A`)「そりゃこっちの台詞だな、どういう了見でこの茂名一家に喧嘩を売るつもりだ?
    ええ? お嬢さん」

ノパ听)「さあ何のこと?」

('A`)「こちとらわかってるんだ、しらばっくれるのもいい加減にしな」

欝多は女の腕を掴んでいた力を強くした。
体中が筋肉でできている内藤と違って、欝多はやつれたように線が細い。
なのにその力は尋常じゃなく、女はとうとう悲鳴を発した。

 

 

10 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:18:36.90 ID:8ajze95x0
ノハ;゚听)「わかったわかった! わかったよ、しょうがないな、返してやんよ!」

女は自由な腕を自らの懐につっこみ、小さな袋を欝多の顔に投げる。
欝多が袋を受け取った瞬間に、女は逃げようと全力で腕を振り切ったが

('A`)「こらまてよ、謝罪の一言もなしか? ああ?」

今度はその首根っこを掴まれる。
女は眉間に深い皺を寄せて、不機嫌な目で欝多を見上げた。

(;^ω^)「おっ、欝多、もういいお。 返してもらったんだからいいんだお」

('A`)「甘いな、こんなやつまた誰かにやるに決まってんだろうが」

ノハ#゚听)「なああにおおう!」

(:'A`)「うおっ?」

女は欝多の腹を力任せに肘鉄砲を放った。
見事に鳩尾に入ったものだから、欝多は呻いて腕を放してしまう。
その隙を見逃さない。
女は身軽に宙に跳ねた。
欝多の肩を足蹴にし、そのまま蹴っ飛ばして距離を置く。

 

 

11 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:20:22.42 ID:8ajze95x0
ノハ#゚听)「あたしはね、あんたみたいに性根の悪そうなやつからしか
      とーりーまーせーんー!」

(#'A`)「だ、誰が性根が悪いだと?」

ノハ#゚听)「毎晩毎晩人の金借りて遊郭に行ってそうな顔しよって!」

(#'A`)「カッチーン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

('A`)「ウツダシノウ」

 

 

12 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:21:35.60 ID:8ajze95x0
 
 
 
 
 
 
 
( ^ω^)内藤は鬼を追うようです

  二、 行き違う
 
 
 
 
 

13 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:23:55.12 ID:8ajze95x0
欝多はその名前の通りに、どこからどうみても欝な様子を露にしていた。
ところどころ怒りが伺えるが、それに対して内藤は何も言わない。
気分が捻れるのはいつものことだからだ。

ノハ*゚听)「いやあ、あんた良い人だねぇ! 本当悪いね! 助かるよ!」

物凄い勢いで、皿を女は積んでいく。
非常に腹が減っていたのだろう、いくら食べても止まらない。
積み重なった皿の量だけ、欝多は不機嫌になっていった。

('A`)「おい内藤、こんなやつに飯なんざ奢る必要なんかねえだろ」

( ^ω^)「いやいや、いいんだお。 まだ追加するかお?」

その皿が山となり、女がふうと満足気に息をはいたころを見計らって声をかける。
女は歯を見せて笑った。

ノハ*゚听)「いいや、腹八分目というからな!」

( ^ω^)「そうかお。 ところで、何で掏りなんか?」

 

 

14 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:25:51.01 ID:8ajze95x0
内藤は本題に入った。
スリなど、町を歩いていればすぐに遭遇するものだが。
女が擦りをするような人物には見えなかった。
実際、その動きにぎこちなさがあったから簡単に捕まったのだ。

ノパ听)「旅の途中でねえさんとはぐれてしまったんだ。
     丁度財布がねえさん持ちでね」

火糸(ひいと)と名乗る女は
減っていた腹が満腹になって満足したのか、素直に問いに答える。
簡単明快な返事だった。

 

 

15 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:27:31.67 ID:8ajze95x0
('A`)「だからって掏りはいけねえだろ、掏りは。
    人様の金だぞ? おい」

ノパ听)「ちょいと借りただけじゃないか。 後で返すつもりだったよ」

(#'A`)「そういうのを世間ではスリっつーんだよ!」

( ^ω^)「落ち着いて、落ち着いて」

女は俗に言う素浪人というものだった。
”ねえさん”と共に旅をしているのだが、この町に着いてから別行動をしていた際に
いつの間にか、どこにいるかわからなくなってしまったというのだ。

ノパ听)「多分その辺にいると思うんだけどね」

と断言するものの、一昨日から一向に見当たらない。
妹をほったらかすほど、自由人らしい。

 

 

16 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:29:06.91 ID:8ajze95x0
( ^ω^)「それにしても、この時期に旅かお?
       今は鬼がいるらしいのに、度胸があるお」

ノパ听)「いやあ、むしろ鬼を追ってきたんだよ」

あっさりと、当たり前のことを言うように、女は言う。
だるそうに座っていた欝多が、急に前のめりになった。

('A`)「鬼を追ってきた? そりゃどういうことだ」

ノパ听)「あたしには妹がいたんだ、三姉妹なんだけどね。
     その一番下の妹が鬼にやられちまったんだ。
     あたしらはただの敵討ちさ」

( ´ω`)「妹さんが……そうなのかお」

ノパー゚)「やあね、しけた面しないでくれよ。
     もう2年も前の話さ」

 

 

17 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:30:18.55 ID:8ajze95x0
過去のことは、過去。
割り切った笑顔を見せたが、敵討ちと名付けている手前、
女の心の中ではまだ過去のことにはなりきれていない。

さて、と立ち上がった女を、内藤は引きとめた。

( ^ω^)「その敵討ち、僕も手伝わせてほしいお」

ノパ听)「何いってるんだ、見知らぬ人を危険にさせるほど落ちぶれてないよ」

( ^ω^)「元々僕らも、これから鬼を探しに行く予定だったんだお」

火糸の視線が、内藤の目を捉えた。

 

18 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:32:11.64 ID:8ajze95x0
 
―――――
 
 
 
川*゚ -゚)「店主! 酒だ、酒をくれ!」

武士が台を勢いに任せたたいていた。
見ただけなら素面にも見えるが、勢いが酔っ払いだということを裏付けている。
薬屋の店主は、呆れる、とも面倒、ともとれる気分で溜息をついていた。

(;´・ω・`)「お客さん、ここは薬屋ですよ。 飲む酒はありませんよ」

何度そう言おうとも、この客は理解をしてくれない。
酒を飲んで、飲まれてしまったのだ。
酔っ払いはこれだから。 史余は何度目かの溜息をつく。

川#゚ -゚)「なにい! 酒が無いだと、まったくけしからん! 何事だ!」

(;´・ω・`)「けしからんと言われましてもね、酒なら隣の店に行って下さい」

川#゚ -゚)「この店は酒の一杯も出さずに客を追い出すのか!」

(;´・ω・`)「いや、ですからね………」

 

 

19 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:33:46.47 ID:8ajze95x0
いっそのことつまみ出してしまおうか。
しかし相手は酔っているとは言え、帯刀している武士には違いない。
威嚇して、抜刀されれば大変なことになる。

(´<_` )「随分と騒がしいな、客か?」

その時、ガラリと戸を開けた男がいた。
無表情で顔の形が固まってしまったようなこの男は、
つい3年前に武威風国に越してきた物書きだった。
町の隅の隅の、小さな家に一人で暮らしている。

物書きとして名を馳せている傍ら、昔は武士であり、未だに腰に刀を一本提げている。
見た目の端整さから、男に好意を抱くものも多かった。

 

20 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:35:16.58 ID:8ajze95x0
(;´・ω・`)「あら旺杜(おうと)さん。 違うんですよ、居酒屋と間違われてしまって」

川#゚ -゚)「何が違うと言うんだ! 酒と書いてあるのにださんとは!」

(´<_` )「まあまあ、一杯どうだ。 俺が奢るぞ」

川*゚ -゚)「なに! それは真か! 話の出来るやつよの!」

(;´・ω・`)「すみませんねえ」

(´<_` )「いいや。 困ったときはお互い様だからな」

細い目は相変わらずに、男は口元だけで愛想笑いをした。
武士を外へ連れて行く。
戸が閉まり、二人がいなくなって、史余は安堵の溜息をついた。

 

 

21 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:35:53.78 ID:8ajze95x0
旺杜の向かったのは、隣の居酒屋だ。
入ってすぐ酒を頼み、席に座り、ようやく武士は一息ついたようだった。

川*゚ -゚)「く〜〜っ! やっぱり酒はいいねえ」

長い髪を後ろで一まとめにし、整った面立ちは優美なこの武士は女だった。
その姿格好が、簡素な袴の井出達をより引き出していた。

(´<_` )「そうだねえ」

川*゚ -゚)「なんだ、あんたもいける口か! 遠慮はいらん、飲んだ飲んだ!」

(´<_` )「俺の金だけどな」

武士がつまみに頼んだものは全て豆腐であった。
よくこんなものばかりで酒が進む、と旺杜は頭をかく。
対して武士は幸福の絶頂にいるようだ。

 

 

22 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:36:36.82 ID:8ajze95x0
川*゚ -゚)「私は砂緒空(くう)だ」

(´<_` )「はあ?」

川*゚ -゚)「いつまでもあんたじゃ呼びにくいじゃないか、あんたの名は?」

(´<_` )「旺杜だが」

川*゚ -゚)「旺杜殿か。 勢いの良い名前だというのに、落ち着きすぎじゃないか?」

(´<_` )「名前にケチをつけられてもね」

旺杜は空には負けるものの、水のように酒を飲む。
元々酒飲みなのか、酒の強い旺杜に、空は上機嫌で酒を注ぐ。

 

24 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:39:08.72 ID:8ajze95x0
川*゚ -゚)「ところで旺杜殿、私の可愛い妹をしらないかい?」

(´<_` )「知らないな」

川*゚ -゚)「本当に知らないのか? 返事が早すぎないか?」

(´<_` )「あんたの妹を見たことないのに、どうやって知りえるんだ」

川*゚ -゚)「おや、そういえばそうだな」

旺杜の言い分が坪に入ったのか、空は呵々大笑する。
その隣で、やはり旺杜は静かなままであった。

 

 

25 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:40:34.29 ID:8ajze95x0
(´<_` )「あんたは、何をそんなに急いているんだ?」

その静かな男が、ただ一言発した言葉に、空の酔いが一気に冷めた。
苦りきった顔つきをして、旺杜の顔を見る。
やはり男は無表情であった。

川 ゚ -゚)「こんな自由人を見て、急くと形容するとは不可思議な男だ」

(´<_` )「女だてらに武士の格好をしているあんたよりは不可思議ではないさ」

川 ゚ -゚)「そうか。 ははは、そうなんだろうなあ」

今度は空笑いをして立ち上がる。
見上げた旺杜に一礼をした。

川 ゚ -゚)「礼を言う、美味い酒だった」

男は去る女に何も言わなかった。
偶然薬屋で出会っただけなのだから、特別な感情を抱く意味もないのだが。
ただ女の目に、男は懐かしいものを思い出しかけていた。

開いているのか判りにくいほど細い目を瞑ると、
ようよう、その記憶は消えて行った。

 

26 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:42:54.10 ID:8ajze95x0
 
 
―――――
 
 
 
まだ昼なのに、あの森は薄ら寒い。
木々の間から見える光も、内藤には心もとないものに思えた。

ノパ听)「空は〜晴れ〜てって、心〜も晴っれ晴っれよんっと」

陽気に歌う女の背を眺めながら、内藤の心境は右肩下がりであった。
それもこれも、馴染みの男がいないからである。
「こんな糞女がいるのに行ってられるか」
男と男の約束は、ただ一言で済まされた。

ノパ听)「どうしたどうした。
     そんな暗い顔をしてると鬼どころか幽霊まで寄ってくるぞ」

(;^ω^)「大きなお世話だお」

昔から気分で行動を左右する男であったと内藤は再び頭を抱える。
”鬼を狩る”という不確かなことをするのだ。
人数がいればいるだけありがたい状況の中、
自分とこの女だけ。という現状は頼りないものであったのだ。

 

 

27 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:44:41.86 ID:8ajze95x0
(;^ω^)(いかんお、もしもの時は僕が彼女を守らないとなのに)

内藤にとって、火糸は足手まとい以外の何者でもない。
そこそこ腕が立つと自負する内藤と違って、女は丸腰なのだ。
今思えば、自ら死にに行くようなものである。

( ^ω^)(だけど、漢がした約束。 守らないわけにはいかないお)

鬼とは一体どういう姿をしているのだろうか。
文献には「金の髪、青い瞳」と書いてあった。
今まで内藤はそのような容姿の者に出会ったことはない。
そうそう見かけたら、この世界は終わってしまうのだろうけれど。

 

28 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:47:33.15 ID:8ajze95x0
人が歩いて出来た道。 鬼もこの道を通ったはずだ。
馬車が通れるほどの道がうねりながら存在している。
この一本道が武威風国(ぶいふのくに)と新速国(にゅうそくのくに)とを繋いでいるのだ。

北の待合国(らうんじのくに)、この武威風国(ぶいふのくに)、
そしてここ”あの森”を挟み、新速国(にゅうそくのくに)。
鬼は以前待合国に居て、今はあの森に住んでいるという。
一旦武威風国を通りあの森へ進み、そして現在武威風国を進攻中だ。

鬼の狙いとは何なのか。
人を殺すことにあるのか。
それならば何故同じ屋敷の者だけを殺すのであろう。
移動する意味は。

内藤は一様に考えてはみるのだが、どれも答えは出ず仕舞いだった。

 

 

29 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:48:33.69 ID:8ajze95x0
ノパ听)「それにしても、こう何度も場所を変えられるとね、探す方の身にもなってほしいよ」

( ^ω^)「お。 確か鬼が最初に現れた、というのは…ええと…」

ノパ听)「栄々国かな」

栄々国(えいえいのくに)は遥か南にある。
北と南に細長い形をとっている大陸の、最南端の場所に位置する。
その最南端の国で鬼は生まれた。

( ^ω^)「その時は確か、家の人ではなく偶然その家に訪れていた男らが惨殺だったかお」

ノパ听)「そして家に住んでいた男二人が行方不明。
     更に鬼は暫く栄々国に居座り、人を殺して歩く」

( ^ω^)「でも最初以外その国では、行方不明者はいなかったんだおね?」

ノパ听)「そーなんだよね、なのに次に訪れた国では若い男が一人ずつ行方不明になってる。
     色んな国を転々転々。 まるで誰かを探してるみたいだよ」

 

30 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:50:25.21 ID:8ajze95x0
(;^ω^)「はあ、鬼を追うのも大変なことだお」

ノパ听)「うん、いつまで経っても影しか見えない…」

( ^ω^)「影しか、かお…」

それ以降会話の無くなった中では、草履が踏みしめる枯葉の音が妙に耳についた。
二人の間には足音しか流れない。

そして足音すら止まった。

 

31 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:52:10.61 ID:8ajze95x0
 
 
 
 
 
ノパ听)「…来る」

火糸が小さく呟いたのに、内藤は頷いて返事をした。
複数の足音が内藤らの周囲にばら撒かれた。

(=(   )「………」

体躯は男のものだった。
しかし男らの顔は見えない。
皆が皆、鬼の面をかぶっているのだ。
鬼面らは五人、各々槍や剣を持っている。

すぐさま抜刀の姿勢をとった内藤と打って変わって、
火糸は緊張の糸を投げ捨てた。

ノハ*゚听)「あはははは! はっはっははは!!」

火糸の捨てた緊張は、声を伝って鬼面らの耳を通り、脳へと達する。
囲まれたというのに恐怖も感じず、
更に快活に笑う女に、糸は鬼面へと絡みつく。

 

32 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:54:00.67 ID:8ajze95x0
(;^ω^)「火糸殿? どうし…」

ノパ听)「あんたらは何だ? それで鬼のつもりなのか?」

(=(   )「!」

間合いを取っていた鬼面の一つに火糸はゆったりと近づく。
鬼は一歩下がり、手に持つ剣を縦に一振り。

ノパ听)「それじゃあただの奇面だよ、奇面組には足元にも及ばない、最低のな」

火糸は横に飛んだ。
無駄ばかりに見えるが、女の身軽さがそれを補っている。
見たことのない戦法だった。

ノパー゚)「よっ」

火糸は不敵に笑うと、宙に舞う。
足を鬼面の首へ絡ませ、体を捻る。
そしてそのまま地へと落下した。
ごき。 と鈍い音が骨を伝って聞こえる。

 

33 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:56:03.45 ID:8ajze95x0
( ^ω^)「おっ」

(=(   )「おおおおおお!!!」

( ^ω^)「お!」

その瞬間、残りの4人が動きだす。
まず一人。
内藤の隙だらけの背に鬼面の刀が斬りかかる。
斬撃の瞬間を気配だけで感じ、内藤は体を半回転させてかわした。

( ^ω^)「お…?」

若干の違和感を内藤は感じた。
長年の経験がものを言う。
刃物の扱いは慣れてるようだったが、相手はどうやら剣術に関しては素人らしい。

 

34 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 05:57:36.98 ID:8ajze95x0
回転させた体の勢いを落とさずに、柄からそのまま、袈裟型、右上がりに刀を振るう。
鬼面はそのまま倒れてしまった。

倒したところで気は緩められない。
鬼面らの戦法は、周囲を囲い後ろから斬りつけるものだった。
内藤の背後には、もう一人いる。 つまり

(=(   )「ふっ!」

鬼面は槍を持っていた。
内藤の間合いの外から一突き。
隙狙いの攻めであったが、彼らの感じる隙は、内藤の隙のうちには入らない。
鬼の名も、上辺だけのようだ。

鬼面の気付く間もなく、内藤は鬼面の懐に飛び込んだ。

 

35 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 06:01:25.12 ID:8ajze95x0
 
 
さて次は、と周囲を見渡せど、視界に入るのは火糸のみ。
残りの二人は火糸によって倒されていたのだ。
内藤は何度も目を瞬いて、地と火糸とを交互に見比べる。

( ^ω^)「まさか火糸殿がこんなに強いとは思わなかったお」

ノハ*゚听)「音に聞こゆ、鉄拳の火糸様とはあたしのことだよ!」

( ^ω^)「聞いたことないお」

ノハ;゚听)「そ、そうか」

火糸はその顔を拝んでやろう。 と、鬼面を剥ぐ。
気を失っていたはずの男が、うう、と呻いた。

(-ε・;)「あいたたた……」

男は体を起こした。
くらくらと眩暈のする視界で確認できたのは、目の前に倒れる鬼面らだった。
死んだのではないか。 と、男は驚愕に身を包まれた。
が、ただ気絶しているだけだったので、ふう、と音を立てて安堵の息を吐いた。

 

36 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 06:04:30.84 ID:8ajze95x0
(; ・3・)「オゥワッ!」

全員の生死を確認してから、男はやっと二人に気付く。
それだけ必死であり、それだけ彼らが大切な仲間だったのだ。
座ったまま後ろに下がる男は、落ちていた刀を拾い上げた。

( ^ω^)「一つ聞くお」

(; ・3・)「なんだYO」

( ^ω^)「何のためにこんなことをしてたんだお?」

内藤は刀の先を男の首に当てる。
男は拾い上げた槍をゆっくり置いて、両手を上げた。

(; ・3・)「金だYO、金!
      おまえらの戦のせいで僕たちの家はまるこげSA!
      土地も焼けてるのにどうやって暮らせっていうんだYO!」

いくら平和に傾いているとは言え、
まだまだ世の中に不満のある者たちは多い。
誰かが天下をとろうと戦をしかけるたびに、地域の頭は騒動を治めるために戦に応じる。
彼らはその火の粉を浴びてしまったのだ。

 

37 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 06:06:27.64 ID:8ajze95x0
( ^ω^)「そうかお、それは災難だったお」

内藤は己の刀を天へ捧げた。
天は地へといかずちを震わす。

内藤の刀が振るわれる瞬間、男の目が大きく見開かれた。
足元の槍を素早く手に取り、柄で刀を防ぐ。

とはいえ、鍛えられた鉄と、まっすぐなだけの木の棒。
どちらが負けるかは明瞭。 それでも、勢いを減らすには十分だった。
柄は斬られ、男の肩に内藤の刀が食い込む。

(#・3・)「くそったRE!」

たった今内藤に斬られた傷から血が溢れだしていた。
男の身に纏った服に徐々にしみこむ。
だが男は、傷も気にせずに内藤に向かっていった。

 

38 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 06:08:38.17 ID:8ajze95x0
(#・3・)「これだからおまえらなんか嫌いなんだYO!
     僕らが苦労してつくったものをひょいひょいもってきやがっTE!
     お偉い方のどこが偉いんだYO!! 死ね!死ねっ!!」

(;^ω^)「!」

無我夢中に、斬られた槍を両手で振り回す。
ただ意味も無く振り回しているだけだったが、内藤は男に近づけないでいた。
男の差し迫った気迫が、内藤を後退させていた。

内藤は男の刃を幾度となくはらったが、とうとう刃は内藤まで届いた。
掠っただけのものだったが、確かに内藤に当たった。
振るった先端が、腰からたれる糸にひっかかり、勢いに任せ遠くへ吹っ飛ぶ。

 

39 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 06:10:04.66 ID:8ajze95x0
その感触に男が一瞬手を止めた。
手を止めた瞬間に、内藤が剣を振るう。
男は最後、虚ろな目で内藤を睨んだ。

( ^ω^)「…鬼っていうのは、こいつらのことかお?」

ノパ听)「いいや、違うと思う。
     鬼は一人って聞いてるし、お面は便乗だと思うな」

(;^ω^)「そーっかお」

これ以上の探索は無意味に感じて、
二人は元来た道を辿り、武威風国へと帰って行く。
五つの鬼をその場に残して。

 

40 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 06:14:48.00 ID:8ajze95x0
 
 
 
残された鬼面の男達は、幾刻の間かその場に居た。
暮れる日が赤く彼らを染める頃、ようやく一人の目が覚める。

(=(   )「ううっ…、おい。 起きろ、起きろ」

痛む体に鞭打ち、鬼面は仲間を起こしていく。
一人を除いて全員が立ち上がる。
鬼面らは、ただ一人鬼面をしていない男の周囲で、暫し男を見ていた。
誰も何も言わない。
だが、彼らは近づく気配に気付いていた。

目で合図をして、四方に散らばる。
それは内藤と火糸を襲った時のように陣形を取った。

 

41 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 06:17:10.48 ID:8ajze95x0
 
 
例えば、人を襲うことをすぐさま止めて改心したとしても。
男らが自らの外に、鬼面という名の鬼を被った時に
既に鬼に取り付かれてしまっていたのだ。

面は人である。
面になりきるのではなく、面は人そのものである。
鬼面を覆った男らは鬼そのものであった。

(=(   )

闇の中に鬼は棲む。
心の隙間に鬼は潜む。
人と、人と、思っているは己のみ。

(*   )「………」

そして、邪念は鬼によって喰われるのだ。

 

42 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 06:18:07.44 ID:8ajze95x0
まだ体の発育も成っていない少女だ。
丸腰で、荷物はたった一つ。
高級だと一目でわかるほど、美しく上品な布に巻かれた物を
手に、大事そうに持っている。
その大きさは、人の頭よりも一回りほど大きい。

高価な物だと鬼面らは考える。
そして無防備な子供が一人。
奪う以外の思考は成り立たない。

ついでにこの娘も売ってやろう。
鬼面らの思考はその程度。

(=(   )

柄に当てた手を離し、一人の鬼が飛び掛った。

 

二、 行き違う―――終

 

 

 

 

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