68 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:06:27.67 ID: ty3WbKp+0

 カーチャンが死んだ。事故だったらしい。

   「この度はご愁傷様です……」

('A`)「あぁ、はい……」

 正直、俺には『ゴシュウショウサマ』なんて言葉の意味は分からない。
ただ葬儀屋の言う通りにして、ただ何かを読んで、
ただカーチャンの知り合いの相手をしただけだった。
 カーチャンは骨になって、ウチに帰って来た。
いろいろな人が来た。
そしてしばらく経って、お墓に入った。

('A`)「……疲れた」

 あっという間に時間が過ぎて、部屋に着くと俺はまた独りになった。

 

 

 

70 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:08:43.96 ID: ty3WbKp+0

 俺にしてみれば最後まで法要をやり通したこと自体が奇跡だ。
別にカーチャンが嫌いとかじゃなくて、俺自身めんどくさがってやらないだろうと思ってた。
一周忌とか、どうしたらいいんだろう。

('A`)「メール……」

 いつも通り広告メールばかりだ。
あぁ、そう言えば数少ないアドレス帳の登録もこれでまた減った。
もう床屋とバイト先しかねーや。

('A`)「泣くかなぁとか思ったんだけどなぁ」

 正直全然泣けなかった。
次どんなことをやるのかとか、親戚が声を掛けてきたらどうしようかとか、
そんなことでいっぱいいっぱいだった。

('A`)「天涯孤独、冷血無比のドクオ様っと……」

 昔小学生の頃教室で飼ってた金魚を埋めながらボロボロ泣いてた女子をふと思い出した。
俺と言えば勿論無表情だったわけで。
 だって埋めてるのそいつなのになんで泣いてんだよ、みたいな。
実際口に出して言ったらビンタされたけど。

 

 

72 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:10:30.07 ID: ty3WbKp+0

('A`)「あーダル……死のうかな」

 いつもの口癖だ。でもなんだか今日は本当に死にたくなってきた。
もう俺を知ってる奴なんて誰も居ないんじゃないだろうか。
そう思うと俺はなんとなく死のうと思った。

('A`)「あ、VIP」

 死ぬ前になんか駄スレでも立てよう。そう思って俺はパソコンのスイッチを押した。
そう言えばよく自殺スレを見つけては煽ってたっけ。あいつらは死んだのかな。

('A`)「スレタイスレタイ……駄目だ思いつかねぇ。
   『自殺して三途の川渡るのに何円かかるか試してくる』と」

 我ながら駄スレにも程があるだろ。

('A`)「さて、練炭どこにしまったかな……」

 俺はそのままスレを放置して物置部屋に行った。

 

 

73 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:12:46.72 ID: ty3WbKp+0

('A`)「あーよし、準備完了。で、どうよ駄スレの様子は」

 スクリーンセーバーを消して更新ボタンをクリック。
新着16件。……あぁ、『早く死ね』だらけだ。

('A`)「ま、そんなもんだわな」

 スクロールしていく俺。

 

 

 

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/17(月) 00:30:06.85 ID:fL0xq/P+0

いくら持ってんのよ? 最近値上がりしたらしいぞ

('A`)「金あんまねーな。……ん? そういや」

 俺は葬式後に渡された通帳を思い出した。
なんかカーチャンが溜めておいていたらしい。
親戚でパンチパーマみたいな髪型のナントカおばさんがくれたんだ。カバンの中か?

('A`)「あった。……いちじゅうひゃく……あれ? いちじゅうひゃく……ん?」

 

 

75 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:14:41.47 ID: ty3WbKp+0

 普通にありえない位入ってた。残高が4,511,230。
見慣れないってレベルじゃない。これエラーじゃねーの?

('A`)「……ありえねぇ。なんでこんなに残してくれちゃってるわけ?」

 突然金が手に入ったのに、俺はテンションが微塵も上がらなかった。
それどころか段々と腹が立ってきた。

(#'A`)「何勝手なことしてんだよ!」

 通帳を投げ捨てて、パソコンを蹴り飛ばしたところで壁がゴンと鳴った。

('A`)「何なんだよ……」

 起きててもムカつくだけだったから、俺はそのまま寝た。

 

 

76 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:16:32.69 ID: ty3WbKp+0

 朝。いつも通りやる気が出ない。
バイト先に貰った休みも無くなった。そろそろ準備をしなければ。

('A`)「……ああ、どうでもいいか」

 部屋の真ん中に置いてある練炭の袋を見て俺は昨日の事を思い出した。
今更バイトだなんて馬鹿馬鹿しい。金もあるし、死ぬんだし。

('A`)「俺死んでもあそこ入んなかったりして」

 カーチャンの骨壷を収めた納骨堂を俺は思い出した。
狭っ苦しいロッカーの中に無理矢理詰めた記憶がある。

('A`)「……どーでもいいや。マンドクセ」

 俺は練炭自殺をするべくネットで手順を調べ始めた。
そしたら思いのほか準備がメンドクサそうで、
俺はその内どうでもよくなってまた布団にもぐりこんだ。

 

 

79 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:18:14.88 ID: ty3WbKp+0

('A`)「別に死ななくたっていいじゃん。金あるんだし」

 布団に頭の先まで潜る。……暑い、苦しい。

('A`)「苦しいなあ。ああ、あっつ。あっつあっつ。……っあははははははは!」
('∀`)「ああ! あっついあっつい! あははははははは!」

バイトサボって好き勝手出来ることに気づいた。
急にテンション上がってきた!

('∀`)「どうする!? どうする俺!? 何する!? 1回札束とか見てみてえよなあ!」

布団を跳ね除けて奇声! ざまあみろ隣人! ぶん殴ってやりたいくらいだ!

('∀`)「あ〜! あ〜あ〜あぁぁぁぁぁぁ! うえっひゃぁぁぁああああ!!」

枕を拾い上げて壁に投げ付ける! 布団を蹴り飛ばす!
蛇口を捻って髪を濡らす! ついでに顔も洗う!

 

 

80 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:20:27.79 ID: ty3WbKp+0

('∀`)「準備バァァァァッチリじゃねーの!? って服着てねー!」

脱ぎ捨ててあったジーンズを穿いて、パーカーを着りゃ完璧。

('∀`)「いってきまーっすってなぁ!」

扉を閉めてロック。通帳は持ったぜ。勿論中にカードも入ってる。
金下ろしたら何するよ俺。オトナの遊び!? 昼間から!?

チャリンコすっ飛ばしてATMへ。
お引き出し。カードを入れる。通帳も入れる。
暗証番号だって知ってる。ウチは家族で共通だった。
いくら? ……50万、と。

出てきた。すげえ。厚みが。ああ、手の汗が札にしみこむ。

('A`)「あ……ああ〜……」

 ……現ナマ見たら、テンションが下がった。
俺の金じゃないんだ。カーチャンがずっと溜めてきた金だった。
俺が今一瞬で引き出したこの金、カーチャンのだったんだ。

 

 

81 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:22:33.13 ID: ty3WbKp+0

('A`)「……」

 もう駄目だ。ハイパー躁タイム終了。
作用反作用の法則より、ハイパー鬱タイム突入。

 結局俺は金をまた戻してしまった。
そして自分の通帳から7000円だけ下ろして、その場を後にした。

('A`)「結局俺って何もすることねーんだよな」

 外に出て、曇り空を見上げて呟いた。
近くで賑やかな音がしてて、俺は誘われるようにパチンコ屋に入った。

 

('A`)「はあ……」

スッた。と言っても5000円しか使ってないけど。

('A`)「何でこんなとこ入ったんだろ」

 バイトに行けばよかったかもしれない。
急に罪悪感が湧いてきた。
けど今からじゃもう行っても遅刻だし、怒られるから嫌だけど。

('A`)「2000円か……」

 なんとなく、本当になんとなく、カーチャンにおはぎを買っていこうと思った。
お供えとかそう言うんじゃなくて、カーチャンおはぎ食いたいかなぁとか思って。

 

 

82 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:24:28.37 ID: ty3WbKp+0

店員「ありがとうございましたー」
('A`)「……」

 言いくるめられて高いのを買わされた。何なんだよ畜生。
おはぎをカゴに入れて、俺はチャリンコをこぎ始めた。

 辺りはもう夕暮れだった。着く頃にはもう日も沈んでるかもしれない。
それから家に帰ったらもう完璧夜だな。晩飯どうしようか。
そんなことを考えていたら、思いのほか早く着いた。

 駐車場にチャリンコを停めて、俺はおはぎ片手に砂利道を歩く。
いろいろな大きさの墓が整理されて並んでいる。
沈みかけの夕陽が照らすその光景は、若干怖かった。

('A`)「たしか、この墓だったよな」

 見覚えがある。彫ってある文字は読めないけれど、ここに来た記憶がある。
一緒に供えた果物が無くなってるけど、誰かが持っていったんだろうか。

 

 

84 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:26:34.70 ID: ty3WbKp+0

('A`)「……つか、これも置いといたら腐るよな」

 こういうことは本当に良く分からない。
冠婚葬祭をこなせるやつは大人だ。
俺は何も知らない。まだ何も知らないんだ。

('A`)「……何で死んだんだよ」

途端に俺はまたムカついてきた。
なんで教えてくれなかったんだ。
何で教える前に死んだんだ。
何もわかんねーじゃねーか。
これからどうしたらいいんだよ。
どうやって生きていけばいいんだよ!
何もわかんねーよ!

 顔が歪むほどにムカついて、俺は買ってきたおはぎの箱の包装をビリビリに破いた。
箱を開けて中に並んでたおはぎを思いっきり墓に向かって投げ付けてやった。
おはぎは潰れて、カーチャンの墓があんこでメチャクチャになった。

 

 

85 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:28:24.74 ID: ty3WbKp+0

('A`)「食えよ……おはぎ好きなんだろ!」

 気付くと俺は両手をベタベタにして、おはぎを全部投げ付けていた。
カーチャンの墓はもう見れたもんじゃない。
虫が匂いに釣られて寄ってきていた。

('A`)「……」

 気付けば辺りは暗闇。
音もなく、静かな墓地で騒いでるのは俺一人だった。
カーチャンの墓に、虫。

('A`)「……ちくしょう! カーチャンに近づくんじゃねえよ! この虫!」

 投げ付けたおはぎを俺は両手で取り始めた。
おはぎ、おはぎ、虫、おはぎ。
ふと、鼻に甘いあんこの匂いが届いた。
昔、顔をうずめたカーチャンの胸を思い出した。
柔らかくて、暖かくて、甘かった。

 

 

86 名前: ('A`)編 Mail: 投稿日: 2007/09/19(水) 01:30:23.85 ID: ty3WbKp+0

(;A;)「ちくしょう。なんで……なんで今さら……」

 涙が止まらなくなった。
葬式の時だって何も思わなかったのに、今さら俺は無性に悲しかった。
悲しくて、悲しくて。真っ黒になったままのカーチャンの墓を見ると悲しくて。

(;A;)「カーチャン……ごめんなさい。ごめんなさい……ごめんなさい……」

 俺は、固くて冷たい墓を抱いて独り泣いた。

 

――カーチャンへ。俺は相変わらず独りです。

彼女はまだ無理そうです。友達も無理そうです。

でも、俺は今日も生きています。

きっと、明日も生きています。

 

('A`)編  終

 

 

 

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