3 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:21:26.16 ID: X7n6Y3cm0

                         1
  _
( ゚∀゚)「アンサンブルコンテストに出よう」

( ^ω^)「は?」

とある市の、とある田舎にある、VIP高校吹奏楽部。部員の総数は、50人程度。
夏のコンクールには一応出場しているが、そこまで実力があるわけではない。
今年の夏には3年生が引退し、現在は1、2年生で活動をしている。

その部活の顧問、ジョルジュ長岡という名前だが。
彼は新任の教師で、今年の春にこの学校へ来たばかりだ。

ジョルジュが来る前の顧問は、ピアノを専攻とした教師であった。
ピアノを学んできた人間は、ハッキリとは言い切れないが、管楽器主体のブラスバンドを纏め上げる力は、あまりない。
そのおかげで、土日は必ず休み。合奏練習も、ほとんど学生指揮(コンサートマスター)が執り行っていた。

だからもう、そんな先生が異動になりジョルジュが来たとき、部員たちは彼の熱心な部活への意欲に反発していた。
今まで休みだった土日が練習付けになり、練習時間も延びてしまったのだから。

とは言っても、ジョルジュは厳しさこそあれど、生徒には慕われるような人柄の教師。
部活でもそれは然りであり、実力もある。更に勿論、部員は皆楽器が好きだ。
実際のところ、この部活は昨年度よりも更に発展を遂げていた。
いままで入賞すら難しかったコンクールで、今年入賞できたのも、ジョルジュのおかげであろう。

 

 

7 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:23:05.36 ID: X7n6Y3cm0
  _
( ゚∀゚)「だからアンコンだよ! ア・ン・コ・ン!」

その矢先、ジョルジュは部活終了の全体ミーティングでそんな突拍子もないことを言い出したのだ。
アンサンブルコンテストに出る、という。

川;゚ -゚)「いやいや、先生。アンサンブルだなんて」
  _
( ゚∀゚)「いいじゃないか。最近、皆の実力も上がってきた。それを試すいいチャンスだ!」

反発した生徒をなだめるように言うジョルジュ。

吹奏楽の大会で、先も述べたコンクールとは、その名の通り上位の大会を狙い、学校ごとが競うものである。
県代表決定大会から、支部、全国大会と、運動部と同じように勝てば上位大会への切符を獲得することができるのだ。

アンサンブルコンテストとは、基本的にはそれとなんら変わらない。
上位を目指し、争うという点においては。

ただ違うのは、演奏形態だ。
コンクールというのは、吹奏楽で使われるあらゆる楽器でバンドを編成し、限られた人数で上の大会を目指すもの。
対してアンサンブルコンテストとは、小編成、かつ同属楽器(金管、木管など)で出場する大会なのだ。

勿論、アンサンブルは人数が少なくてもできる為、過疎地域の学校などからも参加者は募り、そのレベルは非常に高いものだ。
そんな大会に、やっとコンクールで入賞できるようになった学校が出場しようなど、ばかげていると誰もが思っていた。

 

 

 

9 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:24:18.46 ID: X7n6Y3cm0
  _
( ゚∀゚)「ちなみにやるのは金管5重奏な。
     実はメンバーももう決めてあるんだ」

場の雰囲気が重くなる。
確かに今までより技術は上がり、大会で自分たちの力量を試したいとは思った。
だが、普通に比べれば、まだまだなのだ。そんな自分たちが競いごとをしに行くとなると、どうしても躊躇いがあった。

選ばれたくない。それが、ほとんどの生徒の顔に表れていた。

  _
( ゚∀゚)「まず、トランペット1番。クー、お前な」

川;゚ -゚)「私、ですか?」

その言葉を聞き、周りの生徒はホッと胸をなでおろすと同時に、やはり、と苦笑いした。
それもその筈で、クーは楽器の技術がとても高い。中学校の頃は、全国大会へと出場したこともある奏者だ。
だから、トランペットからは必ずクーが出るだろうと、そんな予想が必然的に生まれていた。
それが的中したところで、金管5重奏の基本的な形態に、トランペットは2本必要だ。

もう一人だけ、トランペットから誰かが選ばれる。

 

 

 

10 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:25:32.34 ID: X7n6Y3cm0
  _
( ゚∀゚)「で、2番はドクオな」

(;'A`)「えー!? 俺ですか!?」

ドクオ。高校から楽器を始めた、ごく普通の奏者だ。
技術は並々。だが、とにかく彼は耳がよく、コンサートマスターを兼ねていた。
トランペットでは常に3番を吹いているが、下手とかではなく、しっかりとした息遣いでき、支えとなれるからである。
トランペットというと高音のイメージばかりかもしれないが、同じ楽器の低音がそれを支えることで、高音は芯をもち、飛んでいくことができるのだ。

時にはバストランペットを吹きもする、ある意味で堅実な奏者だ。

  _
( ゚∀゚)「で、次ホルンだけど」

金管5重奏の形態で、トランペット2本のほかにトロンボーン、ホルン、チューバが1本ずつ入る。
それぞれがソロパートのアンサンブルにとって、一本しかない楽器というのはプレッシャーも大きい。
特にホルンは、ギネスにも認定される難関楽器。選ばれたらたまらない。

  _
( ゚∀゚)「ツン、お前だ」

ξ;゚听)ξ「あああ、あたし?」

 

 

 

11 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:26:57.39 ID: X7n6Y3cm0
ツン、中学時代もホルンをやってきた奏者。
ホルンパートの中での技術はかなり高く、音程のとりにくく困難な楽器であるホルンでも、しっかりとした音を出せる。
その理由は、彼女もまたドクオと同じように耳が良いおかげだ。

そもそも、右腕をベルの中にいれることによって演奏するホルンは、その腕の微妙な角度のずれで音程がすぐに変わってしまう。
トロンボーンのような勘で音を当てる楽器も、一見音程を取ることが難しいように思われるが、スライドの微調整によって音程を目に見える形で上下できる。
それに比べ、ホルンは息、手の形で音程を変えるために、和音楽器としての正確な音程を求められる場合には、相応の耳が求められることとなる。
ツンはそれを満たしているからこそ、選ばれたのだ。
  _
( ゚∀゚)「さて、あとチューバとトロンボーンなんだが」

ジョルジュが首を横に向け、視線をある一人の生徒へと向ける。

(´・ω・`)「……」

その目の先に映っていたのは、しょぼくれた顔をした少年だった。
名前をショボといい、音大生を目指しているチューバ奏者である。

更にショボは、その抜群の音楽センス、リーダーシップで部長を任せられているほどの逸材だ。
もう一ついうと、現在のチューバパートには、上級生がショボしかいない。あとの下級生は、初心者である。

 

 

 

13 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:28:11.58 ID: X7n6Y3cm0
(´・ω・`)「勿論、僕でよろしければ」

表情一つ変えずに、ショボが言う。
ジョルジュも、決まりだな、と短く言っただけで、顔を真っ直ぐに戻した。

  _
( ゚∀゚)「で、最後にトロンボーンなんだが」

( ・∀・)「僕でしょう?」

ジョルジュの言葉に間髪いれず、一人の少年が立ち上がった。

  _
( ゚∀゚)「どうした、モララー」

( ・∀・)「いや、僕でしょ? トロンボーン」

彼は、他の部員とは段違いに意欲が高い。
勿論、楽器の技術も高く、副部長を務めているほどの人材だ。
周囲の全員も、モララーがトロンボーンで決定だろうと確信してた。

だのに。

  _
( ゚∀゚)「トロンボーンは……ブーン、お前だ」

 

 

14 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:29:29.29 ID: X7n6Y3cm0
( ^ω^)「いやですお。モララーが適任ですお」

あっさり否定するブーン。
でも。
  _
( ゚∀゚)「決まったことに文句言うな!
     今名前を呼ばれた5人がアンサンブルに出る!」

そんな言葉もむなしく、ジョルジュはその場を綺麗に取りまとめた。
やがて誰かが拍手し、それがどんどんと大きくなり、盛大な拍手が5人を祝った。

……当の彼らは、嬉しかったのかは定かではないが。

 

 

15 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:32:32.73 ID: X7n6Y3cm0
  _
( ゚∀゚)「では、もう一度確認する」

ミーティングを終え、5人はジョルジュが常時いる部屋、音楽準備室へと足を運んだ。
まだ暑さの残る秋だけあって、わざわざ部費で自分のために買った扇風機が、ぐるぐるまわっている。
虫が入るというので窓は閉めてあるが、扇風機を稼動しているだけなので、とても室内温度は高い。
ジョルジュはその扇風機の真横にいるからいいものの、ドアの付近でジョルジュを見、立ちっぱなしのブーンたちには酷であった。

  _
( ゚∀゚)「トランペット1、クー。不服は?」

川 ゚ -゚)「……ありません」

クーの表情は、冷静そのものだった。
やはり、元全国奏者。上を目指す高みはあったようだ。

  _
( ゚∀゚)「っていうか、意義あるやつはいる?」

(;^ω^)「ハイハイハイ、なんで僕?」

そのジョルジュの言葉に手を上げたのは、ブーンだった。

 

 

16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:33:28.94 ID: X7n6Y3cm0
  _
( ゚∀゚)「では、もう一度確認する」

ミーティングを終え、5人はジョルジュが常時いる部屋、音楽準備室へと足を運んだ。
まだ暑さの残る秋だけあって、わざわざ部費で自分のために買った扇風機が、ぐるぐるまわっている。
虫が入るというので窓は閉めてあるが、扇風機を稼動しているだけなので、とても室内温度は高い。
ジョルジュはその扇風機の真横にいるからいいものの、ドアの付近でジョルジュを見、立ちっぱなしのブーンたちには酷であった。

  _
( ゚∀゚)「トランペット1、クー。不服は?」

川 ゚ -゚)「……ありません」

クーの表情は、冷静そのものだった。
やはり、元全国奏者。上を目指す高みはあったようだ。

  _
( ゚∀゚)「っていうか、意義あるやつはいる?」

(;^ω^)「ハイハイハイ、なんで僕?」

そのジョルジュの言葉に手を上げたのは、ブーンだった。

 

 

 

17 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:34:45.89 ID: X7n6Y3cm0
彼は、決して技術がないわけではない。
モララーに比べると音色が少し汚いのが特徴だが、それでも芯のある音をしている。

トロンボーンはスライドと言われる、U字型の管を抜き差しして音程を変える楽器だ。
ギターのようにフレットはなく、奏者は勘で音を当てるため、この楽器も実に耳のよさが求められる。

そしてもう一つ、トロンボーンはスライドを使うため、どうしても速いパッセージを奏でることができない。
実際、実音シ♭からド♯に音を変化させるためには、スライドを全て引っ込めた状態から一番伸ばした状態にさせなくてはいけない。

それを改善するために取り付けられた、追加バルブを駆使することで問題はなくなったが、この追加バルブを使ったときに楽器の抵抗が激しくなり、そ

れ相応の肺活量、筋力がいるようになってしまった。
モララーも確かに良い奏者だが、根本的にそういった筋力がない。
だが、ブーンは腹筋や背筋をしっかり使って、支えのある音を出している。

その点でブーンを選んだのだと、ジョルジュは説得した。

(;^ω^)「で、でも僕につとまるかお……」

('A`)「平気だろ〜、ブーンは確かに張りのある音をしてるよ」

ξ゚听)ξ「そうね。モララーはなんていうか、綺麗過ぎる音なのよね」

(;^ω^)「ふむ」

 

 

 

18 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:35:59.84 ID: X7n6Y3cm0
ごちっていたブーンもどうにか納得したところを見ると、ジョルジュは本題をはじめる。と言わんばかりに、一枚の冊子を机の上に置いた。

  _
( ゚∀゚)「俺の祖父が作った曲だ。
     曲名は『VIP 5人の金管奏者のために』だ」

机の上に置かれた冊子は、全てのパート譜がのっているフルスコアであった。
なるほど、その譜面を手にとって見ていると、全部で3つの楽章に別れていた。

1楽章『Vivid』。
2楽章『Incursion』。
3楽章『Peace』。

3つの楽章の頭をとって、『VIP』。
ジョルジュの祖父は、楽章にのみ名前をつけていたので、曲全体を通しての『VIP』という名前はジョルジュが考えたのだという。

  _
(;゚∀゚)「ちなみに、今まで誰も演奏したことが無いんだ。
     俺の祖父が死ぬ間際に書いた曲でな、本当は5楽章あるはずらしいんだが、3楽章で終わっちゃってる」

その言葉をジョルジュが言ったとき、全員の顔がしかめ面になった。

 

 

 

19 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:37:26.66 ID: X7n6Y3cm0
代表するかのように、ドクオが言う。

(;'A`)「ちょ、誰も演奏したこと無いって。
    俺達が初演、っていういか参考音源もないと?」
  _
(;゚∀゚)「すまんな」

参考音源というのは、曲を作るときにもっとも大事だ。
作曲者が曲中で表現させたいことや、主張すべき場所、ひくべき場所、曲のイメージ。
そういった基礎的なことを組み立てるための前提として重要なそれだが、未だ演奏されたことがない曲には、あるはずが無い。

川;゚ -゚)「それで大丈夫なんですか? 
      アンコンはあと一ヶ月……それに、曲の難易度は?」
  _
(;゚∀゚)「う……ううん、ええと。とりあえずだな」

クーの的確な発言に、すっかり押し黙ってしまったジョルジュ。
勢いだけでこの企画を進めてきたようだ。5人とも、最初は少なからずやる気を出そうとはしていたが、今では不安の篭った顔になっているのは、火を見るより明らかであった。

  _
(;゚∀゚)「初見合奏しよう。とりあえず、俺が指揮ふるから。
     あとこれ、カット決めたパート譜。必要な道具とか用意しといて。とりあえず休憩」

ジョルジュはそう言い、パート譜を全員に渡すと、そそくさと部屋を出て行った。

 

 

 

21 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:38:51.62 ID: X7n6Y3cm0
そんなジョルジュの様子には興味など見せない5人。目線はそう、パート譜にあった。

アンサンブルコンテストは、通常5分以内の演奏が義務付けられている。
元々の譜面を見れば、1楽章だけで100小節を超えている。普通に演奏すれば、五分は過ぎるであろう。
そこをジョルジュはうまくカットして、2楽章の頭へとつなげ、さらに3楽章も少し取り入れている。

そのせいか、指定のテンポより、パート譜に書かれたテンポは若干速めになっている。
こういった準備のよさから見て、だいぶ前からこの計画を立てていたことがわかり、それぞれは複雑な気持ちになった。

もう一つだが、実際にはアンサンブルコンテストに指揮者をおくことはできない。
通常はトランペット1番が合図を出し、全員が曲を開始するものだ。

が、何にせよこれから行うのは初見合奏。
テンポもわからなければ、曲を表現する方法などもわからない。
だから、最初は必然的に指揮者がいなければ演奏することはできない、ということなのだ。

 

 

 

24 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:39:52.69 ID: X7n6Y3cm0
川 ゚ -゚)「うお、ピッコロトランペットなんか使うのか。それにハーマンミュートまで?」

('A`)「うわ、俺フリューゲルに持ち替えあんのか。まあいいけどさ」

ξ゚听)ξ「ゲ、ゲシュトップミュート……。初めて使うわ……」

( ^ω^)「なんと僕もミュート使うのか」

表現力を求められるアンサンブルの中では、楽器の持ち替えや音色の変化などが必要となる。
トランペットで言うと、同属楽器で音色が違うフリューゲルホルンやコルネット。
他の金管楽器では、ミュートといわれるお椀型の栓をベルに差し込み、音色を変えたりと。

やがてそれぞれが道具を取りに行った後、準備室に残されたのはショボだけであった。

(´・ω・`)「……」

 

 

 

25 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:40:53.70 ID: X7n6Y3cm0
チューバにもミュートはあるが、使われる機会はあまり多くない。
同属楽器にユーフォニアムというものがあるが、それを持ち変えるのは大抵トロンボーン奏者だ。

(´;ω;`)「うっ」

ショボは静かに、涙を流した。

 

( ・∀・)「……」

そんな様子を、虚ろな目で見ていた彼に、気づくこともなく……。

 

 

 

28 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:42:13.24 ID: X7n6Y3cm0
  _
( ゚∀゚)「準備できたか?」

所は変わって、音楽室の中に全員が集合していた。
半円を作るように、奏者たちは全員を見ることができるように並び、その目線が集中する位置にジョルジュが立つ。
全員が静かにうなずく様子を見て、ジョルジュは指揮棒を手に取った。

  _
( ゚∀゚)「初見だからテンポはかなり落とす。
     ちょっとは譜読みしただろ? 焦らず、主張するべき場所はとにかく主張してくれ」

その言葉に全員は再度うなずき、ジョルジュが指揮棒を持った腕を上げる。
それと同時に全員は楽器を構え、ジョルジュに視線を集中させた。
  _
( ゚∀゚)「いくぞ!」

そして指揮棒が振り下ろされたとき、トロンボーン、ホルン、チューバの3和音が美しく響いた。

ξ;゚听)ξ「!」

間を置かず、次の瞬間、チューバが軽快な刻みをはじめ、トロンボーンが完全に裏に回る形で響きを作る。
そしてホルンの主旋律が始まると同時に、2本のトランペットがそれに絡むようにうねる。
やがてホルンも完全にトロンボーンと響きを作るようになり、ドクオとクーの美しい掛け合いが続いた。

その音楽の様子は、まさにタイトルどおり、鮮やかさを思わせるようであった

 

 

 

30 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:43:03.87 ID: X7n6Y3cm0
(;^ω^)「……!」

トランペットの絡み合いに、ホルンが割ってはいる。
そしていつしか、トロンボーンがそのホルンを更に後ろへ追いやり、温かい旋律を奏でる。
やがてゆっくりと曲はテンポを落とし、1楽章が終了した。

この少しの間に、ドクオがトランペットを置き、フリューゲルホルンに持ち変える。
フリューゲルホルンというのはトランペットの仲間の楽器であり、その相違点は音色にある。
トランペットはきつく、鋭い音を持つのに対して、フリューゲルは少し篭った優しい音をしているのだ。

やがてドクオがセッティングを完了し、ジョルジュはショボに目線をやる。

 

 

 

34 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:44:22.26 ID: X7n6Y3cm0
(´・ω・`)「……!」

2楽章冒頭、ジョルジュがゆっくり腕を振り下ろすと同時に、ショボの静かなトリルが響く。
ロータリーの金属音がカチャカチャとうるさいように思えたが、立て続けにトロンボーンの真っ直ぐな音色が重なり、それは気にならなくなった。
  _
( ゚∀゚)「……」

(;^ω^)「……」

そしてホルン、フリューゲル、トランペットの順に激しいトリルが重なる。
五つの楽器のトリルは、チューバから徐々にその音量を増していき、それが全て重なった時は、言いようの無い不安を心に滾らせる和音となった。

ξ゚听)ξ「!」

そして、そのトリルをかい抜けるように、ホルン独特の激しい上昇グリッサンド。
それに呼応するかのように全ての楽器のトリルは音量を下げ、代わりにチューバが稲妻のごとく激しいリズムを刻む。

相変わらずグリッサンドを続けるホルン、激しい動きをするチューバ、甲高いトリルを鳴らし続けるトランペットとフリューゲル。

( ^ω^)「……」

そのハーモニーに割って入るかのように、次の瞬間、トロンボーンの荒々しい音色が主旋律を奏でた。
ホルンとは違う、激しいグリッサンドを思い切り使い、それはいつしかホルンと絡み合う。

 

 

 

36 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:45:23.63 ID: X7n6Y3cm0
( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「……」

ブーンとツンが目線を合わせる。
言わずもがな、この楽章のメイン楽器はトロンボーンとホルンだと全員が理解していた。
この二つの楽器は「和音楽器」というグループに占められる。
その名の通り、曲のハーモニーを作る楽器だが、それだけが仕事というわけではない。

オーケストラでのホルンとトロンボーンというのは、優しい音色を持つ反面で、荒々しく音を割ることができる。
少々綺麗な響きではなくなるが、迫力を出すのには十分。曲のクライマックスや盛り上がりには欠かせない音色だ。
それがこのアンサンブル部分ではフルに使われている。
しかもそれが、トロンボーンとホルンの二つの楽器の掛け合いなら、なおさら二人の息を合わせなければいけない。

 

 

 

38 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:46:35.28 ID: X7n6Y3cm0
(´・ω・`)「……」

そしてその裏で二つの楽器を支えているチューバもまた、怒涛のリズムを繰り返していた。
トロンボーンとホルンの強弱記号はフォルティシモ。
もちろん、ショボは主旋律の楽器を追い越さないようにはしているが、実はチューバの強弱記号もフォルティシモだ。
裏で激しいトリルを奏でているトランペットたちも重要だが、それ以上にチューバが全てを引っ張る必要があるのだ。

やがてその激しさはだんだんとおさまっていく。
トロンボーンの旋律は激化を弱め、やがてドクオのフリューゲルと優しく絡む。
チューバも静かな波のように、穏やかな低音ラインを維持し続けていた。

ξ゚听)ξ「……」

川 ゚ -゚)「……」

そして、ゲシュトップミュートをつけたホルンと、ハーマンミュートをつけたトランペットが、海鳥の鳴き声を表すかのように金属音を唸らせる。
それはまるで、嵐の静まった海のような、そんな情景を思わせた。

 

 

39 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:47:40.05 ID: X7n6Y3cm0
  _
( ゚∀゚)(ふうむ)

('A`)「……」

ジョルジュが腕を振るとともに、今度はフリューゲルの温かいソロ。
さざ波がどんどん引いていくように、トロンボーンとホルンは完全に裏でハーモニーを作る役に回った。
チューバも相変わらずの穏やかな刻み、遠くなっていくように、段々と音を小さくしていくトランペットの鳴き声。

最後にテンポを段々と落とし、フリューゲルが最後の音を伸ばした。

  _
( ゚∀゚)「!」

そして、間を置かず、ジョルジュの動きとともに、3楽章の開始を告げるベルトーンが始まる。
ドクオの音を最初として、トランペット、ホルン、トロンボーン、チューバと、段々に音は下降していった。
と、そしてまたトロンボーンが入り、ホルン、トランペット、ドクオのフリューゲルへとベルトーンが再度つながる。

ドクオのフリューゲルが奏でる音がやがて消えそうになったとき、すかさずホルンのソロが入る。
先ほどの嵐とは違い、暖かなグリッサンドから始まり、段々とテンポを弱めていくそのソロ。

 

 

 

43 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:49:09.94 ID: X7n6Y3cm0
それが終わるとき、チューバが重々しい刻みをはじめ、各楽器がその音に乗る。
ホルンとトロンボーンの掛け合いが始まり、そしてピッコロトランペットに持ち替えたクーが、その一番上で優しい旋律を奏ではじめた。
それに絡むように、トランペットに持ち替えたドクオがオブリガードを奏でる。

そしてそのまま曲は徐々に音量を増していき、盛り上がりが最頂点を迎えた。
盛り上がったところで曲はテンポをゆっくりとし、チューバの刻みに合わせて、各楽器が最後の和音を伸ばしていく。
そして音を伸ばしたまま全ての楽器が一気にテンポが上がり、荘厳な三連符を全員が並べ、音楽が終わる。

そしてジョルジュの腕が静かに下げられ、曲は終了した。

その後は、誰も声を発せなかった。
初見での合奏があまりにも下手糞だったとかいうわけではなく、皆が曲の持つ魅力というものを感じていたのだ。
その証拠に、全員は今時分たちがその曲を演奏していたことが、信じられないような目をしていた。

 

 

44 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:49:56.43 ID: X7n6Y3cm0
  _
( ゚∀゚)「……いい曲だ。だが、下手糞だな」

そのジョルジュの声をきっかけに、やっとその静寂な雰囲気は打ち壊された。
それぞれが笑ったり、息をついたりする。

(;'A`)「そりゃ先生、初見なんですから。
   っていうか俺、ほとんどフリューゲルなんですね」

川;゚ -゚)「トランペット1番がここまで目立たないアンサンブルも珍しい」

(;´・ω・`)「チューバがこんなに前に出る曲なんて初めてだ」

ξ;゚听)ξ「む、難しいわ」

(;^ω^)「2楽章の頭、トロンボーンのトリルとか何wwww」

皆が思い思いに騒ぎ出す。

 

 

47 名前: ◆MAMEOLw4rQ Mail: 投稿日: 2007/09/23(日) 22:51:21.83 ID: X7n6Y3cm0
('A`)「先生、ちなみにインテンポはどのくらいですか?」
  _
( ゚∀゚)「大体、四分音符で170だな。
     穏やかな部分は100くらい。ちなみに今は、倍ぐらいのテンポでやったぞ」

川;゚ -゚)「あ、あれで倍? 信じられん、こんな曲できるのか?」

  _
(;゚∀゚)「な、なんとかなるだろう。俺達のアンサンブルはまだまだこれからだ」

ξ;゚听)ξ「はあ」

 

こうして、からくも5人のアンサンブルがスタートしたのであった。

 

 

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