4 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:05:48.54 ID: A7zLxqZ+O
第5話【雨のち雷ときどき涙】
ξ゚听)ξ「やっと来た」
( ^ω^)「…」
ξ゚听)ξ「ずっと、待ってたんだよ」
なんて言えばいいのかわからない。
なんでツンは僕を待っていたんだろう。
ξ゚听)ξ「昔、3人で遊んだよね。ここで」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「あの頃はすごく楽しかったよ。みんな一緒に、いた」
( ^ω^)「そうだお」
ξ゚听)ξ「台風の日から、ブーンが雷にうたれてから、変わっちゃったよね」
( ^ω^)「ごめんだお」
ξ゚听)ξ「ブーンは悪くないよ?ずっとひとりぼっちだったのはブーンだもん」
6 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:07:37.18 ID: A7zLxqZ+O
どんよりと曇った空から、ぱらぱらと雨が降ってくる。
雨粒はツンの綺麗に巻いた髪を濡らし、透き通った肌を濡らした。
ξ゚听)ξ「ドクオが死んだとき、なぜか悲しくなかった。おかしいよね。親友が死んだのに」
ξ゚听)ξ「でも、可哀相だった。今はドクオがひとりぼっちで、苦しんでる。私たちから離れて、ひとりぼっちで」
ツンは顔をあげ、まっすぐ僕を見て、言った。
ξ゚听)ξ「だから、私たちも行こうよ。もう一度3人一緒だった頃に戻りましょうよ」
ツンは後ろに隠していた2本の包丁を出した。
8 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:09:31.53 ID: A7zLxqZ+O
ξ゚听)ξ「2人で死ねば、怖くないよ」
僕は黙って包丁を受け取った。
ツンは少し微笑んで言った。
ξ゚听)ξ「いっせーのせーで、お互いに刺しあいましょ」
( ^ω^)「わかったお」
もう怖くなかった。
死ぬんじゃない。ドクオに会いに行くんだ。
会ったらまずドクオに謝ろう。ドクオも謝ってくれるはずだ。
何もかも元どおりだ。
昔に戻れるんだ。
ξ゚听)ξ「じゃあ行くわよ」
ツンは僕の首に、僕はツンの首に狙いを定めた。
ツンが深く息を吸った。
ξ゚听)ξ「いっせーのせーで!」
12 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:11:42.49 ID: A7zLxqZ+O
雨の音が聞こえる。
どこも痛くない。僕は立っている。
足下に、包丁が落ちた。ツンの細い、綺麗な手から包丁が滑り落ちた。
その包丁は僕の首を切る前に、止まっていた。
ξ゚听)ξ「ご…め……んね…先…」
ツンの首から吹き出た血が、僕の体を赤く濡らした。
生温かい感触が全身を包んだ。
ツンは悲しそうな顔で僕を見て、そのまま地面に倒れた。
13 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:13:59.31 ID: A7zLxqZ+O
(;^ω^)「ツン!ツン!」
ツンを殺した?
しかも雷じゃない。
僕の手で直接殺した。
ξ゚听)ξ「ブ…ごめ……ん」
ツンが喋った。
まだ生きてる。助かる。
でも首からは血が溢れでてくる。
(;^ω^)「ツン!死んじゃだめだお!」
僕はツンの首を抑えた。
(;^ω^)「出てくるなお!止まってくれお!止まれお!!」
ξ゚听)ξ「ごめ……さ…き…」
(;^ω^)「だめだお!行かないでお!もう僕をひとりにしないでお!!」
14 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:16:06.66 ID: A7zLxqZ+O
ツンの痛々しい吸気音だけが、あたりに響き続けている。
( ;ω;)「待ってくれお!僕を置いてかないでお!僕も今行くお!」
僕は落ちていた包丁を手にとり、首に突き立てた。
なのに、見えない壁があるかのように弾かれる。
何度も何度も突き立てた。
でも包丁は僕の首を切り裂くことなく、遂には熱で溶けてしまった。
( ;ω;)「なんでなんだお!」
気がつくと、空き地はたくさんの人間に囲まれていた。
車も何台かとまっている。
全員が同じ服を着ている。
16 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:18:22.67 ID: A7zLxqZ+O
( ;ω;)「誰かツンを助けてくれお!」
誰も返事をしない。
僕らをじっと見つめ、ときどき無線で何かを話している。
( ;ω;)「早くしないとツンが死んじゃうお!助けてくれお!」
ξ゚听)ξ「ブ……も……」
( ;ω;)「なんで誰も返事をしてくれないんだお!」
ξ゚听)ξ「……………」
ツンの苦しそうな吸気音が止まった。
僕は殺した。
ツンを、自分で。
( ;ω;)「ツ……!」
『凶悪犯を制圧します』
17 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:20:25.06 ID: A7zLxqZ+O
銃声が鳴り響いた。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
周りにいた人たちは、全員僕に銃を向けている。
しかし、彼らは驚愕していた。
もう一発。
一瞬、僕の目の前に銃弾が見えたような気がした。
しかしそれは、青い光とともに、蒸発した。
何発も銃声が鳴り響いた。
でも僕には届かない。
銃弾は全て、僕に届く前に蒸発してしまう。
『目標に効果なし。応援を頼みます』
18 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:22:03.02 ID: A7zLxqZ+O
わかった。
こいつらは僕を殺そうとしているんだ。
僕を殺すために、ツンを見殺しにしたんだ。
ツンを苦しいまま死なせたんだ。
ツンが死んだのは僕のせいじゃない。こいつらのせいだ。
憎い。
ツンを殺したこいつらが憎い。
僕を持ち上げて、叩き落としたんだ。
テレビで盛り上げて、ボロボロに吸い尽くして、捨てるんだ。
そのせいでドクオも死んだんだ。
みんな憎い。
全部憎い。
20 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:23:45.93 ID: A7zLxqZ+O
〜〜〜〜〜〜
「すみやかに避難してください」
至るところがテープで封鎖され、中から人がぞろぞろ出てくる。
家に帰りたかったが、それは許されなさそうだった。
( ,,゚Д゚)「なんなんだ、これは?」
「特殊急襲部隊『VIP』です。凶悪犯制圧のため、一般人の立ち入りは禁止します」
重々しい装備に身を固めた特殊部隊が、一般人を誘導している。
全員が銃を装備している。
そんな危険人物がいるなんて、聞いていなかった。
23 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:26:32.51 ID: A7zLxqZ+O
( ,,゚Д゚)「凶悪犯ってのはすぐ側にいるのか?」
「いいえ、しかし半径1キロ以内は危険が及ぶと考えられます」
( ,,゚Д゚)「爆弾かなんか持っているのか?」
「いいえ、ですが雷の落ち…」
「これ以上は作戦内容に関わるので説明できません。早く避難してください」
別の隊員が話を遮った。
しかし、俺は気づいた。
こいつの言ってる凶悪犯ってのは間違いなくブーンだ。
( ,,゚Д゚)「凶悪犯を、殺すのか?」
「避難してください」
( ,,゚Д゚)「答えてくれ。殺すのか?」
「…やむを得ない場合は、というよりおそらく射殺します」
25 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:29:15.48 ID: A7zLxqZ+O
( ,,゚Д゚)「そいつ、まだ高校生だろ?」
「凶悪犯には変わりありません。たくさんの人間を殺しました。危険人物です
国の秩序を守るため、排除されるべきです」
( ,,゚Д゚)「ふざけるなよ!あいつの気持ちがおまえにわかるのかよ!」
傘を投げ捨て、隊員の胸ぐらを掴む。
ブーンがどんな辛い思いをしてるのかも知らずに、
ブーンを凶悪犯と決めつける隊員が許せなかった。
「大量殺人者の気持ちなんてわかりたくありません
それに、彼の気持ちがどうであれ、罪の無い命を殺していい理由にはなりません」
( ,,゚Д゚)「……」
隊員は黙って俺を睨んだ。
( ,,゚Д゚)「おまえらの主張はわかった。だが俺は止める。ブーンを殺させはしねぇ」
俺は手を放すと、隊員が止める間もなく、テープをくぐった。
自分に何かできるかなんて、考えもしなかった。
26 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:31:53.72 ID: A7zLxqZ+O
銃声が一発、聞こえた。
続けて何発も聞こえた。
やりやがった。
あいつら、ブーンを撃ちやがった。
次の瞬間、東の空が青く光った。
さらに鼓膜が破れるぐらいの爆音。
( ,,゚Д゚)「ブーン?」
ブーンはまだ生きてる。
助けなければ。
止めなければ。
なんでブーンが殺されなきゃいけないんだ。
悪いのはブーンじゃない。
俺は走った。
28 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:33:34.32 ID: A7zLxqZ+O
〜〜〜〜〜〜
足下を見た。
血の海の中に、ツンが倒れている。
僕はツンの傍らにしゃがんで、髪を撫でた。
柔らかい、ツンの髪。
僕はツンの瞳を閉じさせた。
( ^ω^)「待ってくれお。今、仕返ししてくるお」
ξ--)ξ「……」
( ^ω^)「僕らを引き裂いたあいつらを殺してくるお」
ξ--)ξ「……」
( ^ω^)「ツンを傷つけるやつは許さないお」
ξ--)ξ「……」
30 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:36:03.39 ID: A7zLxqZ+O
手をかざす。
今まで見た中で一番激しい、青い光。
世界が青になる直前に見えた、特殊部隊たちの恐怖の顔。
視界が次第に戻ってくる。
僕の前にいた特殊部隊たちは、跡形もなく消し飛んでいた。
彼らがいたはずの場所には、影すら残っていなかった。
僕は確信した。
これなら、ツンの仕返しができる。
これなら、ドクオの仕返しができる。
僕らをバラバラにしたやつらを、全員殺してやるんだ。
この、雷で。
32 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:38:55.16 ID: A7zLxqZ+O
銃弾の雨が僕に降り注いだ。
僕は少しも動かなくていい。
何百という鉛の弾が飛んでこようと、僕には一発も当たらない。
隊員はひとり、またひとりと、電撃に撃たれ消し飛んでいく。
〜〜〜〜〜〜
「止まるんです!」
俺は特殊部隊があとから追いかけて来たのかと思い、振り向いたが誰も見えない。
「待つんです!」
(*゚ー゚)「嫌だ!お兄ちゃんが帰ってきてないもん!」
甲高い声と共に、曲がり角から少女が飛び出してきた。
(*゚ー゚)「きゃっ!」
俺と少女は激突し、走っていて勢いのついていた俺はそのまま前に転がった。
「さあ、いい加減観念するんです!それとそこのあなた!どうしてここにいるんです!」
( ,,゚Д゚)「ちっ」
35 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:41:14.22 ID: A7zLxqZ+O
(*゚ー゚)「お兄ちゃんは帰ってくるって言った!だから待つの!」
俺の横に倒れていた少女は、まるで幼児のようにだだをこねはじめた。
「もうあなたたち以外全員避難したはずなんです!」
(*゚ー゚)「嘘だ!」
「嘘じゃないんです!」
もしかして、この少女の兄というのは
( ,,゚Д゚)「君のお兄さんって…」
(*゚ー゚)「世界一すごいんだよ!」
( ,,゚Д゚)「名前は?」
(*゚ー゚)「内藤ホライゾン!」
( ,,゚Д゚)「!」
「!」
38 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:43:51.07 ID: A7zLxqZ+O
この子が、ブーンの妹。
隊員のマスクの下に、悲しそうな表情がちらっと見えた。
( ,,゚Д゚)「今から俺はその兄ちゃんを助けにいくんだ。ついて来るか?」
(*゚ー゚)「いく!」
「待つんです!そんなことは僕がゆ…」
また急に遠くで銃声が鳴った。
しかもその銃声はいつまでも止まず、絶えず鳴り続ける。
正面の空が何度も青く光る。
(*゚ー゚)「きれい!」
「……」
( ,,゚Д゚)「こうしてるヒマはねえ。走るぞ!」
(*゚ー゚)「りょうかい!」
( ,,゚Д゚)「止めないのか?」
「……お、おまえらが何かしないように見張ってやるんです!」
( ,,゚Д゚)「名前は?」
「わかんないんですって呼んでくださいです」
39 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:46:49.43 ID: A7zLxqZ+O
〜〜〜〜〜〜
車が何台も来た。
中から重装備をした隊員が一瞬出てくるが、
あっという間に物陰に隠れてしまった。
辺りは急に静かになった。
弱い雨にまじって、灰が雪のように舞っている。
ときどき、微かに無線の声や、銃器が揺れて触れ合う音が聴こえるだけになった。
物陰から、丸い物が2、3個飛んできて、足下に転がった。
( ^ω^)「これはば……?」
その丸い物に視線を合わせた、その瞬間、赤い炎と光を放って爆発した。
しかし、衝撃と爆風が僕に達する前に、僕は青白い光に守られた。
42 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:49:02.79 ID: A7zLxqZ+O
( ^ω^)「!!!」
足下の地面は見事にえぐられていた。
そして、そこに横たわっていた物。
( ^ω^)「ツン!!」
ξ-凵u……」
ツンは半分しか残っていなかった。
( ^ω^)「そんな…」
そっとツンに手を伸ばす。
( ^ω^)「!!」
そこにさらに降り注ぐ銃弾の雨。
僕に当たるはずの弾は全て消し飛ぶ。
でも雷は、ツンの体を守ってくれはしない。
(;^ω^)「ツンッッッッッッ!!」
土煙が雨で消えて現れたツンの体から、僕は思わず目をそらした。
44 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:52:47.82 ID: A7zLxqZ+O
無線の声がまた聴こえる。
雨が頬をつたる。
自分にいくつもの照準が向けられているのを感じる。
弾を装填する音が聴こえる。
あの建物の陰にいる。
ぶっ潰してやる。
(#^ω^)「うぉぉぉぉぁぁぁぁ!!」
僕は叫んだ。
(#^ω^)「ツンを元に戻せお!!」
青い稲妻が僕の手から建物へと走る。
轟音とともにその建物は粉々に砕け散った。
46 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:54:20.18 ID: A7zLxqZ+O
土煙の中から銃弾が何発も飛んでくる。
(#^ω^)「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
土煙は一瞬で消滅し、その奥にいた隊員たちは灰に変わる。
僕はツンの亡骸を抱き上げて、その額にキスをした。
血の苦い味がした。
(#^ω^)「もうこれ以上ツンを傷つけることは許さないお!」
小さな筒が回転しながら飛んできた。
その筒の出した煙を吸った瞬間、目が焼けるように痛くなった。
鼻から目にかけて、激痛が走る。
(#^ω^)「クソがぁ!」
雷の熱で煙を吹き飛ばす。
もちろん銃弾なんて効かない。
(#^ω^)「ツンは僕が守るお!」
怒りで痛みはもう忘れた。
48 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:56:50.98 ID: A7zLxqZ+O
〜〜〜〜〜〜
(*゚ー゚)「見た?今の!建物があっという間に無くなっちゃったよ!」
少女は目の前で起こった大惨事にも関わらずはしゃいでる。
( ,,゚Д゚)「銃声も近い。あの建物の向こうにブーンはいるぞ!」
「でも、行ってどうするんです?」
( ,,゚Д゚)「止めるんだろ!」
「一般市民に僕たちを止めるのは無理なんです!」
( ,,゚Д゚)「知るかんなもん!」
(*゚ー゚)「あ!ヘリコプター!」
少女は空を指した。
一機のヘリが建物の向こう側を旋回しながら飛んでいる。
53 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/08(木) 23:59:08.82 ID: A7zLxqZ+O
( ,,゚Д゚)「まさかおまえらは人間一人にヘリまで出動するのか?」
「違うんです!あれは隊のヘリじゃないんです!テレビ局のヘリなんです!」
( ,,゚Д゚)「なんだと?」
俺は目を細めて見た。
ヘリには『VIPテレビ』の文字が見えた。
( ,,゚Д゚)「VIPテレビじゃねえか!」
「戦闘中で規制がされてるはずなんです!」
その瞬間だった。
地上から青い稲妻がヘリに伸びた。
ヘリは空中で爆発し、炎に包まれて落ちていった。
(*゚ー゚)「うわぁー」
( ,,゚Д゚)「ブーン……」
「……許せないんです!」
俺はわからなくなった。
あの隊員は正しかったんじゃないか。
ブーンは罪の無い人まで殺している。
どれが正しいんだ?
ブーンは今、何を思ってるんだ?
56 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:01:29.51 ID: wPdyktTpO
〜〜〜〜〜〜
頭の上を一機のヘリが飛んでいる。
カメラのレンズを僕に向けてるのが、地上からでも見える。
『VIPテレビ』
また僕を見せ物にするつもりなんだ。
持ち上げるだけ持ち上げといて、叩くときには一気に叩くんだ。
そうやって楽しんでるんだ。
でもそうはさせない。
僕はツンに誓ったんだ。
僕らを苦しめたやつらに仕返しをするって。
ヘリめがけて雷を撃つ。
ヘリは爆発した。
そのまま近くの民家に突っ込んだ。
( ^ω^)「やったお、ツン。また仕返ししてやったお」
57 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:03:05.82 ID: wPdyktTpO
銃弾が、僕のこめかみから3センチぐらいのところでぎりぎり止まり、蒸発する。
(#^ω^)「うるさいやつらだお…」
雨が強くなってきた。
飛んでくる銃弾の数も増えてきたような気がする。
でも僕は死なない。
皆殺しにするまで死なない。
左の腕に力が入った。
ツンの体に指が食い込む。
ますます憎しみが増えていく。
ツンの頬だった場所を優しく撫で、僕はまた雷を放つ。
車が爆発して弾け飛び、裏に隠れていた隊員たちは吹き飛んだ。
後ろからも銃弾が飛んでくる。
建物からも狙撃されている。
全員殺してやる。
61 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:07:01.06 ID: wPdyktTpO
〜〜〜〜〜〜
VIPの隊員たちが見えてきた。
「確実に弱まっている!そのまま射撃を続けろ!もう少しだ!」
( ,,゚Д゚)「おいおまえら!」
俺は銃声に負けないように大声でどなりながら近づいていった。
しかし、その次の言葉が見つからない。
「なんだおまえらは?なぜ避難していない!」
「申し訳ありませんです!」
「ちょうどいい、おまえ、こいつらを避難させろ」
「わかったんです!」
( ,,゚Д゚)「ちょっと待て!」
「なんだ?」
また言葉に詰まった。
ブーンを殺すななんて言えない。
ブーンは人を大勢殺した。
隊員も何人も死んだだろう。
俺には止める権利も資格もない。
だけど、じゃあ俺は何しに来たんだ。
62 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:09:52.62 ID: wPdyktTpO
(*゚ー゚)「お兄ちゃん……」
少女はじっと一点を見つめていた。
ここは高台になっていて、100メートルぐらい先にブーンがいるのが見える。
ブーンは女の子の死体を抱え、戦っていた。
顔は怒りと憎しみに満ちていて、まるで人間じゃない邪悪な何かを想像させた。
(*゚ー゚)「怖い…」
少女は震えながら、でもブーンを見つめる。
「その子、彼の妹か?」
( ,,゚Д゚)「ああ」
「できれば下げてくれないか?」
( ,,゚Д゚)「?」
「もうすぐ彼は死ぬ」
( ,,゚Д゚)「なんだと?」
「体の発電が放出に追いついてないんだ。雷の威力も弱まっている。
もうすぐあのシールドも消えるはずだ」
63 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:12:23.42 ID: wPdyktTpO
俺はどうすればいいんだ?
こいつらを止めるのか?
犠牲になった隊員たちはどうしたらいい?
俺はブーンを見た。
ブーンは泣き叫びながら、少女の死体を守ってる。
( ,,゚Д゚)「!」
(*゚ー゚)「!」
正面の建物からブーンに向けてロケットランチャーが撃たれた。
続けて車の陰、建物の屋上、いろんなところから何発も打ち込まれた。
しかし、全部ブーンに届く前に爆発した。
煙が晴れ、ブーンの姿が見えた、そのときだった。
銃声と同時に、ブーンの頬から血が流れた。
65 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:14:22.38 ID: wPdyktTpO
〜〜〜〜〜〜
(#;ω;)「ちくしょおぉぉ!!」
感じる。
頬の鋭い痛み。
自分を守るものが無くなった。
ツンを守りきれない。
約束を守れない。
自分に向いてる銃口が見える。
(#;ω;)「ちくしょおぉぉぉぉぉ!!!」
手を向けて雷を撃つ。
わかる。
もうあと数発撃てるかどうかだ。
だけど、最後の最後まで、死んでたまるか。
67 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:18:40.58 ID: wPdyktTpO
〜〜〜〜〜〜
『制圧部隊全滅です!』
無線から叫ぶのが聞こえる。
俺の横で、わかんないんですが膝をついた。
「そんな……うそなんです……」
『シールドは消えてる!今がチャンスだぞ!支援部隊でも構わない!急げ!』
(*゚ー゚)「お兄ちゃん、どうしてあんなことしてるの?」少女は俺のシャツの裾を掴んだ。
俺は返事ができなかった。
「見つかった!!」
3メートルぐらい離れたところにいた隊員が、そう叫ぶと同時に、灰になって宙を舞った。
「くそっ!一般市民は避難しろ!」
( ,,゚Д゚)「でも!」
69 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:20:04.18 ID: wPdyktTpO
ブーンの姿がすぐ向こうに見えた。
灰まみれになり、左腕に少女の亡骸を抱え、右手をこちらに向けている。
そのままじっとこちらを睨んでいる。
彼が俺と彼の妹を認識できてないとしたら、俺らに命はない。
(#;ω;)「……」
ブーンが腕に力を入れたのがわかった。
俺が死を確信した瞬間だった。
一瞬の膠着。
わかんないんですが銃を構えて前に出た。
マスクは外していた。
(;><)「よくも!よくも!」
(#;ω;)「……!」
ブーンの顔に、驚きと焦りが見えた。
(;><)「よくも罪のない人間まで!」
70 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:21:36.86 ID: wPdyktTpO
(;,゚Д゚)「!」
(;*゚ー゚)「!」
銃声。
72 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:23:50.83 ID: wPdyktTpO
〜〜〜〜〜〜
左目が痛い。
視界が暗くなっていく。
体の感覚が無くなっていく。
ツンを落とさないように、腕に力を入れようとするが、力が入らない。
( ^ω”)「っ……っが………」
ツンが見える。
ドクオが見える。
嬉しそうに手を振っている。
僕を呼んでる。
( ^ω^)「まだだお。まだ全部仕返ししてないお」
2人は悲しそうな顔をした。
ごめん。
でも、まだ終わらせるわけにはいかない。
75 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:26:00.90 ID: wPdyktTpO
〜〜〜〜〜〜
赤い霧が、ブーンの左目から吹き出た。。
(;><)「あ…あ…」
スローモーションでブーンが後ろに倒れていく。
そう見えた。
しかし、ブーンの左足が、倒れずに踏ん張った。
( ^ω”)「こ……ろっし…て……や…」
彼の左目からは血が溢れ出ている。
それでもなお、少女の亡骸をはなさない。
( ^ω”)「ころし……て……やる…」
右手をこちらに向け続ける。
青い光が、彼の右手に集結されていく。
( ^ω”)「ぜん…いん……ころして……やるお!」
(;*゚ー゚)「お兄ちゃん!!」
79 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:28:33.94 ID: wPdyktTpO
〜〜〜〜〜〜
しぃの声が聞こえた。
右目を凝らすと、しぃの姿が見えた。
(;*゚ー゚)「お兄ちゃん!!」
目に涙を浮かべている。
なんでここにしぃがいるの?
どうしてそんなにおびえてるの?
僕は今、何をしてるんだろう?
( ^ω”)「しぃ……」憎しみの炎が、僕の心の中で消えた。
僕は、自分からバケモノになっていたのに気づいていなかった。
僕がやっていたことは、罪のない人たちに対する、やつあたりだった。
そんな姿を、しぃに見られてからやっと気づいた。
僕はなんて醜いんだ。
でも、それに気づけてよかった。
右手の力を抜いた。
( ^ω”)「しぃ……こんなお兄ちゃんでごめ………」
80 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:30:23.24 ID: wPdyktTpO
一発。
腕の力が抜け、ツンが滑り落ちる。
もう一発。
痛みはもう感じない。
ただ、後ろに吹き飛ばされるだけ。
さらに何発もの銃弾が僕の体に撃ち込まれる。
視界が一気に空を向いた。
どんより曇った灰色の空。
その灰色の空も、やがて見えなくなった。
82 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:32:49.60 ID: wPdyktTpO
頬をつたるのは、雨なのか、血なのか、涙なのか、わからない。
雨の音すら聴こえない。
でも、しぃが僕を呼んだ気がした。
返事をしなきゃ。最後ぐらい兄としてありたい。
僕は口を開いた。
だけど、声は聴こえない。
自分の声が聴こえないのが、こんなに寂しいとは思わなかった。
でも、誰かが僕の手を握ってくれている。
もうずっとひとりだと思ってた。
でも誰かがいてくれている。
誰かわからないけど、ありがとう。
86 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:35:35.34 ID: wPdyktTpO
〜〜〜〜〜〜
(*゚ー゚)「お兄ちゃん!!」
少女はブーンのもとへ駆け寄った。
(*;ー;)「お兄ちゃん!死なないで!お兄ちゃん!」
( ω )「………ご………」
(*;ー;)「死んじゃだめだよ!お兄ちゃんは悪い人じゃないからね!私の最高のお兄ちゃんだからね!」
( ω )「……め…………」
(*;ー;)「たったひとりのお兄ちゃんだよ?大切なお兄ちゃんだよ?だから死なないで!」
( ω )「…ん……………」
(*;ー;)「帰ってくるんでしょ?お兄ちゃんは私をひとりになんかしないよね?待ってるからね?」
( ω )「……………と…」
87 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:38:17.53 ID: wPdyktTpO
少女の握っている、ブーンの右手の力がふっと抜けた。
少女はブーンを撫でて、大声で泣いた。
その泣き声を聞いて、その姿を見て、胸が張り裂けそうだった。
なんでブーンが死ななきゃならなかったんだろう。
助けることはできなかったのだろうか。
何が正しいのか、俺にはわからない。
ただ、ブーンの胸に顔をうずめて泣き崩れる少女を見るしかなかった。
( ><)「僕たちがしたことは、間違ってたんですか?」
わかんないんですが口を開いた。
( ,,゚Д゚)「正しかったと思うしかないだろ」
( ><)「わかったんです」
89 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:40:24.61 ID: wPdyktTpO
( ,,゚Д゚)「だけど、俺にはブーンを助けることも、誰を助けることもできなかった。何も偉いことは言えねえ」
大口叩いて偉そうなこと言っても、結局何もできなかった。
自己嫌悪。
( ><)「ギコさんは彼を助けたんです」
( ,,゚Д゚)「……?」
( ><)「あなたが少女をここに連れて来なかったら、彼は憎しみの中で死んでいたんです」
( ><)「あなたのおかげで、彼は最後に人間の心を取り戻せたんです」
( ,,゚Д゚)「そうなのか?」
( ><)「そう思うしかないんです」
92 名前: ◆r9HqBXUdP. Mail: 投稿日: 2007/11/09(金) 00:44:32.53 ID: wPdyktTpO
後ろでは、ブーンを撃った数人の隊員が、少女が泣き崩れる姿を見つめている。
彼らは俺たちを救い、社会を救ったヒーローだ。
でも、この光景は、彼らの目にずっと焼き付くだろう。
彼らは、自分がしたことは正しかったと思えるだろうか。
思わなければ、耐えられないぐらいの重みだ。
空を見上げた。
さっきまで降ってた雨はいつの間にかやみ、雲に少し切れ間が出来ている。
辺りに舞っていた灰が、夕日に赤く照らされている。
ブーンの顔から、怒りは消えていた。