1 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:29:06.18 ID: PryVo1oI0

( ・∀・)「学生時代に力を入れたことは?」

(;^ω^)「は、はい! アルバイトを一生懸命しましたお!」

( ・∀・)「アルバイトねぇ…どんな?」

(;^ω^)「は、はい! コンビニエンスストアですお!」

( ・∀・)「ふーん。ありがちだねぇ…」

( ´ー`)「それより君、語尾がおかしいね? なんなのそれ?」

(;^ω^)「あ、これは癖なんですお…なんです」

( ´ー`)「ふーん。なんか君暗そうだけど、大丈夫? うちが募集しているの営業職なんだけど」

(;^ω^)「も、もちろんですお…です! 接客で鍛えたスキルをいかしますお! …いかします」

( ´ー`)「……」

( ・∀・)「……わかりました。面接は以上です。本日は暑い中ありがとうございました」

(;^ω^)「は、はい! こちらこそありがとうございましたお!…ございました」

 

 

2 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:30:06.43 ID: PryVo1oI0

九月も下旬。
もう秋だといっても、まだまだ暑いものは暑い。

安物のスーツにカバンを持った僕は、汗をぬぐいながらトボトボと家路に着く。

( ´ω`)「はぁ…今日も手ごたえがなかったお…」

家に着けば、かーちゃんがうれしそうな顔でご飯を作ってくれていた。
いつもは魚ばっかりなのに、今日は肉が並んでいた。

 

 

3 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:31:05.73 ID: PryVo1oI0

J( 'ー`)し「ブーン、就職活動お疲れ様。今日はどうだったのかい?」

(;^ω^)「お…完璧だったお! きっと内定間違いなしだお! だから安心してくれお!」

J( 'ー`)し「そうかい…うれしいねぇ」

(;^ω^)「そ、そろそろバイトの時間だお! ご飯おいしかったお!それじゃ行ってきますお!」

J( 'ー`)し「そうかい。かーちゃんも夜勤だから、鍵はちゃんと持っていくんだよ?」

夕食を済ませた僕は、菩薩のように笑うかーちゃんから逃げるようにしてバイトへと出かけた。

 

4 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:32:34.39 ID: PryVo1oI0

バイト先のコンビニでは、いつものようにミスをした。

商品を袋に入れ忘れたり、廃棄の弁当を棚から処分し忘れたり。
おまけにバイト上がりの清算で金があわず、足りない分を店長と折半で払った。

(´・ω・`)「もう勤めて四年なんだから…しっかりしておくれよ?」

( ´ω`)「ほ、本当にすいませんお…」

これで二時間分くらいのバイト代がパーになる。
深夜の誰もいない田舎道をたどって、僕はトボトボと家路についた。

 

 

6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:33:57.95 ID: PryVo1oI0

自宅に帰った頃には時刻は深夜の4時。
かーちゃんは夜勤で、八時くらいまで帰ってこない。

かーちゃんのための朝飯を作って、
それから部屋に戻って布団の上に転がって悩む。

( ´ω`)「もうすぐ大学が始まるお…早く就職決めないとやばいお…」

それからも布団の上で悶々とし続けて、ようやく朝日が差し込む頃になって寝た。

目覚めた頃には昼の三時になっていて、僕は泣きたくなった。

 

 

7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:35:23.12 ID: PryVo1oI0

( ´ω`)「今日も何社か面接があったのに…寝過ごしたお…」

かけ忘れていた目覚まし時計を力なく眺めて、悪あがきに面接先の数社に電話をかけた。
案の定、門前払いされた。

( ;ω;)「馬鹿な自分がいやになるお…」

ここ一週間、ずっとコンビニの夜勤だった。だからヘトヘトに疲れていた。
だけどもちろん、そんなことは理由にならない。ただ自分が馬鹿なだけなのだ。

( ´ω`)「残ってるのはあと一社かお…これにすべてをかけるしかないお」

だけど結局不採用。一つも内定をもらえないままに、僕は大学生最後の学期を迎えた。

 

 

10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:39:48.47 ID: PryVo1oI0

はっきり言おう。僕は馬鹿だ。
知恵遅れって言われても文句が言えないほどに。

昔から物覚えが悪くドジばっかりしていて、同級生からいじめられて不登校になったこともある。
太っているし顔も悪いし運動も出来ない。暗いしどもるし、友達なんかほとんどいない。

行っている大学は国立。といっても、田舎も田舎の国立大学だからランクで言えばD〜E。
その中でも一番入りやすい学部に、二浪してようやく入れた。
それでも僕にとっては快挙だったし、かーちゃんは涙を流して喜んでくれた。

だけど、入ってからが地獄だった。

友達は当然出来ない。無理して入った学部だから授業がわからない。
友達もいなくてテストの過去問も手に入らない。
結局、毎学期フルに授業をとっても単位は半分しか取れなかった。

そんな僕だから、大学四年の後期になっても授業はフルに入れている。

学費も生活費も親任せな同級生が単位を取得し終え、
内定ももらってヘラヘラ遊びまわっているのに。

 

11 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:41:14.21 ID: PryVo1oI0

( ^Д^)「この前内定式行ってきたぜwwwww早速友達作ってきたよwwwww」

必修のゼミの時間、クラスの隅で独りの僕の前で、
みんなは内定式の話題で大盛り上がりだった。

その中心は、メガバンクに就職が決まったリア充。
彼を囲むように、地銀や中堅メーカーに内定をもらった奴らが馬鹿笑いしている。

( ^Д^)「ところで内藤、お前、内定でたの?」

(;^ω^)「あ…い、いや、まだだお」

( ^Д^)9m「マジwwwww売り手市場なのに決まらないなんてどんだけwwwwwww」

( ´ω`)「あは…あはは…」

肩身の狭い思いをして、ようやくゼミが終わってくれた。
真っ先に教室を出て家に帰ろうとしたが、筆箱を忘れたので教室に戻った。

 

 

13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:43:15.68 ID: PryVo1oI0

( ^Д^)「あいつ本当に馬鹿だよなwwwww
     いまどき無い内定なんてどんだけwwwwww」

从'ー'从「ひどいよプギャ君w 
     だけどまあ、当然な気もするけどねw」

( ^Д^)「だろう? 絶対にあいつに内定なんて取れねえよwwww
     あの根暗ピザ童貞にさwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

从'ー'从「wwwwwwwwwwwwwww」

( ´ω`)「……」

戻った部屋の扉の向こうからそんな会話が聞こえた。
結局筆箱を回収することなく、僕は家路に着いた。

 

 

15 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:45:23.55 ID: PryVo1oI0

J( 'ー`)し「ブーン、内定は出たかい?」

(;^ω^)「ま、まだだお! でももうすぐ出るお!
     今は売り手市場だから大丈夫だお!」

J( 'ー`)し「そうかい…かーちゃんむずかしいことはわからないけど、
     ブーンは頑張り屋さんだから大丈夫だね。
     内定が出るまではかーちゃんがパートの夜勤増やすから、
     ブーンはバイトを休んでもいいんだよ?」

(;^ω^)「そ、そういうわけにはいかんお! 学費は自分で稼ぐって決めているんだお!
     そ、それじゃあ、バイトに行ってくるお! かーちゃんもパート無理するなお?」

J( 'ー`)し「そうかい。ありがとうねぇ。いってらっしゃい」

また僕は逃げるようにしてバイトに向かった。外の風は冷たかった。

 

 

16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:47:32.57 ID: PryVo1oI0

昼は授業。夜はバイト。その合間に勉強と就職活動。
だけど依然として内定は出てくれない。

僕の何が悪いのか? 答えは明白だ。

頭が悪い。要領が悪い。根が暗い。
見た目が悪い。語尾がおかしい。友達がいない。

大学生活で頑張ったことは勉強とバイトだけ。
だけどそこでも、成績は悪いしミスしてばっかり。

毎日が家と学校とバイト先を行き来するだけ。
つまらない、本当につまらない人間。

そんな僕に自己PRを自信を持って言えるわけも無かったし、
もともとどもり癖があってそれだけでマイナス印象。
さらに深夜バイト明けの寝不足の顔で面接に挑んでも、良い印象を与えられるはずがなかった。

( ´ω`)「また落ちたお…」

そうこうしているうちに十二月になっていて、やっぱり僕に内定は出ていなかった。

 

 

17 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:49:48.48 ID: PryVo1oI0

('A`)「そうか…きついな」

( ´ω`)「お」

めったに入らない大学の食堂の隅に座って、唯一の友人のドクオに相談した。

彼は一浪でこの大学に入った一歳違いの僕と同学年の学生で、
親の仕事を継ぐことになっているため、就職活動をしていなかった。

彼に相談しても良いアドバイスはもらえそうに無いが、愚痴をはけるだけでも十分だった。

('A`)「俺は就職活動にアドバイスなんて出来ないけど、
   お前のよさをわかってくれる企業は必ず現れるさ。
   ガンガレ。コーヒーおごってやるからさ」

( ´ω`)「ははは…ありがとうだお」

食堂から外に出る。十二月の外気は凍てついていた。
おごってもらったコーヒーを口に含んだ。とっても暖かかった。

 

 

18 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:51:17.93 ID: PryVo1oI0

('A`)「タバコ、吸うか?」

(;^ω^)「いや、遠慮しておくお」

('A`)「そうか。うまいのにな」

それから僕たちは黙ってキャンパス内のベンチに座っていた。

日が傾き始めても、ドクオは何も言わず僕の傍らにい続けてくれた。
それだけでありがたかった。

けれど、現実は甘くない。

ドクオと別れてバイトに向かった僕は、悲しい知らせを店長から受ける。

 

 

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:53:37.29 ID: PryVo1oI0

(´・ω・`)「今月中に店を閉めることになったんだ」

バイト上がり。
いつものように清算の金額が合わなくて店長に軽く怒られた後、告げられた。
店長は酒を取り出すと、僕に渡して話し始めた。

(´・ω・`)「前々から経営が厳しかったんだが、
     近所にできたコンビニに止めを刺されてね。
     もう、にっちもさっちもいかなくなった。ははは…」

そう言って、勤務中だというのに酒をあおった店長。
彼の頬はげっそり削げていた。

 

 

21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:55:56.17 ID: PryVo1oI0

( ´ω`)「じゃあ、これからどうするんですかお?」

(´・ω・`)「妻子もいるからね。ちゃんと仕事を見つけるさ。
     なーに、このコンビニで人間じゃない生活をしていたんだ。
     どんなことでもやれるはずさ」

店長は真っ赤な顔で強がってみせた。
人のことを言えた身じゃないが、痛々しいなと思った。

それからしばらくいろいろ話して、
僕が去ろうと席を立ったとき、店長が言った。

 

 

22 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 00:57:49.10 ID: PryVo1oI0

(´・ω・`)「残念なのは、内藤君の内定を聞けなかったことかな。
     正直、僕は君がバイトの面接に来たとき落とそうと思った。使えないと思った。
     確かに君はどこか抜けていて、要領が悪くて、ミスばかりする。
     だけど、真面目だ。いやな顔ひとつせずバイトに一生懸命だった。
     僕は君を雇ってよかったと思っている。君なら必ず内定が取れる。頑張れ」

( ;ω;)「……ありがとうございますお」

店長に深々と礼をしてコンビニを出た。
静かな夜の世界に、初雪がハラハラと辺りを舞っていた。

街頭に照らされたそれは季節外れの蛍のようで、僕はその美しさにまた涙を流してしまった。

 

 

 

 

 

 

その翌日。かーちゃんが倒れた。

 

 

27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:02:39.01 ID: PryVo1oI0

J( 'ー`)し「ごめんね…かーちゃん役に立たなくてごめんね…」

( ^ω^)「いいんだお。ゆっくり休んでくれお」

病院で対面したカーちゃんは、バイト先の店長よりもげっそりとしていた。

医者の診断によると重度の過労らしい。
胃や腸をはじめとした内臓にかなりダメージがきており、長期の入院が必要だといわれた。

それは全部、僕のせいだった。

 

 

29 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:05:20.79 ID: PryVo1oI0

かーちゃんは、ずっと女手ひとつで僕を育ててくれた。

見たこともないじーちゃんやばーちゃんに勘当されてまでして、
とーちゃんと駆け落ちしたかーちゃん。
だけど僕を生んで三年ほどで、とーちゃんは突然蒸発してしまったらしい。

借金か、女か。そんなことは分からないし、いまさら知りたいとも思わない。

ただ、中卒にもかかわらず、かーちゃんは一生懸命働いて僕を育ててくれた。
知恵遅れのように物覚えが悪く、成績はいつもビリで、運動も得意でなく、友達もいない。

そんな僕の味方は、いつもかーちゃんだけだった。

安アパート住まいで、つらいことばかりで、帰ってくるのはいつも朝方。
それでも弁当は作ってくれる。
質素で、時にはおかずが無かったりしたけど、どんな食べ物よりもおいしかった。

悪い点数のテストを見せても、かーちゃんは「頑張れ」と言うだけで決して怒らなかった。
僕は勉強を頑張った。頑張ってもようやく人並みだったけど、それでも必死に頑張った。

 

 

32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:07:05.38 ID: PryVo1oI0

J( 'ー`)し「ブーン、よく頑張ったねぇ…」

そんな僕が地元の国立大学を目指すと告げたとき、
かーちゃんはこれまでで一番喜んでくれた。

これまで以上に仕事を増やして、一生懸命僕を支援してくれた。
だから僕も必死に頑張って、それでも二浪したけれど、国立大学に無事入学できた。

( ^ω^)「これでいいところに就職できれば、かーちゃんを楽させられるお!」

だけど現実はうまくいかず、今はこうやって無い内定。
おまけにバイトはもうすぐクビ。かーちゃんは働けない。入院費だってかかる。

もう、ここまでだ。

 

 

34 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:09:01.88 ID: PryVo1oI0

('A`)「…そうか。あと二ヶ月、何とかならないのか?」

( ^ω^)「ははは…もう無理だお。
     もとから単位も危なかったし、もう潮時なんだお」

('A`)「奨学金を取っていれば何とかなったのにな」

( ^ω^)「結局奨学金は借金だお。それはしてはいけないお」

('A`)「…本当、クソ真面目なやつだな。お前」

( ^ω^)「それしか取り柄が無いんだお」

('A`)「…そうだな」

キャンパスのベンチでそう呟くと、ドクオは席を立ち、
缶コーヒーを持って戻ってきた。それを僕に手渡して、「飲めよ」と促す。

 

 

35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:10:45.85 ID: PryVo1oI0

('A`)「お前は本当に要領が悪い。クソ真面目。それしか取り柄ない」

( ^ω^)「ははは…おっしゃるとおりだお」

('A`)「だけど…お前のそういうところ、俺は嫌いじゃない」

( ^ω^)「…ありがとうだお」

飲み干した缶コーヒーは、
かーちゃんの弁当と同じくらいおいしかった。

 

 

そして、年が明けた。

 

 

僕はもう、大学生じゃなくなっていた。

 

37 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:12:11.31 ID: PryVo1oI0

J( 'ー`)し「ごめんね…本当にごめんね…」

( ^ω^)「いいんだお。僕が大学に入れただけでも奇跡だったんだお。
     それに今の就職は売り手市場だお。大学中退でも職は見つかるお!」

J( 'ー`)し「ごめんね…頑張ってね…」

かーちゃんの懺悔に見送られ、僕は新しいバイトの面接へと向かった。

宅配便などの仕分けをするバイトで、
激務で薄給だったけど、働けるだけマシだった。

そして初めてのバイトの日、僕は思ってもみない人と再会する。

 

 

41 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:15:29.28 ID: PryVo1oI0

(´・ω・`)「…驚いた。内藤君か」

(;^ω^)「て、店長! なんでここに…」

(´・ω・`)「ははは…五十過ぎの中年の再就職先なんて、こんなところしかなくてね」

店長は力なく笑った。
一ヶ月会わないうちに、黒髪が数がめっきり減っていた。

(´・ω・`)「そうか…大学を辞めたのか。いろいろ大変だったね」

( ^ω^)「でも、今はふっきれてますお。仕事に集中できる分、昔より生活はマシですお」

(´・ω・`)「そうかい。まあ、一緒に仕事、頑張ろうな」

それから「こんなものしか奢れなくて悪いな」と言って、
店長は僕に缶コーヒーを手渡してくれた。

ドクオの缶コーヒーと同じく、それはとても美味しかった。

 

42 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:18:02.46 ID: PryVo1oI0

半年後。
依然としてヘトヘトにこき使われる僕。

かーちゃんは退院したけれど、
すっかり弱っていて仕事に出るのは不可能だった。

細々と内職をして、それと僕のバイト代で生計を立てていた。
そんな苦しい生活の中、突然に朗報は届く。

('A`)「ブーン、うちの会社、一人社員を募集してるんだ。
   お前、入ってくれないか?」

(;^ω^)「ほ、本当かお!? い、いいのかお!?」

('A`)「ああ。お前の真面目さは俺が一番良く知っている。是非来てくれ」

聞くところによると、ドクオが大学を卒業し働き始めてすぐ、親父さんが倒れたらしい。
そのまま社長の職に就いたドクオは、信頼できる社員を求めているという。

僕は二つ返事で快諾した。

 

47 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:20:21.48 ID: PryVo1oI0

(´・ω・`)「いい友達をもったね。頑張りなよ」

( ^ω^)「はい! 店長も頑張ってくださいお!」

バイトを止めるとき、店長は寂しげに笑って、こう言った。

(´・ω・`)「…若いっていいねぇ」

店長につられて見上げた夏空は、どこまでも広かった。
年老いた店長には、空の広さはどう感じられたのだろうか?

それから店長は仕事へと戻っていった。
その背中は、とてもとても小さく見えた。

仕事に戻った直後、店長は息子と同じくらいの年齢の社員に怒鳴られていた。

 

 

 

それ以来、店長とは一度も会っていない。

 

 

49 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:22:44.55 ID: PryVo1oI0

ドクオの会社に入社してからの十年間。
人生で一番幸せな時期だった。

仕事は葬儀屋で、ほぼ年中無休で、
激務で、給料は少なくボーナスもほとんどなかったけど、
社会保険に入れる以上、バイト生活よりははるかにマシだった。

('A`)「お前ら社員には苦労かけるけど、一生懸命頑張って会社を大きくしような!」

( ^ω^)「もちろんだお! この界隈で一番盛り上がる葬儀屋にするお!」

('∀`)「ふひひww 一番盛り上がる葬儀屋か! そりゃいいや!」

仕事終わりにドクオとそんなことを話した。

その記憶は色あせることなく、今も僕の遅い青春の一ページとして胸に残っている。

 

 

51 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:26:43.49 ID: PryVo1oI0

入社して十年。
僕もドクオも三十を過ぎて、すっかりおじさんになっていた。

僕もドクオも結婚せず、仕事一筋の日々。
生活は苦しかったけど、それでも何とか生きていられた。

 

 

 

 

 

 

 

そんなある日、ドクオが自殺した。

 

56 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:29:42.67 ID: PryVo1oI0

後々になって別の社員から聞いたところ、
会社は相当の経営難で借金にまみれていたらしい。

  「俺の生命保険で会社を立て直してください。
  それと、ブーン。一緒に夢をかなえられなくて、ごめん」

遺書にはそんなことが書かれていた。

けれど、ドクオの生命保険でも借金はどうにもならず、
結局ドクオが命までかけて守ろうとした葬儀屋は、あっけなく潰れた。

ドクオの葬儀でさえ、潰れた会社ではすることができなかった。

悔しかった。
悔しさを通り越して、怒りがわいた。

悩みを胸に独り抱えていたドクオにも。
それに気づけなかった、馬鹿な僕にも。

 

 

59 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:31:51.64 ID: PryVo1oI0

( ;ω;)「馬鹿だお…お前は馬鹿だお…」

大学時代、友達のいない僕の愚痴をただ一人聞いてくれたドクオ。
何も言わず、僕の傍らに座り、缶コーヒーを手渡してくれたドクオ。

かけがえのない唯一無二の親友は、僕を残して独り、逝った。

火葬だけを済ませて、ドクオを彼の一族の墓へと埋葬した。
涙があふれて止まらなかった。

墓前に供えられた花びらが、僕の涙のようにはらりと地面に落ちた。

 

 

61 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:34:13.00 ID: PryVo1oI0

また職を失った僕。

その頃にはかーちゃんは寝たきりになっていて、
仕事はおろか内職さえも出来ない状態だった。

そんなかーちゃんを食わせるため、僕は落ち込む暇もなく職を探し始めた。

けれど、潰れた葬儀屋づとめの三十男を雇ってくれる企業などどこにもなく、
結局もとのバイト生活に逆戻りとなった。

学生時代と同じ、コンビニの夜勤バイト。
しかも、昼は寝たきりのかーちゃんの介護。

厳しい生活だった。

 

66 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:36:59.64 ID: PryVo1oI0

J( 'ー`)し「ごめんね…かーちゃんお荷物でごめんね…」

(ヽ^ω^)「何言ってるんだお。
     小さいブーンをここまで育ててくれたのはかーちゃんだお。
     だから今度は僕が恩返ししているだけだお」

J( 'ー`)し「ごめんね…ごめんねブーン…」

そんなことばかりを呟き続けるかーちゃんを寝かしつけて、
今日も深夜勤務へと出かける僕。

コンビニではひと回りもふた回りも若いバイトにうざがられ、
店長には使いづらいと言われ、居場所がなかった。

そんな僕の楽しみは、かーちゃんとこうやっておしゃべりすることぐらい。

だけど、二年後の年末、僕はやっぱりコンビニをクビになる。

 

73 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:40:05.23 ID: PryVo1oI0

年齢もそうだし、
かーちゃんの具合が悪くなったときにはシフトを代わってもらったりしていた。

時間の融通が利かない。人との会話も苦手。
相変わらずミスばかりをする。使いづらいことこの上ない人間。

当たり前かと、「ははは」と笑った。
二年も雇ってくれたことを、むしろ店長に感謝したいくらいだ。

「これは退職金だ」

去り際に店長からクリスマスケーキの廃棄を渡された。

申し訳なさそうな店長の顔に、学生時代のコンビニの店長の顔が重なって見えた。

 

79 名前: >>68そのとおりです。最後に元ネタの記事を出します Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:43:37.82 ID: PryVo1oI0

翌日、かーちゃんと二人でケーキを食べた。

J( 'ー`)し「美味しいよ…美味しいよ…」

(ヽ^ω^)「それは良かったお。もっと食べるお」

本来捨てられるはずの、ゴミ同然のクリスマスケーキ。
それを美味しく食べるかーちゃんを見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

けれど、安アパートの一室でゴミ同然の生活を続ける僕たちには、
それは似つかわしいものこの上なかった。

しかし、そんな生活でも僕は、かーちゃんが傍にいてくれるだけで幸せだった。

 

82 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:46:33.13 ID: PryVo1oI0

それからも僕はバイトを転々とした。

相変わらず要領は悪く、ミスばかりをして、
すぐにクビになっては次のバイトを探す。そんな生活。

しかし、終わりは来た。
僕が四十歳になった頃には、僕を雇ってくれるところなど無くなっていた。

白ご飯さえ調達できず、食事の回数は減り、家賃はもちろん払えなかった。

借金を嫌っていた僕だったけれど背に腹は変えられず、
無人金貸し機で金を借りて食いつないでいたが、それもついに限度額を超えた。

借金だけが残り、手持ちの金はまったくない。

そして僕たちはとうとう、アパートを追い出されることになる。

 

 

85 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:49:13.06 ID: PryVo1oI0

(ヽ´ω`)「…どうしたらいいんだお」

J( 'ー`)し「…」

老いたかーちゃんを背にかつぎ、当てもなく公園をうろついた。
軽いかーちゃんの体が、ただただ悲しかった。

しかし力尽きて、ついにベンチに腰掛けた。
もう一歩も動ける気がしなかった。

お金は一円もなく、ここ数日の食料は公園の水道水だけ。

僕もかーちゃんも、日に日にやせ衰えていって。
それでも夜風は冷たくて。

僕はもう、限界だった。

 

 

90 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:50:13.51 ID: PryVo1oI0

(ヽ´ω`)「…かーちゃん」

J( 'ー`)し「…なんだい?」

(ヽ´ω`)「もう…ダメだお」

J( 'ー`)し「…そうかい」

そう言って、ベンチに寝転んだまま、首だけを動かして僕を見たかーちゃん。

笑っていた。

 

94 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:52:15.46 ID: PryVo1oI0

J( 'ー`)し「死ぬときは一緒よ、ブーン。
     あんたは私が殺してあげる。ほら、こっちにおいで」

(ヽ;ω;)「あう…あう…」

僕はかーちゃんのもとに歩み寄る。

かーちゃんは僕の首を絞めようとしたけれど、息はまったく苦しくなかった。
かーちゃんは、実の息子を絞め殺すことが出来ないほどに弱っていたのだ。

その代わり、僕がかーちゃんの首を絞めて、殺した。

 

102 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:54:56.45 ID: PryVo1oI0

それからのことは良く覚えていない。

眠るようにベンチに横たわったかーちゃんをしばらく眺めて。

当てもなく人のいない公園を一人歩き回って。

自分も死のうと思って車の前に飛び出して。

けれど車は僕に当たる直前に停止して。

警察に連行された記憶があるけど、
それは夢のように曖昧で定かではない。

そして僕は今、法廷に立っている。

 

 

107 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/10/20(土) 01:56:52.80 ID: PryVo1oI0

<ヽ`∀´>「内藤被告、あなたは確かに生活に困窮していましたニダ。
     しかし生活保護など、取れる措置はまだまだあったはずですニダ。
     どうしてそれらの措置をとらなかったのですかニダ?」

検察官らしき男が僕に向かって問い詰める。僕は正直に答える。

(ヽ´ω`)「僕は頭が悪いから…そんなことは知らなかったんですお…
     本当に…知らなかったんですお…」

<ヽ`∀´>「…」

検察官が何ともいえない表情で腰掛け、続けて裁判官らしき人が僕に尋ねる。

 

 

114 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 01:59:02.51 ID:PryVo1oI0

(`・ω・´)「…内藤被告。何か、言いたいことはありますか?」

その一言に僕は背筋を伸ばし、涙がこぼれないように上を向いて、言った。

(ヽ;ω;)「かーちゃんの命を奪ったダメな息子だけど、
      もう一度、かーちゃんの子どもに生まれたいですお」

視界がにじんで、もう、何も見えなくなっていた。

法廷に響くすすり泣く声。

それは僕のものなのか、それともほかの人のものなのか。

僕には分からなかった。

 

 

125 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/20(土) 02:01:20.68 ID:PryVo1oI0

頭が悪くて。

要領も悪くて。

根暗で。

人とうまく付き合えなくて。

独り悩みを抱えていたドクオを自殺させて。

そして、大好きなかーちゃんをこの手で殺して。

ねぇ。判決に従えば、僕の罪は赦されるのですか?

こんなダメな僕でも、
またかーちゃんの息子として生まれることが出来るのですか?

そうだとしたら、どんな判決を下されても僕はそれに従おう。

だから、どんな量刑でもいい。死刑だってかまわない。

どうか、僕を裁いてください。

                             〜Fin〜

 

 

 

 

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