290 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 21:43:56 ID: FVOz5oBx0
駅前には大勢の野次馬が出来ていた。
警察やマスコミに加えて、事情を知らない一般人も群れに加わっている。
もみくちゃにされながらも、ドクオは何とか人の波から脱出した。
しかしこの先どうしていいかわからず、途方に暮れる。
(;'A`)(やばい……やばいぞ……! もう時間が無い!
タクシーを拾って……いや待て。
今までの展開からすると、乗り物は危ない……ん?)
その時、倒れたままになっている放置自転車がふと目に付いた。
普通に考えて自転車で行くような距離では無いが、もはや交通機関は信用出来ない。
('A`)「……日付が変わるまで残り2時間か」
(#'A`)「やってやんよ――!」
293 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 21:45:57 ID: FVOz5oBx0
近くに落ちてあった傘を分解し、即席のピッキングツールをこしらえた。
それを自転車の鍵穴に差し込み、一瞬でロックを解除する。
高校生時代に身につけた、ちょっと人には言えないスキルだ。
サドルを調節し、ハンドルと同じ高さにしてから乗り込んだ。
('A`)ペッ
手の平に唾をつけ、ぐっとハンドルを握る。
既に心も体も満身創痍だ。
それでも残された最後の力を振り絞り、ペダルに力を入れた。
(#'A`)「うおおおおおおお!!!」
彼を突き動かしているのは、家に帰りたいとう想いだけだ。
しかしそれは、彼の全てでもあった。
295 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 21:46:31 ID: FVOz5oBx0
ActFinal:決戦
298 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 21:48:02 ID: FVOz5oBx0
( ・∀・)(良い風を感じるぜ! 今日の俺は絶好調だ!)
やあみんな!
俺の名前はモララー。
今をときめく競輪選手さ。
今俺が乗っているのはイタリア製最高級ロードレーサーだ。
イカしたフォルムをしているが、俺が乗るとさらに格別だろ?
( ・∀・)(遅いぜ! 遅すぎるぜ!)
また一台車を越しちまった。
都内じゃ俺よりも速い奴なんていないのさ。
そう……俺は今間違いなく最速なんだ!
301 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 21:49:40 ID: FVOz5oBx0
まあそんな事を考えながら、その夜も街中を飛ばしてたんだ。
すると俺の横を、何か大きなカタマリが過ぎていった。
( ・∀・)「……?」
最初は何かわからなかったぜ。
だってそれは、あまりにも速すぎたから。
( )「うおおお――――――!!!」
( ;・∀・)「……嘘……だろ」
俺は追いかける事も出来ず、その場で立ちつくしていた。
だってそいつは、ただのママチャリで俺のロードレーサーを圧倒したんだ。
猛スピードで離れていく背中を、呆然と見ていることしか出来なかったね。
304 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 21:51:56 ID: FVOz5oBx0
( ・∀・)「……すげえ」
世の中には、俺よりもずっとずっと速い奴がいる。
認めたくなかったが、それは紛れもない事実だった。
それから俺は、今までの二倍も三倍も練習をこなしてきた。
奢りを捨てて、初心にかえってな。
きっとそれが世界大会の走りに繋がったんだと思う。
俺がチャンピオンになれたのは、あの時の名前も知らない男のおかげさ。
今も俺は、あの背中を追い続けている。
きっとこれからも、俺はチャレンジャーさ。
――モララー著 『世界で最も速い男』 より抜粋
307 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 21:54:04 ID: FVOz5oBx0
(;'A`)「はぁ! はぁ!」
体が鉛のように重く、虫がはえずり回るが如く乳酸が筋肉を痛めつける。
ペダルを一漕ぎする度に、寿命が削られるような苦痛だった。
(;'A`)(絶対! 家に! 帰るんだ!!!)
ドクオの目は、もう前しか見えていない。
だから彼は気がついていなかった。
自分が追われているということに。
310 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 21:55:56 ID: FVOz5oBx0
プップ――!
(;'A`)「!?」
けたたましいクラクションの音。
ペダルを漕ぐ足を休め、後ろを振り返る。
(゚A゚)「!!!」
スモークが貼られているバンが二台、すぐ真後ろに迫っていた。
誰が乗っているかというのは、一瞬見ただけですぐにわかった。
暗闇の向こうで、忘れたくても忘れられない、獣たちの目が見えたからだ。
(;゚A゚)「うあ……ああああ――――!!!」
312 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 21:57:32 ID: FVOz5oBx0
あの時の恐怖が蘇ってくる。
ドクオは自転車を加速させ、バンを離そうとした。
しかし交通法規をまるで無視して、バンはぴったりと後ろにくっついてくる。
ドクオをあざ笑うかのように、ギリギリの距離を保ちながら。
「ほらほらもっと走れ!」
(;゚A゚)「ひぃ!」
後ろからジョルジュのはやし立てる声が飛んだ。
少しでも減速したら、そのままひき殺されそうだ
(;゚A゚)(ちくしょう! あと少しなのに! ちくしょう! ちくしょう!!!)
315 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 21:58:59 ID: FVOz5oBx0
ヤクザ「ジョルジュさん」
_
( ゚∀゚)「何?」
ヤクザ「街中で殺すのはやばいっすよ」
ヤクザ「そうですよ。第一、こいつ殺しても俺らにメリットないし」
_
( ゚∀゚)「やばい? メリット? 何それ」
ヤクザ「え?」
_
( ゚∀゚)「俺たちは何だ。言ってみろ」
ヤクザ「……ヤクザ……ですよね」
_
( ゚∀゚)「違う」
319 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:01:13 ID: FVOz5oBx0
_
( ゚∀゚)「俺たちはな、クズなんだよ」
ヤクザ「……」
_
( ゚∀゚)「社会からはじかれ、組からも破門をくらったクズ共だ」
ジョルジュ一家は、どの組にも属していない。
正確に言えば、ジョルジュが作った愚連隊なのだ。
あまりにも暴力性が高く、誰からも理解されない狂気を持った男たち。
そういう人間たちを、ジョルジュは受け入れていった。
しかしシマが無く、シノギも無い。
たまに回される仕事と言えば、雑用に近い殺しだけ。
もはやヤクザ業だけで食っていけるような収入では無かった。
_
( ゚∀゚)「舐められちゃ駄目なんだ。例え知らない野郎一人が相手だとしてもな」
323 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:03:22 ID: FVOz5oBx0
_
( ゚∀゚)「俺たちは同じヤクザにも煙たがられ、何処にも相手にされないクズだ。
その代わり……俺たちは従わない。恐れない。逃げない。
負けない。折れない。振り返らない。そうだろ?」
ヤクザ「兄貴……」
_
( ゚∀゚)「こいつを殺したら、もうくせえ殺しは無しだ。
東京中のヤクザを殺して金を奪う。
それから外へ高飛びする。どうだ、この話?」
ヤクザ「ま、マジっすか!?」
ヤクザ「うわ、最高に面白そうっすね」
ヤクザ「乗りますよ。殺しであれば、何でも」
_
( ゚∀゚)「……俺たちは誰にも止められない。誰一人俺たちから逃げられない。
奴を例外にする気は無い。殺して、殺し尽くす。俺たちが俺たちである為に」
326 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:05:27 ID: FVOz5oBx0
迫り来る狂気の沙汰に、ドクオは必死にペダルを漕ぐ。
しかし度重なる過負荷によってチェーンが外れ、遂に自転車が壊れてしまった。
(;゚A゚)「うああああああ――――――!」
バランスが効かなくなり、転倒する。
空中に投げ出されたドクオは、バンにはじき飛ばされる自転車を見ていた。
世界が回り、地面が迫る。
受け身が取れず、全身をしたたかに打ち付けてしまった。
二台のバンは急ブレーキで止まり、方向転換を始めた。
地面に倒れたままのドクオを、ひき殺すつもりであった。
(;'A`)「これで……終わりかよ……」
327 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:07:31 ID: FVOz5oBx0
限界を超えて動き続けた体は、もう一ミリも動かせなかった。
今度という今度は、ドクオも諦めている。
怖いのは、死では無い。
死によって、失うものだった。
(;'A`)「ごめんな……パパは……約束守れそうにないわ……」
バンはバックして助走の距離をとった。
ある程度離れると、今度は猛烈に加速し、ドクオの眼前に迫ってくる。
恐怖よりも何よりも、家族に対し申し訳なかった。
目を瞑り、ドクオは最期の時を待った――。
333 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:08:40 ID: FVOz5oBx0
(;'A`)「……?」
脳の芯に響くような衝撃音。
しかし車が当たった感触は無く、ドクオはまだ生きていた。
(;゚A゚)「!!!」
バンはあさっての方向に飛んでいき、電柱にぶつかっていた。
そしてドクオの目の前には、見覚えのあるタクシーが一台、助手席を開けたまま停車していた。
フロントガラスにヒビが入っていて、バンパーが半分外れている。
体当たりをして、ドクオを助けてくれたのだ。
(#'A`)「く……ぐおお――!」
痺れた体にムチを入れ、精神力のみで立ち上がる。
ドアの淵に手をかけ、倒れ込むように助手席に飛び込んだ。
345 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:10:28 ID: FVOz5oBx0
(メ`ωメ)「よう兄弟。また会えたな」
(;'A`)「……おせえんだよ」
嬉しくて泣きそうになるのをこらえ、わざと素っ気ない言葉で返す。
血の絆ではない、二人は運命で繋がっていた兄弟なのである。
347 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:12:24 ID: FVOz5oBx0
(メ`ωメ)「飛ばすぜ」
車は急発進を始め、二台のバンを一気に引き離していった。
ドクオはバックミラーでそれを確認し、ほっとため息をつく。
(メ`ωメ)「兄弟。どうして命を狙われてるんだ?」
('A`)「しらねえ。お前の兄弟だからじゃねえのか?」
(メ`ωメ)「なるほどな。ところで、ちょっと俺も今やばいんだ」
('A`)「何だよ」
(メ`ωメ)「いやあ……実はな」
ブーンの台詞は、けたたましいサイレンの音にかき消された。
何事かと思ってドクオが後ろを向くと、身の毛もよだつ光景が広がっていた。
353 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:14:28 ID: FVOz5oBx0
数十台にも及ぶパトカーの大群が、真っ赤なランプをかざしてついてきているのだ。
さしずめ、ハーメルンの笛吹男になったような気分である。
(メ`ωメ)「お前みたいにうまく行かなかったよ。見つかって30分でこれだ」
(;'A`)「ははは……もう驚かねえ」
(メ`ωメ)「それでこそ俺の兄弟だ」
『止まれコラァ! ぶち殺すぞ!』
パトカーのスピーカーから、ヒステリックな女の叫びが聞こえた。
警察が言ってはいけないような罵声が、雪崩のように耳に飛び込んでくる。
(メ`ωメ)「ありゃあ結婚できねえな」
('A`)「同感だ」
355 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:16:40 ID: FVOz5oBx0
ξ#゚听)ξ「さっさと車を停車しろ! ケツの穴に38口径ぶち込むぞ糞が!」
警官(この仕事辞めたい……)
警官(お母さん……僕頑張ってるよ……)
助手席でわめき散らす上司に、運転手と後部座席の警官は精神的にまいっていた。
彼女の名前はツン、いわゆるキャリア組で、29歳の警視である。
女性の警視というだけで珍しいのに、現場大好き、喧嘩上等という性格をしている。
抜群の容姿をしているのだが、性格が災いし、お見合いの失敗数はあさぴーを越えていた。
プライベートが充実しない分、仕事にかける情熱は銭形警部並だ。
彼女はブーンを捕まえる事に、使命を感じてさえいるのだから。
359 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:19:13 ID: FVOz5oBx0
ヤクザ「どうします? うざいのが一杯来ましたけど」
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( ゚∀゚)「奴を殺すのは俺たちだ。先回りするぞ」
ヤクザ「わかりました」
ヤクザ「聞いたか? 先回りするからついてこいよ」
『了解』
携帯電話で連絡を取り合い、獣たちは狩りを続ける。
二台のバンは、警官の大群についていくことをやめて、別の道に分かれていった。
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361 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:21:09 ID: FVOz5oBx0
リビングのソファーに、一人の少女が座っていた。
テレビに映し出されている光景に、目が釘付けになっている。
从*゚д゚)「ほわあ……」
「どうした?」
从*゚д゚)「ママ! テレビみて!」
それはヘリコプターから撮られた映像で、緊急放送のようだった。
アナウンサーが歯切れの悪い言葉で、状況を説明していく。
しかしその光景は、もはや説明などいらなかった。
ボロボロのタクシーを、数え切れない数のパトカーが追っている。
日本の、いや世界の歴史に残るような、壮絶なカーチェイスである事は見て取れた。
从*゚д゚)「ねーこの車、なんでおわれてるの?」
「悪いことをして、お巡りさんを怒らせちゃったんだよ」
从*゚д゚)「わるいことって何?」
「そうだな……例えば、ママが作ったご飯を残したりとかだな」
366 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:23:10 ID: FVOz5oBx0
真面目に答えてくれない母親に対し、娘は口を尖らせる。
「ふわ……」あくびを一つ、子供にはもう遅い時間だ。
从*゚д゚)「パパ、帰ってこないのかな……」
「……」
从*゚д゚)「まだおしごと?」
「いや、そんなはずは無い。きっともうすぐ帰ってくるさ」
从*゚д゚)「ほんとにー?」
「ああ。必ず帰ってくる。あの人は、約束を一度も破った事が無いんだ」
「それに……」続く言葉は、胸の中に留めておいた。
言葉にするより、想いが届く気がしたからだ。
――それに
369 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:25:34 ID: FVOz5oBx0
――あの人は、世界で一番、私たちを愛してくれてるからな
(;'A`)「お、おい! ガソリンが尽きかけてるぞ!」
(メ`ωメ)「結構走らせたからな。メーターもやばい事になってらあ」
(;'A`)「どうすんだよ! このままじゃ捕まる!」
(メ`ωメ)「いや、それよりもやばい事があるぞ」
('A`)「?」
直後に、割れたフロントガラスの前で、何か赤いものがはじき飛んでいった。
ミラーで確認できたそれは、工事現場によくあるカラーコーンであった。
気がつくと、周りに一般車がいない。
その代わりに、危険、立ち入り禁止等の看板が、道の端々に見えた。
(メ`ωメ)「この先は、建設中の高速道路なんだ」
(;'A`)「……まさか」
374 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:28:03 ID: FVOz5oBx0
(メ`ωメ)「……まだ道が出来てないんだよ」
(゚A゚)「嫌ああ――――――!!!!!」
タクシーは上を目指して、未完成の高架橋を上っていく。
明かりがついていないので、いつ事故を起こしてもおかしくない道だ。
例え無事に行けたとしても、そもそも通る道が無いときている。
気持ちばかりが焦り、ドクオは貧乏ゆすりが止まらない。
(;゚A゚)「どうすんだよ……やべえよ……」
(メ`ωメ)「……兄弟。お前は降りろ」
(;'A`)「何?」
(メ`ωメ)「お前は元から罪が無い。警察に追われる必要が無いんだ。
今ここで降りても、事情を説明すれば何とでもなる」
(;'A`)「いや……しかし」
(メ`ωメ)「あの時の拳銃は、俺からもらった事にしたらいい」
(;'A`)「そうじゃなくて……!」
378 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:30:32 ID: FVOz5oBx0
('A`)「お前は……どうするんだよ」
(メ`ωメ)「……」
高架橋を上り詰め、目の前に真っ直ぐ伸びた道が現れた。
街灯はついておらず、暗闇に覆われている。
(メ`ωメ)「俺は……行けるところまで行ってみるさ」
('A`)「……」
ブーンはブレーキを踏んで減速を始めた。
ここでドクオを降ろすつもりなのだ。
(#'A`)「……」
(メ`ωメ)「!」
しかしドクオはそれを許さなかった。
ブーンの足を蹴飛ばし、アクセルを踏みつける。
383 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:32:27 ID: FVOz5oBx0
(メ`ωメ)「お前……!」
('A`)「降りるつもりはねえよ」
(メ`ωメ)「帰らなきゃいけないんだろう!? どうして……」
(#'A`)「俺は帰る! 絶対にな! でもな……」
('A`)「お前を見捨てちまったら、もう家族に会わす顔がねえんだよ」
サイレンの音が、洪水のようになだれ込んでくる。
後ろでは、暗闇の高速道路が、ランプの赤い色に染められていた。
まるで血の濁流が後ろから迫っているようだ。
(#'A`)「お前が何をしたかはしらねえ。でもな……命の借りがある。
それを返すだけだ。その先の事は、テメーで考えな」
(メ`ωメ)「兄弟……」
ブーンは押し黙ったまま、力強く頷いた。
アクセルを踏みきり、パトカーを離していく。
387 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:34:27 ID: FVOz5oBx0
:
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:
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:
世界は私を否定し続ける。
どんなに存在を主張しても、私は世界に押しつぶされる。
川д川「……」
途切れた道、この高速道路はまだ工事中だから、誰もいない。
まるで包丁で切り落とされた大根みたいに、すぱっと道が切れているから、面白い。
392 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:36:26 ID: FVOz5oBx0
途切れた道の淵に腰を下ろし、足を空中に投げ出した。
落ちればタダじゃ済まない高さだけど、恐怖なんて無い。
死よりも怖い生を、私は知っているから。
川д川「……」
すぐ下には川が、その向こうに街がきらきらと輝いて見える。
あの街にいくつの人生があり、どのように交差しているのだろうか。
川д川「……私には……関係無い」
そう、関係無いの。
他人の人生なんて、これっぽっちも興味無いわ。
だって私以外の人間は、全て敵のはずだもの。
川д川「さあ……始めましょうか」
私の可愛い分身さん。
アルミケースから出ておいで。
うん、良い子よ。
今スイッチを入れてあげるわ。
394 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:38:31 ID: FVOz5oBx0
川д川「ふふふふふふふふふふふふふふ――」
最高のエンターテイメントを始めましょう。
そろそろ電車に仕掛けた爆弾も爆発してるでしょう。
でもそれは開幕のファンファーレ。
終幕の劇場は、これから始まるのよ。
タイマーを一時間後にセットし、スイッチを押した。
電子時計がリズムを刻み、終焉に向かって鼓動を始める。
川д川(これで二つ目……あと一つ)
用意していた爆弾は三つ。
この爆弾は、わざと人気の無い場所に置いて、捜査を攪乱させるもの。
最後の爆弾は何処に置こうかしら……ふふふふ。
明日のニュースは、東京を恐怖に陥れる爆弾魔の事で持ちきりね。
川д川「?」
さっさともう一つの爆弾が置いてある所へ戻ろうと、振り返った時だった。
血……血の塊……赤い光の渦……パトカーの大群が、こちらに来るのが見えた。
398 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:40:22 ID: FVOz5oBx0
川゚д川「ど、どうしてここがバレたの!?」
答えてくれる人はいない。
逃げようにも、道は無い。
川д川「!?」
その時パトカーの前に、一台の車が逃げるように走っているのが見えた。
どうやらパトカーはこの車を追っているみたいだ。
私を探してきたんじゃない。
良かった……。
川゚д川「良くない!」
警察が調べたら、ここにいた私がすぐに疑われる。
近くに置きっぱなしにしてある、最後の爆弾も見つかってしまうだろう。
そうなればいい訳出来ない。
あの電車が脱線していれば、何十人もの人間が死んでいるはずだ。
私は極刑になるだろう。
402 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:42:50 ID: FVOz5oBx0
こんなところで終わりたくない。
私はもっともっと高みに上れる。
“工作の女王”として、みんなに褒めたたえられたあの時代に戻るんだ。
もう会社の雑用なんて嫌よ。
工場の生産ラインに組み込まれるなんて嫌よ。
私の手先は芸術なの。
人間の理解を超える、神域なのよ!
津波のようなサイレンの音。
私を飲み込むランプの光。
これが私のフィナーレだなんて。
この汚濁にまみれた世界で、自分の存在を証明したかった。
生きているという事の実感を確かめたかった。
ただそれが、爆弾というだけだったのに。
私は、タイマーの時間を変えた――。
川゚д川「ああああああああ――――!!!!!」
408 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:45:11 ID: FVOz5oBx0
(メ`ωメ)「うおおおおおお――――――――――!!!!!」
(#゚A゚)「行けえええ――――――――――――!!!!!」
加速し狭まる視界に、女の影が見えたような気がした。
次の瞬間、車は高架橋を飛び出し、月夜の空に雄々しく舞う。
(メ`ωメ)「――――!!――――――――!!!」
(#゚A゚)「――――――――――!!!!!」
無重力になった車内で、二人は吠え続けていた。
少しでも気を緩めたら、気絶してしまいそうだった。
412 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:47:21 ID: FVOz5oBx0
ξ#゚听)ξ「あの馬鹿……! 飛び込みやがった!」
警官「どうします!?」
ξ#゚听)ξ「近くの警官に緊急通信だ! 私たちは一度戻って体勢を整え……」
「ああああああああ――――!!!」
狂ったような叫び声と共に、閃光と爆風が巻き起こる。
それはとてつもない衝撃となり、停車していたパトカーを吹き飛ばした。
燃えさかるパトカーと、逃げまどう警官たちで辺りはパニックとなる。
ツンは随分と遠くなった耳、霞んでいく視界で、ひび割れた窓ガラス越しにそれを見ていた。
ξ;゚ )ξ「何が……起こった……」
衝撃により、ツンは頭をぶつけ、脳しんとうを起こしていた。
薄れゆく意識の中で、ただあの男を捕まえなければという想いだけが、くっきりと残っていた。
414 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:49:58 ID: FVOz5oBx0
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燃えさかる高架橋の下、冷たい川の中を、
ブーンはドクオを背負ったまま泳いでいた。
(メ`ωメ)「はぁ……はぁ……」
着水の衝撃で気絶したドクオは、
ブーンの背中の上でぴくりとも動いていない。
(メ`ωメ)(兄弟……死ぬな……!)
水を吸った衣服は重く、人一人背負っている分さらに辛い。
それでもブーンは必死に川岸まで泳ぎきった。
地面にそっとドクオを降ろすと、膝をついて倒れ込む。
418 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:53:02 ID: FVOz5oBx0
(メ`ωメ)(まだ……倒れるのは早い)
ぐっと膝に力を入れ、よろよろと立ち上がった。
ドクオを引き起こして、再び逃走を図るも、体が言うことを聞かない。
(メ`ωメ)「!」
土手を上がったところに、一台の乗用車を発見した。
明かりはついておらず、誰も乗っていないように見える。
ひとまずドクオを降ろし、土手を上る。
足を引きずりながら車に駆け寄った。
ブーンの思った通り、その車には誰も乗っていなかった。
それどころか鍵が開いていて、エンジンキーが刺さったままになっていたのだ。
(メ`ωメ)「へへ……運が向いてきたぜ兄弟」
何故こんな人気のない場所に、鍵がついたままの車があったか。
後部座席に置いてあるアルミケースの中身が何なのか。
そんな事を考える余裕は、ブーンには無かった。
423 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:55:24 ID: FVOz5oBx0
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エンジンの音が、遠くから聞こえてきた。
やがてだんだんと近くなり、今度は体に振動が伝わってくる。
それがある時を境に、一気に鮮明に、現実のものへと変わった。
意識が自分を捕らえ、やがてゆっくりと頭が覚醒していく。
('A`)「……」
ドクオが目を覚ました時は、既に車内の中に運び込まれた後だった。
後頭部に固い感触があり、寝ころんだまま目をやると、銀色のアルミケースが見えた。
うめき声を上げながら、のそのそと体を起こす。
ミラー越しに運転席のブーンと目が合った。
428 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:57:15 ID: FVOz5oBx0
('A`)「……今どこに向かってるんだ」
(メ`ωメ)「ひとまず、警察の追跡が無いような場所を走ってる。
お前は何処に行きたい? 途中まで送っていくぜ」
('A`)「俺の家だ。場所は――」
大ざっぱな位置だけ教えると、ブーンは「わかった」と返した。
FMラジオが23時を告げる。
車で行けば、途中で降ろされてもぎりぎり間に合う時間だ。
('A`)(……ここまで長かったな)
ボロボロになったスーツを見て、今までの苦労が蘇ってきた。
それも家に帰れれば、きっと忘れられる。
そう考えているドクオは、もう半分家に帰った気でいた。
車は林道に入り、周りに建物が無くなる。
ブーンは時折、いぶかしげな顔でミラーを覗いていた。
後方から、猛スピードで飛ばしてくる二台のバンが見えたからだ。
431 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 22:59:49 ID: FVOz5oBx0
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( ゚∀゚)(逃がしはしねえぞウサギ共……)
ジョルジュはブーンの顔を覚えていた。
だからブーンが運転するこの車を見つけたとき、すぐにドクオも見つけられた。
しかしそれ以上に、彼には人間が失っていた狩りの本能があった。
五感ではなく、いわば六つ目の感覚で、ブーンたちを探し出したのだ。
_
( ゚∀゚)「レンコン出せ。タイヤを狙うんだ」
ヤクザ「そんな簡単に言われても……」
433 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:01:55 ID: FVOz5oBx0
(;'A`)「奴らだ! ヤクザたちが追ってきた!」
(メ`ωメ)「敵が多いな。俺たちはよ」
(;'A`)「ちくしょう……今度こそ終わりだ……」
(メ`ωメ)「どうして」
(;'A`)「お前はあいつらの目を見たことないから、そんなのんびりしてられるんだ」
「あれは人間の目じゃない」ドクオは真顔でそう言った。
ブーンは無言でギアを上げ、車を加速させる。
(;'A`)「くそ……何か武器は無いのかよ」
(メ`ωメ)「拳銃があるが、予備の弾は無いぞ。全部で六発だ。ほらよ」
後ろ手に銃を渡されたが、ドクオは焼け石に水だと思った。
ヤクザたちも銃を持っているし、彼はただのサラリーマンだ。
映画のようなラッキーショットを期待する程、馬鹿ではない。
438 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:04:50 ID: FVOz5oBx0
(メ`ωメ)「そうだ。そこにでっかいケースがあるだろ?
そいつをフロントガラスにお見舞いしてやれ。
うまく行けば車一台潰せるぞ」
(;'A`)「あ、ああ……これか」
傍に横たわるアルミケースを見て、ドクオは返事をする。
バンは既に30メートル後方まで迫っていた。
他に良い案も思いつかないので、アルミケースを手に取る。
(;'A`)「そういやこれ、中身は何なんだ」
(メ`ωメ)「さあ。しらねえ」
鍵はついていないようで、留め金を外すとすぐに蓋は開いた。
中に入っていた物を見て、ドクオは言葉を失った。
これで、勝てる。
そう確信したからだ。
443 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:07:08 ID: FVOz5oBx0
_
( ゚∀゚)「もっと上手く狙え」
ヤクザ「ちゃんとやってますってば」
窓から顔を出したヤクザが、車のタイヤを狙って何度も発砲を繰り返していた。
しかし走行中の車に乗りながら、動く標的に弾を当てるのは至難の業であった。
ヤクザ「ちっ……難しいなこれ」
ヤクザ「俺に貸してみろ」
今までずっと黙っていた中年の男が、銃を貸せと手を差し出す。
多少不満そうな顔をしながらも、若いヤクザは素直に銃を手渡した。
ヤクザ「いいか……明鏡止水だ。銃と一体になる気で狙うんだ」
ヤクザ「はい?」
ヤクザ「狙いはタイヤだ。だが運転しているのは人間だ。動きに癖がある。
意識をリンクさせて、敵と自分を同化させるんだよ。
そうすると……0.5秒後の景色が見えてくる」
446 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:09:43 ID: FVOz5oBx0
それはたった一発の発砲だった。
カーブの手前、ヤクザの放った弾がタイヤを捕らえ、車の制御が効かなくなる。
ブーンたちの乗っている車は、カーブを曲がりきれず、ガードレールを突っ切っていく。
そのまま暗闇に覆われた林に突っ込んでいった。
_
( ゚∀゚)「見事だ」
ヤクザ「すげええ! 流石っす!」
ヤクザ「ふん……まあまあだな」
二台のバンは路肩に駐車した。
それぞれ懐中電灯を持って、林に向かっていく。
_
( ゚∀゚)「急げ。逃げられるかもしれん」
車が通った後には、タイヤの跡や折れた木々の破片が散らばっていた。
ジョルジュたちはそれに沿って、小走りで駆けていった。
車はすぐに見つかった。
太い木にぶつかって、完全にポンコツとなった状態で停車していた。
ジョルジュが目配せすると、ヤクザたちはその車を即座に囲んだ。
中は暗く、何も見えない。
450 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:11:49 ID: FVOz5oBx0
_
( ゚∀゚)「おい。開けろ」
ヤクザ「はい」
四人のヤクザが、前部後部の四つのドアに手をかけ、一斉に開けはなった。
懐中電灯の光がもぬけの殻となった車内を照らす。
既に逃げられた後だったのだ。
_
( ゚∀゚)「遅かったか……」
ヤクザ「あ、足跡がありますよ」
_
( ゚∀゚)「でかした。それを辿って――」
光が見えた。
目が潰れるような閃光が。
ほんの一瞬だけ、爆発音が聞こえたような気がしたが。
次の瞬間には、ジョルジュたちの鼓膜は破れ、無音の世界になっていた。
体がはじけ飛び、バラバラになった手足が、血の雨と共に降り注ぐ。
燃えさかる車に映し出されたのは、人間のスクランブルエッグだった。
458 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:13:59 ID: FVOz5oBx0
ドクオとブーンは、ヤクザたちのバンに乗っていた。
まだ興奮が冷めていないらしく、二人の息は荒い。
(;'A`)「はぁ……はぁ……うまくいったかな」
(メ`ωメ)「失敗しても、足止めにはなっただろ」
アルミケースの中には、爆弾とタイマーが入っていた。
ドクオは林に突っ込んだ後、二分後にタイマーをセットして車から離れた。
その後ジョルジュたちと入れ替わるようにバンに乗り込み、見事逃げおおせたという訳だ。
罪悪感は無かった。
言ってみれば正当防衛であるし、そもそも人間を殺したという感覚は無かったからだ。
(;'A`)「警察に行く用事が増えたぜ……飛行機に、拳銃に、これか……。
ひょっとしたら犯罪者になっちまうかもしれないな」
(メ`ωメ)「同じ所に行けたらいいな。兄弟」
(;'A`)「え? お前は――」
461 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:16:11 ID: FVOz5oBx0
「このまま逃げるんだろ?」ドクオが問う。
ブーンは運転しながら、片手でタバコを取りだし、火をつける。
(メ`ωメ)「まあ……行けるところまで行くさ」
('A`)「ははは……やっぱりな」
ドクオはブーンがこのまま逃げ続けるのだと思った。
しかしこの言葉は、本当は別の意味が込められていた。
('A`)「なあ。お前何をしたんだ?」
(メ`ωメ)「何って?」
('A`)「だから、何をしたらあんなに警察に追われるんだよ」
「そうだな……」ブーンは思い切り紫煙をはき出す。
何かを思い出すように、目を細めた。
(メ`ωメ)「警察は俺をはめたがっているんだ。
何とかして、俺に罪をなすりつけようとしている」
(;'A`)「どういう事だ?」
464 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:18:11 ID: FVOz5oBx0
(メ`ωメ)「俺は……元々警部だった」
(;'A`)「マジで?」
(メ`ωメ)「大マジだ。だが俺は、大罪になる警官殺しの罪に問われてる」
(゚A゚)「同僚を殺したのか!?」
(メ`ωメ)「いや、俺じゃない。俺の顔に傷をつけた相手さ。今でも奴の顔は忘れていない。
ただ状況が悪く、俺と死んだそいつが対立してた事もあって、俺が疑われた」
塞がった片目に、頬を横切る深い傷跡。
ただの怪我ではなく、そこには深い因縁があるように思えた。
(メ`ωメ)「まあ対立してたって言っても、憎んではいなかった。
むしろ俺は尊敬さえしていたよ。馬鹿がつくほど純粋なそいつにな」
('A`)「……」
472 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:20:08 ID: FVOz5oBx0
(メ`ωメ)「おそらく、警察内での抗争。
信じられないかもしれないが、黒幕は上層部だろう」
(゚A゚)「う……嘘だろ。そんなのが日本である訳……」
(メ`ωメ)「あるんだよ。この国は闇だらけだ。ちょっとつつくだけで鬼が出る。
あいつは鬼に出会っちまったんだ。そして、殺された。
何を知ってしまったのか検討もつかんが、警視庁が揺るぐくらいの秘密だろうな」
おいそれと信じられるような話では無かった。
しかし、嘘とも思えなかった。
(メ`ωメ)「真犯人を捜し出して、この手で捕まえる。
上手く事が運べば、また警察に戻れるだろう。
そうしたら俺は、あいつを殺した黒幕をこの手で暴いてやるんだ」
淡々と語っていたが、瞳の中には高熱度の怒りが見えた。
それは汚名を晴らす為であり、友の仇を討つ為でもあるのだろう。
('A`)「……そうか。悪かった」
(メ`ωメ)「いや、いいさ」
478 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:22:21 ID: FVOz5oBx0
街灯の光をくぐり、車は飛ばしていく。
人気の無い林道は薄暗く、ハイビームで走る必要があった。
(メ`ωメ)「そういや兄弟。あの金はどうしたんだ?」
('A`)「ああ、あれか。友達にやったよ」
(メ`ωメ)「ば……! あれはお前への報酬のつもりだったんだぞ」
('A`)「ありがとよ。しっかりと社会に役立てたさ」
「元々は俺の結婚資金だったんだがな」少し寂しそうに、ブーンが呟く。
「相手はいたのか?」という問いに、ブーンは舌打ちで返した。
(メ`ωメ)「!」
('A`)「?」
バックミラーを見ていたブーンは、何かに気付いたように突然後ろを振り返った。
ドクオはすぐに悟り、身を強ばらせた。
483 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:24:21 ID: FVOz5oBx0
恐る恐る後ろを振り返り、ドクオはソレを確認した。
闇にとけ込むバンが一台、真っ直ぐこちらに向かってきている。
ライトをつけておらず、接近するまで気がつかなかった。
(;'A`)「……」
(メ`ωメ)「しつこいな……くそ」
そのバンは酔っぱらいのように、ふらふらと走行している。
しかしカーブの度に、徐々に距離を詰めてきていた。
ブーンの運転では、追いつかれるのは時間の問題であった。
(メ`ωメ)「く……まずい!」
(;'A`)「うわ……ああああ――――!!!」
カーブで減速したブーンに対し、バンはフルスピードで突っ込んできた。
横から体当たりされた車は、ガードレールにバウンドし、壁に激突する。
後部座席に乗っていたドクオは、車の中でピンボールのように転げ回っていた。
上も下も無くなった世界で、一瞬だけ意識が遠くなる――。
487 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:26:33 ID: FVOz5oBx0
(゚A゚)「!」
数秒間だけ、ドクオは気絶していた。
エンジンは停止し、車は壁にめり込んでいる。
ブーンはハンドルに突っ伏して、ぴくりとも動いていない。
割れたフロントガラスから、ガレキの屑が中に入ってきた。
ブーンの頭や体に、さらさらと降り積もる。
(;゚A゚)「ブーン! おい……嘘だろ……!」
呼びかけても、何も反応が無い。
身を乗り出して、生死を確認しようとした時、目の端で何かが動いた。
489 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:28:23 ID: FVOz5oBx0
(;'A`)「……?」
(;゚A゚)「――!」
それは、狂気だった。
焼けただれた顔と、血走った目つき。
足を引きずる様は、まるでゾンビの様で。
_
(※゚Д%)「みぃ……つぅ……けぇ……たぁ……」
底なしの悪意を携えたそれは、まさしく狂気のカタマリだった。
(;゚A゚)「うあっ……うわあああああ……あああああ――――!!!!!」
喰われる。
このままでは、あの男に。
殺さなければ、殺される。
倫理も法も糞もない、単純な論理だ。
ブーンから渡されていた拳銃を手に、ドクオはドアを蹴り開けた。
497 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:30:07 ID: FVOz5oBx0
(;゚A゚)「はぁ……! はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
_
(※゚Д%)「コ……ロス……ぉ……前を……」
(゚A゚)「ああああああああ――――――――!!!!!」
両手で拳銃を持ち、引き金を引く。
しかしジョルジュを捉える事無く、弾丸は虚空へと消えていった。
相手との距離はまだ20メートルある。
素人が撃てば、まず当たらない距離だ。
_
(※゚Д%)「ぃひぃひひ……コわガル事ハ無ィ……楽にコロしテゃる……」
(;゚A゚)「来るんじゃねえ! 来るんじゃねえ――!!!」
立て続けに二発。
しかしやはり当たらない。
ジョルジュは懐から拳銃を取りだした。
片手で構え、撃つ――。
(゚A゚)「ああああ!!! あああああああ!!!」
505 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:32:18 ID: FVOz5oBx0
映画やアニメなら、格好つけて躱すか、微動だにしないだろう。
しかし拳銃を向けられ、パニックになったドクオは、地面を転げ回った。
それが功を奏したのか、弾丸は当たらず。
再び立ち上がり、ドクオも銃を向ける。
(;゚A゚)「死ね! 死ね! 死ね!!!」
体の震えが伝わり、銃身が安定しない。
撃った弾は目の前の地面に当たり、火花が一瞬辺りを照らした。
_
(※゚Д%)「コヮイか……? 死ヌのガ怖ィか……?」
(;゚A゚)「う……」
立ったまま、ドクオは胃の中のものをはき出した。
口内に嫌な酸味が広がる。
夕食に食べたガーリックステーキの臭いがした。
507 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:34:19 ID: FVOz5oBx0
_
(※゚Д%)「ぉレは怖ク無ぃ……」
ジョルジュのブローニングが火を噴く。
ドクオは反射的に身を仰け反らした。
(;゚A゚)「!?」
肩口に熱を感じ、手で覆う。
ぬるりとした感触で、血が出ているのがわかった。
弾丸が肩をかすめたのだ。
(;゚A゚)「ひぃあ……へああああああ――――!!!!!」
焦燥が頭を焦がし、無茶苦茶に引き金を引かせる。
二発の銃声の後、撃鉄が空回りする音だけが続いた。
弾が、切れた。
(;゚A゚)「あ……あああ……」
515 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:36:02 ID: FVOz5oBx0
足の力が抜け、へなへなと座り込んだ。
もう抗う気力は無かった。
ジョルジュは愉快そうに目を細め、ゆっくりと歩いてくる。
もう距離は無く、手を伸ばせば届きそうだ。
銃がドクオの顔面を捉える。
小さな銃口が、大口を開けた獣に見えた。
(;゚A゚)「――――――――」
――よよよ、よ、良かったら……ぼ、僕と結婚……
――良いに決まってるだろ。さっさと式場を決めるぞ
――や……やったー!
521 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:38:09 ID: FVOz5oBx0
――生まれたぞ。お前と、私の子だ
――よく頑張ったな!
――名前は何にしようか
――二人の名前から取って、ナオにしないか?
――お前の名前が消えているぞ……
――パ……パ……
――お、おい、今喋ったぞ! しかもパパって言った!
――ああ、3日前にママって言ってたぞ
――そ、そっか……でも嬉しい!
――ふふ……そうだな
523 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:39:00 ID: FVOz5oBx0
――パパー! ママが怒るー!
――ははは。もう許してやりなよ
――お前のパソコンに水鉄砲を撃ったんだが
――ば、バックアップあるから……
――はっぴぃばーすでぃ!
――え、今日俺の誕生日だっけ!?
――忘れてたのか?
――自分の事となるとどうも物覚えが……
――プレゼントだ。ほうれ
――ほれー!
――び、美女二人が体にリボンを巻いて……! 鼻血が……
――ギャ――! パパが血だしてる!
――デスマッチ後の大仁田厚みたいになってる! ナオ、ティッシュ取って!
526 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:40:17 ID: FVOz5oBx0
(;A;)「……」
走馬燈が見せてくれたのは、最高の思い出だった。
死ぬ前に、良いものが見れた。
ドクオは夜空を見上げ、二人の未来を祈った。
(;A;)「……幸せにな」
_
(※゚Д%)「――死ネ」
537 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:42:17 ID: FVOz5oBx0
鈍い音がした。
あきらかに、発砲音では無かった。
顔を戻すと、銃口をこちらに向けたまま、ジョルジュが静止しているのが見えた。
見続けていると、体がぐらり揺れ、その場に崩れ落ちる。
(メ`ωメ)「……」
(;A;)「……」
ジョルジュのすぐ後ろに、レンチを持ったブーンがいた。
何も言葉は出なかった。
ドクオはただ、泣き続けていた。
ただし、悲しみではなく、安堵の感情で。
死ではなく、生を感じて。
ただ、泣き続けていた。
542 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:44:20 ID: FVOz5oBx0
:
:
:
:
:
:
:
:
:
:
(メ`ωメ)「ここで降ろすぞ。あとは歩いていけるな」
('A`)「ああ。色々ありがとうな」
ひしゃげたバンからドクオが降りる。
後部座席には、ガムテープでぐるぐる巻きにされているジョルジュがいた。
真夜中のベッドタウンは、静けさに包まれていた。
この近くに、ドクオの住んでいるアパートがあるのだ。
(メ`ωメ)「礼はいらない。言われる筋合いが無いさ」
('A`)「そうか。あ、じゃあ一つ」
(メ`ωメ)「うん?」
547 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/14(金) 23:45:55 ID: FVOz5oBx0
(#'A`)「うらあ!」
ドクオは思い切りブーンの頬を殴った。
最初はぽかんとしていたブーンだったが、ドクオが笑うと、つられて笑い出した。
(メ`ωメ)「ふん。食えない奴だ」
('A`)「お前が言うな」
('A`)「そういや……どうするんだよ、そいつ」
顎でジョルジュの事を示す。
ブーンはにやっと笑い、言った。
(メ`ωメ)「俺はこいつに用がある。後は任しとけ」
('A`)「用?」
(メ`ωメ)「こっちの話だ兄弟。じゃあな」
('A`)「あばよ」
582 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/15(土) 00:01:07 ID: p8b2braX0
バンが走り去っていくのを見届けてから、ドクオは歩き出す。
見慣れた風景が、本当に帰ってきたのだと実感させられる。
しかし時刻は深夜0時を過ぎている。
結婚記念日には、間に合わなかった。
(;'A`)「はあ……」
それに、明日になれば警察に行かなくてはいけない。
全ての事情を話し、場合によっては法廷に行くこともあり得る。
ようやく帰れたというのに、心の中のわだかまりがドクオを憂鬱にさせる。
('A`)「……」
いつの間にか、アパートの前まで来ていた。
自分の部屋には、明かりがついている。
おそらく鬼のように怒っているだろう妻を想像すると、また気分が落ち込んだ。
585 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/15(土) 00:01:55 ID: p8b2braX0
階段を上り、二階へ行く。
重い足取りで自分の部屋を目指した。
鍵は開いていて、取っ手を回すと簡単に開いた。
(;'A`)「あ……」
目の前で仁王立ちしている女に、ドクオは背筋を凍らせた。
普段から時間に厳しい彼女を、何時間も待たせたのだから。
「……」
(;'A`)「あ……あの……」
「……」
(;'A`)「ごめん、電話した? 携帯が壊れてて……」
「……」
(;'A`)「パーティ開くって言うから、ちゃんと帰ろうとしたんだけど……その……」
「……」
592 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/15(土) 00:02:44 ID: p8b2braX0
(;'A`)「……ナオはもう寝た?」
「……」
腰に手を当てたまま、女は無言で頷く。
(;'A`)「ごめん……本当にごめん。いい訳はしないよ……」
「……」
(;'A`)「……」
「違う」
(;'A`)「え?」
「お前が言うべきなのは、そういう言葉じゃないだろう」
('A`)「……クー」
600 名前: ◆CnIkSHJTGA Mail: 投稿日: 08/03/15(土) 00:03:42 ID: p8b2braX0
川 ゚ー゚)「おかえり」
「ただいま」('∀`)
終わり