409 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 22:28:46.48 ID: ZC1hkslO0
― 4 ―
赤い河へと続く水の流れに沿って、
昇っては落ちるいくつもの月と太陽、そしていくつかの季節の中を歩きました。
深い緑の草原を抜け、十年振りの赤い土の上に立ったあたしとわっかないですは、
かつてブーンがそう呼んだ、名前に反して透明な水の流れる、レッドリバーであろう河へとたどり着きます。
あたりはどこまでも続く赤い大地。点在する丈の低い樹木以外、そこには何もありません。
こんな場所から、この土の下にあると言う「チカシセツ」、その一点を探し出すのは不可能だろうなと思いました。
415 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 22:30:57.77 ID: ZC1hkslO0
やがて、真っ赤でまん丸い小さな実をつけた植物、そして、まっすぐな葉の下にたくさんの黄色い粒をつけた植物、
赤い大地から不自然に浮いたそれらの生える広い草原が、河の流れを下るあたしたちの目の前に姿を現します。
あたしは草原の入り口にそりや旅の荷物を置き、わっかないですとともにその中へと分け入り、生っていた実をもぎました。
( ゚ ゚)「これが……クーさんと内藤ホライゾンが育てた実……」
赤い実は、噛めば弾けて独特の汁を口に広げました。
黄色い粒は、その欠片が歯と歯の間に入り込むのだけれど、噛めば噛むほど甘味の出る非常に美味なものでした。
それらを口にしながら、肩び辺りまで伸びる草たちの間を、あたしは地下に続くという入口を求めかき分け歩きます。
しかし、あたしの予想に反して、それは早々に見つかりました。
足もと、地面の一角に、植物の生えていない本当に小さな四角いむき出しの地面があったのです。
421 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 22:32:55.67 ID: ZC1hkslO0
そこには小さな取っ手のようなものがあって。
それは握り締めて持ち上げればパカリと開いて。
そしてその下に、階段が現れたのです。
(; ゚ ゚)「間違いない……ここだ!」
(;*><*)「わっかないです!」
どこまでも深く黒の中へと続いていく階段、
その奥へ、あたしとわっかないですの声が響いていきました。
あたしは片手にジャンビーヤ、片手に松明を握りしめ、嫌な汗が背中を流れ落ちていくのを感じつつ、
最大限の警戒状態に入ったわっかないですとともに、深い階段の底へと足を踏み入れました。
429 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 22:34:57.52 ID: ZC1hkslO0
階段はどこまでも深く、それは闇の中へ永遠に続いているかのようでした。
すぐに日の光は届かなくなり、掲げた松明の赤い光だけでは頼りなく、
流れる空気はしんと冷え切っていて、あたしの背中の汗はすぐに引いていきました。
あたしとわっかないですの息遣いと足音だけが、闇の中には響きます。
奥へ進めば進むほど静けさはどんどんと増し、それは自分の心拍さえも聞こえてしまうほど。
破裂してしまうのではないかと疑わせるほどに響き続ける胸の鼓動は、
主であるあたしよりも一足早く、階段の先にある光景を予見していたのかも知れません。
やがて、永遠に続くように思われた階段は終わりを告げます。
その先に現れたのは、とても巨大な洞窟。
見上げた天井は空のように高く、道は松明では照らせないほどに、どこまでも続いていました。
(; ゚ ゚)「い、行くわよ!」
(;*><*)「わっかないです!」
自らを鼓舞するために出した声は穴倉の中で強く反響し、あたしたちを驚かせました。
436 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 22:36:43.13 ID: ZC1hkslO0
恐る恐る、洞窟内を進みました。
手にしたジャンビーヤの先端は、あたし自身がそうであるせいか、小刻みに震えていました。
そうやって進むうちに洞窟の終わりへとたどり着き、
その終着点にとあるものを、松明の火が映し出します。
(; ゚ ゚)「何なのよ……このでっかい壁は……」
(;*><*)「わっかないです……」
それはジャンビーヤと同じ色をした、固さをした、冷たさをした、見たことがないほどに巨大な壁。
恐る恐る近づいて見れば、その壁の一部が突然、パカリと左右に開きました。
(; ゚ ゚)「おわ! ホントになんなのよ……」
(;*><*)「わっかないです……」
びくりと身を震わせたあたしとわっかないですは、
壁に悪態をつきながら、開いた部分から壁を潜りました。
そしてその先に広がっていた光景を前に、あたしはただ呆然と、立ち尽くすだけでした。
444 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 22:38:51.35 ID: ZC1hkslO0
(; ゚ ゚)「なによ……ここは一体なんなのよ!」
天井から射す真っ白な冷たい光に照らされた、だだっ広い部屋のような場所。
石でもなければ木でもない、おそらくはジャンビーヤと同じ金属か、
もしくはそれ以外の、あたしの知らない何かで出来た、どちらにしろひんやりと冷たく固い無機的な壁面。
壁の一部分には、わけのわからない文字か数字らしき何かの羅列が、光を放ちながら連なっていました。
そして部屋の床には、たくさんの細い、人が身長くらいの長さの楕円形の物体が無数に横たわっていました。
それを眺めた瞬間、全身を悪寒が駆け抜けました。
心臓の鼓動が張り裂けそうなほどに早くなり、手のひらから汗が滲みます。
「ここは生き物が来るべきところではない」
あたしの本能が警告を鳴らしているかのようでした。
(;*><*)「……」
本能からの警告を裏付けるかのように、
わっかないですも耳を、尻尾を、体毛を逆立たせ、全身を小刻みに震わせていました。
彼女は部屋の入り口に立ち尽くしたまま、決してその場から動こうとはしませんでした。
453 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 22:40:45.89 ID: ZC1hkslO0
しかし、あたしはその中へと進みました。
なぜなら、きっとここが「レイトウスイミンソウチ」とかいう場所で、
きっとここがブーンの生まれた場所であると、そう確信していたからです。
そしてあたしは、視線の先に、パカリと開いた楕円形の物体を見つけます。
ブーンの話によれば、そこで内藤ホライゾンが死に、ブーンが生まれたはずです。
楕円の中を覗こうと、あたしは駆けよりました。
駆けより、思わず悲鳴を上げます。
(; ゚ ゚)「ひっ!」
パカリと開いた楕円の下の床には、白骨化した死体が横たわっていました。
転がっていた頭の骨。その窪んだ眼骨が、あたしの方をじっと見上げていました。
それを前にした瞬間、全力で足を動かしながら、あたしはもと来た道を引き返していました。
460 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 22:42:42.58 ID: ZC1hkslO0
入口へ向かい、わっかないですを引き連れ、
部屋を出て、再びの洞窟の中を、外へ続く階段を目指しました。
まるで誰かに追われているかのごとく一心不乱に、です。
なぜならあたしは、転がっていた頭蓋骨、空いていた二つの黒い空洞のその奥に、
有るはずのない両眼がギョロリとこちらを見据えるのを、見てしまった気がしたからです。
そしてその両眼が、こう言ったように思えたからです。
「ここは寝床なんかじゃない。ここは千年前から千年後へと続く墓場なのだ」と。
「君もここで、僕と同じように眠ってみるかい?」と。
だからあたしは、その両眼から逃れようと、ひたすらに地上を目指しました。
旅に慣れた体が悲鳴を上げるほどに、速く、長く、暗闇の中を走り続けました。
その先にあるはずの太陽を目指して、限界を超えた体で階段を駆け上りました。
そして気がつけば、あたしは地面の上に仰向けに横たわり、茜色染まった空を、わっかないですとともに見上げていました。