19 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:31:44 ID: tZnXwI7D0

― 2 ―

それから一ヶ月も経たず、世界情勢は急転した。

世界一の大国であった僕の国が、
お得意の有りもしない大量破壊兵器の保有を理由として某国に宣戦を布告したのだ。

自らの蒔いた危機という種を誰にも悟られずに回収するためには、どんなことでもやってのける。
世界平和を謳う世界一の大国は、そんな国だった。

そんな状況下でも、研究所に隔離されていた僕に出来る事は何もなかった。
指をくわえながら、知らぬ間に流れていく世界情勢をただ眺める事しか出来ない。
その根本を作り出した責任を肩に重く感じながら。

もう、何かを考えることさえ億劫になっていた。
それでも考えずにはいられなかったのは、天才としての悲しい性なのだろう。

そんな日々の中で僕は、とんでもないことに気づいてしまう。

 

 

 

20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:33:53 ID: tZnXwI7D0

(;^ω^)「……そんなはずはないお」

川 ゚ -゚)「いや。そうとも言えんな」

思わず漏らした声。いつの間にか背後に立っていたクー。
驚いて振り返った僕を冷めた目で眺めた彼女は、言ってはならない一言を僕に放った。

川 ゚ -゚)「某国に情報を流したのは、ツンだ」

 

 

 

21 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:34:54 ID: tZnXwI7D0

(; ゚ω゚)「ち、違うお!!」

無意識に手が出ていた。

ゴッと、骨と骨がぶつかり合う音がして。
拳に走った鈍い痛みに顔をしかめて。

痛みが引いて恐る恐る顔を上げれば、頬を腫らしたクーが相変わらずの冷めた顔で笑っていた。

川#)ー゚)「君は……本当にそう思っているのか?」

 

 

 

22 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:36:46 ID: tZnXwI7D0

悔しいが、認めざるを得なかった。
クーが放った言葉はすべて、僕の想いの代弁だったのだ。

それからクーを睨みつけた後逃げるように自室へと戻った僕は、ツンに連絡を入れようと試みた。

しかし電話はもちろん通じず、教えてもらっていたメールアドレスさえも
彼女と別れて数日と経たず届かなくなっていた。

それでも僕は、届くことの無いメールを送り続けた。電話をかけ続けた。

(  ω )「ツン。君はいったい、今どこにいるんだお?」

声が聞きたい。文章でもいい。どうにかして、彼女と連絡を取りたかった。

 

 

 

23 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:39:18 ID: tZnXwI7D0

ツンは行政部からの出向者、つまり研究所外部の人間だった。
定かではないが、隔離されていたプロジェクトチームとは違い、彼女の隔離度は比較的緩いものだと想像された。

そして仮に彼女が情報を流出させていたとしたら、ブリーフィングでの行政部のしどろもどろさにも上手く説明がつく。
身内から出た不祥事を隠蔽しようとしていた。そんな役人根性が彼らの中にあったのではないのか、と。

決定的だったことは、彼女が研究所を去ってからすぐに連絡が取れなくなってしまっていたこと。

何度も行政部に問い合わせてはみたものの、『理由はお話できません』の一点張り。
親しい間柄を築いていた身として、これは納得のいかないものだった。

そして認めたくないが、彼女が『某国のスパイである』と想定した場合、これらの疑問が見事に解決されてしまう。
素人さえ小説に用いないような稚拙な論理。しかし、そのときの僕はその嫌疑をどうしても拭い去ることが出来ないでいた。

そんな、悶々とした日々。目を隠すほどまで伸びた自分の前髪の長さが鬱陶しかった。

気分転換に散髪でもしようか。
そんなくだらないことで気を紛らわそうとしていた最中、悲劇の日は突然にやってきた。

緊急の報告を受けた僕は自室を飛び出し、研究所の中枢たるオペレーションルームへと駆け込み、そして唖然とした。

 

 

 

26 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:41:32 ID: tZnXwI7D0

(; ゚ω゚)「なんて愚かなことをしたんだお……」

モニターに表示された映像を凝視する。
某国が実現させた新エネルギーシステム理論の稼動基地を、僕の国がミサイル攻撃を行う。
その中継だ。

宣戦布告をしてからこれまで、僕の国は軍事力をちらつかせた圧力外交でことを解決しようとしていた。
しかし一向に進まない交渉に業を煮やし、ついに武力行使に踏み切った。
その瞬間を映像は映し出していた。

雨あられのように降り注いでいくミサイル。それを迎撃しようと某国から放たれるミサイル。

某国もしばらくは持ちこたえていた。
しかし圧倒的な物量差は如何ともしがたく、ついに一基のミサイルが基地へと直撃した。

その瞬間から、この世の地獄は始まった。

 

 

 

27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:43:59 ID: tZnXwI7D0

まず、ミサイルが直撃で基地が爆発した。
それも予想をはるかに超える規模で、だ。

オペレーションルームにいたすべての人員が呆然としていた。
映像は真っ白に染まるばかり。

すぐに映像が望遠画像に切り替わったそのとき、
爆発の規模を僕たちは嫌がおうにも見せ付けられた。

(; ゚ω゚)「どういう……ことだお……」

この被害規模はなんだ。
都市の二、三どころではない。巨大な半島の四分の一が消滅していたのだ。

おそらく、某国は僕の提唱した理論を弄繰り回し、
発生可能なエネルギーを安全粋を超えて上昇させていたのだろう。

即座に原因が思い浮かんだが、そんな思考に意味はかけらも存在しない。

所詮傍観者に過ぎなかった天才に、出来ることなど何も無かった。

 

 

 

32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:46:07 ID: tZnXwI7D0

しかし事態はそれだけでは済まなかった。
基地の巻き起こした爆発は大事の前の小事に過ぎなかったのだ。

突如繋がった回線に応対したオペレーターが、顔面蒼白となって叫び声をあげる。

(;^^ω)「地下シェルターに避難してくださいホマ! 早くホマ!」

オペレーターが何を言っているのか、僕たちは理解できなかった。
立ち尽くす僕の脇を慌ててすり抜けて行った彼の後ろ姿を見てようやく、全員が恐々と避難を開始する。

何が起こったのかは定かではなかったが、
取り返しのつかないことが起こったといことだけは全員が理解していたらしい。

 

 

 

33 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:47:15 ID: tZnXwI7D0

地下深くに設けられたシェルターへと向かうエレベーターの中。
僕はオペレーターに喰らいつく。

(; ゚ω゚)「どういうことだお! 何があったんだお!!」

(;^^ω)「か、核ミサイルが某国から発射されたと……」

川;゚ -゚)「おい! 嘘だろう!?」

聞いたことも無いクーの叫びがエレベーター内にこだまして、
その場にいた全員がいっせいにオペレーターへと質問を飛ばす。
オペレーターは数個の質問には丁寧に答えていたが、あまりの質問量に耐えかねたのだろう。

(;^^ω)「僕だってそう思いたいホマ! だけど、向こうの声は尋常じゃなかったホマ!」

悲痛な声で叫んで、それきりとなる。

 

 

 

 

35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:48:40 ID: tZnXwI7D0

(  ω )「いや、ありえない事も無いお。某国は、
     どうせ滅ぶなら世界中の人間を道連れにしてやろうとでも思ったんだろうお」

川;゚ -゚)「いたちの最後っ屁という奴か……なんと愚かな……」

それきり、エレベーター内に声が響くことは無かった。
やがて僕たちが地下へとたどり着いた直後、シェルターが強烈な揺れに襲われた。

何度も、何度も、腹の底をえぐるような地響きは飽きることなく夜通し続く。
ここまで眠れない夜は初めてだった。

それがようやくおさまって一日ほど様子を見て、僕たちは再びの地上へと上がることにした。

 

 

 

37 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:50:30 ID: tZnXwI7D0

幸いにもエレベーターは稼動してくれた。

研究所も揺れで室内が荒れていた程度で、
放射線による被害はおろか、これといって特筆すべき被害も無かった。

研究所は郊外も郊外、山の奥の奥に設けられた極秘建造物であったため、
某国のミサイルの標的にはなっていなかったのだろう。

地上へと上がった僕たちはすぐさまオペレーションルームへと駆け込み、首都との回線を開いた。
しかし返ってくるのは不快なノイズ音だけであり、
続けて国内の主要都市との回線も開いてはみたものの、人の声が返ってくることは無かった。

テレビジョンをつけてみても、国内チャンネルも国外の主要な衛星放送も砂嵐を映すだけ。

しかし幸運にも、海外のラジオ放送を受信することに成功した。
当時最も衰退していたラジオメディアからのみ情報を得られたというのは、なんとも皮肉な話だろう。

ノイズ混じりの聞きづらい放送の中で、アナウンサーが冷静沈着に世界の情勢を伝えてくれた。

情報に飢えていた僕たちは、一言一句聞き逃すまいと必死に耳を傾ける。

 

 

 

39 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:52:14 ID: tZnXwI7D0

『繰り返し、各国の現状をお伝えします。

現在、先進国に代表される大国の首都、主要都市は一切の連絡が取れない状態にあります。
某国の核兵器により壊滅的打撃を受けたとの情報もありますが、真偽のほどは定かではありません。

なお、某国が核兵器を使用して以来、各国は依然として混乱した情勢におかれております。
暴動が起きた地域も多々あるようで、その沈静のため軍を動かす国家も現れ、ますます事態は悪化しています。

同時に一部国家が核兵器を使用したとの報道が一部メディアではなされていますが、確認は取れておりません。
また、巻き上げられた砂埃が各地の上空を覆いつくしており、日の光が届かない地域が多々あるとの報告も出ています』

 

 

 

41 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:54:37 ID: tZnXwI7D0

川;゚ -゚)「そんな馬鹿な!」

(; ゚ω゚)「クソッ!!」

急いでベランダへと飛び出した僕が見たのは、限りなく黒に近い灰色の雲に覆われた空。

普通の雲じゃない。
粉塵や焦土が巻き上げられ幾層にも重なって初めて見ることの出来る、日の光さえ遮断してしまう分厚い雲だ。

核の冬。そんな言葉が頭に浮かんだ。

(; ゚ω゚)「これが世界中を覆い尽くしているのだとしたら……」

日の光は数ヶ月、もしかしたら数年地表に届かず、気温は急激に下がり、生態系は破壊される。
放射線に汚染された粉塵も風に乗り世界に降り注ぎ、その被害を存分に撒き散らすことだろう。

この世の終わりだ。

呆然と空を見上げていた僕の耳にラジオの音声がまた聞こえてきた。
生涯忘れることのないであろう、断末魔のような叫び声が。

 

 

 

42 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:55:46 ID: tZnXwI7D0

 

『……な、なんだと!? それは本当か!? おい! 嘘だろう!?』

(; ゚ω゚)「な、何が起こったんだお!」

川;゚ -゚)「わからん」

突然乱れたラジオの音声。

その後、人々の遠い悲鳴や叫び声が聞こえて。
轟音と甲高いノイズが響いて。

それきり、そのチャンネルから人の声が流れることは二度となかった。

 

 

 

44 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:57:32 ID: tZnXwI7D0

以後、数日経っても何も情報が入ることは無かった。

僻地中の僻地に建てられていた研究所。

だからこそ核兵器の被害を受けないで済んでいたのだが、
その通信手段はすべて国の首都に直結されていたため、
首都が壊滅したと考えられる状況下では外部との更新は一切にわたり不可能だったのだ。
中央集権のもろさが露呈した結果である。

すぐに僕とクーが連絡方法の開発に着手したのだが、作業はなかなか進まない。
いらだちや焦りから作業が右往左往するそんな状況の中で、無情にも一週間以上が経過した。

そんなある日、文字通り暗雲のたちこめる外の世界から、一人の人物が車に乗ってやってきた。

 

 

 

45 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 07/11/19(月) 01:58:38 ID: tZnXwI7D0

 

ξ;゚听)ξ「内藤! クー! 早くこの車に乗ってちょうだい!」

ずっと会いたかった女性、ツン。

突然現れたなつかしの彼女は、
互いの無事と再会を喜ぶ暇も無く僕とクーを車に乗せると、行き先も告げずに走り出した。

 

 

 

 

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