636 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:32:48.08 ID: ZC1hkslO0

エピローグ

ξ゚听)ξ「ねぇ、ブーン? あなたはいったい、どこまで歩くの?」

ツンデレが僕に問いかけた。顔を上げれば、切れ長の大きな目がまっすぐに僕の顔を見つめていた。

若さに溢れた彼女の瞳が老い始めたこの身には眩し過ぎて、僕は手にしたかじりかけの木の実に視線を落とす。
その赤の先に僕は、この身の奥底で緩やかにくすぶっている若かりし頃から続く情熱の火の一片を見出す。

( ^ω^)「さぁて……僕はどこまで歩くのかおね」

ツンデレではなく、握っていた木の実の赤にそう声を落とし、
僕は立木の幹に背を預け、揺れる木漏れ日の下、そっとまぶたを閉じる。

 

 

647 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:34:28.71 ID: ZC1hkslO0
 
さあ、僕はいったいどこまで歩く? 

その問いかけの本旨はつまり、「僕の歩く意味はどこに終着するのか」ということ。
もっとも、問い主のツンデレはそんなに深くは考えず、興味本位で軽く尋ねたのだろうけど、
僕にとってのその問いは、人生の命題そのものであった。

これまで、流れるように宛てどもなく、果てどもない世界の上を歩き続けた。

出会って別れ、別れて出会いを繰り返すことで、
緩やかに流れ続ける時の中、僕の体は確実に老い、終幕へと向かい始めている。

以前のように望まなくても、死というゴールは向こうから近づいてきてくれている。
もしかしたらそれは、もうすぐ傍まで迫っているのかもしれない。

僕はもう、長くはないだろう。少なくとも、人生の折り返しがとうに過ぎてしまっていることは揺るぎない事実だ。
先延ばしに出来るほど、僕に時間は残されてない。そろそろ、答えを出す時期に達したのかも知れない。

( ^ω^)「だけど……まだ答えは出ないんだお」

そう言って、閉じたまぶたを開いた。そこにツンデレの姿はなかった。

 

 

650 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:36:18.49 ID: ZC1hkslO0
 
(; ^ω^)「お? ツンデレ、どこに行ったんだお?」

差し込む木漏れ日の下で、僕は立ち上がりあたりを見渡す。
しかしどこにもツンデレの姿はない。

僕がまぶたを閉じていた時間はそう長くはなかったはず。
少なくとも遠くへ行くだけの時間はなかったはず。

だとすれば、彼女はこの木の幹の裏側にでも隠れているのだろうか? 

そう思って振り返り、背後にあるはずの木の幹を見た。
目に映ったあり得ない物体に驚いてしまって、僕は久方ぶりのめまいを覚える。

(; ゚ω゚)「違うお……この木は違うお!」

僕が背を預けていたはずの木が、別の木に代わっていた。

慌てて、幹の上で生い茂る葉たちを見上げる。葉たちは僕のすぐ目の前にあった。
登って実を取る必要がないほどその木の丈は低く、それ以前に、そこに赤い実など生っていなかった。

そして、僕はこの木を知っていた。だってこの木は、僕がこの世界で初めて目にした木なのだ。

 

 

660 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:38:11.19 ID: ZC1hkslO0

忘れるはずがない。忘れようがない。

丈の低い、ブロッコリーを巨大化させたような木。
赤い大地の上にあった、赤い大地の上にしかなかった木。

もう一度あたりを見渡す。予想通りの光景に、僕はまためまいを覚える。

赤い大地。点在する丈の低い木々。風に揺れるトウモロコシ畑。
遠くに聞こえる、レッドリバーのせせらぎ。

(; ゚ω゚)「ここは……まさか……」

川 ゚ー゚)「やあ。久しぶりだな」

眼を見開いたまま、呆然と周囲の景色に気押されていた僕の足元から、記憶にあった声が聞こえた。

 

 

666 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:39:42.52 ID: ZC1hkslO0

恐る恐る足もとに視線を落とせば、赤い地面の上には、腐り落ちた彼女の死体。
その瞳が僕を見上げ、その口が僕へ語りかける。

川 ゚ー゚)「いかがだったかい、千年後の世界は?」

(; ゚ω゚)「う……あ……」

クー。孤独に耐えられなかった女。ここにあるはずのないその顔は笑っていた。
血のように赤い大地の上、這うように右手を伸ばした彼女は、僕の足をつかみ、言う。

川 ゚ー゚)「出会い、別れ、孤独に戻り、代替を求めるようにまたさすらい、
     また出会い、しかしまた別れ、そうやって君は歩いていく。
     今、君の隣にいる彼女。けれども彼女もまた、ツンと同じように君へと想いを寄せることはない。
     彼女はツンと同じように君の元を離れ、いつか君とは別の道を歩くだろう。
     そして、いつか君は死ぬ。出会って別れ、出会って別れを繰り返した先で、私と同じように、孤独に」

逃げるように右足を持ち上げ、赤い大地の先へ駆けだした。腐り落ちていた彼女の手は簡単に振り払えた。
けれど、最後に聞こえた彼女の声だけは、どうしても振り払うことは出来なかった。

 

 

670 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:40:27.25 ID: ZC1hkslO0
 

 

 

川 ゚ー゚)「さあ、内藤の代弁者たるブーンとやらよ。果てなく巡る孤独の中で、それでも君は、どこまで歩く?」

 

 

 

 

 

673 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:42:05.23 ID: ZC1hkslO0

走った。僕は走った。赤い大地の上を渡り、緑の草原地帯を通り過ぎ、
昼の青空の下を、夕刻の茜色の下を、クーの声を振り払うように、僕は夢中で駆け抜けた。

そして気がつけば、暗く深い、永い森の中を走っていた。

唐突に現れる木々の枝葉が僕の皮膚を薄く裂き、
不安定な山の斜面が僕の体を倒れこませようと黒の中で笑う。

その先に僕は、燃える松明の火を一つ見出し、それを道標とし、ひたすらに夜の森を走り続けた。

そして、道は開ける。見上げれば満月。見下ろせば芥子の畑。
その先には、神の木として奉られた遺物と、石斧を手にした大男のシルエット。

(; ゚ω゚)「……そんな……君は!」

 

 

679 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:43:41.22 ID: ZC1hkslO0
 
('∀`)「やぁ、ブーンさ! ふひひ! 久しぶりだっぺなぁ!」

ドクオ。神殺しに挑んだ男。満月の下、変わらない不細工な笑顔で僕を出迎えてくれた彼。
懐かしさに胸が締め付けられる。駆け寄り、大きなその手を握り締めようとした。

けれども、即座に表情を変え、手のひらをこちらへ向け、僕を制したドクオ。
石斧の柄をドンと地面に突き、彼は続ける。

('A`)「神はオラが殺す。殺して、ギコやしぃたちの未来を作るんだぁ。
   だども、神が消えた世界じゃあ生きられねぇ人間もいる。狂っちまう人間もいる。
   ブーンさ。おめさんはどうだべか? 神さ消えたこん世界で、それでもおめは歩き続けられるか?」

ドクオが石斧の柄を地面から引き抜いた。それから笑って、僕の答えを待たず、言う。

('∀`)「ふひひ! 馬鹿なこと聞ぃちまっただなぁ! すまんこったぁ!
    おめが歩けないわけがね! オラが知ってるおめぇなら、どこまでも歩き続けられる!」

そして、ドクオは石斧を振りかぶる。
けれども逃げるべき僕の足は、地面に縛りつけられたまま動かない。

振りかぶられた石斧がそびえ立つ神の木へと向かう。満ちた月が僕たちを照らす。

ドクオの声が、夜に響く。

 

 

680 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:44:07.83 ID: ZC1hkslO0

 

 

 

('∀`)「さあ、神の名さ持つブーンさ! 神さいねぇ世界の上で、それでもおめは、どこまで歩く!?」

 

 

 

 

 

685 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:45:38.42 ID: ZC1hkslO0

強い光が目の前で発した。

それはきっと、すべてを燃やしつくす赤い爆発だったのだろうけど、何のことはなかった。
ただ、その光は強すぎて、僕には真っ白にしか感じられなかった。

同時に発した爆風で、僕の体は木の葉のように宙へと舞いあがる。
ふわりふわりと中空を漂い、やがて引力に惹かれた僕の体は、大地の上と叩きつけられる。

しかし、衝撃はほとんどなかった。
背中には、まるで深く降り積もった雪の上に落ちたような、柔らかい感触。

むくりと起き上がる。感触通り、あたりは一面、雪に覆われた白の世界。
その真ん中に、僕は信じられない光景を見た。

(´・ω・`)「あっはっは。まいったねこりゃ」

ショボンさんが雪の上にかがみこみ、野糞をしていた。

 

 

694 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:47:42.77 ID: ZC1hkslO0
 
「ショボンさん、あんた何してはるんですか?」 

そう叫びたくなるほどに残念な光景。
それを前に目を見開いた僕の傍に、突然彼が姿を現した

(*><)「わかんないです! わかんないです!」

( ^ω^)「おお! ビロードじゃないかお! 久しいお!」

白の上をこちらに駆け寄ってきた銀色。
嬉しそうに尻尾を振りしだきならが僕へと飛びかかり、僕の頬を舐めたそれはビロード。

僕が生まれて一番長く同じ時間を過ごした仲間。
兄弟と呼んで差し支えない唯一の存在。

( ^ω^)「ビロード……また会えて嬉しいお……元気にしていたのかお?」

(*><)「わかんないです! わかんないです!」

彼との再会が嬉しくて、取り囲む世界の異常さを忘れ、僕は彼を抱き寄せた。
雪の上でも暖かいその体を、いつかのように、ギュッと強く。

 

 

699 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:49:12.83 ID: ZC1hkslO0

(´・ω・`)「いやー、やれやれ、オーチンハラショー。
     大変素晴らしい便だった。やっぱりこの葉っぱは最高だね」

そんなとき、うんこさんが満足気な顔でこちらへと歩いてきた。
しかしうんこさんは、僕から一定の距離を置いたところで立ち止まる。

うんこさんは手にしていたあの葉っぱを雪の上にはらりと落とすと、穏やかな声でビロードの名を呼ぶ。

(´・ω・`)「ビロード君。ブーン君はまだ、こちらには来ていないんだ。
     違う世界に住む僕たちは、彼と手を取り合ってはならない。気持ちはわかるが、そのくらいにしたまえ」

( ><)「わかってます!」

かつて一度だけ僕に放った答えを返したビロードは、僕から離れ、うんこさんの足元へと駆け出して行く。
そして、白の上に並んで立ち、距離を置いて僕を見据えた一匹と一人。一人の口が、ゆっくりと開く。

 

 

703 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:50:44.97 ID: ZC1hkslO0
 
(´・ω・`)「僕は神話の道の先に、僕が望んだ夢を見た」

舞い散り始めた雪の中、ショボンさんの声が聞こえた。
その中で、彼が笑っているのが、うっすらと見えた。

(´・ω・`)「そして、僕は生きる意味を後付けることが出来た。
     ありがとう、君たちのおかげだ。僕の言いたいことはそれだけさ」

次第に強くなり始めた舞い散る雪。その中で、
ショボンさんは昔と変わらない暖かな眼差しを僕に贈ってくれていた。

(´・ω・`)「ブーン君、いつの間にか君は僕と近しい歳になってしまったね。
     時の流れは緩やかなようで、意外に速いものなんだね。さて、そんな老い始めた君に、
     特に何の心配もしていないが、便宜上、この問いを投げかけよう」

その一瞬、視界から吹く雪たちが消えた。

しっぽを振りながら僕を見つめるビロードがハッキリと見えた。
僕を指差すショボンさんがハッキリと見えた。

彼らが問いかける声が、僕にはハッキリと聞こえた。

 

 

711 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:51:38.43 ID: ZC1hkslO0

 

 

 

(´・ω・`)「さあ、意味を求めた旅人ブーンよ。終わりに近づく生の中で、それでも君は、どこまで歩く?」

 

 

 

 

 

716 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:53:12.43 ID: ZC1hkslO0

雪風が僕らを引き離した。吹雪といって差し支えないほどになっていたそのせいで、
ショボンさんとビロードの姿はおろか、一寸先にあるものさえ、僕は見ることが適わなかった。

そして吹雪が色を変える。白から黄土色へ。頬にあたるのは雪ではなく砂となった。
砂塵となった吹雪はすぐさま弱まり、消える。

その後現れた大地には、雪の代わりに砂が敷き詰められていた。
夜となっていた空には、いつかの満月が浮かんでいた。砂漠の真ん中には、彼がいた。

(-_-)「お久しぶりです……ブーンさん……」

ヒッキー。僕に殺された心優しい少年。
他に音の無い砂ばかりの世界に、全身を血で染めた彼の声は響く。

 

 

720 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:54:42.51 ID: ZC1hkslO0
 
(-_-)「あなたが旅する理由なんて……僕は知りません……
    だけど……どんな理由があっても……僕たちはあなたに殺された……それだけは確かなんです……
    死んだらそれまで……何もない……殺された人々にもやりたいことがあって……
    でも……それきりなんです……」

僕は、途切れ途切れのヒッキーの言葉を、反論することなく聞き続けた。
なぜなら、彼の言うことのすべてが正しかったからだ。

(-_-)「そうやって……誰かの命を切り取ることで……あなたは歩いて来たんです……
    あなたの身勝手な……僕が知るよしもなかった……旅する理由のためだけに……
    それを認める人もいる……でも……あなたに殺された僕たちは……あなたを決して認めない……
    あなたの進む道の先……あなたが手にするすべてのものを……僕らは全力で否定します……」

その時、ヒッキーの背後に、無数の人影が浮かび上がった。
名も知らない、正確な人数さえも覚えていない、僕に殺された人間たちの影。

彼らの想いを代弁するかのように、最後にヒッキーが、こう残した。

 

 

721 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:55:10.64 ID: ZC1hkslO0

 

 

 

(-_-)「さあ……僕らを殺めたブーンさん……血と恨みにまみれたその足で……それでもあなたは……どこまで歩きますか?」

 

 

 

 

 

726 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:56:40.51 ID: ZC1hkslO0

強烈な風が吹き、再び砂たちが宙を舞った。
砂塵はヒッキー達の言葉だけを残し、彼らをどこかへと連れ去ってしまった。

そして舞いあげられた砂たちは夜空を覆い、互いにつながり合い、一つの建物として形を持ってゆく。

彼らが形作ったのは、ほころびながらも、それでいて威圧感と優雅さを失わないメッカ大聖堂の天井。
砂の消えた地面からは、左右二列に配置された腰掛けと、その真ん中、祭壇へと続く通路が現れる。

夜の砂漠は遺跡へと変わった。
その通路の真ん中で、祭壇を向く形でたたずんでいた僕は、突如、背後に殺気を感じ取る。

懐の銃を抜き振り返った。背後にいた彼の眉間に銃口を突き付ける。突きつけながら、僕はほほ笑む。

( ^ω^)「やあ、久しいお」

 

 

728 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:58:11.11 ID: ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「ひゃひゃひゃ! まーた負けちまったか!」

振り返った先、目の前にいたのはジョルジュ。伝統に縛られていた花婿。
東洋の武術、空手で言う前屈の姿勢の彼の右手が、あの時と同じように僕ののど元へと伸びていた。

しかし、その手には何も握られていなかった。ジャンビーヤは、そこにはなかった。

ジョルジュの額に突きつけた、弾の入っていない銃を懐に仕舞う。
彼はは口では悔しがりながらも、平時と変わらずへらへらと笑っていた。

その後表情を引き締めた彼は、すくりと背筋を伸ばし、姿勢を正して、言う。
  _
( ゚∀゚)「伝統と立場があった俺には、ツンデレの足を切らないわけにはいかなかった。
    だけど、あんたがツンデレに道をくれて、あいつは歩くことを選んだ。
    伝統に縛られた俺は、それでも、あいつが歩くことを許すわけにはいかなかった
    だから、最後に俺はは持てる力のすべてを出しておめぇに挑んだ。挑むしかなかったんだ。
    でも、それでも、おめぇは俺を負かしてくれた。俺を殺してくれたんだ」

 

 

730 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 18:59:32.34 ID: ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「歩いて笑うツンデレが好きで、でも立場上それを許すわけにゃあいかず、
     結局足を切ることしか出来なかった俺から、おめぇはツンデレを救ってくれた。歩かせてくれたんだ。
     俺はおめぇに殺されることで、あいつの足を、あいつの夢を切り取らずにすんだ。
     伝統から解かれて、救われたんだ。そうやって、おめぇに別の道を与えられたんだ」

ニカッと笑い、彼は続けた。
褐色の肌の中、むき出されたジョルジュの歯。その白が、とても眩しかった。
それからニヤリといやらしく口の端を釣り上げて、彼は言う。
  _
( ゚∀゚)「だからさ、心配すんなや。こっちはこっちでやっていくからよ。
    そーいうわけで、ツンデレは任せたぜ? ただし、間違っても手は出すなよ?」

 

 

734 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:01:10.50 ID: ZC1hkslO0

(; ^ω^)「バ、バカ言うなお! どんだけ歳が離れてると思ってんだお!」

彼の一言にギョッとする。
そんな僕を見て腹を抱えて笑ったジョルジュは、少しの間を置き、はにかんだ笑みを見せる。
  _
(*゚∀゚)「ひゃひゃひゃ! じょーだんだって! 
     んな心配してねーって! なあ……親父?」

( ^ω^)「お? 今なんて……」

思わぬ言葉が会話の端に聞こえて、何と言ったかもう一度問いただそうとした僕。
そんな僕の肩をジョルジュが押す。背にした祭壇の方へ、僕の体はよろめいていく。

それから体勢を立て直した僕を指差し、ジョルジュが最後に、こう問いかけた。

 

 

736 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:01:35.19 ID: ZC1hkslO0

 

 

  _
( ゚∀゚)「さあ、俺に道をくれたブーンよい! 掴んだおめーの道の上で、それからおめーは、どこまで歩く!?」

 

 

 

 

 

741 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:03:34.27 ID: ZC1hkslO0
 
僕の顔へと向けられたジョルジュの人差し指。それが、ほんの少し横にスライドした。
今、彼の人差し指は僕の顔ではなく、僕の肩越しに僕の背後、祭壇の方を指し示している。

ゆっくりと振り返る。そこに、祭壇は無かった。
信者たちの腰掛けも、大聖堂の壁面も天井も、何もかもが消えていた。
その代わりあったのは、どこまでも続く空の色。

もう一度振り返ってみる。案の定、背後にジョルジュの姿はどこにも無く、
あったのは何年も前に通り過ぎたベーリング海峡の氷面。天に、空の青。地に、空を反射する氷の青。

そんな、僕とどこまでも続く青の間、ちょうどその真ん中に、もう一人、白衣をまとった男がぽつりと立っていた。

( ^ω^)「やあ、いつぞやはどうもだお」

なるほど、これまで見た幻の製作者は君か。悪趣味なことだな、内藤ホライゾン博士。

声が聞きとれるのが不思議なほどに離れた、僕と彼との距離。
互いの隔たりが目に見えてわかるその距離で会し、同じ肉体に宿る二つの意識の、最後の対談が始まった。

 

 

746 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:06:14.31 ID: ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「いかがだったかお、懐かしの面々との再会は?」

君の姿を見た瞬間に冷めてしまった。所詮、彼らは幻。
彼らの口が形作った言葉は、君が作り上げた戯言だったというわけだ。

( ^ω^)「軽く流されては困るお。あれは君と僕の体験から類推した、
      彼らの本音に限りなく近いであろう言葉たちだお。
      天才の類推を信用するか否か。判断は君に任せるお、ブーン」

信じられるわけないだろう、常識的に考えて。

( ^ω^)「そうかお。なら、この話題はこれでおしまいだお。
      さて、ちょうどいい機会だし、いつかの約束通り、『君の歩く意味』を教えてもらおうかお」

一方的に作り出した幻を見せて、この期に及んでまだそんなことを口にするか。
まったくもって、偉そうなもの言いだけは天才の名に恥じないな。内藤ホライゾン博士。

( ^ω^)「褒め言葉として受け取っておくお」

それっきり、千年前の天才は能面のようなにやけ顔のまま、遠くから僕を見つめ続けるのみ。
以降、彼はいっさい何も話そうとはしない。

 

 

747 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:07:52.13 ID: ZC1hkslO0

しかし、彼の言うことももっともだ。

そろそろ僕も、「歩く意味」にある程度の結論をつける時期にある。
とりあえずの意味をここで見出しておいて、困ることなど有りやしないだろう。

どこまでも続く空と氷の狭間にたたずんで、ゆっくりとまぶたを閉じ、僕は考える。

僕の歩く意味。歩いてきた意味。

十数年歩き続けた今、その道程をこうやって振り返ってみて、
すべてがかっちりと噛み合う、そこから何かを結論付けられるだけの意味が果たしてあるのだろうか?

歩き続けた道の上、これまで僕は、いったい何をしてきたのだろうか?

 

 

750 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:09:45.73 ID: ZC1hkslO0
 
始まりは、墓地のように静まり返った地下施設の中。
地上に出て、腐り落ちたクーという名の女の死体を赤土の下に埋めた。

辿りついた石の町に、千年前の知識を伝えた。

そこに根付き芽吹いていたミサイルという名の神を、ドクオという名の青年とともに燃やしつくした。
焼け野原のその上に、ギコとしぃちゃん、ドクオの愛した村の子どもたちへ、未来という名の種を植えた。

北上し、一匹の狼の子と出会った。親と死に別れた彼にビロードという名前を付け、場所をユーラシアへと移した。

永久凍土の上、降り始めた千年後の雪の中に身を伏して、一人の旅人と一匹の旅犬に命を救われた。
シベリア鉄道の線路上、ショボンとちんぽっぽという名の彼らに「歩き続ける」という道を与えられた。
その礼というほどでもないが、彼らにもすかうという名の神の国を見せた。

旅の友であった犬の家族と別れ、受け取ったナイフを携え、場所を南へと移した。

発展した内陸の町へたどり着いた。商人たちを引き連れ、かつての聖地へと旅した。
忘れ去られたもう一つの聖地を目指し、その道中、ヒッキーをはじめとして、多くの人間を殺めた。

失われた、荒廃した神の住まいで、一人の青年と出会った。無理やり連れていかれる形で、場所を南の果てへと移した。

白い縁取りが鮮やかな誇りの町に、持っている知識のすべてを置いた。
千年前の女性とよく似たツンデレという名の女性に、足を与えた。
足を奪うしかなかったジョルジュという名の青年に、道を与えた。

「歩き続ける」という道を自分のものとし、歩きたいと願った女を引き連れ、それからも歩き続けた。

 

 

757 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:12:23.11 ID: ZC1hkslO0

確かに振り返ってみれば、歩き続けた道の上、僕はそれなりにたくさんのことを成してきた。

しかし、それだけだ。
そこに断片的な意味こそ見つけられはすれ、共通する一本の芯だけはどうにも見つけられることはない。

やはり僕には、歩く意味なんてなかったのだろうか?

思えば浮雲のように千年後を漂うだけで、
誰かという名の風のおかげでようやくどこかへ辿りつくということを繰り返し続けただけの僕には、
そこに一つの意味を見出すなど、初めから不可能なことだったのだろうか?

まぶたを開く。目の前にあったのは相変わらずの、
境目の見えない空と氷の青と、その真ん中にたたずむ白衣の内藤ホライゾンだけ。

白衣の裾が風に揺らぐ。何も言えない僕に向けた、彼の声が響いてくる。

 

 

760 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:13:58.50 ID: ZC1hkslO0

( ^ω^)「まさか、本当にわからないのかお?」

遠目にも、心底呆れ果てた様子の彼の顔がハッキリと見てとれた。
けれど、悔しいけれど、僕には何の反論もできない。

( ^ω^)「こんな簡単なこと、てっきりわかっているとばっかり思ってたお。
      やっぱり君は凡人なんだおね。まあ、内藤ホライゾンがそんな風に君を作ったんだけど」

さらりと重大なことを言ってのけた内藤ホライゾン。
僕がそれについて問いただそうとした直前、彼が続けた。

( ^ω^)「今、君の手の中に残っている『もの』。それはいったいなんだお?」

 

 

766 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:15:39.68 ID: ZC1hkslO0
 
僕の手の中に残っている「もの」?

突然の問いかけに、慌てて両手のひらを開いた。そこにはもちろん何もない。
あからさまなため息が氷上を伝う風に乗り、こちらへ届いた。

( ^ω^)「……そうじゃないお。君が腰にぶら下げているそれはなんだお?」

風に乗ってきた言葉に従い、僕は自分の腰のあたりを見る。
そこにあったのは、ちんぽっぽから受け継いだショボンさんのナイフ。
連なる内藤ホライゾンの声が響く。

( ^ω^)「君が着ている超繊維の服、原色の羽織。懐に隠し持った打ち止めの銃。
      引きずって歩くそり。その上にあるエスキモーたちのテント、超繊維の袋。その中にあるショボンの絵。
      君とともに歩くサナアの花嫁。彼女の腰にぶら下がった銀色のジャンビーヤ」

次々と僕の傍にあるものたちの名が呼ばれていく。
白衣のポケットに両手を入れた彼の声は、氷上の先から止むことなく続いていく。

( ^ω^)「そこに君が手放した『もの』たち、それらすべてを含め、もう一度振り返ってみるお。
      君の歩いた道のりを、『もの』という観点から振り返って、もう一度、だお」

言葉に従い、再びまぶたを閉じる。もう一度、辿ってきた道のりを振り返る。

 

 

771 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:17:20.52 ID: ZC1hkslO0
 
始まりは、クーが自ら命を絶ち、内藤ホライゾンもそうしようと手に取った一丁の銃。

そこから僕は生れ、超繊維の服と袋、たくさんの銃の弾、書物、ひと粒で三日腹の膨れる夢の食糧、
千年前の存在たる彼らを携え、千年後の世界の上を歩きはじめた。

ドクオの村へたどり着き、千年前の知識を伝えた。彼らの衣装である原色の羽織をもらった。
アヘンを拒み、ミサイルとドクオを失い、その代わりにドクオの石槍を得て、次は北へと歩きはじめた。

道中でビロードと、彼の両親の毛皮を得た。雪の中、ロッキー山脈内の村で香辛料の種を譲り受けた。
途中で出会ったエスキモーたちから、ドクオの石槍と香辛料の種を引き換えに、テントやそり、防寒具を手に入れた。

ユーラシア北部で、命を繋いでくれた夢の食糧を失った。知識を繋いでくれた書物を燃やした。
その代替としてベルカキト近辺まで辿りつき、ショボンさんとちんぽっぽに命を拾われた。

シベリア鉄道の線路上、そりと荷物を引きずり歩き、点在する村々に知識を伝えた。
ショボンさんに旅する術と、進むべき道を教えてもらった。

 

 

779 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:19:45.00 ID: ZC1hkslO0
 
ビロードとちんぽっぽが、三匹の子犬とエスキモーのそりが、モスクワへと運んでくれた。
彼らと毛皮を失うかわりに、ショボンさんの絵と荷物、そしてナイフを受け継いだ。

繁栄を取り戻し始めていた中東で、旅の荷物と引き換えに通過を手に入れた。
通貨と引き換えに食料やラクダ、情報を手に入れた。

忘れられた聖地への道半ば、懐の銃が、ヒッキーやその他多くの人間を貫いた。
その代わり、同じ数だけ僕の命を救ってくれた。

千年前の知識が、僕とジョルジュを出会わせてくれた。サナアに導いてくれ、一時の安寧を与えてくれた。
彼らによって続けることの出来た旅が、僕とツンデレを繋いでくれた。

ショボンさんのナイフが時間をくれた。
最後の銃弾が、ツンデレに足を残してくれた。ジョルジュに道を開いてくれた。

そして今、僕の手には、内藤ホライゾンが声に出したものたちが残っている。
失ったもの。残っているもの。その中の一つでも欠けていたら、僕は今、ここにはいない。

ああ、そうか。彼らはすべて――

 

 

786 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:21:36.18 ID: ZC1hkslO0

( ^ω^)「……一本の糸で繋がっているんだお」

内藤ホライゾンの声が聞こえて、僕は再びまぶたを開いた。
眼前に広がる薄かった空と氷の青が、いつの間にかはっきりとした色彩を帯びていた。

( ^ω^)「繋がっているその糸。その始まりはどこにあるんだお?」

決まっている。はっきりとわかる。千年前だ。

( ^ω^)「その通り。つまりはそういうことだお。
     『者』や『物』で繋がった糸は千年前から続き、今も君が千年後の世界に繋ぎ続けている。
     もちろん、それは『もの』だけじゃないお。君はその糸の途中に、君が出会った千年後の人々、
     彼らの想いや生きざまを新たに結びつけ、先へと繋げ、そこからまた何かを生み出し、繋げていった。
     そうやって、君は歩いてきたんだお」

ああ、そうか。そうだったのか。そういうことだったのか。

 

 

793 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:23:13.77 ID: ZC1hkslO0

振り返れば、僕の後ろにはこの手に残っているものたち、失ったものたち、
彼らが繋いでくれた、彼らとともに繋いできた糸があって、
それは幾重にも重なりあい、太い縄のようになって、僕たちと千年前を繋ぎ続けていたんだ。

そして、それを僕がこの世界に、千年後の世界に、伸ばし続けていったんだ。

( ^ω^)「そうだお。君の歩いてきた意味っていうのは、
      これからも歩く意味っていうのは、そういうことなんじゃないのかお?」

聞こえてきた内藤ホライゾンの声とともに、すべてがカッチリ噛み合った。

歯車が回り始めた。
決して開くことはないと思っていた扉が、音を立てて開き始めた。

その扉の向こう側に、僕の進むべき道が、今、はっきりと見えた。

 

 

796 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:24:57.45 ID: ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「まさか、これも『誰かから与えてもらったものだ』なんて言い出さないおね?」

遠く、氷の真ん中から聞こえてきた声にハッとする。
僕の視線の先には、白衣のポケットに両の手を入れたままこちらを見続ける天才の姿。

( ^ω^)「方法は誰かから与えられることが出来る。でも、結果が与えられることは絶対にないんだお。
      つまり、この場合の『歩く意味』っていうのは、誰かから与えられることはあり得ないんだお。
      そして、君の歩いた道にはとっくに意味があったんだお。僕はそれに気付くためのヒントを与えただけ。
      君が気づかなかっただけで、歩く意味はもう、君の中にあったんだお」

どこから吹いているのかわからない氷上の風。
その真ん中でたたずむ白衣の天才の姿は、距離があるにもかかわらず、僕にはとてつもなく大きく思えた。

( ^ω^)「では、それを踏まえた上で、僕はもう一度君に尋ねるお」

彼の発した呟きほどの小さな声が、僕にはとてつもなく大きく聞こえた。

 

 

797 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:25:20.14 ID: ZC1hkslO0

 

 

 

( ^ω^)「さあ、内藤ホライゾンの欠片であるブーン。千年前から続くその体で、これから君は、どこまで歩く?」

 

 

 

 

 

803 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:26:55.16 ID: ZC1hkslO0
 
僕が目指すべき場所。旅の目的地。歩みを止める終着点。
ついさっきまで見当もつかなかったそこが、歩く意味を知った今、はっきりと目の前に浮かんできた。

僕が目指すべき場所は、歩く意味が帰結する地点。
旅の目的地は、千年前から続く長く太い糸を結びつけ、繋ぎとめられる場所。
そここそが、十数年にも渡る、そしてこれからも続くであろう僕の、歩みを止めるべき終着点。

そんな場所など、この世界には一つしかない。

これから僕は、――――まで歩くのだ。

( ^ω^)「……そうかお。それはなによりだお」

僕の生涯のすべてを含んだ回答に、そっけない言葉だけを返した内藤ホライゾン。

それから白衣の良く似合う天才は、依然ポケットに両手を突っ込んだまま、
変わらない能面のようなにやけ顔をほんの少し、本当に少しだけ、歪めた。

その歪みが、僕にはあるはずのない表情を無理やり形作ろうとした結果に生じた、とても悲しい亀裂に思えた。

そして僕が回答の見返りを受け取るため質問を発しようとした瞬間、
ベーリング海峡の氷上を模した幻の中を、ぴしりと、まるで氷が割れる時のような甲高い乾いた音が一つ、響き渡った。

 

807 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:28:58.32 ID: ZC1hkslO0
 
初めは、内藤ホライゾンの表情のように亀裂が走り、この氷面が割れ落ちてしまうのかと思った。
慌てて周囲を見渡してみた。しかし氷面は相変わらず、三百六十度、鏡のような滑らかさを保ったまま。

次に正面、彼方でたたずむ内藤ホライゾンを見た。
先ほど浮かべた亀裂のような彼の表情の歪みが、音の発信源なのではないかと疑ったからだ。

もちろん、そんなことなどあるはずがなかった。
天才の表情は依然として不自然に歪んだまま、しかしそこには亀裂など走っていなかった。

けれども、その音の原因が内藤ホライゾンであることに間違いはなかった。

( ^ω^)「これで僕の心配ごとは無くなったお。もう、君は大丈夫だお」

彼の足が氷に侵食されはじめていた。かなりの距離で相対していてもわかるほどに、だ。
音は、彼の足が氷漬けになった際に発せられたものだったのだ。

それを確認した瞬間、僕は氷の上を走り出していた。

 

 

810 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:30:49.63 ID: ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「ずっと、それだけが心配だったんだお」

氷の上、足もとから凍結し始めた内藤ホライゾンが寂しげにつぶやく。

( ^ω^)「君は、孤独を前に絶望した内藤ホライゾンが、贈り物としての意義を果たすために生み出した身代わりの意識。
      それだけのために君は生まれたんだお。でも、ドクオのおかげで、早々にそれは果たされたお。
      ドクオの存在は非常に喜ぶべきことだったお。けれど、同時に一つの懸念を生み出したお。それが、君のその後だお」

彼の足もとの氷が徐々に伸びていく。すねのあたりまで氷漬けになった彼は、
しかし、自分のことを気にする素振りなど欠片も見せず、僕を眺め、僕に語り続ける。

( ^ω^)「その後の君は、死に場所だけを求め続けたお。
      それが僕には……内藤ホライゾンには、あまりに申し訳なかったんだお」

駆けだした氷の大地は滑り、蹴る足の力の半分以上を吸い取っていく。
思うように前に進めない。氷に覆われていく内藤ホライゾンの姿は、遥か、遠い。

 

 

814 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:33:01.40 ID: ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「名前もなく、一方的に義務だけを押し付けられて、厳しい千年後の世界に
      死に場所だけを求めるようになった君という意識が、あまりに哀れでならなかったんだお。
      だから、君がこの世界に別の目的を見出すその時まで、僕はここで待ち続けようと決心したんだお」

その言葉を聞き、ぞくりとした。
彼の言葉の意味はつまり、もう待ち続ける必要はないということだったからだ。

氷に閉ざされ始めた彼の体。
侵食していくその氷は、彼の意思により、彼の望みにより動いているのだろう。

そんなことはさせない。

第一、君はまだ約束を果たしていないぞ。
君には聞くべきことがまだたくさん残っているんだ。

僕は一体何者だ? お前は一体何者なんだ?

 

 

823 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:34:45.00 ID: ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「ああ、そのことかお」

太ももの辺りまで氷漬けになった内藤ホライゾンが、短く呟く。
さびしげなその声を聞き、僕の感情は高ぶり始める。

もはや慣れ親しんだと言って過言ではないめまいが、いつものように僕へと迫ってくる。

( ^ω^)「激しい驚きや悲しみ、感情の高ぶりに駆られた際、
      君は必ずめまいを覚えたはずだお。まるで今の君のように。
      その意味がわかるかお?」

今まさに僕が体感しているめまいを言い当てて見せた天才。
それに動揺した僕は、彼の問いかけを聞くや否や、滑ってこけた。したたかに体を氷上へ打ち付けてしまう。

全身に痛みと冷たさが走る。それでも駆けだそうと体を起こせば、まだはるか彼方にある白衣の彼の顔は、
感情など判別できるわけがないにやけ顔のままで、その口が、とんでもないことを言い出し始める。

( ^ω^)「簡単だお。もとから君に、そんな感情なんてなかったからだお」

 

 

831 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:36:43.38 ID: ZC1hkslO0
 
彼の声を前に、立ち上がろうとした足が止まる。
信じられない言葉に呆然とする中、またしても襲ってくるくらみに頭を抱えた。

それでも、天才の回答は氷の上を容赦なく突き進んでくる。

( ^ω^)「君という意識は、内藤ホライゾンから後ろ向きな感情の多くを分離させることで作られたんだお。
      厳しい世界を、どこまでも歩き続けられるように。
      その中で、いつか贈り物としての意義を果たしてくれるように」

くらみを落ちつけようと、大きく息を吸い込んだ。
まるで内藤の回答を裏付けるがごとく、沈静していく感情の高ぶりとともに、くらみは確実に引いてく。

天才の声は、氷上を渡り続ける。

( ^ω^)「もっとも、あの時の内藤ホライゾンにはそこまで深く考える余裕はなかったし、
      それ以前に、意識を二つに分離させる方法さえ彼は知らなかったお。
      君は本当に偶然に、絶望した内藤ホライゾンの無意識のうちに作られて、
      けれど無意識の中でもそれを成し遂げたあたり、内藤ホライゾンは本当の天才だと言えるかもしれないおね」

 

 

837 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:38:33.16 ID: ZC1hkslO0
 
自画自賛の彼の言葉を受け、僕はまた氷上を駆けだした。

彼方には、腰のあたりまで氷に侵された内藤。
彼の纏う白衣の裾は、もう風になびいてなどいなかった。

( ^ω^)「でも、そんな君にも、あるはずのない感情を表に出さなければならない時があったお。
      そんなとき、備わっていない感情を君はどこから調達していたのか。
      簡単だお。僕から調達していたんだお。だからこそ、その際、君はめまいを覚えざるを得なかったんだお」

氷の大地にも慣れた。駆けるスピードを増しながら、僕は尋ねる。

それはおかしい。仮に僕と君が本質的に異なる存在ならば、
人体に備わる防衛機制によりそんなことも起こり得るかもしれない。

しかし君は以前、僕と君は本質的に同じ存在だと言っていた。

だとすれば、百歩譲って僕に悲しみや驚きがないとして、
君からその感情を借り受ける際、なぜ僕がめまいを覚える必要があるんだ。

 

 

846 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:40:34.20 ID: ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「確かに、君と僕とは元は一つ、内藤ホライゾンから分離した本質的に同一の意識だお。
      でも、ある一点で君と僕は絶対的に異なっているんだお。だから、僕たちが一つに戻ることは
      あの時を除いて一度もなかったし、そんな異なる意識の僕から感情を借り受けようとすれば、
      めまいという拒否反応が出てしまうのもしょうがないことなんだお」

徐々に、だが確実に、内藤ホライゾンの姿が近づいてくる。僕が彼へと近づいていく。

上半身の下半分まで氷に侵食されてしまった彼は、まだ氷漬けになっていない右手で自らの顎を撫で、
にやけ顔のまま、しみじみと考えこむように顔をうつむけ、続ける。

( ^ω^)「しかしまあ、人間の肉体や意識っていうのは不思議なもんだお。
      持っていないけれどそれが必要な状況に置かれ続ければ、代替となる回路を生み出すようになるんだお。
      君も同じだったお。君にはそんな感情なんてなかったけど、歩き続ける中で様々な経験をし、
      その中でいつのまにか代替回路を構築して、いつしか、ある程度の驚きや悲しみなら出せるようになっていたお。
      もっとも代替回路ではやはり不完全で、感情がある一定の域を越えれば、僕から感情を借りるしかなかったんだけど」

そして、にやけ顔は再びこちらへと顔を上げた。

天才は胸のあたりまで氷漬けとなり、その肩までも氷に侵食され始めていた。
ぎこちない素振りで右手を上げた彼は、駆けてくる僕を指差し、にやけ顔のまま、続ける。

( ^ω^)「そして、君は天才なんかじゃないお」

 

 

850 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:42:43.25 ID: ZC1hkslO0
 
あからさまに、僕の反応を期待した彼の仕草、言葉。しかし僕はというと、まったく驚いてはいなかった。

当たり前だ。そんなことなど当の昔から疑っていて、サナアでそれは確信に変わっていたのだから。
だから僕は、何の反応も見せず、駆け続ける。足を動かすたびに、口を動かす内藤の顔が近づいてくる。

( ^ω^)「たとえばあの時、ショボンから食べられる野草について学んだ時、君はそのことを痛感したはずだお。
     君は千年前の野草について知識はありながら、けれどそれを千年後の生態系に応用し当てはめることが出来なかったお。
     それが、君が天才からは程遠い存在だということを、最も端的に表していたんだお」

両上腕部まで氷漬けになった彼。僕へと向けられた右腕が下ろされることは、もう無いだろう。

( ^ω^)「君は天才じゃない。天才の肉体を共有していたから、そこに備わった知識を引きだすことが出来ただけ。
      記憶に関しては多少なりとも肉体の恩恵を受けていたけど、それらを昇華し新たな知識を生み出すことは、
      君にはほとんど出来なかったはずだお。確かに君は、ジョルジュから『頭がいい』と言われていたお。
      けれど実際は、僕の脳みそとジョルジュの頭が良かっただけの話だお。君の知識のひけらかしを即座に理解した
      ジョルジュの頭が良かったのであって、君の方はというと至って普通、凡人レベルの思考体系しか備わっていないお」

僕を指差す彼の右人差し指、それまでもが凍りついた。確実に僕は彼へと近づいていた。

けれども、まだ遠い。遠すぎる。眼に見える距離だというのに、
それは永遠に辿りつけない隔絶のように思えて、それでも僕は諦めることなく、両足へ力をこめる。

 

 

856 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:44:28.63 ID: ZC1hkslO0

( ^ω^)「でも、君という意識は凡人だったからこそ、ここまで歩き続けられたんだお」

首まで氷に侵された内藤。間もなく、その顔面も氷に閉ざされるであろう。
おそらく最後になるであろう彼の表情は、やっぱりにやけ顔のままだった。

その声が、響く。

( ^ω^)「天才っていうのは、常に破滅と隣り合わせの存在なんだお。
      頭が良すぎるから。馬鹿にはなれないから」

変わらないにやけ顔でそう呟く彼の声は、自嘲を通り越して自らを諦めているように感じられた。

彼の顎が、氷に閉ざされる。僕はまだ、辿りつけない。

 

 

863 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:46:18.48 ID: ZC1hkslO0

( ^ω^)「凡人は馬鹿だからこそ、逆境の中でもわずかな希望に向かっていけるお。そこに道を切り開けるんだお。
      でも天才は、そのわずかな希望さえ見出すことが出来ないお。その可能性の低さを瞬時に理解してしまうからだお。
      その点において、天才は劣等種なんだお。それが、人間という種に天才がごくわずかしか存在しいない所以だお。
      だからこそ僕は、千年後の世界に絶望したまま、こうやって動きだすことが出来ないでいるんだお」

とうとう口まで凍りついてしまった内藤ホライゾン。しかし、彼の声は依然響いてくる。
まるでこの氷の世界全体が声を発しているように、低く、深く。

それを走りながら聞き、僕はハッと気づく。

目の前の内藤ホライゾンは、単なる人形、彼の意識の象徴に過ぎないのだと。
この氷の世界全体が、内藤ホライゾンという意識そのものなのだと。

ならば、僕は改めて問わなければならない。

こんな芸当まで成し遂げてしまう内藤ホライゾン。君は一体、何者だ?

 

 

871 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:48:20.34 ID: ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「僕かお? これも簡単だお。というか、さっきも言ったお。
      内藤ホライゾンから君に備わった感情を差し引いた意識、それが僕だお」

眼の下まで氷に覆われた内藤ホライゾンの姿を模した人形。
氷に固められたその口はもちろん動いてはいない。

声は、僕の周囲、氷の世界全体から響いていた。

( ^ω^)「だから僕は人格的には内藤ホライゾンで、けれど欠けているものがある以上、
     やっぱり僕は彼ではないんだお。そういう意味で、僕は内藤ホライゾンではないし、君のように名前もないお。
     そして、僕に欠けているもの。それは、例えば笑いとか、そういう前向きな類の感情、だお」

その時、僕が近付きつつあるまだ閉ざされていない内藤の両眼が、不自然に歪んだ。
それは、ツンデレが「歩きたい」と叫んだあの時、決して泣くまいと彼女が形作っていた、不自然なあの笑顔そのもの。

( ^ω^)「もちろん、君と同じように、僕も君から『笑い』という感情を借り受けることが出来るお。
     だけど、そうする必要がなかったし、これからもそうなんだお。だって僕は、ずっとここに独りっきりだから」

いびつな形で歪んで止まった彼の両眼。その不自然さのせいか、彼を覆っていく氷の浸食が急に止まった。

これ幸いにと、僕は駆けだす足に最大限の力をこめる。
体で風を切りながら、彼をここに繋ぎとめるため、僕は問いを投げかける。

では、最後の質問をしよう。君と僕とが一つに戻ることのない理由。

完全に氷漬けになる前に、それを聞かせてもらいたい。

 

 

879 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:50:28.55 ID: ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「……君は、この世界を肯定しているお。
      そして僕は、この世界を認めるわけにはいかないんだお。
      それが僕と君とを分かつ、たった一つの、決して相容れることのない理由だお」

駆け続ける僕の視界で、内藤ホライゾンの姿は確実に近づいてくる。
氷全体から響いているはずの彼の声が、近づいてきた不自然な笑顔から発せられたように感じた。

( ^ω^)「僕は、ずっと君の後ろで、君の旅路を眺めていたお。
      君が僕に備わる後ろ向きな感情に影響を受けないよう、さっきみたいに距離をとりながら」

確実に距離が縮まった僕と、頭部以外のほとんどが氷漬けになった内藤ホライゾン。

「氷に覆われているからこそ、もう僕からは何の影響を受けないのだ」

そう言いたげに、彼の顔は歪んでいた。

( ^ω^)「君の旅は、君がツンデレに言った通り、辛いことばかりで、楽しいことなんかほとんど無かったお。
      そんな中、君がこの世界を否定すれば、きっと僕たちはまたひとつに戻れたお。
      そうやって再び現れた内藤ホライゾンは、失敗した自らの死をやり直して、この世界から消えていたはずだお。
      そして僕は、ちゃっかりそれを望んでいたりもしたお。だって、僕は死にたいんだお」

 

 

884 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:52:18.46 ID: ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「でも、君は歩き続けた。様々な人間に出会い、様々な風景に胸震わせて。
      それこそが、君がこの世界を肯定している何よりの証拠なんだお。
      ヒッキーを殺した時、君は流せるはずのない涙を流すほど、世界の厳しさに打ちひしがれたはずだお。
      だけど、それ以後も君は歩き続けた。歩き続けて、そこに道を繋げたお。まったくもって見事だったお」

響く賞賛の声。しかし、嬉しくも何ともなかった。
近づいてもまだ届かない彼の姿に手を伸ばしながら、僕は叫ぶ。

なら、君がこの世界を認めればいいだけの話じゃないか。君ほどの天才なら、誰もが君を必要としてくれる。
天才である君ならば、僕なんかとは比べようもない太い糸を、千年前から今に繋ぎ続けることが出来たはずだ。

なのに、どうして君は、この世界を認めようとしない?

 

 

890 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:54:06.52 ID: ZC1hkslO0

(  ω )「……認めようとしたお。
     いや、ツンデレを救い出す際、僕は一度だけこの世界を認めたお。
     だから僕たちは、あの時、一つに戻れたんだお」

響いてきた声は震えていた。
その声に呼応して、僕が踏みしめる地面、幻全体がわずかに震え始める。

止まっていた氷の浸食が、ゆっくりではあるが確実に、もとの速度へ戻っていく。

(  ω )「だけど……この世界にはやっぱり、僕が欲しかった未来なんてなかったんだお」

震え続ける声、大地。氷の中の内藤ホライゾンの人形は、今にも泣き出しそうな表情をしていた。

 

 

896 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:55:43.25 ID: ZC1hkslO0
 
(  ω )「ツンによく似たツンデレ。彼女をツンだと思い込んで、彼女にツンと僕の別の未来を見たかったんだお。
     だけど、実際に救いだしたツンデレは、僕の胸で泣き叫ぶだけだったお。
     きっとツンを冷凍睡眠に入らせることに成功しても、ツンは彼女と同じように泣いたと思うお。
     それを否定して、ツンデレをツンじゃないと認めれば、もとからこの世界には
     僕とツンデレの未来なんてなかったことになるお。それなのに、この世界を認めるわけにはいかないお」

そして内藤ホライゾンの表情が、歪んでいく。
それは誰の目にも明らかな、悲しいほどに板についた一つの表情。

直視するのがあまりに耐えられなくて、僕は走りながら、地面へと顔をうつむけた。

(  ω )「なら、それ抜きに、別の観点からこの世界を認めればいいという話になるお。
     でも、そんなこと出来るわけがないお。だって僕は、クーからこの世界で永遠に一人だと言われたんだお。
     そして、僕もそれを認めてしまったんだお。だから僕は、地下施設の中で死のうとして、結局は死ねなかったお。
     そんな世界、どんな観点からも認められるはずがないんだお。認めるわけにはいかないんだお。
     だってそれは、クーの言った僕の孤独を肯定するということ、つまりは僕自身を否定することになるんだお。
     天才は自尊心が強いんだお。そんな僕に、自分を否定することなんて出来なかったお」

幻の中で響く彼の声が、僕には踏みしめている氷の大地と同じように冷たく感じられた。

「この冷たさを、天才はどう表現するのだろう?」 

そんな場違いな疑問を思い浮かべながら、僕は駆けた。

 

 

901 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 19:58:47.56 ID: ZC1hkslO0
 
(  ω )「なら、僕はどうすべきかお? 簡単だお。道は二つだお。
     一つは、君から肉体の主導権を奪い取り、肉体の死をもってこの世界から消え去ることだお。
     僕は意識としてのみの存在。そこから死を選ぼうとするなら、それは肉体を通してからでしか得られないんだお。
     でも、ブーン。君という意識を生み出し、代わりに過酷な道を歩かせてしまった以上、僕にはそれは出来ないお。
     君がこの世界を肯定し、この世界に意味を見つけた以上、そうするわけにはいかないんだお」

固い声から、柔らかな言葉が発せられた。それを受けて、駆け続ける僕はうつむけた顔を上げる。
そして、あと一歩のところまで近付いていた内藤ホライゾンへと、手を伸ばす。

僕の体温程度で溶かせるものならば、彼を氷の中から解放してやりたかった。

けれど、それは無理だとわかっている。それほどまでに彼の体は、心は、もう冷え切ってしまっているのだ。

(  ω )「ならば僕は、もう一つの道を選ぶお。君に任せた肉体の奥底で、永遠に眠り続けようと思うお。
     君はもう、様々な経験をしてきたお。もし君がもう一度モスクワへ赴いてビロードの死を前にした場合、
     歳老い経験に満ちた君なら、それ以外に、一定の域を超えた悲しみや驚きを前にすることはもうないと思うんだお。
     そういう意味で、僕はさっき、君にビロードの幻を見せておいたんだお。君がもう、僕を必要としないように」

 

 

907 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:00:18.35 ID: ZC1hkslO0

おそらく、彼にとっては補足に過ぎない言葉を聞き、
彼はもうすぐそこにいるというのに、僕の足は突然に止まった。

彼が、僕にビロードの幻を見せた理由。
それを聞き、最初に彼に見せられた幻に共通点と例外を見つけ出してしまったからだ。

クー、ドクオ、ショボンさん、ヒッキー。彼らは皆、死んだ人間。
ジョルジュだって、伝統に縛られた彼という観点から見れば、一度死んだ人間だ。

では、ビロードはなんだ? 

思えばなぜ、内藤は幻の中にビロードだけを出して、ちんぽっぽを、三匹の子犬たちを出さなかった?
彼ら四匹は、懐かしの面々という観点から見れば、幻として出してもなんら問題はなかったはず。
それなのになぜ、死んだ者たちの中に一匹だけ、生きているはずのビロードが含まれていたのだ?

「ブーン君はまだ、こちらには来ていないんだ。違う世界に住む僕たちは、彼と手を取り合ってはならない」

幻のショボンさんが口に台詞が、不意に脳裏をよぎった。

 

 

912 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:02:33.79 ID: ZC1hkslO0
 
(  ω )「つまり、感情の引き出しという僕の唯一の役目は終わったんだお。
     だからこそ、僕はここで、肉体より一足早く、永遠の眠りに就こうと思うんだお。
     その中で、あり得たかも知れないツンとの未来の夢を見るお。
     そうやって、君に明け渡した肉体が朽ち果てるまで、いつまでもここで氷漬けになろうと思うお」

浮かんできたまさかの疑問を前に呆然と立ち尽くす中、内藤ホライゾンの声が急に遠くなった。
その言葉と声の大きさの変化にハッと顔をあげ、間近に迫っていた彼の姿を見る。

止まっていた侵食の反動か、残されていた部分まで、彼は一気に氷漬けになってしまった。

(  ω )「だからもう、僕を起こさないでくれお。僕はもう、ここで眠り続けるんだお」

そして、わずかに揺れていた地面が震えることを止め、静けさを取り戻していく。

その静寂の悲しさに、僕は浮かんできた問いについて尋ねることも忘れ、氷上に膝をついた。
そうやって、涙を流したかった。けれど、やっぱり涙は流れなかった。

だってもう、「泣く」という感情を取り出すべき内藤ホライゾンの意識は、冷たい氷に閉ざされてしまったのだから。

 

914 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:03:58.38 ID: ZC1hkslO0

(  ω )「おっおっお……ホント……クーの言うとおりだったんだお……
     どの道を取ろうが……僕は独り……永遠に……独りぼっちだったんだお……」

終わりに響く、途切れ途切れの涙声。それを耳にした僕は、よろよろと立ち上がり、
無意識に目の前の氷象、閉ざされた内藤ホライゾンの意識の象徴へと手を伸ばす。

そして、手が届こうとしたその時だった。

氷の中で、彼が涙を流した。
最期の呟きが聞こえた。

( ;ω;)「ねぇ……ブーン? 
      あの時クーを好きだと言っていれば……僕にもまた……違った未来があったのかお?」

氷象は涙を流したまま、それきり、声はもう二度と聞こえなかった。

 

 

915 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:05:19.78 ID: ZC1hkslO0

僕はそっと、天才を覆った氷へと触れた。
その冷たさは、これまで体感してきたどんな冷たさとも異なっていた。

「この冷たさを、天才はどう表現するのだろう?」 

先ほどの問いに対する答えが、直に触れた両手のひらから伝わってきた。

触れた誰をも氷漬けにしてしまいそうなその冷たさを表現するとき、
天才に限らず、人は誰しも、「絶望」という二文字を口にすることだろう。

 

 

918 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:07:31.16 ID: ZC1hkslO0
 
ξ#゚听)ξ「ねぇ……ブーン? ちょっと! 聞いてんの!?」

(; ^ω^)「……お?」

パンと頭をはたかれた。
何事かと思いまぶたを開けると、そこには頬を膨らませたツンデレが立っていた、

慌てて周囲を確認する。僕は、木の幹に背をもたれて寝ころんでいた。
見上げれば、高い枝葉の上には赤い木の実が生っていた。

あたりには、日の光を浴びて色彩を取り戻している荒野。
赤い大地も、永久凍土も、砂の大地も、氷の地面も、どこにも存在しなかった。

ξ#゚听)ξ「聞いてんのって聞いてんでしょうが! この馬鹿タレ!」

(; ^ω^)「あいたっ! ……何するんだお?」

周囲にきょろきょろと視線を走らせていた僕に、芯だけを残した赤い木の実が投げつけられた。
再びツンデレへ視線を移せば、両手いっぱいに木の実を抱えた彼女が、地面にそれらを置いている最中であった。

それから彼女は二つ、木の実を拾い上げると、その片方を僕に向かって投げ渡す。

 

 

923 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:09:04.44 ID: ZC1hkslO0

ξ゚听)ξ「食べられるときに食べておくのが旅の鉄則なんでしょ? ほら、もっと食べなさいよ」

( ^ω^)「おお、こりゃすまんお」

手渡された赤い実を口にする。シャリシャリと、耳にするだけで涎が垂れてきそうな音がした。

また、ツンデレを見る。彼女はリスのように口を尖らせると、
芯だけを残しあっという間に木の実を一つ平らげてしまった。その様子がおかしくて、僕は笑う。

( ^ω^)「おっおっお」

ξ;゚听)ξ「ちょ、な、なに笑ってんのよ!」

再び、芯だけの木の実が投げつけられた。今度の僕は右手でそれを受けとめて、すぐさま彼女に投げ返した。
反撃を予想していなかったらしい彼女は、避けきれず、額でそれを受け、大きく後ろにのけぞった。

 

 

926 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:10:29.17 ID: ZC1hkslO0
 
ξ;゚听)ξ「あいたー……何すんのよ!」

( ^ω^)「おっおっお。お返しだお」

ξ;゚听)ξ「何よ! 大人げないわね!」

( ^ω^)「お前も十分大人げないお」

僕の返しにぐうの音の出ないのか、それからしばらくむすりと黙り込んだツンデレ。
間を置いた彼女は突然駆けだすと、僕の傍らを通り過ぎ、木の幹につかまり、スルスルとその上へ昇り始める。

猿のごとく木を登っていった彼女がドクオのように、
枝に跨ってこちらを見下ろすその無邪気さがギコやしぃちゃんのように思えた。

そう言えば、二人も今ではツンデレと同じくらいの歳になっているなぁ、
出来ることなら、許されることなら、大人になった彼らに会いたいなぁと、
そんなことを考えながらツンデレを見上げていた僕。

そこに、木の枝に跨っていたツンデレから、赤い木の実が無数に投げ落とされてきた。

 

 

932 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:11:47.47 ID: ZC1hkslO0
 
ξ゚ー゚)ξ「ほれほれ〜! 避けてみなさいよ〜!」

(; ^ω^)「ちょwwwおまwwwwそりゃ卑怯……ってあべし!」

降り注ぐ木の実。しばらくは避けることが出来ていたが、
ついに一つの赤い実が額に直撃し、僕は仰向けに地面へと倒れこんでしまう。

それが、なぜだか心地よかった。
大の字に体を広げ、温かな地面に背を預ける。目を閉じ、五感で世界を感じる。

鳥のさえずり。木々のざわめき。鼻孔を刺激する草いきれと土の香り。
閉じたまぶたの裏まで赤く染める木漏れ日。頬を撫でる風の感触。額に残るかすかな痛み。

ゆっくり、まぶたを開く。

大地から見上げる形の僕の視線の先には、木々の枝葉と赤い木の実、こぼれる木漏れ日、
そして、それらを背に預け、木の枝に跨り、笑いながらわずかに首を傾げ、こちらを見下ろすツンデレの姿。

ξ゚ー゚)ξ「ねぇ、ブーン? あなたはいったい、どこまで歩くの?」

そして、同じ言葉。

 

 

940 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:13:41.43 ID: ZC1hkslO0
 
ああ、内藤ホライゾン。
これを見てもまだ君は、世界を認めるわけにはいかないと言うのかい?

きらめく木漏れ日の下、無邪気に笑うツンデレを見て、
それでもこれは望んだ別の未来ではないと切り捨ててしまうのかい?

では、君の望んだ別の未来とはいったいなんだったんだい?

いや、わかってる。君は、ツンデレと恋仲になりたかったのだろう?

僕が彼女に感じているような娘に対する情愛ではなく、
彼女に、初めて恋したツンとの青い春の夢を描きたかったのだろう?

でも多分、理性の塊である君には、それさえも認めるわけにはいかなかった。
だから、君はあの日、君の胸の中で泣きじゃくるツンデレを前に、この世界から身を引いたんだろう。
そしてその未来を、眠り続ける夢の中で見ようとしたのだろう。

でも、違うよ。確かに、君の望んだ未来はこの世界になど存在しない。
けれど、天才の君でも想像のつかない未来の先に、これも悪くないと、今の僕のようにそう思えるものが確実に眠っているんだ。

だから、いつか君を覆う氷が溶け、君が僕と同じように世界を認められるその日まで、僕は歩こう。
老い始めたこの身は、そう長くはない。だから、千年先までこの身を保てる場所へと、僕は歩こう。

いつか再び僕たちが一つに戻れるその日まで、千年前と今を繋げながら、僕はこれからを歩こう。

 

 

943 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:14:23.75 ID: ZC1hkslO0

大の字のままツンデレを見上げる。
枝に跨った彼女は、足をブラブラとさせ、瞳をらんらんと輝かせながら答えを待っている。

はしたないその仕草に苦笑してしまったのは、やっぱり僕が年老いたからだろう。

( ^ω^)「そうだおねぇ……」

ξ゚ー゚)ξ「うんうん!」

僕は腰のナイフを引き抜き、いつかの旅の始まりのようにその黒い切っ先を天に向け、言った。

( ^ω^)「僕はきっと……死ぬまで歩くんだお」

 

 

944 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:15:07.73 ID: ZC1hkslO0
 
ξ゚听)ξ「……どゆこと?」

見上げる枝の上、ツンデレの首がもう一度傾げられた。
僕は手にした切っ先をわずかにスライドさせる。

それは、延長線上に彼女の足元、纏うマントの隙間を捉える。

その奥に見えていた上半身の肌と、
この位置関係でしか決して見ることのできない布を見据え、僕は言う。

( ^ω^)「ツンデレ」

ξ゚听)ξ「ん? なぁに?」

( ^ω^)「下着、見えてるお」

 

 

953 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:17:02.06 ID: ZC1hkslO0
 
ξ;゚听)ξ「!?」

慌ててマントの裾を両手で押さえたツンデレ。
そのせいかバランスを崩し、彼女の体は枝の上でグラグラと揺れる。

僕は地面から跳ね起き、まだまだ歩けそうなこの身の動きを確かめた。
そして、再び彼女を見上げる。

ξ;゚听)ξ「ちょっと! 変なこと言うな、このエロじじい! おかげで落っこちそうになったじゃない!」

( ^ω^)「おっおっお。馬鹿言うなお。猿が木から落ちるなんて、そうそうあることじゃないお」

ξ#゚听)ξ「なんですって!?」

そう言って、枝の上から思いっきり木の実を投げつけてきた猿。
それを受け止め投げ返せば、再び額でそれを受け止めた彼女がバランスを崩し、しかしすぐに体勢を立て直す。

やっぱり猿だな、ドクオみたいだなと、僕は笑いながら彼女に声をかける。

( ^ω^)「馬鹿なことやってないで、もう少し木の実を取ってくるお。干して保存食にするから」

 

 

956 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:18:32.95 ID: ZC1hkslO0

ξ#゚听)ξ「はいはい! わかりました!」

僕には敵わないと観念したのか、
怒りながらも素直に立木のさらに上まで木の実を取りに登った彼女。
またしても下着が見えている体勢の彼女に、僕は言う。

( ^ω^)「ただし、生っている半分は残しておくんだお」

ξ゚听)ξ「え? なんで?」

( ^ω^)「だって……ほら」

見下ろしてきたツンデレにもわかるよう、僕は指差す。
その先には、木の実をついばもうと羽を広げ降り立ってきた小鳥たちの姿。

( ^ω^)「僕たちだけで食べつくすのは、ちょっと申し訳ないお」

 

 

963 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:20:10.55 ID: ZC1hkslO0

ξ゚ー゚)ξ「……それもそうね」

( ^ω^)「だお」

木の枝にぶら下がりながら小鳥たちを眺め、声を落としたツンデレ。
それから、枝を軸にくるりと回転して、軽業師も顔負けの動きでその上にひょいと立つ。
両手を広げバランスを保ち、僕を見下ろし得意げに笑うそんな彼女に向け、なんとなしに尋ねてみた。

( ^ω^)「ツンデレ。君はどこまで歩きたいのかお?」

ξ゚听)ξ「え? ん〜、そうねぇ……」

ひょいひょいと手にとっては、彼女は木の実を僕へと落とす。落ちてきた木の実を、僕はひょいひょいと受け止める。

それからしばらくその作業を続けた後、枝の上から地面へひょいと飛び降りた彼女は、
結構な高さだったというのに顔色一つ変えず僕の前へと歩み寄り、パンパンとマントの埃をはらって、言った。

ξ゚ー゚)ξ「あたし、ブーンが生まれた所に行ってみたい!」

 

 

967 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:21:36.52 ID: ZC1hkslO0
 
( ^ω^)「……おっおっお。おっおっおwwwwwwwwww」

可笑しかった。まさか僕の歩く目的地を、
別の口から、それもツンデレの口から聞くことになるとは思わなかったからだ。

面白い。この世界は本当に面白い。

辛いことばかりだったけど、めまいを覚えることばかりだったけど、
こういう出来事が不意に起こりうるから、僕はこれまで歩き続けられたのだろう。
これからも歩き続けられるのだろう。

ξ;゚听)ξ「え? 何? なんで笑うの? ねぇ? ちょっと!」

( ^ω^)「おっおっお。いや、すまんお。特に意味はないんだお」

ξ#゚听)ξ「な、なによそれ! 腹立つわ〜!」

僕の笑いにどぎまぎしていたツンデレは、
僕の返答を聞くや否や、肩をいからせながら木の実を干す作業に入り始めた。

彼女が怒るのももっともだけれど、またそれが可笑しくて笑いがこぼれそうになり、
彼女から顔を隠そうと、僕は立木から離れた。

 

 

969 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:22:19.94 ID: ZC1hkslO0

木陰から出て、大地の真ん中に立ち、あたりを見渡す。

どこまでも続く青空。どこまでも続く荒野。
そこにぽつりと立った一本の実の生る木。
創世記として描かれた楽園とよく似た場所。

楽園を追放された二人は、それからどこまで歩いたのだろうか?

( ^ω^)「愚問だお。きっと彼らも、歩く道の途中でそれを決めたんだお」

心の中の問いかけに自分で答え、足もとに広がる大地を踏みしめ、
僕はそっと、まぶたを閉じた。

 

 

973 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 20:23:18.33 ID: ZC1hkslO0
 
彼の望まなかった千年後の世界。
その上を、僕は歩こう。

薄紅色の、薄桃色の季節を歩こう。
眩いばかりの緑の道の季節を歩こう。
白いがゆえに、白さ際立つ季節を歩こう。

知りゆく僕。逆らえず僕。

――永久に、歩こう。

 

 

 

 

 

エピローグ ― 了 ―

 

 

 

 

 

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