262 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:07:41.81 ID: ZC1hkslO0

― 13 ―

覚悟した衝撃とは程遠い手ごたえのなさで、扉は開いた。どうやら鍵は掛けられていなかったらしい。
余った勢いをそのままにゴロゴロと床を転がり続けた僕は、体の節々に痛みを覚えながらもバッと立ち上がる。

見えたのは扉。扉の先に扉があるのか? 
いや、違う。あれは僕が飛び込んできた扉。つまり僕は今、進行方向の逆を向いているのだ。

そう気づいた直後、慌てて僕は振り返る。瞬間に流れていく風景は、メッカで見た大聖堂と全く同じだった。

僕が転がってきたのは聖堂の中心に設えられた通路。その左右を信者たちが座るべき腰かけたちが挟んでいる。

 

 

266 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:09:26.24 ID: ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「よう。待ってたぜ」

そして振り返った先には、教父たちがたたずむべき祭壇。その上に、ジョルジュが行儀悪く腰かけていた。

彼のすぐ傍、祭壇に最も近い腰掛けの上にはツンデレ。突然の乱入者である僕に驚いているのだろう。
顔を布で覆っているにもかかわらず彼女が眼を見開いているのが、遠目にもすぐにわかった。

立ち尽くしたまま呆然と僕の姿を眺めている彼女を一瞥したのち、こちらに視線を移したジョルジュは、笑っていた。
  _
( ゚∀゚)「ツンデレを奪いに来る『誰か』とやら。そいつはやっぱりあんただったか。
     ま、なんとなくそんな予感はしてたぜ。今朝、あんたの言葉を聞いた時からな」

そう言って、ひょいと壇上から飛び上がったジョルジュ。音もなく軽やかに。

床、聖堂内部を縦断する通路の上、つまり僕の正面へと降り立った彼は、ケラケラと笑いながら矢継ぎ早に声を連ねる。

 

 

268 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:11:22.22 ID: ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「ひゃひゃひゃ! だったらもっと早くあんたから話を聞くべきだったんだろーが、
    まあ、あれだ、余興みたいなもんさ。オワタたちを振り切る力もねーのに、
    花嫁を奪うなんて抜かす口だけヤローの話なんざ、聞く価値もねーからな」

( ^ω^)「……」
  _
( ゚∀゚)「ひゃひゃひゃ! そうムッとすんなって! 
    俺はあんたのこと、そんなヘタレだと思っちゃいねーからよ!
    あんたならここに来れるだろうと思ってたし、実際あんたはこうやってここに来たんだ。
    それでいいじゃねーか。なあ、おい?」

そこまで言って、突如雰囲気を変えたジョルジュ。
彼の背から発せられたのは身の毛もよだつほどの殺気。眼光にはジャンビーヤの鋭さ。

しかし今の僕は、その雰囲気に飲まれることも、縛りつけられ動けなくなることもなかった。

臨戦態勢は整えているし、気も張っている。久方ぶりの実戦も経験してきたし、血の匂いも思い出している。
ジョルジュから押し寄せてくる威圧感に多少の負荷は感じるものの、動くに支障は何もない。

 

 

269 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:12:56.98 ID: ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「……そんじゃ、聞くぜ? なんでツンデレを奪いに来た?」

ジョルジュの声が屋内に反響する。
発せられる彼の声一音一音に、腹の底を揺さぶるような重い響きが込められていた。

背中にじんわりと汗がにじんでくる。
下腹に力を込め、声の響き、それに乗ってくるジョルジュの迫力に耐え、僕は答える。

( ^ω^)「……奪いに来たわけじゃないお」
  _
( ゚∀゚)「ああん? そんじゃ、なにしに来たんだ?」

( ^ω^)「ツンデレに、道を与えに来たんだお」
  _
( ゚∀゚)「道?」

( ^ω^)「そうだお。お前にもだお、ジョルジュ」

 

 

271 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:14:14.34 ID: ZC1hkslO0

訝しげな色をたたえたまま、瞳に僕の顔を捉えて離さないジョルジュ。

ちらりとツンデレへ視線を外せば、相変わらず彼女は何が起こっているのかわかっていないようで、
ただ切れ長の眼を見開いたまま。
  _
( ゚∀゚)「……解せねーな。大体何なんだ? その……道ってのはよ?」

( ^ω^)「選択肢のことだお」
  _
( ゚∀゚)「選択肢ぃ? ……まあいい。詳しく聞こーか」

ジョルジュの、彼だけでなくツンデレの、合わせて四つの視線が僕に注がれる。
それに気押されたわけでないが、僕はあえて彼らのまなざしから目を外し、天井を見上げた。

 

 

275 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:17:31.77 ID: ZC1hkslO0

メッカ大聖堂ほどではないだろうが、建てられて相当の年月が経っているらしいこの建物。
目についた天井のほころびからは、メッカ大聖堂と同じように空の色が見えた。

ちょうどそのほころびは、今の時間帯の太陽の位置にある。
しかし、日の光は差し込まない。雲にでも隠れているのだろうか。

( ^ω^)「伝統って言うのは恐ろしいもんだおね。それにどっぷり浸って育った人間は、
     それが正しいのだとか間違っているのだという認識すらなく、
     疑うことなくその伝統に従ってしまうもんだお。別にそれを否定するつもりはないお。
     多くの人間に疑いの余地すら与えない伝統っていうのは、
     それだけで十分に正しい存在なんだと思うお」

 

 

280 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:18:53.19 ID: ZC1hkslO0
 
天井の向こうに空を捉えたまま、呟く。いや、そうじゃない。口が勝手に呟いていく。
それは本当に小さな呟きで、けれども建物内に反響して、確かに祭壇の二人にも届いているはずだ。

( ^ω^)「伝統に何の疑いも覚えない人間は幸せだお。そんな彼らに別の道を与えるなんてのは愚行だお。
      でも稀に、その伝統に疑いを持つもの者が現れるお。
      『伝統は本当に正しいのだろうか?』『伝統に従えば本当に幸せになれるのだろうか?』
      そんな疑いを持ってしまった人間には、どうしても別の道が必要になるんだお。
      どちらかを選ぶことが必要になるんだお」

勝手に呟いてくれる口。いや、やっぱり僕が動かしているだけなのだろうか。わからない。
それとは裏腹に、天井へ釘付けになった瞳だけは、僕自身がそうやっているのだとハッキリわかる。

体の芯がほのかに熱を帯びていく。それはとても心地よい、冬朝の毛布にも似た暖かさ。

その暖かさの中で、体の芯がぼんやりと曖昧なものに変化していく。意識がどこかへ溶け出していく。
どこへ? 夢の中にか? ならば僕は直ちに目覚めなければならない。眠って良い場合ではないのだ。

けれど、日はまだ差し込まない。

 

 

282 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:20:25.84 ID: ZC1hkslO0

( ^ω^)「そんな人間は、伝統とは別の選択肢との間で、どちらを選び取るか悩まなければならないお。
      そうしなければ、いつか必ず出会う後悔に囚われたまま、よほどのことがない限り前へ進めなくなるお。
      内藤ホライゾンと同じように。死ぬことしか見えなかった、昔の僕と同じように」

視線を天井から正面へ移す。いや、視線が天井から正面へ移った。
ぼんやりとする視界に映ったのは、依然として僕の姿を捉えてやまない四つの瞳。

一方で当の僕はというと、相変わらず夢うつつのまま、意識が溶け出していくのを止められないでいた。

まるで液体のように流れていく意識。その先端に、ふいに別の何かが触れる。

 

 

284 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:21:22.01 ID: ZC1hkslO0

( ^ω^)「同じ状況に立たされた人間が今、僕の目の前にいるお」

別の何か、きっと体の奥底に眠るもう一つの意識だろう、
それが僕の意識の先端に触れ、反発する。溶け合うことを拒むように。

触れたその意識に向けて、心の中で僕は呟く。
怖くなんかない。さあ、こっちに来て、あり得たかも知れない別の未来を君も一緒に見るんだ、と。

まるで水と油のように混じり合わないまま、境界をはっきりとさせたまま、しかし互いは複雑に絡まりあっていく。
対照的に境界が曖昧となってしまった現実では、ジョルジュらしき姿とツンデレらしき姿が二つ、こちらを見つめたまま。

( ^ω^)「ツンデレ、君のことだお。多分……お前もだお、ジョルジュ」

そう僕が呟いた瞬間だった。天井のほころびから、幾筋もの光が差し込んだ。

 

 

286 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:22:56.84 ID: ZC1hkslO0
 
雲に隠れていた太陽が姿を現したのだろう。
それはこれまで見たどんな光景よりまばゆく輝いていた。

無数の光の線はまるで雨のように天井から降り注ぎ、僕を、ジョルジュを、ツンデレを照らしていく。
曖昧だった視界はその光景を前にハッキリとしたものに変わる。

時を同じくして、体の中で絡まりあっていた意識が溶け合い、同質化し、急速に冷えて固まる。
自然と口をついた、僕の一つの呟きとともに。

( ^ω^)「……千年後の世界も、悪くないお」

ピントの合った世界。ピントの合った意識。欠けていた何かがすべて埋まった気がした。
体は牢獄から解き放たれたかのように軽く、奥底からは確固たる自信が湧き上がってくる。

威圧感しか感じられなかった目の前のジョルジュが、今はただの若者にしか感じられない。
さらには、すべてがうまくいくのだとさえ思えてくる。

この自信の正体はいったいなんだ?

申し訳程度にそう考えてはみたものの、正直なところ、僕は自分の変化に戸惑いさえも覚えていない。
むしろ、これまでの僕が異質だったのだと思えていた。僕は今、本来あるべき状態に戻っただけなのだ、と。

そうだ。僕は天才。そうだ。僕の名前は――

 

 

295 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:26:05.90 ID: ZC1hkslO0

\(^o^)/「ジョルジュさN!」

バンと、背後の扉が開く。同時に、オワタの叫び声が屋内に響いた。
首だけを回して見れば、右手に包帯を巻いたオワタを筆頭に、誓いの儀まで同行した面々がワッと屋内になだれ込んできていた。

前方にはジョルジュ。後方にはオワタら。これで完全に逃げ道はなくなった。
しかし、それでも僕は欠片も動揺を覚えない。次に発せられるであろうジョルジュの言葉を容易に予想できたからだ。
  _
( ゚∀゚)「でぇじょうぶだ。お前らは手を出さないでくれ。これは俺とブーンの問題だ」

予想通りの言葉を低く発し、ジョルジュは僕の背後をキッと睨みつける。
それだけで、オワタらの気配は縛りつけられたかのように動かなくなった。続けて、ジョルジュの視線が僕へと向けられる。
「役者はそろった」と言いたげに、一瞬だけ三日月形に歪められたそれは、すぐさまジャンビーヤの刀身の鋭さを帯びる。

その視線を受けた僕は、けれども、先ほどのように動けなくなるということはまったくといってなかった。

 

 

297 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:27:30.72 ID: ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「俺に選択肢がない? 俺が伝統を疑っている? 馬鹿言うなよ。
     俺は選択肢が必要なほど迷っちゃいねーし、何にも疑っちゃいねーよ。
     俺はこの伝統が正しいものだと確信している」

差し込む光の中、祭壇を背にしたジョルジュが声を張り上げる。その顔に笑みはない。
  _
( ゚∀゚)「しかしまあ、あんたの言いたいことはわかった。だが、どーしてもわからねぇことがある。
     ツンデレはあんたにとっちゃ単なる他人だろうが。
     それなのに、どーしてあんたは、こんな危険を冒してまで助けたがる?」

( ^ω^)「そうすることで、これまで与えられてきた道を僕自身のものに出来るから。
      そして、昔の僕と同じ状況にあるお前たちを救って、あり得たかも知れない未来を代わりに見てほしいから。
      ……って言うのは、単なる口実だおね。もちろんそれも理由の一つではあるんだけど」

笑わないジョルジュの問いかけに対し、僕は笑って言葉を返す。

( ^ω^)「一番の理由は、ツンデレがツンに……僕の昔の想い人に似てるから。
      そしてジョルジュ、お前が息子のように思えてならないから。それだけだお」

 

 

301 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:28:59.34 ID: ZC1hkslO0

まっすぐにツンデレを、続けてジョルジュの顔を眺めた。
もはや顔を覆いつくした布だけでは隠しきれないほどに驚いてしまっているツンデレ。

対照的にジョルジュはというと、一瞬だけ片眉をピクリと動かしたものの、それ以外表情に変化は見られない。
  _
( ゚∀゚)「へぇ。あんたにも色々とロマンスがあったんだねぇ。意外だったぜ。
    それにしても、昔の想い人に似た女が歩けなくなるから、ねぇ……。ちょいと女々しすぎやしねーか?」

( ^ω^)「おっおっお。何とでも言えお」

それはジョルジュに対し放った言葉ではない。
かつて僕が分離した二つの意識だった頃の、その片割れだったブーンという意識に対し放った言葉だ。

もっとも、ブーンを含めて今の僕が成り、今の僕は基本的な意識体系をブーンから受け継いでいるようなものだから、
それは僕自身に対し放った言葉も同然なのだが。

( ^ω^)「感情が人の大きな原動力となることもあるんだお。当たり前だからこそ中々気づくことはできないけど。
      これから為政者になるなら、ジョルジュ、お前もよく覚えておくといいお」

 

 

305 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:30:08.01 ID: ZC1hkslO0

千数年前に思ったことを、自分に言い聞かせるようにジョルジュへと語った。

道を与え返すことでそれを真に自分のものにしたいからだとか、
救われなかった昔の自分を救いたいだとか、そう言った理由ももちろんある。

けれど、着飾ることなく本音を語るなら、
「ツンデレがツンに似ている」「ジョルジュが息子のように思えてならない」
僕がこうやっている一番の理由は、きっとそういうことなのだろう。

女々しい感情だって、人の大きな原動力となることもある。

そうだ。これは他ならぬツンが僕に教えてくれたこと。間違っているはずがない。

 

 

308 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:31:48.41 ID: ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「ひゃひゃひゃ! ご忠告、胸にとどめておきますわ!」

そして、語る僕がよほどおかしかったのだろう。
ジョルジュは身をかがめて笑いをあげ、おどけながら返事をする。
その後顔を上げ、目元をぬぐうと、先ほどまでと比べ幾分か柔らかい眼差しで、言った。
  _
( ゚∀゚)「しかし、あんたのロマンスを成就させるわけにはいかねぇ。ツンデレの足は俺が切る」

( ^ω^)「……どうしてもかお?」
  _
( ゚∀゚)「ああ……どうしてもだ!」

キッと、ジョルジュのまなざしに光が走ったような気がした。
数瞬の間も置かず、彼の腰からジャンビーヤが引き抜かれる。

同時に、背後からも殺気を感じる。ちらりと盗み見れば、オワタたち全員がジャンビーヤを抜いていた。

 

 

309 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:33:42.56 ID: ZC1hkslO0
  _
( ゚∀゚)「おめーらは手を出すな! こいつは俺の獲物だ!」

大きく口を開いたジョルジュ。背後から殺気が消える。響く声は続く。
  _
( ゚∀゚)「ブーン、最後に言い残すことはあるか?」

( ^ω^)「おっおっお。もちろんあるお。
      実を言うと、本題を切り出すのをすっかり忘れてたんだお。
      せっかくだから、この場を借りて言わせてもらうお」

ジャンビーヤを構えるジョルジュ。
丸腰のままの僕は、祭壇を背にした彼の隣、腰掛けの傍で立ち尽くすだけのツンデレへと語りかける。

( ^ω^)「ツンデレ。僕が君に道をあげるお。君が歩きたいと望むなら、僕がこの場から連れ出してあげるお。
      このまま足を切られるか、それともサナアを出て歩き始めるか。君の好きな方を選ぶといいお。
      もちろん、すぐに決められないことはわかってるお。だから多くはないけど、そのための時間を今から稼ぐお」

 

 

313 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:35:38.25 ID: ZC1hkslO0

(; ゚ ゚)「バ、バカじゃないの!?」

そう言ってナイフを引き抜こうとした直後、ツンデレの悲鳴にも似た大声が屋内に響き渡った。

視線は思わず彼女の方へと移ってしまう。
視界の端に映った、ジャンビーヤを構えているジョルジュもまた、
姿勢はそのままで、けれど眼だけは彼女の方を向いている。おそらく、僕の背後のオワタたちも。

屋内の全員が注視しているだろう中で、差し込む日の光を浴びたツンデレは、肩を震わせながら僕に向け叫ぶ。

(; ゚ ゚)「な、なにが昔の想い人に似てるからよ! あたしはその人なんかじゃないわ! 人違いもいいところよ!
     だ、大体、誰が助けてって頼んだのよ! あたしがあんたに助けてもらう筋合いなんかどこにもないのよ! 
     それに、あ、あたしはもう覚悟を決めてるの! バカにするんじゃないわよ!」

( ^ω^)「自惚れるんじゃないお。僕はお前を救うためだけに動いてるんじゃないお。
      僕は僕自身のためにも動いているんだお。そこんとこ、勘違いするんじゃないお」

低い声で、即座に言葉を返した。
少しばかり狼狽したそぶりを見せたツンデレは、しばらく肩を震わせたままうつむいて、それでも気丈に続ける。

 

 

319 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:37:39.00 ID: ZC1hkslO0
 
(; ゚ ゚)「カ、カッコつけてるんじゃないわよ! 
    第一、あんたなんかがジョルジュに勝てるわけないでしょ!」

ふり絞るように声をあげた彼女。布に覆われた顔が再びこちらへと向く。
日差しの下、ハッキリと見えた。彼女は泣いている。

(  ; ;)「な、なにが道をあげるよ! あんたなんかに道が作れるわけ無い! 
     あたしが歩ける道なんて、もうどこにも有りはしないのよ!!」

声は嗚咽に近かった。ああ、千年前と全く逆だなと思う。
深い地下施設への門の前。あの時は僕が嗚咽に近い声を出していて、ツンが優しく声をかけてくれたっけ。

それならば、千年の時を経て立場が逆転した今、僕は彼女にどんな言葉をかける?

――決まってる。全く同じ言葉だ。

( ^ω^)「そのくらい僕が作るお。僕を誰だと思ってるんだお?
      世界に名をとどろかせた天才、内藤ホライゾン博士だお」

 

 

325 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/03/19(水) 16:40:25.03 ID: ZC1hkslO0
 
ナイフを引き抜く。黒い刀身を前面に構える。
黒の先ではツンデレが「わけがわからない」と言いたげに涙目を瞬かせていて、
その隣ではジョルジュが訝しげなまなざしを僕に向けている。

天井から降り注ぐのは、帯状に連なる光のカーテン。
認めたくないほどに美しい千年後の世界へ、僕は叫ぶ。

( ゚ω゚)「ツンデレ! 好きな方を選べお! どちらでもいいんだお! 本当にお前の進みたい道を選ぶんだお!
     何度も言うお! お前の考える『歩く』ということは幻想だお! 歩くことに楽しいことなんかほとんど無いんだお! 
     この町に留まった方が絶対に幸せになれるお! ジョルジュなら必ずお前を幸せにしてくれるお!」

かつてないほどに声高に叫んでも、もう視界はくらまない。
当たり前だ。今の僕には、欠けているものなど何も無いのだから。

ゆがみなどまったくない視界の中、自分の名前が叫ばれたのに呼応して、ジョルジュの腰が深く下がる。
まなざしにはあの時、メッカ大聖堂で相対した際の、相手を絶望に追いやるほどの鋭い刃が宿っている。

( ゚ω゚)「でも! ジョルジュを捨ててでも、家族を捨ててでも、生まれ故郷のサナアを捨てでも!
     それでもお前が歩きたいと言うなら、僕がお前の道を切り開いてやるお! さあ来い! ジョルジュ!」

 

 

 

 

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