24 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:18:44.16 ID: WaijMdiZ0

― 6 ―

「ありゃ? なんでここに人がいんの? ここって誰も住んでないんじゃねーの?」

心地よい眠りを堪能していた僕。それは唐突に終わりを告げた。

夢うつつの頭に聞こえてくる誰かの声。僕以外の声。
誰もいない大聖堂に響くはずのないその声を耳にして、気のせいかと思いなおし、もう一度眠りに落ちようとした。

「なんだこいつ? 乞食か? おい、乞食! 無視してんじゃーねよ!」

しかし声は途切れることなく続く。妙にリアルな気のせいだなと思いつつ、
けれど旅に疲れ切っていた僕の体は、眠りの心地よさに起き上がるどころか目を開けようとさえしない。

「こら! 無視すんな! 起きろって言ってんだよ! おらっ!」

(;メ゚ω゚)「おぅふ!」

だが、脇腹に走った強烈な痛みを受けて、かたくなに眠り続けようとしていた僕の体は反射的に飛び上がってしまう。

 

 

27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:21:13.34 ID: WaijMdiZ0
  _
( ゚∀゚)「ったくよー。こんなとこで寝ちゃダミだよー?
    寝る時はちゃんと布団の中にしなさいって、おっかさんに習わなかったかい? 乞食さんよー」

(;メ^ω^)「あ……え? お? は?」

脇腹の痛みに脂汗をかきつつ慌ててあたりを見渡せば、
そこは先ほどの大聖堂に違いなく、けれど僕の目の前には人がいた。

三人。いずれも白と肌色という淡い色を基調とした、ゆったりとしたマントで全身を包んでおり、
頭にはターバンを巻いている。
 
浅黒い中東系の肌の色をした彼ら。僕に声をかけているのは、
背中に二人の中年を引き連れ、その先頭に堂々と立ち僕を見下ろしている十代後半と思しき青年。
身長は僕よりわずかに低く、一六〇cm半ばといったところか。

端正な顔立ちにキリリと凛々しい黒眉が特徴的なその青年は、
後ろの中年二人と何やら話をすると、もう一度僕へふり返り、言った。
  _
( ゚∀゚)「お休み中のところわりーがよ、ちょっと席をはずしてくんねーか? 
    ちょいとここでやることがあってよー。素直に従ってくれりゃ何もしねー。
    俺だって儀式の前に手を血で汚したくねーんだよ。悪いが、頼むわ。な?」

 

 

30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:23:36.48 ID: WaijMdiZ0

(;メ^ω^)「お、おお……」
  _
( ゚∀゚)「いやー、すまんねー」

決して丁寧な口調とはいえないが、その割に不快感を覚えさせない彼の言葉。

寝起きの鈍い頭も手伝ってか、自分でもよくわからないままに立ちあがり、
素直に彼の言葉に従って大聖堂の出口へと向かった僕。

(;メ^ω^)「……えっと、儀式? 何だそれ? そもそもなんで人がいるんだお?」

そして出口に差し掛かってようやく、僕はまっさきに考えるべき疑問に思い至る。

それから慌てて出口の壁に身を隠し、そこからわずかに顔を出した僕は、
彼らの様子を観察することにした。

 

 

32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:25:48.03 ID: WaijMdiZ0

大聖堂の中にいるのは、やっぱり三人の中東系の服装をした男たち。

何やら大きな袋を肩に担いだ先ほどの青年を先頭に、
腰掛けの真ん中に設えられた通路の上を歩きはじめた彼らは、
祭壇の前で立ち止まると、肩膝を立てて腰を下ろし、
まるで女王に謁見するかのように礼をして、しばらく動かなくなった。

それから、先頭の青年が荷物を抱えて立ち上がる。
他より高くなっている祭壇へと昇り、彼はその上に抱えていた荷物を広げた。
ジャラジャラと、金属と金属がぶつかるような音が聖堂内に響き渡る。

( メ^ω^)「……金属? ナイフかお?」

祭壇の卓上には、おそらくはナイフ、
少なくとも金属製に違いない物質が数多く袋とともに広げられたらしい。

青年はその後またひざまずいて礼をすると、立ち上がり、
広げられた卓上の物質からその一つを手に取り、天高く掲げた。

 

 

34 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:26:31.19 ID: WaijMdiZ0

( メ^ω^)「……やっぱりナイフだお」

青年が手に掲げたのは、銀一色に輝く一本のナイフであった。
どうやら卓上に広げられたのは、同様の色形をした何本ものナイフらしい。

それから――
  _
( ゚∀゚)「おいしょーっ!」

――なんだか間の抜けた掛け声をあげると、
青年は手にしたナイフを天井に向けて放り投げたではないか。

 

 

35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:28:17.77 ID: WaijMdiZ0

くるくると回りながら、天井すれすれまで高く昇ったそのナイフ。
やがてその勢いはなくなり、回転も止まり、音もなく静かに、一瞬だけ中空で静止した。

そして、落ちていく。切っ先を下に向け、一直線に青年の頭上を目指し、勢いを増しながら落ちていく。

(;メ^ω^)「何やってんだおあいつ……このままじゃ串刺しだお……」

けれど当の青年はというと、頭上から危険が迫っているというのにうつむいたまま、頭を一向に上げようとしない。
その間にも空中のナイフは、位置エネルギーを消費しながら、青年へ向け確実にその切っ先を落としていく。

ナイフの落下の軌跡が、一本の銀色の線となって天井から青年へと伸びていく。
そして、青年の頭上へと到達したナイフ。

(;メ^ω^)「あ、あぶなっ……!」

 

 

40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:29:42.60 ID: WaijMdiZ0
  _
( ゚∀゚)「そいやっ!」

しかしその切っ先は、青年の頭頂すれすれで停止していた。

彼はうつむいたまま、またしてもヘンテコな掛け声をあげ、
けれどその声からは考えられないような絶妙なタイミングで落ちてくるナイフの柄をつかんでいたのだ。

(;メ^ω^)「おー……すげーお……」

それは誰もが感嘆のため息を漏らしてしまうほどに素晴らしい挙動だった。
僕もその例に漏れず感嘆の声を上げる。

それで儀式とやらは終了したのだろう。

青年は掴んだナイフを祭壇上の鞘に戻し腰にはさむと、
すべてのナイフを袋に戻し、振り返って大きく背伸びをした。

 

 

42 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:32:12.87 ID: WaijMdiZ0
  _
( ゚∀゚)「やーれやれ。たったこれだけのために俺は一ヶ月近くかけてアシールを登ってきたのかよ?
    別に儀式そのものを否定するつもりはねーが、なーんか割に合わないような気もするなー」

壇上から下った青年。彼はひざまづいていた従者らしき二人の中年に大声で文句を垂れると、
柔軟体操のようなものをしながら、彼らのとがめる言葉も聞かず、ベラベラと一人まくし立てはじめた。

僕は出口の壁から顔をのぞかせるのを止め、しかし壁には身を隠したまま、その言葉を盗み聞きする。
  _
( ゚∀゚)「ひゃひゃひゃ! 頭では理解してんだよ! この儀式の重要性はさ!
    たださー、結構きつい旅をしてきたんだし、今は感覚的にちょっとなーって思っちゃうんだよ」
  _
(# ゚∀゚)「……なあ? そこのおっさんよ!」

(;メ^ω^)「!?」

中から響いてきた怒鳴り声。

そして気づけば、先ほどまで僕がわずかに顔をのぞかせていた場所の間近、
つまり僕が数十秒前まで顔を出していたすぐそばの壁の表面に、銀色のナイフが深々と突き刺さっていた。

 

 

44 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:33:37.21 ID: WaijMdiZ0

(;メ^ω^)「……」

壁に突き刺さったナイフ。
僕があと数十秒そこから顔をのぞかせ続けていれば、それは僕の頬骨を確実にえぐっていた。

恐ろしい想像に嫌な汗が全身から噴き出す。
続けざまに青年の声が響いてくる。
  _
( ゚∀゚)「出て来いよ。別に怒っちゃいねーし、殺すなんてこたーしねーからよ」

(;メ^ω^)「……」

その声を耳にして、身を壁裏に隠したまま僕は考える。

どうする? 出ていくか? 

 

 

47 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:37:00.12 ID: WaijMdiZ0

とりあえず、今かけられた相手の言葉からは敵意は感じられない。
壁に突き刺さったナイフも、本気で僕を狙って放たれたものではなさそうだ。

しかし、万が一という場合もある。もはや習い性となってしまった最悪の事態の想定をする。

残りの銃弾は一発。にもかかわらず相手の人数は三。
銃で撃退できるのは一人。こちらの主要武器は必然的にナイフとなってしまう。

( メ^ω^)「でも……」

僕を脅すため、あえて間近の壁を狙って投げられたであろう突き刺さったナイフ。
これを見るからに、相手のナイフ捌きは僕のそれをはるかに上回っていることは明白だ。

人数的にも実力的にも、ナイフ対ナイフの近接戦ならばまずこちらに勝ち目はない。
銃を使っても勝つか負けるかは良くて五分五分。それならば、素直に相手の言葉に従った方が幾分も利口か。

(;メ^ω^)「……ええい! ままよだお!」

一応、懐の銃のセーフティを外す。そして両手を上にあげると、僕は意を決して、彼らの前に姿を現した。

 

49 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:39:20.49 ID: WaijMdiZ0
  _
( ゚∀゚)「よーし、聞きわけのいい奴は嫌いじゃないぜ? ひゃひゃひゃ! そんなに緊張すんなって!」

(;メ^ω^)「……」

聖堂の出口から姿を現わせば、祭壇を背にし、青年を筆頭にした彼らがこちらに歩いてくるのが目に入った。
背中に中年二人を引き連れている青年。うすら笑いを浮かべた彼は、年齢からは考えられないほどの風格を持っている。

彼は僕の目の前まで歩いてくると、壁に突き刺さったままのナイフを抜き、マントを翻し腰につけていた鞘へと仕舞う。

同時に、彼の後ろから飛び出してきた従者らしき二人の中年が、僕の体を押さえつけにかかる。
彼らに両腕を後ろ手に組まされ、拘束された僕。自由を奪われた僕の顔をまじまじと見つめ、青年は言う。
  _
( ゚∀゚)「うーん……よく見るとおめー、なんか乞食って感じの顔じゃねーな。身なりは乞食そのものだけど。
    そーいや、乞食だったらこんな辺境の地にくるわきゃねーか! ひゃひゃひゃ! すまんすまん!」

(;メ^ω^)「……」
  _
( ゚∀゚)「となると……旅人か。うん、旅人だろ、あんた?」

 

51 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:42:33.95 ID: WaijMdiZ0

(;メ^ω^)「……」
  _
( ゚∀゚)「ひゃひゃひゃ! だから緊張すんなって! 殺しゃしねーよ」

それから僕は、グイッっと、アゴ下を青年に持ち上げられた。
同時に、青年の顔からはうすら笑いが消えていた。

続けて、至近距離で彼に顔をねめつけられる。
まっすぐに見つめてくる青年の瞳の中に、僕の顔が映る。
  _
( ゚∀゚)「……いい面構えだ。修羅場をくぐってきた男の顔って感じだな。
    どことなく知性の片りんも感じられる。……おめー、どこから来た?」

 

 

54 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:43:11.81 ID: WaijMdiZ0

(;メ^ω^)「……」

その質問を前に、僕は口どもる。僕の素姓を言うわけにはいかない。
言えばきっと、いつか、あの夜の悪夢が再び起こる。あんな夜など二度とごめんだ。

けれど、うまく場を濁せそうな答えも思いつかない。
結果、僕は黙ることしか出来なくなる。
  _
( ゚∀゚)「……」

(;メ^ω^)「……」

長いような、短いような沈黙。
その間、終始厳しい表情で僕の様子を観察していた青年は、ふっと表情緩めると、笑った。

 

 

56 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:44:46.40 ID: WaijMdiZ0
  _
( ゚∀゚)「ひゃひゃひゃ! 答えたくねーってか? 別にいいけどよ。
    おい、おめーら。こいつを放してやんな」

(;メ^ω^)「……お?」

「若様!」「しかし……」と、僕の背中から中年二人の声がした。
けれど青年がもう一度命令を下せば、彼らはしぶしぶ、後ろ手に拘束した僕の両腕から手を放す。

(;メ^ω^)「??」

自由の戻った両腕をブラブラとほぐしながら改めて青年へと振り返ると、なんと彼は、
何を思ったのかその場に腰を下ろしており、そして僕にも同じように座れと命令し始める。
  _
( ゚∀゚)ノ「でーじょうぶ。何もしねーって。いいから座んなって」

(;メ^ω^)「お……おお?」

なんだろう? 青年の狙いがさっぱりわからない。ペースを完全に握られてしまっている。
とりあえず、素直に座ってみた。というか、頭の中がこんがらがって座ることしか出来なかった。

 

 

63 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:47:31.20 ID: WaijMdiZ0
  _
( ゚∀゚)「うーし。水だ。おめーら、俺とこいつの分の水を用意しろ」

(;メ^ω^)「??」

僕が座ったことを確認すると、今度は従者二人に水を用意するよう命令した青年。

なんで水を用意する必要がある? 
頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされる。もう何が何だかさっぱりわからない。

その間に、水で満たされたカップが、対面する形で聖堂の出口に腰を下ろしていた僕と青年の間に置かれる。
青年はそのカップに一つ口をつけると、僕にも飲むように促す。

 

 

64 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:48:43.35 ID: WaijMdiZ0

(;メ^ω^)「……えっと」
  _
( ゚∀゚)ノシ「ほら! でーじょーぶだって! 毒なんか入ってねーからよ! ひゃひゃひゃ!」

(;メ^ω^)「お……おお。じゃあ……」

見事一発で僕の心配ごとを当てて見せた彼は、
僕のカップにも口をつけて、大丈夫だと言わんばかりに笑った。

どうやら本当に毒は入っていないらしい。

そして僕は、物凄くのどが乾いていた。この場は相手の言葉に甘え、水を一気飲みすることにした。

 

68 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:50:58.95 ID: WaijMdiZ0
  _
( ゚∀゚)「ひゃひゃひゃ! いい飲みっぷりだ! うめーだろ?」

(;メ^ω^)「お、おお。うまいお」
  _
( ゚∀゚)「うんうん。そーだろそーだろ。
    んじゃ、その水の代金をとして、俺の質問に答えていただきますか」

(;メ^ω^)「……」

参った。そうきたか。
形式的にはこれで、僕に彼からの質問をはねつける権利はなくなってしまった。

うまいもんだ。完全に主導権を握られてしまっている。これはもう取り戻せそうもない。
若いのに大した男だと感心しつつ、これから発せられるであろう質問を前に、僕の身は硬くなる。

そして青年は座ったままにやりと口の端を釣り上げると、余裕たっぷりの表情で言い放った。

 

 

70 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:53:02.72 ID: WaijMdiZ0
  _
( ゚∀゚)「あんなー、俺らがここに来たのはさっきの儀式をするためなんだよ。見てただろ?」

(;メ^ω^)「……お。見てたお」
  _
( ゚∀゚)「うん。あれな、俺らの民族の成人の儀式の前準備なんだよ。これこれ。このナイフ」

なんだか緊張感に欠けた声でそう言うと、腰から先ほどのナイフを鞘ごと取り出し僕の前へ掲げた青年。
別に見ても怒られそうになかったので、じっくりとそれを観察してみた。

ナイフは素材の色であろう銀色を基本色としており、鞘、柄、その両方に煌びやかな装飾が施されている。
それを見て、儀礼的用途のナイフなのだろうかと印象を受けた僕。しかしその印象はすぐさま覆される。

青年が目の前で鞘を抜いてくれた。その刀身はどう見ても儀礼用のそれとは違っていた。

大きく三日月形に湾曲した刀身。そこにはアラビア文字と思しき刻印がなされてはいたが、キレ味は存分にありそうだった。
考えてみればこのナイフは聖堂の壁に突き刺さったのだ。キレ味鋭いどころの騒ぎではないか。

柄や鞘の装飾という儀礼的な要素を持ちながら、十二分に実用性も兼ね備えている。
なんと不思議なナイフだろう。機能美と装飾美の両方を兼ね備えたそれに、思わず僕は見惚れてしまった。

 

 

72 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:55:56.90 ID: WaijMdiZ0
  _
( ゚∀゚)「これな、ジャンビーヤって言ってな、俺らの民族の成人の証しなんだ」

(;メ^ω^)「ジャ、ジャンビーヤ……?」

続けて、誇らしげにそう言った青年。
出てきた固有名詞はジャンビーヤ。聞き覚えがあった。

確か千年前、アラビア半島の最南端に位置していた国、イエメン。
そこの民族が有していたナイフの名前だ。

彼らはイスラム教を信仰しており、メッカを聖地と定めていたはず。

ということは、青年らはイエメン方面から来たのだろうか?
そして彼らには依然宗教的概念があり、今日はその儀式のためにこのメッカ遺跡を訪れたのだろうか?

 

 

76 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:57:19.76 ID: WaijMdiZ0
  _
( ゚∀゚)「そうそう。ジャンビーヤジャンビーヤ。
    成人した男はこれに誓いをこめるんだ。厳しい誓いをな。
    でもな、ジャンビーヤはただ作られただけじゃ誓いをこめても何の意味もねーそうな。
    昔からの決まりがあって、ここに来て、儀式を通じて初めて誓いを込めうるだけの価値を持つらしいんだ。
    ま、単なる儀礼に過ぎねーんだけどな。言ってみりゃ昔からの惰性でやってんのよ。ひゃひゃひゃ!
    で、俺は今日、民族の代表としてその儀式を行いにきたってわけよ」

(;メ^ω^)「おお……なるほど……」

と思ったのだが、どうやら違うらしい。
宗教とは関係なく、単なる民族の一伝統として彼はここに儀式を行いにきただけのようだ。

やっぱりこの地域の文明には宗教概念は無いらしい。まあ、だからと言ってどうということもないが。

 

 

78 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 15:58:57.85 ID: WaijMdiZ0

そんな緊張感に欠けた会話を続けたせいか、
自分が質問される立場であることをすっかり忘れていた僕。

青年はまさに僕のその気の緩みを突いて、唐突に質問を繰り出してきた。
  _
( ゚∀゚)「そこで質問だ。おめー、儀礼とか儀式にはどんな意味があると思う?」

(;メ^ω^)「お?」

それを前に僕は面食らう。「何を言い出すんだこの眉毛は」と思ってしまう。

忘れていた質問が来たこと自体にも面喰ってはいたが、それよりもその内容自体に面喰っていた。
てっきり旅うんぬんや僕の素姓を尋ねてくるとばっかり思っていたのに、えらく抽象的な質問をされてしまったからだ。

それにしても、彼はなぜ、こんな質問をしてくるのだろうか? さっぱり意図が読めない。

 

 

80 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:00:59.84 ID: WaijMdiZ0
  _
( ゚∀゚)「いやなー? 俺のじじいも、おめーの後ろの従者たちもよー、
    ただ儀礼は大切だって言うだけで、具体的な理由を俺に教えてくんねーわけ。
    ていうかこいつらも知らねーんだよ。きっと。
    いや、誤解すんなよ? 儀礼が大事だってことは俺も漠然とは理解してんよ? 
    でも具体的にどう大事なのかって考えると、どーもしっくりくる答えが出てこねーのよ、これが。
    で、おめー、どう思う?」

(;メ^ω^)「お、おお……」

なるほど。そういうことか。でもなんで彼は僕にそれを聞くのだろうか?

根本的な理由は解決されないまま、しかし答えても支障はなさそうなので、
僕は自分の考えをありのままに述べた。

( メ^ω^)「……儀礼っていうのは、一つの共同体における個人の位置の確認の機会だお。
     そこを通過することで個人には立場の自覚が生まれるお。それは共同体の成員を律するにとても有効な手段だお。
     結果、共同体は一つにまとまりやすくなり、それは独自の文化などの形成、発展に繋がっていくお。
     そういう意味合いを考えると、儀礼っていうのは共同体、いや、人間社会には不可欠なものと考えられるお」

 

 

81 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:03:04.44 ID: WaijMdiZ0
  _
(; ゚∀゚)「……」

(;メ^ω^)「……あ」

あごに手をやりながら、うつむいて持論を展開した。
そして顔を上げれば、青年がぽかんと口をあけてこちらを見ていた。

それから慌てて後ろを振り返れば、
中年の従者二人もあんぐりと口をあけ、眼を点にして僕を眺めている。

周囲の空気が凍っている。

 

 

82 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:04:00.47 ID: WaijMdiZ0

(;メ^ω^)(……あちゃー。まずったかお?)

難しいことを言いすぎたか?
しかしそんな難しいことではなく、結構当たり前のことを僕は言ったつもりだ。

これまでの様子から彼らの教養を判断するに、
特に青年にとって、理解できそうにないことは何一つ言っていないはずだ。

となると、この冷たい空気の原因は何なのだろう? 
もしかして、彼らにとっては異端な考えを僕は発してしまったのだろうか?

周囲の気温は高すぎるくらいなのに、雰囲気の冷たさから冷や汗をかきつつ、とりあえず彼らの反応を待つことにした僕。
しばらく目を点にしてぽかんとマヌケ面をしていた青年は、突然立ち上がるや否や、座ったままの僕を指差し、叫んだ。
  _
(; ゚∀゚)「こ、こいつ! めちゃくちゃ頭いいぞ!」

 

 

86 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:06:30.29 ID: WaijMdiZ0

それから数時間、日が沈む直前まで青年から質問をされ、それに答え続けた僕。
  _
( ゚∀゚)「ふんふん。はー……なるほどねー……」

( メ^ω^)「ま、そういうことだおね」
  _
(; ゚∀゚)「はー……すっげーわかりやすい……長年の疑問がいっぱい解決したぜ……。
     あんたすげーな! めちゃくちゃ頭いーな!」

( メ^ω^)「おっおっお。そりゃよかったお」

そう言って大げさなアクションを見せ、羨望と驚きのまなざしで僕を射る青年。
当初は僕を乞食と勘違いしていたのだから、僕の知識に対する彼の驚きと羨望はなおさらのものなのだろう。

この数時間の語らいを通して、どうやら僕はすっかり彼に賢者として認識されてしまったらしい。

 

 

91 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:08:40.33 ID: WaijMdiZ0

まあ、僕の頭脳は天才のものだから賢者だというのもあながち間違いではない。
もし内藤ホライゾンここにいて賢者という言葉を投げかけられたら、いったいどんな反応を示すだろうか? 

( メ^ω^)(……あたりまえだって言って鼻で笑いそうだお)

そんなことを考えて、ちょっと笑ってしまった。
そして僕もまた、目の前の青年と同様に驚いていた。青年の聡明さに、だ。

雰囲気や従者の様子から察するに高貴な身分の出であるらしい彼は、
ちやほやともてはやされて育てられたらしく、それ相応に口が悪く、高慢な態度をちらちらと僕に見せてはいた。

しかし同時に、愛くるしいまでの素直さと人懐っこさ、何より柔軟な頭脳を彼は備えていた。
よどみなく僕の質問を理解し、それでもわからないところは追及し、納得すれば嬉しそうに朗らかに笑う。
自然、僕は彼にいろいろ教えたくなったし、彼に教えること自体を面白いと感じてしまった。

不思議な魅力を持った青年だ。生来の顔の良さという華も備えている。

彼の身分がどのくらいなのかはわからないが、仮に為政者となれば相当のカリスマ性を発揮することだろう。

 

 

92 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:09:56.42 ID: WaijMdiZ0
  _
(* ゚∀゚)ノシ「え? そう? ひゃひゃひゃ! いやー、照れちゃうなー! もう!」

(;メ^ω^)「……痛いお。やめてくれお」

そんなことをオブラートに包んで口にすれば、
照れながら、全身でその喜びを表すように、僕の背中をバシバシとはたいてくれた青年。
かなり痛かった。

それから日が沈み、頃合いかと思って立ち上がり、その場を立ち去ろうとした僕。
けれどとんでもない言葉を青年から浴びせかけられ、その足は止まる。
  _
( ゚∀゚)ノ「決めた! あんた、俺の先生になれ! もっといろいろ教えてくれ!」

 

 

95 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:12:35.14 ID: WaijMdiZ0

(;メ^ω^)「おお!?」

即座に言葉の意味を理解できず、立ち上がったまま呆然と彼を見下ろしてしまった僕。

無理もない。何を言い出すのかと思ったら、こともあろうに「僕に先生になれ」と彼はのたまったのだ。
素性も知らない見ず知らずの、わずか数時間語りあっただけの青年にそんなことを言われれば、
僕に限らず誰だって呆然となる。

そしてそれは、青年にとっての僕も同様なのだ。
いや、むしろ僕が感じた以上にそれはあり得ないことだろう。
乞食のような薄汚れたマント姿という身なりで、遺跡の中で寝ていたような男だぞ、僕は。
そんな奴に先生になれだなんて、この世の誰が言うだろうか?
  _
( ゚∀゚)「俺が言う!」

僕の考えと全く同じ内容のことを従者に言われた青年は、立ち上がると、自信たっぷりにそう言い放った。

 

 

97 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:14:36.07 ID: WaijMdiZ0

「こんなどこの馬の骨ともしれない男、危険ですぞ!」「若様! どうかお考えなおしを!」

従者二人が青年に向けて口々に言葉をかける。
彼らのかけた諫言は非のつけどころのない正当すぎる意見だ。

しかし青年は鼻の穴をほじくりながら、彼らの声を無視して僕へと向きなおす。
  _
( ゚∀゚)「あー、こいつらのことほっといていいよ。で、先生になってちょ」

(;メ^ω^)「いや……あのね……」

まったく、何もかもが破天荒な男だ。あきれを通り越してむしろ感心すら覚えてしまう。

それはともかく、さて、どうしたものか?
鼻くそを指で丸め出した青年を眺めながら、僕は考える。

思えば僕は、青年の出身はおろか、名前さえ知らないのだ。
そんな相手について行く理由などあるはずがない。

 

 

98 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:16:37.51 ID: WaijMdiZ0

(;メ^ω^)(うーん……)

しかし、この不思議な魅力のある青年との数時間の語らいを楽しいと感じてしまったのもまた事実。
彼ならば、僕の中にある千年前の、内藤ホライゾンの知識を吸収しこの時代に生かしてくれそうな気がした。

歩き続けるという本来の目的を捨てるつもりはないが、
ほんの数年の間なら、彼の傍にいて教えを説いても回り道にはならないような気もする。
  _
( ゚∀゚)「おいおい。あんた旅人だろ? なら、別に悩むことねーじゃん?
    旅の途中で立ち寄る感覚で、俺についてくりゃいーだけの話じゃん?
    なーに、ある程度のことを俺に教えてくれたら、あとは勝手に好きなとこ行きゃいい」

( メ^ω^)「……」

僕の気の傾きを見透かしたように、青年は鼻くそを指で空中に飛ばしながらそんな言葉をかけてくる。

 

 

99 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:18:54.57 ID: WaijMdiZ0

確かに、彼の言うことも一理ある。次の目的地が決まったと、むしろ喜ぶべきことでもある。

しかし、それはあまりに危険すぎる。見ず知らずのこの連中についていくことは命の危険が伴う。
先生だと持ち上げられて、ホイホイと付いてくのはまさに愚の骨頂だ。

そしてそれは彼らも同様なのに、青年は自信たっぷりに僕を連れていくと言っている。
これは彼が、見ず知らずの僕を危険分子だと捉えていない何よりの証拠だ。

それは、彼が僕を信頼し切っていることから出た発言であるとは、到底考えられない。
馴れ馴れしいとはいえ、わずかな語らいのみで彼が安直に人を信じるような男だとは、微塵も思えなかったからだ。

となると、僕が彼に危険分子と捉えられていないことに対する、考えられる理由は一つ。

( メ^ω^)(……こいつにはきっと、いつでも僕を殺せるという自信があるんだお)

 

 

102 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:20:31.97 ID: WaijMdiZ0

さあ、どうする? 僕に与えられた選択肢は二つだ。

一つ、彼らにホイホイと付いて行く。
一つ、断ってこの場を立ち去る。

安全なのは後者だ。申し出を断ったところで、まさか彼らも僕を殺すまではしないだろう。

確かに、彼に付いて教えを説きたいという気持ちもある。
けれど歩き続けるならば、より安全な方を僕は選ぶべきだ。

意見を決めた僕は、顔を上げ、声を発しようとした。

しかし、断る気持ちが僕の顔に表われていたのだろう。
僕と目があった青年は、突如表情を引き締めると、低い声でこう言った。
  _
( ゚∀゚)「まさかとは思うが……断ろうだなんて考えてねーよな?
    あんたくらい頭のいい男が、今の状況が見えてねーなんてこと、ありえないよな?」

 

 

105 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:22:33.81 ID: WaijMdiZ0

( メ^ω^)「……どういうことだお」

表情を引き締めたまま、また鼻をほじりだした青年。
とりだした鼻くそを眺め、丹念に指で丸めながら、彼は呟く。
  _
( ゚∀゚)「勘違いすんなよ? あのな、これはお願いごとなんかじゃねーんだ。
    そうだな……さっきの俺の言葉を端的に、一言で表すとしたら……」
  _
( ゚∀゚)「……命令だ」

(;メ^ω^)「!?」

顔をあげた青年。
声を発すると同時に、指で鼻くそをこちらへ飛ばした。

それにより一瞬、僕の気がそちらに移ってしまう。

そしてその一瞬の間に、僕の視界から、青年の姿が消えた。

 

 

108 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:24:52.29 ID: WaijMdiZ0

いや、違う。彼は消えたのではない。
驚くべき速さで腰を屈めていたのだ。

それと同時に腰へと手をやり、ナイフ――ジャンビーヤを抜いてみせ、
信じられないスピードで僕の懐へ飛び込んできていたのだ。

そして気がつけば、逆手に握られたジャンビーヤの三日月形の刀身が、
数ミリの空間をあけ、僕ののど元に突き付けられていた。
  _
( ゚∀゚)「チェックメイト。これであんたは、一回死んだ」

 

 

109 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:25:54.03 ID: WaijMdiZ0

(;メ^ω^)「……」

東洋の武術、空手で言う前屈の状態で切っ先を僕に突きつけ、不敵に笑う青年。

何というスピードだ。懐の銃に手をやる暇すら、僕にはなかった。

恐る恐る両手を上げ、眼線だけであたりを見渡してみれば、
ほんの僅かな時間しかなかったというのに、従者の二人も僕の頬すれすれに彼らのジャンビーヤを突き付けていた。

なるほど、この青年はおろか、従者二人にさえ僕は勝てそうにない。
青年が何の警戒もなく僕を先生にしよう言い出したのは、彼らの卓越したナイフ捌きが最大の所以か。

 

 

111 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:28:19.87 ID: WaijMdiZ0

前、左右、三方からジャンビーヤを突き付けられた僕。
身動きが一切とれない状態のまま、青年の言葉を聞かされていた。
  _
( ゚∀゚)「さて、一回死んだあんた。その身をどうしようが、殺した俺の自由だよな?
    なーに、変なこと考えなけりゃあんたの身の安全は保障する。
    待遇だっていいもん用意してやんよ。おとなしく俺らについてこいや。なあ?」

(;メ^ω^)「……わかったお」

頷くことなく、僕は肯定した。
そうするしかなかった。選択肢など初めから僕になかったのだ。

それから青年は切っ先をなおも僕ののど元に突きつけたまま、二人の従者に命令を下す。
  _
( ゚∀゚)「わりーが、変なもん隠してないか身体検査させてもらうぜ」

そして従者たちが、僕の体をまさぐり始める。

 

 

116 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:31:21.28 ID: WaijMdiZ0

(;メ^ω^)「!?」

まずいことになった。非常にまずいことになった。

僕は懐に銃を、腰にショボンさんのナイフを隠している。
これは両方とも僕の旅における生命線だ。

取り上げられたら、僕は旅を続けられない。
これらを取り上げられるわけにはどうしてもいかない。

(;メ^ω^)(……どうする? どうすりゃいいんだお?)

しかし抗おうにも、僕ののど元にはジャンビーヤの鋭い切っ先。
身動きひとつ取れやしない。

僕が悩んでいる間にも、パンパンと僕の体を上から順にはたいていく従者。
その手は確実に懐の銃へと近づいてくる。

絶体絶命。もうダメだ。

 

 

119 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:34:53.16 ID: WaijMdiZ0

しかしその時、奇跡が起こってくれた。

なんと都合のいいことに、はたかれた衝撃で懐の銃がするりと超繊維の中を滑り落ちたのだ。
それはなんと、僕のズボンの中に入り、股間の部分で見事止まってくれる。これ以上ない最高の位置取り。

それから懐に何もないことを確認した従者が、続けざまに僕の股間をパンパンとはたく。滑り落ちた銃にその手が触れる。
彼は怪訝な顔をして青年に声をかける。青年はそれを受け、ナイフを持っていない方の手で僕の股間をパンパンとはたく。
  _
( ゚∀゚)「……何を隠している?」

どすの利いた低い声。視線は厳しく、誰もが震えあがりそうな迫力を持っている。
そしてその恐怖が、僕の頭をして生涯最高のアイデアをひらめかせてくれた。

自画自賛は好きではないが、こればかりはそう表現する以外にないほどの、唯一無二の受け答え。
人間は窮地に立たされて初めて脳の全ての機能を使えると言われているが、まさにその通りだ。
僕は大きく息を吸い込み、起死回生の確信をもって、言い放った。

(;メ^ω^)「……ち、ちんこだお」

 

 

125 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:37:13.32 ID: WaijMdiZ0
  _
(; ゚∀゚)「……」

(;メ^ω^)「……」

呆然とした青年。彼はもう一度僕の股間へと手をやり、隠された銃身を握り締めた。
そして驚愕の表情を浮かべる。

太さ。硬さ。大きさ。どれをとっても一級品のそれを握り、
負けたと言わんばかりに表情を曇らせ、こう漏らす。
  _
(; ゚∀゚)「た、たいそうなものをお持ちで……」

(;メ^ω^)「きょ、恐縮です……」

お互いに顔を赤らめ、額に汗をかきながら、短く声を掛け合った。

そう。僕の股間にあるのは、紛れもないマグナム。

生涯最高のアイデアかつ身を呈した渾身のギャグのおかげで、僕はなんとか、銃を隠し通すことに成功した。

 

 

133 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:40:41.51 ID: WaijMdiZ0

けれど、一難去ってまた一難。奇跡は二度も起こらない。

銃の方はこうやってなんとか隠し通せたが、腰につけていたショボンさんのナイフはあっけなく発見されてしまう。
しかし結論から言うと、僕がそれを取り上げられることはなかった。
  _
( ゚∀゚)「そんだけじゃなんもできねーだろ。こいつのナイフ捌きは大したことなさそうだしな。
    それにこのナイフはきっと、こいつにとってのジャンビーヤだ。さすがにそればっかりは奪っちゃいけねーよ」

彼曰く、ナイフを取り上げなかったのはそういう理由かららしい。
どうやらそれほどまでに、彼らの中でジャンビーヤというのは不可侵性を帯びている存在らしい。
もっとも、見逃してくれた一番の理由は、ナイフがあっても僕など脅威ではないという自信が彼らの中にあるからだろうが。

そして、それは抗いようのない事実。
残り一発の弾丸しか残っていない銃とどんなに出来のいいショボンさんのナイフがあったところで、
僕程度の腕じゃどう頑張っても一人しか殺せないし、寝込みを襲ったとしてもうまくいくかどうか。

まあ、こうなった以上は彼らについていく以外に道はなく、銃とナイフ、旅の生命線両方を取り上げられずに済んだのだ。
逃げられないように手持ちの通貨はすべて没収されてしまったが、「これでよし」と納得するしかないだろう。

 

 

137 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/13(日) 16:43:45.73 ID: WaijMdiZ0
  _
( ゚∀゚)「ひゃひゃひゃ! いやー、すまんねー、手荒なことしちまってよ!」

日がすっかり沈んで身体検査を終えた後、
僕ののど元に突きつけていたジャンビーヤを仕舞った青年は、
またしてもバシバシと僕の背中をはたきながら、朗らかに笑った。背中はやっぱり痛かった。

もっとも、その衝撃で銃が股間から足元に落ちたのだが、青年の馬鹿でかい笑い声のおかげで気づかれずに済んだ。
僕は足元に落ちた銃をマントで隠しつつ、巧みに足を使って回収しながら、青年の言葉を聞く。
  _
( ゚∀゚)「ま、無理やりついてこさせるような形になったけどよー、
    そんだけ俺はあんたに先生になってほしいんだよ。約束通り、身の安全も待遇も十分に保障する。
    だからさ、仲良くやろうぜ? えーっと、そういやあん、名前は?」

(;メ^ω^)「えっと……ブーンだお」

名を名乗りながら、足で持ち上げた銃を体全体を覆うマントの内で懐の中に回収する。
マントを羽織っておいて正解だったと思う。
それから青年は「ブーンブーン」と人の名を連呼して失礼に笑うと、僕の前に手を差し出し、言った。
  _
( ゚∀゚)ノ「俺の名はジョルジュ。交易地サナアの長老の跡取りだ。よろしくな!」

 

 

 

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