72 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 05:45:20.36 ID: Q1kkINzE0
― 3 ―
( ´ー`)「俺らの町はもともとこの地方一の交易地でーな。
今もすげーが、昔はもっとすげーかったらしーんだーよ」
( ^ω^)「……そうなんですかお」
( ´ー`)「昔はこーした陸路による流通手段しかなくてーな。
だからこーそ、内陸の中心にあーる俺らの町はすげー人が集まったらしいんだーよ」
ラクダに乗って進むこと一か月。僕の同行したキャラバンは、かつてのシリア砂漠上を進んでいた。
僕の隣にいるのは、変なところで言葉を伸ばす癖のあるシラネーヨという中年。この男が、キャラバンのリーダーであった。
商人特有のいやらしさすべてを顔のパーツとして保有している彼は、常に僕の傍らで、一人ベラベラと話をしてきた。
彼はミルナ子飼いの商人らしく、しきりにビジネス協力の話や北への交易ルートについて聞いてくるので、
はっきり言ってかかわり合いになりたくない人物だったのだが、
たまには有益な話もするので、千年前に存在していたラジオを聴いているような感覚で、僕は彼の話を適当に聞いていた。
73 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 05:47:36.84 ID: Q1kkINzE0
( ´ー`)「だがなー、十数年前に大型の船ができてかーらな、流通経路が陸路かーら海路にかわってーな。
海辺のイスタンブールやサナア、これから行くエルサレムに人や拠点が移っちまったんだーよ」
( ^ω^)「船……ですかお?」
( ´ー`)「そうだーよ。船ってーのは、水に浮く乗り物だーよ。
これがたくさん荷物運べてーな? 俺らにとっては商売敵なんだーよ。
そういうわけで、俺らはあんたと協力して北の交易ルートを開いていきてーんだーよ」
どうやら、大量運搬用の船がこの地域では活躍し始めているらしい。
それほどまでに、この地域の文明は確実な進歩を遂げているようだ。
面白いものだ。考えてみれば、かつての文明の発達もメソポタミア、エジプトのあるこの近辺からだった。
千年後の文明も、かつてと同じ道をたどっているらしい。
75 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 05:50:45.78 ID: Q1kkINzE0
(-_-)「エルサレムはすごいところらしいですよ?
大型の船が出来るずっと昔からこの地域では一番の町だったらしいんですが、
船が出来て以降人の集まりにますます拍車がかかったらしくて……」
( ^ω^)「そうなのかお。ところでヒッキーはエルサレムとやらに行くのは初めてなのかお?」
(*-_-)「そうなんです。子どもは行商には連れて行ってもらえないので……。
でもこうやって行商に連れて行ってもらえいてるを考えると、ようやく僕も大人として認められたみたいです……」
そう言って顔を赤らめる少年。名をヒッキーといった彼は、シラネーヨの息子らしかった。
シラネーヨの話が耳障りになるにつれ、僕は彼とともにラクダ上で話すことが多くなっていた。
父親とは似ても似つかない純朴で素直な、ちょっと内気な少年である彼は、
会話を重ねるごとに口数が多くなり、僕によく懐いてくれるようになった。
そして思えば彼に限り、僕は心を開いて話をしていたと言える。
77 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 05:52:39.31 ID: Q1kkINzE0
ヒッキーは僕の旅の話をしきりに聞きたがった。
それは商人的な打算からではなく、少年特有の純粋な好奇心からと感じられ、
実際に僕の旅の話を聞く彼の眼はキラキラと輝いていた。
だからこそ僕は包み隠さず自分の旅のことを彼に話してはやりたかったのだが、
その話が彼の口からシラネーヨに漏れる懸念がわずかでもあるかぎり、それはどうしてもするわけにいかなかった。
よって僕は、嘘の旅の話を彼にした。
もっとも、旅の中で感じたことだけは偽ることなく話したのだが。
その嘘話の代償として僕は、彼からこの近辺に伝わる昔話を聞き出すことに成功する。
嘘から本当の話を聞き出すのは何とも心苦しかったが、
千年前の記憶を持つ身としては、その話はどうしても聞いておきたかったのだ。
78 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 05:53:54.49 ID: Q1kkINzE0
(-_-)「えっと……僕たちの祖先は、東の地からこちらへ移ってきたそうです。
なんでも昔、すごい戦乱が起きたらしくて……ほとんどの人がそれで死んじゃったらしくて……。
だから東の地は荒れていて……今も人は住んでいないそうです」
( ^ω^)「……」
東の地とは、イラン・イラク近辺のことだろう。これらは核保有国であり、周辺は紛争地帯としても知られていた。
アメリカやモスクワが核を受けていたのならば、当時の情勢からみるに、イラン・イラクも当然核を受けているはずである。
そしてそこから逃げ伸びた人々の子孫が、今、こうやって新たな文明を発展させている。
エスキモーたちとは、寒さと暑さなど逆の意味で厳しい生活を続けていた彼らにとっては、
襲ってきたはずの核の冬も、耐えうる程度のものだったようである。
少なくともヒッキーから聞き出した情報しか判断材料のない僕には、そうであったらしいとしか推察はできない。
しかし、そんな昔話よりさらに興味深く予想すら出来ない話を、ヒッキーは僕にしてくれることとなる。
80 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 05:55:13.30 ID: Q1kkINzE0
(-_-)「でも……ほんの一握りの人々は生き延びたそうです。
東の地から逃げ伸びてきたその人たちは……エルサレム近辺に生活を移したって聞きました。
なんでも昔は聖地とかなんとかで有名だったらしくて……何の聖地かはよくわからないんですが……」
( ^ω^)「お? ちょっと待つお。今のエルサレムは聖地じゃないのかお?」
(;-_-)「はぁ……ただの交易の中心かと……そもそも聖地ってのがよくわからないし……」
(;^ω^)「そうなのかお? この地域には宗教ってものはないのかお?」
(;-_-)「……宗教? なんですか……それ?」
81 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 05:56:07.32 ID: Q1kkINzE0
驚くべきことに、なんとこの地域には宗教という概念そのものが存在しないらしいのだ。
イスラム教、ユダヤ教、キリスト教の中心が存在し、
世界的に見ても有神論者が圧倒的多数派だったこの地域に、だ。
(;^ω^)「……じゃあ、神って概念も存在しないのかお?」
(;-_-)「紙? 紙はありますけど……トイレですか?」
(;^ω^)「あ……いや、うん。まだ大丈夫だお。今の話は忘れてくれお」
そして、神という概念までもが、この時代のこの地域には存在していないようだった。
83 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 05:57:44.44 ID: Q1kkINzE0
( ^ω^)「……なんで神概念が消え去ってしまったんだお?」
静かな砂漠の夜。旅の夜、僕は自分のテントに一人もぐりこむ、そのことばかりを考えて続けていた。
余談だが、就寝の際の僕は、誰か来たら一発でわかるようテントの入り口にブービートラップを仕掛け、
さらにキャラバンのテント群からも離れた所にテントを立て、常に懐に銃と銃弾のストックを忍ばせて眠りについていた。
ヒッキー以外は信用する気になれなかったし、唯一信頼のおけそうなそのヒッキーでさえ、
ショボンさんやドクオ、ギコやしぃちゃんたちほど僕は信用し切れていなかったからだ。
それはとても寂しく悲しいことではあったが、この地域にたくさんの人間、通貨が存在し、
交易が行われているくらいに文明が発達していしまっている以上、僕にはそうせざるを得なかったのだ。
84 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 05:59:27.83 ID: Q1kkINzE0
そんな孤独なテントの中。
三十代も後半を迎えていた僕の思考は、孤独だからこそ、相応以上に冴えわたってくれていた。
かつてに比べ明らかに鈍り始めて頭で、僕は考える。
なぜ、神概念は消えてしまったのか?
それなのになぜ、人々はエルサレムに移り住んだのか?
( ^ω^)「やっぱり……神を信じていたからこそ……かお?」
至った結論を簡潔にまとめると、こういう言葉に表せた。
85 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 06:01:34.75 ID: Q1kkINzE0
最終戦争、ハルマゲドンとも呼ぶべき千年前の争い。
この地域の祖先は熱心に神を信じていたからこそ、
その際神が自分たちを救ってくれなかったことに対する失望もまた、相当なものであったに違いない。
厳しい戒律を守り、生活の大部分を神にささげていた彼らにとって、それは裏切り以外の何物でもなかったであろう。
彼らにとってそれはトラウマと呼ぶべきほどに大きく、だからこそその反動も大きく、
生き延びたわずかな人々はこれまでとは真逆の道、つまり神を自分たちの中から抹殺することにしたのではなかろうか?
そして、それにもかかわらず彼らがエルサレムに移住した理由は、
海やオアシスが近いといった地理的理由もあるだろうが、何よりそれは神に対するあてつけではなかったのかと僕は思う。
「かつて聖地と謳われたこの場所で、私たちはお前を信じていないにもかかわらず、ここまで繁栄したぞ?」
そんな類いの神へのあてつけが彼らの中にあり、
そしてその思いこそが、彼らの文明をここまで発展させた原動力になったのではないだろうか?
86 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 06:03:23.85 ID: Q1kkINzE0
( ^ω^)「そう考えると……ここの文明は神への恨みで発展したことになるお……」
砂が風に舞う音しかしない砂漠の夜。
テントの鋭角状の天井を眺めながら、ぼんやりとそんな言葉を呟いてみた。
しかし、「だとしたら、悲しいな」だなんて、微塵も思わなかった。
むしろ恨みをエネルギーに変えて前に進めるのなら、それに越したことはないと思えた。
歩き続ける意味を見い出せるのなら、僕だって恨みをエネルギーに変えてみせる。そんな決意さえ浮かんでくる。
もっとも、僕のこの結論は何の確証もないただの絵空事に過ぎない。
けれど真実は決して明かされることはない。何が正しいかだなんて、結局誰にもわからないのだ。
そして密かに、僕は自分の結論が的外れではないと考えてしまっていた。
それはきっと、僕が天才の脳みそを共有しているからだろう。
( ^ω^)「内藤ホライゾン……あんたはどう考えるかお?」
けれど答は返ってこないまま。
待っても意味ないことなので、僕は周囲の音に警戒しつつ、浅い眠りへと落ちることにした。
89 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 06:05:50.51 ID: Q1kkINzE0
(*-_-)「うわー……すごいですねー……」
(;^ω^)「本当だお……まさかここまでのものとは……」
それからさらに一ヶ月。
砂漠を抜けたキャラバンは死海のそばを通り過ぎ、ついにエルサレムへとたどり着いた。
エルサレムの規模は予想以上にすさまじいものだった。
赤い煉瓦造りの城壁がどこまでも周囲を取り囲んでおり、設けられたいくつかの門には、どこも長蛇の列が出来ていた。
町に入るだけでも一日仕事であり、ようやく立ち入りを許されたころには夕方。
しかしその時間にもかかわらず、町は活気に満ち満ちていたのだ。
立ち並ぶ露店。行きかうのは姿格好が様々な人々。荷物を積んだラクダやロバの往来は、まるでかつての車のように見えた。
路肩には城壁と同じ煉瓦造りの、むき出しの水道が通っていた。どうやら近隣のオアシスから水を引いているらしい。
そういえば、ここからもう少し南へ下ったペドラ遺跡にも似たような水道が通っていた。それを参考にしたのだろうか?
そんなことを考えながら町の大通りを渡った僕は、シラネーヨらに連れられ、町はずれの商人宿で休むこととなった。
92 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 06:07:48.99 ID: Q1kkINzE0
(*-_-)「うわー……すごいですよブーンさん……見たことないものがたくさん……」
( ^ω^)「おっおっお。本当だお」
翌日、商いを行うシラネーヨたちと別れた僕は、エルサレムの町をヒッキーと二人で探索することにした。
本当は一人で町を見て回りたかったのだが、しきりに同行を頼んできた、
仕舞いには同行しなければ父に怒られると懇願してきた彼を放っておけず、結局僕は彼を連れて歩く羽目になった。
おそらくはヒッキーが僕と仲良かったため、シラネーヨが監視係として彼を僕につけたのだろう。
もっともヒッキーはその自覚がないようで、むしろ僕が監視しなければならない程うろちょろと人ごみの中を歩き回っていた。
子どものようにはしゃぎまわるヒッキー。
内藤ホライゾンが早くに結婚していれば、彼にヒッキーくらいの歳の息子がいても不思議ではない。
そんな思いが、シラネーヨに通じているヒッキーが僕の旅の危険分子になるにも関らず、
僕をして彼を同行させてしまった所以なのだろう。
もっとも、良くも悪くも純粋な裏のない青年であるヒッキーに害はなく、
僕は彼を連れていても、存分にしたいことをすることが出来てはいたのだが。
97 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 06:12:05.81 ID: Q1kkINzE0
( ^ω^)「おー、香辛料がいっぱいだお」
(;-_-)「すごい色をしたやつがありますよ……ほら、これなんて真っ赤っか……」
そんなこんなで市場へと赴いた僕とヒッキー。
まず買うことにしたのは香辛料。保存食作りに重宝するためだ。露店には実に様々な香辛料が並んでおり、
その一つ一つの特性や合う食品を露店の主から逐一聞き出し、記憶した。話を聞くだけでよだれが出そうだった。
他にも、食糧、水と大きめの水筒をいくつか、様々な目的に転用できそうな巨大で丈夫な布、などを僕は購入する。
(-_-)「僕の町に比べて水が安いですね……やっぱりオアシスが近いからでしょうか?」
( ^ω^)「そうなのかもしれないお」
(-_-)「服は……それだけでいいんですか? 失礼ですけど……かなり汚れていらっしゃいますが……」
( ^ω^)「別にいいお。着なれたものを着るのが一番だし、無駄に金を使ってはいけないお」
着衣の購入は、直射日光を避けるためのターバンだけにとどめておいた。
身につけていた超繊維の服やマントは丈夫で、通気性、発汗性に優れていてまさに砂漠を歩くためにあるようなものだったし、
ドクオの村からずっと超繊維のマントの下に着込んでいた原色の着物も、砂漠を歩く上で特別な問題はなかったからだ。
100 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 06:19:17.03 ID: Q1kkINzE0
(-_-)「いっぱい買いましたね……僕もほら……お小遣いでナイフ買っちゃいました……」
( ^ω^)「おっおっお。カッコイイじゃないかお」
(*-_-)「えへへ……おもちゃみたいな安物ですけどね……それで、次はどこに行くんですか?」
( ^ω^)「うん。路地裏に行って情報屋を探すお。いろいろ聞きたいことがあるんだお」
市場を歩き回り、そりの荷台に旅の荷物が集まった後、
ヒッキーと会話を交わしながら僕は、大通りから逸れて路地裏へと足を向けた。
人の集まるところは情報も集まる。
だからこそ、それを売り物とする情報屋も存在するはずだと考えられたからだ。
案の定、日の光の届かない暗い路地裏には胡散臭い風貌の男たちの露店が点在しており、
僕は彼らの中から最も風格の感じられる男を一人選び、意気揚々、要件を尋ねることにした。
102 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 06:20:37.41 ID: Q1kkINzE0
( ^ω^)「この地域の歴史や風俗、伝統について教えてくれお」
まさかこんなことを尋ねられるとは思っていなかったのだろう。
情報屋の男は訝しげに僕をねめつけると、門前払いだと言わんばかりに片手をひらひらと振る。
しかし僕が相場以上の大金を取り出すと、一変して素直に情報を出しはじめた。
それを耳にして、非常に興味深いことに僕は気付く。
103 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 06:23:00.17 ID: Q1kkINzE0
( ^ω^)「なるほど……収穫祭やクリスマスはまだ残っているのかお」
なんとまあ面白いことに、神や宗教の概念がなくなったにもかかわらず、
それに由来する伝統や儀礼がこの地域には未だ残っていたのだ。
特にキリスト教、ユダヤ教の伝統は色濃く残っており、
それだけでなく、それらに由来する規律やモラルといったものも少なからずこの地域には残っているようだった。
( ^ω^)「面白いもんだお……本来は宗教上の救いを得るための規律や儀式が、
宗教が無くなってもなお、独立した伝統や規律として存在しているのかお……」
まあ、無神論者の僕は、宗教に意味があるとすれば、
堕落しがちな人間を律するための規律としてや、ハレとケをはっきり区別するための行事の用意以外にないとは考えていた。
だから、宗教が消え去ったこの地に有用性のあるそれらだけが残っていることに、特に不思議は感じない。
単純に興味深いなと、ただそれだけを思ったに過ぎない。
106 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 06:24:40.19 ID: Q1kkINzE0
その後数時間情報屋と話し合い、一通りの情報を聞き出した僕。
傍らでクエスチョンマークを浮かべているヒッキーをよそに一人勝手に納得して、
一つの疑問、というほどたいそうなものではないが、気になることに思い至る。
( ^ω^)「ユダヤ教やキリスト教の聖地だったエルサレムがこんなに発展しているなら、
イスラム教の聖地だったメッカは、いったいどんな感じになっているんだお?」
かつてもっとも熱心な信者を有していたイスラム教。
その聖地メッカは千年後の今、いったいどうなっているのだろうか?
これは単純に知的好奇心から来た疑問だ。解決できたからといって何かが得られるわけではない。
しかし、その解決を歩き続けるための一つの目的として捉えるならば、それだけで十分に価値のある疑問だ。
107 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 06:26:46.70 ID: Q1kkINzE0
そもそも、ミルナやシラネーヨ、ヒッキー、情報屋の話の中にさえ、
メッカという地名は一度も出てきてはいない。
その後改めて情報屋に尋ねてはみたが、有益な情報はほとんど得られなかった。
それほど忘れ去られている土地らしい。
無くなったのか。遺跡として存在しているのか。それとも密かに繁栄しているのか。
そう考えると気になってしょうがなくなる。
どうなっているのか、この目で確かめてみたくなってくる。
( ^ω^)「おっおっお。とりあえずの目的地が決まったお」
聖地メッカ。千年後の今、忘れ去られているその場所を見てみよう。
宿屋への帰り道、僕はそう、心に決めた。
109 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 06:30:42.28 ID: Q1kkINzE0
翌日、日が昇る前に市場に赴きラクダを購入した僕。
キャラバンにあったラクダは借りものだったので、無駄な難癖をつけられないよう自分のものを購入することにした。
そして早朝にもかかわらず付いてきたヒッキーに一言残し、朝飯後にはメッカへ旅立つことにした。
現在シラネーヨたちは商いの最中であり、それを中断してまで僕を追ってくることは出来ないだろうし、
何よりこんなに早く僕が旅立つなど、彼らは考えてもみないだろうから。
(;-_-)「ブーンさん……どうしても……行っちゃうんですか?」
( ^ω^)「そうだお。もともと僕たちはこのエルサレムまでの付き合いだったんだお。
これ以上一緒にいる意味も義務もないお。それに……」
――これ以上ヒッキーといると、妙な愛着がわきそうで怖かった。
歩き続けなければならない僕にとって、その感情は障害以外の何物にもなりえない。
だから僕は、ヒッキーとの関係が致命傷へと至らないうちに彼と決別しなければならなかった。
あまりに淡白すぎる別れではあるが、そうする以外に安全な旅立ちの方法が、僕には他になかったのだ。
111 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/09(水) 06:32:47.94 ID: Q1kkINzE0
( ^ω^)「立派な男になるんだお? それじゃ、バイバイだお」
(;-_-)「ブーンさん! 待ってください! ブーンさん!」
すがるようなヒッキーの声に少しの名残惜しさも感じたが、僕は振り返ることなく、エルサレムをあとした。
そして、翌々日の夜。
人生で五本の指に入るほどのつらい出来事に、僕は遭遇することとなる。