236 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/02(水) 04:37:16.83 ID: +KGR+USB0

― 10 ―

歩き始めて二週間。
何度目かの腹の虫の鳴き声を耳にした僕は、またしても大地の上に倒れこんでいた。

けれど、別に死ぬわけではない。
空腹に襲われているとはいえ、まだまだ歩けるだけの力は十分にある。

なんとなく、仰向けに寝転んでみたかった。
背中には、草たちのクッション。つい先ほど赤土地帯を抜けた僕は、
緑を前にした嬉しさも手伝って、こうして空を見上げているのだろう。

青い夏空を流れる真っ白な雲。流れていくその方角は南。
そして僕が目指しているのもまた、南だ。

より温暖な南へ下れば、近いうちに赤土地帯を抜けられるのではないかと思った。
それに、生きて歩き続けるのならば、温かな場所を目指した方がより効率がいい。

何より、これまでずっと寒冷地帯を歩いてきた僕の中には、
むしろ暑いと思えるほどの大地の上を歩きたいという欲求が生まれてきていた。
生命の躍動がより激しいであろう南に、舞台を移したいと思い始めていた。

 

 

238 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/02(水) 04:38:19.90 ID: +KGR+USB0

目をつむり、そっと、耳をすませた。

渡る初夏の風の音。
草木がこすれる柔らかな音。
小さな小さな虫たちの羽音。
近くを流れているのかもしれない水の音。

この中を、僕は歩く。

より沢山の命が踊る南へむけて、僕は歩く。

 

 

243 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/02(水) 04:41:52.86 ID: +KGR+USB0

かつて、神話の道を旅した男がいた。
悲しみの中からなんとなく旅を選び、目的を見つけ、病に倒れた彼は、それでも最期には夢に辿りついた。

彼とともに歩く中で僕は自由を知り、選び、歩き続けることに決めた。

自由に対する義務を果たすため、これまで一番長く付き合ってきた仲間とも別れ、
何より自分が歩く意味を見つけるため、僕はこれからも歩き続ける。

目を開いて、あたりを見渡した。
夏に萌える草たちが、日の光を吸いつくそうと、葉を広げ、精一杯風に揺れていた。
それから懐かしいことを思い出した僕は、立ち上がって空を見上げる。

( ^ω^)「ショボンさん。あなたと出会った時、
      確かあなたの洗濯物も、こうやって風に揺れていましたお」

いるはずのない人に向け声をかけ、懐の銃、腰に挟んでおいたあのナイフを取り出した僕。
その両方をそれぞれの手に持って空に掲げ、いつかの出発の言葉をつぶやく。

 

 

244 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2008/01/02(水) 04:43:38.78 ID: +KGR+USB0

( ^ω^)「僕たちの旅に栄光あらんことを」

同時に響いたあの時と同じ銃の声は、いつまでもいつまでも、夏の高い青空の中を響き渡っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五部 ツンドラの道と、その先に夢を見た男の話  ― 了 ―

 

 

 

 

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