33 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 03:53:43.24 ID: 4QLHj88X0

― 3 ―

世の中、苦労が報われるようには出来ていない。報われる苦労などむしろ希少だといって差し支えない。
理論の完成を行政部に報告し終え、晴れ晴れとした気分に浸っていた僕のもとへ、残念な知らせは容赦なく届く。

(;´∀`)『内藤博士。大変申し訳にくいのですが、あなたの提唱してくださった
     新エネルギーシステム理論の無期限凍結が幹部会議で決定しましたモナ……』

(  ω )「……了解したお」

ご丁寧にも極秘回線で告げてくれた行政部の役人にそう残して、僕は回線を切った。
大きく深呼吸をして、沈んでいく気分を落ち着けた。
しかし傍らにいたクーは、珍しく憤りを前面に押し出して叫ぶ。

川#゚ -゚)「上は何を考えているんだ! この理論を凍結して何の得になる!?」

( ^ω^)「……まあ、今の世界情勢を考えればしょうがないことだお」

激昂するクーをなだめた。いや、きっと僕は、彼女を通じて自分自身をなだめていたのだろう。
本音を言うとガックリと肩が落ちる思いだったけれど、「仕方の無いことだ」と、表情だけは繕って見せた。

 

 

 

35 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 03:55:33.36 ID: 4QLHj88X0

当時、世界はまだ平和だった。あくまで表面上は、の話なのだが。

枯渇し始めていた化石燃料。

その代替エネルギーもしくはシステムの開発は急務とされていたのだが、
そこには複雑な事情が絡んでいたのだ。

例えば、原油の産出国の問題。彼らは原油を一番の稼ぎとしていた。
そこに新エネルギーシステムの開発が告げられればどうなるであろうか? 

答えは火を見るより明らかだ。
利権を失ってしまう彼らは、自国の存亡を賭けて何ふりかまわず抵抗してくるであろう。

それだけでなく、世界から孤立していた独裁国家や
世界一の人口を有する社会主義国家など、危険の火種は無数にあった。

 

 

 

37 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 03:57:19.51 ID: 4QLHj88X0

このように、複雑な事情の絡み合った世界に
新エネルギーシステムの話を持ち出すことはあまりにも危険なことだった。

しかしそんなことなど、システムの構想が頭に浮かんだ時点で気付いていた。
けれど僕は理論を構築せずにはいられなかった。
そして心血を注ぎ込んだ我が子とでもいうべき理論が凍結されると聞いて、落胆せずにはいられなかった。

凡人が大多数を占める世界の愚かさはよく理解していたつもりだった。
それでも自分が生み出した理論を世に出せないのは、悔しくて悔しくて仕方がなかった。

ξ゚ー゚)ξ「大丈夫。今は時期が悪いだけよ。あんたの発明したこのシステムは間違いなく世界を救う。
     今はまだ私たちごく少数の人物しか知らないけど、いずれ世界に認められるときが必ず来るわ。
     だから元気を出して? そしてお疲れ様、内藤博士!」

ポンポンと肩を叩く、いつか握ったことのある柔らかいツンの手のひら。そして言葉。
一人落ち込んでいた僕には、それだけが何よりの救いだった。

 

 

39 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 03:59:52.34 ID: 4QLHj88X0

日々は流転し、時代は流れていく。
出会いはいつしか別れに帰着する。

凍結という形で一段落したプロジェクトチームは解散され、
ツンとの別れの日はいやがおうにも訪れる。

ξ゚听)ξ「私は行政部に戻らなきゃいけない。寂しいけどね。
     しばらくは外国回りで会えそうも無いけど、いつか絶対に遊びに来るから。
     そのときまでに射撃の腕、少しでも上げておきなさいよ?」

( ^ω^)「わかったお。今度こそ君に勝ってみせるお」

ξ゚ー゚)ξ「あはは! 楽しみにしておくわ! 
     内藤、クー、しばらくの間お別れね! 元気でやんなさいよ!?」

川 ゚ー゚)「ああ。君との日々は楽しかった。必ずまた来いよ」

 

 

 

40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 04:02:03.84 ID: 4QLHj88X0

( ^ω^)「……そうだお。必ず来るんだお」

僕のつぶやきに笑って返し、ツンを乗せた高級車は研究所から去っていった。
傍らでクーがすがすがしい顔をして見送っていたけれど、僕の表情は沈んでいたに違いない。

けれど僕は、気持ちが沈んでようやく、その底に横たわっていた恋心に気づくことが出来た。

沈没船やその中に眠る財宝は、海の底へと赴かなければ見つけ出すことは出来ない。
同様に日々の雑事やよしなし事に埋もれた感情もまた、気持ちが沈まなければ見つけることは不可能なのだ。

サルベージした恋心を胸にもてあまして、日々は流れた。
ツンの面影が少しずつ遠ざかっていく。

そしてその後、僕の気持ちはますます沈んでいくことになる。

――笑い方など、忘れてしまうことになる。

 

 

 

41 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 04:04:07.52 ID: 4QLHj88X0

ツンが去った後も、凍結された新エネルギーシステム理論を知る僕たちは
依然として研究所内に隔離されていた。外界との通信も監視の対象となる。

特別にすることない、出来ることも限られた、平和だけれど退屈な年月。
そんな日々の中での唯一の楽しみは、ツンに手ほどきを受けた射撃の腕を上げることくらい。

そしてある日。

いつものように自室で何でもない書類にサインをしていた僕のもとへ、信じられない一報は届く。

 

 

43 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 Mail: 投稿日: 2007/11/18(日) 04:06:13.67 ID: 4QLHj88X0

(;´∀`)『凍結されていた新エネルギーシステム理論の詳細が……某国に流出しましたモナ』

自室の回線を通じて発せられた、行政部役人の血の気のない冷たい声。
握り締めていたペンが、僕の手のひらからするりとすべり落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一部  かつての世界と、文明の明日に心血を注いだ天才の話  ― 了 ― 

 

 

 

 

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